研究開発活動(本文)
FY2023
FY2022
FY2021
FY2020
FY2019
FY2018
FY2017
FY2016
FY2023|6,350 文字
6【研究開発活動】当社グループは、エネルギーシステムソリューション、インフラシステムソリューション、ビルソリューション、リテール&プリンティングソリューション、デバイス&ストレージソリューション、デジタルソリューション領域を中心に、人々の暮らしと社会を支える事業領域に注力し、確かな技術で、豊かな価値を創造し、持続可能な社会に貢献してまいります。エネルギーシステムソリューションでは、基幹電源の安定供給に加え再生可能エネルギーの主力電源化に資する技術を提供することで、カーボンニュートラル社会の実現に貢献するトータルエネルギーソリューションに注力していきます。インフラシステムソリューションでは、公共インフラ、鉄道・産業システムなど、社会と産業を支える幅広いお客様に信頼性の高い技術とサービスを提供し、快適で安全・安心な生活の実現を目指します。ビルソリューションでは、スマートで品質の高い昇降機、照明機器やサービスを提供することにより、快適なビル環境を提供します。リテール&プリンティングソリューションでは、お客様にとっての価値創造を原点に発想し、世界のベストパートナーとともに優れた独自技術により、確かな品質・性能と高い利便性を持つ商品・サービスをタイムリーに提供します。デバイス&ストレージソリューションでは、機器の省エネ化やビッグデータ社会のインフラ作りを目指し、産業、車載、データセンター領域などに向け、高付加価値な半導体製品やストレージ製品の先端開発を進めてまいります。デジタルソリューションでは、産業ノウハウを持つ強みを生かし、IoT/AI(人工知能) や量子関連技術を活用したソリューションやサービス、お客様やパートナー様との共創によるデータサービスなどを開発・提供してまいります。当期における当社グループ全体の研究開発費は1,564億円であり、各事業セグメント別の主な研究成果及び研究開発費は次のとおりです。 (1) エネルギーシステムソリューション東芝エネルギーシステムズ㈱が中心となって、従来エネルギー及び水素を含むクリーンエネルギーをつくる、おくる、ためる、かしこくつかうための機器・システム・サービスを提供することを通じて培った技術により、エネルギーの安定供給やカーボンニュートラルな社会インフラを実現する研究開発を行いました。当セグメントに係る当期の研究開発費は173億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。航空など大型モビリティ業界でのカーボンニュートラルの達成には、燃料の他にもシステム全体の進化が必要とされ、推進系においては、軽さと高い出力を両立したモーターの登場が期待されています。東芝エネルギーシステムズ㈱は、長年培ってきた超電導技術および高速回転機器の製造技術を応用し、世界で初めて(※1)最高出力2MWの軽量・小型・高出力超電導モーターの試作機を開発しました。従来のモーターと比べて重量とサイズを10分の1以下にしたことで、化石燃料駆動エンジンをモーターに置換えることが可能となり、様々な大型モビリティのゼロエミッション化に貢献します。今後さらなる改良を図り、社会実装の取組みを加速していきます。 (2) インフラシステムソリューション東芝インフラシステムズ㈱が中心となって、公共インフラ、鉄道・産業システム領域におけるお客様の本業の価値を高める製品及びシステムを継続的に提供するための研究開発を行いました。当セグメントに係る当期の研究開発費は206億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。東芝インフラシステムズ㈱及びノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社は、災害時の確実な情報収集及び平常時の業務の迅速化に資するローカル5G無線通信エリア構築について、首都高速道路㈱と共同研究を行いました。道路や河川、電力プラントなどの重要なインフラ施設では、設備の効率的且つ安全な維持管理が求められており、ローカル5Gは次世代通信として、高速大容量・低遅延・多接続という特徴を活用した維持管理の自動化・省力化の実現が期待されています。ローカル5Gを交通機関や道路、河川等で整備する場合、制度上、線状の敷地に沿った無線通信エリアの構築が必要となります。都市内高速道路における実証実験等を通じて、線状の無線通信エリア構築方法の確立、シミュレーションと実測の差異分析による効果的なエリア設計手法の確立、といった目標へ向けて、東芝のsub6帯での独自の分散型アンテナシステム「DAS(Distributed Antenna System)」(※2)をカーブに活用する事で、歪曲したエリアにおいても効率的且つ柔軟なエリアカバーを実現できることの検証などを行いました。 (3) ビルソリューション東芝エレベータ㈱、東芝ライテック㈱が中心となって、ビルの価値を高める製品及びサービスを継続的に提供するための研究開発を行いました。当セグメントに係る当期の研究開発費は147億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。東芝エレベータ㈱と東芝デジタルソリューションズ㈱は、エレベーターの利用者に新しい価値を提供する「Elevator as a Service」(※3)を実現するため、昇降機プラットフォームを共同で開発しており、順次国内の東芝製エレベーターに適用していきます。昇降機プラットフォームは、エレベーター本体に実装される制御盤とクラウド基盤で構成されます。制御盤はソフトウェアデファインドの考え方に基づき開発を進めています。制御盤は常時クラウドに繋がり、ソフトウェアをクラウド基盤から配信することにより各種機能の実装が可能となります。今後、多様なニーズやIoT化に対応するため、昇降機プラットフォームを適用し、エレベーターとロボットの連携やスマートフォンでエレベーターを呼ぶ機能、管理者支援など、クラウドを活用したサービスの拡充を目指しています。 (4) リテール&プリンティングソリューション東芝テック㈱が中心となって、リテール&プリンティングソリューション分野における新しい製品やサービスを提供するための研究開発を行いました。当セグメントに係る当期の研究開発費は245億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。東芝テック㈱は、株式会社Retail AI(以下「Retail AI」)と、「新時代のお買い物体験を生み出し、流通の仕組みを革新する」という将来展望のもと、共同プロジェクトを開始しました。昨今、小売業における労働力不足は大きな社会課題として深刻化しており、小売店では少人数で店舗運営を行う体制づくりが急務となっています。また多様化する消費者ニーズに対応するため、新たな顧客体験を提案し、店舗の魅力を高める取組みも求められています。これらの流通・小売業が直面する課題解決のため、個々の店舗の状況に合わせたソリューションが提供できるよう、開発を強力に推進しているグローバルリテールプラットフォーム「ELERA(エレラ)」のAPIを通じたエコシステムの構築と、「ELERA」上でのさまざまなパートナーとの共創によるサービスの拡充を推進しています。東芝テック㈱は本共同プロジェクトを通じ、「ELERA」とRetail AIが業界に先駆けて実用化した決済機能付きカートであるスマートショッピングカート(以下「SSC」)を連携させた、小売業界への新たなソリューション提供を計画しています。「ELERA」上でRetail AIのSSCが稼働するにあたり、小売業のお客様数社との実証実験を行い、サービスの提供を開始しています。 (5) デバイス&ストレージソリューション東芝デバイス&ストレージ㈱が中心となって、車載、産業向けなどの新しい半導体製品や、データセンター向けなどのストレージ製品を提供するための研究開発を行いました。当セグメントに係る当期の研究開発費は488億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。東芝デバイス&ストレージ㈱は、低オン抵抗でスイッチング損失を大幅に低減したパワー半導体である第3世代 SiC MOSFET(※4、5)を製品化しました。新製品は、単位面積あたりのドレイン・ソース間オン抵抗(RDS(ON)A)を約43%削減(※6)しました。これにより、導通損失とスイッチング損失の関係を表す重要指標「ドレイン・ソース間オン抵抗×ゲート・ドレイン間電荷量RDS(ON)×Qgd」を約80%削減(※7)し、スイッチング損失を約20%削減(※8)しました。オン抵抗削減とスイッチング損失削減の両立を実現した当社第3世代 SiC MOSFETは、産業用機器のさらなる高効率化に貢献します。今後もパワー半導体製品の製品ラインアップの拡充と生産設備の増強を進め、ユーザーがより使いやすく、高性能なパワーデバイスを提供することで、脱炭素社会の実現を目指します。 (6) デジタルソリューション東芝デジタルソリューションズ㈱が中心となって、IoTやAIなど企業のデジタル化を支えるための研究開発を行いました。当セグメントに係る当期の研究開発費は68億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。東芝デジタルソリューションズ㈱は、戦略調達ソリューション「Meister SRM™」(※9)の新サービスとなる、サプライチェーン・プラットフォーム「Meister SRM™ ポータル」の提供を2022年10月に開始しました。近年の予測困難なビジネス環境の変化に対応するため、製造業では、直接の取引先である1次サプライヤだけでなく、2次以降のサプライヤを含めたサプライチェーンの強靭化に向けた取組みが必要とされています。「Meister SRM™ ポータル」は、ものづくりに関わる企業同士を繋ぎ、サプライチェーンを構成する企業の事業活動をサポートするクラウドサービスです。サービスに加入する企業同士が、自社の情報を発信・共有し自律的に繋がることで、サプライチェーンのネットワークが可視化され、サプライチェーンリスクの把握や取引企業のネットワーク拡大を促進します。また、パートナーと連携し、GHG(温室効果ガス)排出量算定・可視化サービスや、ものづくりのためのビジネスマッチングサービスなどをワンストップで提供し、サプライチェーンの強靭化・高度化に貢献してまいります。今後、気象庁や災害リソースサイトと連携した災害通知や自動影響調査サービスなどの拡張を予定しています。 (7) その他研究開発センターを中心に、将来に向けた先行・基盤技術の研究開発を行いました。当セグメントに係る当期の研究開発費は237億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。当社は、東北大学東北メディカル・メガバンク機構、東北大学病院、国立研究開発法人情報通信研究機構は、量子暗号通信技術および秘密分散技術を活用した量子セキュリティ技術と個人認証技術を連携させて、多数の個人のゲノムデータを複数拠点に分散保管し、医療や健康管理に活用する個別化ヘルスケア(※10)システムを世界で初めて構築・実証しました(※11)。本技術により、情報理論的に安全で将来にわたり盗聴の脅威のない形でゲノムデータの漏洩・改ざん・喪失を防ぐことに加え、いつでも個人認証と連携して復号・復元(※12)して活用することが可能となり、個別化ヘルスケアの実現や普及への貢献が期待できます。本研究の一部は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「光・量子を活用した Society 5.0 実現化技術」(管理法人:量子科学技術研究開発機構)により実施されました。また、当社は、公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団(以下、iPS財団)(※13)とともに、生分解性リポソームを用いたiPS細胞の樹立法を開発するため、共同研究契約を締結しました。生分解性リポソームはナノサイズの脂質カプセルです。カプセル内に治療用遺伝子や薬剤を内包し、体内の細胞へ安全に届けることができる医療材料として、利用が拡大しています。より効果的に目的の遺伝子を対象とする細胞に届けるため、東芝は、蓄積してきた分子設計技術とAI技術を用いて、生分解性リポソームをカスタマイズ設計し、作製する技術を開発しました。本共同研究では主に、初期化に必要な遺伝子を封入したリポソームを用いてiPS細胞を樹立できるか、iPS細胞の樹立効率(※14)の向上、遺伝子改変iPS細胞あるいはその分化細胞を作製できるかを検討します。東芝は、この独自の生分解性リポソームを用いて、臨床応用可能なiPS細胞の樹立法を開発し、再生医療の発展に貢献することを目指します。 (注)※1:東芝エネルギーシステムズ㈱調べ(2022年10月17日時点)※2:DAS:基地局から届く電波を光ケーブルによって分配する事で通信できるエリア拡張のシステム。DASアンテナ子機間で同期をとっていることから、子機間の無線干渉が生じないため、無線エリア設計を容易にします。※3:Elevator as a Serviceは東芝エレベータ㈱の登録商標です。※4:東芝デバイス&ストレージ㈱の第2世代SiC MOSFETで開発したショットキーバリアダイオードを内蔵した構造を用いて、単位面積あたりのオン抵抗(RDS(ON)A)を削減、さらにJFETの帰還容量を小さくするデバイス構造を開発。※5:MOSFET:Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor(金属酸化膜半導体電界効果トランジスター)の略で、トランジスターの構造の一種。※6:東芝デバイス&ストレージ㈱の第2世代SiC MOSFETのRDS(ON)Aを1とした場合の、今回開発した1200VのSiC MOSFETの比較。東芝デバイス&ストレージ㈱調べ。※7:東芝デバイス&ストレージ㈱の第2世代SiC MOSFETのRDS(ON)×Qgdを1とした場合の、今回開発した1200VのSiC MOSFETの比較。東芝デバイス&ストレージ㈱調べ。※8:東芝デバイス&ストレージ㈱の第2世代SiC MOSFETと今回開発した1200VのSiC MOSFETの比較。東芝デバイス&ストレージ㈱調べ。※9:Meister SRM は、東芝デジタルソリューションズ㈱の日本またはその他の国における登録商標または商標です。※10:個別化ヘルスケア:個人のゲノムデータなどを生活習慣などの環境因子と共に解析し、病気の罹患へのリスク等を個人ごとに計算した上で個人に合わせて最適化した健康リスク管理。※11:2022年12月8日、東芝調べ。個人のゲノムデータを、情報論理的に安全な量子暗号通信技術と秘密分散技術を組み合わせたデータ分散保管技術で保管し、また個人認証と連携して復元し、医療や健康管理に活用できる個別化ヘルスケアシステムの構築・実証の成功が世界初。※12:復号:量子暗号で暗号化されたデータの暗号化を解くこと。復元:秘密分散されたシェアを2つ組み合わせて元の原本データに戻すこと。※13:最適なiPS細胞技術を良心的な価格で届けることを理念として掲げ、国立大学法人京都大学CiRAから一部の機能を分離して2020年4月に活動を開始した公益財団法人。※14:細胞培養(セルカルチャー)の結果、目的の細胞へ樹立できた割合。
