6【研究開発活動】当連結会計年度においては、体性幹細胞再生医薬品、iPSC再生医薬品の各分野において、以下のとおり研究開発を推進いたしました。当連結会計年度における研究開発費の総額は、2,024百万円(前連結会計年度は1,960百万円)であります。 (1)体性幹細胞再生医薬品分野当連結会計年度において、体性幹細胞再生医薬品HLCM051を用いて、国内外でARDS、脳梗塞急性期及び外傷に対する治療薬の開発を進めました。<炎症>ARDSに対する治療薬の開発においては、肺炎を原因疾患としたARDS患者を対象に、有効性及び安全性を検討する第2相試験(治験名称:ONE-BRIDGE試験)を実施し、2021年8月と11月に、HLCM051投与後90日と180日の評価項目のデータの一部を発表しました。その中で、有効性並びに安全性について良好な結果が示されました。2024年9月に、米国を中心としたHLCM051のグローバル第3相試験(REVIVE-ARDS試験)の実施について、米国FDA(Food and Drug Administration)と協議を行い、REVIVE-ARDS試験のデザインについて、当社の要望に沿ったかたちで合意しました。REVIVE-ARDS試験の具体的なデザインを確定し、準備が整い次第、米国を中心としたグローバル治験を開始する予定です。日本においては、既に日本国内で完了した第2相試験(ONE-BRIDGE試験)と米英で実施した第2相試験(MUST-ARDS試験)の良好な結果に加え、検証試験としてREVIVE-ARDS試験を実施することを前提に、国内での条件及び期限付承認申請に向け準備を進めています。2025年4月に独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と、REVIVE-ARDS試験において、国内被検者の組み入れが可能である点について合意しました。2026年1月には、REVIVE-ARDS試験の一部として日本国内で先行して実施する治験に向けた治験計画届出書をPMDAに提出し、提出後14日のレビュー期間を経て、本試験を開始する準備が整いました。なお、ONE-BRIDGE試験の臨床データの一部に関する論文が、2025年3月、日本再生医療学会の査読付きジャーナル“Regenerative Therapy”に掲載されました。脳梗塞急性期に対する治療薬の開発においては、有効性及び安全性を検討するプラセボ対照二重盲検第2/3相試験(治験名称:TREASURE試験)を実施し、2022年3月末にすべての治験登録患者の投与後365日後データの収集が完了しました。同年5月に試験データの一部を解析し速報値を公表しましたが、主要評価項目は未達となりました。一方で、脳梗塞患者の日常生活における臨床的な改善を示す複数の指標を通じて、全般的に1年後の患者の日常生活自立の向上が示唆されました。2023年10月には米国・欧州で実施している治験(治験名称:MASTERS-2試験)の中間段階でのデータ解析を行いました。2025年4月には「日本語版医療特化型LLMの社会実装に向けた安全性検証・実証」がNEDOに採択され、本計画に当社も参画いたします。この計画内で用いられる脳卒中の患者さんに関する多施設共同脳卒中データベース(Fukuoka Stroke Registry:FSR)の活用も含め、国内での条件及び期限付承認申請に向けた対応について、規制当局との相談を進めています。外傷を対象とした治療薬の開発においては、米国国防総省とメモリアル・ハーマン基金により、テキサス大学ヒューストン・ヘルスサイエンス・センター(UTH)及びメモリアル・ハーマン・メディカル・センターにおいて、156人の患者を対象に、外傷による多臓器不全/全身性炎症反応症候群へのHLCM051を用いたプラセボ対照二重盲検第2相試験(MATRICS-1試験)を実施しています。MATRICS-1試験では、HLCM051投与後30日の腎機能の回復を主要評価項目としています。欧米において既に実施されたARDS患者に対する第1/2相臨床試験(治験名称:MUST-ARDS試験)のデータのうち、重度の腎機能障害を併発していた患者を抽出したサブグループ解析(20例)を行い、その結果を2025年10月に発表いたしました。それによると、プラセボ投与群と比較し、HLCM051投与群において腎機能障害の改善傾向が見られました。HLCM051が持つ抗炎症作用や免疫調節作用が、腎機能障害の改善に寄与する可能性を示唆しているものと考えています。 (2)iPSC再生医薬品分野当連結会計年度において、がん免疫細胞療法(開発コード:HLCN061)、細胞置換に関する研究開発を進めました。<がん免疫細胞療法>eNK®細胞を用いて、固形がんを対象にしたがん免疫細胞療法の研究を進めています。これまで当社グループが培ってきたiPS細胞を取り扱う技術と遺伝子編集技術を用いることで、殺傷能力を高めたeNK®細胞の作製に成功しており、さらに大量かつ安定的に作製する製造工程を開発するなど、次世代がん免疫細胞療法を創出すべく自社研究を進めています。神戸医療イノベーションセンター内に、2022年7月、当社の自社管理による細胞加工製造用施設が本稼働し、eNK®細胞の治験製品の製造に向けた試作製造に着手しております。2025年1月には、Akatsuki社と共同事業契約およびライセンスオプション契約を締結し、同社が研究開発を主体的に推進してまいります。現在までの研究の成果としては、国立研究開発法人国立がん研究センターとの共同研究において、国立がん研究センターが保有する複数種類のがん腫に由来するPDX(Patient-Derived Xenograft:患者腫瘍組織移植片)移植マウスを用いてヒト肺がん組織に対するeNK®細胞の抗腫瘍効果を確認しています。また、兵庫医科大学とeNK®細胞を用いた中皮腫に対するがん免疫細胞療法に関する共同研究を、国立大学法人広島大学とeNK®細胞を用いた肝細胞がんに対するがん免疫細胞療法に関する共同研究を進めています。2025年10月には、国立大学法人九州大学と、CAR-eNK細胞を用いた脳腫瘍に対するがん免疫細胞療法に関する共同研究契約を締結しました。自社研究においては、eNK®細胞が中皮腫皮下移植モデルマウス、肺がん同所生着モデルマウス、肝がん皮下移植モデルマウス、及び胃がん腹膜播種モデルマウスに対して抗腫瘍効果を有すること、生体におけるがんと同様の環境を有している肺がん患者由来のがんオルガノイド*1においても、同様に抗腫瘍効果があることを確認しております。現在、eNK®細胞を用いた治験の開始を目指し、PMDAや米国FDAと相談を進めています。なお、2025年7月、eNK®細胞の固形がんに対する抗腫瘍効果に関する学術論文が、がん免疫学および免疫療法分野における研究論文集である、“Stem Cell Research and Therapy”に掲載されました。*1 生体内の組織・器官に極めて似た特徴を有している3次元的な構造をもつ組織・細胞 <細胞置換>iPSCプラットフォームとして、遺伝子編集技術を用いた、HLA型に関わりなく免疫拒絶のリスクを低減する次世代iPS細胞、UDCに関する研究を進めております。患者の免疫細胞に認識されにくいiPS細胞を作製することで拒絶反応を抑制し、有効性と安全性を高めた再生医療等製品を開発するための次世代技術プラットフォームの確立を目指しております。研究開発の推進に向け、米国子会社(Healios NA, Inc.)を通じた補助金の活用等を進めています。現在、UDCの臨床株及びマスターセルバンクが完成し、様々な細胞に分化できる能力を有することの確認など具体的な臨床応用に向けた研究を進めております。細胞治療への応用としては、国立研究開発法人国立国際医療研究センターと、血糖値に応じてインスリンを生産・分泌し血液中の糖の調整を担う膵臓β細胞に関し、UDCからの作製に成功しています。2025年8月には、UDCに関する日本での特許が成立し、移植細胞の原材料となる再生医療等製品創出のための次世代技術プラットフォームとして、その技術的独自性が正式に認められました。眼科領域において、iPS細胞由来網膜色素上皮(RPE)細胞(開発コード:HLCR011)を用いた治療法開発をRACTHERA社と共同で進めており、住友ファーマとも連携して、網膜色素上皮裂孔の患者を対象とする第1/2相試験を進めています。従来より肝疾患領域において、国立大学法人東京大学医科学研究所再生医学分野と進めていた、肝疾患に対する肝臓原基*2(開発コード:HLCL041)を用いた治療法の開発、UDCを用いた肝臓原基の製造法確立を目的とした研究につきましては、当社からカーブアウトした上でベンチャーキャピタル等の外部パートナーと共同で研究開発を推進する方向で準備を進めています。新たな治療薬の研究や細胞置換を必要とする疾患に対するさらなる治療法の研究を目的に、国内外の企業・研究機関10社以上にUDCやiPS細胞を提供し様々な疾患への適応可能性について評価を実施しています。*2 肝臓の基となる立体的な肝臓の原基。肝細胞に分化する前の肝前駆細胞を、細胞同士をつなぐ働きを持つ間葉系細胞と、血管をつくり出す血管内皮細胞に混合して培養することで形成されます。 なお、当社グループは医薬品事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
