研究開発費(時系列)
| 年度 | R&D費用(億円) | 設備投資(億円) |
|---|---|---|
| 2025-03 | - | 6,789 |
| 2024-03 | - | 7,493 |
| 2023-03 | - | 6,275 |
| 2022-03 | - | 6,765 |
| 2021-03 | - | 5,883 |
研究開発活動(本文)
FY2025|4,707 文字
6【研究開発活動】 当社グループは、「サテライトグロース戦略」を推進しております。同戦略は5G通信、データドリブン、生成AIをコア領域とし、コアを取り巻く複数の事業領域をサテライトとして位置づけ、それらの拡大を図ることを目指しています。当社の成長を牽引する事業領域(Orbit1)として、デジタルトランスフォーメーション、エネルギーなどを掲げており、新たな成長に挑戦する事業領域(Orbit2)として、モビリティ、宇宙などを設定しています。当社グループは、これらの領域に対して、必要な技術の研究開発を推進しており、特にコア領域の研究開発を積極的に取り組んでおります。また、2024年4月、先端技術領域における研究開発の戦略策定や事業モデルの推進を担う「先端技術統括本部」を新設し、先端技術によるコア領域、Orbit1領域、Orbit2領域のさらなる事業化を推進するとともに、次世代における事業の萌芽を見出すための研究開発活動も進めております。以下、各領域に対する研究開発活動のトピックスをご紹介します。 (1)コア領域に対応した研究開発活動 当社グループでは、5G通信の次世代に位置づけられるBeyond 5G/6Gについて、その特長を踏まえた研究開発を続けております。以下に例を示します。・Beyond 5G/6Gでは、高速で大容量の通信に適した電波であるミリ波帯(28GHz帯)の活用が必要不可欠とされています。ミリ波帯は直進性が強くビルや樹木等の影響を受けやすく、連続的な通信エリアの実現には多数の基地局やアンテナを必要とします。そこで2024年12月に京セラ株式会社と共同で、ミリ波の通信エリアを効率的に拡張する無線中継技術の開発に世界で初めて成功し、西新宿ビル街で実施した性能試験において、道路のミリ波カバー率を33%から99%に拡大できることを確認しました。また2025年2月に、株式会社ジャパンディスプレイと共同で、電波の反射方向・範囲を変更できる可搬型ミリ波用液晶メタサーフェス反射板を開発し、ミリ波の電波が届きにくいビル間にピンポイントに電波を反射させてエリア化することに成功しました。・AI技術の普及と利用拡大に伴うデータトラフィックの増大に対し、バックボーンネットワークの柔軟な容量拡張を実現するクラスタ型ルーターについて、商用バックボーンネットワークへの適用に向けた技術検証を進め、2025年2月に完了しました。・2025年3月に、Samsung Electronicsと、将来の無線通信におけるAI技術に関する共同研究の覚書を締結しました。複数の無線局が連携してカバレッジ境界エリアでの通信品質を高めネットワーク全域で高い通信品質を提供する分散MIMOシステムにおいて、設計・運用に用いるAI技術の確立を目指します。 また、データドリブン、生成AIについても様々な取り組みを進めております。以下に例を示します。・2024年4月に、経済産業省「クラウドプログラム」の供給確保計画に認定されました。これを受けて、生成AI開発のための大規模計算基盤整備を開始し、1,000億円規模の投資を行い、国内最高性能の大規模言語モデル(LLM)(※1)や領域特化型LLMの開発を加速していきます。・アルティウスリンク株式会社及び株式会社ELYZAと、コンタクトセンター業務特化型LLMアプリケーションを開発し、2024年9月から、アルティウスリンクのコンタクトセンター向けサービス「Altius ONE for Support」の標準機能として提供を開始しました。応対内容要約・回答メール草案生成などの業務を効率化し、業務負荷軽減やサービス品質向上に貢献します。・2025年2月に、AIとの対話から運用者の要求に応じたネットワークを構築・設定・管理するシステムを開発し、当社ネットワーク運用を想定した実証に成功しました。運用者の作業負荷軽減やヒューマンエラー回避を実現し、迅速かつ効率的なネットワーク管理が可能になります。・2024年7月に、国立研究開発法人情報通信研究機構とLLMに関する共同研究を開始しました。LLMを活用する上で課題となるハルシネーション(※2)の抑制やマルチモーダル(※3)データの取り扱いを可能にする技術について、研究開発を行います。また、2024年9月に、学校法人慶應義塾を中心に設立された「慶應AIセンター」に参画しました。本センターは、慶應義塾大学、米カーネギーメロン大学及び参画メンバー企業が連携して次世代AI技術の創造に貢献する共同研究機関です。本センターへの参画を通じて、自律的に振る舞う次世代AIの開発に取り組みます。・2025年3月に、LLMを利用してAIのセキュリティに関する情報を分類し、一元化して発信するポータルサイト「AIセキュリティポータル」を公開しました。本サイトでは、AIのセキュリティに関する情報が体系的に整理されており、利用者は最新情報を得ることが可能になります。 (2)Orbit1及びOrbit2領域に対応した研究開発活動 当社グループでは、「サテライトグロース戦略」において定義した各事業領域の強化と拡大を目指し、必要な研究開発を進めています。以下に例を示します。・DX領域では、当社の技術力を活かして企業や自治体におけるDX実現を加速する取り組みを進めています。 例えば2024年8月に、清水建設株式会社と共同で、同社が建設中の北海道新幹線トンネル建設現場から、Starlinkによるau通信エリア構築ソリューション「Satellite Mobile Link」を活用した3D点群データ(※4)のリアルタイム伝送実証に成功しました。本実証で検証した技術を活用することで、施工進捗や壁面のずれ・亀裂などの異常を遠隔からリアルタイムで確認でき、建設現場の定期巡回や施工管理にかかる時間を大幅に短縮することが可能になります。・エネルギー領域では、企業などの脱炭素化の支援と合わせて当社自身の脱炭素化を推進しています。 例えば2025年1月に、新規に開発した基地局附帯電源設備「Open Power Station」に対する、ドローンからのワイヤレス充電及び基地局に設置した自家発電設備(太陽光発電機器等)からの充電について、検証を開始しました。自家発電やドローンを活用して基地局への電力供給を可能とすることで、災害対応力の向上及び環境負荷の低減を図ります。また2025年3月に、「ペロブスカイト太陽電池を基地局で活用した実証実験を実施」の取り組みで、「第33回地球環境大賞 総務大臣賞」を受賞しました。本取り組みは、次世代の太陽電池として期待されるペロブスカイト太陽電池(※5)を電柱型の基地局に設置し、太陽光発電の効率向上や有用性を検証する実証実験です。基地局に設置された円柱状の発電ポールにペロブスカイト太陽電池を巻き付けることで、限られた敷地面積の基地局でも太陽光発電が可能となります。・モビリティ領域では、災害対策や人手不足などの社会課題の解決に資する最新技術を早期に実用化するため、関係機関と連携した技術実証を積極的に進めています。例えば2024年12月に、石川県、石川県警察、株式会社ローソンと、ローソン店舗の屋根に設置したAIドローンを用いた「地域防災コンビニ」の実証に成功しました。本実証では、AI制御により障害物を自動回避しながら安全に自律飛行が可能なドローンを、行方不明者捜索現場や交通事故現場と見立てた場所まで飛行させ、AIドローンのカメラ映像を通じて遠隔で初動対応を行い、警察活動への活用の可能性を確認しました。また2024年6月に、アイサンテクノロジー株式会社・株式会社ティアフォーと、位置情報の定義が異なるモビリティ(自動配送ロボット・自動運転車・ドローン)を連携させた協調配送実証に、国内で初めて成功しました。今後、建物内や都心ビルへの配送は自動配送ロボット、都市部からの大規模な配送は自動運転車、陸上からの輸送が困難な地域ではドローンで配送を行うといった、モビリティを組み合わせた全自動荷物配送サービスの社会実装を目指します。・宇宙領域では、パートナー企業との宇宙での事業共創に取り組んでいます。 例えば2024年5月に、スタートアップと大企業による、宇宙を活用して地球上の課題解決を目指す共創プログラム「MUGENLABO UNIVERSE」を開始しました。また2024年12月に第一弾支援として、株式会社スペースデータと株式会社ギャラクシーズによる「宇宙の物理現象をデジタル空間上に再現する技術の共同開発・事業化」を支援することを決定しました。本取り組みにより構築されるシミュレーション環境の利用者拡大、コンピュータリソースの提供、本取り組みの事業化に対する経済的支援などを実施します。 ※1 LLM:Large Language Models(大規模言語モデル)の略。