研究開発費(時系列)
| 年度 | R&D費用(億円) | 設備投資(億円) |
|---|---|---|
| 2025-03 | - | 2,187 |
| 2024-03 | - | 1,506 |
| 2023-03 | - | 1,152 |
| 2022-03 | - | 1,068 |
| 2021-03 | - | 1,332 |
研究開発活動(本文)
FY2025|3,335 文字
6 【研究開発活動】当社グループは「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」という企業理念の下、技術センターにすべての研究・技術開発機能を集約し、当社グループの総合力を結集してイノベーション創出に取り組んでおります。将来にわたる持続的成長のために、研究・技術開発への継続的投資を行っており、コア技術である有機合成化学、高分子化学、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーをベースに、重合、製糸、製膜など要素技術の深化と融合を進め、各事業セグメントで先端材料の創出、事業化を実現しております。近年では、素材に関するナノテクノロジーの極限を追求した「スーパーナノテクノロジー」ともいうべき独自技術の各種事業への実用化を加速させてきました。繊維分野での革新複合紡糸技術「NANODESIGN®」、樹脂分野での革新的微細構造制御技術「NANOALLOY®」、フィルム分野での革新的積層制御技術「ナノ積層/NANO-Multilayer」などです。これらの技術は従来になかった特性と特長を有する素材を創出し、社会に付加価値を生み出し続けております。 当連結会計年度のセグメント別の研究・技術開発の概要は以下のとおりです。 (1) 繊維事業アパレル用新製品に向けたポリマー、紡糸の要素技術の深化に加え、環境調和型の新規繊維の創出や、極限技術追求による高機能製品や繊維先端材料の創出・拡大に主眼を置いた研究・技術開発を推進しております。その成果として、当社が開発した「高機能快適繊維素材に資する超精密複合紡糸技術」が公益財団法人市村清新技術財団の第57回(2024年度)市村賞 市村産業賞において最高位である「本賞」を受賞しました。当社独自の複合紡糸技術NANODESIGN®の開発と、同技術を駆使した新規高機能繊維の工業化が顕著な業績として評価されました。本技術は、従来では組み合わせることが困難であった原料の複合化や複数種類の原料を用いた複合紡糸も可能とし、精密に制御された繊維断面と原料特性とのシナジーによる高機能新素材を実現します。衣料用途だけでなく、産業資材用途からライフサイエンスまで幅広く展開を進めています。 (2) 機能化成品事業樹脂・ケミカル、フィルム、電子情報材料の新製品開発、及び既存製品の高性能・高機能化を目指した研究・技術開発に取り組んでおります。その成果として、フィルム分野では、独自ポリマー設計技術と二軸延伸技術により、150℃耐熱を有する高耐電圧コンデンサ用フィルムを創出しました。燃料電池車などのモーターの駆動装置(インバータ)の動作を安定化する主要部品がフィルムコンデンサです。本フィルムを用いた150℃耐熱フィルムコンデンサを用いることで炭化ケイ素(SiC)パワー半導体搭載インバータの小型化・軽量化を可能とし、EV、船舶、空飛ぶクルマなどの電動モビリティや産業機械の低電費化を実現し、脱炭素社会実現や物流効率化等の社会課題の解決に貢献します。NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成を受けて、実用化に向けた研究開発を進めています。さらに電子情報材料分野では、AIの進展に伴って増加するデータセンターの電力負荷低減に向けて電気通信よりも低エネルギー損失である光通信をデータセンター内で適用するための開発が進んでいます。この実現に向けて、光通信技術(シリコンフォトニクス)に用いられる光半導体(InP(インジウムリン)等)をシリコン基板上に実装するための材料及び技術を開発しました。 (3) 炭素繊維複合材料事業炭素繊維の高性能化と品質信頼性の追求により世界ナンバーワンを堅持するとともに、地球温暖化問題に貢献する複合材料事業の拡大を目指した研究・技術開発に取り組んでおります。そのような中、当社の子会社である東レ・カーボンマジック㈱が持つ、レーシングカーをはじめとした高性能移動体開発技術を応用し、高強度・高弾性炭素繊維「T1100G、M40X、M46X」を効率的に配した複合材構造により、空力と構造の両面で最高性能を目指した革新的バイクを開発しました。比類なき運動性能と操縦性を実現し、パリで行われた国際大会自転車競技トラック種目での日本代表選手の入賞や世界選手権における金メダル獲得に貢献しました。 (4) 環境・エンジニアリング事業水処理膜とエンジニアリングを軸に成長分野での事業拡大を目指し、研究・技術開発に取り組んでおります。その成果として、下廃水再利用プロセスにおいて高い除去性と透水性を両立し、長期間安定して良質な水を製造できる、限外ろ過(UF)膜を開発しました。世界各地の水需要拡大に対し、再利用水を飲料水や半導体製造に欠かせない超純水製造の水源とする取り組みがグローバルに始まっています。ナノ細孔形成過程を定量的に解析することで膜構造の詳細を分析し、ポリマー材料及び製造プロセスを精密に制御することで、孔径の微細化と微細孔の増量を同時に実現し、従来にない高除去UF膜を創出しました。これにより、造水コストを低減するだけでなく、RO膜の交換・廃棄に伴うCO₂排出量を30%以上削減することが期待できます。現在量産準備を進めており、2025年度末までに北米での発売を目指し、その後各地へ製品展開していく計画です。 (5) ライフサイエンス事業ライフイノベーション事業拡大のため医薬品、医療機器、バイオツールの研究・技術開発に取り組んでおります。その成果として、バイオ医薬品の製造工程に用いるための高効率分離膜モジュールを開発しました。バイオ医薬品の製造工程における目詰まりを低減することで、従来製品と比較してろ過性能が2倍以上に向上し、バイオ医薬品の高収率化並びに精製度向上が期待できます。2025年度中の販売開始を目標に量産体制の構築を進めます。 (6) 基礎研究・基盤技術開発カーボンニュートラルの実現に向けて、天然ガス田開発において求められる効率的なCO₂の分離・回収の実現に向けて、オールカーボンのCO₂分離膜の開発を進めています。東レが持つ中空糸の紡糸技術と薄層コーティング技術を深化させ、連続かつ安定した品質の製膜技術を構築し、同時にCO₂分離膜を束にする膜エレメントを製造する基本技術に目途を得ました。今後は、新たに導入するパイロット設備を活用して量産技術を構築するとともに、バイオガスや天然ガス生産の開発会社をはじめとするパートナー企業と幅広く連携して、スケールアップ試作や実証試験など実用化に向けた取り組みを加速します。また、循環型社会の実現に向けて、ナイロン66ケミカルリサイクル新技術を創出しました。主にエアバッグなどの自動車用繊維や樹脂成形品に用いられるナイロン66は、これまでケミカルリサイクルが困難と考えられていましたが、亜臨界水(注)を用いた独自の解重合新技術によりモノマー原料として回収できることを見出しました。まずは自動車素材をターゲットとして、使用済み原資に含まれる他素材の分離技術や、ナイロン66解重合、さらにはモノマーの分離及び精製技術を確立し、2025年に品質確認、顧客評価のためのサンプルワークができる体制を整え、2030年近傍にプラスチックリサイクルが法規制化される動きを見据えて、本格量産準備を進めていきます。(注) 亜臨界水:水の臨界点(374℃、22MPa)よりもやや低い領域の高温・高圧状態の水であり、有機化合物を溶解、加水分解する等、常温常圧水とは異なる特性を有する。 当連結会計年度の当社グループの研究開発費総額は、744億円(このうち東レ㈱の研究開発費総額は526億円)です。セグメント別には繊維事業に約10%、機能化成品事業に約26%、炭素繊維複合材料事業に約16%、環境・エンジニアリング事業に約7%、ライフサイエンス事業に約3%、本社研究・技術開発に約38%の研究開発費を投入しました。当連結会計年度の当社グループの特許出願件数は、国内で1,386件、海外で2,473件、登録された件数は国内で571件、海外で1,486件です。
FY2024|3,026 文字
