研究開発費(時系列)
| 年度 | R&D費用(億円) | 設備投資(億円) |
|---|---|---|
| 2025-09 | - | 348 |
| 2024-09 | - | 309 |
| 2023-09 | - | 312 |
| 2022-09 | - | 204 |
| 2021-09 | - | 130 |
研究開発活動(本文)
FY2025|3,419 文字
6【研究開発活動】当社グループの研究開発活動は、「光の本質に関する研究及びその応用」をメインテーマとし、主に当社の中央研究所及び各事業部において行っております。光の世界は未だその本質すら解明されていないという、多くの可能性を秘めた分野であり、光の利用という観点からみても、光の広い波長領域のうち、ごく限られた一部しか利用することができていないのが現状であります。こうした中、当社の中央研究所においては、光についての基礎研究と光の利用に関する応用研究を進めており、また、各事業部においては、製品とその応用製品及びそれらを支える要素技術、製造技術、加工技術に関する開発を行っております。当連結会計年度の研究開発費の総額は、18,439百万円であり、これを事業のセグメントでみますと、電子管事業4,198百万円、光半導体事業3,676百万円、画像計測機器事業843百万円、レーザ事業3,939百万円、その他事業474百万円及び各事業区分に配賦できない基礎的研究5,306百万円であります。当連結会計年度における主要な研究開発の概要は次のとおりであります。 <量子分野の取り組み> 量子技術は、「超高速計算(量子コンピュータ)」や「極めて高精度な計測(量子センシング)」、「安全性の高い暗号通信(量子コミュニケーション)」など、新たな産業や科学の可能性を切り開く鍵として注目されております。当社は、これらの各量子分野において中核となるデバイスを提供しております。ここでは、量子分野の中でも、特に次世代のコンピュータとして期待される量子コンピュータに関する当社の取り組みをご紹介いたします。 量子コンピュータとは 量子コンピュータとは、量子(原子や分子、電子など)の重ね合わせや量子もつれといった特徴を利用したコンピュータで、実現すれば特定の分野において従来のコンピュータよりも圧倒的に速く計算処理ができるほか、量子アルゴリズムによる計算回数の圧縮によりAIの学習や推論に伴う膨大な電力消費を抑えられる可能性があります。また、革新的な新素材や高性能触媒の開発をはじめ、エネルギー効率の飛躍的な向上や環境負荷の大幅な低減といった、持続可能な社会の実現に直結する分野での活用が期待されております。さらに、物流や金融システムなど社会インフラにおいても、従来の枠組みに抜本的な革新をもたらすとされております。 量子コンピュータの実現に向けてはいくつかの方式が検討されており、当社は、特に光技術を用いる方式で中核となるデバイスの研究開発を推進しております。例えば、その方式の一つである「中性原子方式」は、レーザを用いて原子を特定の位置に配列したうえで、その状態を精密に制御して計算を行っております。この方式の実現にあたり、原子を適切に配列させるためのレーザ光源や光変調器、原子を観察するための高感度な検出器やカメラが必要とされており、そのいずれも当社製品の有用性が期待されております。 量子コンピュータ実現への課題とそれを解決する当社の強み 実用的な量子コンピュータを実現するためには、エラーを抑えた信頼性の高い計算を可能にし、以下の技術課題を段階的に乗り越える必要があります。当社は製品開発ロードマップの中で、課題解決に直結する仕様目標と検証アプローチを明確化し、当社技術・製品の強みをいかした実効性ある開発を推進してまいります。・量子状態の高精度な観測(エラーの高速検知・訂正):当社は、光子数の識別が可能な多画素・高感度・超高速・低ノイズカメラを有しており、大規模に配列した量子系の観測に有用とされております。今後、さらに超高感度・超高速化することで、量子状態の正確な観測とエラーとなる量子状態を高速に検知し、誤り訂正をすることを支援してまいります。・量子ビット数増加に対応可能な拡張性の確保:量子コンピュータは、計算に用いる情報の最小単位である量子ビット数を増やすことで、より高度な計算を行うことができるとされております。一方で、量子ビット数の増加によって、それを制御するためのレーザパワーも増やす必要がありますが、当社は強力なレーザにも耐性をもちながら、レーザを精密に制御することが可能な空間光位相変調器(LCOS-SLM)を有しており、量子配列の光ピンセットなどの制御精度の向上に寄与しております。今後は、LCOS-SLMのさらなる改善により、量子コンピュータの高度化に伴う量子ビット数の増加に応じた多点同時制御を実現してまいります。・量子の計算精度の向上:当社子会社であるエヌケイティ・ホトニクス・エイ・エスの有する特徴的なレーザを活用することで、量子計算に欠かせない波長・強度・位相が安定したレーザを提供しております。今後は、量子ビットの操作精度の向上のため、さらなる高出力化・低ノイズ化を実現するとともに、長時間の連続運転にも耐えうるレーザの開発に取り組んでまいります。 国のプロジェクトへの参画 当社は、これまでの実績が評価され、国主導プロジェクトであるNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の量子コンピュータの産業化に関する事業(注)に単独で採択されました。採択期間は2025~2027年度の3年間の予定で、量子コンピュータに不可欠な中核デバイス(超高速カメラ、多画素・高感度カメラ、多画素空間光変調器ほか)の研究開発をさらに推進いたします。目的:量子コンピュータの大規模化、安定動作を支える光源・検出器・光変調技術の確立体制:当社主導で、国内有力研究機関・量子コンピュータメーカーと連携のもと、試作~評価~応用展開まで一貫して推進期待効果:産業化のボトルネック解消を通じた、当社製品の採用領域拡大と継続的な収益基盤の強化 <細胞等の観察を大幅に効率化させるバーチャルスライドスキャナ「NanoZoomer®S540」> 開発の背景 患者から採取した組織・細胞を観察・解析し、疾患の性質やメカニズムを明らかにする病理診断は、近年、分子や遺伝子レベルでの解析の進展と患者一人ひとりの体質や病態にあった有効かつ副作用の少ない治療法 (個別化医療)の発展に伴い、その重要性がますます高まっております。特にがんなどの疾患に対するメカニズムの解明や治療法・薬剤の研究開発が加速しており、患者由来の組織・細胞を病理学的に観察・解析するアプローチは、個別化医療の実現において極めて重要な役割を果たしております。従来は、組織・細胞をガラス標本にして顕微鏡で観察する手法が主流でしたが、近年ではガラス標本をスキャンして高精細な画像データに変換し、観察・保存・共有を可能にする「デジタル病理」への移行が世界的に急速に進んでおります。 当社では約20年前より、デジタル病理分野の普及を目的としてバーチャルスライドスキャナ「NanoZoomer」シリーズの開発を開始し、用途に応じたラインナップの拡充を進めてまいりました。このたび、従来以上に効率的かつ迅速な観察を実現するため、大量のガラス標本を高速にデジタル化できる新モデル「NanoZoomer S540」を研究用途向けにリリースいたしました。 製品の特長 本製品は、最大540枚のガラス標本をセット可能で、短時間での自動処理が可能なハイエンドモデルです。特に装置の動作を停止することなく新しいガラス標本を追加できる機能の搭載に加え、ガラス標本内の組織・細胞を人工知能(AI)により自動認識する機能を大幅に向上させることで研究者の作業効率と利便性を大きく高めております。今後は、国内外での医療機器化を目指し、研究用途及び医療用途の両面でグローバル市場への展開を進めてまいります。 このように、長年にわたり培ってきた当社グループ独自の光技術を駆使し、バイオ、医療、情報、通信、エネルギー、物質、宇宙・天文、農業等の分野において、新しい知識、新しい産業の創成を目指した基礎研究を推し進めるとともに、新製品の開発及び既存製品の高機能化・高付加価値化を目指した開発を行っております。 (注)「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」における「量子コンピュータの産業化に向けた開発の加速」事業において「量子コンピュータの産業化に向けた光部素材技術の開発」をテーマとして採択されました。
FY2024|2,866 文字
