研究開発費(時系列)
| 年度 | R&D費用(億円) | 設備投資(億円) |
|---|---|---|
| 2025-03 | - | 201 |
| 2024-03 | - | 269 |
| 2023-03 | - | 302 |
| 2022-03 | - | 253 |
| 2021-03 | - | 199 |
研究開発活動(本文)
FY2025|9,501 文字
6 【研究開発活動】 当社グループ(当社及び連結子会社)は、事業拡大と収益向上に寄与すべく、独自の優位性ある技術の確立を基本方針とし、各社が独自に研究開発活動を行っているほか、当社グループ全体としての効率性を念頭に置きながら、互いの研究開発部門が密接に連携して共同研究や研究開発業務の受委託等を積極的に推進しております。 当連結会計年度においては、2022年度から2024年度までの中期経営計画に従い、引き続き、食糧、ICT、ヘルスケア、環境の4分野に研究資源を重点投入するとともに、異分野技術融合による新規事業の芽の発掘とその育成に取り組んでまいりました。 これに基づき、当連結会計年度に計上された研究開発費は、前連結会計年度に比べ388億円減少し、1,452億円となりました。 セグメントごとの研究開発活動を示すと次のとおりであります。 アグロ&ライフソリューション分野では、世界の食糧増産、健康・衛生や環境の改善といった課題解決を通じてサステナブルな社会の実現に貢献するため、環境負荷低減効果を重視した技術による新製品やアプリケーション、競争力のある製造プロセスの開発を加速化し、コア事業のさらなる強化と周辺事業の拡大に取り組んでおります。 当連結会計年度において、国内農業関連事業については、新規有効成分「ピリダクロメチル」を含有する殺菌剤「フセキフロアブル」を上市いたしました。「ピリダクロメチル」は、当社が独自に発明した、農業用殺菌剤として全く新しい化学グループに分類される化合物です。「フセキフロアブル」は、既存薬剤の耐性菌が問題となっているダイズ紫斑病やテンサイ褐斑病の防除に寄与することが期待されております。また、近年上市しました殺虫剤「アレス」、殺菌剤「カナメ/モンガレス」についても、新製品の開発を進めております。さらに、省力化・環境負荷低減技術の開発やDXの活用を通じて農業生産者への革新的なソリューションの提供を拡大すべく、農薬、肥料、コメ事業の製品ポートフォリオ拡充及び付随するサービスに関する研究開発を進めております。海外農業関連事業においては、新規有効成分「ラピディシル」を含む除草剤「エンペラ」をアルゼンチンで上市いたしました。当製品の上市は、今回が世界で初めてとなります。「ラピディシル」は、当社が独自に開発した除草剤有効成分で、殺菌剤「インディフリン」とともにブロックバスターになる有効成分と位置付けております。速効性があり、幅広い広葉雑草やイネ科雑草に対して高い効果を発揮することから、リジェネラティブ(再生可能)農業の一つとして注目される不耕起栽培に適した性能を有しており、土壌保全と二酸化炭素排出量の削減によるカーボンニュートラルへの貢献が期待できます。「ピリダクロメチル」及び「ラピディシル」の上市により、2020年から2024年までの5年間に上市した当社有効成分は世界の農薬業界で最多の5剤となりました。また、有効成分「インディフリン」含有製品をブラジル・アルゼンチン・オーストラリアで上市し、当社新規殺菌剤「パベクト」は欧州及び南米市場向けに鋭意開発を進めております。コルテバ・アグリサイエンス社との種子処理技術の開発、商業化プロジェクトにも引き続き取り組んでおります。さらに、当社が戦略的分野と位置付けているバイオラショナル事業では、米国のFBサイエンス社の買収を通じ、成長著しいバイオスティミュラント分野への本格参入を果たしました。バイオスティミュラントは天然物由来の農業資材で、非生物的ストレスに対する防御機能を誘導し作物の健全な成長を促すとともに、栄養素の吸収を促進することによって作物の品質改善や増収効果をもたらします。当社は、化学農薬、バイオラショナルの強固な基盤をもとにリジェネラティブ農業への貢献を追求いたします。 生活環境事業については、重点強化領域の市場セグメントにおける新製品の開発と製品群の拡充を推進しております。引き続き強い市場ニーズのある天然物由来製品を強化すべく、新規ボタニカル有効成分「ベラトリン」の米国での登録を取得いたしました。「ベラトリン」はユリ科の植物サバジラの種子からの抽出物で、幅広い害虫への作用が期待されます。また、ハチ用エアゾールの新製品「オンスロート パワーショット」を米国で上市する等、さらなる新製品の開発に取り組んでおります。熱帯感染症対策資材分野では、抵抗性を持つ蚊へ卓効を示す室内残留散布剤の販売に取り組むと同時に、蚊の発生源対策として幼虫防除用新製品の普及を引き続き進めていくことで、長期残効性蚊帳と併せて熱帯感染症を媒介する蚊に対して総合的な防除を可能とする製品普及に取り組んでおります。また、抗菌・抗ウイルス・アレル物質低減分野において製品の拡充を進め、抗バイオフィルム製品の開発・販売も展開しております。 アニマルニュートリション事業については、競争力強化のためメチオニンのプロセス改善等の合理化に加え、機能性飼料添加物分野における製品ラインナップ拡充のため、飼料効率の改善と安心・安全な畜産物生産に貢献できる新規製品の開発に取り組んでおります。また、近年問題となっている家畜排泄物由来の温室効果ガス(GHG)の低減を目的として、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構や国内大学等との共同研究プロジェクトに参画し、引き続きメチオニンを含むアミノ酸バランス改善飼料の技術普及を推進しております。 なお、アグロ&ライフソリューションセグメントにおける当連結会計年度の研究開発費は306億円であります。 ICT&モビリティソリューション分野では、グローバルな技術・研究開発能力を結集し、AI時代の先端技術進化を支える新製品の開発に積極的に取り組み、高成長・高収益を目指してまいります。 当連結会計年度において、半導体分野においては、生成AIの普及と進化に伴う技術革新によって生じる新たな市場に対応すべく、研究開発リソースを重点的に投入しております。前工程用材料では、半導体集積度向上という命題に対し、微細加工分野において、当社独自の有機分子レジストにより、最先端技術である次世代超短波長EUV(極端紫外線)光源向けフォトレジストの性能の向上を図るとともに、最新の液浸ArFレジストのラインナップ拡充により、先端レジスト分野でのトップシェアをターゲットとしております。また、洗浄工程で使用される高純度ケミカルでは、pptオーダーの不純物管理を含む高品質化を実現するため、プロセス・分析技術の開発を推進しております。一方、技術転換期にある後工程用材料については、多層配線用厚膜レジストや特殊プロセス向け洗浄剤などの分野で実績を積み重ねると同時に、さらなるラインナップの拡充を目指しております。韓国をはじめとした海外拠点とのグローバルな連携により研究開発体制を一層強化することで、次世代材料の開発・事業化を加速してまいります。 さらに、化合物半導体製造技術を基盤に、今後大きな成長が期待されている次世代パワー半導体用材料として、大口径のGaN(窒化ガリウム)基板の開発に注力しております。また、世界に先駆けて量産を開始した超微粒αアルミナについて、これら次世代半導体用の研磨材用途としての展開に加え、高強度・耐薬品性・透光性が求められる半導体製造装置用部材への応用開発も進めております。生成AI関連需要を捉えて半導体用電子部品へのスーパーエンジニアリングプラスチックの需要も増大しており、高精細化に対応する液晶ポリマー(LCP)グレード開発にも精力的に取り組んでおります。 ディスプレイ分野においては、主に中小型モバイル用途のOLEDディスプレイに対し、当社独自のキーコンポーネントである液晶塗布型位相差フィルムや液晶塗布型偏光子を用いた、薄型で耐久性や折り曲げ特性に優れた偏光フィルムを積極的に拡販しております。また、自動車の技術革新に伴って拡大する車載用ディスプレイ市場に向けて、次世代の高耐久・広視野角偏光フィルムの開発も強化しております。加えて、超高精細OLEDディスプレイをはじめとする次世代ディスプレイへの応用が期待される低温硬化カラーレジストの開発にも注力しております。引き続き、多様化が進むディスプレイ市場に対応する新規機能性フィルムや各種高機能材料の開発・事業化を加速してまいります。 成長著しいモビリティ及び高速通信分野においては、信頼性が要求される電動車向けに液晶ポリマー(LCP)のグレード開発を強化するとともに、リチウムイオン二次電池用各種部材についても、性能向上の要請や需要拡大に応えるべく、開発を推進しております。耐熱セパレータでは、性能向上とコスト削減を両立させる技術開発が進捗し、新規顧客での採用が広がっております。また、京都大学産学共同研究講座「固体型電池システムデザイン」では、圧力を加えなくても電極との界面接合が可能になる柔軟な固体電解質の実用化に向けた材料開発が進捗しております。併せて、高速・大容量通信、省エネ、自動運転等の技術を支える高周波デバイス用各種エピウェハの設計開発にも力を入れるとともに、IoTや大容量・高速通信のニーズの拡大に応える高速通信向けフィルムアンテナの開発と市場開拓も戦略的に進めております。 これらに加えて、培った材料や技術のライフ&ヘルスケア分野への展開も行っております。機能樹脂材料においては、ポリエーテルスルホン(PES)の、高機能膜向けの材料開発を積極的に進めるとともに、食器などの生活関連資材や医療関連資材に用途開拓に力を入れております。また、世界初の固体ポリマー型温度調節材料を用いた繊維開発に成功し、接触・持続冷感性や持続温感性を活かした、温度調節が求められる衣服への実用化に取り組んでおります。無機材料においては、今後の市場拡大が見込まれる人工関節や歯科材料を対象に、超微粒αアルミナを活用したユーザーとの共創を積極的に進めております。 さらに、蓄積した事業ノウハウ・ネットワークを活かして、今後の成長が期待されるサーマルマネジメント分野などの新事業領域へ挑戦し、革新的で高機能な製品の開発を推進することで、ポートフォリオの高度化と価値創出の実現に取り組んでおります。 なお、ICT&モビリティソリューションセグメントにおける当連結会計年度の研究開発費は314億円であります。 アドバンストメディカルソリューション分野では、「高度な製造・管理・分析技術を駆使したソリューションの提供を通じ“化学とバイオの力”で世界中の人々の健康と未来を支える」ことをビジョンに据えて活動に取り組んでおります。このビジョンのもと、オーガニックな事業成長を推進するとともに先端医薬領域における飛躍的成長戦略を具体化し新たな当社事業の柱の一つとすべく、長期的な育成に取り組んでおります。 当連結会計年度において、高度化低分子CDMO事業については、当社の有機合成プロセスの技術力を駆使した新薬の受託製造品目の拡充、ジェネリック原薬の製法開発、及び新規製造技術の開発に取り組んでおります。有望な複数の開発品・新製品に対して商業生産へ向けた準備を進めており、引き続き製販研一体で一層の事業拡大を追求いたします。 医療用オリゴ核酸CDMO事業については、2024年2月に米国FDAが医療用オリゴ核酸(ガイドRNA(gRNA))について80%以上の純度を推奨したこともあり、当社が強みとする長鎖かつ高純度なgRNAのニーズの急拡大が想定されます。引き続き、合成技術及び分析技術の両面で、競争力のある要素技術の獲得、独自技術の拡張を目的とした研究開発を推進すると共に、顧客が集中する米国への対応強化も積極的に進めてまいります。 再生・細胞医薬CDMO事業については、S-RACMO株式会社が、オリヅルセラピューティクス株式会社と共同で国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の公募課題である2024年度「再生・細胞医療・遺伝子治療産業化促進事業」に採択されるなど、製造受託に留まらず顧客と一体での製造プロセス開発も推し進めております。 なお、アドバンストメディカルソリューションセグメントにおける当連結会計年度の研究開発費は34億円であります。 エッセンシャル&グリーンマテリアルズ分野では、炭素循環技術の社会実装、ライセンス技術の競争力強化、新規技術の創出、サステナブルな製品の市場投入を重点課題としています。これらを通じて、早期のエッセンシャル&グリーンマテリアルズコンプレックスの構築と新規事業の創出を目指し、社内外との連携を強化しながら革新的な技術と製品の開発を推進しております。 炭素循環技術の社会実装においては、総合リサイクル企業リバー株式会社との業務提携契約に基づき、使用済み自動車から得られる廃プラスチックのマテリアルリサイクルに関する共同技術開発を進めております。2023年に完成した精度の高い選別及び異物除去プロセスを活用し、2024年度には実証実験を進行するとともに、サンプル提供を開始いたしました。また、環境負荷低減技術として独自のアクリル樹脂(PMMA)の高効率ケミカルリサイクル技術について、米国のルーマス・テクノロジー社(以下「ルーマス社」という。)との協業契約を締結いたしました。ルーマス社は独占的ライセンスパートナーとして技術の商業化を加速し、世界各地での社会実装を推進してまいります。 包装用ポリオレフィン材料の開発では、素材メーカーとしての強みを活かし、剛性と耐熱性を単一の樹脂で両立するポリエチレン及びポリプロピレンのモノマテリアル包材の開発を継続して推進しております。 さらに、事業のグローバル競争力を強化するため、モノマー製品の触媒・プロセス改良、合成樹脂の製造プロセスの改良、既存素材の高性能化、新規高付加価値製品の開発にも注力しております。当連結会計年度には、環境負荷低減に優れたクメン法プロピレンオキサイド技術について、米国のKELLOGG BROWN & ROOT LLC(以下「KBR社」という。)との独占的ライセンス協業契約を締結いたしました。この革新的なプロセスは省エネや高収率を実現し、KBR社との協業を通じて、住友化学の技術を世界中の顧客に提供いたします。 なお、エッセンシャル&グリーンマテリアルズセグメントにおける当連結会計年度の研究開発費は99億円であります。 住友ファーマでは、精神神経領域及びがん領域並びにその他領域において、人々の健康で豊かな生活に貢献するため、自社研究に加え、技術導入、ベンチャー企業やアカデミアとの共同研究等、あらゆる方法で最先端の科学と技術を駆使して研究開発活動に取り組んでおります。 精神神経領域では、特長ある低分子の初期臨床開発品目群について、2030年代のグループ収益を支える優先品目を選抜し、次のフェーズへの移行に向けた取り組みを推進してまいります。 当連結会計年度において、がん領域では、①enzomenib(開発コード:DSP-5336)について、日本及び米国において、急性白血病を対象としたフェーズ1/2試験を推進いたしました。②nuvisertib(開発コード:TP-3654)について、日本及び米国において、骨髄線維症を対象としたフェーズ1/2試験を推進いたしました。③SMP-3124について、日本及び米国において、固形がんを対象としたフェーズ1/2試験を開始いたしました。enzomenib及びnuvisertibに資源を集中させるとともに、他社との提携機会を追求することにより、両剤の開発を最優先で推進し早期の承認取得と価値最大化を目指します。なお、2025年度から2027年度までの活動方針として策定した「Reboot 2027-力強い住友ファーマへの再始動-」の期間において、enzomenibは日本及び米国での承認取得・上市を目指し、nuvisertibは両国での承認申請を目指してまいります。 その他領域では、①「オブジェムサ」(一般名:ビベグロン)について、2024年6月、欧州において、提携先が過活動膀胱を適応症とした承認を取得いたしました。②「ジェムテサ」(一般名:ビベグロン)について、2024年12月、米国において、前立腺肥大症を伴う過活動膀胱に対する適応追加承認を取得いたしました。また、中国において、過活動膀胱を対象としたフェーズ3試験を実施しておりましたが、期待した結果が得られなかったため、住友ファーマ社における開発を中止いたしました。③ユニバーサルインフルエンザワクチン(開発コード: fH1/DSP-0546LP)について、ベルギーにおいて、住友ファーマ社が開発したTLR7アジュバント(免疫強化剤)を添加して作製した新規のユニバーサルインフルエンザワクチンのフェーズ1試験を開始いたしました。ユニバーサルインフルエンザワクチンについて、ベルギーでのフェーズ1試験の中間解析を実施し、KSP-1007については、アジア地域への展開を見据えた日本及び中国でのフェーズ1試験を継続し、開発を着実に推進してまいります。なお、ユニバーサルインフルエンザワクチン及びKSP-1007の研究開発は、日本医療研究開発機構(AMED)からの委託研究開発費を活用しております。 なお、住友ファーマセグメントにおける当連結会計年度の研究開発費は434億円であります。 全社共通及びその他の研究分野においては、3つのX(BX・DX・GX)及び6つのコア技術(生体メカニズム解析/精密加工/有機・高分子材料機能設計/無機材料機能設計/デバイス設計/触媒設計)を組み合わせ、「食糧」「ICT」「ヘルスケア」「環境」の4つの重点分野に対し、事業部門とコーポレートの連携加速による「基盤技術の強化」と「次世代事業開発」を進め、社会課題解決の実現に向け推進しております。 また、2021年12月に公表した住友化学グループのカーボンニュートラル・グランドデザインに基づき、カーボンニュートラル実現へ向けた「貢献」として、GHG削減につながる各種の製品・技術の開発を行い、社会実装及びライセンスを通じたグローバル展開に取り組んでおります。 当連結会計年度において、食糧分野では、バイオトランスフォーメーション(BX)として合成生物学を活用した次世代事業の創出に取り組んでおります。また、乳酸菌を加熱処理したパラプロバイオティクスによるアニマルニュートリション用途開発を推進しております。加えて、2024年7月、成分分析を介して天然素材の売り手と買い手をつなぐ日本初のデジタル・プラットフォーム「Biondo(ビオンド)」をリリースし、専用webサイトをオープンしました。「Biondo」は、当社が培ってきた高度分析やデータベースを基盤とし、DX(デジタル技術)を駆使することで新たな価値をお客様へ提供するものです。持続可能な未来に向けて、限りある資源を有効活用することで、循環型社会の構築へ貢献いたします。 ICT分野では、東京科学大学(旧:東京工業大学)、東京大学、理化学研究所と共同で、次世代量子デバイスの重要材料の一つとして有望視される強相関材料の開発を進めております。強相関材料とは強誘電、強磁性等、複数の強物性を同時に有する材料の総称であり、熱電変換、低エネルギー消費メモリー材料等、幅広い分野で期待されております。本取り組みでは、強相関材料のメカニズムを解析するとともにアプリケーションにも力を入れており、今年開催されている大阪万博の住友館において、その成果の一部を展示しております。 ヘルスケア分野では、先端医療への取り組みとして、バイオテクノロジーによる価値創造の一環として、疾患リスク検査キットを開発中です。高感度で多様な昆虫の嗅覚受容体を組み込んだ独自の細胞を用い、疾患リスクの判定を実現し、2027年を目途に各医療施設や衛生検査所等で臨床ニーズに応じた消費者向け検査ビジネスへの参入を目指しております。 また、当社グループの新会社である株式会社RACTHERAでは、再生・細胞医薬事業のフロントランナーたる技術・知見を駆使して研究開発に取り組んでおります。他家iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞は、京都大学医学部附属病院によるパーキンソン病治療に関するフェーズ1/2試験のデータを基に、2025年度中の国内承認申請に向けて準備を進めております。他家iPS細胞由来網膜シート(立体網膜)は、米国のマサチューセッツ眼科耳鼻科病院と連携し、網膜色素変性治療に関するフェーズ1/2試験を開始いたしました。これら先行剤に注力し、早期事業化・育成を進めてまいります。 環境分野では、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によるグリーンイノベーション(GI)基金事業として以下の環境負荷低減技術開発に取り組んでおります。まず、ケミカルリサイクルとして、①廃プラの直接分解によるオレフィン製造技術開発では、ベンチ設備での試験において、目標収率60%を達成し、パイロット設備の設計を開始しております。②CO2からの高効率アルコール類製造技術開発では、パイロット設備での試験において、メタノール収率80%を達成し、実証設備の設計に進んでおります。③アルコール類からのオレフィン製造技術開発では、ベンチ設備での試験において目標収率80%を達成し、パイロット設備建設が進行中です。その他、CO2削減のためのCO2分離膜の開発では、複数種のCO2排出源から純度90%以上のCO2を回収することに成功し、パイロット設備での実証実験を目指しております。また、リチウムイオン電池回収後の正極材ダイレクトリサイクル開発では、ベンチ設備でのダイレクトリサイクル処理品にて電池容量回復率98%を達成し、連続化に向けたスケールアップ検討に進んでおります。引き続きGI基金の活用により、環境負荷低減技術開発を推進してまいります。 千葉地区にて環境負荷低減技術や新素材の開発拠点として2024年6月に新研究棟「Innovation Center MEGURU」が竣工し、稼働を開始いたしました。環境負荷低減テーマの加速と早期実現化を目指し、研究体制の強化を図ってまいります。また、本施設では研究者間の交流を促進する空間設計を導入するとともに、建築物省エネルギー表示制度(BELS)の最高ランクを獲得し、再生可能エネルギーを除き、基準一次エネルギー消費量から50%以上の削減に適合した建築である「ZEB Ready」の認証も取得する等、環境に配慮した設計が施されております。 なお、全社共通及びその他における当連結会計年度の研究開発費は265億円であります。 このように、新製品・新技術の研究開発及び既存製品の高機能化・既存技術の一層の向上に取り組みつつ、食糧、ICT、ヘルスケア、環境の4つの重点分野の社会課題をイノベーティブな技術で解決する企業(Innovative Solution Provider)を目指してまいります。
FY2024|9,884 文字