6 【研究開発活動】当社グループは「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」という企業理念の下、技術センターにすべての研究・技術開発機能を集約し、当社グループの総合力を結集してイノベーション創出に取り組んでおります。将来にわたる持続的成長のために、研究・技術開発への継続的投資を行っており、コア技術である有機合成化学、高分子化学、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーをベースに、重合、製糸、製膜など要素技術の深化と融合を進め、各事業セグメントで先端材料の創出、事業化を実現しております。近年では、素材に関するナノテクノロジーの極限を追求した「スーパーナノテクノロジー」ともいうべき独自技術の各種事業への実用化を加速させてきました。繊維分野での革新複合紡糸技術「NANODESIGN®」、樹脂分野での革新的微細構造制御技術「NANOALLOY®」、フィルム分野での革新的積層制御技術「ナノ積層/NANO-Multilayer」などです。これらの技術は従来になかった特性と特長を有する素材を創出し、社会に付加価値を生み出し続けております。 当連結会計年度のセグメント別の研究・技術開発の概要は以下のとおりです。 (1) 繊維事業アパレル用新製品に向けたポリマー、紡糸の要素技術の深化に加え、環境調和型の新規繊維の創出や、極限技術追求による高機能製品や繊維先端材料の創出・拡大に主眼を置いた研究・技術開発を推進しております。その成果として、NANODESIGN®によって繊維断面を精密に制御した新しい原糸と、特殊な高次加工技術によって、天然素材のようなマルチラフネス構造(特殊な凹凸構造)を実現し、優れた水滴除去性を持つPFASフリー(フッ素を使用しない)の撥水ストレッチテキスタイル「DEWEIGHT™ (デューエイト)」を開発しました。2025年春夏シーズン向けからメンズ・レディス向けにアウターからボトムスまでの展開を予定しております。 (2) 機能化成品事業樹脂・ケミカル、フィルム、電子情報材料の新製品開発、及び既存製品の高性能・高機能化を目指した研究・技術開発に取り組んでおります。その成果として、㈱本田技術研究所と、ナイロン6樹脂の部品を亜臨界水で解重合し、原料モノマー(カプロラクタム)に再生する、ケミカルリサイクル技術に関する技術実証を開始しました。亜臨界水は高温・高圧の水で、触媒不使用で添加剤の影響を受けることがなく、数十分でナイロン6を解重合し、高収率で原料モノマーを生成することができます。2027年近傍の実用化を目指します。また、ステンレス鋼に匹敵する高強度を有する超高分子量ポリエチレンフィルムを創出しました。耐寒性や耐薬品性・低誘電性にも優れていることから、超電導・宇宙環境等の極低温環境での使用や、高強度を活かした部材の軽量化・省スペース化に貢献するほか、PFASの一種であるフッ素樹脂の代替材料として半導体製造工程での耐薬品保護用途に使用可能です。さらに、高速通信規格「5G」などを利用する通信機器に搭載する「ミリ波吸収フィルム」を開発し、日本経済新聞社が主催する「日経優秀製品・サービス賞」において「最優秀賞」を受賞しました。5ミリ波モジュールを搭載する5G関連機器の電磁波障害を解消し、機器の軽量化や設計自由度の向上に貢献します。 (3) 炭素繊維複合材料事業炭素繊維の高性能化と品質信頼性の追求により世界ナンバーワンを堅持するとともに、地球温暖化問題に貢献する複合材料事業の拡大を目指した研究・技術開発に取り組んでおります。そのような中、当社が開発した世界最高強度を持つトレカ®T1200が、公益社団法人高分子学会の「2023年度高分子学会賞(技術部門)」を受賞しました。従来品の性能を大きく上回る超高強度炭素繊維の創出に成功したことが評価されたものですが、航空機用途をはじめ、様々な用途にも展開していく予定です。また高弾性率を維持しつつ強度をさらに約20%高めたトレカ®M46Xを開発しました。今後、釣竿、自転車、ゴルフシャフトなどのスポーツ用途をはじめ、幅広い用途開拓を進め、2024年度に上市予定です。 (4) 環境・エンジニアリング事業水処理膜とエンジニアリングを軸に成長分野での事業拡大を目指し、研究・技術開発に取り組んでおります。その成果として、工場廃水の再利用、下水処理等での厳しい使用条件において、高い除去性を維持したまま、長期間安定して良質な水を製造できる、高耐久性逆浸透(RO)膜を開発しました。運転管理が容易となることに加え、交換頻度の半減やカーボンフットプリントの改善が期待できます。2024年上期より販売を開始します。 (5) ライフサイエンス事業ライフイノベーション事業拡大のため医薬品、医療機器、バイオツールの研究・技術開発に取り組んでおります。その成果として、膵がんの診断補助を使用目的とした体外診断用医薬品「東レAPOA2-iTQ (アポエーツーアイティーキュー)」の販売を開始しました。従来の腫瘍マーカーでは検出できなかった膵がん患者を早期に検出できることが期待されます。また、固形がんに対する治療薬として東レが独自に開発を進めている「TRK-950」について、胃がん患者を対象とした第Ⅱ相臨床試験を米国、日本、韓国の3ヵ国で開始しました。 上記セグメントに属さない基礎研究、基盤技術開発として、カーボンニュートラルの実現に向けて、水素社会の実現に貢献する基幹素材の開発に取り組んでおります。当期は、山梨県並びに技術開発参画企業10社で、サントリー天然水 南アルプス白州工場及びサントリー白州蒸溜所(山梨県北杜市)の脱炭素化を目指し、大規模P2Gシステムの構成機器をトータルシステムとして構築する工事を山梨県で開始しました。2025年の稼働を目指し、我が国最大の固体高分子(PEM)型水電解装置により脱炭素化を前進させ、地域再エネ利用型による水素エネルギー社会を推し進めていきます。また、循環型社会の実現に向けて、バイオマスの食物繊維を糖に分解する酵素を高生産する微生物(東レ呼称「T1281」)を独自に開発し、酵素量産化技術を確立しております。これら「非可食性バイオマスからの糖製造向け新規酵素の技術開発」の取り組みに対し、産経新聞社主催の「第36回 独創性を拓く 先端技術大賞」において「産経新聞社賞」を受賞しました。また、タイ国のCellulosic Biomass Technology Co., Ltd.において、この酵素を活用する「膜利用バイオプロセス」の基本技術を確立しました。2030年近傍を目標に、非可食バイオマスから化学品を製造するトータルサプライチェーンの構築を目指します。 当連結会計年度の当社グループの研究開発費総額は、705億円(このうち東レ㈱の研究開発費総額は498億円)です。セグメント別には繊維事業に約10%、機能化成品事業に約27%、炭素繊維複合材料事業に約16%、環境・エンジニアリング事業に約7%、ライフサイエンス事業に約3%、本社研究・技術開発に約37%の研究開発費を投入しました。当連結会計年度の当社グループの特許出願件数は、国内で1,403件、海外で2,876件、登録された件数は国内で637件、海外で1,562件です。
FY2023|3,322 文字
6 【研究開発活動】当社グループは「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」という企業理念の下、技術センターにすべての研究・技術開発機能を集約し、当社グループの総合力を結集してイノベーション創出に取り組んでおります。将来にわたる持続的成長のために、研究・技術開発への継続的投資を行っており、コア技術である有機合成化学、高分子化学、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーをベースに、重合、製糸、製膜など要素技術の深化と融合を進め、各事業セグメントで先端材料の創出、事業化を実現しております。近年では、素材に関するナノテクノロジーの極限を追求した「スーパーナノテクノロジー」ともいうべき独自技術の各種事業への実用化を加速させてきました。繊維分野での革新複合紡糸技術「NANODESIGN®」、樹脂分野での革新的微細構造制御技術「NANOALLOY®」、フィルム分野での革新的積層制御技術「ナノ積層/NANO-Multilayer」などです。これらの技術は従来になかった特性と特長を有する素材を創出し、社会に付加価値を生み出し続けております。 当連結会計年度のセグメント別の研究・技術開発の概要は以下のとおりです。 (1) 繊維事業アパレル用新製品に向けたポリマー、紡糸の要素技術の深化に加え、環境調和型の新規繊維の創出や、極限技術追求による高機能製品や繊維先端材料の創出・拡大に主眼を置いた研究・技術開発を推進しております。その成果として、『繊維断面の精密制御による高機能テキスタイルの開発』について、公益社団法人日本化学会より「第71回化学技術賞」を受賞しました。新発想の流動制御技術を用いることで、繊維断面形状の制御を飛躍的に高度化する、革新的な複合紡糸技術NANODESIGN®の創出と工業化が顕著な業績として評価されたものです。NANODESIGN®は、布帛や不織布などの繊維素材に求める機能を、断面形態やそれを構成するポリマーといった繊維の設計に落とし込むことが可能となり、新触感素材Camifu®など、従来素材とは一線を画す快適衣料用繊維の開発が可能となりました。今後、衣料分野での拡大に加え、産業資材用途からライフサイエンス製品まで各分野での応用展開も進めます。また、植物由来比率を世界最高水準に高めた銀面調人工皮革Ultrasuede® nu (ウルトラスエード ヌー)を開発しました。Ultrasuede®は、粗原料の一部に植物由来の再生資源を使用した品種について、2015年に世界で初めて商業生産を開始して以来、環境に配慮した製品開発に注力しており、今後も植物由来比率が向上した素材を使用し商品開発を進めます。 (2) 機能化成品事業樹脂・ケミカル、フィルム、電子情報材料の新製品開発、及び既存製品の高性能・高機能化を目指した研究・技術開発に取り組んでおります。その成果として、高耐熱アラミドポリマーの分子設計技術を駆使し、無孔でありながら電池作動を可能とする空気電池用イオン伝導ポリマー膜の創出に成功しました。リチウム空気電池のセパレータに適用することで、安全性の向上と電池の長寿命化が図れます。今後、電気自動車(EV)や産業用ドローン、UAM (Urban Air Mobility)などの航続距離拡大に向けた早期の技術確立を目指します。また、シンガポール科学技術研究庁A*STARの先端的半導体研究機関であるInstitute of Microelectronics (以下「IME」という。)と、SiC (炭化ケイ素)パワー半導体向け高放熱接着材料の実用化に向けた共同研究を開始しました。