6【研究開発活動】当社グループの研究開発活動は、「光の本質に関する研究及びその応用」をメインテーマとし、主に当社の中央研究所及び各事業部において行っております。光の世界は未だその本質すら解明されていないという、多くの可能性を秘めた分野であり、光の利用という観点からみても、光の広い波長領域のうち、ごく限られた一部しか利用することができていないのが現状であります。こうした中、当社の中央研究所においては、光についての基礎研究と光の利用に関する応用研究を進めており、また、各事業部においては、製品とその応用製品及びそれらを支える要素技術、製造技術、加工技術に関する開発を行っております。当連結会計年度の研究開発費の総額は、13,551百万円であり、これを事業のセグメントでみますと、電子管事業3,555百万円、光半導体事業2,387百万円、画像計測機器事業745百万円、レーザ事業1,335百万円、その他事業379百万円及び各事業区分に配賦できない基礎的研究5,148百万円であります。当連結会計年度における主要な研究開発の概要は次のとおりであります。 <電子管・光半導体事業>半導体技術と電子管技術を融合した新たな光センサ技術 本技術の特長 当社の光センサは医療・分析・産業など様々な用途で使用されていますが、最新の半導体技術と電子管技術を融合することで、新しい光センサ技術(HYPEREONTM)を開発いたしました。 本技術は、電子管技術を用いて光を電子に変換し半導体技術を使って増倍させることで、微弱な光を高感度で検出することを可能とします。当社がこれまで培ってきた半導体技術の特徴である計測の均一性と電子管技術の特徴である高感度、超低ノイズ、高速応答等の相乗効果を最大限に引き出したものであり、これまで測定できなかった微弱な光やわずかな強弱の差も正確かつ高速にとらえることができます。 今後の展望 HYPEREONは、新たな当社の基盤技術であり、医用・バイオ、産業、分析などの幅広い用途への応用を目指しております。例えば、様々な細胞情報を取得するフローサイトメトリ技術に応用することで、病気の早期発見や新薬の開発期間短縮が期待されます。 まずはこの医用・バイオ分野においてHYPEREONを用いた高付加価値モジュールを展開するとともに、今後も様々な分野においてお客様や社会の課題解決に向けて、本技術を軸としたモジュールの開発を行ってまいります。 <画像計測機器事業>多波長蛍光イメージングに特化したスライドスキャナ「MoxiePlex®」 開発の背景 がん細胞は、生体内の様々な細胞や分子と相互作用しながら増殖したり死滅したりしており、その複雑な生体現象を可視化し分析することで、新薬の開発や新たな治療法の確立につながると期待されております。その観察にあたっては、採取した検体に対し、特定の細胞や分子と結合する蛍光試薬を添加したうえで、顕微鏡を用いて蛍光画像を観察する手法が一般的に用いられます。近年では、より複雑な生体現象を観察するため、複数の蛍光試薬を用いて多波長の蛍光画像を取得するニーズが高まっておりますが、画像の取得にあたり、複雑な機器設定が必要であるほか、多くの時間を要する点が課題でした。 本製品の特長 当社は高感度かつ高精細な蛍光イメージング技術と画像処理技術を活用し、多波長蛍光測定に特化したスライドスキャナ「MoxiePlex」を開発いたしました。本製品は、複数の波長の蛍光試薬で染色した検体を測定可能であるため、細胞の形態情報に加え、細胞内で起きている生体現象をすばやく可視化し、がん細胞を取り巻く環境をより詳細に解析することが可能となります。また、露光時間や測定時間等の自動設定、検体の自動検出機能を備えているため、短時間かつ簡単な操作で画像を取得できます。 本製品を用いることで、複雑な生体現象の解明につながるとともに新薬や治療法の研究開発が効率的に進み、臨床分野への応用が期待されます。 <各事業区分に配賦できない基礎的研究>レーザ核融合に向けた高出力レーザダイオード(LD)モジュールを開発 研究の背景 レーザ核融合とは、海水から抽出した重水素などの燃料にレーザを照射することにより人工的にエネルギーを作り出す技術で、二酸化炭素が発生しないことから、次世代のクリーンエネルギー技術として注目されております。 このレーザ核融合の実現にはメガジュール級の超高出力のレーザが求められており、これは1~10kJ(注1)のレーザ装置を複数組み合わせることで実現可能とされております。このため当社は、1kJのレーザを出力するレーザ装置の確立を重要なマイルストーンとして研究を進めております。 研究の成果 当社は1kJレーザの励起用光源であるLDを高密度に積層する技術を確立し、小型の高出力LDモジュールを開発いたしました。搭載するLD数を増やすことでレーザ装置全体の出力向上が期待できますが、従来の積層技術では、LD同士の間隔が高密度になるほどその他の構成部品との接合ズレが生じ、通電時に不具合が起こりやすいという問題がありました。そこで独自の積層技術を用いることで、従来よりもLD同士の間隔を約4分の1に狭めつつ、接合ズレを抑えて高い信頼性を確保しました。これにより、従来製品と比べて、LDモジュールの出力の最大値を約4倍に高めました。 当社は、引続きレーザのさらなる高出力化に向けて研究開発を進めるとともに、世界の核融合発電の早期実現に貢献してまいります。 新生児の脳内血液循環を高精度・安全に測定可能な装置を開発 研究の背景 早産児・低出生体重児は、脳深部における出血が起こりやすく後遺症が発生してしまうケースがあるため、出血の有無を示すパラメータとなるヘモグロビン濃度を正確に測定する手法が求められておりました。しかし、頭部に照射された光の反射光を検出する従来の測定方法では、測定の範囲が脳の表層部のみとなってしまうほか、測定できるヘモグロビン濃度も測定開始時からの変化量(相対値)に限られておりました。 研究の成果 当社は高感度な光センサである光電子増倍管とレーザ、独自の時間分解分光技術を応用した新たな測定装置を開発いたしました(注2)。本開発品は、頭部に近赤外光を照射し、その透過光を検出することで脳深部のヘモグロビン濃度を相対値ではなく絶対値としてとらえることが可能であり、より正確に脳内血液循環を測定することができます。 今後も当社技術を駆使して、早産児・低出生体重児だけでなく全ての新生児にも適用できるよう改良を進め、脳内血液循環管理の新たな測定機器として新生児医療に貢献してまいります。 (注)1 キロジュール(kJ)の意味です。ジュールはエネルギーの単位で、1キロジュールは240カロリーの熱量に相当します。 2 本開発品は東京大学、埼玉県立小児医療センターとの共同研究によるものです。
FY2023|3,012 文字
6【研究開発活動】当社グループの研究開発活動は、「光の本質に関する研究及びその応用」をメインテーマとし、主に当社の中央研究所及び各事業部において行っております。光の世界は未だその本質すら解明されていないという、多くの可能性を秘めた分野であり、光の利用という観点からみても、光の広い波長領域のうち、ごく限られた一部しか利用することができていないのが現状であります。こうした中、当社の中央研究所においては、光についての基礎研究と光の利用に関する応用研究を進めており、また、各事業部においては、製品とその応用製品及びそれらを支える要素技術、製造技術、加工技術に関する開発を行っております。当連結会計年度の研究開発費の総額は、12,304百万円であり、これを事業のセグメントでみますと、電子管事業3,832百万円、光半導体事業1,622百万円、画像計測機器事業868百万円、その他事業804百万円及び各事業区分に配賦できない基礎的研究5,176百万円であります。当連結会計年度における主要な研究開発の概要は次のとおりであります。 <光半導体事業>超小型化、低コスト化、高速応答を実現したガス分析用途向けセンサを開発 工場等における排ガスの分析には、赤外光をガスに照射しその吸収量を検出することで、ガスに含まれる成分や量を計測する手法が一般に用いられています。当社は、これまでガス分析向けセンサとして検出素子と電子回路等を一体化したモジュール製品を販売してまいりましたが、試料を測定室に持ち込むことなく現場で分析を行えるよう小型なセンサが求められておりました。 このような中、当社は、最新のInAsSb(注1)検出素子を採用するとともに、独自の回路設計技術により素子と電子回路等を直径約9㎜のパッケージに内蔵したセンサの開発に成功いたしました。これにより、従来品と同等の感度を有しながら、体積を約200分の1にまで大幅に小型化いたしました。また、配線等の構造を最適化することで、応答速度を従来の約2倍まで高めるとともに、低コスト化も実現しました。これまでガス分析向けのセンサでは、テルル化カドミウム水銀を用いたものが主流でしたが、同物質がRoHS指令(注2)の制限物質に指定されたことから、今後、当該物質を含まない本製品への置き換えが見込まれます。 本製品は、排ガス等をリアルタイムに分析する可搬型の分析機器への応用が期待されており、高精度な環境分析用デバイスの供給を通じて大気汚染といった環境問題の解決に貢献してまいります。 <画像計測機器事業>広視野かつ高解像度での撮像に適したデジタルカメラ「ORCA®‐Fire」 生命科学やバイオ等の分野の研究では、細胞等の微細な構造や瞬間的な生命活動を観察するため、顕微鏡とデジタルカメラを組み合わせたイメージング手法が広く用いられており、特に近年では、低倍率のレンズを用いて、広い視野で一度に多くの細胞等を観察するニーズが高まっております。