FY2022|6,732 文字
5【研究開発活動】当社グループは、エネルギーシステムソリューション、インフラシステムソリューション、ビルソリューション、リテール&プリンティングソリューション、デバイス&ストレージソリューション、デジタルソリューション領域を中心に、人々の暮らしと社会を支える事業領域に注力し、確かな技術で、豊かな価値を創造し、持続可能な社会に貢献してまいります。エネルギーシステムソリューションでは、火力や原子力などの基幹電源のさらなる安全・安定供給と効率の良い活用を進めます。また、水素を含むクリーンエネルギーをつくる、おくる、ためる、かしこくつかう機器・システム・サービスを提供することで、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していきます。インフラシステムソリューションでは、公共インフラ、鉄道・産業システムなど、社会と産業を支える幅広いお客様に信頼性の高い技術とサービスを提供し、安全・安心で信頼できる社会の実現を目指します。ビルソリューションでは、スマートで品質の高い昇降機、空調機器、照明機器やサービスを提供することにより、快適なビル環境を提供します。リテール&プリンティングソリューションでは、お客様にとっての価値創造を原点に発想し、世界のベストパートナーとともに優れた独自技術により、確かな品質・性能と高い利便性を持つ商品・サービスをタイムリーに提供します。デバイス&ストレージソリューションでは、機器の省エネ化やビッグデータ社会のインフラ作りを目指し、産業、車載、データセンター領域などに向け、高付加価値な半導体製品やストレージ製品の先端開発を進めてまいります。デジタルソリューションでは、産業ノウハウを持つ強みを生かし、IoT/AI(人工知能)を活用したデジタルサービスや量子暗号通信、データサービスをお客様と共創してまいります。当期における当社グループ全体の研究開発費は1,519億円であり、各事業セグメント別の主な研究成果及び研究開発費は次のとおりです。 (1) エネルギーシステムソリューション東芝エネルギーシステムズ㈱が中心となって、従来エネルギー及び水素を含むクリーンエネルギーをつくる、おくる、ためる、かしこくつかうための機器・システム・サービスを提供することを通じて培った技術により、エネルギーの安定供給やカーボンニュートラルな社会インフラを実現する研究開発を行いました。当セグメントに係る当期の研究開発費は128億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。・東芝ネクストクラフトベルケ㈱をコンソーシアムリーダーとして、経済産業省が公募する実証事業「令和3年度再生可能エネルギーアグリゲーション実証事業(※1)」に採択され、2021年12月から2022年1月を中心として実証実験を行いました。本実証事業は、変動性の高い太陽光発電や風力発電等の再エネ発電設備の発電量についての予測技術や、蓄電池などのリソースを制御する技術の実証を行うことで、再エネを活用した安定的かつ効率的な電力システムの構築と、再エネの普及拡大を図ることを目的として、再エネアグリゲーター17社および実証協力者11社でコンソーシアム(※2)を組み、推進してきたものです。今回の実証で、発電リソースを束ねることによる発電インバランスの低減など、様々な成果を得ることができました。今後も本実証事業を通じて明らかになった課題を解決するべく、発電量予測やリソース制御等の技術開発を継続し、再エネアグリゲーション事業を通じて、再エネを活用した安定的かつ効率的な電力システムの実現に貢献していきます。 (2) インフラシステムソリューション東芝インフラシステムズ㈱が中心となって、公共インフラ、鉄道・産業システム領域におけるお客様の本業の価値を高める製品及びシステムを継続的に提供するための研究開発を行いました。当セグメントに係る当期の研究開発費は206億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。・計装・制御システム向けクラウドエンジニアリング環境「nV-Toolsクラウド」(※3)のサービス提供を開始しました。当社産業用コントローラの開発ツール(nV-Tool(※4))とシミュレータ(nvシミュレータ(※5))をいつでもどこでも使えるクラウドサービスとして提供するものです。従来のエンジニアリングは、計装・制御システム機器が設置されている工場現場で作業することが前提となっていましたが、今回クラウドを通じたサービスによってリモートでのエンジニアリングを可能にしました。本サービスによって、エンジニアリングのテレワーク化を可能にし、開発・運用効率の向上に貢献するだけでなく、ライトアセットなエンジニアリング環境の提供および運用保守の効率化に貢献します。 (3) ビルソリューション東芝エレベータ㈱、東芝キヤリア㈱、東芝ライテック㈱が中心となって、ビルの価値を高める製品及びサービスを継続的に提供するための研究開発を行いました。当セグメントに係る当期の研究開発費は212億円です。・東芝ライテック㈱は、カメラ付きLED照明 ViewLED(ビューレッド)ソリューションとして「人流分析サービス」の提供を2021年11月30日から開始しました。「LED照明と一体化したカメラ」を天井に設置し、俯瞰した撮影画像を取得し、これをAI解析する「ViewLED Solution(ビューレッド ソリューション)」を活用して、人の行動に潜む課題を解決するため「人」の動きを数値化、軌跡描画で可視化でき、また、映像としてクラウド上で遠隔閲覧・録画・管理できます。任意の時間帯の人の軌跡の描画や、CSVデータを出力することで、数値化・可視化し、課題解決に活用できます。これにより様々な施設(倉庫・工場・体育館等)内の人の行動状況の把握や改善対策をサポートします。 (4) リテール&プリンティングソリューション東芝テック㈱が中心となって、リテール&プリンティングソリューション分野における新しい製品やサービスを提供するための研究開発を行いました。当セグメントに係る当期の研究開発費は219億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。・戦略パートナーとの共創によるサブスクリプションモデルのグローバルリテールプラットフォーム「ELERA」の開発を強力に推進してきました。「ELERA」上には、多種多様なマイクロサービスを構築するとともに、購買に伴う膨大なデータを集約します。店内だけではなく、店外、バックヤード、そしてサイバーとフィジカルをつなぐさまざまなサービス群をラインナップすることで、店舗ごとの課題に即したあらゆるソリューションを提供し、高付加価値のデータを利活用しながら小売業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を強力にサポートします。「ELERA」の開発を推進することにより大きく変化し続ける世の中への対応を加速し、お客様、パートナーとともに、小売業の未来をつくりだしてまいります。 (5) デバイス&ストレージソリューション東芝デバイス&ストレージ㈱が中心となって、車載、産業向けなどの新しい半導体製品や、データセンター向けなどのストレージ製品を提供するための研究開発を行いました。当セグメントに係る当期の研究開発費は415億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。・従来のシリコンよりも高耐圧、低損失化が可能な次世代のパワー半導体材料であるシリコンカーバイド(SiC)を用いた、MOSFET(※6)の高温環境下における信頼性向上と電力損失低減を実現するデバイス構造を開発しました。SiCのさらなる普及に向けては、信頼性向上が大きな課題ですが、今回開発したデバイス構造を採用した耐圧3.3kVの素子は、175℃の高温環境下において、信頼性低下のない状態で導通可能な電流量が当社従来構造に比較して2倍以上に増加しています(※7)。また、当社従来構造に比較して、室温における単位面積あたりのオン抵抗を耐圧3.3kVの素子で約2割、耐圧1.2kVの素子では約4割、それぞれ低減しました(※8)。今回開発したデバイス構造を採用した耐圧3.3kVの製品は、2021年5月からサンプル出荷しています。今後も、SiCなどの化合物半導体をはじめとした次世代のパワー半導体の開発を通して、省エネルギー社会やカーボンニュートラルの実現に貢献していきます。 (6) デジタルソリューション東芝デジタルソリューションズ㈱が中心となって、IoTやAIなど企業のデジタル化を支えるための研究開発を行いました。当セグメントに係る当期の研究開発費は64億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。・当社が開発した技術「シミュレーテッド分岐アルゴリズム(以下、SBアルゴリズム)」(※9)を用いた組合せ最適化ソルバー「シミュレーテッド分岐マシン(Simulated Bifurcation Machine 以下、SBM)」を核にソリューションとして体系化した、量子インスパイアード(※10)最適化ソリューション「SQBM+」(エスキュービーエムプラス)の提供を開始しました。用途に応じた最適化ソルバーをラインアップし、アルゴリズムには速度・精度・規模を大幅に向上させる新たなSBアルゴリズム(※11)を採用します。本ソリューションにより、コロナ禍で急がれる治療薬に最適な候補物質の選定や、医療従事者の最適な勤務シフトの作成への適用など、各分野の専門知識を持つパートナーと連携・共創し、金融・創薬・遺伝子工学・物流・AIなどさまざまな領域で複雑化する社会課題の解決に貢献していきます。 (7) その他研究開発センターを中心に、将来に向けた先行・基盤技術の研究開発を行いました。当セグメントに係る当期の研究開発費は275億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。・新たな成膜法を開発することにより、世界最高(※12)のエネルギー変換効率(※13)15.1%を実現したフィルム型ペロブスカイト太陽電池(※14)を開発しました。当社は、2018年6月にペロブスカイト太陽電池として世界最大サイズ(703cm2、※15)のモジュールを開発しています(※16)が、今般、このサイズを維持しながら、成膜プロセスの高速化と変換効率の向上に成功しました。 フィルム型ペロブスカイト太陽電池は軽量薄型で曲げることができるため、従来は設置ができなかった強度の弱い屋根やオフィスビルの窓など多様な場所に設置されることが期待されます。本技術におけるエネルギー効率の向上と生産プロセスの高速化は、フィルム型ペロブスカイト太陽電池の実用化の推進につながると評価され、「CEATEC AWARD 2021」において、経済産業大臣賞およびカーボンニュートラル部門のグランプリを受賞いたしました。なお、今回開発したペロブスカイト太陽電池の技術およびそれを用いたモジュールはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「太陽光発電主力電源化推進技術開発」事業の成果です。・量子暗号通信システムの主要構成機能である、量子暗号鍵の「送信」、「受信」とそのための「乱数発生」について、従来の光学部品による実装に替えて光集積回路化した「量子送信チップ」、「量子受信チップ」、「量子乱数発生チップ」を開発し、これらを実装した世界初(※17)の「チップベース量子暗号通信システム」の実証に成功しました。本システムは、光集積回路を用いることで、多くの光学部品を複雑に組み合わせて構成していた従来のシステムと比較し、小型化を実現しました。光集積回路は標準的な半導体製造技術を用いて量産できるため、大規模な量子暗号通信システムだけではなく、より多くのシステムの構築が可能となります。これにより、大規模なシステム構築が必要な金融分野や医療分野に限らず、社会インフラ関連のプラントのIoT機器によるモニタリングや、工場間での設計・製造データの共有における産業情報の秘匿化といった領域まで、量子暗号通信の適用範囲を拡大することが見込めます。