大量の文章を学習し自然な文章の理解と生成を可能にする、生成AIの基盤技術※2 ハルシネーション:AIが誤った情報や無関係な内容を事実のように出力する現象※3 マルチモーダル:テキスト、画像、音声、動画など、複数の異なる形式のデータを同時に処理・分析する技術※4 3D点群データ:レーザースキャナーなどで物体や地形を計測し、その情報を3次元空間上の無数の点の集合体として表現したデータ※5 ペロブスカイト太陽電池:ペロブスカイト構造と呼ばれる結晶構造を持つ化合物を用いた次世代の太陽電池。「薄い・軽い・曲げやすい」という特長がある (3)次世代の萌芽となる事業に対応した研究開発活動 当社グループでは、将来の事業展開や持続的な成長を見据えた研究開発に取り組んでおります。以下に例を示します。・2025年2月に、同社、株式会社Jij及び学校法人早稲田大学と、量子コンピューターの技術開発と事業化に関するパートナーシップ締結に合意しました。今後、AIと量子計算をシームレスにつなぐAI・量子共通ビジネスプラットフォームを開発するとともに、このプラットフォームを活用したユースケースの開拓を進めます。・量子コンピューターの登場で、現在使用されている暗号が短時間で解読されることが懸念されています。そこで、量子コンピューターに耐性を持つ暗号方式(耐量子暗号)について、研究開発を進めています。耐量子暗号の安全性を検証するため、2024年6月に耐量子暗号の解読に関するコンテストで世界記録を達成し、耐量子暗号を量子コンピューターで解く場合は10億年程度が必要であることを確認しました。・量子コンピューターの登場による暗号の安全性への懸念を受けて、暗号鍵の盗聴が不可能な通信方式である量子鍵配送方式(QKD方式)が注目されています。QKD方式は微弱な光を用いるため専用の光ファイバーが必要ですが、東芝デジタルソリューションズ株式会社と、QKD方式の暗号鍵と大容量データを光ファイバー1心で多重伝送する技術を開発し、2025年3月に、QKD方式の暗号鍵と33.4Tbpsの大容量データ信号を80km伝送することに世界で初めて成功しました。 これらの活動を通じて当連結会計年度における研究開発費の総額は、37,333百万円となりました。なお、当社グループにおける研究開発活動は各セグメントに共通するものであり、各セグメントに関連づけて記載しておりません。
FY2024|3,642 文字
6【研究開発活動】 当社グループは2024年5月、新サテライトグロース戦略を発表しました。同戦略は5G通信、データドリブン、生成AIをコア領域とし、コアを取り巻くサテライトとして複数のビジネス領域を掲げ、それらの拡大を図ることを目指します。ビジネス領域として、お客さまのライフスタイルを変革するLX(ライフトランスフォーメーション)につながる領域をモビリティ、宇宙、ヘルスケアなどと定めております。これらのコア、LXの各領域に対し、必要となる技術の研究開発を進めてきており、これらの活動を通じて当連結会計年度における研究開発費の総額は、27,721百万円となりました。なお、当社グループにおける研究開発活動は各セグメントに共通するものであり、各セグメントに関連づけて記載しておりません。 以下、コア、LXの各領域に対する研究開発活動のトピックスをご紹介します。 1.コア領域(5G通信、データドリブン、生成AI) 当社グループでは、5G通信の次の世代に位置づけられるBeyond 5G/6Gについて、その特長を踏まえ、研究開発を続けております。以下に例を示します:・Beyond 5G/6G時代のネットワークインフラとしてオール光ネットワークが注目されており、光ファイバーの高度化も重要となります。その一環で、2023年10月、住友電気工業株式会社、古河電気工業株式会社およびOFS Laboratories, LLCと共同で、伝送帯域幅115.2テラヘルツの超広帯域伝送実証(従来のC帯に比べて約24倍)に成功しております。同実証は標準と同径の光ファイバーの中に12個の独立したコアを高密度に配置した非結合12コア光ファイバーと広帯域なO帯(※1)光ファイバー増幅器を組み合わせた点が特長です。・Beyond 5G/6Gでは毎秒100ギガビット超の通信速度を目標に研究開発が進められております。また、Beyond 5G/6G時代には量子コンピューティングの隆盛が予想されています。以上を踏まえ、必要とされる通信速度と同等以上の処理性能をもつ耐量子暗号アルゴリズムが期待されております。これに対し、2023年9月、兵庫県立大学と超高速共通鍵暗号アルゴリズム「Rocca-S」を共同開発しました。同暗号アルゴリズムでは、256ビット鍵長により安全性を確保できるのに加え、前述の通信速度を大幅に超える毎秒2テラビットの処理性能を達成しております。・2023年5月には、従来の方式を拡張したセルフリー方式(※2)によるエリアを構築し、端末がエリア内のどの場所に移動しても基地局が連携して通信速度を確保し続けることで、お客さまに安定した通信を継続的に提供する実証実験に成功しております。・当社の電力使用料のうち約98%が携帯電話基地局などで使用する電気に起因しており、その省電力化が重要な課題となっています。そこで、2024年2月より、曲がる太陽電池「ペロブスカイト型」を活用した基地局への電力供給実証を国内で初めて開始しております。電柱型基地局のポールに巻き付けることで、敷地面積が少ない基地局でも太陽光発電が可能になり、再生可能エネルギーの導入が進むことが期待されます。CO2排出量実質ゼロの「サステナブル基地局」の拡大により通信インフラの環境負荷を削減し、地球温暖化の防止に貢献します。 一方、データドリブン、生成AIの領域についても様々な取り組みを進めております。以下に例を示します:・2024年3月、大規模言語モデルの社会実装を進める株式会社ELYZAを連結子会社化することを発表しました。同社の持つ国内トップクラスの大規模言語モデルの研究開発力と当社グループの計算基盤、ネットワーク資源などのアセットを組み合わせ、生成AIのさらなる研究開発および社会実装を加速させていきます。・2023年7月には、従来の深層学習モデルで長期間運用する際に課題となる破滅的忘却(※3)を解決し、かつ既存手法の性能を超えることを達成しました。イリノイ大学シカゴ校との共同研究で、継続学習に関する論文「Parameter-Level Soft-Masking for Continual Learning」が、AI分野の最難関国際学術会議である「ICML2023」に採録されました。この内容をもとに、AIが自律的に環境変化に適応して成長する「成長可能AI」の技術確立に向けた取り組みを進めています。※1 O帯、C帯:光ファイバーで光通信を行う際に使用される波長帯域の一種。O帯は1260~1360nm、C帯は1530~1565nmの波長範囲を指す。※2 セルフリー方式:端末が特定の基地局やセルに依存せず通信を行う方式。※3 破滅的忘却:新たな情報を学習した後に、以前覚えていた情報を忘れる現象。 2.LX領域(モビリティ、宇宙、ヘルスケア、スポーツ・エンタメ等) 当社グループでは、LXとして定義した各事業領域の拡大を目指し、必要となる技術の研究開発を進めています。以下に例を示します:・モビリティ領域では、先進技術を用いたデジタル化と自動化により、様々な分野の社会課題解決に取り組んでいます。例えば、2024年2月、「つながるモビリティ社会に向けた取り組み説明会」を実施しました。トヨタ自動車株式会社と連携し、安全・安心なモビリティ社会の実現に向けた取り組みとして、人流および車両のビッグデータと、過去の事故情報などのオープンデータをAI分析し危険地点を見える化するソリューション(危険地点スコアリング)の提供開始などについて説明しました。2024年3月、水空合体ドローンを用いて、遠隔での橋脚水中点検に成功しました。精密な位置情報の取得を可能にする音響測位装置により、衛星利用測位システム(GPS)が使えない水中環境でも安定した操作を実現しております。タブレット1つで、空中・水上・水中カメラの映像・情報を確認できるようになり、少人数で効率的な点検が可能になります。・宇宙領域では、地上での移動体通信を低軌道-静止軌道衛星間、さらには月面通信に拡張すべく検討を進めております。例えば、2023年10月、国立大学法人京都大学と共同で、フォトニック結晶レーザー(※4)を使った低軌道-静止軌道衛星間向け光通信方式の実証に成功しました。低軌道―静止軌道衛星間(約3万6,000km)に相当する距離で通信ができるようになります。また、アルテミス計画(※5)における月面探索活動では、高速大容量な通信環境の構築が求められています。そのような環境を無人で構築するため、2023年12月、GITAI USA Inc.と共同で、ロボットによる基地局アンテナ設置に成功しております。本実証を通じて得た知見を基に月面探査活動を支援してまいります。・ヘルスケア領域では、スマホやインターネット依存症、ゲーム行動症といった現代社会で増えつつある社会課題解決に取り組んでいます。具体的には、2023年10月、東京医科歯科大学と共同で「サイバー精神医学講座」を開設しました。本講座では、スマホ・ネット依存やゲーム行動症の実態解明、診断や治療を支援するシステム(プログラム医療機器)の検証を行っており、社会の健康促進に貢献します。