6 【研究開発活動】 当社グループ(当社及び連結子会社)は、事業拡大と収益向上に寄与すべく、独自の優位性ある技術の確立を基本方針とし、各社が独自に研究開発活動を行っているほか、当社グループ全体としての効率性を念頭に置きながら、互いの研究開発部門が密接に連携して共同研究や研究開発業務の受委託等を積極的に推進しております。 当連結会計年度においては、2022年度から2024年度までの中期経営計画に従い、引き続き、食糧、ICT、ヘルスケア、環境の4分野に研究資源を重点投入するとともに、異分野技術融合による新規事業の芽の発掘とその育成に取り組んでまいりました。これに基づき、当連結会計年度に計上された研究開発費は、前連結会計年度に比べ116億円減少し、1,840億円となりました。 セグメントごとの研究開発活動を示すと次のとおりであります。 エッセンシャルケミカルズ分野では、持続可能な社会の実現に向けて、資源循環に関する研究開発成果の早期社会実装を目指すとともに、既存ビジネスのグローバル競争力強化に注力しております。 資源循環技術では、総合リサイクル企業であるリバー株式会社との間で締結された業務提携契約に基づき、使用済み自動車から得られる廃プラスチックのマテリアルリサイクルに関する共同技術開発が進行しております。2023年12月には、廃プラスチックの精度の高い選別及び異物除去を行う実証プロセスが完成し、2024年度からの実証実験及びサンプル提供を開始することで、2025年度の製品供給を目指しております。アクリル樹脂に関しては、株式会社日本製鋼所と共同で開発した二軸混練押出機を使用した熱分解プロセスにより、メチルメタクリレート(MMA)モノマーのケミカルリサイクルを実現する基本技術を確立しました。これにより、愛媛工場に設置した実証プロセスを通じて2023年度からのサンプル提供が開始され、実証実験が進行中です。これらのプロセスによって得られるマテリアルリサイクルポリプロピレン及びケミカルリサイクルMMAモノマーは、当社のリサイクル技術を活用したプラスチック製品等に適用される「Meguri(メグリ)」ブランドの対象製品となります。 包装用ポリオレフィン材料の開発においては、素材メーカーとしての強みを活かし、剛性と耐熱性を単一の樹脂で両立するポリエチレン及びポリプロピレンのモノマテリアル包材の開発を継続して推進しております。 また、事業のグローバル競争力を強化するため、モノマー製品の触媒・プロセス改良、合成樹脂の製造プロセスの改良、既存素材の高性能化、新規高付加価値製品の開発にも力を注ぎ、当連結会計年度にはプロピレンオキサイド単産法、塩酸酸化、MMAモノマー、ポリオレフィン等のライセンス関連プロセスにおける触媒の高性能・長寿命化、安全性及び安定生産性の向上に関する改良研究を継続して実施しました。 なお、エッセンシャルケミカルズ部門における当連結会計年度の研究開発費は70億円であります。 エネルギー・機能材料分野では、環境・エネルギー関連事業を拡大させるため、リチウムイオン二次電池用部材、スーパーエンジニアリングプラスチックス、無機材料、機能性樹脂材料等の幅広い製品領域で、既存製品の競争力強化や新規製品創出に向けた研究開発に取り組んでおります。 当連結会計年度において、リチウムイオン二次電池用各種部材は、自動車向けを中心に、性能向上の要請や需要拡大に応えるため、開発を鋭意進めました。耐熱セパレータでは、性能向上とコスト削減を両立させる技術開発が進捗し、幾つかの新規顧客での採用が決定しました。また、京都大学産学共同研究講座「固体型電池システムデザイン」では、圧力を加えなくても電極との界面接合が可能になる柔軟な固体電解質の実用化に向けた材料開発が進捗しております。 機能樹脂分野では、ICT分野、モビリティ分野、ライフ&ヘルスケア分野向けにスーパーエンジニアリングプラスチックスの需要が増大しております。ポリエーテルサルホン(PES)では、半導体工程部材や高機能膜向けの開発・拡販を積極的に進めております。また液晶ポリマー(LCP)では、高流動性や高剛性を活用した電動車用エレクトロニクス材料に加え、高周波特性に優れたグレードによる高速通信コネクタやフィルム用途グレードの開発を進めており、LCPの製造については、愛媛工場での生産能力増強工事が計画通りに完了し、稼働を開始しました。 無機材料分野では、世界に先駆けて超微粒αアルミナの量産技術の開発に成功し、量産を開始しました。次世代半導体向けの研磨材用途のほか、超微細な粒子で焼結させやすい特長により、高強度・耐薬品性が必要な半導体製造装置用部材等の先端分野や、高強度・審美性が求められる人工関節や歯科材料といったライフサイエンス分野等、新たな領域での利用が見込まれております。 なお、エネルギー・機能材料部門における当連結会計年度の研究開発費は90億円であります。 情報電子化学分野では、日本国内に留まらずグローバルな技術・研究開発能力を結集し、IT関連の先端技術進化を支える新規材料・部材・デバイスに関する新製品の開発に積極的に取り組み、高成長・高収益を目指してまいります。 当連結会計年度において、まず、ディスプレイ材料分野においては、ハイエンドディスプレイの主流の一つであるOLEDパネルに対し、当社独自のキーコンポーネントである液晶塗布型位相差フィルムを中小型モバイルまで用途拡大するとともに、薄型化に寄与し耐久性や折り曲げ特性に優れた液晶塗布型偏光板についても開発を完了し拡販を積極的に進めております。今後は、より高機能化する様々なディスプレイに対応する新規機能性フィルム等各種高機能材料の開発・事業化を加速してまいります。また、当社の高分子有機EL材料を用いた中型パネルは、技術確立が完了し、国内外の主要セットメーカーによって各種モニター・ディスプレイとして採用されました。この中型パネルの技術をベースとして、モニターのみならずノートPCやタブレット等のいわゆるIT-OLEDを製造すべく、主要パネルメーカーがより生産性の高い大型基板を用いた印刷法パネル量産に向けた検討を進めており、当社はパネルメーカーとの共同開発の中で、材料の改良、量産実証を進めております。 半導体材料分野においては、AI半導体対応のプロセス技術革新により半導体プロセスの前工程・後工程において新たな市場が形成され始めております。前工程用材料では、半導体集積度向上という命題に対し、微細加工分野において、当社独自の有機分子レジストにより、最先端技術である次世代超短波長EUV(極端紫外線)光源向けフォトレジストの性能の向上及びトップシェアの獲得を目指していくとともに、従来の液浸ArFレジストや多層配線用厚膜レジストについてもラインナップを拡充・強化してまいります。また、技術転換期にある後工程材料については、今後の成長分野と位置付け積極的に事業参入していくために、韓国をはじめとした海外拠点とのグローバルな連携により研究開発体制を一層強化することで、次世代材料の開発・事業化を加速してまいります。 化合物半導体材料分野においては、今後大きな成長が期待される次世代パワー半導体デバイスに用いられる大口径GaN(窒化ガリウム)基板等を中心にさらなる事業基盤強化を図るとともに、高速・大容量通信、省エネ、自動運転等の技術を支え、より高度な社会の実現に貢献すべく、高周波デバイス用各種エピウェハの設計開発も行っております。 IoT次世代技術として拡大が見込まれる高速通信用デバイス分野においても、窓ガラス等に貼り付け可能なフレキシブル透明アンテナやそれを用いた中継器の開発を加速し公共エリア等での実証実験を進めております。加えて、自動運転技術等に欠かせないセンシングデバイス分野においては、薄膜形成を中心とした要素技術を活用し、鉛フリーで環境に優しい新規圧電薄膜材料やフォトニクス構造を用いたセンサー技術の開発に取り組んでおります。 また、モバイル端末等に使用されるイメージセンサー用途に対しては、ディスプレイ・半導体双方の領域で蓄積した技術とノウハウを活用し、高解像度・高感度化に貢献する多様な機能材料の開発を行っております。 なお、情報電子化学部門における当連結会計年度の研究開発費は236億円であります。 健康・農業関連事業分野では、世界の食糧増産、健康・衛生や環境の改善といった課題解決を通じてサステナブルな社会の実現に貢献するため、環境負荷低減効果を重視した技術による新製品やアプリケーション、競争力のある製造プロセスの開発を加速化し、コア事業のさらなる強化と周辺事業の拡大に取り組んでおります。 当連結会計年度において、国内農業関連事業については、ブドウの着色促進用途として開発を続けてまいりました天然物由来の植物生長調整剤であるアブシシン酸含有製品の「アブサップ液剤」を上市しました。また、近年上市しました殺虫剤「アレス」、殺菌剤「インディフリン」についても、新製品の開発を進めております。コメ事業においては消費者や生産地のニーズに合う特徴のある新品種の開発を継続しております。さらに、省力化・環境負荷低減技術の開発やDXの活用を通じて農業生産者への革新的なソリューションの提供を拡大すべく、農薬、肥料、コメ事業の製品ポートフォリオ拡充及び付随するサービスに関する研究開発を進めております。海外農業関連事業においては、有効成分「インディフリン」含有製品をアルゼンチンで上市しました。また、当社新規殺菌剤「パベクト」は欧州及び南米市場を中心とした展開が期待されており、鋭意開発を進めております。バイエル社との雑草防除体系の創出プロジェクト(当社が新規除草剤、バイエル社が耐性作物の開発を担当)では、新規PPO除草剤である「ラピディシル」の登録申請を米国、カナダ、ブラジル及びアルゼンチンで完了し、大きく開発を進展させたことに加え、本剤は多様な雑草に効果を示すことから、土壌からの二酸化炭素の放出抑制に資する不耕起栽培に適しており、カーボンニュートラルへの貢献が期待できます。コルテバ・アグリサイエンス社との種子処理技術の開発、商業化プロジェクトにも引き続き取り組んでおります。さらに、当社が戦略的分野と位置付けているバイオラショナル事業では、米国のFBサイエンス社の買収を通じ、成長著しいバイオスティミュラント分野への本格参入を果たしました。バイオスティミュラントは天然物由来の農業資材で、非生物的ストレスに対する防御機能を誘導し作物の健全な成長を促すとともに、栄養素の吸収を促進することによって作物の品質改善や増収効果をもたらします。当社は、化学農薬、バイオラショナルの強固な基盤をもとにリジェネラティブ農業への貢献を追求いたします。 生活環境事業については、重点強化領域の市場セグメントにおける新製品の開発と製品群の拡充を推進しております。引き続き強い市場ニーズのある天然物由来製品に対応すべく、グループ会社と共同で、新規ボタニカル殺虫剤の登録申請、これに続くボタニカル成分の開発及び登録申請に向けたデータ取得を順調に進めております。業務用殺虫剤分野では、ゴキブリ防除用新製品「ヴェンデッタ360」を上市するなど、さらなる新製品の開発に取り組んでおります。熱帯感染症対策資材分野では、抵抗性を持つ蚊へ卓効を示す室内残留散布剤の普及に取り組むと同時に、蚊の発生源対策として幼虫防除用新製品の開発・登録を引き続き進めていくことで、長期残効性蚊帳と併せて熱帯感染症を媒介する蚊に対して総合的な防除を可能とする製品拡充に取り組んでおります。また、グループ会社と共同で感染症拡大防止へ向けた抗ウイルス製品の開発も継続しております。 アニマルニュートリション事業については、競争力強化のためメチオニンの合理化製法の開発やプロセス改善に加え、機能性飼料添加物分野における製品ラインナップ拡充のため、飼料効率の改善と安心・安全な畜産物生産に貢献できる新規製品の開発に取り組んでおります。また、近年問題となっている家畜排泄物由来の温室効果ガス(GHG)の低減を目的として、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構や国内大学等との共同研究プロジェクトに参画し、引き続きメチオニンを含むアミノ酸バランス改善飼料の技術普及を推進しております。 ファーマソリューション事業については、当社の有機合成プロセスの技術力を駆使した新薬の受託製造品目の拡充、及びジェネリック原薬の製法開発に取り組んでおり、有望な複数の開発品・新製品に対して商業生産へ向けた準備を進めております。核酸医薬原薬につきましては、長鎖RNA需要の成長に対応するため、大分工場内に新工場を建設し、2023年8月より稼働を開始しました。新工場の稼働開始に合わせて研究機能の一部を大分に移管したことにより、迅速なスケールアップを可能にするとともに競争力のある要素技術の獲得、独自技術の拡張を目的とした研究開発を推進しております。 なお、健康・農業関連事業部門における当連結会計年度の研究開発費は332億円であります。 医薬品分野では、精神神経領域、がん領域及びその他領域において、医薬品、再生・細胞医薬、非医薬等による多様なアプローチで人々の健康で豊かな生活に貢献するため、住友ファーマ及び日本メジフィジックス株式会社における自社研究に加え、技術導入、ベンチャー企業やアカデミアとの共同研究等、あらゆる方法で先端の技術を取り入れて研究開発活動に取り組んでおります。 当連結会計年度においては、精神神経領域では、①他家iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞(開発コード:CT1-DAP001/DSP-1083)について、2023年12月、日本において、京都大学医学部附属病院が実施していたパーキンソン病治療に関するフェーズ1/2試験(医師主導治験)の2年間の観察期間が終了しました。また、米国において、カリフォルニア大学サンディエゴ校が非凍結細胞(CT1-DAP001)を用いたパーキンソン病治療に関するフェーズ1/2試験(医師主導治験)を開始しました。さらに、同じく米国において、凍結細胞(DSP-1083)を用いたパーキンソン病治療に関するフェーズ1/2試験(企業治験)を開始しました。②他家iPS細胞由来網膜色素上皮細胞(開発コード:HLCR011)について、日本において、網膜色素上皮裂孔を対象としたフェーズ1/2試験を開始しました。③ウロタロント(開発コード:SEP-363856)について、2023年7月、米国において、統合失調症を対象として実施していた2本のフェーズ3試験の解析結果を得ましたが、いずれの試験においても主要評価項目を達成することができませんでした。その後、本剤の開発方針を検討した結果、住友ファーマにおける開発を中止し、大塚製薬株式会社に開発を委ねることとしました。④SEP-4199について、米国及び日本において、双極Ⅰ型障害うつを対象としたフェーズ3試験を実施していましたが、被験者登録の進捗の大幅な遅れにより、試験を中止しました。その後、本剤の開発方針を検討した結果、住友ファーマにおける開発を中止しました。⑤EPI-589について、米国におけるパーキンソン病を対象としたフェーズ2試験並びに米国及び日本における筋萎縮性側索硬化症(ALS)を対象としたフェーズ2試験の結果を踏まえ、本剤の開発方針を検討した結果、住友ファーマにおける開発を中止しました。 がん領域では、①TP-3654について、米国及び日本において、骨髄線維症を対象としたフェーズ1/2試験を推進しました。②DSP-5336について、米国及び日本において、急性白血病を対象としたフェーズ1/2試験を推進しました。 その他の領域では、①「ジェムテサ」(一般名:ビベグロン)について、2024年2月、米国において、前立腺肥大症を伴う過活動膀胱に対する適応追加申請を行いました。②「オブジェムサ」(一般名:ビベグロン)について、2023年5月、欧州において、提携先が過活動膀胱に対する承認申請を行いました。③レルゴリクス配合剤の「ライエクオ」(一般名:レルゴリクス・エストラジオール・酢酸ノルエチンドロン配合剤)について、2023年11月、欧州において、提携先が子宮内膜症に対する適応追加承認を取得しました。④rodatristat ethylについて、米国において、肺動脈性肺高血圧症(PAH)を対象としたフェーズ2試験を実施していましたが、期待した有効性及び安全性が認められなかったことから、すべての試験を中止しました。その後、本剤の開発方針を検討した結果、住友ファーマにおける開発を中止しました。⑤「ゼンレタ」(一般名:lefamulin)について、2023年11月、中国において、市中肺炎を適応症とした承認を取得しました。⑥ユニバーサルインフルエンザワクチンについて、2024年3月、ベルギーにおいて、TLR7アジュバント(開発コード:DSP-0546LP)を添加して作製した新規のユニバーサルインフルエンザワクチン製剤のフェーズ1試験の開始申請を提出しました。 放射性医薬品については、AMEDによるCiCLE事業の研究開発課題として採択されたセラノスティクス(治療と診断の融合)薬剤開発プロジェクト「CRADLE(Consortium for Radiolabeled Drug Leadership)」を日本メジフィジックス株式会社が中心となって推進しました。 なお、医薬品部門における当連結会計年度の研究開発費は942億円であります。 全社共通及びその他の研究分野においては、上記5事業分野の事業領域を外縁部へ積極拡大するための研究及びマテリアルズ・インフォマティクス等のデータ科学・計算科学をはじめとする共通基盤技術開発の強化により、環境、ヘルスケア、食糧、ICTの重点4分野における次世代事業の創出加速を進め、社会的課題の解決の実現を推進しております。また、カーボンニュートラル実現の視点からの研究開発の重要性が増していることから、当社は、2021年12月に公表した住友化学グループのカーボンニュートラル・グランドデザインに基づき、「責務」として自らが発生するGHG排出量を2030年度までに2013年度比50%削減、さらに2050年度までにネットゼロ達成に向けた取り組みを進めるとともに、「貢献」についてはGHG削減に貢献する製品・技術の開発、社会実装及びライセンスを通じたグローバル展開に取り組んでおります。当連結会計年度においては、次の進展がありました。 環境分野では、創エネ・蓄エネにつながる次世代電池、地球温暖化対策となるGHG排出削減や資源リサイクルによる環境負荷低減に関する技術開発を加速しております。具体的には、炭素資源循環技術の確立を目指し、グリーンイノベーション基金事業の助成を受けた様々なプロジェクトを進行中です。千葉工場の袖ケ浦地区において、エタノールからプロピレンを直接製造する実証に向けたパイロット設備の建設に着手しました。2025年前半に同設備を完成させるとともに、早期の社会実装を目指してまいります。愛媛工場においては、CO2からメタノールを高効率に製造する実証パイロット設備を新設し、2023年12月より運転を開始しました。本技術は、国立大学法人島根大学と共同開発を進めてきた内部凝縮型反応器(Internal Condensation Reactor)により、従来技術の課題を解決したものになります。2028年までには実証を完了し、2030年代の事業化及び他社へのライセンス供与を目指してまいります。 また、当社は、合成生物学のパイオニア企業である米国ギンコバイオワークス社と、バイオものづくりの連携を強化し、合成生物学を用いた機能化学品の開発に着手しました。今回の取り組みで、ギンコバイオワークス社は、菌株設計の技術を生かした商業化に必要な菌株開発を担い、当社は、製造プロセスの開発及びそのスケールアップによる商業化に向けた検討を行います。両社は、化石資源を原料とした製造方法に代わって、微生物の発酵生産によって機能化学品を量産化することで、よりカーボンフットプリントの低い製品を提供し、カーボンニュートラル社会の実現への貢献を目指してまいります。 ヘルスケア分野では、再生・細胞医薬や体調モニタリング等の先端医療・予防・診断に関する技術の開発に引き続き取り組んでおります。名古屋大学大学院と、住友ファーマ、当社及び藤田医科大学らの共同研究グループにおいて、ヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞)及びヒト人工多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)を用い、高効率かつ高純度で下垂体ホルモン産生細胞を作製する方法を開発しました。本研究の成果は下垂体の機能が低下した患者に対する再生医療の実現に向け、一歩前進したものと言えます。 食糧分野では、当社の保有技術を活かすことが可能と思われる機能性飼料やバイオラショナル資材等の食糧の品質・収量向上に資する技術の開発に取り組んでおります。 ICT分野では、有機ELディスプレイ材料、5G・6G等の通信対応材料、次世代半導体関連材料及びイメージセンサー材料等の技術開発に引き続き取り組んでおります。環境に配慮したデバイスの実用化に向けて、次世代量子デバイスの重要材料の一つとして期待される「強相関電子材料」の研究開発を行うため、2023年4月より東京大学大学院、東京工業大学、国立研究開発法人理化学研究所のそれぞれに研究拠点を設け、共同研究を開始しました。研究員が複数の組織で開発を実施するクロスアポイントメントも活用しながら、プロジェクト間の連携を進め、研究成果の最大化や早期の社会実装を目指してまいります。 以上の研究開発の早期の事業化に向け、下記のような取り組みも強化しております。 デジタル技術の活用により、研究開発活動の生産性向上の取り組みを継続、深化させ、顧客接点強化や顧客満足度向上等事業の競争力強化(DX戦略2.0)を計るとともに、新規ビジネスモデルの構築による事業創出(DX戦略3.0)にも取り組んでおります。DX戦略3.0による新たな価値創造として、天然素材のデジタル・ネットワーキング・プラットフォームBiondo(ビオンド)を2024年7月に公開予定です。本サービスは天然素材の有効活用を促すための3つのサービスを提供するものであり、当社の強みである網羅分析技術による成分分析サービス、天然素材と機能性成分に関する豊富なデータベース及びプラットフォーム上でのマッチングサービスを、ウェブサイト上で総合的に提供するものになります。天然素材の新たな価値の発見により有効活用を促し、資源循環へ貢献を目指します。また、生成AIを活用した当社版「ChatGPT」として「ChatSCC」を開発し、約6,700名の全従業員を対象に運用を開始しました。足元では生産性の飛躍的向上を実現するとともに、将来的には当社独自データの有効活用による既存事業の競争力確保、さらには新規ビジネスモデルの創出へとつなげてまいります。 また、千葉地区にて環境負荷低減技術や新素材の開発拠点として2024年6月末に新たな研究棟が稼働開始予定です。これにより、環境負荷低減テーマの加速と早期実現化を目指し、研究体制の強化を図ってまいります。 なお、全社共通部門における当連結会計年度の研究開発費は170億円であります。 このように、新製品・新技術の研究開発及び既存製品の高機能化・既存技術の一層の向上に取り組みつつ、食糧、ICT、ヘルスケア、環境の4つの重点分野の社会課題をイノベーティブな技術で解決する企業(Innovative Solution Provider)を目指してまいります。
FY2023|9,513 文字