このような低倍率でのイメージングにおいて、観察対象の細部まで解像度の高い画像を取得するためには、画素サイズの小さなカメラが適しておりますが、このような性能を十分に有するカメラはこれまで存在しておりませんでした。 このような中、当社は、最新の裏面入射型イメージセンサを搭載したデジタルカメラ「ORCA®‐Fire」を開発いたしました。本製品は、独自の設計・製造技術を用いて、センサ全体の面積を大面積化するとともに、センサを構成する1つ1つの画素サイズを4.6μmという非常に微細なサイズにすることで、低倍率でのイメージングにおける広視野かつ高解像度な画像取得を可能にしております。 今後も当社は、高性能なカメラの開発・供給を通じて、再生医療や創薬といった最先端の生命科学やバイオ分野の研究の発展に貢献してまいります。 <各事業区分に配賦できない基礎的研究>体動補正機能付き頭部用PET装置の開発・AIによるPET画像再構成の実現当社は、PETに関する研究を積極的に推進しており、この度、新規装置の開発とPET画像直接再構成手法の確立を実現しました。当社と一般財団法人浜松光医学財団は、被検者の体動によるPET画像のボケを補正する機能を搭載した頭部用PET装置を開発いたしました。本装置は、静止状態を保つことが困難な認知症や多動性精神疾患の被検者の脳の状態を高精度に計測できます。本装置を臨床現場で用いることにより、医師の診断精度の向上や治療薬の開発促進などが期待されます。今後も、同財団とともに、認知症や精神疾患の早期発見、病態解明に向けた研究を加速してまいります。また、当社はAIを用いた高品質なPET画像を取得する手法を世界に先駆けて実現いたしました(注3)。PETの診断画像は、収集した観測データに対し画像再構成と呼ばれる演算を行うことにより取得することが一般的ですが、その処理の過程で診断画像の劣化が発生してしまうことが課題でした。このような中、当社はAIを用いた画像再構成手法を新たに開発し、これまでの画像再構成に必要であった処理を省略することに成功いたしました。これを用いることで、画像劣化の発生を最小限に抑えつつ観測データから高画質な診断画像の取得を可能といたしました。これにより、計測時間の短縮や放射性薬剤の使用量削減による被検者の被ばく低減が期待されます。当社は今後もPETに関する研究開発を推進し、健康長寿社会の実現に貢献してまいります。 新たな応用が期待される赤外領域のレーザ・センサを開発医療や産業から宇宙分野まで幅広く利用されている赤外線は、今後も応用の拡大が期待されており、当社でもその光源及びセンサの研究開発に取り組んでおります。光源につきまして、波長1.4~2.6μmの光は自動車の高度な自動運転に不可欠な長距離センシング等への応用が見込まれておりますが、高い出力を保つことが課題でした。当社では、これまでの研究成果をベースに新たな構造を採用することで、素子製造工程におけるレーザ出力の阻害要因を排除するとともに、レーザが素子内に吸収されてしまう割合を低減させることにより、従来の10倍以上である100mW超の出力を有した波長1.5μmのフォトニック結晶面発光レーザを開発いたしました。また、センサにつきましては、波長1.1μm以上の光は一般に広く用いられているシリコンフォトダイオードなどでは検出困難であるため、有機材料を用いた研究を進めております。この度、当社は有機半導体薄膜の形成技術や電極形成技術など独自の技術をいかすとともに、新たな材料を用いることで、波長1.5μmまでに感度をもつ有機光センサの開発に成功いたしました。本センサは、曲がる・大面積・低コストなどの特徴をもつため、組み込む装置の設計の自由度が高く、様々な使い方が期待されます。今後も、赤外領域におけるレーザのさらなる高出力化やセンサの感度範囲拡大・応答高速化などを進め、早期実用化を目指してまいります。 (注)1 インジウム(In)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)の略称です。 2 特定の有害物質を一定の濃度以上含む電気電子機器のEU市場での販売を禁止するものです。 3 本研究は、JSPS科研費 JP22K07762の助成を受けたものです。
FY2022|2,665 文字
5【研究開発活動】当社グループの研究開発活動は、「光の本質に関する研究及びその応用」をメインテーマとし、主に当社の中央研究所及び各事業部において行っております。光の世界は未だその本質すら解明されていないという、多くの可能性を秘めた分野であり、光の利用という観点からみても、光の広い波長領域のうち、ごく限られた一部しか利用することができていないのが現状であります。こうした中、当社の中央研究所においては、光についての基礎研究と光の利用に関する応用研究を進めており、また、各事業部においては、製品とその応用製品及びそれらを支える要素技術、製造技術、加工技術に関する開発を行っております。当連結会計年度の研究開発費の総額は、11,269百万円であり、これを事業のセグメントでみますと、電子管事業3,613百万円、光半導体事業1,461百万円、画像計測機器事業702百万円、その他事業514百万円及び各事業区分に配賦できない基礎的研究4,977百万円であります。当連結会計年度における主要な研究開発の概要は次のとおりであります。 <電子管事業>世界初、リアルタイム撮像可能なテラヘルツイメージインテンシファイアを開発 テラヘルツ波を用いた非破壊検査は、X線を用いた検査では困難であった爪やフィルム等の素材の検出にも有用とされておりますが、現在主流である、テラヘルツ波を熱に変換するイメージング手法では動作速度に限界があるため、リアルタイムでのイメージングは困難でした。 このような中、当社はテラヘルツ波を電子に変換し、その電子を光に変換する手法を用いたリアルタイムでのイメージングが可能なイメージインテンシファイア(注1)(I.I.)を開発いたしました。これは、従来デンマーク工科大学との共同研究にて開発を進めていた光電変換技術や長年培ったイメージング技術、設計の工夫により、テラヘルツ波を効率よく電子に変換し増倍させることで実現した、世界初の高速応答・高分解能のI.I.です。 本製品とテラヘルツ波光源の組合せにより、X線非破壊検査では検出困難であった材質の混入物をインラインで迅速に検査できると見込まれます。また、テラヘルツ波は人体に無害であるため、イベント会場などでのウォークスルー方式のセキュリティ検査への応用も期待されます。 <光半導体事業>低コスト化、高速応答を実現した産業用LiDAR向けアバランシェ・フォトダイオードアレイを開発 アバランシェ・フォトダイオード(APD)は、光の信号を増倍する機能をもつ光半導体センサで、微弱な光を高感度に検出し遠くの物体までの距離を測定できることからLiDAR(注2)用途で広く用いられております。当社はこれまで産業用LiDAR向けにAPDを複数配列したAPDアレイを開発してまいりましたが、使用に際しては周囲の温度変化に応じて信号の増倍率を調整するための制御回路や温度センサが別途必要でした。 このような中、当社は、独自の半導体製造技術を応用し、信号の増倍率を固定するセルフバイアスジェネレータを内蔵したAPDアレイを開発いたしました。これにより、信号の増倍率を調整するための制御回路や温度センサが不要になります。また、内蔵する信号処理回路の設計を最適化し、信号への応答速度を従来製品の約3倍に高めたことで、検出精度と距離を向上いたしました。本製品を用いることで自動搬送車等に搭載されるLiDARの低コスト化、高性能化が期待できます。 <各事業区分に配賦できない基礎的研究>レーザによる抗がん剤のナノ粒子化技術を確立乳がん等の治療に用いられる抗がん剤のパクリタキセル(PTX)は、水に極めて溶けにくい性質があるため、一般にエタノール等を含んだ溶媒で溶かして治療に使用されております。しかしながら、体内に投与した際に、これらの溶媒がアレルギーなどの副反応を引き起こす場合があり、溶媒を用いずにPTXの溶解性を高める手法が求められておりました。このような中、当社は、溶媒の代わりに水溶液を用い、溶液内のPTXに特定の波長のレーザを照射することで、PTXをナノ粒子レベルまで細分化する手法を確立いたしました。このナノ粒子化PTXを用いて生体環境を再現した溶解実験を行った結果、従来のPTXと比較して大幅に溶解性が向上いたしました。また、マウスを用いた生体実験では、副反応を引き起こすことなく、従来のPTXと同等の治療効果が得られることを確認いたしました。本手法は、患者の負担を軽減する新たな抗がん剤作製手法の確立に貢献するとともに、様々な難水溶性の治療薬への応用が期待できます。 世界初、周波数可変のテラヘルツ帯量子カスケードレーザモジュールを実現テラヘルツ波は電磁波の一種で、試料に照射しその吸収率を調べることで、試料の分析や非破壊検査への応用が期待されております。当社は独自技術を用いて、室温で動作するテラヘルツ帯量子カスケードレーザ(注3)(QCL)光源を開発し、波長領域を拡大してまいりました。