・スポーツ・エンタメ領域では、現実世界の物体や状況をデジタル上にリアルタイムで再現する「デジタルツイン」技術を活用し、コンテンツの魅力化を目指しています。例えば、2023年10月、モバイル回線で伝送可能なデータ量に圧縮した動的な三次元メッシュデータを、高品質のままスマートフォンでリアルタイムに視聴できる技術を開発しました。スマートフォンでのリアルタイム視聴を可能にする技術は、新たなコンテンツやサービスを生み出す可能性を広げます。また、力の感覚を支援する小型・薄型の「力触覚提示技術」を開発し、本技術搭載の卓球ラケット型力触覚提示デバイスを2023年10月に公開しました。本デバイスはカメラなどで感知した人物の位置や姿勢、デバイスの状態をリアルタイムに解析し、適切な方向に動かすことで、プレイヤーの腕の動きを支援します。言葉では理解しにくい力加減や動作タイミングなどを直感的に伝えることで、スポーツにおける直感的な情報共有に加え、高齢者や障がい者の生活支援など、人間の動作支援や能力強化に役立てます。※4 フォトニック結晶レーザー:フォトニック結晶と呼ばれる人工的な光ナノ構造を平面状に配置した、2次元フォトニック結晶を有する半導体レーザー。通常の半導体レーザーと比較して、大面積で単一モード発振するため、高出力で狭い拡がり角のビームが得られる。※5 アルテミス計画:米国が提案している国際宇宙探査計画で、有人月面着陸、および将来的な有人火星着陸を目指すと発表し、日本政府も参画を表明している。
FY2023|3,637 文字
6【研究開発活動】 当社グループは、2030年頃に開始が予定されている次世代通信システムBeyond 5G/6Gを見据え、先端技術の研究開発を推進してきました。また、2030年頃の新しいライフスタイル実現に向け、ライフスタイルのトランスフォームにつながる技術をLife Transformation(LX)テクノロジーと銘打ち、あわせて研究開発を推進してきました。こうした活動を通して、当連結会計年度における研究開発費の総額は、26,373百万円となりました。なお、当社グループにおける研究開発活動は各セグメントに共通するものであり、各セグメントに関連づけて記載しておりません。 以下、Beyond 5G/6G時代に向けた先端技術として、ネットワーク、セキュリティ、AI及びXRの各分野の主なトピックスをご紹介します。また、LXテクノロジーに関する主なトピックスをあわせてご紹介します。 1.ネットワーク あらゆる場所でお客さま一人ひとりに応じた最適な通信を提供するため、Beyond 5G/6G時代のネットワークに資する技術として、無線通信技術、光通信技術の研究開発を進めております。 例えば、2022年5月には、「Cell-Free massive MIMO技術(注1)」において、局舎に分散配置された基地局の無線信号処理機能(CPU)を連携させ、干渉抑制効果と無線信号処理の計算量の削減を両立する「CPU間連携技術」を考案し、同技術を用いたエンド・ツー・エンド通信の実証実験に成功しました。 また、同月、名古屋工業大学と共に、テラヘルツ帯で電波の放射方向を変更できる、高利得なマルチビームレンズアンテナと、小型な平面型マルチビームアンテナの開発に世界で初めて成功しました。 さらに、同月、京都大学大学院工学研究科と共に、フォトニック結晶レーザーを用いた高出力自由空間光通信の実証に世界で初めて成功し、宇宙空間での利用を目指しております。(注1)複数の基地局アンテナを連携させ、個々のお客さまに対する無線信号の品質を最適化する基地局構成技術。 2.セキュリティ Beyond 5G/6G時代の安心・安全を実現するため、AIへの攻撃に対応する技術の研究開発を推進しています。 例えば、2022年12月には、深層学習による自然言語処理に対する代表的な脅威のひとつである敵対的テキスト攻撃(注2)への対策技術を提案し、自然言語処理分野の最難関国際学会「Findings of EMNLP 2022(The 2022 Conference on Empirical Methods in Natural Language Processing)」で発表しました。 また、AIに対する代表的な脅威のひとつである敵対的サンプル攻撃(注3)に着目して、AIを利用した動画の圧縮符号化へ与える影響を体系的に評価し、セキュリティ分野の最難関国際学会である「NDSS(The Network and Distributed System Security) 2023」に採択されています。(注2)文章に対し、人間が気づきにくい変更(単語の置き換え等)を加えることで、AIに誤分類を引き起こす攻撃。敵対的テキスト攻撃に利用される文章を敵対的テキストという。(注3)人間には分からないようなわずかなノイズを加えた画像により、AIに誤分類を引き起こす攻撃。 3.AI Beyond 5G/6G時代にサイバー空間と現実空間(フィジカル空間)の融合が進むことを想定し、現実空間特有の課題解決を行う「フィジカル空間指向AI」の研究開発を行っています。2022年4月には、KDDI総合研究所内にHuman-Centered AI研究所を設立し、人とAIが共生し、インタラクションを通じて共に成長する技術の研究開発を推進しております。 同研究所の成果として、同年4月、スタンフォード大学Jure Leskovec准教授の研究グループと共に、画像情報と人の共通概念を融合することでより確からしい答えとその判断根拠を導き出す手法を開発し、「視覚情報に基づいた常識推論(Visual Commonsense Reasoning)」タスクで世界1位の精度を達成しました。 また、同年9月、AI・データマイニング分野の難関国際会議「ECML PKDD(European Conference on Machine Learning and Principles and Practice of Knowledge Discovery in Databases)2022」が主催する国際コンペティション「Lung Cancer Survival Prediction Challenge」における、実データ特有のデータ欠損という課題に対し、正解のデータや余命情報を統計的に仮定し高精度な予測を実現することで、同コンペティションに優勝しました。 4.XR XRは、サイバー空間と現実空間を融合させた結果を人間の知覚にフィードバックする技術の総称です。当社グループは、Beyond 5G/6G時代のコミュニケーションスタイルに変革をもたらす本分野の研究開発を行っています。 例えば、2022年11月には、大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所と共に、昭和基地と国立極地研究所立川キャンパスを結ぶ衛星通信回線(最大7Mbps)を利用し、南極域としては世界で初めて8K映像のリアルタイム伝送に成功しました。 また、2023年1月に、三次元点群圧縮技術(注4)の最新の国際標準方式であるPCC(Point Cloud Compression)に対応したリアルタイムコーデックを用いた伝送実験に世界で初めて成功しました。加えて、現実空間の人が発する音の向きや動きを、仮想空間でも遜色なく体感できる音場のインタラクティブ合成技術を開発しました。このように、三次元空間情報のハンドリングについても研究開発を推進しています。(注4)三次元物体を点の位置と色の集合で表現するデータ形式を、点群と呼ぶ。高精細な三次元データである点群を用いた臨場感のあるコンテンツは、データ量が1Gbpsなど非常に大きくなるため、伝送するには圧縮技術が不可欠。 5.LXテクノロジー 「ロボティクス」「モビリティ(含ドローン)」「ヘルスケア」など、様々な分野で生活者目線に立ち、ライフスタイルを変革に導く研究開発を推進しています。 ● ロボティクス:ロボットの活用により日本の労働力不足の解消に貢献するため、様々な取り組みを進めております。例えば、2022年11月、クラウド上でメーカーや用途を問わず多様なロボットを一元管理する「ロボットプラットフォーム」の実証を開始しました。これにより、管理者の負担が軽減され、円滑なロボット運行が可能になります。 ● モビリティ(含ドローン):点検業務などの作業負荷、地域による移動・物流格差および災害時の緊急物資輸送などの課題を解消するため、ドローンを含むモビリティ技術の検討を進めております。例えば、2022年6月、三重県鳥羽市と、水上ドローンを活用しブルーカーボン(注5)算定に必要な藻場調査の実証実験を行いました。鳥羽市で海草や海藻の分布面積調査を実施する場合、従来はダイバーによる潜水目視を行っていますが、これらを水上ドローンにより効率的に行うことを目指したものです。なお、本取り組みは第31回地球環境大賞 総務大臣賞を受賞しております。また、2023年3月、自動運転車からドローンが離着陸し、ラストワンマイルの物流を担うという実証を、アイサンテクノロジーと共に長野県塩尻市の中山間地域で実施しました。移動する自動運転車の位置に合わせてドローンが離着陸することに、日本で初めて成功しました。(注5)海草や海藻、植物プランクトンなど、海洋生物の作用によって海中に取り込まれる炭素。 ● ヘルスケア:人生100年時代における健康的な生活の支援に向け、パートナー様との連携やデータの活用を通じて健康寿命の延伸を目指しています。例えば、2022年11月から、当社が開発する健康アプリ「ポケットヘルスケア」とApple Watchを組み合わせて、不整脈の一種である心房細動の早期発見を目指す実証研究を開始しました。また、2023年2月、岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構、慶應義塾大学医学部と共に、今回初めて日本人の血液のエピゲノム(注6)情報から年齢を推定する手法を開発しました。その成果は国際科学雑誌 The Lancet Healthy Longevity誌に2023年2月1日付(オンライン公開)で掲載されました。(注6)ゲノムに加えられた修飾のことで、後天的に変化するもの。