本成果の2024年の実用化に向けて研究開発を進め、安心して情報をやり取りできる情報社会の構築に貢献してまいります。 (注)※1:正式名称は、「令和3年度蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した次世代技術構築実証事業費補助金(再生可能エネルギー発電等のアグリゲーション技術実証事業のうち再生可能エネルギーアグリゲーション実証事業)」※2:コンソーシアムリーダー 東芝ネクストクラフトベルケ㈱再エネアグリゲーター17社 アーバンエナジー㈱、㈱ウエストホールディングス、ENEOS㈱、関西電力㈱、九州電力㈱、コスモエコパワー㈱、ジャパン・リニューアブル・エナジー㈱、中国電力㈱、東京電力エナジーパートナー㈱、東北電力㈱、日本工営㈱、日本電気㈱、北陸電力㈱、北海道電力㈱、㈱ユーラスエナジーホールディングス、㈱ユーラスグリーンエナジー、東芝エネルギーシステムズ㈱※3:nV-Toolsクラウドは東芝インフラシステムズ㈱のサービス名です。※4:nV-Toolは東芝インフラシステムズ㈱製コントローラのアプリケーションの構築とプログラミングをするためのソフトウェア製品です。※5:nvシミュレータは東芝インフラシステムズ㈱製コントローラ実機が無くてもアプリケーションの構築とプログラムのデバッグを可能とするソフトウェア製品です。※6:MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor):金属酸化膜半導体電界効果トランジスター。トランジスターの構造の一種。※7:175℃のソース・ドレイン電流測定において, 当社従来型SBD(ショットキーバリアダイオード)内蔵MOSFETでは110A/cm2付近でPNダイオードが動作するのに対し, 今回開発した構造では250A/cm2までPNダイオードが動作しない。※8:室温における単位面積あたりの特性オン抵抗を当社従来型SBD内蔵MOSFETと比較。耐圧3.3kV素子では20%、耐圧1.2kV素子では39%低減することを確認した。当社グループ調べ。※9:当社プレスリリース(2019年4月):世界最速・最大規模の組合せ最適化を可能にする画期的なアルゴリズムの開発についてhttps://www.global.toshiba/jp/technology/corporate/rdc/rd/topics/19/1904-01.htmlH. Goto et al., Science Advances 5, eaav2372 (2019). https://doi.org/10.1126/sciadv.aav2372※10:量子力学の原理に基づく計算手法から導出もしくは直接的な着想を得て開発された新しい古典力学的手法のこと。疑似量子と呼ばれることもある。※11:当社プレスリリース(2021年2月):世界最速・最大規模の組合せ最適化計算機「シミュレーテッド分岐マシン」の速度・精度・規模を大幅に向上させる新アルゴリズムを開発:http://www.toshiba.co.jp/rdc/detail/2102_02.htmH. Goto et al., Science Advances 7, eabe7953 (2021). https://doi.org/10.1126/sciadv.abe7953※12:プラスチック基板で構成される受光部サイズ 100cm2以上のフィルム型ペロブスカイト太陽電池モジュールにおいて、当社調べ(2021年9月10日現在)※13:太陽光のエネルギーを電気エネルギーに変換する効率※14:光吸収層がペロブスカイト結晶で構成されている太陽電池※15:受光部サイズは、24.15cm×29.10cm(702.765cm2)※16:https://www.global.toshiba/jp/technology/corporate/rdc/rd/topics/18/1806-03.html※17:量子暗号通信に必要な量子送信チップ、量子受信チップ、量子乱数発生チップの3つの光集積回路を用いて量子暗号鍵配送システムを世界で初めて実装。(2020年12月論文投稿時点)
FY2021|5,991 文字
5【研究開発活動】当社グループは、エネルギーシステムソリューション、インフラシステムソリューション、ビルソリューション、リテール&プリンティングソリューション、デバイス&ストレージソリューション、デジタルソリューション領域を中心に、人々の暮らしと社会を支える事業領域に注力し、確かな技術で、豊かな価値を創造し、持続可能な社会に貢献してまいります。エネルギーシステムソリューションでは、火力や原子力などの基幹電源のさらなる安全・安定供給と効率の良い活用を進めます。また、水素を含むクリーンエネルギーをつくる、おくる、ためる、かしこくつかう機器・システム・サービスを提供することで、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していきます。インフラシステムソリューションでは、公共インフラ、鉄道・産業システムなど、社会と産業を支える幅広いお客様に信頼性の高い技術とサービスを提供し、安全・安心で信頼できる社会の実現を目指します。ビルソリューションでは、スマートで品質の高い昇降機、空調機器、照明機器やサービスを提供することにより、快適なビル環境を提供します。リテール&プリンティングソリューションでは、お客様にとっての価値創造を原点に発想し、世界のベストパートナーとともに優れた独自技術により、確かな品質・性能と高い利便性を持つ商品・サービスをタイムリーに提供します。デバイス&ストレージソリューションでは、機器の省エネ化やビッグデータ社会のインフラ作りを目指し、産業、車載、データセンター領域などに向け、高付加価値な半導体製品やストレージ製品の先端開発を進めてまいります。デジタルソリューションでは、産業ノウハウを持つ強みを生かしたIoT/AI(人工知能)を活用したデジタルサービスをお客様と共創してまいります。当期における当社グループ全体の研究開発費は1,505億円であり、各事業セグメント別の主な研究成果及び研究開発費は次のとおりです。 (1) エネルギーシステムソリューション東芝エネルギーシステムズ㈱が中心となって、従来エネルギー及び水素を含むクリーンエネルギーをつくる、おくる、ためる、かしこくつかうための機器・システム・サービスを提供することを通じて培った技術により、エネルギーの安定供給や低炭素な社会インフラを実現する研究開発を行いました。主な成果としては次のものが挙げられます。・バーチャルパワープラント(VPP)に関するサブスクリプション(※1)方式のサービスとして、発電事業者及び小売事業者向けに「PV(※2)発電量」及び「電力需要」の2種類の予測機能のサービス提供を開始しました。気象条件に影響される再生可能エネルギー電源の急増に伴い、その発電量を含めた電力の需給管理が求められています。本サービスでは、電力消費量・気象情報・PV発電量などの様々なデータを用いて高精度なPV発電量や電力需要予測を実施し、そのデータを顧客ニーズに応じて必要な形式でタイムリーに提供することが可能です。今回サービスを行う、「PV発電量予測」及び「電力需要予測」では、当社グループが長年研究を行い、培ってきたAI技術を搭載しています。今後も、エネルギー機器メーカーとして培ってきたノウハウにデジタル技術を組み合わせることで、付加価値の高いサービスを提供していきます。当セグメントに係る当期の研究開発費は154億円です。 (2) インフラシステムソリューション東芝インフラシステムズ㈱が中心となって、公共インフラ、鉄道・産業システム領域におけるお客様の本業の価値を高める製品及びシステムを継続的に提供するための研究開発を行いました。主な成果としては次のものが挙げられます。・物流センターの業務効率向上に貢献する直交型荷降ろしロボットを開発しました。独自の2面把持機構と荷物の引き出し方式による「丁寧な荷降ろし」、高精度な自動認識技術と計画・制御技術により1時間あたり600個の荷降ろしが可能な「高速処理」、サイズ幅2,200mm×奥行き3,400mm×高さ2,700mmとコンパクト設計による「設置面積が省スペース」が特徴です。作業者に代わり30kgまでの重い荷物(箱物)を、パレットからコンベヤへ荷降ろしする作業を行います。今後、物流センター内のピッキング作業現場で、棚搬送ロボット(AGV)、ワーキングステーション、可動棚で構成される棚搬送ロボットシステムなどと連携させ、業務の見える化、そこから得られたデータの分析をすることにより、倉庫内全体の効率的な運用を進め、最適制御(WES:Warehouse Execution System)を提案し、物流センター全体の業務改善に貢献していきます。当セグメントに係る当期の研究開発費は209億円です。 (3) ビルソリューション東芝エレベータ㈱、東芝キヤリア㈱、東芝ライテック㈱が中心となって、ビルの価値を高める製品及びサービスを継続的に提供するための研究開発を行いました。主な成果としては次のものが挙げられます。・ビル用マルチエアコン冷暖切替型スタンダードクラスの新モデルとして「スーパーマルチuシリーズ高効率仕様」(全22機種)を2020年10月に発売しました。新モデルでは、ビル用マルチエアコン冷暖切替型スタンダードクラスとしてトップクラスの省エネ性能(※3)と業界トップのコンパクト室外機(※4)を実現。更には、業界初の部分更新対応(※5)や、スマートフォンでの簡易点検ツール等のサービス機能を充実させる他、室外機の筐体構造を強化し、耐震性・耐風性をアップしました。また、この新モデル「スーパーマルチuシリーズ」は一般財団法人省エネルギーセンター主催の2020年度省エネ大賞の製品・ビジネスモデル部門において最高賞の経済産業大臣賞を受賞しました。今後も豊かな価値を創造すると同時に、環境影響低減のために「地球温暖化の防止」「資源の有効活用」「化学物質の管理」の3つの課題に取り組むことで、地球との共生を図っていきます。当セグメントに係る当期の研究開発費は205億円です。 (4) リテール&プリンティングソリューション東芝テック㈱が中心となって、リテール&プリンティングソリューション分野における新しい製品やサービスを提供するための研究開発を行いました。主な成果としては次のものが挙げられます。・新型RFIDハンドリーダー「UF-3000」シリーズを開発。ハンディ型と差し込み型という2通りのハンドグリップ取り付け方法に加え、ハンドグリップを外した据置型、三脚を取り付けた簡易ゲート型、棒を取り付けた高所読取型など、1台で複数パターンに形状を変えることができます。また、読取速度は、従来機種より約1.5倍向上し約800枚/秒、さらに読取距離は最大約9mと業界No.1の読取性能を実現しました(※6)。更に、防塵・防滴はIP54相当となっており、屋外でも使用できます。「UF-3000」シリーズは、多様なシーンで使用しやすいトランスフォーム形状を実現したことで、国内の小売、製造、物流などの現場での業務の効率化を実現できます。当セグメントに係る当期の研究開発費は218億円です。 (5) デバイス&ストレージソリューション東芝デバイス&ストレージ㈱が中心となって、データセンター向けなどのストレージ製品や、車載、産業向けなどの新しい半導体製品を提供するための研究開発を行いました。主な成果としては次のものが挙げられます。・サーバーやストレージシステム、データセンターなどで使用される大容量の3.5型ニアラインHDDとして、当社グループで初めてのFC-MAMR(Flux Control-Microwave Assisted Magnetic Recording: 磁束制御型マイクロ波アシスト磁気記録方式)を採用し、CMR(従来型磁気記録)方式で業界最大容量18TB(※7)(※8)を達成した、ヘリウム充填HDD「MG09シリーズ」を開発しました。「MG09シリーズ」は、MAMRの書き込み磁極からの磁束制御によるアシスト効果などを用いて、記録密度を高めています。これらの技術により、記憶容量は、当社グループ前世代品の16TBに比べ12.5%増となる18TBの大容量化を実現しました。今後も、大容量ニアラインHDDをはじめとした顧客のTCO(※9)削減に寄与する製品群を積極的に展開し、情報化社会の基盤強化に貢献していきます。当セグメントに係る当期の研究開発費は417億円です。 (6) デジタルソリューション東芝デジタルソリューションズ㈱が中心となって、IoTやAIなど企業のデジタル化を支えるための研究開発を行いました。主な成果としては次のものが挙げられます。・自動車メーカーや部品サプライヤーで普及が進んでいるモデルベース開発を進化させ、サイバー空間上で企業の枠を超えた車載システムの共同デジタル試作を可能にする「分散・連成シミュレーションプラットフォーム」(以下「VenetDCP」(※10)という。)を2020年7月に販売を開始しました。VenetDCPは、自動運転や先進安全システムなどの大規模で複雑な車載システムの開発において、自動車メーカーと部品サプライヤーが“分散”して保有するモデルとシミュレーションツール同士を、サイバー空間上で一つにつなぎ“連成”させることで、開発の初期段階からシミュレーションを繰り返し実施することを可能にし、設計の手戻り作業の削減、品質の改善、生産性の向上を実現します。サイバーとフィジカルを融合させるCPSテクノロジーにより、自動車メーカーと部品サプライヤーがサイバー空間上で車載システムの共同デジタル試作を行うための世界標準プラットフォームを提供し、アフターコロナの自動車産業の発展に貢献していきます。当セグメントに係る当期の研究開発費は53億円です。 (7) その他研究開発センターを中心に、将来に向けた先行・基盤技術の研究開発を行いました。当期の主な成果としては次のものが挙げられます。・二酸化炭素(CO2)を燃料や化学品の原料となる一酸化炭素に電気化学変換するCO2資源化技術「Power to Chemicals」において、変換する電解セルを当社独自の技術で積層(スタック)することで単位設置面積あたりの処理量を高め、郵便封筒(長3)サイズの設置面積で、年間最大1.0t-CO2の処理量を達成しました。これは、常温環境下で稼働するCO2電解スタックにおいて世界最高の処理速度(※11)となります。今後、今回開発したCO2電解スタックのスケールアップ(電解セル積層数の増加・大型化)及びシステムへの組み込み実証を進め、再生可能エネルギーを活用してCO2の資源化を行うPower to Chemicalsの実用化を目指します。なお、本成果の一部は、環境省委託事業「人工光合成技術を活用した二酸化炭素の資源化モデル事業」により行われました。・新薬の開発、配送ルート計画や投資ポートフォリオの作成など、様々な社会課題に現れる組合せ最適化問題を解く当社独自の「シミュレーテッド分岐マシン」の速度・精度・規模を大幅に向上させることができる2つの新アルゴリズムを開発しました。2つのうち一方の新アルゴリズムにより、発表当時世界最速を記録した従来アルゴリズム(※12)に比べて約10倍の高速化を達成するともに、より大規模な問題の最適解獲得に成功しました。また、もう一方の新アルゴリズムにより、16台のGPU(※13)から成る世界最大規模の100万変数のマシンを実現し、通常の計算機で約1年2か月かかる大規模な計算を約30分で行うことに成功しました。さらに、新アルゴリズムによる計算速度と規模(取扱い可能な最大問題サイズ)の両方を向上するスケールアウト(分散協調)技術を開発しました。加えて、オンプレミス版(※14)を開発し、研究用途向けに提供を開始しました。今回開発した新たなシミュレーテッド分岐アルゴリズムを活用して、オンプレミス版及びGPUを用いたクラウド版のシミュレーテッド分岐マシンを今後サービス提供し、効率的で持続可能な社会の実現に貢献していきます。当期の研究開発費は249億円です。 (注)※1:製品やサービスを一定期間ごとに一定の金額で提供するというビジネスモデル。※2:PV(Photovoltaics):太陽光発電※3:2019年12月現在。ビル用マルチエアコンにおいて。当社グループ調べ。※4:2019年12月現在。20馬力相当室外機(P560形)における幅寸法1,290mm。当社グループ調べ。※5:2019年12月現在。ビル用マルチエアコンにおいて。当社グループ調べ。※6:2021年3月現在。当社グループ調べ。※7:2021年2月18日現在。当社グループ調べ。※8:記憶容量:1TB(テラバイト)=1兆バイトですが、利用可能なストレージ容量は、動作環境やフォーマットによって異なる場合があります。利用可能な容量は、ファイルサイズ、フォーマット、セッティング、ソフトウェア、オペレーティングシステム、プリインストールされたソフトウェアアプリケーション、メディアコンテンツによって異なります。フォーマット容量とは異なる場合があります。※9:TCO(Total Cost of Ownership):システムの導入、維持、管理などにかかる総所有コストのこと。※10:VenetDCP(DCP:Distributed Co-simulation Platform)、ベネットDCP※11:2021年3月現在。当社調べ。※12:当社プレスリリース:https://www.toshiba.co.jp/rdc/detail/1904_01.htm; H. Goto, K. Tatsumura, A. R. Dixon, Science Advances 5, eaav2372 (2019). https://advances.sciencemag.org/content/5/4/eaav2372 (American Association for the Advancement of Science)※13:Graphics Processing Unitの略称。画像処理向け集積回路で,多数の演算処理部を含む。複数のGPUを相互接続したものをGPUクラスタと呼ぶ。※14:現場設置又は所有の可能な形態。遠隔設置・共有であるクラウドコンピューティングの形態としばし対比される。
FY2020|5,618 文字
5【研究開発活動】 当社グループは、エネルギーシステムソリューション、インフラシステムソリューション、ビルソリューション、リテール&プリンティングソリューション、デバイス&ストレージソリューション、デジタルソリューション領域を中心に、人々の暮らしと社会を支える事業領域に注力し、確かな技術で、豊かな価値を創造し、持続可能な社会に貢献してまいります。 エネルギーシステムソリューションでは、従来エネルギーのさらなる安全・安定供給と効率の良い活用を進めます。また、水素を含むクリーンエネルギーをつくる、おくる、ためる、かしこくつかう機器・システム・サービスを提供することで、低炭素社会の実現に貢献していきます。インフラシステムソリューションでは、公共インフラ、鉄道・産業システムなど、社会と産業を支える幅広いお客様に信頼性の高い技術とサービスを提供し、安全・安心で信頼できる社会の実現を目指します。ビルソリューションでは、スマートで品質の高い昇降機、空調機器、照明機器やサービスを提供することにより、快適なビル環境を提供します。リテール&プリンティングソリューションでは、お客様にとっての価値創造を原点に発想し、世界のベストパートナーとともに優れた独自技術により、確かな品質・性能と高い利便性を持つ商品・サービスをタイムリーに提供します。デバイス&ストレージソリューションでは、ビッグデータ社会のインフラ作りを目指し、データセンター向けなどのストレージ領域、産業・車載領域などに向け、新しい半導体製品やストレージ製品の先端開発を進めてまいります。デジタルソリューションでは、産業ノウハウを持つ強みを生かしたIoT/AI(人工知能)を活用したデジタルサービスをお客様と共創してまいります。 当期における当社グループ全体の研究開発費は1,589億円であり、各事業セグメント別の主な研究成果及び研究開発費は次のとおりです。 (1) エネルギーシステムソリューション東芝エネルギーシステムズ㈱が中心となって、従来エネルギー及び水素を含むクリーンエネルギーをつくる、おくる、ためる、かしこくつかうための機器・システム・サービスを提供することを通じて培った技術により、エネルギーの安定供給や低炭素な社会インフラを実現する研究開発を行いました。主な成果としては次のものが挙げられます。・再生可能エネルギーを活用した世界最大級となる10 MWの水素製造装置を備えた水素エネルギーシステム(福島水素エネルギー研究フィールド)の建設が完了し、2019年10月から試運転を開始しました。これにあたり、次の二つの特長を持つ制御システムを開発しました。現在その性能確認を進めており、水素エネルギーによる電力系統需給バランス調整とクリーンな水素の製造を両立させる基礎技術の確立を目指します。1) 水素需要と電力系統需給バランス調整の二つの要求を満たし、かつコスト最小化と太陽光発電の最大限利用を両立させるプラント運転計画を最適化手法により求める。2) 1)の運転計画に基づいて、水電解装置と太陽光発電用パワーコンディショナー等を協調制御し、リアルタイムな状況変化にも適応する最適運転を行う。当セグメントに係る当期の研究開発費は189億円です。 (2) インフラシステムソリューション 東芝インフラシステムズ㈱が中心となって、公共インフラ、鉄道・産業システム領域におけるお客様の本業の価値を高める製品及びシステムを継続的に提供するための研究開発を行いました。 主な成果としては次のものが挙げられます。・鉄道車両システムのさらなる省エネ化を進めるため、高性能リチウムイオン二次電池SCiB™搭載の「非常走行用電源装置」、All-SiC(※1)素子採用の「VVVF(※2)インバータ装置」、新型の主電動機の3つを組み合わせた駆動システムを、世界で初めて東京メトロ丸ノ内線に導入しました。これにより、従来と比較して27%(※3)もの省エネを実現しました。「非常走行用電源装置」では、バッテリでの回生(※4)吸収機能、力行(※5)アシスト機能も検証しており、電車がブレーキをかけた際に発電される電力を蓄え再利用することができることから、エネルギーの損失を低減しています。「VVVFインバータ装置」に新開発のAll-SiC素子を採用したことにより、エネルギー損失を大きく低減し、装置の小型化を実現、非常走行用電源装置の搭載スペースを確保しました。新型の主電動機は、前述の「VVVFインバータ装置」に特化した設計にしたことにより、高効率のモータであるPMSMの更なる高効率化と回生性能を向上することに成功しています。※これらの製品開発の一部は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から支援を受けた「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」の実証開発「All SiCデバイスを用いた高効率小型電力変換器システムの開発」の一環として実施しました。当セグメントに係る当期の研究開発費は218億円です。 (3) ビルソリューション 東芝エレベータ㈱、東芝キヤリア㈱、東芝ライテック㈱が中心となって、ビルの価値を高める製品及びサービスを継続的に提供するための研究開発を行いました。 主な成果としては次のものが挙げられます。・エレベーターの主要機器に加速度センサーを設置し、それぞれの機器に加わる揺れを直接計測する方式の地震時自動復旧運転機能を開発しました。これにより、地震で運行を休止したエレベーターの仮復旧運転を行う確率が、従来機能と比較して20%(※6)向上しました。従来の機能では、昇降路内や機械室に設置した地震感知器の計測値から、エレベーター機器に加わる揺れを間接的に検知して自動復旧運転の可否を判断しておりましたが、新たに開発した機能では、主要機器に無線方式の加速度センサーを設置しました。機器に加わる地震の揺れを直接計測し、検出精度をさらに向上させることで、自動復旧運転機能の動作する可能性を高めました。これにより、地震時におけるエレベーターの早期サービス提供開始可能性を高め、ご利用者への更なる利便性向上をご提供します。当セグメントに係る当期の研究開発費は189億円です。 (4) リテール&プリンティングソリューション 東芝テック㈱が中心となって、リテール&プリンティングソリューション分野における新しい製品やサービスを提供するための研究開発を行いました。 主な成果としては次のものが挙げられます。・店舗の運用に応じて自在に設置できる小型スキャナ「IS-200シリーズ」を開発し、カート型セルフレジ用のカート取付けタイプを2019年9月に、スタンド・手持ち・平置きが可能な汎用タイプを同年12月に発売しました。カート取付けタイプは、従来のハンドスキャナの運用と比べてハンズフリーでスピーディな運用が可能となり、スキャン効率を高めることができます。汎用タイプは、スタンドを取外すことで平置きが可能となり、商品スキャンに加えて、お客様のスマートフォンに表示されたバーコードやQRコードをスキャンする端末としても利用できます。当セグメントに係る当期の研究開発費は269億円です。 (5) デバイス&ストレージソリューション 東芝デバイス&ストレージ㈱が中心となって、データセンター向けなどのストレージ製品や、車載、産業向けなどの新しい半導体製品を提供するための研究開発を行いました。 主な成果としては次のものが挙げられます。・東芝デバイス&ストレージ㈱は最新世代プロセス(※7)を採用したトレンチ構造MOSFET「U-MOS X-Hシリーズ」初の製品である100V耐圧NチャネルパワーMOSFET「XK1R9F10QB」を開発しました。48V系車載機器のロードスイッチ、スイッチング電源、モーター駆動などに適し、低抵抗パッケージに搭載することにより業界トップクラス(※8)の低オン抵抗を実現しました。最大オン抵抗を1.92mΩ(※9)に抑え、従来製品「TK160F10N1L」と比べて約20%低減しました。これにより機器の低消費電力化に貢献します。さらに、MOS構造の最適化によりスイッチングノイズが少なく、機器のEMI(※10)低減に貢献できます。また、しきい値電圧幅を1Vに抑え、並列使用時の電流アンバランスを抑制します。当セグメントに係る当期の研究開発費は407億円です。 (6) デジタルソリューション 東芝デジタルソリューションズ㈱が中心となって、IoTやAIなど企業のデジタル化を支えるための研究開発を行いました。 主な成果としては次のものが挙げられます。・製造業のバリューチェーンのデジタル化の進展に対応するため、東芝デジタルソリューションズ㈱は、当社グループのものづくりのノウハウを凝縮したデジタルツインと、工場及び設備メーカー向けのアプリケーションやテンプレートを組み合わせ、サブスクリプション型のサービスとして、「製造業向けIoTサービス Meister Cloud™シリーズ」を提供開始しました。本サービスにより、サプライヤーや海外拠点・製造プロセスを含むサプライチェーンを横断したトレーサビリティ、工場と設備メーカーとの間でのデータ共有などの実現を可能にするとともに、クラウド上でのさまざまなアプリケーション連携を容易にします。なお、当社グループが推進しているオープンな標準プラットフォームであるToshiba IoT Reference Architectureに基づいて開発・整備されたIoTサービスの第一号であり、さまざまなステークホルダーの垣根を超えた共創も進めてまいります。