SiCパワー半導体は、省エネルギー・カーボンニュートラルの観点から、車載用途をはじめ、スマートグリッドやデータセンターなどへの拡大が期待されております。IMEの設計・試作・評価技術と、東レの材料・プロセス技術を融合することで、半導体の安全性や品質・信頼性の向上に取り組み、2025年の実用化を目指します。 (3) 炭素繊維複合材料事業炭素繊維の高性能化と品質信頼性の追求により世界ナンバーワンを堅持するとともに、地球温暖化問題に貢献する複合材料事業の拡大を目指した研究・技術開発に取り組んでおります。そのような中、航空機部材を熱溶着により高速で接合する技術を開発しました。本技術により、CFRP製機体の高レート生産と機体の軽量化が期待できます。2030年以降の機体実用化に向けて実証を進めるとともに、CFRPのさらなる適用拡大を推進してまいります。 (4) 環境・エンジニアリング事業水処理膜とエンジニアリングを軸に成長分野での事業拡大を目指し、研究・技術開発に取り組んでおります。そのような中、水処理需要の急速な拡大が見込まれるインド市場に新たな水処理研究拠点を開設しました。水処理分野においても豊富な研究実績を有するインド工科大学マドラス校(Indian Institute of Technology Madras)と、東レが保有する水処理膜を用いた下水再利用技術に関する共同研究を行い、同国への展開促進を目指します。 (5) ライフサイエンス事業ライフイノベーション事業拡大のため医薬品、医療機器、バイオツールの研究・技術開発に取り組んでおります。その成果として、医療機器分野で、公益社団法人 発明協会が主催する令和4年度の全国発明表彰において『抗血栓性透析モジュールの発明』が「特許庁長官賞」を受賞しました。また、同様の技術である『水の運動性に着目した抗血栓性ポリマーの設計と人工腎臓の工業化』が「2022年度高分子学会賞(技術部門)」を受賞しました。透析治療に使用される透析器等において、従来品に比べて膜の目詰まりが少なく、血液の流れが良い透析器等を実用化し、慢性腎不全及び急性腎不全患者様の生活の質(QOL)の向上や医療スタッフへの負荷軽減に貢献したことが評価されました。また、新規の体外診断用医薬品として、東レが独自に取得した抗体を用い、膵がんが疑われる患者様の血液中のアポリポ蛋白A2 (APOA2)アイソフォーム濃度を測定することで膵がんの診断を補助する検査キットを、厚生労働省へ製造販売承認申請しました。 上記セグメントに属さない基礎研究、基盤技術開発として、カーボンニュートラルの実現に向けて、水素社会の実現に貢献する基幹素材の開発に取り組んでおり、電解質膜(Catalyst Coated Membrane)の事業化に向け新たな事業部門としてHS事業部門を設立しました。また、世界的に需要が拡大する環境・モビリティ領域での事業拡大に向け、技術開発力及び技術マーケティング機能の強化、並びにグローバル開発拠点の連携強化を図るため、同領域の開発を一元的に担う「環境・モビリティ開発センター」を発足したほか、社内外の幅広い要素技術を融合させた素材開発を推進し、グリーントランスフォーメーション(GX)や次世代モビリティに対応する新研究棟を名古屋事業場に設置することを決定しております。更に、高度な分析や物性解析で総合的な研究開発支援を行う、子会社の㈱東レリサーチセンターにおいては、新社屋を滋賀に設立し、社外連携の高度化を目的にオープンラボ「先端分析プラットフォーム」を設置しました。社内外のオープンイノベーションの強化を図り、長期的視点での革新的な先端材料・先端技術の創出を通じて、持続可能な未来社会の実現に貢献してまいります。 当連結会計年度の当社グループの研究開発費総額は、689億円(このうち東レ㈱の研究開発費総額は498億円)です。セグメント別には繊維事業に約10%、機能化成品事業に約27%、炭素繊維複合材料事業に約15%、環境・エンジニアリング事業に約7%、ライフサイエンス事業に約4%、本社研究・技術開発に約37%の研究開発費を投入しました。当連結会計年度の当社グループの特許出願件数は、国内で1,514件、海外で3,232件、登録された件数は国内で604件、海外で1,480件です。
FY2022|2,660 文字
5 【研究開発活動】当社は「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」という企業理念のもと、技術センターにすべての研究・技術開発機能を集約し、当社グループの総合力を結集してイノベーション創出に取り組んでおります。将来にわたる持続的成長のために、研究・技術開発への継続的投資を行っており、コア技術である有機合成化学、高分子化学、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーをベースに、重合、製糸、製膜など要素技術の深化と融合を進め、各事業セグメントで先端材料の創出、事業化を実現しております。近年は、ナノテクノロジーの極限を追求することで、「スーパーナノテクノロジー」とも表現できる、素材の不連続な特性向上も達成してきました。繊維分野での革新複合紡糸技術「NANODESIGN®」、樹脂分野での革新的微細構造制御技術「NANOALLOY®」、フィルム分野でのナノ多層積層フィルム「PICASUS®」などです。これらの技術は既に実用化され、従来になかった特性と特長により社会に付加価値を生み出しております。 当連結会計年度のセグメント別の研究・技術開発の概要は以下のとおりです。 (1) 繊維事業アパレル用新製品に向けたポリマー、紡糸の要素技術の深化に加え、環境調和型の新規繊維の創出や、極限技術追求による高機能製品や繊維先端材料の創出・拡大に主眼を置いた研究・技術開発を推進しております。その成果として、低摩擦素材であるフッ素繊維「トヨフロン®」と高強度繊維を組み合わせることで、優れた摺動耐久性を持つ低摩擦・高摺動耐久テキスタイルを開発しました。本テキスタイルは、従来の当社品に比べて25倍以上の摺動耐久性を持つため、摺動材のメンテナンスコストの軽減や長寿命化を可能とします。今後、この特徴を活かして、各種産業用機械や工場設備、自動車関連部材、ベアリング等に用途展開を拡大します。 (2) 機能化成品事業樹脂・ケミカル、フィルム、電子情報材料の新製品開発、及び既存製品の高性能・高機能化を目指した研究・技術開発に取り組んでおります。その成果として、当社が世界で唯一展開する2軸延伸ポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム「トレリナ®」において、優れた耐熱性や難燃性と5G通信に適した誘電特性を保持しながら、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに匹敵する高い透明性を実現した透明耐熱フィルムを創出しました。5G透明アンテナをはじめ、透明フレキシブル回路基板(FPC)や透明ヒーター基材などの電子部品を中心とした幅広い用途展開が期待できます。また、パワー半導体用材料として、NMPフリーのポジ型感光性ポリイミドを開発しました。半導体保護膜として使用されるポリイミドは、製造の前工程で生じる高温に対応できる耐熱性に加え、耐薬品性や密着性、さらに使用する電子機器の電圧に応じた耐圧性も求められております。電気自動車(EV)のインバーターなどで求められる高い耐圧性をクリアし、かつ各国の環境規制にも準拠したNMPフリーグレードを製品ラインアップに加えることで、より幅広い用途での製品展開を目指します。 (3) 炭素繊維複合材料事業炭素繊維の高性能化と品質信頼性の追求により世界ナンバーワンを堅持すると共に、地球温暖化問題に貢献する複合材料事業の拡大を目指した研究・技術開発に取り組んでおります。そのような中、同事業の開発において、マテリアルズ・インフォマティクス技術を、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)設計へ導入し、要求される特性から材料設計を絞り込む逆問題解析手法を駆使することで、短期間で材料を開発する技術を確立しました。本技術を活用して短期間で開発した、優れた難燃性と力学特性を持つ次世代の航空機用途向けCFRPについては、今後実証を進め、航空機用途をはじめ、自動車、一般産業用途向けCFRPへの幅広い展開を図り、CFRPの需要拡大を推進します。 (4) 環境・エンジニアリング事業水処理膜とエンジニアリングを軸に成長分野での事業拡大を目指し、研究・技術開発に取り組んでおります。その成果として、食品飲料製造やバイオ分野において、精製・濃縮工程に用いる高耐久性の中空糸限外ろ過膜モジュールを開発し、サンプル提供を開始しました。本モジュールにより、従来食品分野の濃縮に用いられている熱濃縮法と比較して二酸化炭素(CO2)排出量で8割以上削減となる省エネルギー化が実現できます。 (5) ライフサイエンス事業ライフイノベーション事業拡大のため医薬品、医療機器、バイオツールの研究・技術開発に取り組んでおります。その一例として、現在、がん患者による第一相臨床試験実施中のがん治療薬「TRK-950」の治験については新たな治験実施施設を追加し、数種類のがん種を対象に、既存抗がん剤との併用投与を行い、高い薬効が得られるがん種を絞り込み中です。引き続き、関係機関と連携して開発を加速し、早期に患者様にお届けできるよう努力します。 上記セグメントに属さない基礎研究、基盤技術開発として、中空糸状の多孔質炭素繊維を支持体とし、その表面に薄い炭素膜の分離機能層を有するオールカーボンの2層構造を持つ革新CO2分離膜を創出しました。本分離膜は、優れたCO2の分離性能と高耐久性を兼ね備え、従来の無機系分離膜と比較して設備の小型化が可能です。また、シーメンス・エナジーAGと「戦略的パートナーシップの構築」に係る基本合意書を締結しました。革新的な固体高分子(PEM)型水電解を用いたグリーン水素製造技術の創出により、再エネ由来グリーン水素の導入拡大、及び戦略的なグローバル事業展開を共同で推進してまいります。これらカーボンニュートラル、循環型社会の実現に向けた研究・技術開発を加速します。 当連結会計年度の当社グループの研究開発費総額は、621億円(このうち東レ㈱の研究開発費総額は455億円)です。セグメント別には繊維事業に約10%、機能化成品事業に約28%、炭素繊維複合材料事業に約14%、環境・エンジニアリング事業に約7%、ライフサイエンス事業に約4%、本社研究・技術開発に約37%の研究開発費を投入しました。当連結会計年度の当社グループの特許出願件数は、国内で1,545件、海外で2,767件、登録された件数は国内で600件、海外で1,688件です。