FY2022|4,583 文字
5【研究開発活動】 当社グループは、2030年頃に開始が予定されている次世代通信システムBeyond 5G/6Gを見据え、先端技術の研究開発を推進してきました。また、2030年頃に向け、ライフスタイルのトランスフォームにつながる研究開発をLife Transformation(LX)テクノロジーと銘打ち、研究開発をあわせて推進してきました。こうした活動を通して、当連結会計年度における研究開発費の総額は、25,081百万円となりました。なお、当社グループにおける研究開発活動は各セグメントに共通するものであり、各セグメントに関連づけて記載しておりません。 以下、Beyond 5G/6G時代に向けた先端技術として、ネットワーク、セキュリティ、AI及びxRの各分野の主なトピックスをご紹介します。また、LXテクノロジーに関する主なトピックスをあわせてご紹介します。 1.ネットワーク お客さま一人ひとりに応じた最適な通信を提供するためのBeyond 5G/6G時代のネットワークに資する技術として、光ファイバ通信技術、無線通信技術等の取り組みを進めております。 例えば、2021年7月には、光ファイバ中で生じる四光波混合現象(注)を利用して、光ファイバに入力した光信号成分を伝送後に9倍向上させる新たな伝送方式を発明し、その実証に成功しました。本方式は従来の伝送方式と比べて約3倍伝送容量を大きくすることができる画期的な発明であり、Beyond 5G/6Gネットワークを支える光ファイバ通信の伝送容量拡大に向けた基礎技術として今後の活用が期待されるものです。 また、2021年9月には、お客さま一人ひとりのニーズに応える無線ネットワーク展開技術の実証に成功しました。多数の基地局を少ない光ファイバで効率よく収容可能な光ファイバ無線技術「Intermediate Frequency over Fiber(IFoF)」と複数の基地局アンテナを連携させ個々のお客さまに対する無線信号の品質を最適化する基地局構成技術「Cell-Free massive MIMO」を組み合わせたもので、実証の成功は世界で初めてとなります。IFoF方式は、無線信号をデジタル化せずアナログ波形のまま伝送する方式であり、デジタル化に伴うモバイルフロントホール区間の大容量化の課題を解消することができるとともに、複数のアンテナ向けの無線信号を1本の光ファイバに集約してアンテナ付近まで伝送することで、必要とする光ファイバの長さや数を大きく削減することが期待されています。また、アナログ波形伝送では無線信号処理を集約局側に集中することで基地局アンテナ処理を軽減できることから、多数のアンテナの分散設置が必要なCell-Free massive MIMOにおけるアンテナ側装置の省電力化に寄与することも期待されています。 また、2021年10月には、株式会社ジャパンディスプレイと共同で、電波の反射方向を任意方向に変えられる28GHz帯液晶メタサーフェス反射板の開発に世界で初めて成功しました。これにより、超高速・大容量なサービスエリアを、周辺の電波環境の変化にあわせて拡張することが可能となり、お客さまの利便性の向上が期待されます。 (注)四光波混合現象:物質に光を入射した際、入射光の周波数とは異なる周波数の光が発生する現象である非線形光学効果の一種であり、2つの光波から周波数の異なる周波数が2つ発生し、計4光波となる現象 2.セキュリティ Beyond 5G/6G時代及び量子コンピュータ時代の安心・安全を実現するため、新しい暗号アルゴリズムの研究開発を推進するとともに、その安全性に対する国際的なコンセンサスを得るために耐量子暗号を対象とする国際暗号解読コンテストに参加しています。 前者に関しては、2021年11月に、公立大学法人兵庫県立大学と共にBeyond 5G/6G時代に求められる処理性能と安全性を備えた新しい超高速共通鍵暗号アルゴリズム「Rocca」を開発しました。「Rocca」は逐次データの暗号化・復号を行うストリーム暗号であり、Beyond 5G/6Gが目標としている100Gbps超のストリームに対応するとともに、量子コンピュータによる解読への耐性を持たせるために256ビットの鍵長を具備しています。 一方、後者に関しては、仏国立情報学自動制御研究所(INRIA)による暗号解読コンテストにおいて、2021年9月に510次元のシンドローム復号問題を約593時間で解読し、世界記録を更新しました。更に、2022年2月には540次元のシンドローム符号暗号を79日で解読し、世界記録を再度更新しました。 3.AI Beyond 5G/6G時代にサイバー空間と現実世界(フィジカル空間)の融合が進むことを想定し、現実空間特有の課題解決を行う「フィジカル空間指向AI」の研究開発を行うとともに、そのようなAIを安心して使えるようにするための「信頼できるAI」に関する取り組みを行っています。 前者の一環として、人流データとSNSデータの異なる2つのビッグデータから現実世界で起きたイベントを抽出する技術の研究論文が、モバイル・ユビキタス分野の国際会議Mobiquitous 2021にてBest Paper Awardを受賞しました。全く異なる2種のビッグデータを同時に解析し、人流データで検知された異常密集と、その原因に関連してTwitterに投稿された内容を自動的に紐づける手法を提案し、その有効性を被験者実験により評価したものです。これにより、災害や事故等の突発的に発生する事象について、その発生場所や規模、内容について、容易に把握できるようになるほか、将来的には影響予測への適用も期待されます。 一方、後者の一環として、2021年8月に「KDDIグループAI開発・利活用原則」を公表しました。当社グループの企業活動がAIの開発者および利用者の両方となりうることを踏まえ、開発者・利用者双方の視点の原則を整理し、国内外の各種原則を参考に両面で尊重すべき価値観を網羅的に反映したものとなっています。 4.xR xRはサイバー空間と現実世界を融合させた結果を人間の知覚にフィードバックする技術の総称です。当社グループは、Beyond 5G/6G時代のコミュニケーションスタイルに変革をもたらす本分野の技術の研究開発を行っています。 例えば、2021年4月には、最新の国際標準映像符号化方式H.266|VVC(Versatile Video Coding)に対応したリアルタイムコーデックシステムを用いた8Kライブ伝送の実証実験に成功しました。また2021年12月、ビットレート12Mビット/秒、フレームレート60フレーム/秒での4K映像伝送の実証実験に成功し、現行放送の半分以下のビットレートに圧縮しても安定した映像品質を維持できることを確認しました。 一方、2021年11月には、五感の再現・表現技術を活用したインタラクションを実現するハプティクス(触覚技術)分野の研究開発の一環として、「身振り手振り」や「あいづち」、「肩や背中をなでる」といった相手と共感や一体感を生み出す身体的コミュニケーションが可能なソファ型コミュニケーションシステム「Sync Sofa(シンクソファ)」を開発しました。「Sync Sofa」は、ソファに搭載した複数の加速度センサーならびにマイクロホンからの信号をもとに、オンライン上の相手の動作や反応を表現する複雑で微細な触感をリアルタイムに合成し、複数の振動アクチュエーターにより音と連動した形で人体の広範囲に提示することができます。さらに、自身の視点位置に応じた相手の見え方をディスプレイ上に忠実に再現します。これらの触覚・聴覚・視覚の再現により、オンライン上の相手と隣り合う感覚を提供します。 5.LXテクノロジー 「メタバース」「モビリティ(含ドローン)」「宇宙・衛星通信」「ヘルスケア」など、様々な分野で、生活者目線に立ちライフスタイルを変革に導く研究開発を推進しています。● メタバース:当社グループでは、現実世界における体験価値をxR技術等を活用しバーチャル空間に拡張することを目的とした「都市連動型メタバース」を指向しております。あらゆる場所からのバーチャルの都市への参加やアバターを活用した表現の拡張が可能となるのに加え、バーチャル空間と現実世界との連動を通じた価値の創出が期待されます。