当セグメントに係る当期の研究開発費は57億円です。 (7) その他 研究開発センターを中心に、将来に向けた先行・基盤技術の研究開発を行いました。当期の主な成果としては次のものが挙げられます。・血液中のマイクロRNA(※11)を使った簡便で高精度ながん検出技術を開発しました。当社独自の電気化学的なマイクロRNA検出技術を活用することで、すい臓がん、乳がんなど13種類のがんの患者と健常者を2時間以内に99%(※12)の精度で網羅的に識別できることを研究開発レベルで確認しました。本成果は、当社と学校法人東京医科大学及び国立研究開発法人国立がん研究センター研究所の共同研究によるものです。当社は今後、早期の社会実装に向けて実証試験を進めてまいります。・大規模で複雑な組合せ最適化問題の高精度な近似解(良解)を短時間で得る当社独自の「シミュレーテッド分岐アルゴリズム(Simulated Bifurcation アルゴリズム。以下「SBアルゴリズム」という。)」の高速性を最大限引き出す専用大規模並列処理回路(※13)を開発しました。今回の回路の開発によって、金融取引の最適化、産業用ロボットの動作の最適化、移動経路や送電経路の最適化など超高速で良解を選び応答することが必要な分野にSBアルゴリズムを適用できます。本回路を搭載することで大規模並列計算が可能となり、より高速に良解を算出できます。また、SBアルゴリズムを搭載した超高速な金融取引マシンのコンセプト実証機(Proof-of-Concept。以下「PoC機」という。)を開発しました。本PoC機により、刻々と変化する外国為替市場において膨大な通貨の組合せパターンの中から利益率が最大となる裁定取引の機会を90%(※14)以上の高確率で発見し、売買注文の発行までをマイクロ(100万分の1)秒級の時間で完了することが可能となります。最良の裁定取引を瞬時に発見・実行するPoC機の実証は世界初です。当期の研究開発費は260億円です。 (注)※1:SiC (Silicon Carbide): 炭化ケイ素※2:VVVF (Variable Voltage Variable Frequency): 可変電圧可変周波数制御 ※3:2019年5月22日現在、東芝インフラシステムズ㈱調べ。 ※4:車両のブレーキ力を電力に変換して返すこと。 ※5:電力の供給を受けて車両が加速すること。※6:2020年3月現在、東芝エレベータ㈱シミュレーション結果に基づく。 ※7:2020年2月25日時点。 ※8:同耐圧の製品、同一パッケージクラスにおいて。2020年2月25日時点、東芝デバイス&ストレージ㈱調べ。 ※9:周囲温度Ta=25℃条件において。東芝デバイス&ストレージ㈱調べ。 ※10:EMI (Electro Magnetic Interference): 電磁妨害 ※11:マイクロRNA 体の中で遺伝子やタンパク質を制御している20塩基程度の短い核酸分子で、血液中にも安定に存在していることが知られている。最近、血液中のマイクロRNAの種類と量を調べると、肺がんや乳がんなどの様々ながんを早期に見つけられる可能性のあることが分かり、新しい診断マーカーとして期待されている。 ※12:2019年11月、当社調べ。 ※13:K. Tatsumura, A. R. Dixon, H. Goto, "FPGA-based Simulated Bifurcation Machine," The International Conference on Field-Programmable Logic and Applications (FPL), pp.59-66 (2019)https://ieeexplore.ieee.org/document/8892209 ※14:2019年10月、当社調べ。
FY2019|5,404 文字
5【研究開発活動】 当社グループは、エネルギーシステムソリューション、インフラシステムソリューション、リテール&プリンティングソリューション、ストレージ&デバイスソリューション、インダストリアルICTソリューション領域を中心に、人々の暮らしと社会を支える事業領域に注力し、確かな技術で、豊かな価値を創造し、持続可能な社会に貢献してまいります。 エネルギーシステムソリューションでは、従来エネルギーのさらなる安全・安定供給と効率の良い活用を進めます。また、水素を含むクリーンエネルギーを創る、送る、貯める技術とサービスを提供することで、低炭素社会の実現に貢献していきます。インフラシステムソリューションでは、公共インフラ、ビル・設備、鉄道・産業システムなど、社会と産業を支える幅広いお客様に信頼性の高い技術とサービスを提供し、安全・安心で信頼できる社会の実現を目指します。リテール&プリンティングソリューションでは、お客様にとっての価値創造を原点に発想し、世界のベストパートナーとともに優れた独自技術により、確かな品質・性能と高い利便性を持つ商品・サービスをタイムリーに提供します。ストレージ&デバイスソリューションでは、ビッグデータ社会のインフラ作りを目指し、データセンター向けなどのストレージ領域、産業・車載領域などに向け、新しい半導体製品やストレージ製品の先端開発を進めてまいります。インダストリアルICTソリューションでは、産業ノウハウを持つ強みを生かしたIoT/AI(人工知能)を活用したデジタルサービスをお客様と共創してまいります。 当期における当社グループ全体の研究開発費は1,675億円であり、各事業セグメント別の主な研究成果及び研究開発費は次のとおりです。 (1) エネルギーシステムソリューション東芝エネルギーシステムズ㈱が中心となって、従来エネルギー及び水素を含むクリーンエネルギーを創る、送る、貯める技術により、エネルギーの安定供給や低炭素な社会インフラを実現する研究開発を行いました。当セグメントに係る当期の研究開発費は180億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。・超臨界CO2サイクル火力発電システムのパイロットプラント向け燃焼器の初着火に成功しました。本燃焼器は、300MW級商用プラントに適用可能な燃焼器と同サイズの50MWth(※1)燃焼器です。今回実施した試験は、共同開発者のうちの1社であるネットパワー社が建設した超臨界CO2サイクル火力発電システムのパイロットプラントに、当社が設置した燃焼試験設備を組み合わせた燃焼試験です。本試験の成功により、実用化に向けた大きなマイルストーンを達成しました。・福島第一原子力発電所2号機の原子炉格納容器内のペデスタル(※2)内部にある堆積物に接触し状態を確認するための調査装置を開発しました。これに先立ち、技術研究組合国際廃炉研究開発機構(IRID)と共に耐放射線性の高い内部調査装置も開発しており、2018年1月の調査では、原子炉格納容器内部のプラットホーム下部の堆積物を確認しました。今回、堆積物に接触して状態を調査するためのフィンガ機構を内部調査装置に追加し、2019年2月の調査では堆積物への接触に初めて成功しました。 (2) インフラシステムソリューション 東芝インフラシステムズ㈱、東芝エレベータ㈱、東芝ライテック㈱、東芝キヤリア㈱が中心となって、公共インフラ、ビル・設備、鉄道・産業システム領域におけるお客様の本業の価値を高める製品及びシステムを継続的に提供するための研究開発を行いました。 当セグメントに係る当期の研究開発費は423億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。・新構造のリチウムイオン二次電池を開発しました。エレクトロスピニング技術(※3)の応用により、絶縁性に優れる樹脂製の極薄ナノファイバー膜をコーティングした電極を用いることで、絶縁体として一般的に使用されるセパレータが不要となります。このコーティング膜は従来のセパレータでは実現困難な薄さにできるため電極間距離を極限まで近づけることができ、その結果、電池容量の増加及び入出力特性の改善が可能となります。一例として、当社のリチウムイオン二次電池「SCiB™」にこの新構造を適用した場合、既存の10Ahセルと同じサイズのままで、従来の1,800Wから2,200Wへの出力性能の向上を達成しました。本技術により、高価な薄膜セパレータを用いても実現が困難な電池性能を、低コストで実現できます。・内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム「レジリエントな防災・減災機能の強化」の施策として、国立研究開発法人情報通信研究機構をはじめとする研究グループと開発し、世界初(※4)の実用型「マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダ(MP-PAWR)」を用いた実証実験を開始しました。本レーダは、30秒から1分で雨雲の高速三次元観測が可能なフェーズドアレイ気象レーダと雨量を高精度で計測できるマルチパラメータレーダの機能をあわせもった気象レーダで、急激に発達する積乱雲による豪雨から国民の安全を守るとともに、特に夏季に開催される競技の運営にも役立つ技術です。 (3) リテール&プリンティングソリューション 東芝テック㈱が中心となって、リテール&プリンティングソリューション分野における新しい製品やサービスを提供するための研究開発を行いました。 当セグメントに係る当期の研究開発費は278億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。・沖縄県全域の小売り64店舗にて、「電子レシートによる沖縄主婦の生活利便性向上プロジェクト」を実施しました。本プロジェクトは、当社が運営している電子レシートシステムを使用した国内初の取り組みとして、沖縄県内の業種、業態の異なる小売店舗間において送客クーポン発行などの販売促進連携による買い回りを実現したものです。電子レシートシステムをプラットフォームとして活用することにより、消費者や企業にとって利便性の高いシステムを構築しました。・クラウドサービスとの拡張性と独自機能の強化により働き方改革をサポートする複合機e-STUDIOシリーズを開発しました。近年、働き方改革によりモバイルワークのような場所を選ばず仕事ができる仕組みや、業務を効率化し生産性をあげる対応が求められており、クラウドサービスはその実現に有効なツールとして、今後も更なる活用が見込まれています。当シリーズでは、クラウドサービスとの連携、スキャン機能の強化などによりお客様の働き方改革をサポートしています。また、当社の特長である特殊用紙印刷の操作を改善し、より使いやすくしています。 (4) ストレージ&デバイスソリューション 東芝デバイス&ストレージ㈱が中心となって、データセンター向けなどのストレージ製品や、車載、産業向けなどの新しい半導体製品を提供するための研究開発を行いました。 当セグメントに係る当期の研究開発費は459億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。・自動運転の実現に貢献するため、離れた物体までの距離情報をレーザ照射により3D画像として得る技術「LiDAR」(※5)の長距離測定精度を向上する技術を開発しました。長距離を測定するには、太陽光などのノイズの影響を小さくするための平均化処理を行いますが、被写体が存在しない領域または測定限界距離において、前述の平均化処理により連続した誤検出が発生していました。そこで、距離データの確からしさに基づいてノイズを除去して誤検出を防ぐアルゴリズムを確立しました。本技術と当社独自の計測回路技術(※6)を併用することで、従来の約1.8倍の測定距離を実現しました(※7)。これにより、高速走行中の車両や障害物の早期検知、市街地走行中の歩行者の見落とし低減を実現します。・自動車や鉄道等の電化製品等に搭載されているモータを駆動させるパワー半導体を、従来より高効率にスイッチングできる駆動回路技術を開発しました。本回路は、当社が新たに開発したフィードバック技術を用いることにより、温度などの環境変動やモータの動作状態の変動の影響を受けずにスイッチング遷移速度を一定に保ち、パワー半導体のスイッチングの際に生じる電力損失を、従来の駆動方法と比べて低負荷時で25%、常温時で20%低減できることを確認しました(※8)。また、今回開発したフィードバック回路を搭載したパワー半導体をCMOSチップに集積化することに成功しました。これにより、パワー半導体の小型化・低コスト化を実現しつつ、電力損失の低減が期待できます。 (5) インダストリアルICTソリューション 東芝デジタルソリューションズ㈱が中心となって、IoTやAIなど企業のデジタル化を支えるための研究開発を行いました。 当セグメントに係る当期の研究開発費は68億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。・東芝アナリティクスAI「SATLYSTM(サトリス)」で得た知見を集積・標準化し、誰でも手軽にAIを利用できるように目的ごとに特化させたAI分析サービス「SATLYSKATATM(サトリスカタ)」を商品化しました。第一弾として、故障履歴から適切な調達数を予測し部品在庫を最適化する「SATLYSKATATM保守部品在庫最適化」と、ウェアラブルデバイスによる作業行動の見える化で作業効率を支援する「SATLYSKATATM作業行動推定」の二つのサービスの提供を開始しました。・東芝コミュニケーションAI「RECAIUS™(リカイアス)」の新たなサービスとして、トラブルなどの対応事例を知識として蓄積・活用することで、さまざまなAI業務ソリューションを実現する「RECAIUS ナレッジプラットフォーム」の提供を開始しました。例えば、装置の不具合が発生したとき、保守員が不具合をテキストで入力することで、他の情報と統合して現在の状況を認識し、近い事例や調べるポイントを提示します。