FY2021|2,884 文字
5 【研究開発活動】当社は「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」という企業理念のもと、技術センターにすべての研究・技術開発機能を集約し、当社グループの総合力を結集してイノベーション創出に取り組んでおります。当社グループの研究・技術開発は、有機合成化学、高分子化学、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーをコア技術とし、これらの技術をベースに、重合、製糸、繊維高次加工、製膜など要素技術の深化と融合を進め、繊維、フィルム、ケミカル、樹脂、さらには電子情報材料、炭素繊維複合材料、医薬、医療機器、水処理事業とさまざまな事業分野で、先端材料を創出し事業化を実現しております。中期経営課題“プロジェクト AP-G 2022”では「成長分野でのグローバルな拡大」と「競争力強化」という基本戦略を維持しつつ、将来の大型テーマにリソースを配分し、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」実現に貢献すると共に基盤技術と固有技術を融合した総合力の強化を推進していきます。 当連結会計年度のセグメント別の研究・技術開発の概要は以下のとおりです。 (1) 繊維事業アパレル用新製品に向けたポリマー、紡糸の要素技術の深化に加え、環境調和型の新規繊維の創出や、極限技術追求による高機能製品や繊維先端材料の創出・拡大に主眼を置いた研究・技術開発を推進しております。その成果として、複合繊維の断面形状を任意にかつ高精度に制御する革新複合紡糸技術「NANODESIGN®」を用いて、手すき和紙のようなぬくもりや触感を実現するポリエステル長繊維テキスタイル「Camifu®」(カミフ)を開発しました。「Camifu®」は構成するポリマーの一部をリサイクルポリマーとした環境にも配慮した素材です。また、優れた洗濯耐久性と着用快適性を有する抗ウイルステキスタイル「MAKSPEC® V」(マックスペック® V)を開発しました。さらに、快適性を追求する使い切り保護服「LIVMOA®」(リブモア®)シリーズにおいて、粉じんや水の浸入を防ぎつつ、衣服内の蒸れを軽減する通気性を有する「LIVMOA®4000」(リブモア®4000)を開発しました。 (2) 機能化成品事業樹脂・ケミカル、フィルム、電子情報材料の新製品開発、及び既存製品の高性能・高機能化を目指した研究・技術開発に取り組んでおります。その成果として、ポリアミド6樹脂が持つ高い耐熱性、剛性、強度を維持しながら、繰り返し折り曲げ疲労耐久性を従来の15倍まで飛躍的に高めた新規ポリマー材料「しなやかなタフポリマー」を創出しました。今後、自動車、家電製品、スポーツ用品など疲労耐久性が必要な用途への展開が期待できます。また、金属リチウムを負極に使用したリチウムイオン二次電池(LiB)のリチウムデンドライトの抑制とイオン伝導性の両立に貢献する無孔セパレータを創出し、LiBの超高容量化と高安全化を実現しました。さらに、世界で初めて毒性元素を含まない環境に調和した有機発光材料を用いることで、液晶ディスプレイの高色域化を実現したSCOシート(Spectrum Conversion by Organic phosphor sheet)が、国際情報ディスプレイ学会(The Society for Information Display)における“Display Industry Award : Display Component of the Year”を受賞しました。 (3) 炭素繊維複合材料事業炭素繊維の高性能化と品質信頼性の追求により世界ナンバーワンを堅持すると共に、地球温暖化問題に貢献する複合材料事業の拡大を目指した研究・技術開発に取り組んでおります。そのような中、ドイツのLilium(リリウム)社と、同社が開発中のUAM「リリウム・ジェット(Lilium Jet)」に使用する炭素繊維複合材料の供給契約を締結しました。UAMは、都市部の交通が抱える渋滞・騒音・大気汚染といった課題の解決に繋がる新交通システムとして期待されるとともに、「空飛ぶ車」とも呼ばれ、垂直離着陸が可能な小型電動機を主流に開発が進んでいます。当社はUAM特有の諸課題に応える炭素繊維複合材料の開発を通して、都市部における環境問題の解決に貢献していきます。また、三井海洋開発㈱と、浮体式海洋石油・ガス生産/貯蔵積出設備向けに、炭素繊維複合材料を用いた補修技術を共同で開発し、腐食による減肉部への補修法として、アメリカ船級協会の承認を取得しました。 (4) 環境・エンジニアリング事業水処理膜とエンジニアリングを軸に成長分野での事業拡大を目指し、研究・技術開発に取り組んでおります。その成果として、水処理に用いられるPVDF (ポリフッ化ビニリデン)製限外ろ過(Ultrafiltration : UF)膜について、高ウイルス除去性と高透水性を兼ね備えた新たなUF膜を開発しました。ウイルスを効果的に除去し、かつ透水性が低下しないため、食品・飲料から下廃水再利用など幅広い分野の水処理において、安全・安心な処理水を省エネルギー、低コストで提供することが期待できます。 (5) ライフサイエンス事業ライフイノベーション事業拡大のため医薬品、医療機器、バイオツールの研究・技術開発に取り組んでおります。その一例として、多くのがん種で薬効が期待できる新しいコンセプトの抗体医薬「TRK-950」は、2017年3月にフェーズⅠの臨床試験を米国とフランスで開始し、これまでに100例以上に投与しましたが、安全性への問題は出ておりません。さらに安全性や有効性を確認中であり、がん治療薬として早期の申請を目指します。 上記セグメントに属さない基礎研究、基盤技術開発として、カーボンニュートラルの実現を目指した新たな事業創出に向け、電解質膜、電極基材などの水電解・水素圧縮や燃料電池向け材料の開発を進めております。山梨県甲府市米倉山の電力貯蔵技術研究サイトにおいて、山梨県、東京電力ホールディングス㈱と、P2G (Power to Gas)システムの技術開発を進めており、今後、共同事業体の設立に向けた検討を進めることについて合意しました。この取り組みを通じて、カーボンニュートラルを可能とする水素製造(水電解)、水素インフラ(圧縮・貯蔵)及び水素利用(燃料電池)技術の発展に貢献していきます。 当連結会計年度の当社グループの研究開発費総額は、628億円(このうち東レ㈱の研究開発費総額は470億円)です。セグメント別には繊維事業に約10%、機能化成品事業に約28%、炭素繊維複合材料事業に約14%、環境・エンジニアリング事業に約7%、ライフサイエンス事業に約4%、本社研究・技術開発に約37%の研究開発費を投入しました。当連結会計年度の当社グループの特許出願件数は、国内で1,373件、海外で3,504件、登録された件数は国内で442件、海外で1,676件です。
FY2020|2,823 文字
5 【研究開発活動】当社グループ(当社及び連結子会社)の研究・技術開発は、有機合成化学、高分子化学、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーをコア技術とし、これらの技術をベースに、重合、製糸、繊維高次加工、製膜、有機合成など要素技術の深化と融合を進め、繊維、フィルム、ケミカル、樹脂、さらには電子情報材料、炭素繊維複合材料、医薬、医療機器、水処理事業とさまざまな事業分野で、先端材料を創出し事業化を実現している。中期経営課題“プロジェクト AP-G 2019”では、「グリーンイノベーション」、「ライフイノベーション」事業に重点を置き新技術・新素材を創出するとともに、そうした技術・素材の持つ本質的価値を顕在化させるための取り組みを進めてきた。新たな中期経営課題“プロジェクト AP-G 2022”でも「成長分野でのグローバルな拡大」と「競争力強化」という基本戦略は維持しつつ、将来の大型テーマにリソースを配分し、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」実現に貢献すると共に基盤技術と固有技術を融合した総合力の強化を推進していく。 当連結会計年度のセグメント別の研究・技術開発の概要は次のとおりである。 (1) 繊維事業 基幹事業としての安定収益基盤の強化と収益拡大に向け、極限技術追求による高機能製品や繊維先端材料の創出・拡大に主眼を置いた研究・技術開発を推進した。