6 【研究開発活動】 当社グループ(当社および連結子会社)は、事業拡大と収益向上に寄与すべく、独自の優位性ある技術の確立を基本方針とし、各社が独自に研究開発活動を行っているほか、当社グループ全体としての効率性を念頭に置きながら、互いの研究開発部門が密接に連携して共同研究や研究開発業務の受委託等を積極的に推進しております。 当連結会計年度においては、2022年度から2024年度までの中期経営計画に従い、引き続き、環境、ヘルスケア、食糧、ICTの4分野に研究資源を重点投入するとともに、異分野技術融合による新規事業の芽の発掘とその育成に取り組んでまいりました。これに基づき、当連結会計年度に計上された研究開発費は、前連結会計年度に比べ207億円増加し、1,956億円となりました。 セグメントごとの研究開発活動を示すと次のとおりであります。 エッセンシャルケミカルズ分野では、事業のグローバル競争力強化のために、モノマー製品の触媒・プロセスの改良、合成樹脂の製造プロセスの改良、既存素材の高性能化や新規高付加価値製品の開発に取り組む一方で、環境負荷低減に資する資源循環技術の確立に注力しております。 当連結会計年度において、プロピレンオキサイド単産法、塩酸酸化、MMAモノマー、ポリオレフィン等のライセンス関連プロセスに用いる触媒の高性能・長寿命化と安全性・安定生産性の向上を目指した改良研究を継続実施しました。資源循環技術では、リサイクルが容易な包装用ポリオレフィン材料として、素材メーカーとして強みを生かした材料設計技術を駆使し、剛性と耐熱性を単一の樹脂で両立するポリエチレンおよびポリプロピレンのモノマテリアル包材の開発を推進しております。その開発から生まれた、高剛性ポリエチレン「スミクル」は、特殊配合技術により高い剛性を実現し、従来、ナイロンやPETが使われていたプラスチック容器包装の基材層に適用し、ポリエチレンのシーラント層と組み合わせることで、ポリエチレンのモノマテリアル容器包装を作ることができ、国内外のお客様から高い関心を得ております。また、総合リサイクル企業であるリバー株式会社と、使用済み自動車から得られる廃プラスチックのマテリアルリサイクルに向けた業務提携契約を締結し、共同で技術開発を行っております。現在、実証プロセスを建設中であり、2024年度から実証実験、サンプル提供を開始します。アクリル樹脂では、ケミカルリサイクル技術の開発を株式会社日本製鋼所と共同で進め、二軸混練押出機を利用してアクリル樹脂を熱分解し、原料となるMMAモノマーとして再生する独自の基本技術を確立しました。愛媛工場内に、2022年秋に実証プロセスが完成し、2023年上期のサンプル提供開始を目指し、実証実験を進めております。本プロセスで得たケミカルリサイクルMMAモノマーは、当社が展開するリサイクル技術を活用して得られるプラスチック製品等を対象にした「Meguri(メグリ)」ブランドの第一号となります。 なお、エッセンシャルケミカルズ部門における当連結会計年度の研究開発費は74億円であります。 エネルギー・機能材料分野では、環境・エネルギー関連事業を拡大させるため、リチウムイオン二次電池用部材、スーパーエンジニアリングプラスチックス、無機材料、機能性樹脂材料等の幅広い製品領域で、既存製品の競争力強化や新規製品創出に向けた研究開発に取り組んでおります。 当連結会計年度において、リチウムイオン二次電池用各種部材は、自動車向けを中心に、性能向上の要請や需要拡大に応えるため、開発を鋭意進めました。耐熱セパレータでは、性能向上とコスト削減を両立させる技術開発が進捗しており、新規顧客獲得に向けて検討を進めております。正極材は独自技術・プロセスを組み込んだ量産実証設備を愛媛工場に建設中であり、2023年度稼働を予定しております。また、京都大学産学共同研究講座「固体型電池システムデザイン」では、柔軟性を有する固体電解質により、圧力を加えなくても電極との界面接合が可能になる柔固体型電池の実用化に向けた材料および要素技術の開発が進捗しております。 機能樹脂分野では、電気・電子部品分野向けや自動車部材向けにスーパーエンジニアリングプラスチックスの需要が増大しております。ポリエーテルサルホン(PES)では、電動車部材や半導体工程部材、高機能膜向けの開発・拡販を積極的に進めており、液晶ポリマー(LCP)では、高流動性や高剛性を活用した電動車用エレクトロニクス材料に加え、高周波特性に優れたグレードによる高速通信コネクタやフィルム用途グレードの開発を進めており、次世代移動通信(5G)用途で顧客採用が進んでおります。また、LCPの旺盛な需要に応えるべく、愛媛工場において生産能力増強工事を実施中で、今年度の稼働に向け取り組んでおります。 無機材料分野では、半導体製造装置用セラミックス等向けの超微粒高純度アルミナの開発が進捗しました。従来よりも強度や耐薬品性、審美性に優れるセラミックスが得られることが特長です。現在、量産の準備を整えているところであります。 なお、エネルギー・機能材料部門における当連結会計年度の研究開発費は88億円であります。 情報電子化学分野では、日本国内に留まらずグローバルな技術・研究開発能力を結集し、IT関連の先端技術進化を支える新規材料・部材・デバイスに関する新製品の開発に、引き続き積極的に取り組んでおります。 当連結会計年度において、まず、ディスプレイ材料分野においては、ハイエンドディスプレイの主流になりつつあるOLEDパネルに対し、当社独自のキーコンポーネントである液晶塗布型位相差フィルムを中小型モバイルまで用途拡大するとともに、薄型化に寄与し耐久性や折り曲げ特性に優れた液晶塗布型偏光板についても開発を完了し拡販を積極的に進めております。今後は、より高機能化するディスプレイに対応する新規機能性フィルムなど各種機能性材料の開発を加速してまいります。また、当社の高分子有機EL材料を用いた中型パネルは、技術確立が完了し、国内外の主要セットメーカーによって各種モニター・ディスプレイとして採用されました。この中型パネルの技術をベースとして、主要パネルメーカーが引き続き、より生産性の高い大型基板を用いた印刷法パネル量産に向けた検討を進めており、当社はパネルメーカーとの共同開発の中で、材料の改良、量産実証を進めております。 半導体材料分野においては、半導体集積度向上という命題に対し、微細加工分野において、最先端技術である超短波長EUV(極端紫外線)光源向けフォトレジストの性能向上および拡販していくとともに、従来の液浸ArFレジストや多層配線用厚膜レジストについてもラインナップを拡充・強化してまいります。 化合物半導体材料分野においては、2022年10月1日付で100%子会社の株式会社サイオクスを吸収合併し、情報電子化学部門内に「サイオクス事業部」および「茨城工場」を新設しました。成長が期待される次世代パワー半導体用の大口径GaN(窒化ガリウム)基板など化合物半導体材料の事業基盤強化を図るとともに、高速・大容量通信、省エネ、自動運転等の技術を支え、より高度な社会の実現に貢献すべく、高周波デバイス用各種エピウェハの設計開発も行っております。 IoT次世代技術として拡大が見込まれる高速通信用デバイス分野においても、窓ガラス等に貼り付け可能なフレキシブル透明アンテナやそれを用いた中継器の開発を加速し公共エリア等での実証実験を進めております。加えて、自動運転技術等に欠かせないセンシングデバイス分野においては、薄膜形成を中心とした要素技術を活用し、鉛フリーで環境に優しい新規圧電薄膜材料やフォトニクス構造を用いたセンサー技術の開発に取り組んでおります。 また、モバイル端末等に使用されるイメージセンサー用途に対しては、ディスプレイ・半導体双方の領域で蓄積した技術とノウハウを活用し、高解像度/高感度化に貢献する多様な機能材料の開発を行っております。 なお、情報電子化学部門における当連結会計年度の研究開発費は199億円であります。 健康・農業関連事業分野では、世界の食糧増産、健康・衛生や環境の改善といった課題解決を通じてサステナブルな社会の実現に貢献するため、環境負荷低減効果を重視した技術による新製品やアプリケーション、競争力のある製造プロセスの開発を加速化し、コア事業のさらなる強化と周辺事業の拡大に取り組んでおります。 当連結会計年度において、国内農業関連事業については、園芸用新規殺菌剤「パベクト」(一般名:メチルテトラプロール)含有製品を上市しました。続いて、ブドウの着色促進用途として開発を続けてまいりました天然物由来の植物生長調整剤であるアブシシン酸含有製品の上市準備を進めております。また、近年上市しました殺虫剤オキサゾスルフィル、殺菌剤「インディフリン」についても、新用途および新製品の開発を進めております。コメ事業においては消費者や生産地のニーズに合う特徴のある新品種の開発を継続しております。さらに、画像診断技術を活用した病害虫画像診断アプリの機能拡張を図る等、省力化・環境負荷低減技術の開発を通じて農業生産者への総合的ソリューションの提供を拡大すべく、農薬、肥料、コメ事業の製品ポートフォリオ拡充および付随するサービスに関する研究開発を進めております。海外農業関連事業においては、有効成分「インディフリン」を含有する殺菌剤「エクスカリア マックス」をブラジルで上市しました。本剤は、南米における最重要病害であるダイズさび病に極めて高い効果を示します。また、当社新規殺菌剤「パベクト」は欧州市場を中心とした展開が期待されており、鋭意開発を進めております。バイエル社との雑草防除体系の創出プロジェクト(当社が新規除草剤、バイエル社が耐性作物の開発を担当)では、新規PPO除草剤である「ラピディシル」の登録申請を米国、カナダ、ブラジルおよびアルゼンチンで完了し、大きく開発を進展させたことに加え、本剤は多様な雑草に効果を示すことから、二酸化炭素の放出抑制に資する不耕起栽培に適しており、カーボンニュートラルへの貢献が期待できます。コルテバ・アグリサイエンス社との種子処理技術の開発、商業化プロジェクトにも引き続き取り組んでおります。さらに、当社が戦略的分野と位置付けているバイオラショナル事業では、米国のFBサイエンス社の買収を通じ、成長著しいバイオスティミュラント分野への本格参入を果たしました。バイオスティミュラントは天然物由来の農業資材で、非生物的ストレスに対する防御機能を誘導し作物の健全な成長を促すとともに、栄養素の吸収を促進することによって作物の品質改善や増収効果をもたらします。FBサイエンス社が持つ製品ポートフォリオおよび技術ノウハウを組み合わせることによって、バイオラショナル事業の一層の拡大を図るとともに、化学農薬との新たなシナジーも追求してまいります。 生活環境事業については、重点強化領域の市場セグメントにおける新製品の開発と製品群の拡充を推進しております。引き続き強い市場ニーズのある天然物由来製品に対応すべく、グループ会社と共同で、新規ボタニカル殺虫剤の登録申請、これに続くボタニカル成分の開発および登録申請に向けたデータ取得を順調に進めております。業務用殺虫剤分野では、アメリカ市場で主要対象害虫の一つであるアリの防除用で上市した新製品の拡販および用途拡大、さらなる新製品の開発に取り組んでおります。熱帯感染症対策資材分野では、抵抗性を持つ蚊へ卓効を示す室内残留散布剤の普及に取り組むと同時に、蚊の発生源対策として幼虫防除用新製品の開発・登録を引き続き進めていくことで、長期残効性蚊帳と併せて熱帯感染症を媒介する蚊に対して総合的な防除を可能とする製品拡充に取り組んでおります。また、グループ会社と共同で感染症拡大防止へ向けた抗ウイルス製品の開発も継続しております。 アニマルニュートリション事業については、競争力強化のためメチオニンの合理化製法の開発やプロセス改善に加え、機能性飼料添加物分野における製品ラインナップ拡充のため、飼料効率の改善と安心・安全な畜産物生産に貢献できる新規製品の開発に取り組んでおります。また、近年問題となっている家畜排泄物由来の温室効果ガス(GHG)の低減を目的として、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構や国内大学等との共同研究プロジェクトに参画し、引き続きメチオニンを含むアミノ酸バランス改善飼料の技術普及を推進しております。 医薬化学品事業(2023年4月1日付で「ファーマソリューション事業」へ名称変更)については、当社の有機合成プロセスの技術力を駆使した新薬の受託製造品目の拡充、およびジェネリック原薬の製法開発に取り組んでおり、有望な複数の開発品・新製品に対して商業生産へ向けた準備を進めております。核酸医薬原薬につきましては、長鎖RNA需要の成長に対応するため、大分工場内に建設中の新工場が2023年度から稼働を開始する予定であります。新工場の稼働開始に合わせて研究機能の一部を大分に移管することにより、迅速なスケールアップを可能にするとともに競争力のある要素技術の獲得、独自技術の拡張を目的とした研究開発を推進しております。 なお、健康・農業関連事業部門における当連結会計年度の研究開発費は313億円であります。 医薬品分野では、精神神経領域、がん領域および再生・細胞医薬分野を重点領域として、住友ファーマおよび日本メジフィジックス株式会社における自社研究に加え、技術導入、スタートアップ企業やアカデミアとの共同研究等、様々な方法で最先端の技術を取り入れた研究開発活動を推進し、優れた医薬品の継続的な創製を目指しております。さらに、感染症領域にも取り組み、グローバルヘルスへの貢献を目指すとともに、医薬品以外のヘルスケア領域における、社会課題の解決への新たなソリューションを提供することを目的として、フロンティア事業の立ち上げを進めております。 当連結会計年度においては、精神神経領域では、①ulotaront(開発コード:SEP-363856)について、統合失調症を対象とした米国でのフェーズ3試験ならびに日本および中国でのフェーズ2/3試験を推進しました。また、大うつ病補助療法を対象とした米国でのフェーズ2/3試験ならびに全般不安症を対象とした米国および日本でのフェーズ2/3試験を開始しました。②SEP-4199について、米国および日本において、双極Ⅰ型障害うつを対象としたフェーズ3試験を推進しました。③また、新たに2品目のフェーズ1試験を開始しました。 がん領域では、①「オルゴビクス」(一般名:レルゴリクス)について、欧州において、成人におけるホルモン感受性の進行性前立腺がんを適応症とした承認を2022年5月に取得しました。②DSP-7888(一般名:アデグラモチド酢酸塩/ネラチモチドトリフルオロ酢酸塩)については米国において、固形がんを対象としたフェーズ1/2試験を実施していましたが、中間解析で期待した有効性が認められなかったことにより、試験を中止しました。さらに過去の治験結果も含めて本剤の開発方針を検討した結果、DSP-7888自体の開発を中止しました。③TP-0903(一般名:dubermatinib)について、米国において、外部研究機関が急性骨髄性白血病(AML)を対象としたフェーズ1/2試験を実施していましたが、期待した有効性が認められなかったことにより試験を中止しました。さらに本剤の開発方針を検討した結果、TP-0903の開発自体を中止しました。 再生・細胞医薬分野では、米国において、他家培養胸腺組織「リサイミック」および他家iPS細胞由来の細胞製品の生産体制の構築に向けて、細胞製品製造施設の建設を2022年8月に開始しました。 感染症領域では、北里研究所との共同研究を通じてカルバペネム耐性菌感染症治療薬を目指し創製されたKSP-1007について、米国でのフェーズ1試験を完了しました。また、米国食品医薬品局(FDA)より適格感染症治療製品(QIDP:Qualified Infectious Disease Product)およびFast Track(FDAとのより綿密な連携や承認申請における逐次審査が可能となる制度)の指定を2022年8月に受けました。なお、本共同研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)に係る研究開発課題として採択されており、AMEDからの委託研究開発費を活用しております。 その他の領域では、①レルゴリクス配合剤については、米国において、「マイフェンブリー」の子宮内膜症に伴う中等度から重度の痛みを適応症とした適応追加承認を2022年8月に取得しました。また、欧州において、「ライエクオ」の子宮内膜症に対する適応追加申請を2022年10月に行いました。②ビベグロンについては、中国において、過活動膀胱を対象としたフェーズ3試験を開始しました。 フロンティア事業では、①日本において、株式会社メルティンMMIと共同開発し、同社が2022年5月に医療機器認証を取得した「MELTz 手指運動リハビリテーションシステム」について、2022年9月に同社との間で販売提携契約を締結し、当社が販売を開始しました。②米国において、ビヘイビア社と共同開発したメンタルヘルスVRコンテンツ「First Resort」(非医療機器)について、同社が2022年11月に試験販売を開始しました。③日本において、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社と共同開発した難聴者用マルチ会話表示デバイス「VUEVO」(非医療機器)について、同社が2023年3月に販売を開始しました。④日本において、慶應義塾大学およびi2medical合同会社と共同開発中のうつ病検出・重症度評価支援プログラムについて、プログラム医療機器の優先審査指定制度の初めての対象品目として2023年3月に指定されました。 放射性医薬品については、AMEDによるCiCLE事業の研究開発課題として採択されたセラノスティクス(治療と診断の融合)薬剤開発プロジェクト「CRADLE(Consortium for Radiolabeled Drug Leadership)」を日本メジフィジックス株式会社が中心となって推進しております。 なお、医薬品部門における当連結会計年度の研究開発費は1,096億円であります。 全社共通およびその他の研究分野においては、上記5事業分野の事業領域を外縁部へ積極拡大するための研究およびマテリアルズ・インフォマティクス等のデータ科学・計算科学をはじめとする共通基盤技術開発の強化により、環境、ヘルスケア、食糧、ICTの重点4分野における次世代事業の創出加速を進め、社会的課題の解決の実現を推進しております。また、カーボンニュートラル実現の視点からの研究開発の重要性が増していることから、当社は、2021年12月に公表した住友化学グループのカーボンニュートラル・グランドデザインに基づき、「責務」として自らが発生するGHG排出量を2030年度までに2013年度比50%削減、さらに2050年度までにネットゼロ達成に向けた取り組みを進めるとともに、「貢献」についてはGHG削減に貢献する製品・技術の開発、社会実装およびライセンスを通じたグローバル展開に取り組んでおります。当連結会計年度においては、次の進展がありました。 環境分野では、創エネ・蓄エネにつながる次世代電池、地球温暖化対策となるGHG排出削減や資源リサイクルによる環境負荷低減に関する技術開発を加速しております。具体的には、炭素資源循環技術の確立を目指し、グリーンイノベーション基金でのプロジェクトが本格的に開始しました。また、環境に配慮したエタノールを原料とするエチレンの試験製造設備を千葉工場(千葉県市原市)に新設いたしました。千葉工場に新設した試験製造設備では、サーキュラーエコノミーの取り組みで協力している積水化学工業株式会社が生産する“ごみ”資源由来のエタノールや、バイオエタノールを原料にエチレンを生産する検討を進めております。 ヘルスケア分野では、再生・細胞医薬や体調モニタリング等の先端医療・予防・診断に関する技術の開発に引き続き取り組んでおります。2022年4月、再生・細胞医薬品の普及に向けて、京都大学発のスタートアップ企業であり、細胞培養技術に強みを持つ株式会社マイオリッジと資本業務提携契約を締結いたしました。 食糧分野では、当社の保有技術を活かすことが可能と思われる機能性飼料やバイオラショナル資材等の食糧の品質・収量向上に資する技術の開発に取り組んでおります。 ICT分野では、有機ELディスプレイ材料、5G/6G等の通信対応材料、次世代半導体関連材料およびイメージセンサー材料等の技術開発に引き続き取り組んでおります。 以上の研究開発の早期の事業化に向け、下記のような取り組みも強化しております。 まず、社外連携の強化のため、日本橋の新本社内に開設した「SYNERGYCA(シナジカ)共創ラウンジ」の取り組みが2022年度グッドデザイン賞(主催:公益財団法人日本デザイン振興会)を受賞いたしました。SYNERGYCAは、企業やアカデミア等の皆さまとのコミュニケーションを通じて、新たな価値創造につながるアイデアを生み出すための交流の場で、最新のデジタル技術等を活用して活発な意見交換を促す取り組みが高く評価されました。 また、社内イノベーション促進のために、研究所間の連携強化を進めるとともに、事業部経験者による新規事業インキュベーション体制も構築し、事業化を加速しております。 さらには、デジタル技術の活用により、研究開発活動の生産性向上の取り組みを継続、深化させ、顧客接点強化や顧客満足度向上など事業の競争力強化(DX戦略2.0)を計るとともに、新規ビジネスモデルの構築による事業創出(DX戦略3.0)にも取り組んでおります。 一方、次世代事業の創出加速に向け、大阪地区にインキュベーションとオープンイノベーションの拠点として新たに研究棟の建設を計画しております。また、千葉地区には環境負荷低減技術や新素材の開発拠点として2024年春に新たな研究棟を稼働開始させる予定であります。これにより、現在の筑波地区研究所は大阪地区と千葉地区へ統合、それぞれ地区の特長を活かして、各研究活動のシナジーを促進して研究体制の強化を図ってまいります。 なお、全社共通部門における当連結会計年度の研究開発費は187億円であります。 このように、事業拡大および競争力強化を図るべく、新製品・新技術の研究開発および既存製品の高機能化・既存技術の一層の向上に取り組み、各事業分野におきまして着実に成果を挙げつつあります。
FY2022|9,285 文字
5 【研究開発活動】 当社グループ(当社および連結子会社)は、事業拡大と収益向上に寄与すべく、独自の優位性ある技術の確立を基本方針とし、各社が独自に研究開発活動を行っているほか、当社グループ全体としての効率性を念頭に置きながら、互いの研究開発部門が密接に連携して共同研究や研究開発業務の受委託等を積極的に推進しております。 当連結会計年度においては、2019年度から2021年度までの中期経営計画に従い、ヘルスケア、食糧、環境負荷低減、ICTの4分野に研究資源を重点投入するとともに、異分野技術融合による新規事業の芽の発掘とその育成に取り組んできました。 これに基づき、当連結会計年度に計上された研究開発費は、前連結会計年度に比べ37億円減少し、1,749億円となりました。 セグメントごとの研究開発活動を示すと次のとおりであります。 石油化学分野では、事業のグローバル競争力強化のために、モノマー製品の触媒・プロセスの改良、合成樹脂の製造プロセスの改良、既存素材の高性能化や新規高付加価値製品の開発に取り組む一方で、環境負荷低減に資する資源循環技術の確立に注力しております。 当連結会計年度において、ライセンス関連プロセスに用いるプロピレンオキサイド単産法、MMAモノマー用触媒の高性能・長寿命化と塩酸酸化、ポリオレフィン用触媒の安全性・安定生産性の向上を目指した改良研究を継続実施しました。資源循環技術では、リサイクルが容易な包装用ポリオレフィン材料として、素材メーカーとして強みを活かした材料設計を駆使し、剛性と耐熱性を単一の樹脂で両立するモノマテリアル包材の開発を推進しております。次年度早期に事業化を目指している高剛性ポリエチレン「スミクル®」は、特殊配合技術により高い剛性を実現し、従来、ナイロンやPETが使われていたプラスチック容器包装の基材層に適用し、ポリエチレンのシーラント層と組み合わせることで、ポリエチレンのモノマテリアル容器包装を作ることができます。また、総合リサイクル企業であるリバーホールディングス株式会社とは自動車に使用され廃棄されたポリプロピレンを再資源化するマテリアルリサイクルの技術開発も行っております。アクリル樹脂では、ケミカルリサイクル技術の開発を株式会社日本製鋼所と共同で進め、二軸混練押出機を利用してアクリル樹脂を熱分解し、原料となるMMAモノマーとして再生する独自の基本技術を確立しました。現在、実証設備を愛媛工場内に建設しており、2022年秋に実証試験に着手し、2023年のサンプル提供開始を目指しております。 なお、石油化学部門における当連結会計年度の研究開発費は71億円であります。 エネルギー・機能材料分野では、環境・エネルギー関連事業を拡大させるため、リチウムイオン二次電池用部材、スーパーエンジニアリングプラスチックス、無機材料、機能性樹脂材料などの幅広い製品領域で、既存製品の競争力強化や新規製品創出に向けた研究開発に取り組んでおります。 当連結会計年度において、リチウムイオン二次電池用各種部材は、自動車向けを中心に、性能向上の要請や需要拡大に応えるため、開発を鋭意進めました。耐熱セパレータでは、性能向上とコスト削減を両立させる技術開発が進捗しており、新規顧客獲得に向けて検討を進めています。正極材は独自技術・プロセスを組み込んだ量産実証設備を愛媛工場に建設中であり、2023年度稼働を予定しています。併せて、廃電池から分離回収した正極材を金属に戻さずに再生する「ダイレクトリサイクル」技術の開発に取り組んでいますが、本年4月、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「グリーンイノベーション基金事業/次世代蓄電池・次世代モーターの開発プロジェクト」に採択されました。また、2020年4月に開設した京都大学産学共同研究講座「固体型電池システムデザイン」では、固体型電池の実用化に向けた材料および要素技術の開発が進捗しており、学会発表を通じて成果を公表しています。 機能樹脂分野では、電気・電子部品分野向けや自動車部材向けにスーパーエンジニアリングプラスチックスの需要が増大しております。ポリエーテルサルホン(PES)では、電動車部材や半導体工程部材、高機能膜向けの開発・拡販を積極的に進めております。液晶ポリマー(LCP)では、高流動性や高剛性を活用した電動車用エレクトロニクス材料に加え、高周波特性に優れたグレードによる高速通信コネクタやフィルム用途グレードの開発を進めており、次世代移動通信(5G)用途で顧客採用が進んでおります。