この仕組みにより、経験の浅い保守員の業務遂行を支援できます。 (6) その他 研究開発センターを中心に、将来に向けた先行・基盤技術の研究開発を行いました。当期の研究開発費は267億円です。当期の主な成果としては次のものが挙げられます。・生きた細胞内での遺伝子の活性状態を観察することができる「生細胞活性可視化技術」を開発しました。従来乳がん診断では、死滅したがん細胞を用いるためがん細胞の活動状況を捉えることができず十分な知見を得られませんでした。そこで当社独自の分子構造設計技術を適用したナノカプセル(生分解性リポソーム)で検査用遺伝子を細胞内に導入した後、細胞培養用に独自開発した、カメラ機能を担うCMOSイメージセンサー上で培養することで、検査用遺伝子が活性状態に応じて放つ微弱な発光を撮像することができます。観察は一細胞単位で経時的に行うことができ、高精度の診断が可能となることに加え、少量の組織採取で済むため、患者の負担軽減にもなります。・生産品の品質確認において、多量のデータの中から少量の不良品データを教師なしで高精度に分類する深層学習「深層クラスタリング技術」を開発しました。従来のクラスタリング技術では、良品に対して不良品の数が少ない場合、不良品データ群を正しく分類できない課題がありました。「深層クラスタリング技術」は、類似度の高いデータ同士が離れなくなるような独自の学習基準を導入し、少量のデータ群が他のデータに混入することを抑制し、少量のデータ群を独立したクラスタとして分類することが可能になりました。本技術で世界共通の手書き数字の公開データを分類したところ、教師なし学習での分類精度が従来の93.8%から98.4%に向上し、世界トップレベルの分類精度を達成しました(※9)。 (注)※1:MWth: megawatt thermal(メガワットサーマル)。ワットサーマルは熱出力の単位。 ※2:原子炉圧力容器を支える鉄筋コンクリート製の構造物。 ※3:原料である高分子溶液に高電圧を加えて紡糸する技術で、常温での紡糸が可能でかつ高耐熱性、高腐食耐性などの特徴を持つ材料からナノファイバー不織布を形成できる。数十nm~数μmの範囲での繊維径制御が可能となる。 ※4:水平偏波と垂直偏波を同時に送受信する二重偏波機能を有し、10方向以上を同時に観測可能なDBF(デジタル・ビーム・フォーミング)のリアルタイム処理機能を搭載した気象観測専用のフェーズドアレイレーダとして世界初。 ※5:Light Detection and Ranging ※6:長距離計測用と短距離計測用の2つの回路で構成された独自の計測回路技術。長距離にある物体を高い解像度で検知することができる。2018年2月に半導体国際会議ISSCC2018にて発表。 ※7:従来の計測ロジック技術との比較。2018年3月時点、当社シミュレーション結果に基づく。 ※8:2019年2月20日時点、当社調べ。 ※9:2018年3月28日時点、当社調べ。
FY2018|6,072 文字
5【研究開発活動】 当社グループは、エネルギーシステムソリューション、インフラシステムソリューション、リテール&プリンティングソリューション、ストレージ&デバイスソリューション、インダストリアルICTソリューション領域を中心に、人々の暮らしと社会を支える事業領域に注力し、確かな技術で、豊かな価値を創造し、持続可能な社会に貢献してまいります。 エネルギーシステムソリューションでは、従来エネルギーのさらなる安全・安定供給と効率の良い活用を進めます。また、水素を含むクリーンエネルギーを創る、送る、貯める技術とサービスを提供することで、低炭素社会の実現に貢献していきます。インフラシステムソリューションでは、公共インフラ、ビル・設備、鉄道・産業システムなど、社会と産業を支える幅広いお客様に信頼性の高い技術とサービスを提供し、安全・安心で信頼できる社会の実現を目指します。リテール&プリンティングソリューションでは、お客様にとっての価値創造を原点に発想し、世界のベストパートナーとともに優れた独自技術により、確かな品質・性能と高い利便性を持つ商品・サービスをタイムリーに提供します。ストレージ&デバイスソリューションでは、ビッグデータ社会のインフラ作りを目指し、ストレージ領域、産業・車載領域、IoT(Internet of Things)領域などに向け、新しい半導体製品やストレージ製品の先端開発を進めてまいります。インダストリアルICTソリューションでは、産業ノウハウを持つ強みを生かしたIoT/AI(人工知能)を活用したデジタルサービスをお客様と共創してまいります。 当期における当社グループ全体の研究開発費は1,787億円(メモリ事業分野に係るものを除く。)であり、各事業セグメント別の主な研究成果及び研究開発費は次のとおりです。 なお、メモリ事業分野に係る当期の研究開発費は1,191億円であり、東芝メモリ㈱が中心となって、3次元フラッシュメモリなどの半導体製品の研究開発を行いました。 (1) エネルギーシステムソリューション東芝エネルギーシステムズ㈱が中心となって、従来エネルギー及び水素を含むクリーンエネルギーを創る、送る、貯める技術により、エネルギーの安定供給や低炭素な社会インフラを実現する研究開発を行いました。当セグメントに係る当期の研究開発費は274億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。・当社と国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構は、重粒子線がん治療装置向けスキャニング照射機器の大幅な小型化を実現する技術を開発しました。従来機器では、2台のスキャニング電磁石(※1)をビーム進行方向に並べて配置していましたが、本機器では当社のコイル巻線製造技術を活用することで1台の電磁石として配置することに成功しました。これにより磁場を効率良く発生させ、照射位置までの距離を従来機器の9mから3.5mまで短縮することができるため、重粒子線用回転ガントリー(※2)を従来の約2/3まで小型化することが見込まれています。既に開発済みの超伝導偏向電磁石と今回開発した機器を併せて、世界最小の回転ガントリーを実現させ、次世代型重粒子線がん治療装置への適用を目指します。・電力事業者が電力の供給計画を立てる上で必須となる電力需要予測において、多地点における気象情報の作成と、AIを活用した複数の予測手法の組み合わせを特徴とする高精度な予測システムを開発しました。供給エリア内の多地点における気象予測値を作成し、気象情報と電力需要実績値の関係を効率良く機械学習させるスパースモデリング技術(※3)を開発、さらに、深層学習を用いた需要予測の結果値をAIを利用して最適に組み合わせることで、高精度な需要予測を実現しました。今後、より多くの地点の需要実績値をAIに学習させることで、さらなる予測精度の向上を追求し、電力事業者の効率的な需給運用を支えるシステムへの導入を目指します。 (2) インフラシステムソリューション 東芝インフラシステムズ㈱、東芝エレベータ㈱、東芝ライテック㈱、東芝キヤリア㈱が中心となって、公共インフラ、ビル・設備、鉄道・産業システム領域におけるお客様の本業の価値を高める製品及びシステムを継続的に提供するための研究開発を行いました。 当セグメントに係る当期の研究開発費は392億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。・当社は、西日本旅客鉄道㈱の新型寝台列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」向けに、ディーゼル発電機で発電した電力とバッテリーアシストによる新開発の小型ハイブリッド駆動システムを納入しました。駆動システムのうち、モーターとバッテリーの制御を行う主変換装置について、鉄道向けの半導体に比べ低圧の自動車等向けパワー半導体を採用するとともに、装置外側の冷却フィンの設置が不要な水冷方式を採用することで、小型・軽量化を実現しました。バッテリーには当社製リチウムイオン二次電池「SCiB™」を採用しました。ブレーキ時に発生する回生電力を充電し、加速時にこの電力を使うことで、エネルギーを効率的に使用し燃費を向上させ、高い環境性能の実現に貢献しています。・「SCiB™」の次世代品として、負極材に黒鉛の2倍の容量を持つチタンニオブ系酸化物を用いたリチウムイオン電池の試作に成功しました。この負極材は、超急速充電や低温充電時でも耐久性と安全性に優れ、当社独自の合成方法により、結晶構造中にリチウムイオンを効率的に供給できます。これにより、「SCiB™」の特徴である高い安全性と急速充電特性を維持しながら、単位体積当たりの負極容量を従来に比べ増加させることができました(※4)。32kWh電池容量搭載のコンパクトEVを想定した場合、6分間の超急速充電で、走行距離320km(※5)を可能にします。今後も電池の急速充電、長寿命、高エネルギー密度化に関する研究開発を継続し、製品化を目指します。 (3) リテール&プリンティングソリューション 東芝テック㈱が中心となって、リテール&プリンティングソリューション分野における新しい製品やサービスを提供するための研究開発を行いました。 当セグメントに係る当期の研究開発費は281億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。・経済産業省及び国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業の一環として、電子レシートの社会インフラ化実証実験を行いました。東芝テック㈱が運営している電子レシートシステム「スマートレシート®」をベースにした電子レシートプラットフォームを使用することで、従来個別に開発、利用されていた電子レシートアプリケーション等をシームレスに連携でき、消費者の選好を正確に理解した商品開発やサービス提供が可能となります。・NEDOの委託事業として、電子タグ(RFID)を用いたサプライチェーンの情報共有システムの実証実験に参加しました。メーカーやコンビニ等と共同でRFIDを活用して、サプライチェーン全体の商品に関する情報を国際標準に準拠したデータで一元管理、共有できるシステムを開発するとともに、電子タグ発行、入出荷及び販売データエントリーデバイスを提供し、有効性を検証しました。 (4) ストレージ&デバイスソリューション 東芝デバイス&ストレージ㈱が中心となって、ストレージ製品や、IoT、車載、産業向けなどの新しい半導体製品を提供するための研究開発を行いました。 当セグメントに係る当期の研究開発費は440億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。・データセンタやストレージシステム向けに、CMR(従来型磁気記録)方式で世界初(※6)となる記憶容量14テラバイト(※7)のニアライン向け3.5型HDDを開発しました。HDD内部に空気より軽いヘリウムを封止し、従来よりもヘッドの位置決め精度改善やディスクを安定的に回転させることにより、高記録密度化と低消費電力化を実現しました。さらに小型・薄型化技術によりディスク9枚を搭載することで、CMR方式で14テラバイトという大容量化を達成しました。・スマートフォンなどのモバイル機器向けに、従来の高周波スイッチに加え低雑音アンプに適した高周波半導体用プロセス「TarfSOI™(※8)」の次世代プロセスTaRF10を開発しました。本プロセスを用いて低雑音アンプを試作し、周波数1.8GHzにおいて低い雑音指数(※9)0.72dBと電力増幅率16.9dBの高い性能を達成しました。これにより低挿入損失のスイッチと低雑音アンプの同一チップへの混載が可能となりモバイル機器の受信感度を大幅に改善できます。当社は今後も次世代移動通信向けの市場要求に応えた高周波IC製品を開発していきます。 (5) インダストリアルICTソリューション 東芝デジタルソリューションズ㈱が中心となって、IoTやAIなど企業のデジタル化を支えるための研究開発を行いました。 当セグメントに係る当期の研究開発費は67億円です。主な成果としては次のものが挙げられます。・東芝コミュニケーションAI「RECAIUS™(リカイアス)」の新たなサービスとして、次世代のIVR(※10)「RECAIUS通話エージェント」の提供を開始しました。本サービスは、当社が長年培った音声対話技術や自然言語処理技術により、お客様からのお問い合わせを音声認識し、質問の意図を正しく理解した上で、簡単な問合せは自動で即座に回答し、高度な問合せは適切なオペレーターの窓口へ繋ぐことを可能とするものです。これにより、オペレーターは高度な専門知識が必要な問合せ対応に注力でき、お客様の待ち時間も削減できるなど、コールセンター業務の働き方改革・利便性向上に貢献します。・画像、センサーデータ、業務データなどを解析し、システムの最適化・自律化を支援するAIサービスを東芝アナリティクスAI「SATLYS™(サトリス)」として提供開始しました。「SATLYS™」は、AI技術を活用し、高精度な識別、予測、要因推定、異常検知、故障予兆検知、行動推定などを実現します。本技術は、東芝メモリ㈱の四日市工場における半導体製品の歩留監視や、ドローンによる送電線異常検知などに展開しています。また、部品の余寿命予測、品質劣化の予兆検知、製造工程の不良要因分析、熟練者に代わる異常の自動判定などへの適用も進めています。 (6) その他 研究開発センターを中心に、将来に向けた先行・基盤技術の研究開発を行いました。当期の研究開発費は333億円です。当期の主な成果としては次のものが挙げられます。・世界で初めて10Mbpsを超える鍵配信速度(13.7Mbps)を実現する量子暗号装置の開発に成功しました(※11)。