その成果として、複合繊維の断面形状を任意にかつ高精度に制御する革新複合紡糸技術NANODESIGN®を用いて、環境低負荷と撥水性能を高いレベルで両立する「ナノスリットナイロン」及び艶感、嵩高、絹鳴りといった天然シルクの特徴とプリーツ保持、防シワといったイージーケア性を両立する次世代シルキー素材「KinariTM」を開発した。また、部分植物由来であるPTT(ポリトリメチレンテレフタレート)と、通常廃棄される工程屑をリサイクルしたPET原料を組み合わせることで、構成成分の約68%を環境配慮型素材とした、環境にやさしいストレッチ原糸を実現し、従来、一般的なリサイクルPET原料では、優れたストレッチ性の発現が困難であったが、東レのポリマ-品質制御技術と紡糸技術の組み合わせにより、リサイクルPET原料を用いた場合にもバージンPET使用時と同等レベルのストレッチ性を維持した、新しい環境配慮型Primeflex®の開発に成功した。(2) 機能化成品事業 基幹事業として安定収益基盤の強化、戦略的拡大事業として中長期での収益拡大に向け、新製品開発、高付加価値化を目指し、研究・技術開発に取り組んだ。その成果として、新規の光学設計に基づいた樹脂屈折率の高精度制御により、正面からの光を透過し、斜めからの光を反射するという全く新しい機能を発現させたナノ積層フィルム「PICASUS®VT」を開発した。今後AR(拡張現実)やMR(複合現実)用途におけるディスプレイ用フィルムなどへの展開が期待出来る。また、5G通信機器や、自動運転などに用いられるミリ波レーダーの高周波用電子部品に適したポリイミド材料を開発した。ポリイミドが持つ高い信頼性と、低誘電損失の性能を兼ね備えることで、高周波部品の性能向上に大きく貢献する。さらに、従来真球化が困難であった高融点ポリアミド(ポリアミド6、66)を簡便にマイクロレベルの真球粒子にする新しい技術を創出した。本技術により、高い耐熱性、強度を必要とする実用部品向けの造形物を3Dプリンターで実現することが期待出来る。(3) 炭素繊維複合材料事業 当社の代表的ナンバーワン事業であり戦略的拡大事業として、グリーンイノベーション事業拡大、アジア・新興国及び米州での事業拡大のための研究・技術開発に取り組んだ。その成果として、オートクレーブを使用せずとも高品位で力学特性に優れた炭素繊維強化プラスチック成形体を得ることが可能な新規航空機一次構造部材向けプリプレグを開発した。(4) 環境・エンジニアリング事業 機能化成品、炭素繊維複合材料に続く次の収益拡大の柱とするために、重点育成・拡大事業として研究・技術開発に取り組んだ。その成果として、水質を維持しつつ、世界最高レベルの造水性能を有する海水淡水化向け逆浸透(RO)膜を開発した。また、優れたイオン・有機物の選択分離性能を持ち、造水性能を3倍に高めた世界最高レベルの超高造水ナノろ過(NF)膜を創出した。 (5) ライフサイエンス事業 重点育成・拡大事業として研究・技術開発に取り組んだ。その成果として、2017年3月よりがん免疫治療薬として米国2施設と仏国1施設で臨床試験を実施中の抗体医薬品「TRK-950」は、2019年4月より米国を5施設に拡大し、大腸がん、胆管がん、膀胱がん、卵巣がん、胃がん、腎臓がん、悪性黒色腫などを対象に臨床試験を継続中である。また、早期がん診断用に開発中の当社DNAチップを用いた膵臓・胆道がん検査キットが、2019年4月に厚生労働省の「体外診断用医薬品先駆け審査指定品目」に指定され、2020年度中の申請を目指す。さらに、敗血症又は敗血症性ショックの治療に使用されているエンドトキシン除去向け吸着型血液浄化用浄化器「トレミキシン®」について、カナダにおける新型コロナウイルス感染症の治療に対する暫定的な使用許可をカナダ保健省より取得した。 上記セグメントに共通する取り組みとして、創業の地である滋賀事業場に新たな研究拠点として、未来創造研究センターを設立・開所した。同センターは、未来創造型研究の中枢として革新材料・デバイス・システムのアイデアを創出する融合研究棟と、そのアイデアを基に試作・評価・実証を推進する実証研究棟の2棟から構成されており、東レの研究のDNAである、極限追求、技術融合、超継続などを継承しつつ、最先端の技術を活用し、独自の高分子技術によるファインポリマー&ナノファブリケーションや、マテリアルインフォマティクス(MI)や人工知能(AI)等を駆使したコンピュータ&マテリアルサイエンスの融合により、先端医療、新エネルギー、分離システムなどグリーンイノベーション・ライフイノベーション分野における先端材料・デバイス・システムの創出に取り組むことで研究・技術開発を推進、強化する。 当連結会計年度の当社グループの研究開発費総額は、669億円(このうち東レ㈱の研究開発費総額は495億円)である。セグメント別には繊維事業に約9%、機能化成品事業に約28%、炭素繊維複合材料事業に約15%、環境・エンジニアリング事業に約7%、ライフサイエンス事業に約4%、本社研究・技術開発に約37%の研究開発費を投入した。 当連結会計年度の当社グループの特許出願件数は、国内で1,641件、海外で3,658件、登録された件数は国内で542件、海外で1,961件である。
FY2019|2,836 文字
5 【研究開発活動】当社グループ(当社及び連結子会社)の研究・技術開発は、有機合成化学、高分子化学、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーをコア技術とし、これらの技術をベースに、重合、製糸、繊維高次加工、製膜、有機合成など要素技術の深化と融合を進め、繊維、フィルム、ケミカル、樹脂、さらには電子情報材料、炭素繊維複合材料、医薬、医療機器、水処理事業とさまざまな事業分野で、先端材料を創出し事業化を実現している。2017年2月に策定した中期経営課題“プロジェクト AP-G 2019”では、「グリーンイノベーション」、「ライフイノベーション」事業に重点を置き新技術・新素材を創出するとともに、そうした技術・素材の持つ本質的価値を顕在化させるための取り組みを進めることで収益を確保する。また、知的財産戦略による参入障壁の構築により技術競争力の優位性を堅持していく。 当連結会計年度のセグメント別の研究・技術開発の概要は次のとおりである。 (1) 繊維事業 基幹事業としての安定収益基盤の強化と収益拡大に向け、極限技術追求による高機能製品や繊維先端材料の創出・拡大に主眼を置いた研究・技術開発を推進している。その成果として、革新的な複合紡糸技術NANODESIGN®(ナノデザイン)を用い、世界最細繊度である0.8dtexの2成分バイメタル繊維からなる新しいPrimeflex®(プライムフレックス)の開発に成功した。また、独自の技術により、ナイロンポリマーを染料が結合しやすい構造に改質するとともに、セラミックス粒子を均一に微分散することで、色落ちの原因となる非結晶部分が少ない繊維構造を形成し、鮮やかで深みのある色彩と、高い染色堅牢性を持つ紫外線遮蔽ナイロンテキスタイル「深発色™ナイロン」を開発した。さらに世界で初めて、植物由来原料をポリエステルとポリウレタンの一部に使用し、世界最高水準となる約30%の植物由来原料比率を実現したスエード調人工皮革「Ultrasuede® BX」(ウルトラスエード ビーエックス)の開発に成功した。(2) 機能化成品事業 基幹事業として安定収益基盤の強化、戦略的拡大事業として中長期での収益拡大に向け、新製品開発、高付加価値化を目指し、研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、当社独自のナノテクノロジーであるナノアロイ®をベースとしたアロイ精密制御技術を用いてポリマー構造を最適化することで、ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下「PPS樹脂」)が有する高い耐熱性や耐薬品性を維持しながら、世界最高レベルの柔軟性を有した新規PPS樹脂を開発した。また、独自のナノ積層技術をさらに深化させ、革新的な層配列デザインにより、ガラス並みの透明性を維持しつつ、温度上昇の原因となる太陽からの赤外線に対する世界最高レベルの遮熱性を備えた革新的な遮熱フィルムを開発した。さらに、食品や生活用品など身近な商品の軟包装材向け印刷用に世界初となる水なしオフセット印刷機を開発した。独自の水なし平版と、省電力LED-UV技術によるインキ乾燥方式と組み合わせることで、揮発性有機化合物を用いず、従来の印刷方式に比べて約80%の消費電力削減を実現した。(3) 炭素繊維複合材料事業 当社の代表的ナンバーワン事業であり戦略的拡大事業として、グリーンイノベーション事業拡大、アジア・新興国及び米州での事業拡大のための研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、トレードオフの関係にある繊維強度と弾性率の両方を極限追求し、従来よりも細かいナノレベルで繊維内部の黒鉛結晶構造を緻密に制御し配向性を高める技術を適用し、従来の炭素繊維と同等の弾性率を保持したまま、強度を約30%向上させた新しい炭素繊維「トレカ®MXシリーズ」を開発した。また、昨年度開発したオートクレーブを使用しない新成形技術に適した航空機一次構造部材向けプリプレグを新たに開発した。 (4) 環境・エンジニアリング事業 機能化成品、炭素繊維複合材料に続く次の収益拡大の柱とするために、重点育成・拡大事業として研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、逆浸透膜(RO膜)エレメントに通す供給水と透過水が流れる際の抵抗を極限まで抑えつつ、供給水の流速を高める技術を開発し、造水効率を最大2倍に向上させることに成功した。