他方で、発展途上であるメタバースでは整理・議論すべき論点が多数あるため、東急株式会社、みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社、一般社団法人渋谷未来デザインらと共に「バーチャルシティコンソーシアム」を設立し、メタバースの運用・利用指針を整備したガイドラインを策定しています。● モビリティ(含ドローン):地域による移動・物流格差や災害時の緊急物資輸送などの問題を解消するため、ドローンを含むモビリティ技術の検討を進めております。例えば、愛知県春日井市、国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学と共に、愛知県春日井市高蔵寺ニュータウン地区における新モビリティサービスによる地域活性化を目的として、自動運転車による人の送迎と商品の配達を同一車両を用いて行う、貨客混載型の自動運転×MaaSの実証実験を2022年2月~3月に実施しております。人の送迎と商品の配達という配車要件の異なる移動サービスを組み合わせ、きめ細やかな停留所配置により住民の自宅近くまでの送迎・配達をオンデマンド型の自動運転で実現するという新しい試みです。また、高所や水中における作業の危険性回避等を目的とし、2021年6月、「水空合体ドローン」を世界で初めて開発しました。これまでも水中作業用ドローンは存在していますが、水上にドローンを運ぶために船に搭載するなど多くの手間がかかります。水空合体ドローンは目標の地点まで空中で水中作業用のドローンを運び、そのまま水中で作業させることが可能であるため、気軽に水中作業用ドローンを活用でき、海中の養殖場の確認や洋上設備の点検など幅広い分野での活躍が期待されます。● 宇宙・衛星通信:災害時でも問題なくつながる通信インフラを目指し、SpaceX社の衛星ブロードバンド「Starlink」と業務提携を行いました。災害時以外にもあらゆる場所で通信が可能となり、新たな体験の創出に貢献します。● ヘルスケア:当社グループでは、スマホを安心・安全に使っていただくために、2021年10月、国立大学法人東京医科歯科大学と共に、同大学のネット依存外来の患者を対象に「スマホ依存」の改善に向けた特定臨床研究を開始しました。本研究に先立ち、「スマホ依存」の実態解明を加速させるため、2020年7月から株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)と共同で、脳神経科学・AIを活用した「スマホ依存」の改善・予防と、新型コロナウイルス感染症によるライフスタイルの変化が「スマホ依存」、「ゲーム障害」などに与える影響調査に関する研究を継続して推進しております。
FY2021|3,756 文字
5【研究開発活動】 当社グループは、2020年度に「Society 5.0」の実現を5Gで加速する、2030年を見据えた次世代社会構想「KDDI Accelerate 5.0」を発表し、「KDDI Accelerate 5.0」の実現を支える7つのテクノロジーの研究開発を推進してきました。また、2030年を見据えた新たなライフスタイルを提案する調査・応用研究拠点として、「KDDI research atelier(リサーチ アトリエ)」を2020年12月17日に東京 虎ノ門に開設しました。こうした活動を通して、当連結会計年度における研究開発費の総額は、24,131百万円となりました。なお、当社グループにおける研究開発活動は各セグメントに共通するものであり、各セグメントに関連づけて記載しておりません。 「KDDI Accelerate 5.0」の実現を支える7つのテクノロジーごとに、研究開発活動の主なトピックスをご紹介します。 <KDDI Accelerate 5.0における7つのテクノロジー> 1.Network 2020年12月、大容量の無線信号を収容局からビル内まで効率よく配信する「光ファイバ無線技術」を開発し、5G最大伝送レートを上回る27Gbit/s無線信号のモバイルフロントホール伝送、およびビル内など屋内電波不感地帯向けの中継伝送技術を組み合わせた統合伝送実験に、世界で初めて成功しました。本実証実験により、大容量無線信号の効率的な配信とアンテナ設置箇所のスペース・消費電力削減が可能となり、ミリ波を用いた5Gサービスや、5Gの次世代技術であるBeyond 5G/6Gに向けた動きが加速され、これまで以上に高速無線通信サービスを快適に利用できるようになると期待されます。 5Gで利用する28GHz帯や、追加割当候補周波数39GHz帯などの高い周波数は、超高速・大容量な通信サービスを提供できる一方で、電波の直進性が強く、基地局のアンテナが見通せないビルや樹木の影などに電波が届きません。2021年1月、当社はこのようなカバレッジホールへ5Gサービスを提供するため、基地局からの電波を特定方向に反射させることができる「デュアルバンド透明メタサーフェス反射板」を世界で初めて開発しました。これにより、5Gや次世代移動通信の超高速・大容量なサービスエリアを迅速に拡張することが可能となります。 2.Security 安心して利用できる情報通信システムの構築に貢献するため、解読アルゴリズムの高速化と、より高速で安全な次世代公開鍵暗号実現に向けた研究開発を推進しています。次世代公開鍵暗号として符号暗号を利用する際、安全な次元の大きさを決定するために、解読可能な次元の限界を知ることが重要です。 当社は、2021年1月、暗号解読コンテスト「Challenges for code-based problems」において、1161次元の Syndrome Decoding in the Goppa-McEliece Setting問題を、世界で初めて解読しました。また、解読アルゴリズムの改良ならびに並列マルチスレッド環境に適した最適化を行い、解読処理を約250倍高速化しました。 3.IoT 2021年3月、交通事故や交通渋滞のない安心・安全なモビリティ社会の実現に向け、パートナー企業と自動運転への5G活用に向けた共同検証を開始しました。自動運転のためのテスト路に整備した5G通信環境と、「AWS Wavelength」による低遅延のエッジコンピューティング環境を活用し、刻々と変化する道路状況をリアルタイムに自動運転車両へ配信する仕組みの構築や、無人車両に対する遠隔からの走行支援の有効性を検証します。 4.Platform 2020年10月、国立研究開発法人産業技術総合研究所が経済産業省・国土交通省より受託した、一般路線バスひたちBRT(Bus Rapid Transit)での自動運転バスの走行実証実験に参加しました。当社は、パートナー企業と協力し自動運転車両と通信を行う路側センサーと遠隔監視装置の検証を行いました。今回の検証では、通常の路線バスのダイヤに追加して自動運転バスのダイヤを設定し運行することにより、通常の移動手段としてより多くの利用者に乗車してもらい、2022年以降の本格的な商用運行に向けた課題抽出を進めることを目指します。 5.AI 当社ではディープラーニング等を活用した画像認識、音声認識等にとどまらず、限られたデータから適切な予測を導き出し、人々の行動変容を促すところまでを視野に入れてAIの研究開発を推進しています。 2020年5月、生活習慣病の通院治療を行っている当社社員とその家族を対象に、生活習慣病の重症化予防事業の実証実験を実施しました。KDDI Open Innovation Fundの出資先であるPREVENT社と協力し、実証実験参加者の許諾を得たスマートフォンのデータを基に、日常の生活習慣の特徴分析や、生活指導の介入効果予測を行うことで、オンラインでの生活指導の高度化・効率化を確認しました。 2020年7月、スマホ依存の実態調査・解明と、2024年度中の改善・予防スマートフォンアプリの実用化を目指した研究開発を開始しました。本共同研究では、脳情報やスマートフォンの行動情報をAIで解析することによるスマホ依存の検知や、対象とする脳領域に特定の活動パターンを誘導する方法であるDecoded Neurofeedback法を活用したスマホ依存の程度軽減に取り組みます。2020年度末までに、30,000人超を対象としたスマホ依存に関する調査を実施し、スマホ依存の検知に必要な基礎情報の取得を完了しました。 2021年2月、マスクを着けている人でも、90%以上の精度でポジティブ、ニュートラル、ネガティブの表情を分析できる「顔領域適応型表情認識AI」を開発しました。マスクで顔の70%程度を隠したとしても、顔露出領域とマスク着用領域を別々に分析し総合的に客観評価して表情を認識するため、企業、教育機関、公共施設、イベント会場など、日常的にマスクを着用する場面で、人の表情を高精度に分析する新しいサービスの実現が期待されます。 6.XR 2020年9月、最新の国際標準映像符号化方式H.266|VVC(Versatile Video Coding)に対応した4Kリアルタイムエンコーダを開発しました。これにより、4Kの高精細映像をリアルタイムに、かつ現在広く使用されている映像符号化方式H.265|HEVC(High Efficiency Video Coding)に対応したエンコーダに比べ、約半分のデータ量で配信することが可能となりました。