量子暗号技術は、秘匿性の高いデータ通信の暗号化に適していますが、送受信者間で必要となる共通の暗号鍵の生成処理速度の向上が実用化の課題となっていました。当社は今回、従来のソフトウェア処理をより高速に処理できる専用回路を用いたハードウェアや、光子通信の誤り特性を加味した処理規模の少ない誤り訂正方式を開発するとともに、従来のデータ変換処理の多並列処理化を達成したことで、鍵生成処理の高速化を実現しました。今後も金融・医療・通信インフラ等の分野での実用化を目指し、量子暗号技術の普及に貢献していきます。・独自の塗布印刷技術を用いて樹脂フィルム基板上に作製した5cm×5cmのペロブスカイト太陽電池(※12)モジュール(※13)で、エネルギー変換効率10.5%(※14)を達成しました。今回、フィルム基板を用いたペロブスカイト太陽電池向けの成膜プロセス技術や、モジュール作製のためのスクライブ(※15)プロセス技術を開発したことで、上記の変換効率を達成しました。本技術はフレキシブルなフィルム基板を用いていることから、ロール・ツー・ロール方式(※16)で作製でき低コスト化が可能です。また、高効率のポテンシャルを持つペロブスカイト太陽電池のため、更なる高効率化が期待できます。 (注)※1:磁場を高速に変化させることにより、荷電粒子ビームをビームと直行する患部の断面方向に対し、2方向に走査するための機器をいいます。 ※2:CT、MRI、X線治療機のドーナツ状の筺体を指します。患者は、その筐体の中に入って診断・治療を受けます。CTやX線治療機では、X線発生装置がガントリー内を移動して、患者にX線を照射しますが、陽子線や重粒子線治療装置の場合は、放射線発生装置が治療室の外に設置されるものの、患者の周囲を照射口が回って照射をおこなう点で同じことから、こうした装置を回転ガントリーと呼びます。 ※3:高次元のデータの中から有意な情報を抽出する機械学習の技法で、今回は多地点の気象情報の中から電力需要に影響の大きな地点を抽出するのに適用しています。 ※4:本成果は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業の成果を一部活用しています。 ※5:JC08モードでの走行距離換算。 ※6:高さ26.1mmの3.5型HDDとして、2017年12月時点、当社調べ。 ※7:1テラバイトは10の12乗バイトによる算出値。 ※8:TarfSOI™(Toshiba advanced RF SOI):当社が高周波半導体用に独自に開発したSOI-CMOS(Silicon On Insulator-Complementary Metal Oxide Semiconductor)フロントエンドプロセス。 ※9:雑音指数(Noise Figure):増幅回路における入力端および出力端の信号対ノイズ比。小さいほど雑音が小さく特性が良い。 ※10:IVR(Interactive Voice Response System、音声自動応答装置):発信者のダイヤル操作に合わせて、あらかじめ録音してある音声を発信者側に自動的に再生するコンピュータシステム。 ※11:10kmを想定した光ファイバー環境における結果。 ※12:光吸収層がペロブスカイト結晶で構成されている太陽電池。 ※13:セルは太陽電池の基本単位の素子、モジュールは複数のセルを電気的に接続したもの。 ※14:太陽光のエネルギーを電気エネルギーに変換する効率。2017年9月25日時点で世界最高の変換効率。一般財団法人電気安全環境研究所の測定による。 ※15:セルの直列接続構造を形成するために、電極上の膜の一部分を取り除き、電極を露出させる工程。 ※16:シート状の材料やデバイスの製造において、一つの製造プロセスの前と後でロール状に巻き付けながら大量生産を行う方法。
FY2017|5,993 文字
6【研究開発活動】 当社グループは、エネルギーシステムソリューション、インフラシステムソリューション、リテール&プリンティングソリューション、ストレージ&デバイスソリューション、インダストリアルICTソリューション領域を中心に、性能・機能・品質の高い「カタチある製品」はもとより、それら製品を通じた顧客との接点を活かした「カタチのあるソリューション」によって社会課題を解決することを目指した技術開発を推進し、社会とともに成長・発展してまいります。 エネルギーシステムソリューションでは、従来エネルギーのさらなる安全・安定供給と効率の良い活用を進めます。また、水素を含むクリーンエネルギーを創る、送る、貯める技術とサービスを世界に提供することで、低炭素社会の実現に貢献していきます。インフラシステムソリューションでは、公共インフラ、ビル・設備、鉄道・産業システムなど、社会と産業を支える幅広いお客様に信頼性の高い技術とサービスを提供し、安全・安心で信頼できる社会の実現を目指します。リテール&プリンティングソリューションでは、お客様にとっての価値創造を原点に発想し、世界のベストパートナーとともに優れた独自技術により、確かな品質・性能と高い利便性を持つ商品・サービスをタイムリーに提供します。ストレージ&デバイスソリューションでは、ビッグデータ社会のインフラ作りを目指し、メモリ・ストレージ領域や、産業・車載領域、無線通信領域などに向け、新しい半導体製品やストレージ製品の先端開発を進めてまいります。インダストリアルICTソリューションでは、産業ノウハウを持つ強みを生かしたIoT(Internet of Things)/AI(人工知能)を活用したデジタルサービスをお客様と共創してまいります。 当期における当社グループ全体の研究開発費は2,955億円であり、事業の各セグメント別の研究目的、主課題、研究成果及び研究開発費は、次のとおりです。 (1) エネルギーシステムソリューションエネルギーシステムソリューション社が中心となって、従来エネルギー及び水素を含むクリーンエネルギーを創る、送る、貯める技術により、エネルギーの安定供給や低炭素な社会インフラを実現する研究開発を行いました。当期の主な成果としては次のものが挙げられます。当期のエネルギーシステムソリューションに係る研究開発費は383億円です。・当社とみずほ情報総研㈱をはじめとする13法人(※1)は、環境省が公募する「環境配慮型CCS実証事業」(※2)に採択されました。当社は、グループ会社である㈱シグマパワー有明の三川発電所(福岡県大牟田市)から1日に排出されるCO2の50%にあたる500トン以上のCO2を分離・回収する設備を建設し、実証運転します。CCSは、新設のみならず既存の火力発電所へ導入可能なCO2削減技術であり、地球温暖化対策への貢献が期待されています。・自立型水素エネルギー供給システム「H2One™」の新モデルとして、車載モデルを開発しました。「H2One™」は、再生可能エネルギーと水素を活用して、電力を安定的に供給できるCO2フリーのエネルギー供給システムです。従来の「H2One™」BCP(※3)モデルの水素貯蔵能力を維持しながらも高出力・小型化することで、機動性を高め、災害時には被災地に短時間で移動し、迅速なエネルギー供給を実現します。「H2One™」のラインアップに「H2One™ 」車載モデルを加えることで、広範な電力供給のニーズに対応します。 (2) インフラシステムソリューション インフラシステムソリューション社、東芝エレベータ㈱、東芝ライテック㈱、東芝キヤリア㈱が中心となって、公共インフラ、ビル・設備、鉄道・産業システム領域におけるお客様の本業の価値を高める製品及びシステムを継続的に提供するための研究開発を行いました。 当期の主な成果としては次のものが挙げられます。当期のインフラシステムソリューションに係る研究開発費は382億円です。・東京地下鉄㈱の銀座線1000系車両向けに、高い安全性と耐低温特性が特長のリチウムイオン二次電池「SCiB™」と充放電制御装置を組み合わせた非常走行用電源装置を納入しました。本装置は、平常時に架線からの電源で「SCiB™」に蓄電し、停電など非常時には、乗客輸送用の電力を車両へ供給します。今回、要求される安全性と信頼性を高水準で満たしていることが評価され、受注に至りました。今後も、先進的な鉄道車両用システムを国内外で展開するとともに、電気自動車、系統用蓄電池システム、工場などで使われる自動搬送車(AGV:Automated guided vehicle)など、様々な用途で「SCiB™」の展開を目指します。・東芝エレベータ㈱は、住友不動産六本木グランドタワーに、乗用タイプとして国内最大(※4)の定員・積載量となる90人乗り、分速300mの大型シャトルエレベーター4台を含む合計43台の昇降機を納入しました。このシャトルエレベーター4台を活用することで、10分間で約1,000人を上層階に運ぶことができます。また一部のエレベーターには地震時の自動復旧運転機能(※5)を採用し、地震発生後自動で診断運転を行いエレベーターの運行に支障がないと判断した場合は、フィールドエンジニアの到着を待たずに仮復旧運転が可能となっています。 (3) リテール&プリンティングソリューション 東芝テック㈱が中心となって、リテールソリューション分野、プリンティング事業分野におけるお客様にとっての価値創造を原点とした差異化技術や、商品、サービス及びソリューションを提供するための研究開発を行いました。 当期の主な成果としては次のものが挙げられます。当期のリテール&プリンティングソリューションに係る研究開発費は282億円です。・経済産業省からの委託事業として、㈱トライアルカンパニーの店舗において、世界初(※6)の個人情報保護機能を搭載した電子レシートシステムの実証実験を行いました。東芝テック㈱が運営している電子レシートシステム「スマートレシート®」をベースに、国際標準仕様の電子レシートフォーマット(※7)に対応し、さらに利用者本人(被験者)が自らの個人情報を保護(マスク処理)できる仕組みプライバシーポリシーマネージャー(PPM)(※8)を搭載した電子レシートシステムを使用しました。本実証実験を通じて、レシートの電子化によるペーパーレス化、環境負荷低減に加えて、購買履歴のデータ保護とそれを活用した各種サービスの提供など、買い物客の利便性の向上を目指します。 (4) ストレージ&デバイスソリューション ストレージ&デバイスソリューション社が中心となって、メモリ・ストレージ領域、車載領域、無線通信領域などに向けた新しい半導体製品やストレージ製品を提供する研究開発を行いました。 当期の主な成果としては次のものが挙げられます。当期のストレージ&デバイスソリューションに係る研究開発費は1,515億円です。・当社は、64層積層プロセスを用いた3ビット/セル(※9)から成る512ギガビットの3次元フラッシュメモリ「BiCS FLASH™」(※10)をサンプル出荷しました。回路技術やプロセスを最適化することでチップサイズを小型化し、48層積層プロセスを用いた256ギガビット品と比べて単位面積当たりのメモリ容量を約1.65倍に大容量化しました。2017年後半の量産開始を予定しています。今後も市場で求められるメモリの大容量化、小型化など多様なニーズに応えていきます。・自動運転を支援する取り組みとして、車載用プロセッサを用いた自動運転技術を開発しました。従来ハイエンドPC(※11)を用いることが一般的だった、演算量の多いカメラ映像から3次元点群(※12)を計測する処理を車載向け画像認識プロセッサ「Visconti™4」で実現しました。さらに、車載用プロセッサで処理可能な演算量で、車両周辺の障害物地図を生成する技術、および障害物を避ける軌道を生成する技術を独自に開発しました。また、これらの技術を自動運転車両に搭載したPCに実装し、国立大学法人名古屋大学と共同で公道での実証実験を行い、ポールなどの障害物を回避できることを確認しました。今後も予防安全と高度な自動運転へ貢献する技術を開発していきます。(5) インダストリアルICTソリューション インダストリアルICTソリューション社、東芝ソリューション㈱が中心となって、ICT・クラウド事業など企業のデジタル化を支えるための研究開発を行いました。 当期の主な成果としては次のものが挙げられます。当期のインダストリアルICTソリューションに係る研究開発費は74億円です。・当社の信頼性の高い機器を持つ強みとインダストリアル領域での現場の知見を持つ強みを融合したIoTアーキテクチャー「SPINEX™」の提供を開始しました。現場でのリアルタイム処理を実現するエッジコンピューティング、デジタル上に現場の機器を忠実に再現するデジタルツイン、音声や映像などの情報を解析し人の意図や状況を理解し活用するメディアインテリジェンス技術により「SPINEX™」は、産業分野での生産性や安全性の向上、プロセスの最適化、オペレーションコストの削減など、お客様の課題の解決手段を包括的に提供すると共に、新たなデジタルサービスの創出を実現していきます。・慶應義塾大学理工学部青木研究室との共同研究として、画像・音声認識の技術とディープラーニングの技術を組み合わせ、ラグビーの試合映像を自動で解析し、プレー分析に活用する実証実験を開始しました。本実証実験を通じ、音声や映像から人の意図を理解し人の活動をサポートするコミュニケーションAI「RECAIUS™(リカイアス)」の機能強化に繋げ、他産業へ展開していきます。例えば、多人数の動きを同時に認識する技術を工場の動線管理に、また特定プレーを検出する技術を作業内容の検証や作業時間の測定に応用し、製造業の生産性向上に寄与していきます。 (6) その他 東芝クライアントソリューション㈱、東芝映像ソリューション㈱が中心となって、テレビ、タブレット、パソコン等のデジタル情報機器、およびそれらを活かしたサービスの研究開発を行いました。 当期の主な成果としては次のものが挙げられます。当期のその他部門に係る研究開発費は319億円です。