また、様々な分野の水処理用途に展開しているPVDF(ポリフッ化ビニリデン)製限外ろ過(UF)膜について、孔径制御技術を深化させ、微少な物質を効果的に分離し、かつ高透水性を兼ね備えたUF膜創出に成功した。(5) ライフサイエンス事業 重点育成・拡大事業として研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、合成繊維の紡糸技術を応用し、海島複合繊維の表面形態や化学構造を制御することで、細胞やタンパク質等のバイオターゲットの選択的除去を可能にし、これまでの繊維吸着体に比べ性能と安全性の向上が期待される、新規の血液浄化用繊維吸着体を創出した。また、当社DNAチップを用いて実施された、早期がん及び認知症の検出用マーカー開発を目的とした大規模国家プロジェクトを完遂した。研究成果の実用化に向け、早期の体外診断薬承認取得を目指す。さらに、㈱ボナックと共同開発を進めてきた核酸医薬品「TRK-250」について、米国での第Ⅰ相臨床試験を開始した。その上、米国食品医薬品局より特発性肺線維症を適応とするオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)の指定を受けた。そのほか、第Ⅰ相臨床試験を進めている抗体医薬品「TRK-950」は、現在、新たな治験実施施設を追加し、数種類のがん種を対象に、既存抗がん剤との併用投与を行い、薬効が得られるがん種を探索している。引き続き、関係機関と連携して開発を加速し、がん治療薬として早期の承認取得を目指す。 上記セグメントに属さない基礎研究、基盤技術開発として、独自の機能性高分子設計技術を駆使し、初期長に対して10倍に引き伸ばしても破断せずに復元する、皮膚のような柔軟性を有する新規の生体吸収性ポリマーを創出した。加えて、このポリマーの加水分解による分解速度を10倍に向上させる技術も見出した。今後、本技術を適用したポリマーを用いた再生医療などの医療用途の開発や各種産業用途への拡大を推進する。 当連結会計年度の当社グループの研究開発費総額は、664億円(このうち東レ㈱の研究開発費総額は488億円)である。セグメント別には繊維事業に約9%、機能化成品事業に約28%、炭素繊維複合材料事業に約14%、環境・エンジニアリング事業に約6%、ライフサイエンス事業に約5%、本社研究・技術開発に約38%の研究開発費を投入した。 当連結会計年度の当社グループの特許出願件数は、国内で1,617件、海外で4,037件、登録された件数は国内で473件、海外で2,087件である。
FY2018|3,611 文字
5 【研究開発活動】当社グループ(当社及び連結子会社)の研究・技術開発は、創業以来、「研究・技術開発こそ、明日の東レを創る」との信念に基づき、先端材料の研究・技術開発を推進している。東レのコア技術は、創業以来培われてきた「有機合成化学」「高分子化学」「バイオテクノロジー」であり、これらの技術を発展させながら、繊維からフィルム、ケミカル、樹脂と事業を拡大し、さらには電子情報材料、炭素繊維複合材料、医薬・医療、水処理事業へと発展を続けてきた。近年新たに「ナノテクノロジー」をコア技術に加え、成長市場へ向けてさまざまな先端材料を開発している。 2017年2月に策定した中期経営課題“プロジェクトAP-G 2019”では、「グリーンイノベーション」、「ライフイノベーション」事業に重点を置き新技術・新素材を創出するとともに、そうした技術・素材の持つ本質的価値を顕在化させるための取り組みを進めることで収益を確保する。また、知的財産戦略による参入障壁の構築により技術競争力の優位性を堅持していく。 当連結会計年度のセグメント別の研究・技術開発の概要は次のとおりである。 (1) 繊維事業基幹事業としての安定収益基盤の強化と収益拡大に向け、極限技術追求による高機能製品や繊維先端材料の創出・拡大に主眼を置いた研究・技術開発を推進している。その成果として、リミテッドユース防護服「LIVMOA®(リブモア®)」に対して、生地へ独自の耐油加工を施すことで、通気性と防じん性を保持しながら、外部からの油の浸透抑制機能を向上させた。また、当社が保有する繊維ナノスケール加工技術を応用した微細加工技術により、防虫機能を持つ多層構造の被膜をテキスタイル表面に立体的に形成させることに成功、従来の防虫素材では両立できなかった高い防虫機能と、肌への刺激を考慮した安全性を実現した防虫テキスタイルWithRelief™(ウィズリリーフ™)を開発した。さらに、防水性と透湿性を合わせ持つ高機能テキスタイルEntrant®(エントラント®)について、当社が長年培ってきた製膜技術と膜加工技術を駆使し、降雨に対する防水性能を損なわない範囲で、最大限に防水透湿層の空隙孔径を広げることに成功、これにより、Entrant®の特長である防水透湿性を保持したまま、従来品と比べ約50倍の通気性を持つ高通気タイプの開発に成功した。(2) 機能化成品事業基幹事業として安定収益基盤の強化、戦略的拡大事業として中長期での収益拡大に向け、新製品開発、高付加価値化を目指し、研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、高硬度ナノ粒子に機能性高分子型分散剤を組み合わせた高機能・有機無機ハイブリッドコートにより、擦れキズの付きにくい硬度と平滑な表面を実現した新規PETフィルムを開発した。また、従来の二軸延伸PETフィルムのもつ特性(絶縁性、ハンドリング性、加工性)を保持しつつ、PETフィルムとしては世界最高レベルとなる、従来品比約2.5倍の高い熱伝導率をもつ二軸延伸PETフィルムの開発に成功した。さらに、X線非破壊検査やマンモグラフィーにおいて、従来と比較して2~4倍鮮明な画像を得ることが可能なX線シンチレータパネルを開発した。その他、包装用フィルム素材への軟包装印刷で、有機溶剤を用いない東レ水なし平版®、水溶性UVインキ・洗浄液、省電力LED―UV技術によって大幅に環境負荷が低減できる「VOCフリー水なしオフセット印刷システム」を開発した。(3) 炭素繊維複合材料事業当社の代表的ナンバーワン事業であり戦略的拡大事業として、グリーンイノベーション事業拡大、アジア・新興国及び米州での事業拡大のための研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、炭素繊維強化プラスチックの成形方法において、寸法精度の向上と省エネの両方を実現可能な新規成形技術を開発した。今回開発した成形技術は、所定数の面状ヒーターを金型表面に配置し、真空圧下において部材への接触加熱を用いることにより、従来の成形方法に対して約50%の省エネを実現した。さらに、各ヒーターを個別制御し、各部位に最適な温度分布を付与することにより残留応力の分布を均一化し、部材をより設計通りに近い形状、寸法に成形することができ、組立時の労力及び作業時間の低減が期待できる。また、次世代を担う高性能炭素繊維を創出するための革新プロセス開発設備の導入を決定した。本開発設備では、更なる高強度化を図った世界最高強度糸の開発や、革新的な生産性改善技術の開発により、来るべき循環型社会・水素社会に向け、環境配慮型製品向け素材として炭素繊維の普及拡大を目指し、更なる高性能化とコストバランスの両立へ取り組んでいく。 (4) 環境・エンジニアリング事業機能化成品、炭素繊維複合材料に続く次の収益拡大の柱とするために、重点育成・拡大事業として研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、水処理関連では、国立研究開発法人理化学研究所と共同で、水に含まれる有機物やバクテリア等の汚れ成分が、逆浸透膜に付着し目詰まりする現象をさまざまな条件下で分析する革新技術を開発した。本技術を参考にして、新規低ファウリング(高防汚)膜の開発に繋げた。また、下水・産業廃水の処理・再利用方法の一つである膜分離活性汚泥法の散気エネルギーを高効率に洗浄エネルギーへ変換する基礎技術を開発した。そのほか、「高機能性逆浸透膜の開発」について、一般社団法人日本化学工業協会より「第49回(平成29年度)日化協技術賞総合賞」を受賞した。(5) ライフサイエンス事業重点育成・拡大事業として研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、そう痒症改善薬「TRK-820」口腔内崩壊錠(OD錠)を開発し、レミッチ®(*1)OD錠2.5μgの国内製造販売承認を取得、販売を開始した。レミッチ®(*1)OD錠2.5μgは、水あり、水なし、どちらの服用も可能であることから、高齢者など嚥下機能が低下している患者や、水分摂取の制限が必要とされる患者の利便性が向上することが期待される。また、当社が開発を進めているがん治療薬「TRK-950」について、米国での第Ⅰ相臨床試験を進めた。今後もグローバルな臨床開発を推進し、画期的がん治療薬として早期承認取得を目指す。さらに、ピント矯正力を向上させた遠近両用コンタクトレンズ「プレリーナⅡ Rich®(*2)」を開発した。近年の高年齢化に伴い、コンタクトレンズ装用人口の高年齢層の増加、拡大が進んでおり、手元の見え方が物足りなく感じ始める50代以上を想定した製品である。「やわらかハード」素材を使用しており、手入れ時の破損を最小限に抑えるほか、酸素透過性が高く、眼科医の指導のもと、最長1週間の連続装用が可能である。 (*1)レミッチ®は鳥居薬品㈱の登録商標である。