また、LCPの旺盛な需要に応えるべく、愛媛工場において生産能力増強を決定しました。 無機材料分野では、半導体製造装置用セラミックス等向けの超微粒高純度アルミナの開発が進捗しました。従来よりも強度や耐薬品性、審美性に優れるセラミックスが得られることが特長であり、実プラントへの適応を準備中です。 なお、エネルギー・機能材料部門における当連結会計年度の研究開発費は83億円であります。 情報電子化学分野では、日本国内に留まらずグローバルな技術・研究開発能力を結集し、IT関連の先端技術進化を支える新規材料・部材・デバイスに関する新製品の開発に、引き続き積極的に取り組んでおります。 当連結会計年度において、まず、ディスプレイ材料分野においては、次世代ディスプレイの主流になりつつあるOLEDパネルに対し、当社独自のキーコンポーネントである「液晶塗布型位相差フィルム」を用いたOLED用偏光フィルムの適用範囲を、大型テレビ用途から中小型モバイル用途まで拡大いたしました。加えて、薄型化に寄与し、耐久性や折り曲げ特性に優れた「液晶塗布型偏光板」の開発・市場投入を進めております。 また、当社の高分子有機EL材料を用いた中型パネルは、国内外の主要セットメーカーによって、各種モニター・ディスプレイ用途での認定・採用の動きが拡大しています。大型パネルにおいても、主要パネルメーカーとの間で第8世代以上の大型基板を用いた印刷法パネル量産の共同開発が大きく進捗し、実証ステージがさらに上がってきております。 半導体材料分野においては、半導体集積度向上という命題に対し、微細加工分野において現在主流の液浸ArFレジストのラインナップ拡充に加え、次世代製品であるEUVレジストや多層配線用厚膜レジストの開発・市場投入を進めております。化合物半導体材料分野においては、高速・大容量通信、省エネ、自動運転等の技術を支え、より高度な社会の実現に貢献すべく、高周波デバイス用各種エピウェハの設計開発を行っております。 IoTの主要構成ツールとして拡大が見込まれるセンシングデバイス分野においても、既に事業確立しているディスプレイ用タッチセンサーのさらなる高機能化や複合化を進めるとともに、薄膜形成を中心とした要素技術を活用し、新規センサーの開発に取り組んでおります。また、モバイル端末等に使用されるイメージセンサー用途に対して、ディスプレイ(光学)・半導体双方の領域で蓄積した技術とノウハウを活用し、高解像度/高感度化に貢献する多様な機能材料の開発を行っております。 なお、情報電子化学部門における当連結会計年度の研究開発費は199億円であります。 健康・農業関連事業分野では、世界の食糧増産、健康・衛生や環境の改善といった課題解決を通じてサステナブルな社会の実現に貢献するため、技術イノベーションが急速に進むIoTやバイオテクノロジー技術を活用し、新製品やアプリケーション、競争力のある製造プロセスの開発に取り組むことで、コア事業の強化と周辺事業への展開および川下化を推進しております。 当連結会計年度において、国内農業関連事業については、水稲用新規殺虫剤であるオキサゾスルフィル含有製品を上市しました。先般上市しました新規殺菌剤のインディフィリン®も含めて、当社新規有効成分を用いた新用途および新製品の開発を進めております。また、コメ事業においては消費者や生産地のニーズに合う特徴のある新品種の開発を継続しております。さらに、画像診断技術を活用した病害虫画像診断アプリを開発するなど、農業生産者への総合的ソリューションの提供に向けて、農薬、肥料、コメ事業の製品ポートフォリオ拡充および付随するサービスに関する研究開発を進めております。海外農業関連事業においては、新規殺菌剤であるインディフリン®を米国、カナダに加えパラグアイで上市しました。引き続き本剤を活用した新用途および新製品の開発を進めております。本剤は、南米における重要病害であるダイズさび病の防除にも有効であり、その最大の市場であるブラジルでの登録を取得し、本市場での上市に向けて準備を進めております。また、欧州市場を中心とした展開が期待される当社新規殺菌剤メチルテトラプロール(Pavecto®)の開発も進めております。バイエル社との雑草防除体系の創出プロジェクト(当社が新規除草剤、バイエル社が耐性作物の開発を担当)では、新規PPO除草剤であるラピディシルTMの登録申請を米国、カナダ、ブラジルおよびアルゼンチンで完了し、大きく開発を進展させました。コルテバ・アグリサイエンス社との種子処理技術の開発、商業化プロジェクトにも引き続き取り組んでおります。さらに、当社が戦略的分野と位置付けているバイオラショナル事業では、新規植物生長調整剤アクシードTMの米国での上市をいたしました。引き続きバイオラショナル製品のポートフォリオも拡充しております。化学農薬およびバイオラショナルの両領域でサステナブルな農業に貢献するための研究開発を加速してまいります。 生活環境事業については、重点強化領域の市場セグメントにおける新製品の開発と製品群の拡充を推進しております。引き続き強い市場ニーズのある天然物由来製品に対応すべく、グループ会社と共同で、新規ボタニカル殺虫剤の登録申請、これに続くボタニカル成分の開発および登録申請に向けたデータ取得を順調に進めております。 業務用殺虫剤分野では、アメリカ市場で主要対象害虫の一つであるアリの防除用で上市した新製品の拡販およびさらなる新製品の開発に取り組んでおります。 熱帯感染症対策資材分野では、抵抗性を持つ蚊へ卓効を示す室内残留散布剤の登録国を増やすと同時に、蚊の発生源対策として幼虫防除用新製品の開発・登録を引き続き進めていくことで、長期残効性蚊帳と併せて熱帯感染症を媒介する蚊に対して総合的な防除を可能とする製品拡充に取り組んでおります。 また、グループ会社と共同で感染症拡大防止へ向けた抗ウイルス製品の開発も継続しております。 アニマルニュートリション事業については、競争力強化のためメチオニンの合理化製法の開発やプロセス改善に加え、機能性飼料添加物分野における製品ラインナップ拡充のため、飼料効率の改善と安心・安全な畜産物生産に貢献できる新規製品の開発に取り組んでおります。また、近年問題となっている家畜排泄物由来の温室効果ガス(GHG)の低減を目的として、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構や国内大学などとの共同研究プロジェクトに参画し、引き続きメチオニンを含むアミノ酸バランス改善飼料の技術普及を推進しております。 医薬化学品事業については、当社の有機合成プロセスの技術力を駆使した新薬の受託製造品目の拡充、およびジェネリック原薬の製法開発に取り組んでおり、有望な複数の開発品・新製品に対して商業生産へ向けた準備を進めております。また、市場の成長に対応すべく新工場を建設中である核酸医薬原薬の製造において、長鎖RNAを中心にオリゴ核酸のGMP(Good Manufacturing Practice)管理下での生産実績を積むとともに有望な開発品の製造を受託し、競争力のある要素技術の獲得、独自技術の拡張を目的とした研究開発を推進しております。 なお、健康・農業関連事業部門における当連結会計年度の研究開発費は278億円であります。 医薬品分野では、精神神経領域、がん領域および再生・細胞医薬分野を研究重点領域とし、また、感染症領域にも取り組み、グローバルヘルスへの貢献を目指し、大日本住友製薬および日本メジフィジックス株式会社が有する自社技術を活かした研究開発に加え、技術ライセンス、ベンチャー企業やアカデミアとの共同研究などによる最先端の外部技術の導入にも取り組み、優れた医薬品の継続的な創製を目指しております。さらに、医薬品以外のヘルスケア領域において、社会課題の解決のための新たなソリューションを提供することを目的として、フロンティア事業の立ち上げを目指しています。 当連結会計年度においては、精神神経領域で次の進展がありました。①ulotaront(開発コード:SEP-363856)について、米国でのフェーズ3試験および日本・中国でのフェーズ2/3試験を推進しました。②SEP-4199について、米国および日本において、双極Ⅰ型障害うつを対象としたフェーズ3試験を開始しました。③また、新たに2品目のフェーズ1試験を開始しました。 がん領域では、DSP-7888(一般名:アデグラモチド酢酸塩/ネラチモチドトリフルオロ酢酸塩)について、米国および日本において、再発または進行性膠芽腫を対象としたフェーズ3試験を実施していましたが、中間解析の結果を受け、最終解析で主要評価項目を達成する可能性が低いと判断し、本試験を中止しました。②また、新たに1品目のフェーズ1試験を開始しました。 再生・細胞医薬分野では、引き続き、産学の連携先と、加齢黄斑変性、パーキンソン病、網膜色素変性、脊髄損傷などを対象に、他家iPS細胞を用いた再生・細胞医薬事業を推進します。当連結会計年度の進捗は以下のとおりです。①「リサイミック」(開発コード:RVT-802)について、米国において、小児先天性無胸腺症を適応症とした承認を2021年10月に取得しました。②他家iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞について、京都大学において実施されているパーキンソン病を対象とした医師主導治験の全7例の移植が完了しました。③他家iPS細胞由来網膜シートについて、神戸市立神戸アイセンター病院において、大日本住友製薬が製造した網膜シートを用いた網膜色素変性全2例に対する臨床研究が実施されており、移植から1年後も生着していることが確認されました。 感染症領域では、アカデミアなどとの共同研究により、薬剤耐性菌感染症治療薬ならびに大日本住友製薬のワクチンアジュバントを基盤としたマラリアワクチンおよびユニバーサルインフルエンザワクチン(ほとんどの型のインフルエンザウイルスに対し幅広い効力を持つインフルエンザワクチン)の創薬研究を展開しています。当連結会計年度の進捗は以下のとおりです。①薬剤耐性菌感染症治療薬については、北里研究所との共同研究を通じてカルバペネム耐性菌感染症治療薬を目指して創製された KSP-1007(開発コード)のフェーズ1試験を米国で開始しました。なお、本共同研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)に係る研究開発課題として採択されており、AMEDからの委託研究開発費を活用しています。②マラリアワクチンについては、愛媛大学、European Vaccine Initiative(EVI)およびInstituto de Biologia Experimental e Tecnológica(iBET)とのマラリア発病阻止ワクチンの共同研究ならびに愛媛大学およびProgram for Appropriate Technology in Health(PATH)とのマラリア伝搬阻止ワクチンおよびマラリア感染阻止ワクチンの共同研究を推進しました。なお、これら3つのプロジェクトについては、それぞれグローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)の助成案件に選定されています。③ユニバーサルインフルエンザワクチンについては、医薬基盤・健康・栄養研究所との共同研究では前臨床研究を推進しました。なお、本共同研究は、AMEDのCiCLEに係る研究開発課題として採択されており、AMEDからの委託研究開発費を活用しています。 その他の領域では、①レルゴリクス配合剤について、米国において、子宮筋腫に伴う過多月経を適応症とした承認を2021年5月に取得しました(製品名「マイフェンブリー」)。さらに、2021年7月に子宮内膜症に伴う中等度から重度の痛みを対象とする適応追加申請を行い、同年9月に受理されました。また、欧州において、中等度から重度の子宮筋腫を適応症とした承認を2021年7月に取得しました(製品名「ライエクオ」)。②「ツイミーグ」(一般名:イメグリミン塩酸塩)について、日本において、2型糖尿病を適応症とした承認を2021年6月に取得しました。③lefamulinについて、中国において、2021年6月にSinovant社から開発・販売権を獲得し、2021年10月に細菌性市中肺炎を対象とした承認申請を行いました。 フロンティア事業においては、①2021年10月に、ビヘイビア・インクとの間で、社交不安障害、全般不安障害および大うつ病性障害を対象としたVRコンテンツの共同開発および販売提携契約を締結しました。②日本において、株式会社Save Medicalと共同開発を実施していた2型糖尿病管理指導用モバイルアプリケーション(開発コード:SMC-01)について、日本におけるフェーズ3試験の結果、主要評価項目が未達となり、開発を中止しました。③このほかに、手指麻痺用ニューロリハビリ機器、認知症周辺症状用機器、メンタルヘルスVRコンテンツ等の既存テーマの研究開発を提携先と協力して推進しました。 放射性医薬品については、AMEDによるCiCLE事業の研究開発課題として採択されたセラノスティクス(治療と診断の融合)薬剤開発プロジェクト「CRADLE(Consortium for Radiolabeled Drug Leadership)」を日本メジフィジックス株式会社が中心となって推進しています。 なお、医薬品部門における当連結会計年度の研究開発費は966億円であります。 全社共通およびその他の研究分野においては、上記5事業分野の事業領域を外縁部へ積極拡大するための研究およびマテリアルズ・インフォマティクス等のデータ科学・計算科学をはじめとする共通基盤技術開発の強化により、ヘルスケア、食糧、環境、ICTの重点4分野における次世代事業の創出加速を進め、社会的課題の解決の実現を推進しております。また、カーボンニュートラル実現の視点からの研究開発の重要性が増していることから、当社は、2021年12月に公表した住友化学グループのカーボンニュートラル・グランドデザインに基づき、「責務」として自らが発生するGHG排出量を2030年度までに2013年度比50%削減、さらに2050年度までにネットゼロ達成に向けた取り組みを進めるとともに、「貢献」についてはGHG削減に貢献する製品・技術の開発、社会実装およびライセンスを通じたグローバル展開に取り組んでおります。当連結会計年度においては、次の進展がありました。 ヘルスケア分野では、再生・細胞医薬や体調モニタリングなどの先端医療・予防・診断に関する技術の開発に引き続き取り組んでおります。 食糧分野では、当社の保有技術を活かすことが可能と思われる機能性飼料やバイオラショナル資材などの食糧の品質・収量向上に資する技術の開発に取り組んでおります。 環境分野では、炭素循環やGHG排出削減に関する環境負荷低減の技術開発を加速しております。2030年代前半の商業生産開始を目指し、マイクロ波化学株式会社と共同で、メタンをマイクロ波により熱分解し、ターコイズ水素を製造するプロセスの開発に着手いたしました。また、環境に配慮したエタノールを原料とするエチレンの試験製造設備を千葉工場(千葉県市原市)に新設いたしました。千葉工場に新設した試験製造設備は、サーキュラーエコノミーの取り組みで協力している積水化学工業株式会社が生産する“ごみ”資源由来のエタノールや、バイオエタノールを原料にエチレンを生産するものです。さらに、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構が公募した「グリーンイノベーション基金事業/CO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発」に応募し、2件4テーマが採択されました。 ICT分野では、有機ELディスプレイ材料、5G/6G等の通信対応材料、次世代半導体関連材料およびイメージセンサー材料等の技術開発に引き続き取り組んでおります。 また、デジタル技術の活用により、研究開発活動の生産性向上の取り組みを継続、深化させ、顧客接点強化や顧客満足度向上など事業の競争力強化(DX戦略2.0)に取り組んでおります。材料開発における協創の取り組みとして、国立研究開発法人物質・材料研究機構および旭化成株式会社、三井化学株式会社、三菱ケミカル株式会社との水平連携により、最少の実験回数で高い材料物性予測精度を与える汎用的AIを開発いたしました。 2021年11月に移転した日本橋の新本社内に「SYNERGYCA(シナジカ)共創ラウンジ」を開設いたしました。SYNERGYCAは、「世界を化(か)える話をしよう~Chemistry for innovation~」をテーマに、産官学のお客さまに住友化学グループのテクノロジーを、見て、触れて、体験していただきながら、新たな価値創造につながるアイデアや気づきを生み出す共創の場です。 次世代事業の創出加速に向け、2024年秋をめどに大阪地区にインキュベーションとオープンイノベーションの拠点として新たに研究棟を建設することといたしました。千葉地区には環境負荷低減技術や新素材の開発拠点として2024年春に新たな研究棟を稼働開始させる予定であり、筑波地区研究所は大阪地区と千葉地区へ統合し、それぞれ地区の特長を活かして研究体制の強化を図ります。 なお、全社共通部門における当連結会計年度の研究開発費は153億円であります。 このように、事業拡大および競争力強化を図るべく、新製品・新技術の研究開発および既存製品の高機能化・既存技術の一層の向上に取り組み、各事業分野におきまして着実に成果を挙げつつあります。
FY2021|8,722 文字
5 【研究開発活動】 当社グループ(当社および連結子会社)は、事業拡大と収益向上に寄与すべく、独自の優位性ある技術の確立を基本方針とし、各社が独自に研究開発活動を行っているほか、当社グループ全体としての効率性を念頭に置きながら、互いの研究開発部門が密接に連携して共同研究や研究開発業務の受委託等を積極的に推進しております。 当連結会計年度においては、2019年度から2021年度までの中期経営計画に従い、ヘルスケア、食糧、環境負荷低減、ICTの4分野に研究資源を重点投入するとともに、異分野技術融合による新規事業の芽の発掘とその育成に取り組んできました。 これに基づき、当連結会計年度に計上された研究開発費は、前連結会計年度に比べ43億円増加し、1,787億円となりました。 セグメントごとの研究開発活動を示すと次のとおりであります。 石油化学分野では、事業のグローバル競争力強化のために、モノマー製品の触媒・プロセスの改良、合成樹脂の製造プロセスの改良、既存素材の高性能化や新規高付加価値製品の開発に取り組む一方で、環境負荷低減に資する資源循環技術の確立にも注力しております。 当連結会計年度において、プロピレンオキサイド単産法、塩酸酸化、気相法カプロラクタム等の環境負荷低減プロセスに用いる触媒の高性能・長寿命化を目指した改良研究を継続実施しました。ポリエチレン、ポリプロピレンでは、電気自動車(EV)用部材、食品用レトルトパウチ等の各種用途に最適な材料の開発を進めております。資源循環技術では、リサイクルが容易な包装用ポリオレフィン材料として、素材メーカーとして強みを生かした材料設計を駆使し、剛性と耐熱性を単一の樹脂で両立するモノマテリアル包材の開発を推進しております。新製品開発では、蓄熱性能を有する樹脂材料が大手寝具メーカーに採用され、商品化展開で大きな進展が見られましたが、更にその他の繊維用途や住宅建材への適用検討も進めております。また、新型コロナウイルス感染防止対策に貢献する技術として、飛沫防止パーテーションに用いられるアクリル板に抗菌・抗ウイルス機能を付与する開発も進め、早期の製品化を目指しております。 なお、石油化学部門における当連結会計年度の研究開発費は69億円であります。 エネルギー・機能材料分野では、環境・エネルギー関連事業を拡大させるため、リチウムイオン二次電池用部材、スーパーエンジニアリングプラスチックス、無機材料、合成ゴム材料、機能性樹脂材料などの幅広い製品領域で、既存製品の競争力強化や新規製品創出に向けた研究開発に取り組んでおります。 当連結会計年度において、リチウムイオン二次電池用各種部材は、自動車向けを中心に、性能向上の要請や需要拡大に応えるため、開発を鋭意進めました。耐熱セパレータでは、性能向上とコスト削減を両立させる技術開発が進捗し、正極材は独自技術を用いた高容量タイプの開発品の顧客評価が進んでおります。負極塗工やセパレータ塗工に用いられるアルミナについては、当連結会計年度に生産効率を高めた設備が完成し稼働を開始しました。また、2020年4月に開設した京都大学産学共同研究講座「固体型電池システムデザイン」では、固体型電池の実用化に向けた材料および要素技術の開発が進捗しております。 機能樹脂分野では、電気・電子部品分野向けや自動車部材向けにスーパーエンジニアリングプラスチックスの需要が増大しております。ポリエーテルサルホン(PES)では、自動車部材や高機能膜向けの開発・拡販を積極的に進めております。液晶ポリマー(LCP)では、高温耐久性や高剛性を活用した自動車用途向け射出成形材料に加えて、高周波特性に優れたグレードやフィルム用途グレードの開発を進めており、次世代移動通信(5G)用途で顧客採用が進んでおります。 また、無機材料分野では、半導体製造装置等向けの超微粒アルミナの開発を推進し、パイロット設備を用いた工業化検討や試作品の顧客評価を行い、いずれも良好な結果を得ました。強度や耐薬品性に優れるのが特長であり、実プラントへの適応を急ぐ予定です。 なお、エネルギー・機能材料部門における当連結会計年度の研究開発費は82億円であります。 情報電子化学分野では、日本国内に留まらずグローバルな技術・研究開発能力を結集し、IT関連の先端技術進化を支える新規材料・部材・デバイスに関する新製品の開発に、引き続き積極的に取り組んでおります。 まず、ディスプレイ材料分野においては、次世代ディスプレイの主流になりつつあるOLEDパネルに対し、当社独自のキーコンポーネントである「液晶塗布型位相差フィルム」を用いたOLED用偏光フィルムの適用範囲を大型テレビ用途から、中小型モバイル用途まで拡大いたしました。また、次世代端末として注目されているフォルダブルスマートフォンに対し、カバーガラス代替高機能フィルム出荷開始に次いで、折り曲げ特性に優れた「液晶塗布型偏光板」の開発・市場投入を進めております。 半導体材料分野においては、半導体集積度向上という命題に対し、微細加工分野において現在主流の液浸ArFレジストのラインナップ拡充に加え、次世代製品であるEUVレジストや多層配線用厚膜レジストの開発・市場投入を進めております。化合物半導体材料分野においては、高速・大容量通信、省エネ、自動運転等の技術を支え、より高度な社会の実現に貢献すべく、高周波デバイス用各種エピウェハの設計開発を行っております。 IoTの主要構成ツールとして拡大が見込まれるセンシングデバイス分野においても、既に事業確立しているディスプレイ用タッチセンサーのさらなる高機能化や複合化を進めるとともに、薄膜形成を中心とした要素技術を活用し、新規センサーの開発に取り組んでおります。また、モバイル端末等に使用されるイメージセンサー用途に対して、ディスプレイ(光学)・半導体双方の領域で蓄積した技術とノウハウを活用し、高解像度/高感度化に貢献する多様なプロセス材料の開発を行っております。 なお、情報電子化学部門における当連結会計年度の研究開発費は187億円であります。 健康・農業関連事業分野では、世界の食糧増産、健康・衛生や環境の改善といった課題解決を通じてサステナブルな社会の実現に貢献するため、技術イノベーションが急速に進むIoTやバイオテクノロジー技術を活用し、新製品やアプリケーション、競争力のある製造プロセスの開発に取り組むことで、コア事業の強化と周辺事業への展開および川下化を推進しております。 当連結会計年度において、国内農業関連事業については、新規殺虫剤であるオキサゾスルフィルが農薬登録を取得しました。本剤を含有する水稲用製品の上市に向けて準備を進めております。また、コメ事業においては消費者や生産地のニーズにそって収量性や食味、熟期などで特徴のある新品種の開発を進めるなど、農薬や肥料製品、ならびにコメ品種のポートフォリオの更なる拡充を進めております。