データ量が半減したことにより、これまではブロードバンド回線の利用が一般的であった4Kライブ中継において、モバイル回線を利用することが可能となりました。 2021年2月、介護施設におけるきめ細かな介護対応を実現するため、入居者の介護関連情報をARメガネに表示する「ハンズフリー介護作業支援システム」を開発し、実証実験を実施しました。この介護作業支援システムは、KDDI総合研究所が開発した顔認識技術、介護施設が開発したスマート介護プラットフォームを組み合わせて実現しています。本実証実験では、新規の入居者など職員がまだ詳細情報を把握しきれていない入居者に対して、声がけなどで適切な対応を取ることが可能となりました。 7.Robotics 2020年7月、KDDI Open Innovation Fundの出資先であるTelexistence社が開発する遠隔操作ロボットを対象に、ロボット側のカメラから操縦者側のディスプレイに表示されるまでのEnd-to-End遅延を業界最高水準の50ミリ秒まで短縮しました。これにより視覚と身体感覚との操作のずれをほぼ感じることがなくなり、動きの速い対象物に対して正確な操作や身体的直感に即した操作が可能になると共に、映像伝送遅延が原因の一つとされる操縦者のVR酔いが軽減され、長時間の遠隔操作が可能となりました。今回、遠隔操作ロボット用映像伝送システムで、KDDI総合研究所の汎用ハードウェアコーデックを用いた映像パラメータや処理フローの最適化技術と、ロボット用映像機器の実装・最適化技術により、小型・安価な機器構成で、業界最高水準の超低遅延映像伝送を実現しました。 2020年11月、ロボット技術の活用による漁業の効率化を目的として、日本初のモバイル回線に接続したスマートフォンでの遠隔制御と、長時間使用が可能な水素燃料電池を搭載した水上ドローンを、大阪府立大学と共に、日本海工株式会社の協力のもと開発しました。また、実用化に向け、石川県七尾湾で、これらを活用した実証実験を開始しました。今後、水上ドローンの性能向上を図ると共に、水上ドローンを活用した離島への物資配送や災害対策など、新たな応用展開を視野に入れ、実用化に向け全国での海上実験を順次実施します。
FY2020|4,316 文字
5【研究開発活動】 当社グループは、ネットワーク、AI・IoT・コネクティッド、サービスの各分野において、実用的な研究開発と先端的・長期的な研究開発の両面に取り組んでまいりました。この結果、当連結会計年度における研究開発費の総額は24,007百万円となりました。なお、当社グループにおける研究開発活動は各セグメントに共通するものであり、各セグメントに関連づけて記載しておりません。 研究開発活動の主なトピックスをご紹介します。 1.ネットワーク次世代移動通信システム「5G」(以下、5G)の本格展開に向けて、ネットワークの構築コスト低減や用途に応じた柔軟なサービス提供が求められています。また、近年自然災害が多数発生し、被災者救助のために携帯電話の利用が困難なエリアでの通信手段確保に対するニーズが高まっています。以上の点を踏まえ、Telecom Infra Project(以下、TIP)への参画やオープンソースソフトウェア(以下、OSS)の活用、アニーリングマシンによる基地局パラメータ最適化、5Gの無線技術に5G専用のコアネットワーク設備を組み合わせた構成(以下、スタンドアローン構成)での実証実験、災害救助における携帯電話活用に関する研究開発等に取り組んできました。TIPは、通信ネットワーク装置内のソフトウェアとハードウェアの分離によって装置のコスト削減を実現するとともに、通信インフラの高度化を後押しすることを目的として設立されたプロジェクトです。当社は、TIPにおけるテレコム分野のイノベーションを加速するための開発・検証施設であるTIP Community Labを日本で初めて東京都内に設立しました。また、TIPプロジェクト内に、新たにバッグボーンネットワークに関するサブグループを創設し、ルーターなどの装置に関してホワイトボックス化に向けた技術開発を推進します。2019年6月には、OSSを活用したルーターを当社が開発し、WIDEプロジェクトが運用管理するネットワークに導入しました。WIDEプロジェクトでは、2019年1月からルーター開発に関するワーキンググループが発足し、当社は主要メンバーとして高速・高品質なIPネットワーク実現に貢献しています。こうした取り組みを通して、IPネットワークを構成する機器であるルーターの電力・スペース・コストの効率化を推進していきます。量子コンピュータの一方式である量子アニーリングマシンの活用に向けた初期評価として、2019年11月にはデジタル回路によるアニーリングマシンを用いて、基地局のパラメータを最適化する技術検証を実施しました。基地局のパラメータ設定の組合せ数は膨大であり,従来のコンピュータで最適な設定を算出することは困難でした。本技術検証では、首都圏内の市街地にある基地局のパラメータをアニーリングマシンで最適化し、フィールド評価の結果、無線の品質改善に繋がることを確認しました。5Gのスタンドアローン構成の実用化に向け、2020年2月には通信機器ベンダー各社と共同での実証実験に成功しました。スタンドアローン構成は4Gのコアネットワークを利用する5Gのノンスタンドアローン構成とは異なり、5G技術のみでエンドツーエンドの通信が可能となります。そのため、ネットワークスライシング技術やモバイル・エッジ・コンピューティング技術と組み合わせることで、「超高速」「多数同時接続」「低遅延」といった5Gの特長を最大限に引き出し、お客様のご要望に沿った多様な通信サービスの提供が可能となります。2019年11月には国内で初めて、小型携帯電話基地局を搭載したヘリコプター(以下、ヘリコプター基地局)を用いて、携帯電話の利用が困難なエリアでの通信手段確保と迅速な救助活動を目的とした実証実験に成功しました。災害時に携帯電話サービスの提供が困難な状況においても、上空からの電波によりエリア化された範囲内において、一時的に携帯電話による通信が利用できることを確認しました。加えて、ヘリコプター基地局の移動管理機能により、携帯電話から発信される電波を捕捉することで、ヘリコプター基地局がカバーするエリア内の携帯電話の在圏状況や位置推定が可能になります。これにより、災害時に携帯電話サービスの提供が困難な場合においても、被災者の位置を特定し迅速に救助することが可能になります。 2.AI・IoT・コネクティッド自動運転サービスの実証、雑談対話型AIを搭載したロボットの開発、IoTを活用した野生動物自動捕獲の実証実験等、高齢化や労働力不足等の社会課題解決を目指した研究開発に取り組んできました。2019年6月から7月にかけて、茨城県常陸太田市での中山間地域における道の駅等を拠点とした自動運転サービス実証実験に参加しました。本実証実験は、中山間地域におけるファースト/ラストマイルサービスとしての自動運転サービスが導入される際に必要となる技術やサービス内容を検証・検討することを目的としております。当社は、運転手が存在しないレベル4自動運転に必要となる、遠隔からの車両運行監視システムを提供しました。こうした取り組みを通して、地域産業の高度化や豊かな交通社会の実現に貢献していきます。2019年5月には、テレビ番組に連動し、視聴者の世代や顔ぶれに応じて幅広く話題を展開できる雑談対話型AIを搭載したロボットをNHK放送技術研究所と共同開発しました。本取り組みでは、視聴者の世代や顔ぶれに合わせた「対話パーソナライズ技術」、番組内容に連動しながら幅広い話題を楽しめる「話題連動型発展対話制御技術」を新たに開発しました。「対話パーソナライズ技術」は、夫婦で番組を視聴する場合、子供や孫と一緒に視聴する場合など、異なる場面に応じて適切な対話を実現します。また、「話題連動型発展対話制御技術」により、進行中の番組の話題と共通性を持ちながら、別の視点を持った話題を紹介したり他の雑談に発展させることが可能です。こうした取り組みを通して、ロボットとともにテレビを楽しむワクワク視聴ができる世界の実現を目指します。2019年9月には、深刻な農作物被害をもたらしている野生イノシシによる被害低減のために、IoTを活用した自動捕獲の実証実験を開始しました。本実証実験では、設置した大型の囲いわなをスマートフォンやタブレットなどのモバイル機器から遠隔監視・遠隔操作する機能に加え、わな内外の獣の状況を判別して自動捕獲する機能を搭載したIoT自動捕獲システムを導入しました。これにより定期的な見廻りが省略できるほか、一度の捕獲頭数の増加やわなを回避する個体の発生防止など、捕獲の効率化が期待されます。 3.サービス非通信領域の事業強化のため、エネルギー、コマース、エンターテインメント、ヘルスケア、災害医療など、幅広いサービスにつながる研究開発に取り組んできました。2019年5月には2018年度に引き続き、経済産業省が実施する「平成31年度 需要家側エネルギーリソースを活用したバーチャルパワープラント構築実証事業費補助金/VPPアグリゲーター事業」に採択されました。本実証事業では太陽光発電や蓄電池などの分散したエネルギーリソースを効率的に管理・制御し供給力・調整力として活用するバーチャルパワープラントの構築を行いました。