(*2)プレリーナⅡ Rich®は愛称で、医療機器製造販売承認の販売名はプレリーナⅡである。 上記セグメントに共通する取り組みとして、ドイツ・ミュンヘン近郊に「オートモーティブセンター欧州」を設立した。環境規制で先行する欧州でのグリーンイノベーション事業関連のR&D機能強化の一環として、炭素繊維複合材料、樹脂、フィルムをはじめとする先端素材(中間基材)と、それらの特性をどのように引き出すかという使いこなしの技術(成形、設計)、実験・評価・技術支援を組み合わせた、総合的なソリューションを提供していく。 上記セグメントに属さない基礎研究、基盤技術開発として、タイで建設を進めていた、非可食バイオマスから各種バイオ化学品製造の共通原料となる糖を省エネルギーで製造する「膜利用糖化プロセス」の実証プラントが完成し、その稼働を開始した。本プロセスの技術実証と事業化検討を進める。 また、創立90周年記念の一環として整備を進めている未来創造研究センターは、開発品の試作・評価・実証を推進する「実証研究棟」が完成した。引き続き、アイディア創出機能を有する「融合研究棟」の整備を進め、材料研究の深化と革新を担うグローバル研究のヘッドクォーターとして、未来創造型研究・技術開発を推進・強化していく。 当連結会計年度の当社グループの研究開発費総額は、662億円(このうち東レ㈱の研究開発費総額は480億円)である。セグメント別には繊維事業に約8%、機能化成品事業に約32%、炭素繊維複合材料事業に約11%、環境・エンジニアリング事業に約7%、ライフサイエンス事業に約6%、本社研究・技術開発に約36%の研究開発費を投入した。当連結会計年度の当社グループの特許出願件数は、国内で1,587件、海外で3,839件、登録された件数は国内で578件、海外で1,866件である。
FY2017|3,491 文字
6 【研究開発活動】当社グループ(当社及び連結子会社)の研究・技術開発は、有機合成化学、高分子化学、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーという当社が培ってきたコア技術をベースに、基幹事業である繊維、プラスチック・ケミカル事業の安定収益基盤強化・収益拡大を推進するとともに、成長する重点4領域(①環境・水・エネルギー、②情報・通信・エレクトロニクス、③自動車・航空機、④ライフサイエンス)に絶え間なく革新的先端材料を供給する役割を担っている。また、地球温暖化防止や環境負荷低減に対して、当社グループの総合力を発揮してソリューションを提供する新たな切り口で、さらなる成長を推進していく。 2017年2月に策定した中期経営課題“プロジェクトAP-G 2019”では、「グリーンイノベーション」、「ライフイノベーション」事業に重点を置き新技術・新素材を創出するとともに、そうした技術・素材の持つ本質的価値を顕在化させるための取り組みを進めることで収益を確保する。また、知的財産戦略による参入障壁の構築により技術競争力の優位性を堅持していく。 当連結会計年度のセグメント別の研究・技術開発の概要は次のとおりである。 (1) 繊維事業基幹事業としての安定収益基盤の強化と収益拡大に向け、極限技術追求による高機能製品や繊維先端材料の創出・拡大に主眼を置いた研究・技術開発を推進している。その成果として、当社が開発した、複合繊維の断面形状を任意にかつ高精度に制御する革新複合紡糸技術“NANODESIGN®”を適用して、超極細繊維特有の滑らかでしなやかな風合いを有しながら、コンパクトな嵩高性や伸縮性を併せ持ったポリエステル超極細微細捲縮テキスタイル“uts-FIT”を開発した。また、生体情報検知機能素材hitoe®の商品開発を推進し、生体情報の連続計測による「hitoe® 作業者みまもりサービス」の提供を開始した。さらに医療分野での用途拡大のため、心電測定用製品の開発を進め、一般医療機器として独立行政法人 医薬品医療機器総合機構へ「hitoe メディカル電極」の届出・登録を完了した。 (2) プラスチック・ケミカル事業基幹事業として安定収益基盤の強化と収益拡大、そして持続可能な循環型社会の発展に主眼を置いた研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、ポリアミドに、分子結合部がスライドする環動ポリマーの構造を組み込むことで、加えられた力を分子レベルで分散し、硬さや強さを保ちながらも、衝撃を受けても壊れにくいポリマー材料を開発することに世界で初めて成功した。また、経口プロスタサイクリン(PGI2)製剤 ラプロス®について、猫の慢性腎臓病治療薬としての製造販売承認を取得した。国内で「腎機能低下の抑制」を効能効果として承認を取得した薬剤はラプロス®が初めてである。そのほか、独自のバリア膜形成技術をベースに、当社現行品と同等の水蒸気バリア性を有しながらも、フレキシブル性を向上させたハイバリアフィルムを開発した。(3) 情報通信材料・機器事業戦略的拡大事業として研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として東レ水なし平版®と、当社のコア技術である機能性高分子設計技術を用いて新規開発した親水性ポリマーの適用により、揮発性有機溶剤を用いない究極のエコ印刷方式である水溶性インキを用いた水なしUV印刷システムを開発した。また、半導体型単層カーボンナノチューブにおいて、塗布型半導体として世界最高となる従来比2倍の移動度81cm2/Vsを達成した。この成果により、IoT時代において必須ともいえる通信距離の長いICタグであるUHF帯RFID等の高機能デバイスを、塗布技術により安価に製造できる可能性を世界で初めて示した。そのほか、「有機ELディスプレイ絶縁膜用ポジ型感光性ポリイミドの開発」について、財団法人大河内記念会より「第63回(平成28年度)大河内記念生産賞」を受賞した。(4) 炭素繊維複合材料事業当社の代表的ナンバーワン事業であり戦略的拡大事業として、グリーンイノベーション事業拡大、アジア・新興国及び米州での事業拡大のための研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、次世代の航空宇宙用途向けに引張強度と耐衝撃性を従来材対比30%向上させた、世界最高性能のトレカ®プリプレグ(炭素繊維樹脂含浸シート)を開発した。本技術はこれまでトレードオフの関係にあり難易度が高いとされてきたマトリックス樹脂の弾性率と靭性を両立させることで、極低温から高温までの使用環境において世界最高性能を発現し、航空宇宙用途で要求される厳しい環境下においても力学特性の大幅な向上が可能となる。そのほか、「反応誘起型ナノ相分離エポキシ樹脂と高性能CFRPの開発」について、公益社団法人日本化学会より「第65回(平成28年度)化学技術賞」を受賞した。(5) 環境・エンジニアリング事業情報通信材料・機器、炭素繊維複合材料に続く次の収益拡大の柱とするために、重点育成・拡大事業として研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、水処理関連では、東京大学物性研究所と共同で、これまで未解明であったRO膜の細孔中における水分子の状態と拡散の挙動の詳細解析に取り組み、水分子の動的挙動計測と計算化学の両面から、細孔中の水運動性を明らかにした。本解析結果を活用し、革新省エネルギーRO膜の開発など、先端分離材料の開発を加速していく。また、「高機能性逆浸透膜の開発」について、「第15回GSC(グリーンサステイナブルケミストリー)賞」の「経済産業大臣賞」「環境大臣賞」をダブル受賞した。今回の受賞は、高水質・省エネ特性を飛躍的に向上させた高機能性RO膜を日本発の技術として世界的に展開し、地球規模で深刻化する水問題に対して大きく貢献したことが、グリーンサステイナブルケミストリーの発展に寄与したことを高く評価されたものである。(6) ライフサイエンス事業重点育成・拡大事業として研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、固形がんに対する治療薬として当社が独自に開発を進めてきた「TRK-950」について、米国での第I相臨床試験を開始した。今後、欧米でのグローバルな臨床開発を展開し、First-in-class(画期的医薬品)のがん治療薬として、早期承認取得を目指す。また、血液透析患者、慢性肝疾患患者におけるそう痒症改善剤(既存治療で効果不十分な場合に限る)の「レミッチ®*カプセル2.5μg」市場に、新たな剤形として、口腔内崩壊錠の「レミッチ®*OD錠2.5μg」の製造販売承認を取得した。本剤の上市により、患者様の服用の選択肢が広がることとなる。 *レミッチ®は鳥居薬品㈱の登録商標である。 上記セグメントに属さない基礎研究、基盤技術開発として、「全ての事業戦略の軸足を地球環境におき、持続可能な低炭素社会の実現に向けて貢献していく」という経営方針の下、環境関連では、サトウキビ製糖工場で発生するバイオマスを原料とする菌体リサイクル型連続発酵プロセスによるエタノール製造技術において、水処理膜技術とバイオ技術を融合した「膜利用発酵プロセス」のスケールアップ実証に成功した。今回の実証により、従来プロセスに比べ約10倍の高い生産速度で効率よくサトウキビからエタノールを生産することが可能になり、また収量が10~20%向上することでエタノールの増産も可能になる。また、創立90周年記念の一環として創業の地である滋賀事業場に新たな研究拠点として、「未来創造研究センター」の整備を開始した。「未来創造研究センター」では、当社グローバル研究のヘッドクォーターとして、未来社会に必要な機能や仕組を探究し、材料の強みを活かしたコトづくりの実現を目指す未来創造型研究・技術開発を推進・強化していく。 当連結会計年度の当社グループの研究開発費総額は、592億円(このうち東レ㈱の研究開発費総額は419億円)である。セグメント別には、繊維事業に約9%、プラスチック・ケミカル事業に約14%、情報通信材料・機器事業に約19%、炭素繊維複合材料事業に約11%、環境・エンジニアリング事業に約5%、ライフサイエンス事業に約8%、本社研究・技術開発に約34%の研究開発費を投入した。当連結会計年度の当社グループの特許出願件数は、国内で1,651件、海外で3,981件、登録された件数は国内で613件、海外で1,776件である。