FY2024|4,021 文字
6【研究開発活動】当連結会計年度においては、体性幹細胞再生医薬品、iPSC再生医薬品の各分野において、以下のとおり研究開発を推進いたしました。当連結会計年度における研究開発費の総額は、1,960百万円(前連結会計年度は2,304百万円)であります。 (1)体性幹細胞再生医薬品分野当連結会計年度において、体性幹細胞再生医薬品MultiStem®を用いて、国内外でARDS、脳梗塞急性期及び外傷に対する治療薬(開発コード:HLCM051)の開発を進めました。<炎症>ARDSに対する治療薬の開発においては、肺炎を原因疾患としたARDS患者を対象に、有効性及び安全性を検討する第2相試験(治験名称:ONE-BRIDGE試験)を実施しました。2021年8月と11月に、ONE-BRIDGE試験におけるHLCM051投与後90日と180日の評価項目のデータの一部を発表し、有効性並びに安全性について良好な結果が示されました。2024年9月に、米国を中心としたMultiStem®のグローバル第3相試験(治験名称:REVIVE-ARDS試験)の実施について、米国FDA(Food and Drug Administration)と協議を行い、REVIVE-ARDS試験のデザインについて、当社の要望に沿ったかたちで合意しました。REVIVE-ARDS試験の具体的なデザインを確定し、準備が整い次第、米国を中心としたグローバル治験を開始する予定です。脳梗塞急性期に対する治療薬の開発においては、有効性及び安全性を検討するプラセボ対照二重盲検第2/3相試験(治験名称:TREASURE試験)を実施しました。2022年3月末にすべての治験登録患者の投与後365日後データの収集が完了し、同年5月に試験データの一部を解析し速報値を公表しました。その結果、主要評価項目は未達となりました。一方で、脳梗塞患者の日常生活における臨床的な改善を示す複数の指標を通じて、全般的に1年後の患者の日常生活自立の向上が示唆されました。2023年10月には米国・欧州で実施している治験(治験名称:MASTERS-2試験)の中間段階でのデータ解析を行い、統計学的有意性を満たすためには組み入れ患者数の追加が必要との結論になりました。現在、日本及び米国での治験データの統合解析を行い、規制当局と日本における承認申請に向けた方針を相談中です。2024年1月には、TREASURE試験の結果に関する学術論文がJAMA Neurologyに掲載され、学術的に一定の評価を得ました。外傷を対象とした治療薬の開発においては、米国国防総省とメモリアル・ハーマン基金により、テキサス大学ヒューストン・ヘルスサイエンス・センター(UTH)及びメモリアル・ハーマン・メディカル・センターにおいて、156人の患者を対象に、外傷による多臓器不全/全身性炎症反応症候群へのMultiStem®を用いたプラセボ対照二重盲検第2相試験を実施しています。 (2)iPSC再生医薬品分野当連結会計年度において、がん免疫療法(開発コード:HLCN061)、細胞置換療法に関する研究開発を進めました。<がん免疫>eNK®細胞を用いて、固形がんを対象にしたがん免疫療法の研究を進めています。これまで当社グループが培ってきたiPS細胞を取り扱う技術と遺伝子編集技術を用いることで、殺傷能力を高めたeNK®細胞の作製に成功しており、更に大量かつ安定的に作製する製造工程を開発するなど、次世代がん免疫療法を創出すべく自社研究を進めています。神戸医療イノベーションセンター内に、2022年7月、当社の自社管理による細胞加工製造用施設が本稼働し、eNK®細胞の治験製品の製造に向けた試作製造に着手しております。現在までの研究の成果としては、国立研究開発法人国立がん研究センターとの共同研究において、国立がん研究センターが保有する複数種類のがん腫に由来するPDX(Patient-Derived Xenograft:患者腫瘍組織移植片)移植マウスを用いてヒト肺がん組織に対するeNK®細胞の抗腫瘍効果を確認しています。