しかし、より高精度な分析には、試料内の成分に合わせてテラヘルツ波の周波数を切り替えて照射する必要があり、1つの光源モジュールで周波数可変な機能が求められておりました。このような中、当社はテラヘルツ波の解析研究と長年培った技術をもとにQCLの構成を最適化させるとともに、光を波長ごとに分別・反射する回析格子等を組み合わせました。そして、回析格子の傾きを制御し光の反射角度を調整することにより、任意に周波数を切り替えることができるQCLモジュールを世界で初めて実現いたしました(注4)。本成果により、薬剤や食品、半導体材料の品質評価や非破壊検査等の正確性や効率を向上させることができます。また、テラヘルツ波を利用する超高速無線通信への応用も期待されます。 (注)1 イメージインテンシファイアとは、ごく微弱な可視光や不可視光を検知・増倍して撮像することができるデバイスです。 2 LiDARとは、対象物にレーザ光を照射し、その反射光を光センサでとらえて距離を測定するリモートセンシング技術です。 3 量子カスケードレーザとは、発光層に特殊な構造を用いることで、従来のレーザと異なり、中赤外から遠赤外の波長領域において高い出力を得ることができる半導体光源です。 4 本研究の一部は、総務省の「戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)」の委託(受付番号JP195006001)を受けたものです。
FY2021|3,279 文字
5【研究開発活動】当社グループの研究開発活動は、「光の本質に関する研究及びその応用」をメインテーマとし、主に当社の中央研究所及び各事業部において行っております。光の世界は未だその本質すら解明されていないという、多くの可能性を秘めた分野であり、光の利用という観点からみても、光の広い波長領域のうち、ごく限られた一部しか利用することができていないのが現状であります。こうした中、当社の中央研究所においては、光についての基礎研究と光の利用に関する応用研究を進めており、また、各事業部においては、製品とその応用製品及びそれらを支える要素技術、製造技術、加工技術に関する開発を行っております。当連結会計年度の研究開発費の総額は、11,367百万円であり、これを事業のセグメントでみますと、電子管事業3,509百万円、光半導体事業2,342百万円、画像計測機器事業418百万円、その他事業405百万円及び各事業区分に配賦できない基礎的研究4,692百万円であります。当連結会計年度における主要な研究開発の概要は次のとおりであります。 <電子管事業>次世代ニュートリノ観測実験「ハイパーカミオカンデ」に用いられる大口径光電子増倍管を開発 当社は、2027年に運用開始が予定されている次世代ニュートリノ観測実験「ハイパーカミオカンデ」用の光検出器として大口径光電子増倍管を開発いたしました。本実験はノーベル物理学賞の受賞につながったカミオカンデ、スーパーカミオカンデの後継実験で、巨大な水槽に満たされた超純水にニュートリノが反応した際に発する微弱なチェレンコフ光を観測しその性質を調べることで、宇宙や生命の起源の解明につながると期待されています。当社は、これまでニュートリノ観測用の光電子増倍管を開発してまいりましたが、ハイパーカミオカンデではさらに高性能な光検出器が求められました。このような中、当社は光電面や電極の構造を一から見直すことで、スーパーカミオカンデ用光電子増倍管に比べ光の感度や測定精度を約2倍に向上させたほか、検出器由来のノイズを最小限に抑えた光電子増倍管を新たに開発いたしました。当社は、今後も高性能な光検出器の開発を通して素粒子物理学の発展に貢献してまいります。 <光半導体事業>演算機能を内蔵し、高速な位置検出を可能としたプロファイルセンサを新たに開発 プロファイルセンサとは、対象物の位置を検出することに特化したイメージセンサの一種です。通常のイメージセンサに比べ、必要な情報を少ない信号量で高速に取得できるという特徴を有しており、物体との距離等を計測する測量機器などに用いられております。当社はこれまで測量機器向けにプロファイルセンサを開発してまいりましたが、取得した信号を測量に必要な座標データとして出力するためには演算処理を行う外付けの制御装置が別途必要でした。この度、当社は回路設計を見直し、演算処理を行う回路をセンサに内蔵することによって、制御装置を用いずに座標データを出力できるプロファイルセンサを新たに開発いたしました。本製品を用いることで、測量機器の小型化や軽量化、低価格化が期待されるほか、信号の取得速度を高め、動いている対象物の位置検出を補助する機能を加えたことで、FA分野への応用拡大も見込まれます。 <画像計測機器事業>究極の低ノイズ性能の科学計測用CMOSデジタルカメラ「ORCA-Quest」を開発 科学計測分野においては、微弱光を計測できる低ノイズのカメラが求められております。この度当社は、独自の設計技術と最新の製造技術を用いることで世界一の低ノイズ性能かつ高精細で高速な画像取得を可能とする2次元CMOSイメージセンサを開発し、その性能を最大限に引き出す設計を施したカメラ「ORCA-Quest」を新たに開発いたしました。これは、光の最小単位である光子を2次元的に正確に計測して画像化することができる世界初のカメラです。本製品は、量子の状態を正確に観察することや極微弱光を広視野で撮像することが可能であるため、今後、量子コンピュータなどの量子情報分野のほか、天文、ライフサイエンス分野等での応用が期待されます。 <各事業区分に配賦できない基礎的研究>産業分野におきましては、LD励起(注1)において世界最高出力となる250ジュールの産業用パルスレーザ装置を開発いたしました(注2)。本開発品は、既に開発済みの高出力レーザ装置からのパルスレーザをさらに新たな増幅器で増幅して出力を高める仕組みで、増幅器内のレーザ媒質(注3)の構成を改良するとともに、増幅器の構造を最適化することで、レーザの増幅能力を向上させております。また、独自の光学制御技術によりレーザビームの高い集光性も達成しております。これらにより、従来装置と同等のサイズながらパルスレーザの出力を2倍以上に増幅することに成功し、250ジュール級の高出力なパルスレーザ装置を世界で初めて実現いたしました。今後、本開発品により、自動車や航空機の金属部品を強靭化し、疲労強度を向上させる加工技術への展開など産業分野での応用範囲の拡大が期待されます。光材料の分野におきましては、当社が開発中のメタレンズを用いて、当社製光半導体素子と組み合わせた結果、素子の性能向上に有用に機能することを確認いたしました。メタレンズとは波長より十分小さな周期のナノ構造が2次元配列された構造体であり、ナノ構造の形状を調整することで薄型レンズとして機能するため、受発光デバイスの高性能化・小型化に貢献できると期待されております。この度、素子の上部にメタレンズを実装したところ、受光感度が約10%向上し、素子の高性能化が可能であることを実証いたしました。今後も、半導体技術と相性が良く大量生産・低コスト化が可能なメタレンズによる当社製品の高付加価値化及び高性能化を目指すとともに、LiDAR(注4)用MPPC(注5)をはじめとする様々な用途への応用を進めてまいります。医療の分野におきましては、PET等の核医学検査におけるイメージング技術の向上を進めております。核医学検査において、高精細な診断画像を取得するためには、患者の体内から放出される放射線の位置を検出器で正確にとらえる必要がありますが、現在の検出器では、その特性上、画像再構成と呼ばれる処理を行って画像を補正しております。この度、当社は放射線をより正確にとらえる高時間特性検出器と人工知能を用いて、ファントム(注6)による検出実験を実施し、世界で初めて画像再構成を行うことなく画像を取得することに成功いたしました(注7)。本成果により、核医学検査におけるリアルタイムでの高精細な画像取得や少ない放射線量での検査による患者の身体的な負担軽減等が期待できます。 (注)1 LD励起とは、半導体レーザを使用して、レーザ媒質の原子や分子をエネルギーの高い状態にすることです。 2 本開発品は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発」プロジェクトにより開発いたしました。 3 レーザ媒質とは、外部からのエネルギーを蓄え、そこを通過するレーザにエネルギーを与え増幅させる物質です。 4 LiDARとは、対象物にレーザ光を照射し、その反射光を光センサでとらえて距離を測定するリモートセンシング技術の1つで、自動車の自動運転化等の用途で注目されております。 5 MPPCとは、高い増倍機能をもち、フォトンカウンティングレベルの微弱光を検出できる高性能な光半導体素子です。LiDAR用途においては、近赤外波長に高い感度をもつMPPCが求められております。 6 ファントムとは、人体の形状を模した放射能分布をもつ模型を指し、核医学検査装置のイメージング技術を評価する試験に用いられております。 7 本成果はカリフォルニア大学デイビス校、福井大学、北里大学との共同研究によるものです。