さらに、当社が開発した画像診断技術を活用した病害虫画像診断アプリを公開するなど、農業生産者への総合的ソリューションの提供に向けた研究開発を進めております。海外農業関連事業においては、新規殺菌剤であるインディフリンを米国およびカナダで上市しました。引き続き本剤を活用した新用途および新製品の開発を進めております。本剤は、南米における重要病害であるダイズさび病の防除にも有効であり、同地域でも上市に向けて準備を進めております。ニューファーム社南米子会社の買収完了に伴い刷新しました同地域での研究開発体制のもと、本剤を中心とした各種製品開発を加速していきます。また、欧州市場を中心とした展開が期待される当社新規殺菌剤メチルテトラプロールの開発、バイエル社との雑草防除体系の創出プロジェクト(当社が新規除草剤、バイエル社が耐性作物の開発を担当)およびコルテバ・アグリサイエンス社との種子処理技術の開発、商業化プロジェクトにも引き続き取り組んでおります。さらに、当社バイオラショナル事業の拡大を目的とした組織改編を行いました。新体制下で上市に向けて準備を進めております新規農業用植物生長調整剤を含む各種バイオラショナル製品開発を進めることでサステナブルな農業への貢献を一層加速します。 生活環境事業については、重点強化領域の市場セグメントにおける新製品の開発と製品群の拡充を推進しております。引き続き強い市場ニーズのある天然物由来製品に対応すべく、グループ会社と共同で、新規ボタニカル殺虫剤の登録申請に向けたデータ取得を順調に進めております。業務用殺虫剤分野では、アメリカ市場で主要対象害虫の一つであるアリ用の新製品を、インド市場では難防除害虫であるトコジラミ用の新製品を上市し、さらなる製品の開発に取り組んでおります。熱帯感染症対策資材分野では、抵抗性を持つ蚊へ卓効を示す室内残留散布剤の登録国を増やすと同時に、蚊の発生源対策として幼虫防除用新製品の開発・登録を引き続き進めていくことで、長期残効性蚊帳と併せて熱帯感染症を媒介する蚊に対して総合的な防除を可能とする製品拡充に取り組んでおります。また、新たな取り組みとして感染症拡大防止へ向けた天然抽出物由来の抗ウイルス剤の開発も進めております。 アニマルニュートリション事業については、競争力強化のためメチオニンの合理化製法の開発やプロセス改善に加え、機能性飼料添加物分野における製品ラインナップ拡充のため、飼料効率の改善と安心・安全な畜産生産に貢献できる新規製品の開発を一層加速する計画です。また、近年問題となっている家畜排泄物由来の温室効果ガスの低減を目的として、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構や国内大学などとの共同研究プロジェクトに参画し、引き続きメチオニンを含むアミノ酸バランス改善飼料の技術普及を推進しております。 医薬化学品事業については、当社の有機合成プロセスの技術力を駆使したジェネリック原薬の製法開発、および新薬の受託製造品目の拡充に取り組んでおり、有望な複数の開発品・新製品に対して商業生産へ向けた準備を進めております。また、将来の成長が見込まれる核酸医薬原薬の製造において、長鎖RNAを中心にオリゴ核酸のGMP(Good Manufacturing Practice)管理下での生産実績を積むとともに有望な開発品の製造を受託し、競争力のある要素技術の獲得、独自技術の拡張を目的とした研究開発を推進しております。 なお、健康・農業関連事業部門における当連結会計年度の研究開発費は286億円であります。 医薬品分野では、精神神経領域、がん領域および再生・細胞医薬分野を研究重点領域とし、また、感染症領域にも取り組み、グローバルヘルスへの貢献を目指し、大日本住友製薬および日本メジフィジックス株式会社が有する自社技術を活かした研究開発に加え、技術ライセンス、ベンチャー企業やアカデミアとの共同研究などによる最先端の外部技術の導入にも取り組み、優れた医薬品の継続的な創製を目指しております。さらに、医薬品以外のヘルスケア領域において、社会課題の解決のための新たなソリューションを提供することを目的として、フロンティア事業の立ち上げを目指しています。 当連結会計年度においては、精神神経領域で次の進展がありました。①「キンモビ」(一般名:アポモルヒネ塩酸塩水和物) について、2020年5月、米国において成人のパーキンソン病に伴うオフ症状の改善を適応症とした承認を取得し、同年9月に発売しました。②「ロナセン」(一般名:ブロナンセリン)について、2021年3月、日本において統合失調症における小児の用法・用量を追加する一部変更承認を取得しました。本剤は日本で初めての統合失調症の小児適応を持つ非定型抗精神病薬となりました。③SEP-363856について、日本および中国において統合失調症を対象とした国際共同フェーズ2/3試験を開始しました。 がん領域では、①「オルゴビクス」(一般名:レルゴリクス)について、2020年12月に、米国において成人の進行性前立腺がんを適応症とした承認を取得しました。また、2021年3月に、欧州において進行性前立腺がんを対象とした承認申請を行いました。②ナパブカシン(開発コード:BBI608)について、米国、日本等において、結腸直腸がんを対象とした国際共同フェーズ3試験を実施していましたが、同試験の解析結果において主要評価項目を達成しませんでした。この結果を受けて、実施中の臨床試験を順次中止しました。③alvocidib(開発コード:DSP-2033)について、米国において急性骨髄性白血病(AML)を対象としたフェーズ2試験等を実施していましたが、競合状況およびこれまでに得られた知見を踏まえ、これらの試験を中止することにしました。 再生・細胞医薬分野では、引き続き、産学の連携先と、加齢黄斑変性、パーキンソン病、網膜色素変性、脊髄損傷などを対象に、他家iPS細胞を用いた再生・細胞医薬事業を推進します。当連結会計年度の進捗は以下のとおりです。 ①デューク大学と連携して開発中のRVT-802について、米国において、小児先天性無胸腺症を対象とした再申請の準備を行いました。(注:2021年4月に、米国において小児先天性無胸腺症を対象とした再申請を行いました。)②他家iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞について、京都大学において実施されているパーキンソン病を対象とした医師主導治験の4例目から、大日本住友製薬で製造したドパミン神経前駆細胞を提供し、移植されています。③他家iPS細胞由来網膜シートについて、神戸市立神戸アイセンター病院において網膜色素変性に対する臨床研究が開始され、予定されていた全2例に対して、大日本住友製薬が製造した網膜シートが移植されました。 感染症領域では、アカデミアなどとの共同研究により、薬剤耐性菌感染症治療薬ならびに大日本住友製薬のワクチンアジュバントを基盤としたマラリアワクチンおよびユニバーサルインフルエンザワクチン(ほとんどの型のインフルエンザウイルスに対し幅広い効力を持つインフルエンザワクチン)の創薬研究を展開しています。当連結会計年度の進捗は以下のとおりです。①薬剤耐性菌感染症治療薬については、北里研究所との共同研究を推進しました。なお、本共同研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)に係る研究開発課題として採択されており、AMEDからの委託研究開発費を活用しています。②マラリアワクチンについては、愛媛大学とのマラリア発病阻止ワクチンの共同研究ならびに愛媛大学および米国PATHとのマラリア伝搬阻止ワクチンおよびマラリア感染阻止ワクチンの共同研究を推進しました。なお、これら3つのプロジェクトについては、2019年度から3年連続で公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)の助成案件に選定されました。③ユニバーサルインフルエンザワクチンについては、医薬基盤・健康・栄養研究所との共同研究を推進しました。 その他の領域では、①「ジェムテサ」(一般名:ビベグロン)について、2020年12月に、米国において成人の切迫性尿失禁、尿意切迫感および頻尿の症状を伴う過活動膀胱(OAB)を適応症とした承認を取得しました。②レルゴリクス配合剤について、2020年5月に、米国において子宮筋腫を対象とした承認申請を行いました。また、子宮内膜症を対象とした2本のフェーズ3試験において良好な解析結果を得ました。③イメグリミン塩酸塩(開発コード:PXL008)について、2020年7月に、日本において2型糖尿病を対象とした承認申請を行いました。 フロンティア事業においては、①2020年6月に、サノビオン ファーマシューティカルズ インコーポレーテッドとBehaVR LLCとの間で、社交不安障害を緩和するVR機器のコンテンツに関する共同研究開発契約を締結しました。②2020年7月に、日本において損害保険ジャパン株式会社および株式会社Aikomiとの間で、認知症・介護関連のデジタル機器の研究開発および事業化に向けた連携を開始しました。③2020年8月に、日本において株式会社Save Medicalとの間で、2型糖尿病管理指導用モバイルアプリケーション(開発コード:SMC-01)の共同開発契約を締結し、フェーズ3試験を開始しました。④2020年10月に、日本においてドローブリッジ・ヘルス・インコーポレーテッドとの間で、生活習慣病を対象とした自動採血・保存機器に関する共同研究開発契約を締結しました。 放射性医薬品については、AMEDによるCiCLE事業の研究開発課題として採択されたセラノスティクス(治療と診断の融合)薬剤開発プロジェクト「CRADLE(Consortium for Radiolabeled Drug Leadership)」を日本メジフィジックス株式会社が中心となって推進しています。初期段階の研究については、高性能コンピュータを駆使したインシリコ創薬技術、iPS細胞などの最先端のサイエンスを取り入れた創薬に取り組んでいます。また、国内外の大学を含む研究機関等との研究提携も積極的に推進しております。 なお、医薬品部門における当連結会計年度の研究開発費は998億円であります。 全社共通およびその他の研究分野においては、上記5事業分野の事業領域を外縁部へ積極拡大するための研究およびマテリアルズ・インフォマティクス等の計算機科学をはじめとする共通基盤技術開発の強化により、ヘルスケア、食糧、環境負荷低減、ICTの重点4分野における次世代事業の創出加速を進め、社会的課題の解決の実現を推進しております。当連結会計年度においては、次の進展がありました。 ヘルスケアおよび食糧分野では、当社の保有技術を活かすことが可能と思われる核酸医薬、機能性食品、体調可視化などの先進医療・予防・診断、食糧の品質・収量向上に関する技術の開発に引き続き取り組んでおります。体調可視化による次世代ヘルスケアプラットフォームの基盤技術を共同開発しておりますイスラエルのナノセント社に、新型コロナウイルス感染症の迅速診断センサー開発のために資金提供いたしました。また、株式会社理研鼎業と共創契約を締結し、同社のライフサイエンス分野およびデータサイエンス分野の知見と当社の技術を融合させることにより、新しい事業の創出を目指しております。 環境負荷低減分野では、炭素循環や温室効果ガス排出削減に関する環境負荷低減の技術開発を加速するために、2020年4月に、複数の研究所に分散していた研究テーマを石油化学品研究所に集約し、約30名体制の「研究グループ(環境負荷低減技術開発)」を新設しました。国立大学法人室蘭工業大学とは、ゼオライト触媒を用いて廃プラスチックを化学的に分解してモノマーに戻すケミカルリサイクル技術の共同開発に取り組んでおります。また、積水化学工業株式会社が開発した“ごみ”を原料としてエタノールを生産する技術と、当社が有するポリオレフィンの製造技術・ノウハウを組み合わせたサーキュラーエコノミーの取り組みも行っております。さらに、二酸化炭素を原料としたメタノールを高効率に合成する実用化に向けて国立大学法人島根大学との共同研究に取り組んでおります。 ICT分野では、当社の高分子有機EL材料が、中型パネル用途において国内外の主要セットメーカーによる認定・採用の動きが活発となり、大型サイズにおいて主要大型パネルメーカーとの間で第8世代以上の大型基板を用いた印刷法パネル量産の共同開発が大きく進捗して実証段階にあります。フランスのイゾルグ社とは、有機光ダイオードを用いた近赤外用高性能カメラに応用可能な有機CMOSイメージセンサーの材料開発をより強化し推進しております。 また、研究開発活動の効率化や大規模データの分析・解析技術の高度化を推進するため、高度なデータ解析技術を持つデータサイエンティストと研究開発や生産プロセスの現場における高度なドメイン知識を持ちながらデータ解析も行えるデータエンジニアの双方の育成にも引き続き取り組んでおります。 さらに、当社の連結子会社であるベーラント バイオサイエンス LLCのバイオラショナルリサーチセンター内に設置された新組織「シンバイオハブ」は、オープンイノベーションはもとより、米欧のイノベーション探索拠点であるコーポレート・ベンチャーリング&イノベーションオフィス(CVI)や、当社のバイオサイエンス研究所、工業化技術研究所などの国内拠点とも連携し、住友化学グループ全体で合成生物学を利用した基盤技術の早期構築を進めております。 なお、全社共通部門における当連結会計年度の研究開発費は165億円であります。 このように、事業拡大および競争力強化を図るべく、新製品・新技術の研究開発および既存製品の高機能化・既存技術の一層の向上に取り組み、各事業分野におきまして着実に成果を挙げつつあります。
FY2020|8,354 文字
5 【研究開発活動】 当社グループ(当社および連結子会社)は、事業拡大と収益向上に寄与すべく、独自の優位性ある技術の確立を基本方針とし、各社が独自に研究開発活動を行っているほか、当社グループ全体としての効率性を念頭に置きながら、互いの研究開発部門が密接に連携して共同研究や研究開発業務の受委託等を積極的に推進しております。 当連結会計年度においては、2019年度から2021年度までの中期経営計画に従い、ヘルスケア、食糧、温室効果ガス排出削減・環境負荷低減、ICTの4分野に研究資源を重点投入するとともに、異分野技術融合による新規事業の芽の発掘とその育成に取り組んできました。 これに基づき、当連結会計年度の研究開発費は、前連結会計年度に比べ109億円増加し、1,743億円となりました。 セグメントごとの研究開発活動を示すと次のとおりであります。 石油化学分野では、事業のグローバル競争力強化のために、プロピレンオキサイド、カプロラクタム、メタアクリルモノマーを中心とする既存バルク製品の触媒・プロセス改良、合成樹脂の製造プロセスの改良、既存素材の高性能化や新規高付加価値製品の開発に積極的に取り組んでおります。当連結会計年度において、プロピレンオキサイドでは、引き続き旺盛なライセンスオファーもあって、よりコスト競争力の高い製造技術を目指した改良研究を継続実施しました。ポリエチレン、ポリプロピレンでは各種用途に応じた最適なポリマー材料構造の設計とコスト競争力の高い製造技術の検討を行いました。自動車の軽量化に寄与する高剛性、高タフネスの透明樹脂加工技術および材料の開発、マテリアルリサイクルを見据えた高性能な包装用ポリオレフィン材料の開発等を継続的に進め、着実な進展が見られました。新製品開発では、蓄熱性能を有する樹脂材料の住宅および繊維への商業化に向けて大きな進展が見られました。このように、石油化学品事業等で培ってきた触媒や化学プロセスの設計といったコア技術を活用しながら、(社会課題に対する)ソリューションの早期創出を目指して、技術開発を加速させます。 なお、石油化学部門における当連結会計年度の研究開発費は70億円であります。 エネルギー・機能材料分野では、環境・エネルギー関連事業を拡大させるため、リチウムイオン二次電池用部材、スーパーエンジニアリングプラスチックス、無機材料、合成ゴム材料、機能性樹脂材料などの幅広い製品領域で、既存製品の競争力強化や新規製品創出に向けた研究開発に取り組んでおります。 当連結会計年度において、リチウムイオン二次電池用各種部材は、自動車向けを中心に、性能向上の要請や需要拡大に応えるため、開発を鋭意進めました。耐熱セパレータでは、性能向上とコスト削減を両立させる技術開発が進捗し、正極材は独自技術を用いた高容量タイプの開発品の顧客評価が進んでおります。負極塗工やセパレータ塗工に用いられるアルミナについては、当連結会計年度に追加の設備増強が完成したことに加え、更なる需要増加に応えるべく生産効率を高めた設備の導入を決定しました。また、次世代固体型電池開発を加速させる目的に、京都大学に産学共同研究講座「固体型電池システムデザイン」を開設し、固体型電池の実用化に向けた材料および要素技術の開発を開始しております。 機能樹脂分野では、電気・電子部品分野向けや自動車部材向けにスーパーエンジニアリングプラスチックスの需要が増大しております。ポリエーテルサルホン(PES)では、自動車部材や高機能膜向けの開発・拡販を積極的に進めております。液晶ポリマー(LCP)では、高温耐久性や高剛性を活用した自動車用途向け射出成形材料に加えて、高周波特性に優れたグレードやフィルム用途グレードの開発を進めており、次世代移動通信(5G)用途で顧客採用が進んでおります。 また、無機材料分野では、半導体製造装置向けの超微粒アルミナの開発を推進し、工業化製法の目途を得ました。強度や耐薬品性に優れるのが特長であり、工業化技術の完成を急ぐ予定です。 なお、エネルギー・機能材料部門における当連結会計年度の研究開発費は78億円であります。 情報電子化学分野では、日本国内に留まらずグローバルな技術・研究開発能力を結集し、IT関連の先端技術進化を支える新規材料・部材・デバイスに関する新製品の開発に、引き続き積極的に取り組んでおります。 まず、ディスプレイ材料分野においては、次世代ディスプレイの主流になりつつあるOLEDパネルに対し、当社独自のキーコンポーネントである「液晶塗布型位相差フィルム」を用いたOLED用偏光フィルムの適用範囲を大型テレビ用途から、中小型モバイル用途まで拡大いたしました。また、次世代端末として注目されているフォルダブルスマートフォンに対し、カバーガラス代替高機能フィルム出荷開始に次いで、折り曲げ特性に優れた「液晶塗布型偏光板」の開発・市場投入を進めております。 半導体材料分野においては、半導体集積度向上という命題に対し、微細加工分野において現在主流の液浸ArFレジストのラインナップ拡充に加え、次世代製品であるEUVレジストや多層配線用厚膜レジストの開発・市場投入を進めております。化合物半導体材料分野においては、大容量・超高速データ受け渡しを可能とする5G通信に対し、高周波デバイス用各種エピウェハの設計開発を行っております。 IoTの主要構成ツールとして拡大が見込まれるセンシングデバイス分野においても、既に事業確立しているディスプレイ用タッチセンサーのさらなる高機能化や複合化を進めるとともに、薄膜形成を中心とした要素技術を活用し、新規センサーの開発に取り組んでおります。 なお、情報電子化学部門における当連結会計年度の研究開発費は191億円であります。 健康・農業関連事業分野では、世界の食糧増産、健康・衛生や環境の改善といった課題解決に貢献するため、技術イノベーションが急速に進むIoTやバイオテクノロジー技術を活用し、新製品やアプリケーション、競争力のある製造プロセスの開発に取り組むことで、コア事業の強化と周辺事業への展開および川下化を推進しております。 当連結会計年度において、国内農業関連事業については、新規殺菌剤であるインピルフルキサムを含有する畑作・園芸用殺菌剤や、農業場面での普及が見込まれるドローン散布に対応した剤型(FG剤)の水稲用除草剤を上市しました。現在、新規殺虫剤であるオキサゾスルフィルを含有する水稲用製品群の開発を進めております。また、コメ事業においては消費者や生産地のニーズにそって収量性や食味、熟期などで特徴のある新品種の開発を進めるなど、農薬や肥料製品、ならびにコメ品種のポートフォリオの更なる拡充を進めております。さらに、種子・種苗、培土、潅水資材等の農業関連資材を取り扱う住化農業資材株式会社などのグループ会社とも連携しながら、農業生産者への総合的ソリューションの提供に向けた研究開発を進めております。海外農業関連事業においては、ニューファーム社から南米子会社4社の買収が完了した後、同地域における研究開発活動を一層加速させる計画です。特に新規殺菌剤であるインピルフルキサムは、ブラジルをはじめとする南米諸国でのダイズの重要病害であるダイズさび病の防除に有効であり、同地域における新体制のもと本剤の開発をさらに加速していきます。一方、同じく当社新規殺菌剤であるメチルテトラプロールについても欧州を中心に順調に開発を進めております。さらに、バイエル社(旧モンサント社)との雑草防除体系の創出プロジェクト(当社が新規除草剤、バイエル社が耐性作物の開発を担当)、コルテバ・アグリサイエンス社(旧ダウ・デュポン社)との種子処理技術の開発、登録、商業化プロジェクトにも引き続き取り組んでおります。 生活環境事業については、重点強化領域の市場セグメントにおける新製品開発と川下化を推進しております。また、天然物由来製品への強い市場ニーズに応えるため、グループ会社と共同で、新規ボタニカル殺虫剤の登録申請に向けた研究を推進しております。業務用殺虫剤分野では、広い空間の隅々まで有効成分が送達され、且つ残留の少ない新しいデリバリーシステムの製品を上市し、東南アジア各国での登録取得に向けた活動に取り組んでおります。熱帯感染症対策資材分野では、近年問題となっているピレスロイド抵抗性のマラリア媒介蚊に対する防除製品の研究に注力しております。抵抗性を持つ蚊へ卓効を示す長期残効性蚊帳と室内残留散布剤の登録国を増やすと同時に、蚊の発生源対策として幼虫防除用新製品の開発・登録を引き続き進めていくことで、熱帯感染症を媒介する蚊に対して総合的な防除を可能とする製品ラインナップの拡充・開発に取り組んでおります。 アニマルニュートリション事業については、競争力強化のためメチオニンの合理化製法の開発やプロセス改善に加え、製品ラインナップ拡充のため、飼料添加物分野における新規製品の開発に取り組んでおります。また、近年問題となっている家畜排泄物由来の温室効果ガスの低減を目的として、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構や国内大学などとの共同研究プロジェクトに参画し、引き続きメチオニンを含むアミノ酸バランス改善飼料の技術普及を推進しております。 医薬化学品事業については、当社の有機合成プロセスの技術力を駆使したジェネリック原薬の製法開発、および新薬の受託製造品目の拡充に取り組んでおり、有望な複数の開発品・新製品に対して商業生産へ向けた準備を進めております。また、将来の成長が見込まれる核酸医薬原薬の製造において、長鎖RNAを中心にオリゴ核酸のGMP(Good Manufacturing Practice)管理下での生産実績を積むとともに、競争力のある要素技術の獲得、独自技術の拡張を目的とした研究開発を推進しております。 なお、健康・農業関連事業部門における当連結会計年度の研究開発費は289億円であります。 医薬品分野では、精神神経領域、がん領域および再生・細胞医薬分野を研究重点領域とし、また、感染症領域にも取り組み、グローバルヘルスへの貢献を目指し、大日本住友製薬株式会社および日本メジフィジックス株式会社が有する自社技術を活かした研究開発に加え、技術ライセンス、ベンチャー企業やアカデミアとの共同研究などによる最先端の外部技術の導入にも取り組み、優れた医薬品の継続的な創製を目指しております。 当連結会計年度においては、精神神経領域で次の進展がありました。①「ロナセンテープ」(一般名:ブロナンセリン)について、2019年6月、日本において統合失調症を対象とした承認を取得しました。②「ラツーダ」(一般名:ルラシドン塩酸塩)について、2020年3月、日本において統合失調症および双極性障害におけるうつ症状の改善を適応症とした承認を取得しました。