また、国立大学法人広島大学大学院とeNK®細胞を用いた肝細胞がんに対するがん免疫細胞療法に関する共同研究を、兵庫医科大学とeNK®細胞を用いた中皮腫に対するがん免疫細胞療法に関する共同研究を進めています。自社研究においては、eNK®細胞が肺がん同所生着モデルマウス、肝がん皮下移植モデルマウス、胃がん腹膜播種モデルマウス、及び中皮腫皮下移植モデルマウスに対して抗腫瘍効果を有すること、生体におけるがんと同様の環境を有している肺がん患者由来のがんオルガノイド*1においても、同様に抗腫瘍効果があることを確認しております。現在、eNK®細胞を用いた治験の開始を目指し、PMDAや米国FDAとの相談を進めています。2024年12月には、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が公募した支援研究課題に採択され、eNK®細胞を用いて薬事規制に沿った各種非臨床試験の実施、臨床医と共同で投与方法の検討等に関する補助金交付が決定しました。2025年1月に、当社連結子会社Saisei Ventures LLCが100%出資する株式会社Akatsuki Therapeutics(以下、「Akatsuki社」といいます。)と、eNK®細胞を用いた次世代がん免疫細胞療法の研究・開発を推進するための共同事業契約及びライセンスオプション契約を締結しました。これまで当社が単独で実施してきたeNK®細胞の研究開発業務は、当社グループ全体の資源の効率的活用及び資金の機動的調達の観点より、今後Akatsuki社が主導し、当社はAkatsuki社より研究開発業務を受託します。なお、当社は、2024年7月開催の第30回日本遺伝子細胞治療学会学術集会において、CAR-eNK®細胞の作製に関する発表(講演)を行いました。また、2024年9月開催の第83回日本癌学会学術総会及び第5回日本石綿・中皮腫学会学術集会、その他、日/米の複数の学会において、eNK®細胞の研究成果について発表を行いました。*1 生体内の組織・器官に極めて似た特徴を有している3次元的な構造をもつ組織・細胞<細胞置換>iPSCプラットフォームとして、遺伝子編集技術を用いた、HLA型に関わりなく免疫拒絶のリスクを低減する次世代iPS細胞、UDCに関する研究を進めております。患者の免疫細胞に認識されにくいiPS細胞を作製することで拒絶反応を抑制し、有効性と安全性を高めた再生医療等製品を開発するための次世代技術プラットフォームの確立を目指しております。現在、UDCの臨床株及びマスターセルバンクが完成し、様々な細胞に分化できる能力を有することの確認など具体的な臨床応用に向けた研究を進めております。細胞治療への応用としては、国立研究開発法人国立国際医療研究センターと、血糖値に応じてインスリンを生産・分泌し血液中の糖の調整を担う膵臓β細胞に関し、UDCからの作製に成功しています。また、米国ノースウェスタン大学の研究チームが、UDCから分化させた聴神経前駆細胞が、遺伝子編集前の親株細胞から分化させた聴神経前駆細胞に比べて、蝸牛への移植後生着率向上を示すことを確認しました。研究開発の推進に向け、米国子会社(Healios NA, Inc.)を通じた補助金の活用等を進めています。なお、2024年7月に、UDCが自然免疫及び獲得免疫から回避されることを確認した当社研究員による学術論文が、査読付きジャーナル“Stem Cell Research & Therapy”に掲載されました。眼科領域において、iPS細胞由来網膜色素上皮(RPE)細胞(開発コード:HLCR011)を用いた治療法開発を住友ファーマと共同で進めており、2024年に網膜色素上皮裂孔の患者を対象とする第1/2相試験の患者組み入れを開始しました。また、2024年6月に、アステラス製薬株式会社の子会社であるアステラス インスティチュート フォー リジェネレイティブ メディシン(Astellas Institute for Regenerative Medicine、所在地:米国マサチューセッツ州ウェストボロー、以下、「AIRM」といいます。)との間で、当社が国立研究開発法人理化学研究所及び国立大学法人大阪大学(以下、「大阪大学」といいます。)と共有する網膜色素上皮(RPE)細胞の製造法ならびに大阪大学と共有する網膜色素上皮(RPE)細胞の純化法に関する特許を、日本以外の全世界における本特許の出願国でAIRMに非独占的に許諾するライセンス契約を締結しました。