FY2020|2,969 文字
5【研究開発活動】当社グループの研究開発活動は、「光の本質に関する研究及びその応用」をメインテーマとし、主に当社の中央研究所、筑波研究所及び各事業部において行っております。光の世界は未だその本質すら解明されていないという、多くの可能性を秘めた分野であり、光の利用という観点からみても、光の広い波長領域のうち、ごく限られた一部しか利用することができていないのが現状であります。こうした中、当社の中央研究所及び筑波研究所においては、光についての基礎研究と光の利用に関する応用研究を進めており、また、各事業部においては、製品とその応用製品及びそれらを支える要素技術、製造技術、加工技術に関する開発を行っております。当連結会計年度の研究開発費の総額は、12,147百万円であり、これを事業のセグメントでみますと、電子管事業3,497百万円、光半導体事業2,026百万円、画像計測機器事業347百万円、その他事業718百万円及び各事業区分に配賦できない基礎的研究5,558百万円であります。当連結会計年度における主要な研究開発の概要は次のとおりであります。 <電子管事業>新型コロナウイルス検査試薬の研究開発を加速する高感度・高再現性のイムノクロマトリーダ 蛍光イムノクロマト法は、血液等の検体を含ませた試薬に光を照射した際の蛍光を測定器(イムノクロマトリーダ)で確認することで、検体中の抗原や抗体の有無を判別する検査法です。現在、新型コロナウイルス検査試薬の研究開発のため、測定器も感度向上が求められておりますが、蛍光の信号量を増やそうと照射光を強めるとノイズも増える点が課題でした。この度開発した測定器では、独自の信号処理技術により、照射光を強めるとともに増幅回路で信号量を増やしながらもノイズを低減させることに成功し、さらに部材の見直しと光学設計の最適化により測定感度を従来の10倍以上に高めました。また、長年培ってきたデータ解析技術により、再現性は従来同等の業界最高水準を確保しております。これにより、新型コロナウイルス向けをはじめとする各種試薬の研究開発の効率が向上することが期待できます。 <光半導体事業>小型・高感度を両立した携帯型分析装置向けFTIR分光器を新たに開発 FTIRとは、対象物に赤外線を照射し、反射・透過した光の種類や性質を調べることで、対象物に含まれる成分を分析する分光分析法の一種で、科学研究から産業まで様々な分野で用いられております。FTIR分析装置は据置型が主流ですが、近年、作業現場で測定できる携帯型の要求が高まっており、小型で高感度のFTIR分光器が望まれておりました。この度、当社は独自のMEMS(注1)技術を用いて光学部品を一新することで、小型化に伴う測定用光量の減少という課題を解決するとともに、構造設計を見直し、手のひらサイズながら据置型と同等の感度を有した小型FTIR分光器を開発いたしました。本分光器を用いることで、据置型の100分の1程度の大きさの携帯型FTIR分析装置の実現が可能となり、プラスチック選別や農作物の成分分析など現場でのリアルタイム計測が求められる幅広い用途への応用が期待できます。 <画像計測機器事業>従来品よりも暗い領域を観察可能な科学計測用CMOSカメラ「ORCA-Fusion BT」を開発 生命科学分野における生細胞の生命現象の観察には、蛍光や化学発光等の微弱光を捉えることのできるカメラが求められており、当社でもこれまで科学計測用CMOSカメラを開発・販売してまいりました。この度、新たな背面照射型センサを開発し、従来の当社製品の低ノイズ・広視野・高解像度等の特長は保持したまま量子効率(注2)を上げることで飛躍的な高感度化を実現した「ORCA-Fusion BT」を開発いたしました。より微弱な光の画像取得が可能となるため、生命科学分野以外にも、半導体ウェハ上の異物検査等、産業分野での各種検査の高精度化も期待できます。 <各事業区分に配賦できない基礎的研究>産業分野におきましては、世界最高の耐光性能を有した空間光変調器(SLM)を開発いたしました(注3)。SLMとはレーザーなどの入射光を液晶面で制御し、反射光の分岐やパターンを任意に調整できる光デバイスです。近年、半導体や炭素強化プラスチックの加工にパルスレーザー(注4)を用いる手法が、従来の機械加工に比べ高精度に加工できると注目されております。本手法にSLMを用いることで、「点」ではなく「面」でレーザーを制御できることから、複数箇所の同時加工による加工の効率化が期待されております。一方で、分岐により加工に必要な出力が低下するため、より高出力のレーザーを照射する必要があり、高い耐光性能をもつSLMが求められておりました。このような中、当社は独自の薄膜設計技術と回路設計技術により耐光性能を従来製品の10倍以上に高めたSLMの開発に成功いたしました。本開発品により、パルスレーザーを用いた材料加工の高機能化が期待できます。医療の分野におきましては、当社製テラヘルツ波(注5)分光分析装置を用いて、吸湿による薬剤の分子配列の変化の途中経過を世界で初めて測定いたしました(注6)。薬剤によっては、保管や服用時に吸湿し、分子配列が変化して効能が低下する場合があるため、分子配列の変化を事前に評価することが重要ですが、テラヘルツ波を用いた従来の測定法や装置では含水物の測定や変化の途中経過を安定的に測定することは困難でした。本装置は、含水物にも対応した測定法の採用及び独自技術を用いた設計によりその課題を解決しております。今後も、当社独自の技術を用いた薬剤評価の応用研究を進めてまいります。また、PET検査における取得画像の画質改善・ノイズ除去手法として、事前の学習データを必要としないAIを用いる手法の開発を進めております。近年、AIを用いる手法は注目されておりますが、事前に大量のPET画像データをAIに学習させる必要があり、前例の少ない症例への適用が課題となっておりました。このような中、当社は、画像中の生体構造や輪郭等の情報をノイズよりも優先的に認識する性質をもつAIを用いることで、学習データが存在しない状況においても高画質な画像の取得を実現いたしました。今後は、前例の少ない症例の診断や新規の検査薬開発時などへの応用が期待できます。 (注)1 MEMSとは、半導体材料を三次元的に微細加工する最先端技術です。 2 量子効率とは、入射光を電荷に変換する効率です。 3 本開発の一部は、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「光・量子を活用したSociety5.0実現化技術」の委託事業によって実施されました。 4 パルスレーザーとは、短期間に高出力のエネルギーを繰り返し照射するレーザーで、発熱が少ないため材料に損傷を与えにくく、高精度な材料加工に適しております。 5 テラヘルツ波とは、光と電波の中間の電磁波です。 6 本研究成果は、国立医薬品食品衛生研究所との共同研究によるものです。気管支拡張剤テオフィリンが乾燥状態から吸湿状態に変化する際の分子配列の途中経過を測定いたしました。
FY2019|2,797 文字
5【研究開発活動】当社グループの研究開発活動は、「光の本質に関する研究及びその応用」をメインテーマとし、主に当社の中央研究所、筑波研究所及び各事業部において行っております。光の世界は未だその本質すら解明されていないという、多くの可能性を秘めた分野であり、光の利用という観点からみても、光の広い波長領域のうち、ごく限られた一部しか利用することができていないのが現状であります。こうした中、当社の中央研究所及び筑波研究所においては、光についての基礎研究と光の利用に関する応用研究を進めており、また、各事業部においては、製品とその応用製品及びそれらを支える要素技術、製造技術、加工技術に関する開発を行っております。当連結会計年度の研究開発費の総額は、13,071百万円であり、これを事業のセグメントでみますと、電子管事業3,145百万円、光半導体事業3,033百万円、画像計測機器事業637百万円、その他事業894百万円及び各事業区分に配賦できない基礎的研究5,361百万円であります。当連結会計年度における主要な研究開発の概要は次のとおりであります。 <電子管事業>爆発物検出装置に使用可能なMCPアッセンブリ マイクロチャンネルプレート(MCP)は、真空中において、イオンやX線等によって生じた電子を増倍し検出する素子で、質量分析(注1)等の各種分析装置に幅広く使用されております。近年、空港等で使用される爆発物検出装置の精度向上のため、質量分析技術を用いた小型検出装置が開発されておりますが、真空ポンプの小型化に伴う、装置内部の真空度の低下により発生するノイズが問題となっておりました。当社では、検出器の構造を見直し、独自の電圧供給方式を採用することで、低真空状態でもノイズが発生せず安定的に動作するMCPアッセンブリを開発いたしました。今後、世界各地の空港等におけるセキュリティの強化に貢献してまいります。 <光半導体事業>世界初、環境負荷が少なく波長14.3μmまで検出可能な受光素子を量産化 大気や食品、薬剤等の分析には中赤外光を利用した分析機器が一般的に使われておりますが、それらに使用されている既存の受光素子にはRoHS指令(注2)の制限物質が含まれております。当社は環境に配慮し、制限物質を含まない受光素子を開発してまいりましたが、11μmより長い波長の中赤外光向けについては、量産可能な製造技術の確立が課題となっておりました。この度当社は、長年培ってきた半導体製造技術により、制限物質を含まない化合物の薄膜を基板上に交互に積層する技術を確立し、14.3μmまでの中赤外光を検出可能な受光素子の量産化に世界で初めて成功いたしました。本製品により、環境に悪影響を及ぼす制限物質を含む既存の受光素子からの置き換え等が期待できます。今後は、さらなる長波長化や高感度化とともに、本製品を組み込んだモジュール製品の開発を進めてまいります。 <画像計測機器事業>科学計測用CMOSカメラ「ORCA-Fusion」 生命科学や産業分野における微弱光領域での観察には、科学計測用CMOSカメラが広く用いられておりますが、画質の向上が求められておりました。この度、販売を開始いたしました「ORCA-Fusion」は、極めて低ノイズな特性をもつセンサを搭載することで、微弱光領域における高速で高画質な画像取得を実現し、広視野・高解像度であるため広範囲での詳細な観察も可能としております。さらに、従来品と比べ紫外・近赤外領域でも高い感度をもつため、生命科学分野のみならず、半導体内部や太陽電池パネルの検査など、産業分野における用途拡大も期待できます。 <各事業区分に配賦できない基礎的研究>光材料の分野におきましては、表面に光波長以下のナノ微細構造を配列することで、物質固有である光の屈折率を任意に制御したレンズ(メタレンズ)の開発を進めております。メタレンズは、理論上、通常のレンズの百分の一程度の薄さでありながら高倍率化が可能とされておりますが、ナノ微細構造の配列が技術上の課題となっておりました。このような中、当社は、独自の加工技術により、石英ガラス上に微細なシリコン柱を配列したメタレンズの作製に成功いたしました。今後は、本技術の実用化及び当社製品への応用を目指してまいります。高出力レーザーの分野におきましては、小型ながら1ジュール(注3)と高出力で、300ヘルツ(注4)の高繰り返しでのパルスレーザー照射が可能なパワーレーザー装置を開発いたしました(注5)。当社は、独自の結晶成長・加工技術により、励起用半導体レーザーの構造を改良することで、その光出力を世界最高クラスの300ワットまで高めるとともに、設計の最適化により光増幅器の性能を従来の3倍とすることで、高出力を達成いたしました。また、部品点数を抑えることで安定した出力と装置の小型化、低コスト化を実現いたしました。本開発品により、金属表面に付着した細かな汚れを除去するレーザークリーニングや金型を使用せずに金属材料等を加工するレーザーフォーミングなど、パルスレーザーの新たな産業応用が期待できます。 医療の分野におきまして、PET装置におけるより短時間での高精細な画像取得を目指し、チェレンコフ輻射体(注6)と呼ばれる特殊な結晶体を用いたPET装置向け検出器の研究を進めております。当期におきましては、長年培ってまいりました光学設計技術を応用し、受光素子の窓材と輻射体を一体化させることで、従来の開発品に比べて約5倍の感度を実現いたしました。本成果により、将来的に、PET検査におけるリアルタイムでの高精細な画像取得や被ばく量低減による患者の身体的な負担軽減に加え、放射線の高感度検出を必要とする他分野への応用が期待できます。 (注)1 試料の原子・分子をイオン化し質量の測定を行うことで、試料に含まれる物質の性質や構造、量などの情報が得られる分析手法です。 2 特定の有害物質を制限物質とし、制限物質を指定の濃度以上に含む電気電子機器のEU市場での販売を禁止するものです。 3 ジュールとはエネルギーの単位で、1ジュールは0.24カロリーの熱量に相当します。 4 ヘルツとは周波数の単位で、300ヘルツは1秒間に300回のレーザーを照射することを意味しております。 5 本開発品の一部は、内閣府革新的研究開発プログラム(ImPACT)「ユビキタス・パワーレーザーによる安全・安心・長寿社会の実現」の一環として開発したものです。 6 チェレンコフ輻射体とは、放射線が通過する際にチェレンコフ光のみを発光する特性をもつ物質の総称です。シンチレータの代わりにPET装置向け検出器に用いることで、より短時間で高精細な画像取得が期待できます。
FY2018|3,629 文字
5【研究開発活動】当社グループの研究開発活動は、「光の本質に関する研究及びその応用」をメインテーマとし、主に当社の中央研究所、筑波研究所及び各事業部において行っております。光の世界は未だその本質すら解明されていないという、多くの可能性を秘めた分野であり、光の利用という観点からみても、光の広い波長領域のうち、ごく限られた一部しか利用することができていないのが現状であります。こうした中、当社の中央研究所及び筑波研究所においては、光についての基礎研究と光の利用に関する応用研究を進めており、また、各事業部においては、製品とその応用製品及びそれらを支える要素技術、製造技術、加工技術に関する開発を行っております。当連結会計年度の研究開発費の総額は、12,830百万円であり、これを事業のセグメントでみますと、電子管事業2,740百万円、光半導体事業2,946百万円、画像計測機器事業757百万円、その他事業357百万円及び各事業区分に配賦できない基礎的研究6,027百万円であります。当連結会計年度における主要な研究開発の概要は次のとおりであります。 <電子管事業>マトリックスフリーを実現したイオン化支援基板 質量分析とは、試料にレーザ光や電子線等を照射することで試料の原子、分子をイオン化し質量を測定することで、その種類や量、分子構造などを精密に分析する手法で、近年、環境、食品、生命科学等の幅広い分野で需要が高まっております。この質量分析におけるイオン化法の1つであるMALDI(注1) TOF-MS(注2)では、レーザ光によるイオン化効率を高める物質(マトリックス)を試料に混合するため、その前処理に時間がかかることや、低分子領域の測定ではマトリックスそのものがイオン化され、測定の妨げになるなどの問題がありました。この度開発したイオン化支援基板(注3)は、試料に乗せるだけで貫通孔の毛細管現象(注4)により試料の分子を基板表面に上昇させるため、マトリックスを使用せずに分子へのレーザ照射によるイオン化ができ、従来のMALDI TOF-MSに比べて前処理時間の大幅な短縮及び低分子領域での高精度な測定が可能となります。今後は、構造設計の改良によりイオン化効率を高め、幅広い用途に対応可能な製品を開発してまいります <光半導体事業>ハイパースペクトラルイメージングに用いられる近赤外イメージセンサ ハイパースペクトラルイメージング(HSI)とは、通常のカメラでは得ることのできない波長情報をもった画像を取得する技術です。対象物の反射光を波長毎に細分化し、その波長毎の光の強度を測定することで、含有成分等を特定することができます。HSIが可能な波長域は使用するイメージセンサ毎に異なりますが、近赤外領域ではInGaAs(インジウムガリウムヒ素)イメージセンサが有効です。当社製InGaAsイメージセンサは既にHSIで用いられておりますが、この度、当社で培ってまいりました化合物プロセス技術により、さらなる長波長化、高感度化、低ノイズ化、高速読み出しを実現した新製品を開発いたしました。これにより、HSIにおける識別率の向上や高解像度化が可能となります。本製品はプラスチックの組成の特徴が表れやすい近赤外領域に高い感度をもつことから、ペットボトルのリサイクル等に用いられることで環境への貢献が期待されるほか、食品成分検査への応用も見込まれております。 <画像計測機器事業>幅広い用途で使用可能なX線ラインセンサカメラ X線ラインセンサカメラは、ベルトコンベアなどで搬送される対象物の内部を撮影するカメラで、食品や電子部品等の非破壊検査で広く使用されております。特に、近年、対象物の多様化により幅広い用途で使用可能な製品が求められております。このような中、当社は、センサ構造の根本的な見直しにより低ノイズ化かつ高感度化を実現したことで、検出可能範囲を大幅に拡大したX線ラインセンサカメラを新たに開発いたしました。本製品により、微弱なX線を使用する薄く軽い対象物から多量のX線を使用する厚く密度が高い対象物まで、幅広い用途での検査が可能となります。さらに、従来製品に比べ、2倍のスキャン速度を実現したことで検査時間が短縮でき、小型化し、かつ防水・防塵機能を備えたことで様々な現場で使用可能です。今後も、市場ニーズに対応した製品開発を継続することで、高精度な非破壊検査に対応してまいります。 <各事業区分に配賦できない基礎的研究>医療の分野におきましては、ホウ素中性子捕捉療法への新たな観点からのアプローチを進めております。