③dasotraline(開発コード:SEP-225289)について、米国において、2019年5月に成人の過食性障害(BED)を対象とした承認申請を行い、2019年7月に受理されましたが、 米国食品医薬品局(FDA)の承認審査においてリスクベネフィットに対する考え方に隔たりがあり合意に至らなかったため、2020年4月にBEDおよび開発方針検討中であった注意欠如・多動症(ADHD)を対象とする承認申請を取り下げました。④SEP-363856について、2019年5月、米国において統合失調症を対象としてFDAよりブレイクスルーセラピー指定(Breakthrough Therapy Designation)を受領し、フェーズ3試験を開始しました。 がん領域では、①ナパブカシン(開発コード:BBI608)について、米国、日本等において、結腸直腸がんおよび膵がんを対象とした併用での国際共同フェーズ3試験を実施していましたが、膵がんを対象とした試験は、2019年7月、独立データモニタリング委員会(DSMB)から中間解析の結果が無益性基準に該当したことによる試験中止の勧告を受け、中止しました。一方、結腸直腸がんを対象とした試験は、2019年6月、DSMBから中間解析の結果が事前に設定した基準を満たしたとの判断による試験継続の推奨を受け、継続しております。②造血幹細胞移植前治療薬「リサイオ」(一般名:チオテパ)について、2020年3月、日本において悪性リンパ腫における自家造血幹細胞移植の前治療を対象とした追加承認を取得しました。 再生・細胞医薬分野では、引き続き、産学の連携先と、加齢黄斑変性、パーキンソン病、網膜色素変性、脊髄損傷などを対象に、他家iPS細胞を用いた再生・細胞医薬事業を推進します。当連結会計年度の進捗は以下のとおりです。①RVT-802について、米国において2019年4月に小児先天性無胸腺症を対象とした承認申請を行っていましたが、2019年12月にFDAから現時点では承認できないとする審査結果通知(Complete Response Letter)を受領しました。現在、再申請に向けて対応中です。②SB623について、2019年12月、米国における慢性期脳梗塞を対象としたフェーズ2b試験の詳細解析結果を踏まえ、サンバイオ社との北米における共同開発を中止しました。③腎臓の再生医療について、大日本住友製薬株式会社は、2019年4月に慈恵大学・東京慈恵会医科大学、明治大学、バイオス株式会社および株式会社ポル・メド・テックとともに、iPS細胞を用いた「胎生臓器ニッチ法」による腎臓再生医療の2020年代での実現を目標として、共同研究・開発などの取り組みを開始しました。 感染症領域では、アカデミアなどとの共同研究により、薬剤耐性菌感染症治療薬ならびに大日本住友製薬株式会社のワクチンアジュバントを基盤としたマラリアワクチンおよびユニバーサルインフルエンザワクチン(ほとんどの型のインフルエンザウイルスに対し幅広い効力を持つインフルエンザワクチン)の創薬研究を展開しています。 その他の領域では、①ビベグロンについて、米国において2019年12月に過活動膀胱を対象とした承認申請を行い、2020年3月に受理されました。②レルゴリクスについて、2020年3月、欧州において子宮筋腫を対象とした承認申請を行いました。③イメグリミン塩酸塩(開発コード:PXL008)について、日本において2型糖尿病を対象とした3本のフェーズ3試験に関して、主要評価項目を達成するとともに、良好な忍容性を示す結果を得ました。 放射性医薬品については、前連結会計年度において、日本医療研究開発機構(AMED)による「医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)」の研究開発課題として採択されたセラノスティクス(治療と診断の融合)薬剤開発プロジェクト「CRADLE(Consortium for Radiolabeled Drug Leadership)」を日本メジフィジックス株式会社が中心となって推進しております。本プロジェクトの開発拠点となる「CRADLE棟」を2019年9月に竣工し、2020年3月より稼働を開始しました。初期段階の研究については、高性能コンピュータを駆使したインシリコ創薬技術、iPS細胞などの最先端のサイエンスを取り入れた創薬に取り組んでおります。また、国内外の大学を含む研究機関等との研究提携も積極的に推進しております。さらに、医薬品以外のヘルスケア領域において、社会課題解決のための新たなソリューションを提供することを目的として、フロンティア事業の立ち上げを目指し、その一環として、2019年7月、ドローブリッジ・ヘルス社への出資契約を締結しました。 なお、医薬品部門における当連結会計年度の研究開発費は950億円であります。 全社共通およびその他の研究分野においては、上記5事業分野の事業領域を外縁部へ積極拡大するための研究およびマテリアルズ・インフォマティクス等の計算機科学をはじめとする共通基盤技術開発の強化により、ヘルスケア、食糧、環境負荷低減、ICTの重点4分野における次世代事業の創出加速を進め、社会的課題の解決の実現を推進しております。当連結会計年度においては、次の進展がありました。 ヘルスケアおよび食糧分野では、当社の保有技術を活かすことが可能と思われる「健康維持・予防」、「診断」、「食品センシング」領域における開発に引き続き取り組んでおります。例えば、排泄物の臭気データから体調変化や病気の兆候を読み取り、その日の体調に適したソリューション(食事や薬、生活習慣)を提案し健康管理に役立てる体調可視化によるヘルスケアプラットフォームの技術開発を加速するため、イスラエルのスタートアップ企業で高精度の臭気検知IoTプラットフォームの開発に実績のあるナノセント社に出資をいたしました。また、オープンイノベーション強化策の一環として、次世代の食糧・農業分野の有望スタートアップの最新情報の入手や、開発テーマの探索強化を図るため、当社の連結子会社であるスミトモ ケミカル アメリカ インコーポレーテッドは米国ベンチャーキャピタル(Cultivian Sandbox Venture Partners III社)が運営する投資ファンドへ出資しました。 ICT分野では、高分子有機EL材料について、前年度に引き続き印刷法による中型パネル製造への材料提供を行いました。更なる用途拡大のために、材料特性の向上にも継続して取り組みました。高分子有機EL照明において、フレキシブル基板ベースの一般照明パネルの開発、および生産プロセスの検討を継続して実施しました。また、広域光検出器やイメージセンサー用の有機・プリントエレクトロニクスを世界に先駆けて開発したフランスのイゾルグ社と、大面積化が容易であることの特徴を生かした有機光ダイオードを用いたスマートフォン用の指紋センサーおよび近赤外用の高性能カメラにも応用可能な有機CMOSイメージセンサーの共同開発をより強化し推進しております。 環境負荷低減分野では、ケミカルリサイクルに関して、国立大学法人室蘭工業大学とゼオライト触媒を用い廃プラスチックを化学的に分解しモノマーに戻す技術の共同開発に取り組んでおります。また、積水化学工業株式会社が開発した“ごみ”を原料としたエタノールに変換する生産技術と、当社が有するポリオレフィンの製造に関する技術・ノウハウを組み合わせたサーキュラーエコノミーの取り組みも行っております。こうした炭素循環や温室効果ガス排出削減に関する環境負荷低減の技術開発を加速するために、2020年4月に、複数の研究所に分散していた研究テーマを石油化学品研究所に集約し、約30名体制の「研究グループ(環境負荷低減技術開発)」を新設しました。 こうした研究開発活動の効率化や大規模データの分析・解析技術の高度化を推進するため、2019年4月に、デジタル革新部を新設しました。なお、データ駆動型研究開発を推進するため、高度なデータ解析技術を持つデータサイエンティストと研究開発や生産プロセスの現場における高度なドメイン知識を持ちながらデータ解析も行えるデータエンジニアの双方の育成にも取り組んでおります。 さらに、オープンイノベーションシステムの強化の一つとして、世界最大級のイノベーションハブとなっている米国ボストンに続き、米西海岸、および英国ケンブリッジにCVI(Corporate Venturing and Innovation Office)の拠点を拡充し、スタートアップや大学との連携、事業機会の探索を強化しております。例えば、合成生物学のスタートアップ企業である米国ザイマージェン社やコナジェン社との共同研究に取り組んでおります。これらの取り組みを通じて、当社のプラットフォーム技術の拡充を進めております。 なお、全社共通部門における当連結会計年度の研究開発費は165億円であります。 このように、事業拡大および競争力強化を図るべく、新製品・新技術の研究開発および既存製品の高機能化・既存技術の一層の向上に取り組み、各事業分野におきまして着実に成果を挙げつつあります。
FY2019|7,131 文字
5 【研究開発活動】 当社グループ(当社および連結子会社)は、事業拡大と収益向上に寄与すべく、独自の優位性ある技術の確立を基本方針とし、各社が独自に研究開発活動を行っているほか、当社グループ全体としての効率性を念頭に置きながら、互いの研究開発部門が密接に連携して共同研究や研究開発業務の受委託等を積極的に推進しております。 当連結会計年度においては、2016年度から2018年度までの中期経営計画に従い、引き続き、環境・エネルギー、ICT(情報・通信技術)、ライフサイエンスの3分野に研究資源を重点投入するとともに、異分野技術融合による新規事業の芽の発掘とその育成に取り組んできました。 これに基づき、当連結会計年度の研究開発費は、前連結会計年度に比べ19億円減少し、1,635億円となりました。 セグメントごとの研究開発活動を示すと次のとおりであります。 石油化学分野では、事業のグローバル競争力強化のために、プロピレンオキサイド、カプロラクタム、メタアクリルモノマーを中心とする既存バルク製品の触媒・プロセス改良、合成樹脂の製造プロセスの改良、既存素材の高性能化や新規高付加価値製品の開発に積極的に取り組んでおります。当連結会計年度において、プロピレンオキサイドでは、引き続き旺盛なライセンスオファーもあり、よりコスト競争力の高い製造技術を目指した改良研究を継続実施しました。ポリエチレン、ポリプロピレンでは各種用途に応じた最適なポリマー材料構造の設計と製造技術の検討、温室効果ガスの削減の取り組みに呼応した自動車の軽量化に寄与する樹脂加工技術および材料の開発、環境負荷低減包装への要求に応じた高性能なパウチ包装用ポリオレフィン材料の開発等を進め、一定の進展が見られました。新製品開発では蓄熱性能を有する樹脂材料の商業化検討に大きな進展が見られました。 なお、石油化学部門における当連結会計年度の研究開発費は71億円であります。 エネルギー・機能材料分野では、リチウムイオン二次電池用部材、スーパーエンジニアリングプラスチックス、高性能ゴムなどの環境・エネルギー関連事業拡大のため、無機材料、合成ゴム材料、機能性樹脂材料などの幅広い分野で、新規製品創出や既存製品の競争力強化に向けた研究開発に取り組んでおります。 当連結会計年度において、リチウムイオン二次電池用部材に関しては、自動車向けを中心に性能向上や需要拡大の要請に応えるため、開発を鋭意進めました。耐熱セパレータについては、コスト削減を目指した技術開発と、より性能を高める耐熱層の検討が進捗し、正極材については独自技術を用いた高容量タイプの開発品の顧客評価が進んでおります。負極塗工やセパレータ塗工に用いるアルミナについては、当連結会計年度に設備増強が完成し生産量が増加しております。また、更なる需要増加に応えるべく次期設備増強も決定しました。 機能樹脂分野においては、電気・電子部品分野向け、また自動車部材向けにスーパーエンジニアリングプラスチックスの需要が増大しており、性能向上を図り顧客要望に対応すべく開発を進めております。ポリエーテルサルホン(PES)に関しては、千葉工場に第2プラントが完成し当連結会計年度に稼働しました。航空機用途のみならず、自動車部材や高機能膜向けの開発・拡販を積極的に進めております。液晶ポリマー(LCP)では、パソコンやスマートフォン、機械部品などに使う射出成形材料に加えて、高周波特性に優れたグレードやフィルム用途グレードの開発を進めており、次世代移動通信(5G)用途や振動板用途で顧客採用が進んでおります。 機能性材料である合成ゴムの分野では、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)の耐寒性、耐熱性、耐油性など、顧客が求める特性を向上させた開発グレードの評価がそれぞれ進展し、採用が進んでいます。更に、微細発泡グレード、金属接着グレードを開発し、新たな機能を提案しています。ゴム用薬品の分野では、タイヤ用ゴムの耐摩耗性を大きく改善させる新規添加剤を開発し、顧客評価を進めています。耐摩耗性は電気自動車用タイヤなど高負荷用途に特に求められる性能であり、将来性が期待されます。 なお、エネルギー・機能材料部門における当連結会計年度の研究開発費は85億円であります。 情報電子化学分野では、日本国内に留まらずグローバルな技術・研究開発能力を結集し、IT関連の先端技術進化を支える新規材料・部材・デバイスに関する新製品の開発に、引き続き積極的に取り組んでおります。 まず、ディスプレイ材料分野においては、次世代ディスプレイとして本格化しつつあるOLEDパネルに対し、当社独自のキーコンポーネントである「液晶塗布型位相差フィルム」を用いたOLED用偏光フィルムが、採用済みの大型テレビ用途から、中小型モバイル用途へ適用範囲が拡大いたしました。また、次世代端末として注目されているフォルダブルスマートフォンに対し、カバーガラスの代わりとなる高機能フィルムの開発・市場投入を進めております。 半導体材料分野においては、半導体集積度向上という命題に対し、微細加工分野において現在主流の液浸ArFレジストのラインナップ拡充に加え、次世代製品であるEUVレジストや多層配線用厚膜レジストの開発・市場投入を進めています。化合物半導体材料分野においては、大容量・超高速データ受け渡しを可能とする5G通信に対し、高周波デバイス用各種エピウェハの設計開発を行っております。 IoTの主要構成ツールとして拡大が見込まれるセンシングデバイス分野においても、既に事業確立しているディスプレイ用タッチセンサーのさらなる高機能化や複合化を進めるとともに、薄膜形成を中心とした要素技術を活用し、新規センサーの開発に取り組んでおります。 なお、情報電子化学部門における当連結会計年度の研究開発費は173億円であります。 健康・農業関連事業分野では、世界の食糧増産、健康・衛生や環境の改善といった課題解決に貢献するため、技術イノベーションが急速に進むIoTやバイオテクノロジー技術を活用し、新製品やアプリケーション、競争力のある製造プロセスの開発に取り組むことで、コア事業の強化と周辺事業への展開および川下化を推進しております。当連結会計年度において、2018年6月、化学農薬の発明や開発を加速するため、健康・農業関連事業研究所内に合成研究棟「ケミストリーリサーチセンター」を新設し、稼働を開始しました。また、バイオラショナル製品の開発に強みを持つベーラント バイオサイエンス LLC(当社100%子会社)は、2018年7月、米国イリノイ州の同本社近接地に建設した新施設「バイオラショナルリサーチセンター」の稼働を開始しました。国内農業関連事業については、2年後の上市を目指して新規殺菌剤メチルテトラプロールを含む農薬の登録申請を昨秋実施したほか、今後農業場面での普及が見込まれるドローン散布に対応した剤型(FG剤)の水稲用除草剤の登録申請を昨夏実施するなど、農薬・肥料製品ラインナップの更なる拡充を推進しております。また、コメ事業についても事業の本格化に向けた良食味や多収等の特徴を有する新品種の開発を加速しております。さらに、種子・種苗、潅水資材等を取り扱う住化農業資材株式会社や青果流通事業を行う住化アグロソリューションズ株式会社などのグループ会社と連携しながら、農業生産者への総合的なソリューションの研究開発を進めております。海外農業関連事業においても、新規殺菌剤であるインピルフルキサムやメチルテトラプロールの早期事業化に向けてグローバル開発を進めており、本年度は両殺菌剤の欧州での農薬登録申請を実施しました。事業拡大を目指した他社との協業については、ニューファーム社との間でドイツ、イギリスおよびポーランドでの新規殺菌剤メチルテトラプロールに関する業務提携(販売・開発・製造)に合意しました。さらに、バイエル社(旧モンサント社)と2016年に合意した雑草防除体系の創出プロジェクト(当社が新規除草剤、バイエル社が耐性作物の開発を担当)、コルテバ・アグリサイエンス社(旧ダウ・デュポン社)と2017年に合意した種子処理技術の開発、登録、商業化プロジェクトにも引き続き取り組んでおります。生活環境事業については、重点強化領域の市場セグメントにおける新製品開発と川下化を推進しております。天然物由来製品への強い市場ニーズに応えるため、グループ会社であるMGK社やボタニカル・リソーシズ・オーストラリア社と共同で、天然由来の有効成分からなるボタニカル殺虫剤の開発も推進しました。業務用殺虫剤分野では、作用性の異なる複数の有効成分を配合することで即効性や抵抗性害虫への効果、残効性等の優れた機能を持たせた新製品を上市しました。熱帯感染症分野では、ピレスロイド抵抗性媒介蚊に有効なマラリア対策用室内残留散布剤を上市するとともに幼虫防除用新製品の開発・登録を進め、総合防除のための製品ラインナップ拡充を進めております。アニマルニュートリション事業については、競争力強化のためメチオニンの新しい製法の開発やプロセス改善に加え、製品ラインナップ拡充のため、飼料添加物分野における新規商材の開発に取り組んでおります。また、近年問題となっている家畜排泄物由来の温室効果ガスの低減を目的として、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構や国内大学などとの共同研究プロジェクトに参画し、引き続きメチオニンを含むアミノ酸バランス改善飼料の技術普及を推進しております。医薬化学品事業については、当社の有機合成プロセスの技術力を駆使したジェネリック原薬の製法開発、および新薬の受託製造品目の拡充に取り組んでおります。また、将来の成長が見込まれる核酸医薬原薬の製造において、GMP(Good Manufacturing Practice)体制のより一層の整備を進めるとともに、長鎖オリゴ核酸の製造を中心に、競争力のある要素技術の獲得、独自技術の拡張を目的とした研究開発を推進しております。 なお、健康・農業関連事業部門における当連結会計年度の研究開発費は293億円であります。 医薬品分野では、精神神経領域、がん領域および再生・細胞医薬分野を研究重点領域とし、また、感染症領域にも取り組み、グローバルヘルスへの貢献を目指し、大日本住友製薬株式会社および日本メジフィジックス株式会社が有する自社技術を活かした研究開発に加え、技術ライセンス、ベンチャー企業やアカデミアとの共同研究などによる最先端の外部技術の導入にも取り組み、優れた医薬品の継続的な創製を目指しております。 当連結会計年度においては、精神神経領域で次の進展がありました。①ルラシドン塩酸塩(開発コード:SM-13496)について、2019年1月、中国において統合失調症を対象とした承認を取得しました。②「トレリーフ」(一般名:ゾニサミド)について、2018年7月、日本においてレビー小体型認知症(DLB)に伴うパーキンソニズムの効能・効果を追加する一部変更承認を取得しました。③「ロナセン」(一般名:ブロナンセリン)について、日東電工株式会社と共同開発中のテープ製剤の承認申請を、2018年7月、日本において統合失調症を対象に行いました。④dasotraline(開発コード:SEP-225289)について、米国において成人および小児の注意欠如・多動症(ADHD)を対象とした承認申請をしておりましたが、2018年8月に米国食品医薬品局(FDA)から受領した審査結果通知において、FDAは、現時点では本剤をADHDの適応症として承認できないと判断し、本剤の有効性および忍容性をさらに評価するために追加の臨床データが必要であることを示しました。現在、開発方針を検討中です。また、米国において、過食性障害(BED)を対象としたフェーズ3試験に関して、主要評価項目を達成するとともに、良好な忍容性を示す結果を得ました。⑤アポモルヒネ塩酸塩水和物(開発コード:APL-130277)について、米国において、パーキンソン病に伴うオフ症状を対象とした承認申請をしておりましたが、2019年1月にFDAから受領した審査結果通知において、FDAは、現時点では本剤を承認できないと判断し、本剤の追加の情報および解析を要求しましたが、新たな臨床試験は求められておりません。2019年度に再申請を行う予定です。⑥SEP-363856について、米国において、統合失調症を対象としたフェーズ2試験に関して、主要評価項目を達成するとともに、良好な忍容性を示す結果を得ました。 がん領域では、ナパブカシンについて結腸直腸がんおよび膵がんを対象とした併用での国際共同フェーズ3試験を引き続き推進しました。また、造血幹細胞移植前治療薬「リサイオ」(一般名:チオテパ)について、2019年3月、日本において小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療(単剤)を対象とした承認を取得し、さらに同月、日本において悪性リンパ腫における自家造血幹細胞移植の前治療(単剤)を対象とした承認申請を行いました。 再生・細胞医薬分野では、引き続き、産学の連携先と、加齢黄斑変性、パーキンソン病、網膜色素変性、脊髄損傷などを対象に、他家iPS細胞を用いた再生・細胞医薬事業を推進します。当連結会計年度の進捗は以下の通りです。①SB623について、米国における慢性期脳梗塞を対象として実施したフェーズ2b試験において、主要評価項目を達成できませんでした。現在、本試験の詳細解析を実施しており、その結果を踏まえてサンバイオ社とともに今後の開発方針を決定する予定です。②他家iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞について、日本において京都大学医学部附属病院および京都大学iPS細胞研究所(CiRA)がiPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病を対象とした医師主導治験を開始しました。大日本住友製薬株式会社では、本試験結果を用いて承認申請を行う予定です。 感染症領域では、アカデミアなどとの共同研究により、薬剤耐性菌感染症治療薬ならびに大日本住友製薬株式会社のワクチンアジュバントを基盤としたマラリアワクチンおよび万能インフルエンザワクチンの創薬研究を展開しています。 放射性医薬品については、前連結会計年度において、日本医療研究開発機構(AMED)による「医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)」の研究開発課題として採択されたセラノスティクス(治療と診断の融合)薬剤開発プロジェクト「CRADLE(Consortium for Radiolabeled Drug Leadership)」を日本メジフィジックス株式会社が中心となって推進しています。2018年10月には、本プロジェクトの開発拠点となる設備の建設を開始しました。初期段階の研究については、高性能コンピュータを駆使したインシリコ創薬技術、iPS細胞などの最先端のサイエンスを取り入れた創薬に取り組んでいます。また、国内外の大学を含む研究機関等との研究提携も積極的に推進しております。さらに、医薬品以外のヘルスケア領域において、社会課題解決のための新たなソリューションを提供することを目的として、フロンティア事業の立ち上げを目指し、その一環として2018年10月に株式会社メルティンとの間で共同研究開発契約を、2019年2月には株式会社Aikomiとの間で共同研究契約を締結しました。 なお、医薬品部門における当連結会計年度の研究開発費は851億円であります。 全社共通およびその他の研究分野においては、上記5事業分野の事業領域を外縁部へ積極拡大するための研究およびマテリアルズ・インフォマティクス等の計算機科学をはじめとする共通基盤技術開発とともに、既存事業の枠に属さない新規事業分野への展開を図るべく、環境・エネルギー、ICT、ライフサイエンスの各分野において研究開発に取り組んでおります。当連結会計年度においては、次の進展がありました。ICT分野では、高分子有機EL材料の性能向上のための開発を継続した結果、パネルで発現される性能が実用的なレベルに達し、印刷法による中型パネル製造への材料提供を開始しました。また、有機フォトダイオード(OPD)材料を用いた指紋認証デバイスの共同開発が大きく進展しました。環境・エネルギー分野では、高分子有機EL照明において、フレキシブル基板ベースの一般照明パネルの開発、および生産プロセスの検討を継続して実施しました。ライフサイエンス分野においては、培養細胞を用いた、生体を使わない化学品安全性評価システムの構築に取り組んでおります。さらに上記3分野のうち、複数の分野の技術を融合させた研究開発も進めております。例えば、3分野にまたがった研究開発としては、プリンテッド・エレクトロニクス技術の応用展開に注力し、開発を加速しております。 なお、全社共通部門における当連結会計年度の研究開発費は162億円であります。 このように、事業拡大および競争力強化を図るべく、新製品・新技術の研究開発および既存製品の高機能化・既存技術の一層の向上に取り組み、各事業分野におきまして着実に成果を挙げつつあります。