従来より肝疾患領域において、国立大学法人東京大学医科学研究所再生医学分野と進めていた、肝疾患に対する肝臓原基*2(開発コード:HLCL041)を用いた治療法の開発、UDCを用いた肝臓原基の製造法確立を目的とした研究につきましては、当社からカーブアウトした上でベンチャーキャピタル等の外部パートナーと共同で研究開発を推進する方向で準備を進めています。新たな治療薬の研究や細胞置換を必要とする疾患に対するさらなる治療法の研究を目的に、国内外の企業・研究機関10社以上にUDCやiPS細胞を提供し様々な疾患への適応可能性について評価を実施しています。*2 肝臓の基となる立体的な肝臓の原基。肝細胞に分化する前の肝前駆細胞を、細胞同士をつなぐ働きを持つ間葉系細胞と、血管をつくり出す血管内皮細胞に混合して培養することで形成されます。 なお、当社グループは医薬品事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
FY2023|3,402 文字
6【研究開発活動】当連結会計年度においては、体性幹細胞再生医薬品、iPSC再生医薬品の各分野において、以下のとおり研究開発を推進いたしました。当連結会計年度における研究開発費の総額は、2,304百万円(前連結会計年度は3,808百万円)であります。 (1)体性幹細胞再生医薬品分野当連結会計年度において、体性幹細胞再生医薬品を用いて、日本国内における脳梗塞急性期及びARDSに対する治療薬(開発コード:HLCM051)の開発を進めました。<炎症>脳梗塞急性期に対する治療薬の開発においては、有効性及び安全性を検討するプラセボ対照二重盲検第Ⅱ/Ⅲ相試験(治験名称:TREASURE試験)を実施しました。2022年3月末にすべての治験登録患者の投与後365日後データの収集が完了し、同年5月に試験データの一部を解析し速報値を公表しました。その結果、主要評価項目は未達となりました。一方で、脳梗塞患者の日常生活における臨床的な改善を示す複数の指標を通じて、全般的に1年後の患者の日常生活自立の向上が示唆されました。この結果を受け、当社がライセンス契約を締結しているアサシス社は、米国・欧州で同じ薬剤を使用している脳梗塞急性期の治験(治験名称:MASTERS-2試験)の主要評価項目を投与後90日から365日に変更する等について米国FDA(Food and Drug Administration)と協議し、2023年3月に要請が受理されました。2023年10月にはアサシス社が、米国・欧州で実施している治験(治験名称:MASTERS-2試験)の中間段階でのデータ解析を行い、統計学的有意性を満たすためには組み入れ患者数の追加が必要との結論になりました。2024年1月にTREASURE試験の結果に関する学術論文がJAMA Neurologyに掲載され、学術的に一定の評価を得ました。ARDSに対する治療薬の開発においては、肺炎を原因疾患としたARDS患者を対象に、有効性及び安全性を検討する第Ⅱ相試験(治験名称:ONE-BRIDGE試験)を実施しました。2021年8月と11月に、ONE-BRIDGE試験におけるHLCM051投与後90日と180日の評価項目のデータの一部を発表し、有効性並びに安全性について良好な結果が示されましたが、2022年3月末にPMDAと実施した再生医療等製品申請前相談の中で、本製品の有効性及び安全性に関する一定の合意は得られたものの、承認申請にあたってはデータ補強が必要との助言を受けました。2023年2月末にPMDAと追加試験に関する相談を実施し、データ補強に必要な臨床試験の概要について一定の合意が得られました。また、2023年7月には本試験開始に向けPMDAより、本試験に使用する治験製品に関し、大量生産が可能となる三次元培養法によって製造された治験製品を用いることの合意が得られました。なお、2023年8月にONE-BRIDGE試験の結果に関する学術論文が、査読付きジャーナルStem Cell Research & Therapyに掲載され、学術的に一定の評価を得ました。2023年10月には、アサシス社とARDSの開発・製造・販売に関する国内での独占的なライセンス契約について、その対象地域を全世界に拡大することで合意しました。また、今後あらたに当社が実施予定の臨床試験に使用する治験製品について、三次元培養法によって製造された治験製品を確保しました。2024年1月に本疾患を対象とした臨床試験に関する治験計画届を提出し、治験を開始しました。 (2)iPSC再生医薬品分野当連結会計年度において、がん免疫療法(開発コード:HLCN061)、細胞置換療法に関する研究開発を進めました。<がん免疫>eNK®細胞を用いて、固形がんを対象にしたがん免疫療法の研究を進めています。これまで当社グループが培ってきたiPS細胞を取り扱う技術と遺伝子編集技術を用いることで、殺傷能力を高めたeNK®細胞の作製に成功しており、更に大量かつ安定的に作製する製造工程を開発するなど、次世代がん免疫療法を創出すべく自社研究を進めています。神戸医療イノベーションセンター内に、2022年7月、当社の自社管理による細胞加工製造用施設が本稼働し、eNK®細胞の治験製品の製造に向けた試作製造に着手しております。現在までの研究の成果としては、国立研究開発法人国立がん研究センターとの共同研究において、複数種類のがん腫に由来するPDX(Patient-Derived Xenograft:患者腫瘍組織移植片)サンプルにより、eNK®細胞が認識する特定の分子候補の発現をRNAシーケンシングと免疫染色で確認しています。次のステップとして、PDXを用いてeNK®細胞の抗腫瘍効果などの評価を実施しています。更に、国立大学法人広島大学大学院とeNK®細胞を用いた肝細胞がんに対するがん免疫細胞療法に関する共同研究を、兵庫医科大学とeNK®細胞を用いた中皮腫に対するがん免疫細胞療法に関する共同研究を進めています。また、自社研究において、eNK®細胞が肺がん同所生着モデルマウス、肝がん皮下移植モデルマウス、胃がん腹膜播種モデルマウス、及び中皮腫皮下移植モデルマウスに対して抗腫瘍効果を有すること、生体におけるがんと同様の環境を有している肺がん患者由来のがんオルガノイド*1においても、同様に抗腫瘍効果があることを確認しております。現在、eNK®細胞を用いた治験の開始を目指し、PMDAとの相談を進めています。*1 生体内の組織・器官に極めて似た特徴を有している3次元的な構造をもつ組織・細胞 <細胞置換>iPSCプラットフォームとして、遺伝子編集技術を用いた、HLA型に関わりなく免疫拒絶のリスクを低減する次世代iPS細胞、UDCに関する研究を進めております。患者の免疫細胞に認識されにくいiPS細胞を作製することで拒絶反応を抑制し、有効性と安全性を高めた再生医療等製品を開発するための次世代技術プラットフォームの確立を目指しております。現在、UDCの臨床株及びマスターセルバンクが完成し、様々な細胞に分化できる能力を有することの確認など具体的な臨床応用に向けた研究を進めております。細胞治療への応用としては、国立研究開発法人国立国際医療研究センターと、血糖値に応じてインスリンを生産・分泌し血液中の糖の調整を担う膵臓β細胞に関し、UDCからの作製に成功しています。また、米国ノースウェスタン大学の研究チームが、UDCから分化させた聴神経前駆細胞が、遺伝子編集前の親株細胞から分化させた聴神経前駆細胞に比べて、蝸牛への移植後生着率向上を示すことを確認しました。眼科領域において、iPS細胞由来網膜色素上皮(RPE)細胞(開発コード:HLCR011)を用いた治療法開発を住友ファーマと共同で進めており、2023年5月にはPMDAによる事前の調査が終了し、2023年6月に網膜色素上皮裂孔の患者を対象とするフェーズ1/2試験を開始しました。肝疾患領域において、機能的なヒト臓器をつくり出す3次元臓器(開発コード:HLCL041)を用いた治療法開発に向けた研究を進めており、2022年4月より、国立大学法人東京大学医科学研究所再生医学分野と、肝疾患に対する肝臓原基*2を用いた治療法の実用化に向け、UDCを用いた肝臓原基の製造法確立を目的とした共同研究を進めてまいりました。2023年2月には、開発のさらなる加速のため、当社からカーブアウトした上でベンチャーキャピタル等の外部パートナーと共同で研究開発を推進する方針を決定いたしました。新たな治療薬の研究や細胞置換を必要とする疾患に対するさらなる治療法の研究を目的に、国内外の企業・研究機関10社以上にUDCやiPS細胞を提供し様々な疾患への適応可能性について評価を実施しています。*2 肝臓の基となる立体的な肝臓の原基。肝細胞に分化する前の肝前駆細胞を、細胞同士をつなぐ働きを持つ間葉系細胞と、血管をつくり出す血管内皮細胞に混合して培養することで形成されます。 なお、当社グループは医薬品事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。