ホウ素中性子捕捉療法とは、体内に投与したホウ素化合物ががん細胞に集積した後に熱中性子を患部に照射することで、ホウ素と熱中性子との核反応で発生する粒子によりがん細胞を破壊する治療法です。この粒子はがん細胞以外の正常細胞には全く影響を及ぼさないことから、従来の放射線治療と比べて患者の身体的な負担が軽い治療法です。しかしながら、従来のホウ素化合物ではがん細胞への集積が必ずしも十分ではなく、より集積性の高いホウ素化合物の開発が求められておりました。このような中、ホウ素化合物に含まれるアミノ酸をL体からD体に変換した薬剤を新たに開発し、ラットによる実験でPETによりがん細胞への集積性を確認したところ、従来の5倍の集積性があることが確認できました。本研究成果は、新たに開発した薬剤がPETによるがん診断にも有用であることを示しており、ホウ素中性子捕捉療法による効果的ながん治療の確立に貢献することが期待できます。光情報処理の分野におきましては、波面制御を利用した生体イメージングの研究を進めております。近年、遺伝子改変技術や情報処理技術の進歩により、様々な分野で生体の三次元観察が重要視されております。その有効な手法として二光子励起蛍光顕微鏡(TPM)による観察(注5)が知られておりますが、生体深部では、試料そのものによって光学的なボケ(収差)が発生するため、鮮明な画像の取得が困難でした。このような中、当社で培ってまいりました波面制御技術をベースに、試料の表面形状などのパラメータから収差を補正する計算手法を新たに開発し、当社製空間光変調器を組み込んだTPMに適用して試料深部の鮮明な画像を取得することに成功いたしました(注6)。従来の計算手法では表面が平らな試料に限定されていた収差補正が、新しい方法では表面が湾曲した試料にも適用可能となりました。本成果は、生体深部観察への貢献のほか、脳科学や再生医療、次世代レーザ加工など、様々な分野での応用が期待されます。半導体レーザ分野におきましては、独自の結晶生成技術により、レーザの波長を近赤外から深紫外に高効率で変換可能なホウ酸セシウムリチウム(CLBO)素子の大型化に成功し、当社製大出力レーザと組み合わせることで、世界で初めて、深紫外固体レーザによる1ジュール(注7)超のパルス出力を達成いたしました。このレーザは高いエネルギーをもつため、特定の物質に照射することで、その照射部分の分子結合を分離する光分解加工の実現が期待できます。光分解加工は、自動車、航空機、建築、医療、産業用ロボット等あらゆる分野での応用が期待されている炭素繊維強化プラスチック等の新たな加工方法として注目されております。この度、さらなる大出力化・高効率化・高繰り返し化を目指し、ビームパターンの改善とビームの高密度化により波長変換効率を改善いたしました。今後も、CLBO素子の大型化・高品質化とともに波長変換効率の改善を推進することで、光分解加工の実現をはじめ、大出力レーザの産業応用等を目指してまいります。 (注)1 Matrix Assisted Laser Desorption / Ionization(マトリックス支援レーザ脱離イオン化法)の略称です。 2 Time of Flight Mass Spectrometryの略称です。イオンが検出器に到達するまでの空間に電位差を設けることでイオンを質量毎に分離し、検出器に到達する時間差を利用することで質量を測定することができます。 3 本開発成果は、光産業創成大学院大学と共同で開発したものです。 4 細い管の内側の液体が管の中を移動する現象です。 5 蛍光分子に光子を2個同時に吸収させて励起し、蛍光を観察する手法です。生体透過性の高い近赤外光が使えるため、従来の蛍光顕微鏡に比べてより深い部分の観察が可能です。 6 本研究成果は、浜松医科大学との共同研究によるものです。 7 ジュールとはエネルギーの単位で、1ジュールは0.24カロリーの熱量に相当します。新開発の深紫外固体レーザでは、この熱量を1億分の1秒に集中し、繰り返し出力することが可能です。
FY2017|3,304 文字
6【研究開発活動】当社グループの研究開発活動は、「光の本質に関する研究及びその応用」をメインテーマとし、主に当社の中央研究所、筑波研究所及び各事業部において行っております。光の世界は未だその本質すら解明されていないという、多くの可能性を秘めた分野であり、光の利用という観点からみても、光の広い波長領域のうち、ごく限られた一部しか利用することができていないのが現状であります。こうした中、当社の中央研究所及び筑波研究所においては、光についての基礎研究と光の利用に関する応用研究を進めており、また、各事業部においては、製品とその応用製品及びそれらを支える要素技術、製造技術、加工技術に関する開発を行っております。当連結会計年度の研究開発費の総額は、11,776百万円であり、これを事業のセグメントでみますと、電子管事業2,280百万円、光半導体事業3,201百万円、画像計測機器事業664百万円、その他事業201百万円及び各事業区分に配賦できない基礎的研究5,427百万円であります。当連結会計年度における主要な研究開発の概要は次のとおりであります。 <電子管事業>世界最小サイズの安定型高圧電源モジュール 光電子増倍管の動作には高電圧が必要なため、当社では、各種高圧電源も開発、製造しております。このうち高圧電源モジュールは、数ボルトの電圧を1,000ボルト程度まで昇圧させることができる小型のデバイスで、光電子増倍管とともに、医療用簡易検査機器や空港の手荷物検査機器等の様々な小型計測機器に採用されておりますが、近年、計測機器の小型化が進み、衛生管理、医療、環境計測などの分野で応用が広がり、さらなる小型化が求められております。このような中、当社は、構造設計及び回路設計の改良に加え独自の製造手法の確立により、従来品の半分以下のサイズでありながら同等の高性能を実現した、世界最小サイズの安定型高圧電源モジュールを開発いたしました。本製品は光電子増倍管用の高性能高圧電源モジュールとしては世界で初めて自動実装工程に対応しており、顧客の製造工程での作業時間を大幅に短縮できます。さらに、大量生産を可能としたことで、将来的な市場の拡大にも対応可能です。今後も、より小型、高電圧の電源モジュールの開発を進め、光電子増倍管用のみならず幅広い用途への応用拡大に努めてまいります。 <光半導体事業>ガス分析用赤外線検出素子 当社は、InAsSb(インジウムヒ素アンチモン)を材料とした赤外線検出素子において、感度波長域をこれまでの8μmから11μmに拡張し、高速、高感度でありながら常温動作する赤外線検出素子を開発いたしました。これは、当社で培った独自の薄膜結晶成長技術及びプロセス技術により実現したものです。これにより、10μm付近の波長を吸収するアンモニア、オゾンなどの測定が可能となり、従来より注目されている窒素酸化物や硫黄酸化物などのより短い波長域に吸収のある大気汚染物質の計測とあわせて、本検出素子のみで対応可能となります。当社は、赤外線波長域の受光と発光の両素子を生産している世界でも数少ない企業です。本検出素子と赤外線波長域に発振波長をもつ当社製発光素子を組み合わせることにより、従来に比べ高速、高感度、高分解能なガス分析を可能とするものとして、さらなる需要の拡大が期待されます。 <画像計測機器事業>LSIテスタとのダイレクト接続が可能な半導体故障解析装置「iPHEMOS-DD」 近年、半導体の微細化・複雑化により、故障箇所の特定には、従来からの異物やプロセス不良によるショートや断線を検査する静止状態での解析に加え、半導体を動作状態に設定しながら回路の不良動作を解析するニーズが高まっております。動作状態での解析には、半導体に電気信号を入力し動作させるLSIテスタの故障解析装置との接続が必要です。従来、その接続には長いケーブルを用いて対応しておりましたが、この方式では実際の動作状態と受信する解析情報にタイムラグがあるため、製造工程の検査と同じ環境での不良再現が難しく、正確な故障解析が困難でした。このような中、設計の最適化を進め、LSIテスタとのダイレクト接続を可能とするとともに、動作状態での解析能力を大幅に向上したiPHEMOS-DDを開発いたしました。本装置は、動作状態での高精度な解析が必要なロジック系(注1)の半導体メーカーへの市場展開が期待できます。 <各事業区分に配賦できない基礎的研究>医療の分野におきましては、がんの放射線治療における早期効果判定手法の確立に取り組んでおります。現在の放射線治療の効果判定手法では、生体を傷つけずにしかも早期に判定することは困難であるため、新たな判定手法の確立が望まれております。本研究(注2)におきましては、放射線照射ががん細胞のミトコンドリアを活性化することで、がん細胞の増殖を抑制する点に着目いたしました(注3)。そして、ミトコンドリアの活性化に比例してがん細胞への取り込み量が増加する当社開発のPET薬剤を用いて、放射線照射後のマウスのがん細胞におけるミトコンドリアの活性度をPETにより測定いたしました。この結果、外観上はがん組織の大きさに変化がない段階でがん細胞にミトコンドリアの活性化が認められ、新開発のPET薬剤を用いたPET検査が、放射線治療の早期効果判定手法として有用であることが確認できました。