FY2018|6,752 文字
5 【研究開発活動】 当社グループ(当社および連結子会社)は、事業拡大と収益向上に寄与すべく、独自の優位性ある技術の確立を基本方針とし、各社が独自に研究開発活動を行っているほか、当社グループ全体としての効率性を念頭に置きながら、互いの研究開発部門が密接に連携して共同研究や研究開発業務の受委託等を積極的に推進しております。 当連結会計年度においては、2016年度から2018年度までの中期経営計画に従い、引き続き環境・エネルギー、ICT(情報・通信技術)、ライフサイエンスの3分野に研究資源を重点投入するとともに、異分野技術融合による新規事業の芽の発掘とその育成に取り組んできました。 これに基づき、当連結会計年度の研究開発費は、前連結会計年度に比べ73億円増加し、1,653億円となりました。 セグメントごとの研究開発活動を示すと次のとおりであります。 石油化学分野では、事業のグローバル競争力強化のために、プロピレンオキサイド、カプロラクタム、メタアクリルモノマーを中心とする既存バルク製品の触媒・プロセス改良、合成樹脂の製造プロセスの改良、既存素材の高性能化や新規高付加価値製品の開発に積極的に取り組んでおります。当連結会計年度において、プロピレンオキサイドでは、旺盛なライセンスオファーへより的確に応えるべく、プロセスの最適化検討を並行して行い、よりコスト競争力の高い製造技術を目指した改良研究を実施しました。ポリエチレン、ポリプロピレンでは近年需要の高まっているエネルギー関係部材に最適なポリマー材料構造の設計、製造技術の検討に進捗がみられました。また温室効果ガスの削減の取り組みに呼応し、自動車の軽量化への寄与を念頭に樹脂加工技術を応用した樹脂外板材用ポリオレフィン材料の開発や、環境負荷低減包装への要求に応じ高性能なパウチ包装用ポリオレフィン材料の開発に進展が見られました。新製品開発では蓄熱性能を有する樹脂材料の実用化に向け、衣・住の快適性に寄与し得る用途開発が進展しました。 なお、石油化学部門における当連結会計年度の研究開発費は66億円であります。 エネルギー・機能材料分野では、リチウムイオン二次電池用部材、スーパーエンジニアリングプラスチックス、低燃費タイヤ用の高性能ゴムなどの環境・エネルギー関連事業拡大のため、無機材料、合成ゴム材料、機能性樹脂材料などの幅広い分野で、新規製品創出や既存製品の競争力強化に向けた研究開発に取り組んでおります。 当連結会計年度において、リチウムイオン二次電池用部材に関しては、自動車向けを中心に性能向上や需要拡大の要請に応えるため、開発を鋭意進めました。耐熱セパレータについては、性能向上・コスト削減を目指した新規膜の技術開発が進捗しており、正極材については独自技術を用いた高容量タイプの開発品につき顧客評価を進めております。負極やセパレータ塗工に用いるアルミナについては、生産性向上について検討を進め、20-30%の効率向上を達成しました。 機能樹脂分野においては、電気・電子分野向け、また自動車部材向けにスーパーエンジニアリングプラスチックスの需要が増大しており、性能向上を図ることで顧客要望に対応するべく開発を進めております。ポリエーテルサルホン(PES)に関しては千葉工場にて第2プラントが完成し2018年度初めから稼働予定であり、航空機用途のみならず、自動車部材や高機能膜向けの開発・拡販を積極的に進めております。液晶ポリマー(LCP)に関しては、電気・電子分野向けにコネクター用途への開発・拡販を進めるとともに、新たに高速通信対応のフィルムグレードの展開と開発を進めており、顧客採用が進んでおります。 なお、エネルギー・機能材料部門における当連結会計年度の研究開発費は75億円であります。 情報電子化学分野では、日本国内に留まらず情報電子化学部門内のグローバルな技術・研究開発能力を結集し、IT関連の先端技術に対応する新規材料・部材・デバイスに関する新製品の開発に引き続き積極的に取り組んでおります。当連結会計年度におきましては、先ず機能性光学フィルム分野において、OLEDの一部用途先に当社独自の材料技術からなる液晶塗布型位相差フィルムを新たに量産・上市し、顧客から高い評価を得ております。さらなる展開のため、モバイル用OLEDパネル向け製品への展開も手掛け、市場投入の目途を得ております。今後も成長が続くモバイル機器・車載機器分野に対し、当社独自の優れた要素技術を生かし、新しい商品開発を推し進めてまいります。電子材料分野におきましては、ディスプレイ用高輝度・高色再現性カラーレジストや半導体前工程向け液浸ArFレジスト、半導体後工程向け厚膜i線レジスト等に対し、これまで培ってきた優れた分子設計機能や有機合成技術を生かした製品を市場投入し、国内外の大手需要家から高い評価を得ております。更に最先端微細加工であるEUVや伸長著しい3D-NANDプロセス用レジストへの参入を目指し開発を進めております。化合物半導体分野では、光/電子デバイス分野やパワーデバイス分野で期待されるGaN系材料の早期開発・工業化に向けた技術開発に力を入れるとともに、モーション/イメージセンサー等に用途が拡大しているVCSELの事業拡大に向けた開発を推進しております。表示デバイス分野におきましては、韓国を中心にフィルムベースタッチセンサーの量産技術を基盤とした様々な複合型センサーの開発を進めております。また、次世代ディスプレイとして期待されているフレキシブルディスプレイに用いられる様々な新規部材の開発をグループ横断的に取り組んでおります。そのなかでも、ウィンドウフィルム、液晶塗布型偏光子については量産化の目途を得ており、さらにタッチセンサー等も含めた複数の機能を複合化した機能統合部材の開発を推し進めております。 なお、情報電子化学部門における当連結会計年度の研究開発費は173億円であります。 健康・農業関連事業分野では、急速に進展しているIoT技術を活用しながら、新製品やアプリケーション、競争力のある製造プロセスの開発に取り組むことで、コア事業の強化と周辺事業への展開および川下化を推進しております。当連結会計年度において、国内農業関連事業については、3年後の上市を目指して新規殺菌剤成分(一般名:インピルフルキサム)を含む農薬の登録申請を昨秋実施したほか、農薬・肥料製品ラインナップの更なる拡充に向けた新規化合物の探索・製品開発を推進しております。また、コメ事業についても事業の本格化に備えた良食味や多収等の特徴を有する新品種の開発を継続しております。さらに、種子・種苗、潅水資材等を取り扱う住化農業資材株式会社や農業用フィルムを取り扱うサンテーラ株式会社などのグループ会社と連携しながら、農業生産者への総合的なソリューションの提供を進めております。海外農業関連事業においてもインピルフルキサムの開発を進めており、2017年にブラジル、アルゼンチン、米国、カナダにおいて農薬登録申請を実施しました。また、米国の中西部農業研究センターが完成し、主要穀物(トウモロコシ、ダイズ、小麦等)をターゲットとした農薬の圃場での性能評価体制を強化しております。他社との協業を通じた事業拡大を目指し、2017年6月に、当社の発明した新規殺菌剤成分をグローバルな協力関係の下で開発することにビーエーエスエフ社と合意しました。また同月、バイエル社との間で、ブラジルのダイズを対象としたインピルフルキサムを含む混合剤の開発に合意しました。デュポン社(現 ダウ・デュポン社)とは、主要作物を対象とした種子処理技術の開発、登録、商業化に関して、グローバルに協力する事に合意しました。さらに、米国の種子・バイオ大手であるモンサント社と2016年に合意した雑草防除体系の創出プロジェクト(当社が新規除草剤、モンサント社が耐性作物の開発を担当)にも引き続き取り組んでおります。また、資本提携している豪州農薬会社ニューファーム社とは業務提携に関する契約を延長し、幅広い分野(販売・開発・製造)で様々な取り組みを引き続き進めております。生活環境事業については、各重点分野における新製品開発と川下化を推進しております。家庭用殺虫剤分野では、新規ピレスロイド剤ならびに屋外用蚊忌避製品の国内薬機法承認を取得し、販売を開始しました。業務用殺虫剤分野では、難防除害虫であるトコジラミに優れた効果を示す新製品を上市しました。またエアプロテクション分野では、拡散性の優れたデバイス型芳香消臭剤の研究に注力して新製品を上市しました。熱帯感染症分野では、ピレスロイド抵抗性媒介蚊に有効なマラリア対策用防虫蚊帳の普及をWHOの推奨を受けて推進するとともに、新たな室内残留散布剤及び幼虫防除剤のWHO認証を取得し、総合防除のための製品ラインナップ拡充を進めております。アニマルニュートリション事業については、近年問題となっている家畜排泄物由来の温室効果ガスの低減を目的として、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構や国内大学などとの共同研究プロジェクトに参画し、メチオニンを含むアミノ酸バランス改善飼料の技術普及を推進しております。また、製品ラインナップ拡充のため、新規商材の探索研究にも取り組んでおります。医薬化学品事業については、当社のプロセス開発力を駆使したジェネリック原薬の製法開発に注力し、原薬・中間体の受託製造品目の拡充に取り組んでおります。また、将来の成長が見込まれる核酸医薬原薬の製造においては、GMP(Good Manufacturing Practice)体制のより一層の整備を進めるとともに、ボナック社との共同研究をより一層進めるなど、競争力のある各要素技術を獲得するための開発研究を推進しております。 なお、健康・農業関連事業部門における当連結会計年度の研究開発費は293億円であります。 医薬品分野では、精神神経領域、がん領域および再生・細胞医薬分野を研究重点領域とし、大日本住友製薬株式会社および日本メジフィジックス株式会社が有する自社技術を活かした研究開発に加え、技術ライセンス、ベンチャー企業やアカデミアとの共同研究などによる最先端の外部技術の導入にも取り組み、優れた医薬品の継続的な創製を目指しております。 当連結会計年度においては、精神神経領域で次の進展がありました。①魅力的な開発パイプラインのより効率的な創出を実現するため、2017年10月、大日本住友製薬株式会社の研究体制を改め、研究本部をリサーチディビジョンに改称するとともに、研究プロジェクト(創薬テーマ)を強力に推進するために「プロジェクト制」を採用し、プロジェクトリーダーおよびプロジェクトディレクターを配置しました。②dasotraline(開発コード:SEP-225289)について、2017年8月、米国において成人および小児の注意欠如・多動症(ADHD)を対象とした承認申請を行いました。③「トレリーフ」(一般名:ゾニサミド)について、2017年8月、日本においてレビー小体型認知症(DLB)に伴うパーキンソニズムの効能・効果を追加する一部変更承認申請を行いました。④アポモルヒネ塩酸塩水和物(開発コード:APL-130277)について、2018年3月、米国においてパーキンソン病に伴うオフ症状を対象とした承認申請を行いました。⑤非定型抗精神病薬「ロナセン」(一般名:ブロナンセリン)について、日東電工株式会社と共同開発中のテープ製剤の日本でのフェーズ3試験において主要評価項目を達成するとともに、良好な忍容性を示す解析結果速報を2018年2月に得ました。 がん領域では、ナパブカシンについて結腸直腸がんおよび膵がんを対象とした併用での国際共同フェーズ3試験を引き続き推進しました。一方、胃または食道胃接合部腺がんを対象とした同剤の国際共同フェーズ3試験については、中間解析が実施され、独立データモニタリング委員会による、主要評価項目を達成できる見込みが低いとの判断に基づく勧告を受け入れ、2017年6月、盲検の解除を決定し、事実上、同試験を中止しました。 再生・細胞医薬分野では、2018年3月、他家iPS細胞由来の再生・細胞医薬品専用の商業用製造施設としては世界初となる再生・細胞医薬製造プラントを竣工しました。引き続き、産学の連携先と、加齢黄斑変性、パーキンソン病、網膜色素変性、脊髄損傷などを対象に、他家iPS細胞を用いた再生・細胞医薬事業を推進します。 その他領域では、「ロンハラ マグネア」(一般名:グリコピロニウム臭化物)について、2017年12月、米国において慢性閉塞性肺疾患(COPD)の長期維持療法を適応とした承認を取得しました。また、2017年10月、フランスのポクセル社から、2型糖尿病治療剤として開発中のimeglimin(開発コード:PXL008)の日本、中国、韓国、台湾および東南アジア9カ国における開発・販売権を獲得しました。2017年12月には、同剤について、同社と共同で2型糖尿病を対象とした日本におけるフェーズ3試験を開始しました。 放射性医薬品については次の進展がありました。①2017年9月、効能又は効果を「アルツハイマー型認知症が疑われる認知機能障害を有する患者の脳内アミロイドベータプラークの可視化」とした「ビザミル®静注」の製造販売承認を取得しました。②2017年6月、PET検査用心筋血流イメージング剤と診断補助剤(血管拡張薬)の日本における独占的開発・製造・販売権を獲得し、診断補助剤については2018年2月よりフェーズ1試験を開始しました。 初期段階の研究については、高性能コンピューターを駆使したインシリコ創薬技術、iPS細胞などの最先端のサイエンスを取り入れた創薬に取り組んでおります。また、国内外の大学を含む研究機関等との提携も積極的に進めており、当連結会計年度においては、大日本住友製薬株式会社が学校法人北里研究所と共同で進める薬剤耐性菌感染症治療薬の創製、並びに、日本メジフィジックス株式会社が中心となって推進するセラノスティックス(治療と診断の融合)薬剤開発が日本医療研究開発機構(AMED)による「医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)」の研究開発課題として採択されました。 なお、医薬品部門における当連結会計年度の研究開発費は893億円であります。 全社共通およびその他の研究分野においては、上記5事業分野の事業領域を外縁部へ積極拡大するための研究およびマテリアルズ・インフォマティクス等の計算機科学をはじめとする共通基盤技術開発とともに、既存事業の枠に属さない新規事業分野への展開を図るべく、環境・エネルギー、ICT、ライフサイエンスの各分野において研究開発に取り組んでおります。当連結会計年度においては、次の進展がありました。ICT分野では、ディスプレイ用途において、高分子有機EL材料の性能向上のための開発を継続した結果、パネルで発現される性能が実用的なレベルに達しました。環境・エネルギー分野では、高分子有機EL照明において、フレキシブル基板ベースの一般照明パネルの開発、生産プロセスの検討を継続して実施しました。ライフサイエンス分野においては、培養細胞を用いた、生体を使わない化学品安全性評価システムの構築に取り組んでおります。さらに上記3分野のうち、複数の分野の技術を融合させた研究開発も進めております。例えば、3分野にまたがった研究開発としては、プリンテッド・エレクトロニクス技術の開発に引き続き注力し、開発を加速しております。 また、ライフサイエンス分野の新規事業創出を加速させるため、2018年1月1日の組織改正により、当社子会社の大日本住友製薬株式会社ゲノム科学研究所を廃止し、その機構を当社へ移管するとともに、生物環境科学研究所、先端材料開発研究所が持つ一部の研究機能を集約・統合し、バイオサイエンス研究所を新設しました。 なお、全社共通部門における当連結会計年度の研究開発費は153億円であります。 このように、事業拡大および競争力強化を図るべく、新製品・新技術の研究開発および既存製品の高機能化・既存技術の一層の向上に取り組み、各事業分野におきまして着実に成果を挙げつつあります。
FY2017|6,685 文字
6 【研究開発活動】 当社グループ(当社および連結子会社)は、事業拡大と収益向上に寄与すべく、独自の優位性ある技術の確立を基本方針とし、各社が独自に研究開発活動を行っているほか、当社グループ全体としての効率性を念頭に置きながら、互いの研究開発部門が密接に連携して共同研究や研究開発業務の受委託等を積極的に推進している。 当連結会計年度においては、平成28年度から平成30年度までの中期経営計画に従い、引き続き環境・エネルギー、ICT(情報・通信技術)、ライフサイエンスの3分野に研究資源を重点投入するとともに、異分野技術融合による新規事業の芽の発掘とその育成に取り組んできた。 これに基づき、当連結会計年度の研究開発費は、前連結会計年度に比べ18億円増加し、1,576億円となった。 セグメントごとの研究開発活動を示すと次のとおりである。 石油化学分野では、事業のグローバル競争力強化のために、プロピレンオキサイド、カプロラクタム、メタアクリルモノマーを中心とする既存バルク製品の触媒・プロセス改良、合成樹脂の製造プロセスの改良、既存素材の高性能化や新規高付加価値製品の開発に積極的に取り組んでいる。当連結会計年度において、プロピレンオキサイドでは、ここ数年注力しているライセンス活動に対応して、プロセスの最適化検討を並行して行い、よりコスト競争力の高い製造技術を目指した改良研究を実施している。ポリエチレン、ポリプロピレンでは温室効果ガスの削減の取り組みに呼応し、自動車の軽量化や低環境負荷包装などに求められる高性能材料およびその製造プロセスの開発に進展が見られた。メタアクリルモノマーに関しては、性能が大幅に向上した触媒の製造を平成27年度から開始し、当期から使用を開始した。新製品開発では、ハロゲン原子を含まない、柔軟性を合わせ持った難燃樹脂や、樹脂本来の特性である耐水性、耐薬品性などの機能を維持しつつ、手づくりのような自然な風合いを持たせた意匠性樹脂フィルムを上市した。また、蓄熱性能を有する樹脂材料の実用化に向けた技術開発が進展した。 なお、石油化学部門の研究開発費は60億円であった。 エネルギー・機能材料分野では、リチウムイオン二次電池用部材、スーパーエンジニアリングプラスチックス、低燃費タイヤ用の高性能ゴムなどの環境・エネルギー関連事業拡大のため、無機材料、合成ゴム材料、機能性樹脂材料などの幅広い分野で、新規製品創出や既存製品の競争力強化に向けた研究開発に取り組んでいる。当連結会計年度において、無機材料関連では、リチウムイオン電池用のアルミナについて品質改良品を開発し、併せてその生産性向上についても検討を進めた。アルミニウム関連では、高純度アルミニウムを使用した耐食性合金の用途開発が進捗した。合成ゴム関連では、様々な要求性能を満たす新規グレードの開発に目途を得、顧客評価が進んでおり、機能性ゴム薬品についてもタイヤ用途向け接着樹脂の試製造を実施し、顧客評価を受けている。機能樹脂関連では、従来の電気・電子分野に加えて自動車基材分野においても開発が進展し、顧客採用が順調に進んでいる。電池部材関連では、平成28年10月31日における株式会社田中化学研究所の子会社化に伴い、エネルギー・機能材料研究所に二次電池用正極材の開発グループを新設し、当該製品の開発力強化・事業化推進を図っており、耐熱セパレータでは製造設備増強に伴う生産性向上・コスト削減技術開発を加速している。 なお、エネルギー・機能材料部門の研究開発費は91億円であった。 情報電子化学分野では、日本国内に留まらず情報電子化学部門内のグローバルな技術・研究開発能力を結集し、IT関連の先端技術に対応する新規材料・部材・デバイスに関する新製品の開発に、引き続き積極的に取り組んでいる。当連結会計年度は、機能性光学フィルム分野において、当社が培ってきた差別化技術に基づく最先端製品の開発・工業化をさらに推進した。具体的には、大型化の進む液晶TV向け光学フィルム分野において顧客製品の信頼性向上に寄与する低透湿の製品を投入した。また、独自の材料技術を駆使した新しいタイプの偏光板を開発し、OLED用光学フィルムに参入するとともに、フレキシブルディスプレイ用部材開発を手掛け、実用可能な技術水準を達成することができた。これらの開発を通じて確立した要素技術にさらに磨きをかけ、成長が続くモバイル機器・車載機器向けの光学フィルム分野への展開を進めている。 電子材料分野においては、高性能液晶パネル向け高輝度・高色再現性カラーレジストや半導体前工程向け液浸ArFレジスト、半導体後工程向け厚膜i線レジスト等、独自性の高い分子設計技術・有機合成技術を活かした製品を市場投入し、国内外の大手需要家から高い評価を得ている。また、化合物半導体分野では、今後成長が見込まれるパワーデバイス分野においてさらなる開発の効率化と競争優位を獲得すべく、国内プロジェクトへの参画等を通じて、GaNエピ基板の量産技術開発を進めるとともに、国内子会社であるサイオクス社との連携により最先端分野での技術開発を推し進めている。 表示デバイス分野においては、タッチセンサーパネルに関する設計・開発・製造を韓国の子会社東友ファインケム社にて精力的に実施している。顧客企業の旺盛な需要に応えるべく生産能力拡大の新規投資を実施する一方、フレキシブルディスプレイ用途への展開が期待されるフィルムベースタッチセンサーの量産技術を確立するとともに革新的生産技術の開発を進めている。また、フレキシブルディスプレイに用いられる様々な新規部材の開発をグループ横断的に推し進めており、ウィンドウフィルム、塗布型偏光板等の開発には目途をつけつつあり、今後は量産化技術を確立し市場投入を進めていく。 なお、情報電子化学部門の研究開発費は160億円であった。 健康・農業関連事業分野では、新製品、新技術の開発や製造プロセスの改善・向上に積極的に取り組み、コア事業の強化と周辺事業への展開および川下化を推進し、健康・農業関連事業を取り巻く環境の変化に柔軟に対応している。当連結会計年度において、農業関連事業については、国内では新規農薬・肥料製品の上市により製品ラインナップの拡充を図るとともに、平成26年度から開始したコメ事業の本格展開に向けた研究活動を推進している。また、グループ会社において、種子、種苗、培土、灌水資材、農業フィルムや非農耕地分野である家庭用園芸、ゴルフ場、森林防除等向けの農薬・肥料製品の拡充を図っている。海外では新規有効成分の殺菌剤を米国においてシバ向けに、韓国では果樹向けに上市した。また、海外での新規製品開発を加速させるために研究開発拠点の拡充を積極的に進めており、米国では中西部農業研究センターの新設、およびバイオラショナル製品(天然物由来などの微生物農薬、植物生長調整剤、微生物農業資材など)の開発促進を目的としたバイオラショナルリサーチセンターの建設に着手し、ブラジルではラテン・アメリカ・リサーチ・センターを開所した。