FY2016|3,651 文字
6 【研究開発活動】当社グループ(当社及び連結子会社)の研究・技術開発は、有機合成化学、高分子化学、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーという当社が培ってきたコア技術をベースに、基幹事業である繊維、プラスチック・ケミカル事業の安定収益基盤強化・収益拡大を推進するとともに、成長する重点4領域(①環境・水・エネルギー、②情報・通信・エレクトロニクス、③自動車・航空機、④ライフサイエンス)に絶え間なく革新的先端材料を供給する役割を担っている。また、地球温暖化防止や環境負荷低減に対して、当社グループの総合力を発揮してソリューションを提供する新たな切り口で、さらなる成長を推進していく。 2014年2月に策定した中期経営課題“プロジェクトAP-G 2016”では、「グリーンイノベーション」と「ライフイノベーション」を重点分野として設定して、革新的新素材・新技術を創出することにより持続的発展を目指す。また、知的財産戦略による参入障壁の構築により技術競争力の優位性を堅持していく。 当連結会計年度のセグメント別の研究・技術開発の概要は次のとおりである。 (1) 繊維事業基幹事業としての安定収益基盤の強化と収益拡大に向け、極限技術追求による高機能製品や繊維先端材料の創出・拡大に主眼を置いた研究・技術開発を推進している。その成果として、性質の異なる2種類のナイロンポリマー(一部植物由来原料を使用)を貼り合わせたバイメタル構造の原糸を開発し、新感覚快適ストレッチテキスタイルPrimeflex®として展開を図る。また、超極細繊維の製造・加工技術を用いることで、爽やかな肌触りと落ち着いた質感を持つUVプロテクト超極細繊維テキスタイル「uts® 50+」や皮革の銀面調の光沢とスエードタッチを兼ね備えたハイブリッド人工皮革 ウルトラスエード®ヌーを開発した。さらに、ここ数年来戦力を重点化し研究・技術開発を進めてきた繊維複合・構造化技術を用い、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維トルコン®とZoltek Companies, Inc. (連結子会社)製のポリアクリルニトリルからなる耐炎化糸を用いた高性能遮炎ペーパーを開発した。その他、フッ素系化合物を使用せずに高い撥水性能と耐久性を実現した、環境配慮型撥水加工技術を開発した。 (2) プラスチック・ケミカル事業基幹事業として安定収益基盤の強化と収益拡大、そして持続可能な循環型社会の発展に主眼を置いた研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、2種類以上の樹脂をナノメートルオーダーでアロイ化(混合)する当社独自のナノアロイ®技術によりポリフェニレンサルファイド樹脂(以下「PPS樹脂」)が本来有する高い耐熱性や機械強度を維持しながら、PPS樹脂の長年の課題であった靱性(しなやかさ)を飛躍的に向上した高性能PPS樹脂の開発に成功した。また、ナイロン6の原料であるカプロラクタムの合成において、東芝ライテック㈱と共同により、工程で使用するナトリウムランプを新開発のLEDランプに切り替えることで、電力使用量を30%削減する技術を開発した。そのほか、日常的な使用で表面につく、細かな擦り傷が瞬時に修復する自己修復性に加えて、偶発的な強い力による深い傷も修復できる新しい自己修復コートフィルム(高硬度タイプ)を開発した。(3) 情報通信材料・機器事業戦略的拡大事業として研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、UV印刷対応CTPサーマルプレート“東レ水なし平版”TAC-GU8の販売を開始した。今回開発したTAC-GU8は、東レ独自のナノ構造制御技術を駆使して版表面のシリコーン層内に存在するナノ空間を精密制御することにより、これまでの版に比べてインキの反発性が向上し、UV印刷における温度条件を広げることに成功した。また、半導体型単層カーボンナノチューブ(Carbon Nano-Tube:以下「CNT」)において、塗布型半導体としては世界最高となる従来比2倍の移動度36cm2/Vsを達成した。今回達成した移動度36cm2/Vsは、現在ディスプレイ等で用いられているアモルファスシリコンの約40倍であり、半導体としてのCNTのポテンシャルを十分に引き出した結果と言える。(4) 炭素繊維複合材料事業当社の代表的ナンバーワン事業であり、戦略的拡大事業として、グリーンイノベーション事業拡大、アジア・新興国及び米州での事業拡大のための研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、一般的な発泡シート材料に匹敵する低比重でありながら、繊維強化樹脂レベルの高い剛性を発現する革新的な炭素繊維構造材料「CFRF(Carbon Fiber Reinforced Foam)」を開発した。本材料は、新たに開発した炭素繊維シート基材を原料として、一般的なプレス成形により立体形状を成形することができ、高い曲げ剛性を、超軽量かつ高い生産性で実現できるため、今後、自動車・航空機を中心とした幅広い分野へ展開していく。また、三菱重工業㈱が製造する「Mitsubishi Regional Jet」(以下「MRJ」)向けに、炭素繊維複合材料(CFRP)を適用した尾翼部品(スパー、スキン・ストリンガーパネル、リブ)を開発・製作し、MRJ量産機用部品を初出荷した。(5) 環境・エンジニアリング事業情報通信材料・機器、炭素繊維複合材料に続く次の収益拡大の柱とするために、重点育成・拡大事業として研究・技術開発に取り組んでいる。水処理関連では、水中に含まれる汚れ成分の付着を抑制する耐汚れ性逆浸透(RO)膜について、高い脱塩性能及び透水性能を維持しながら、これまでよりも多様な汚れ成分の付着を抑制する基本技術の確立に成功した。本技術を用いた耐汚れ性RO膜は、これまで対策の難しかった汚れ成分を含む水の処理においても長期間安定して高品質のろ過水を提供できることから、より広範な地域の幅広い用途での利用が期待できる。アメニティー関連製品では、当社従来品の約2倍のろ過流量を実現した「時短・高除去」カートリッジを搭載した蛇口直結型浄水器「トレビーノ® カセッティ206SMX」を開発した。本製品は、JIS規格13項目除去の高い除去性能とおいしさはそのままに、ろ過時間を従来品の約半分にすることを可能とした。(6) ライフサイエンス事業重点育成・拡大事業として研究・技術開発に取り組んでいる。医薬分野では、特発性肺線維症を対象として㈱ボナックが創製した核酸医薬品に分類される化合物について、日本をテリトリーとしたライセンス契約を締結した。当社はライフイノベーション分野での事業拡大を意識した研究・技術開発力を強化する中、合成医薬と生物医薬の両面から創薬研究を行っている。今回の導入をきっかけとして核酸医薬への取り組みを拡大し、さらなる事業拡大につなげる。医療分野では、世界で初めての高周波を利用したバルーンによる発作性心房細動治療用カテーテル・アブレーションシステムとして開発した「SATAKE・HotBalloonカテーテル」、「SATAKE・HotBalloonジェネレータ」、「トレワルツ」について、厚生労働省より製造販売承認を取得した。今回の承認取得により、発作性心房細動患者の方々におけるカテーテル・アブレーション治療の新たな選択肢として、より安全で短時間での治療が可能となることが期待される。 上記セグメントに属さない基礎研究、基盤技術開発として、環境関連では、「全ての事業戦略の軸足を地球環境におき、持続可能な低炭素社会の実現に向けて貢献していく」という経営方針の下、革新電池部材の研究・技術開発を推進している。リチウムイオン電池については、当社が情報通信材料分野で長い研究・技術開発の歴史があり多くの知見を持つ、高強度・高弾性のポリイミドを適用し、電池の高容量化に対応するための負極バインダー用水溶性ポリイミドを開発した。また、燃料電池及び水電解装置の部材開発・製造・販売会社であるSolviCore GmbH & Co. KGを買収したことにより、当社の持つ製品や技術とのシナジーを発揮させ、燃料電池及びその関連分野での事業拡大を図る。 当連結会計年度の当社グループの研究開発費総額は、588億円(このうち東レ㈱の研究開発費総額は427億円)である。セグメント別には、繊維事業に約9%、プラスチック・ケミカル事業に約14%、情報通信材料・機器事業に約19%、炭素繊維複合材料事業に約10%、環境・エンジニアリング事業に約4%、ライフサイエンス事業に約9%、本社研究・技術開発に約35%の研究開発費を投入した。当連結会計年度の当社グループの特許出願件数は、国内で1,607件、海外で3,357件、登録された件数は国内で518件、海外で1,215件である。