また、2021年開設予定の需給調整市場への参加も視野に入れ、周波数調整制御をはじめとした市場の技術要件を満たす制御の確立とエネルギーリソースの種類・数量の拡大を目指し、技術開発を推進しました。2019年10月には、ECサイトにおける推薦システムの信頼性向上を目的として、悪意のある攻撃者からデータポイズニング攻撃(システムからの出力を意図的に操作することを目的として、学習に用いるデータ集合に不正なデータを混入する攻撃)を受けた場合でも、意図的な閲覧履歴(以下、不正データ)を除去し、行動履歴からユーザの嗜好を正しく学習するAIの開発に成功しました。本AIを用いることで、ECサイト運営者は攻撃者からの影響を受けずに、ユーザの嗜好に合った商品の推薦が可能となりました。2019年10月には、スポーツ選手の技術向上に役立てることができる、アスリート育成支援システムを開発しました。本システムでは、スポーツ行動認識AIを活用しスマートフォンで撮影した競技者の映像から65カ所の骨格点を抽出して競技者の動きを捉え、フォームや身体の使い方を認識し、分析することが可能です。加えて、センサー内蔵型ボールを使い、ボールの速度や回転数、回転軸などのデータと競技者の動きを組み合わせ、競技者の動きがボールに与える影響などを分析し、フォームの改善点などをアドバイスすることが可能です。2019年7月には、人の咀嚼運動を検出するウェアラブル筋電計と、咀嚼運動をゲーム化するスマートフォン・アプリを開発しました。咀嚼運動には、肥満予防、歯周病の予防、脳の活性化による認知症予防などの、さまざまな効果があることが知られています。ウェアラブル筋電計は、小型軽量サイズで手軽に使用できるメガネ型で、Bluetoothでスマートフォンと接続し、咀嚼運動を含む筋電信号を送信します。スマートフォン・アプリは、受信した筋電信号を分析して咀嚼運動を検出し、検出結果に連動して進行するゲームアプリで、早食いを気付かせ、時間をかけてよく噛んで食事をすることへの意識付けを促します。2019年8月には、5GとVRシステムを活用した災害医療対応支援と医療教育現場での遠隔教育に関する実証実験を行いました。災害医療対応支援では、災害現場に高精細の360度カメラを設置し、5Gを活用して映像をVR空間上に配信・投影し、VR空間内で医療従事者や消防機関が連携して現場を指揮・支援するシステムを構築しました。遠隔地からでも現場にいる職員に対して指示を出すことが可能となり、救命活動を円滑に進められることを確認しました。医療教育現場での遠隔教育では、5GとVRを組み合わせ、VR空間上での設備見学やディスカッションなどの双方向コミュニケーションに関する実証実験を行いました。設備の設置場所に置かれた高精細360度カメラから、5Gを活用してVR空間にその映像を配信・投影し、VR空間を複数の遠隔地にいる参加者が共有することで、集合が難しい場所でのバーチャル会議や高精細映像による遠隔からの設備視察などが可能になることを確認しました。
FY2019|3,677 文字
5【研究開発活動】 当社グループは、ネットワーク、AI・IoT・コネクティッド、セキュリティ、端末・サービスの各技術分野において、実用的な研究開発と先端的・長期的な研究開発の両面に取り組んでまいりました。この結果、当連結会計年度における研究開発費の総額は、23,728百万円となりました。なお、当社グループにおける研究開発活動は各セグメントに共通するものであり、各セグメントに関連づけて記載しておりません。研究開発活動の主なトピックスをご紹介します。 1.ネットワーク次世代移動通信システム「5G」(以下「5G」)や、5G時代に期待される多様なサービス実現に向けて、ニーズに合わせた迅速な通信サービスの提供が求められています。また、近年、自然災害が多数発生し被災者救助の支援ツールとして携帯電話に対する期待が高まっています。以上の二点を踏まえ、5Gに関する実証実験や、仮想化技術を用いた基地局スライシング技術の開発、5Gと第4世代移動通信システム(以下「4G LTE」)の共存技術の開発、ドローン基地局の応用技術の開発等に取り組んできました。5Gに関する実証実験は、14件実施しました。例えば、2019年1月に北九州市で実施した産業用ロボット制御の実証実験では、工場内の制御用有線回線を5Gで代替しました。5Gを用いることにより、高精度なロボット制御用センサーを導入した場合においても、大量の情報伝送が可能になり、かつロボットの配置換えに伴う回線敷設作業の手間を軽減することができます。2018年5月には、仮想化を用いた基地局でのスライシング技術の開発・実証を実施しました。スライシング技術とは、サービスの要求に応じて、一つのネットワーク上に互いに影響しない複数の論理的なネットワークを構築する技術です。本実証では、センサデバイスの通信と、ビデオストリーミングという性能要求の異なる2種類の通信が、互いに影響することなく動作可能であることを確認しました。スライシング技術はソフトウェアにより制御されるため、新規サービスの迅速な導入やお客様のニーズに合わせた柔軟な運用が実現され、高品質で安定したネットワークの提供が可能となります。2018年9月には、5Gと4G LTEを同一周波数帯内で共存させる新たな技術の実証実験に成功しました。本技術を用いることで、5Gと4G LTEに別々の帯域を割り当てることなく、5Gと4G LTEを同一周波数帯内に共存させることが可能になり、周波数利用効率が大きく向上します。その結果、どちらかのシステムにユーザーが偏ることによる通信品質劣化を防ぐことができます。2019年3月には、ドローン基地局の応用技術として、災害時など被災者の位置が特定できない場合に、被災者が所持する携帯電話の位置を推定する技術を開発しました。本技術は、携帯電話基地局が利用できなくなった被災エリア一帯にドローン基地局を飛行させ、携帯電話から信号を受けるたびにドローンの位置を記録し、その記録を元に携帯電話のおおよその位置を推定するものです。推定された位置を手掛かりとした捜索活動が可能となります。 2.AI・IoT・コネクティッド本格的な人口減少と少子高齢化に備えるため、従来は人手に頼っていた生産活動にIoTを導入することによる効率化や、学習効果を高めるための「EdTech」の推進、通信技術による自動運転の高度化を実施しました。2018年5月には、ICT等を活用して省力・高品質生産を実現する「豊岡市スマート農業プロジェクト」を開始し、「コウノトリ育む農法 (無農薬)」の水田管理省力化を目指す実証事業を実施しました。本実証事業は、豊岡市の農家が管理する水田に通信回線を利用した水位センサーを設置することで、農家の方はスマートフォン等で水位を確認できるようになり、見回り回数の削減や時間の短縮による効率化を図ることができます。また、水位データに異常値が見つかった時は自動でメール通知する仕組みを備えています。水位センサーは、セルラーLPWA(携帯電話網を活用した、省電力かつ広域なエリアカバレッジを実現するIoT向け通信技術)の規格「LTE-M」に対応しています。省電力特性を活かして電池交換の頻度を減らすことができるため、設置や運用のハードルを下げることが可能なほか、ゲートウェイ(親機)を設置することなく携帯電話回線を活用することで幅広いエリアの機器の設置が可能になります。2018年9月には、会津若松の地場産業である「日本酒造り」の工程にIoTの技術を導入した実証事業を実施しました。日本酒造りの工程における米作りにおいては、圃場全体の生育状況把握が困難なため施肥量調整が難しく、また、酒造りにおいては、杜氏の引退に伴い醸造管理の知見が失われてしまうとともに、後継者不足による酒造りの負荷が増加してるという課題があります。こうした状況を受け、米作りでは、スマートドローン(KDDIの通信ネットワークを利用することで、より長距離で安全な運用を可能としたドローン)にて遠隔からの稲の生育状況を把握できることを確認しました。また、酒造工程では4K映像伝送によるもろみ熟成の管理、配送における温度管理タグの活用等を検証することで、日本酒造りの幅広い工程の効率化を目指すとともに、地場産業の活性化に貢献しました。2018年11月には、「教育」と「ICT」を組み合わせた「EdTech」を推進していく一環として、AIを用いた本格的な日本人話者の英会話スキル評価システム「日本人英語話者向け発音自動評価システム」をイーオンと共同開発しました。本システムは、生徒専用の自宅学習サポートサイト「イーオン・ネット・キャンパス」内にて生徒が音読する音声を収録し、それに対してAIが自動診断をする「発音診断」コンテンツとなります。2019年2月には、愛知県一宮市で、一般公道において5Gを活用した複数車両の遠隔監視型自動運転の実証を実施しました。自動運転の高度化により、買い物難民やバス・タクシー運転手不足に対する解決手段としての活用につながることが期待されます。本実証では、2台の自動運転車の運転席を無人の状態としたうえで自動走行しました。自動走行にあたって、遠隔から2台を同時に監視し、緊急時には制御を実施しました。 3.