その他の取り組みとしては、バナナやオイルパームなどのプランテーション向け農業関連資材の拡充と世界的な普及を本格化し、シンガポールではシンガポール農食品獣医庁と共同で進めている都市型農業の研究プロジェクトを第2段階に移行した。他社との協業においては、米国の種子・バイオ大手であるモンサント社との間で、雑草防除に関して新たなグローバル協力関係を構築することに合意し、当社は新規剤を含むPPO阻害型除草剤の開発を担うこととなった。また、現在資本提携している豪州農薬会社ニューファーム社とは混合剤新製品の商業化に向けた開発に取り組んでいる。さらに、米国子会社のベーラント・バイオサイエンス社では、バイオラショナル製品拡充のため、米国リドケム社と新規生物防除技術のライセンス契約を締結するとともに、アルゼンチンのリゾバクター社と根圏におけるバイオラショナル分野での長期的な協力関係を構築した。生活環境事業については、家庭用殺虫剤・業務用殺虫剤・動物用殺虫剤・ヒューマンヘルスケア・エアプロテクション・熱帯感染症剤の各重点分野における新製品開発を推進している。エアプロテクション分野では、静電噴霧技術を用いた業務用芳香消臭剤の新製品の開発を加速している。熱帯感染症分野では、アフリカ諸国で上市したピレスロイド抵抗性媒介蚊に有効なマラリア対策用防虫蚊帳の普及を推進するとともに、熱帯感染症に対する総合防除に係る製品強化のため、新しいコンセプトのピレスロイド抵抗性対策蚊帳、さらに室内残留散布剤や幼虫防除剤などの蚊帳以外の防除手段の開発も引き続き推進している。アニマルニュートリション事業については、平成30年半ばに予定しているメチオニン生産能力の増強に向けて、製造プロセスの更なる合理化研究を推進している。また、マレーシアのアニマルニュートリションテクノロジーセンターでは、飼料分析サービスの対応地域を拡充すべく、関連研究拠点(ブラジル、中国)への技術移転に着手した。医薬化学品事業については、ジェネリック原薬の製法開発に引き続き注力するとともに、原薬・中間体の受託製造案件の拡充にも積極的に取り組んでいる。新規分野である核酸医薬原薬の製造においては、スケールアップ検討および品質管理体制の整備を進め、GMP(Good Manufacturing Practice)対応の生産に成功した。 なお、健康・農業関連事業部門の研究開発費は278億円であった。 医薬品分野では、自社研究、技術導入、ベンチャーやアカデミアとの共同研究等あらゆる方法で、最先端の技術を 取り入れて、研究開発活動に取り組んでおり、精神神経領域とがん領域を重点領域とし、革新的な医薬品の創製を目指している。さらに、治療薬のない疾患分野や再生医療・細胞医薬といった新規分野において、世界に先駆けて事業展開を図っていく。当連結会計年度においては、大日本住友製薬株式会社、日本メジフィジックス株式会社保有の先端技術を活かした創薬研究等を進めるとともに、国内外の大学を含む研究機関等とのアライアンスも積極的に進めている。 研究初期段階では、スーパーコンピューターを活用したインシリコ創薬技術、iPS細胞等の最先端サイエンスを創薬や再生医療・細胞医薬に応用する取り組みを進めている。また、当期においては、独創的な抗がん剤の創出を目指して大日本住友製薬株式会社と京都大学との協働研究(DSKプロジェクト)の第2期を開始した。さらに、国内の研究機関および研究者を対象に、当社グループの創薬研究ニーズと合致するアイデアを募集する公募型オープンイノベーション活動「PRISM」を平成27年度から実施しており、当期においては、複数のアイデアについて共同研究契約を締結した。 研究後期および開発段階では、研究重点領域および新規分野を中心に、グローバルな視点からグループ全体でのポートフォリオの最適化を行っている。加えて、製品価値の最大化を目指した剤形展開等の製品ライフサイクルマネジメントやドラッグ・リポジショニングにも積極的に取り組んでいる。 精神神経領域では、次の進展があった。①ブロナンセリンについて、中国において、統合失調症を適応とした承認を平成29年2月に取得した。②dasotraline(開発コード:SEP-225289)について、米国において、小児の注意欠如・多動症(ADHD)を対象としたフェーズ2/3試験の主要評価項目を達成し、並行して実施していたフェーズ3試験も完了した。また、過食性障害(BED)を対象としたフェーズ2/3試験の主要評価項目を達成し、新たに別のフェーズ3試験を開始した。③SEP-363856について、米国において、統合失調症のフェーズ2試験およびパーキンソン病に伴う精神病症状のフェーズ2試験を開始した。 がん領域では、次の進展があった。①ナパブカシンについて、米国等において、胃または食道胃接合部腺がんおよび結腸直腸がんを対象とした併用での国際共同フェーズ3試験を進め、これに加えて、米国において、膵がんを対象とした併用での国際共同フェーズ3試験を開始した。また、カナダにおいて膠芽腫を対象としたフェーズ1/2試験のフェーズ2段階を開始した。②DSP-7888について、日本において、小児悪性神経膠腫のフェーズ1/2試験のフェーズ2段階を開始した。 再生医療・細胞医薬の領域では、大日本住友製薬株式会社が京都大学iPS細胞研究所と共同して実用化に向けて取り組んでいる「非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞」について、平成29年2月、厚生労働省より再生医療等製品の先駆け審査指定制度の指定品目に選定された。 その他の領域では、グリコピロニウム臭化物(開発コード:SUN-101)について、米国において、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の長期維持療法を対象とした承認申請を平成28年7月に行った。 当社グループは、開発パイプラインの拡充を目指して買収および開発品の導入にも積極的に取り組んでいる。当期においては、大日本住友製薬株式会社が買収したシナプサス社のアポモルヒネ塩酸塩水和物(開発コード:APL-130277)およびトレロ社のalvocidibの開発をそれぞれ次のとおり実施している。① アポモルヒネ塩酸塩水和物について、米国において、パーキンソン病に伴うオフ症状を対象としたフェーズ3試験を実施している。② alvocidibについて、米国において、急性骨髄性白血病(AML)を対象とした併用でのフェーズ2試験を実施している。 上記以外にも、日本におけるルラシドン塩酸塩や米国、カナダおよび日本におけるamcasertib(開発コード:BBI503)の開発等を進めている。 放射性医薬品では、平成15年度にライセンス導入した新規がん診断用PET製剤の開発を継続中であり、平成25年度にライセンス導入したアルツハイマー診断剤については、医薬品としての製造販売承認申請を行った。また、RI治療事業の増強のため、小線源治療用医療機器の品目拡充を図り、平成27年度に承認を取得した新製品2品目の販売を開始した。 なお、医薬品部門の研究開発費は831億円であった。 全社共通およびその他の研究分野では、上記5事業分野の事業領域を外縁部へ積極拡大するための研究およびマテリアルズ・インフォマティクス等の計算機科学をはじめとする共通基盤技術開発とともに、既存事業の枠に属さない新規事業分野への展開を図るべく、環境・エネルギー、ICT、ライフサイエンスの各分野で研究開発に取り組んでいる。当連結会計年度においては、次の進展があった。ICT分野では、ディスプレイ用途において、引き続き高分子有機EL材料の性能向上、および想定パネル生産プロセスにおける性能発現について開発を継続した。環境・エネルギー分野では、高分子有機EL照明において、フレキシブル基板ベースの一般照明パネルの開発、生産プロセスの検討を継続して実施した。また、膜分離法によるCO2分離技術では、国内化学メーカーへの商業設備導入が決定し、設置工事および試運転に向けての作業を進めている。ライフサイエンス分野では、培養細胞を用いた、生体を使わない化学品安全性評価システムの構築に取り組んでいる。さらに上記3分野のうち、複数の分野の技術を融合させた研究開発も進めている。例えば、ICT分野とライフサイエンス分野にまたがる領域の研究開発として、バイオセンサーの開発を進めている。3分野にまたがった研究開発としては、プリンテッド・エレクトロニクス技術の開発に引き続き注力中である。 また、次世代事業の早期戦列化に向け、より効率的な運営を図るため、平成28年4月1日の組織改正により、筑波開発研究所と先端材料探索研究所を統合して先端材料開発研究所とした。 なお、全社共通部門の研究開発費は155億円であった。 このように、事業拡大および競争力強化を図るべく、新製品・新技術の研究開発および既存製品の高機能化・既存技術の一層の向上に取り組み、各事業分野において着実に成果を挙げつつある。
FY2016|6,394 文字
6 【研究開発活動】 当社グループ(当社および連結子会社)は、事業拡大と収益向上に寄与すべく、独自の優位性ある技術の確立を基本方針とし、各社が独自に研究開発活動を行っているほか、当社グループ全体としての効率性を念頭に置きながら、互いの研究開発部門が密接に連携して共同研究や研究開発業務の受委託等を積極的に推進している。 なお、平成27年4月1日の組織改正により、基礎化学品研究所および石油化学品研究所を再編し、エネルギー・機能材料研究所を新設した。また、当社のコア技術である有機合成技術をより機動的に事業に活かし、事業化への更なるスピードアップ、川下製品への展開、有機・無機ハイブリッド技術の進展等の要請に応えるために、有機合成研究所を発展的に解消して、個別の事業と密接に関連する研究開発機能については事業部門研究所に移管・統合し、将来の事業になり得る分野の有機合成技術については筑波地区研究所(筑波開発研究所および先端材料探索研究所)と統合した。 当連結会計年度においては、平成25年度から平成27年度までの中期経営計画に従い、環境・エネルギー、ライフサイエンス、ICT(情報・通信技術)の3分野に研究資源を重点投入するとともに、異分野技術融合による新規事業の芽の発掘とその育成に取り組んできた。 これに基づき、当連結会計年度の研究開発費は、前連結会計年度に比べ79億円増加し、1,558億円となった。 セグメントごとの研究開発活動を示すと次のとおりである。 石油化学分野では、事業のグローバル競争力強化のために、プロピレンオキサイド、カプロラクタム、メタアクリルモノマーを中心とする既存バルク製品の触媒・プロセス改良、合成樹脂の製造プロセスの改良、既存素材の高性能化や新規高付加価値製品の開発に積極的に取り組んでいる。当連結会計年度において、ポリエチレンでは、太陽電池用封止向け材料の性能改良に進展があった。具体的には、太陽電池の大規模発電で出力低下に繋がるPID(Potential Induced Degradation)現象を抑えることが可能な封止材の評価が進展し、顧客への採用が進んだ。ポリプロピレンでは、軽量化等の環境ニーズに対応した自動車材や機能性フィルム材に求められる高性能ポリプロピレンの材料、および、その製造プロセスの開発に進展が見られた。メタアクリルモノマーに関しては、性能が大幅に向上した触媒の製造を開始し、平成28年度から使用予定である。新製品開発では、難燃性と柔軟性を兼ね備えた熱可塑性エラストマーの採用に向けた顧客評価、および蓄熱性能を有する樹脂材料の顧客での実用評価に向けた技術開発が進展した。 なお、石油化学部門の研究開発費は62億円であった。 エネルギー・機能材料分野では、自動車用排ガスのすす除去フィルター、低燃費タイヤ用の高性能ゴムや新規添加剤、LED照明用基板原料や高機能樹脂製品など、環境・エネルギー関連事業拡大のため、無機材料、高分子材料、有機合成などの幅広い分野で、新規製品創出や既存製品の競争力強化に向けた研究開発に取り組んでいる。当連結会計年度において、無機材料関連では、独自に開発したチタン酸アルミニウム製のディーゼルエンジンすす除去フィルターについて、ポーランド工場で商業生産を開始した。リチウムイオン電池用のアルミナについては品質改良を実施して他社品との差別化を図り、併せてその生産性向上についても目途を得た。アルミニウム分野では、高純度アルミニウムの耐食性を活かした上で強度、成形性を向上させた新規材料の開発が進捗した。合成ゴム関連では、様々な要求性能を満たす新規グレードの開発に目途を得、顧客評価が進んでいる。化成品関連では、機能性ゴム薬品について、タイヤ用途向け新規製品の本格製造を開始した。 なお、エネルギー・機能材料部門の研究開発費は61億円であった。 情報電子化学分野では、日本国内に留まらず情報電子化学部門内のグローバルな技術・研究開発能力を結集し、IT関連企業の先端技術に対応する新規材料・部材・デバイスに関する新製品の開発に、引き続き積極的に取り組んでいる。当連結会計年度は、機能性光学フィルム分野において、当社が培ってきた差別化技術に基づく最先端製品の開発・製造をさらに推進した。具体的には、スマートフォンをはじめとするモバイル機器向け液晶用光学フィルムにおいて、薄型化・高性能化を支える要素技術の自社開発を進め、それらを活用して上市した製品は大手顧客の好評を得た。また、これから大きく市場拡大することが期待されているフレキシブルディスプレイに代表される次世代ディスプレイに用いられる様々な新製品・新技術の開発に目途をつけつつあり、今後は量産化技術を確立し、新製品の市場投入を進めていく。 電子材料分野では、高性能液晶パネル向け高輝度・高色再現性カラーレジストや半導体向け液浸ArFレジストにおいて、独自性の高い材料技術に立脚した製品が国内外の大手需要家から高い評価を得ている一方、需要拡大の続く半導体向け厚膜i線レジストの新規顧客を獲得した。また、スーパーエンジニアリングプラスチックスの分野では、従来から好評を得ていた航空機向け分野において、新規グレードの開発工業化を完了し市場投入を始めている。さらにMOエピタキシャルウエハ分野では、今後成長が見込まれるパワーデバイス分野においてさらなる開発の効率化と競争優位を獲得すべく、買収したサイオクス社との連携を深めつつ、国家プロジェクトへの参画を通じて最先端分野での技術開発を推し進めている。 電池部材分野では、リチウムイオン二次電池用耐熱セパレータの事業拡大を支える要素技術の開発に力を入れる一方、自動車用途以外への適用を視野に入れた新セパレータの開発を推進している。また、正極材料においては、当社の強みを活かして開発し、市場評価中のハイニッケル系材料を含めたいくつかの品目について、部材メーカー選定に向けて特性の最適化を進めた。 表示デバイス分野では、タブレットPCやスマートフォンに使用されるタッチセンサーパネルに関する設計・開発・製造を韓国の子会社東友ファインケム社にて精力的に実施している。顧客企業の旺盛な需要に応えるべく革新的生産技術の開発を進めている一方、フレキシブルディスプレイ用にも展開が期待されるフィルムベースタッチセンサーの量産化にも成功した。 なお、情報電子化学部門の研究開発費は185億円であった。 健康・農業関連事業分野では、新製品、新技術の開発や製造プロセスの改善・向上に積極的に取り組み、コア事業の強化と周辺事業への展開および川下化を推進し、健康・農業関連事業を取り巻く環境の変化に柔軟に対応している。当連結会計年度において、農業関連事業については、国内では新規農薬・肥料製品の上市により製品ラインナップの拡充を図るとともにその他の取り組みとして、従来より実施している農業法人の運営強化に加え、平成26年度から開始したコメ事業の早期確立を進めている。また、グループ会社を通じて、種子、種苗、培土、灌水資材、農業フィルムの販売、農産物販売などを積極展開している。非農耕地分野においても、グループ会社を通じて、家庭用園芸、ゴルフ場、森林防除等の非農耕地分野に農薬・肥料製品を展開している。海外では、米国において、大豆向け種子処理用殺虫殺菌剤と果樹・野菜・トウモロコシなどに適用できる殺ダニ新規製剤を上市し、さらに土壌センチュウ防除用の微生物農薬の開発を推進している。エジプト、韓国では果樹・野菜用殺菌剤の新規登録を取得した。また、ブラジルでは農薬などの農業関連製品の効力評価、開発、分析を行う研究開発拠点を平成28年度に開設することを決定し、用地取得・設計に着手した。シンガポールではシンガポール農食品獣医庁と共同で、都市型農業の研究開発プロジェクトを開始した。また、米国子会社ベーラント・バイオサイエンス社と当社との間で、バイオラショナル(天然物由来などの微生物農薬、生物成長調整剤、微生物農業資材など)と化学農薬の海外全般を対象とした開発、マーケティング、事業企画、研究、農薬登録の各機能を統合した事業運営体制を開始した。さらに、現在資本提携している豪州農薬会社ニューファーム社とは混合剤新製品の商業化に向けた開発に取り組んでいる。生活環境事業については、家庭用殺虫剤・業務用殺虫剤・動物用殺虫剤・ヒューマンヘルスケア・エアプロテクション・熱帯感染症剤の各重点分野における新製品開発を推進している。エアプロテクション分野については静電噴霧技術を用いた業務用芳香消臭剤の新製品を上市し、新規市場の開発を加速している。熱帯感染症分野については、アフリカ諸国で上市したピレスロイド抵抗性媒介蚊に有効なマラリア対策用防虫蚊帳の普及と販売推進を行っている。また、熱帯感染症に対する総合防除に係る製品強化のため、新しいコンセプトのピレスロイド抵抗性対策蚊帳、さらに室内残留散布剤や幼虫防除剤などの蚊帳以外の防除手段の開発も推進している。アニマルニュートリション事業においては、引き続きマレーシアのアニマルニュートリションテクノロジーセンターにて新規商材開発を推進している。また、メチオニンについて中米地域の主要国に新規登録を実施し、販売を開始した。医薬化学品事業では、ジェネリック原薬の製法開発と商用生産に注力するとともに、原薬・中間体の受託製造案件の獲得に積極的に取り組んでいる。また、新規分野である核酸医薬原薬の製造については、平成28年度中のGMP(Good Manufacturing Practice)生産開始を目指し、製造のスケールアップおよび品質管理体制の整備を進めている。 なお、健康・農業関連事業部門の研究開発費は268億円であった。 医薬品分野では、自社研究、技術導入、ベンチャーやアカデミアとの共同研究等あらゆる方法で、最先端の技術を 取り入れて、研究開発活動に取り組んでおり、精神神経領域とがん領域を重点領域とし、革新的な医薬品の創製を目指している。さらに、治療薬のない疾患分野や再生医療・細胞医薬といった新規分野において、世界に先駆けて事業展開を図っていく。当連結会計年度においては、大日本住友製薬株式会社、日本メジフィジックス株式会社保有の先端技術を活かした創薬研究等を進めるとともに、国内外の大学を含む研究機関等とのアライアンスも積極的に進めている。 研究初期段階では、ゲノミクス、プロテオミクス、メタボロミクス等に関する自社保有の先端技術等の活用により研究効率の向上に取り組むとともに、iPS細胞等の最先端サイエンスを創薬や再生医療・細胞医薬に応用する取組を進めている。また、京都大学iPS細胞研究所と難治性希少疾患の治療薬の創製を目指した共同研究を推進中であり、産官学連携プロジェクトである「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」にも積極的に参加している。 研究後期および開発段階では、研究重点領域および新規分野を中心に他の領域も含めて、グローバルな視点からグループ全体でのポートフォリオの最適化を行っている。加えて、製品価値の最大化を目指した剤形展開等の製品ライフサイクルマネジメントにも積極的に取り組んでいる。 精神神経領域では、次の進展があった。①「アプティオム」について、米国において平成27年8月に、部分てんかん発作の単剤療法を適応とした追加承認を取得した。②ルラシドン塩酸塩について、日本において統合失調症を対象とした新規第Ⅲ相臨床試験を開始し、中国において平成27年12月に、統合失調症を対象とした承認申請を行った。③dasotraline(開発コード:SEP-225289)について、米国において、注意欠如・多動症(ADHD)を対象とした第Ⅲ相臨床試験を進めており、これに加えて、過食性障害(BED)を対象とした第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験を開始した。 がん領域では、次の進展があった。①napabucasin(開発コード:BBI608)について、米国等において、胃または食道胃接合部腺がんを対象とした併用での国際共同第Ⅲ相臨床試験を進めており、これに加えて、米国において、結腸直腸がんを対象とした併用での国際共同第Ⅲ相臨床試験を開始した。また、日本において、悪性胸膜中皮腫を対象とした第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験の第Ⅱ相段階を開始した。②Amcasertib(開発コード:BBI503)について、米国において、卵巣がんを対象とした第Ⅱ相臨床試験を開始した。③DSP-7888について、日本において、骨髄異形成症候群(MDS)を対象とした第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験の第Ⅱ相段階を開始した。 再生医療・細胞医薬の領域では、大日本住友製薬株式会社と株式会社ヘリオスとの合弁会社である株式会社サイレジェンが、商用を視野に入れた網膜色素上皮細胞の製法検討を開始し、大日本住友製薬株式会社において、新規細胞生産設備の設置に向けた準備を進めている。細胞医薬について、米国において、サンバイオ・インクと共同でSB623について慢性期脳梗塞を対象とした後期第Ⅱ相臨床試験を開始した。 当社グループは、開発品の導入および研究提携にも積極的に取り組んでおり、国内の研究機関および研究者を対象に、当社グループの創薬研究ニーズと合致するアイデアを募集する公募型オープンイノベーション活動「PRISM」を開始した。 放射性医薬品では、平成15年度にライセンス導入した新規がん診断用PET製剤で開発が進捗し、平成25年度にライセンス導入したアルツハイマー診断剤も、医薬品としての製造販売承認申請に向けて準備を進めている。また、RI治療事業の増強のため、小線源治療用医療機器の品目拡充を図り、海外から新製品2品目を導入し、平成27年度に承認を取得した。 なお、医薬品部門の研究開発費は837億円であった。 全社共通およびその他の研究分野では、上記5事業分野の事業領域を外縁部へ積極拡大するための研究およびマテリアルズ・インフォマティクス等の計算機科学をはじめとする共通基盤技術開発とともに、既存事業の枠に属さない新規事業分野への展開を図るべく、環境・エネルギー、ICT、ライフサイエンスの各分野で研究開発に取り組んでいる。当連結会計年度においては、次の進展があった。ICT分野では、ディスプレイ用途において、引き続き高分子有機EL材料の性能向上に取り組むとともに、想定パネル生産プロセスにおける性能具現化の検討を行った。さらに、プリンテッド・エレクトロニクス技術を使った有機半導体の開発や、有機成分と無機成分をナノレベル・分子レベルで機能設計することにより、これまでにない機能を有する材料を生み出す技術の開発を進めている。環境・エネルギー分野では、高分子有機EL照明において、フレキシブルな基板を用いた一般照明パネルの開発を進めた。今後は当該パネルの事業化に向け、パネル性能の確保、生産プロセスの確立に取り組む。また、膜分離法によるCO2分離技術では、実際のプラント稼働下での実証試験で良好な結果が得られた。ライフサイエンス分野では、培養細胞を用いた、生体を使わない化学品安全性評価システムの構築に取り組んでいる。 なお、全社共通部門の研究開発費は145億円であった。 このように、事業拡大および競争力強化を図るべく、新製品・新技術の研究開発および既存製品の高機能化・既存技術の一層の向上に取り組み、各事業分野において着実に成果を挙げつつある。