・カラーフィルタと独自の画像処理の組み合わせにより、単眼カメラで撮影した1枚の画像から、カラー画像と高精度な距離画像(※13)が得られる独自の撮像技術を開発しました。本方式は、レンズと画像処理で構成されるため、一般的な安価なイメージセンサを利用して構成することが可能です。今後、自動車の運転支援の高度化やロボットなどの遠隔操作によるインフラ点検など、カメラによる画像センシング(※14)の応用が期待されています。・当社と東芝マテリアル㈱は、レアアースの中でも特に希少な重希土類を一切使用せずに高い磁力と優れた減磁耐性(※15)をあわせ持つモータ用の高鉄濃度サマリウムコバルト磁石を開発しました。本開発品は、高耐熱モータの実使用温度域(140℃以上)において、現在一般的に採用されている耐熱型ネオジム磁石を上回る磁力(※16)を持つとともに、180℃でも優れた減磁耐性を示す世界初(※17)の磁石です。今後、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動モータ、産業用モータなどへの活用が期待されます。本技術の先進性と実用化が評価され、第49回市村産業賞貢献賞を受賞しました(※18)。 (注)※1:当社、みずほ情報総研㈱、千代田化工建設㈱、日揮㈱、三菱マテリアル㈱、大成建設㈱、㈱ダイヤコンサルタント、㈱QJサイエンス、日本エヌ・ユー・エス㈱、国立研究開発法人産業技術総合研究所、一般財団法人電力中央研究所、国立大学法人東京大学、国立大学法人九州大学の13法人。 ※2:Carbon dioxide Capture and Storageの略で、二酸化炭素回収・貯留のこと。 ※3:Business Continuity Plan(事業継続計画)の略。 ※4:2017年6月現在。東芝エレベータ㈱調べ。 ※5:本機能はフィールドエンジニア到着までの間、エレベーターの運転を仮復旧させることを目的とし、通常の運転に復帰させる場合はフィールドエンジニアによる点検が必要となります。 ※6:2017年2月現在。当社調べ。 ※7:ARTS国際標準仕様の標準電子レシートフォーマット。ARTS(Association for Retail Technology Standards)は、全米小売業協会(NRF)傘下の国際標準化団体です。 ※8:PPMは㈱KDDI総合研究所が開発した技術で、利用者自身が定めたポリシーに応じて、パーソナルデータの流通制御やマスク処理、利用同意支援、提供状況の可視化機能などを提供する仕組みです。本実証実験では、個人情報やレシート情報のマスク処理機能、提供状況の可視化機能、わかりやすい利用規約を提供します。 ※9:1つの記憶素子(メモリセル)あたり3ビットのデータを格納する記録方式。 ※10:従来のシリコン平面上にフラッシュメモリ素子を並べた構造ではなく、シリコン平面から垂直方向にフラッシュメモリ素子を積み上げ、素子密度を大幅に向上した構造。 ※11:消費電力の大きい高性能GPU(Graphics Processing Unit)や高クロックのCPU(Central Processing Unit)を搭載している等、高位スペックのPC。 ※12:2次元の画像における特徴点に、カメラから特徴点までの距離情報を付加して3次元化した点の集合をいいます。 ※13:撮影画像を光の強さや周波数(色)としてではなく、対象までの距離情報として表したもの。 ※14:画像情報を用いて対象を非接触で計測し数値化すること。 ※15:熱や外部磁界に対抗して磁石が磁束を保とうとする性質のことを指し、モータ設計上重要な性質です。 ※16:磁力とは、単位面積当たりの磁力線の数(磁束量)のことを指します。磁束密度とも呼ばれます。 ※17:2016年11月現在。当社調べ。 ※18:市村産業賞は、公益財団法人新技術開発財団により主催され、優れた国産技術を開発することにより産業分野の発展に貢献・功績のあった技術開発者またはグループに贈られる権威ある賞です。
FY2016|4,233 文字
6【研究開発活動】 当社グループは、エネルギー、ストレージ、社会インフラ領域を中心に社会の課題を解決し、安心、安全、快適な社会の実現をめざします。社会の潜在ニーズや課題をいち早く発掘して革新技術を創出し、当社グループの幅広い技術資産を多方面に活用することで相乗効果を発揮させ、新たな価値を創造していきます。 エネルギー領域では、従来エネルギーのさらなる安全・安定供給と効率のよい活用を進めます。また、クリーンなエネルギーを創る、送る、貯める技術とサービスを世界に提供することでCO2排出量を抑制し、低炭素社会の実現に貢献していきます。ストレージ領域では、飛躍的に増大する情報量に対応すべく、大容量ストレージ技術をさらに強化し、これをベースとした情報システムやクラウド基盤を提供することで情報化社会のインフラ作りに貢献していきます。社会インフラ領域では、ビル・施設、公共インフラなど、社会と産業を支える幅広いお客様に信頼性の高い技術とサービスを提供し、安全・安心で信頼できる社会の実現をめざします。 当期における当社グループ全体の研究開発費は3,609億円であり、事業の各セグメント別の研究目的、主課題、研究成果及び研究開発費は、次のとおりです。 (1) 電力・社会インフラ部門電力システム社、社会インフラシステム社が中心になって、発電、送変電からパワーエレクトロニクスまで、電力エネルギーの安定的な供給や低炭素かつ高効率な電力・社会インフラの提供を実現する研究開発を行いました。当期の主な成果としては、次のものが挙げられます。当期の電力・社会インフラ部門に係る研究開発費は749億円です。・送電線や変電所などの送配電設備を監視制御する次世代監視制御システムの開発を進め、2018年から東京電力㈱へ順次納入する予定です。本システムは、地方送配電系統の運用と遠方制御に係る設備監視を一貫して実施するシステムで、国際標準規格を採用して高い相互接続性を実現します。東京電力㈱の基幹事業である送配電系統運用業務の効率化に貢献し、同社とともに国際規格に準拠したシステム等の海外展開を目指していきます。・再生可能エネルギーと水素を活用して、電力と温水を安定的に供給できるCO2フリーの自立型水素エネルギー供給システムを、川崎市臨海部の公共施設において実証試験を実施しています。このシステムは、川崎市にあるJR南武線武蔵溝ノ口駅にも設置され、2017年春から稼働を予定しています。今後もBCPモデル、リゾートモデル、離島モデル、事業所モデルなど幅広い用途で展開し、CO2を排出しないクリーンな水素社会の実現に貢献していきます。・早稲田大学と共同で、ケーブルを接続しなくても充電が可能な最新のワイヤレス充電装置とリチウムイオン二次電池SCiB™を搭載したEVバスを中心とするEVバスシステムを開発しました。国際戦略総合特区である川崎市殿町のキングスカイフロント地区及び羽田空港周辺地域において、川崎市・全日本空輸㈱の協力を得て、公道実証試験を開始しました。・東海旅客鉄道㈱と協力し、3.3kVの高耐圧SiC(炭化ケイ素)デバイスを適用した新幹線用主変換装置(※1)を東海道N700系新幹線車両へ搭載し、東京~新大阪間での走行試験を開始しました。本走行試験は、SiCデバイスを適用した主変換装置を高速鉄道に導入した世界で初めて(※2)の試験であり、実用化に向けて大きく前進したことになります。この走行試験を通じて、走行性能や主変換装置の制御性能・温度性能等の確認、評価を実施しています。 (2) コミュニティ・ソリューション部門コミュニティ・ソリューション社、東芝エレベータ㈱、東芝ライテック㈱、東芝キヤリア㈱、東芝テック㈱が中心になって、ビル、工場、住宅等のファシリティ事業から都市関連事業、リテール事業まで、都市・地域における様々なソリューション事業を展開し、コミュニティ・ソリューション事業を強化する研究開発を行いました。当期の主な成果としては、次のものが挙げられます。当期のコミュニティ・ソリューション部門に係る研究開発費は537億円です。・国土交通省国土技術政策総合研究所が2015年度に実施した「下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)」に採択された「バイオガス中のCO2分離・回収と微細藻類培養への利用技術実証事業」において、佐賀市下水浄化センター内の実証施設での検証を行っています。当社が開発した設備では、これまで利用されていなかった下水処理施設から発生する消化ガス(バイオガス)中のCO2及び高純度のメタンを同時に回収することが可能です。本実証事業を通じて、下水処理施設における未利用資源の有効活用と新たな高付加価値資源の創造を確立していきます。・増加する訪日外国人(インバウンド)の多様なニーズに対応するため、同時通訳などのメディアインテリジェンス(※3)技術を利用し、観光行動や購買データなどとシステムを有機的に結合し、集客・接客をサポートする「トータルインバウンドサービス」の提供を開始しました。本サービスは、「福岡・天神地下街」で集客力・回遊性・接客のサービス向上のための実証実験を実施しました。 (3) 電子デバイス部門セミコンダクター&ストレージ社、部品材料事業統括部が中心になって、モバイル機器等向けのNAND型フラッシュメモリや統合ストレージ製品を強化するとともに、高度なデバイスの技術力で全社の製品・システム事業の最大化に貢献する研究開発を行いました。当期の主な成果としては、次のものが挙げられます。当期の電子デバイス部門に係る研究開発費は1,969億円です。・マイクロ波磁界を用いることによって、多層の磁性体の磁化の向きを、層を選択して反転させる磁化反転技術を開発しました。この新技術は、ハードディスクの大容量化を実現するために記録層を多層化(3次元構造)した高記録密度の磁気記録への応用が期待されます。なお、この研究開発は、国立行政法人科学技術振興機構(JST)における研究成果展開事業「戦略的イノベーション創出推進プログラム」の一環として実施しています。・カメラからの入力映像を処理し、自動車前方の車線、車両、歩行者、標識などを認識する画像認識プロセッサ「Visconti™2」が、㈱デンソーの車載用前方監視カメラシステム向けに採用されました。当社独自の画像処理アクセラレータにより、複数のアプリケーションの同時・並列処理と低消費電力動作を実現したことが評価されました。車載向け半導体市場では、より安全で快適な車社会の実現に向け、先進運転支援システムの重要性がより高まるとともに、将来的には自動運転のニーズが高まることが見込まれています。・これまでに、48層2ビット/セルから成る128ギガビット/チップの3次元フラッシュメモリBiCS FLASHTMをサンディスク社と共同で開発し、2015年3月にサンプルを出荷しました。さらに3ビット/セルへの適用も進め、256ギガビット/チップのサンプルを出荷しました。従来のフローティングゲートNAND型フラッシュメモリと比較して、2倍の容量を実現しており、急成長が見込まれるストレージ市場への適用に向けて更なる大容量化を図っていきます。 (4) ライフスタイル部門パーソナル&クライアントソリューション社、東芝ライフスタイル㈱が中心になって、テレビ、タブレット、パソコン等のデジタル情報機器や情報家電を含む家庭用電気機器の高機能技術、省エネ技術、及び制御技術を中心とした研究開発を行いました。当期の主な成果としては、次のものが挙げられます。当期のライフスタイル部門に係る研究開発費は205億円です。・チューリッヒ保険会社向けにテレマティクス技術(※4)を活用した、運転者支援ソリューションを提供しました。本サービスでは、自動車の事故を検知した場合(※5)に、事故受付センターへ自動的に通知する機能、安全運転のアシスト、車載カメラによる動画の記録などのサービスを提供します。今後、自動車保険業界は、テレマティクス技術によるビッグデータ収集により、様々なサービスへの可能性や需要が見込まれます。端末からのデータの収集と解析に加え、PC開発で培った技術を活かした幅広いソリューションをワンストップで提供していきます。 (5) その他部門インダストリアルICTソリューション社、東芝ソリューション㈱が中心になって、ICT・クラウド事業に関する研究開発を行いました。当期の主な成果としては、次のものが挙げられます。当期のその他部門に係る研究開発費は149億円です。・1台のカメラで広範囲を撮影した映像から、人や車の数を高精度に計測できる技術を開発しました。本技術は、人や物が重なって映っていたり、非常に小さく映っていたりしても対象を見つけ出すことができ、各大学が公開している評価用画像データ(※6)における計測誤差で、世界最高性能を達成しました。トラブルが発生する原因となり易い人や車の密集、交通渋滞等を高精度に計測し、混雑緩和対策の検討に貢献します。また、防犯等セキュリティ分野への応用により、安心・安全な社会の実現にも貢献します。 (注)※1:架線からの交流電力を直流に変換するコンバータと直流から主電動機を駆動させる為の三相交流に変換するインバータを一体とした、車両の力行、回生を制御する電力変換装置。※2:2015年6月現在。当社調べ。※3:音声・映像・文字データを人が理解するように知的に処理するメディア知識処理を中心とする技術領域の名称。※4:テレコミュニケーション(Telecommunication=通信)とインフォマティクス(Informatics=情報工学)から作られた造語で、車などの移動体に通信手段を用いて、データサービスを行うことを指します。※5:各種センサーの状態から危険挙動を検知しますが、すべての危険挙動をもれなく検知することを保証するものではありません。また、危険挙動ではないものを危険挙動と検知することもあります。※6:手法の評価を目的として各大学が公開している画像データ。人数計測の評価に一般的に用いられるMallデータ及びUCSDデータに対して評価しました。