認知症患者は、健常者に比べて脳の糖代謝が低下しており、認知症の種別毎に特徴的な低下パターンを示すことが分かっております。そこで当社は、多数の健常者のPET脳糖代謝画像をデータベース化し、独自の統計解析法により認知症患者の脳糖代謝画像と比較する認知症診断支援システムを開発いたしました。本システムは浜松PET診断センター(注4)の「脳オプションコース」にて運用されており、これまでに約2,400例の実績を積み重ねてまいりました。今後は、本システムを他施設へも展開するため、国立大学法人浜松医科大学と浜松PET診断センターとの間で広域ネットワークを介した実証試験を行い、薬事承認に向けた準備を進めてまいります。光の基礎研究分野におきましては、超高速量子シミュレーターの研究を進めております。物質内部において、原子や分子は互いに力を及ぼし合っており、半導体デバイスや超電導体、薬品等の性質を決定しています。量子シミュレーターとは、このメカニズムの解明のために、人工的な原子の集合体内で模擬実験を行う手法で、新機能材料や新たな医薬品等の開発にもつながることが期待されております。当社は、長年培ってまいりました空間光変調技術により、再現性の高い任意の光パターンを生成する技術を確立いたしました(注5)。これは、量子シミュレーターの実現に必要とされる光技術の一つであり、外部から与えた刺激が原子の集合体に及ぼす影響を調べるために用いられます。また、本技術は単なる基礎研究にとどまらず、新たな超解像度顕微鏡や三次元計測技術にも応用可能なため、さらなる研究展開が期待できます。 (注)1 半導体は情報を蓄積するメモリー系と演算等の処理を行うロジック系に大別され、従来、当社は主にメモリー系の半導体メーカーに装置を提供してまいりました。 2 本研究は、東海大学と共同で実施しております。 3 細胞は、軽度の傷害であれば自然に修復しますが、修復不可能な大きな傷害の場合、アポトーシスと呼ばれる自発的な自然死に至り、がん化を防ぐことが知られています。放射線照射は、ミトコンドリアを活性化させることでこのアポトーシスを誘導し、がん細胞の増殖を抑制します。 4 浜松PET診断センターは、当社が設立した一般財団法人浜松光医学財団が運営しております。 5 本成果は、日本学術振興会の科学研究費助成事業(特別推進研究)「アト秒精度の超高速コヒーレント制御を用いた量子多体ダイナミクスの探求」のもと、自然科学研究機構分子科学研究所との共同研究より得られたものです。
FY2016|2,725 文字
6【研究開発活動】当社グループの研究開発活動は、「光の本質に関する研究及びその応用」をメインテーマとし、主に当社の中央研究所、筑波研究所及び各事業部において行っております。光の世界は未だその本質すら解明されていないという、多くの可能性を秘めた分野であり、光の利用という観点からみても、光の広い波長領域のうち、ごく限られた一部しか利用することができていないのが現状であります。こうした中、当社の中央研究所及び筑波研究所においては、光についての基礎研究と光の利用に関する応用研究を進めており、また、各事業部においては、製品とその応用製品及びそれらを支える要素技術、製造技術、加工技術に関する開発を行っております。当連結会計年度の研究開発費の総額は、11,873百万円であり、これを事業のセグメントでみますと、各事業区分に配賦できない基礎的研究5,430百万円、電子管事業2,188百万円、光半導体事業3,446百万円、画像計測機器事業599百万円及びその他事業207百万円であります。当連結会計年度における主要な研究開発の概要は次のとおりであります。 <電子管事業>小型・高感度な紫外域用光電子増倍管アッセンブリ 近年、急速な工業化が進む新興国におきましては、主要汚染物質である重金属類の大気や河川等への排出による環境汚染が深刻な社会問題となっております。この重金属等の濃度測定の手法の一つとして原子蛍光分析がありますが、現地での測定の要求も増えているため装置の小型化・可搬化が望まれております。この度、従来型装置に検出器として組み込まれている光電子増倍管を大幅に小型化し、動作回路を一体化したアッセンブリを開発いたしました。本製品は、小型なうえに振動に強い構造を有しているため、携帯可能な小型装置への組み込みが可能です。さらに、原子蛍光分析に求められる紫外域に特化した感度特性を実現したことで、より微量な環境汚染物質の検出も可能となりました。 <光半導体事業>薄型タイプミニ分光器 分光分析とは、物質が放射するあるいは吸収する光の種類や性質を調べて、その物質の成分を検出する化学分析手法で、産業、医療、環境分析、食品などの様々な分野で用いられています。当社では、屋外などの計測現場において使用する小型で持ち運び可能な分光分析器向けのミニ分光器を開発販売しておりますが、この度、CCDイメージセンサと同程度の高感度を有する当社製CMOSイメージセンサを搭載したミニ分光器を開発いたしました。本製品は、高性能を維持しつつ大幅な薄型化及び低消費電力を実現しております。本製品を分光分析器に組み込むことで、セキュリティ、食品等の成分分析、LED照明等の色測定など多様な用途への利用が可能となり、産業の発展に寄与するものと期待されております。 <画像計測機器事業>高速・高精度なX線TDIカメラ 高速かつ高精度な非破壊検査を実現するX線TDIカメラを新たに開発いたしました。近年、各種製品の安全性や信頼性の確保のため全数検査が行われるようになっており、非破壊検査用カメラの処理速度の向上が求められております。この度、当社が開発したX線TDIカメラは、当社製カスタムセンサを搭載することで高感度かつ高解像度を維持しつつ従来製品に比べ2.5倍の高速化を実現しております。また、双方向読み出しに対応することで被検査物の効率的な撮像を可能とするとともに、構成部品の最適化によりX線耐性を向上させました。今後もさらなる高機能化を実現し、新しいアプリケーションや高付加価値製品への投入を目指してまいります。 <各事業区分に配賦できない基礎的研究>医療の分野におきまして、当社で開発した定量位相差顕微鏡技術を応用し、血液中のがん細胞撮像技術の開発を進めております(注1)。がんの病状が進行すると、がん細胞の一部が血液等の流れにのって体内を循環し、離れた臓器に到達することによってがんの転移が起こります。当社は、血液中に循環しているがん細胞に着目し、定量位相差顕微鏡技術を応用して、このがん細胞を非染色・非破壊で計測する三次元像撮影の基本技術を確立いたしました。この技術は細胞へのダメージが少なく、生きたままがん細胞を選別・回収できると考えられております。また、組織に針を刺して細胞を採取するのではなく、採血のみでがん病巣の存在やがんの状態の検査を可能にします。これらにより、がんの早期診断や術後再発の危険性の予測、治療中の病勢の評価、抗がん剤の感受性の予測等を患者ごとに行うテーラーメード医療への貢献が期待されます。また、これまで進めてまいりました脳梗塞などの原因となる血栓をレーザで溶解する「レーザ血栓溶解治療システム(注2)」の開発段階が終了し、次の検証段階に入りました。本システムは、光ファイバが内蔵されたマイクロカテーテルを患者の大腿部の血管から挿入し、目的とする脳血栓まで到達させ、レーザを照射することにより血栓を溶解し、血流を再開通させるものです。本システムに用いているレーザは、血栓だけを選択的に溶解できる波長に調整されているため、血管を傷つける危険性がないことがこれまでの動物実験で確認され、従来の薬剤や機械的除去による方法に比べ、出血などの副作用のリスクを最小限に抑えることができます。今後、急性期脳梗塞患者における安全性と有効性を確認するため、浜松医療センターが実施する医師主導治験に機器を提供し、さらなる結果の検証を進め、早期の実用化を目指してまいります。光情報処理の分野におきましては、空間に立体像を浮かびあがらせることを可能とする当社独自の小型光源デバイス「iPMSEL」の研究を進めております。従来、空間に画像を描画するためには、発光素子に加えてレンズや可動ミラー等の光学部品が必要でした。新たに開発した「iPMSEL」は、当社の微細加工技術を用いて実現した光学部品の機能を融合した発光素子であり、この度、素子単体から文字・写真などの二次元パターンを直接出力することに成功いたしました。本成果により、空間への自然な三次元立体像の描画に必要とされる素子の集積化が可能となります。今後も研究を推進し、二次元動画及び三次元立体像の出力を目指してまいります。 (注)1 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の平成28年度医療分野研究成果展開事業「先端計測分析技術・機器開発プログラム」にて、実施しています。 2 本研究の一部は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「橋渡し研究加速ネットワークプログラム」の支援によって行われました。