セキュリティ安心・安全な情報通信社会の実現のため、Web媒介型攻撃対策技術やデータの改ざんを困難にする仕組みであるブロックチェーン技術に関する研究開発に取り組んでおります。2018年6月には、Web媒介型攻撃の実態把握と対策技術の向上のため、「Web媒介型攻撃対策技術の実用化に向けた研究開発」(以下「WarpDrive」)の実証実験を開始しました。WarpDriveではアニメ「攻殻機動隊S.A.C.」シリーズに登場するキャラクター「タチコマ」をモチーフに、Web媒介型攻撃対策ソフトウェア「タチコマ・セキュリティ・エージェント(以下「タチコマSA」)」を開発しました。タチコマSAは、ユーザーのWebブラウザの中でWeb媒介型攻撃を観測・分析し、攻撃検知時には悪性Webサイトの閲覧をブロックし、ユーザーに警告やアドバイスを行います。2018年7月には、ブロックチェーンを組み合わせたクーポン決済システムの実証を実施しました。本実証では、KDDI直営店と提携店舗にて、ユーザー登録・本人認証した上で、引き換えクーポンを利用する一連の流れを確認しました。ブロックチェーン上に記録されたクーポン利用情報は改ざんが極めて困難なため、複数企業(KDDI直営店と提携店舗)間での高信頼な情報共有が可能となります。本実証では、KDDI及び提携店舗間でクーポン利用履歴を共有し、クーポン利用者数に応じた支払いを行いました。 4.端末・サービス4K衛星放送や4K動画配信サービス等の実用化に伴い、4K映像を用いた遠隔からの作業支援等の期待が高まっています。2019年3月には、作業現場からの4K高解像度映像のリアルタイム伝送とARによる遠隔作業支援を可能にするシステム「VistaFinder Mx」を開発しました。4K映像に対応したウェアラブルカメラや、MEC(マルチアクセス・エッジ・コンピューティング)等に活用できる小型高性能PCの出現に伴い、より可搬性が高いスタイルでの4K映像の撮影・伝送が可能になってきました。「VistaFinder Mx」は、これらの機器や、KDDI総合研究所が開発したMPEG符号化・復号・処理ソフトウェア「MP-Factory」を搭載することで、数十Mbpsのビットレートで高品質な4K/60p映像(H.264/AVC形式)の伝送を可能にしました。遠隔作業支援者が4K映像を利用することで複雑な機器のメンテナンスや機器番号の読み取りが容易になり、作業者の現場での作業効率向上やヒューマンエラーの低減に効果的です。
FY2018|4,056 文字
5【研究開発活動】 当社グループは、ネットワーク、AI・IoT・コネクティッド、セキュリティ、サービス・アプリケーションの各技術分野において、実用的な研究開発と先端的・長期的な研究開発の両面で進めてまいりました。この結果、当連結会計年度における研究開発費の総額は、20,132百万円となりました。なお、当社グループで行っております研究開発活動は各セグメントに共通するものであり、各セグメントに関連づけて記載しておりません。研究開発活動の主なトピックスをご紹介します。 1.ネットワーク次世代の移動通信システムである5Gや、今後一層の増加が予想されるデータトラヒックをより効率的に伝送するためのネットワーク技術に関する研究開発を推進しております。5Gの時代には、それを支えるネットワーク技術や光ファイバー伝送技術の革新が不可欠となります。例えばモバイル通信の大容量化には、無線基地局を収容する光アクセス回線の大容量化が必要です。加えて、より広い無線周波数帯域を使うことができる高周波数帯の利用が不可欠です。しかし、周波数が高くなるほど大気伝搬時の減衰が大きく、電波の直進性も強くなるため、遠くには届きにくくなります。そのため、サービスエリアを小さくし、多数の基地局を設置する必要があり、設置制約の少ない小型、軽量、省電力の基地局が求められます。また、5Gの実用化に向け、その特徴を生かした様々なユースケースの実現性を、実証実験を通して検証する必要があります。2017年9月に、光ファイバー1芯で伝送することができる伝送容量の世界記録(毎秒2.15ペタビット)を大幅に更新し、毎秒10.16ペタビットの光ファイバー伝送実験に成功しました。これは114の空間多重を可能とするマルチコアマルチモード光ファイバー技術を用いています。10ペタビットは1億人が同時に100メガビットの通信を可能とするスピードです。この技術は、より低遅延で高速な5Gのモバイル通信システムを支え、新しい体験やサービスをお客様に提供するキー技術として期待されます。2017年10月には、大容量のモバイル無線信号波形をデジタル信号に変換することなく、直接光ファイバーで高品質に伝送可能な光ファイバー伝送実験に成功しました。今回達成した通信速度は毎秒63ギガビットで、5Gで想定される最大通信速度毎秒20ギガビットの3倍以上となります。また、開発した技術により、基地局設備の大幅な小型・省電力化が可能となり、これまで以上に基地局数が増大する5Gの大容量・高品質なモバイル通信サービスを支える技術として期待されます。2018年3月、沖縄セルラースタジアム那覇の観客席に28GHz帯の実験システムを用いたエリアを構築し、50台の5Gタブレット端末に対して4K高精細映像を同時に配信する実証実験に成功しました。スタジアムにおけるエンターテインメント高度化の実現に向けて、スポーツ観戦、コンサート映像など高精細な大容量映像の、大型スクリーンやモバイル端末へのリアルタイム伝送による、新たな体験価値の提供が期待されています。既存のモバイル通信では実現が困難であった、多数の観客に向けた大容量映像の同時配信が5Gを活用することで可能となります。 2.AI・IoT・コネクティッド多種多様な分野で活用が期待されるIoTや、車の自動運転を実現するAI技術、安全な自動運転を支える遠隔制御技術等のコネクティッドにおける研究開発に取り組んでおります。IoT普及の壁となっている電源・コスト・エリアの課題を解消し、適用範囲を格段に広げる可能性を秘めているLPWA(Low Power Wide Area)が注目されております。 当社では、LPWAの各方式を活用した様々な実証実験を行い、ユースケースの有効性や、電力消費量、電波の浸透などを検証し、お客さまに最適なIoT通信の提供を目指します。また、AI・コネクティッドでは、自動運転の最高レベルである完全自動運転を実現するために、自律的な走行に加え、合流や追い越しでの他車両との協調が不可欠です。これを実現するため、深層学習を使ったAIによる制御が注目されていますが、他車両への配慮が必要な運転シーンへ対応させる学習方式の確立が課題となっております。また、バスやタクシーなどが自動運転化されていく時代において、無人運転を実現するためには、走行状態を監視して危険が生じた際に、遠隔にて車両制御を実施することが必須となります。2017年8月、富士山御殿場口登・下山道ならびに御殿場口のハイキングコースに設置したLPWA搭載のIoTセンサーを活用して、通過した人数を30分単位でウェブ上で確認できる取り組みを実施しました。これまでも、人数カウンターを登・下山道に設置し登下山者数を把握する取り組みは実施されていましたが、データの確認には設置場所まで行く必要がありました。しかし、LPWA搭載のIoTセンサーを導入することで、遠隔から30分単位でデータを確認することができ、利便性の向上と確認作業の効率化が期待されます。2017年10月に、“ゆずりあうクルマ”を実現するAI技術の開発に成功しました。本技術により現在、実用化が進められている自動運転技術で難しいとされている合流シーン等に対しても、他車両の行動を察知し、人間のあうんの呼吸のような“ゆずりあい”により、スムーズな自動運転を可能とします。今後、自動運転技術の実用化範囲が、高速道路から一般道へ、同一車線追随から車線変更、合流、すれ違いへと高度な対応が必要となる中で、中心的な技術になりうるものと考えています。2017年12月には、日本で初めて一般公道における遠隔制御型自動運転システムの実証を実施し、レベル4 (無人運転)自動運転に成功しました。本実証実験は、運転席を無人の状態とした上で、事前に構築した高精度地図をもとに車を自動走行させ、危険を察知した場合に緊急停止などを行う遠隔制御を実施しました。 3.セキュリティ安心・安全な情報通信社会の実現のため、プライバシー保護技術やデータの改ざんを困難にする仕組みであるブロックチェーン技術に関する研究開発に取り組んでおります。情報通信社会の発展に欠かせないIoTですが、生活を便利で豊かにしてくれる一方で、脅威となった事例が報告されており、セキュリティ確保の重要性が高まっています。例えば消費者はどのようなデータが集められどのように利用されているかがわからず、気付かないうちに個人情報が漏えいしてしまうリスクがあり、プライバシー保護技術の強化が課題となっております。また、安心・安全な情報通信を実現する技術の一つとして期待されているブロックチェーンにおいては、「スマートコントラクト」が注目され、取引プロセスの自動化により不正防止等にも寄与すると期待されております。2017年7月に、総務省「IoTデバイス/プラットフォーム等の連携技術の確立と相互接続検証に向けた研究開発」を受託しました。具体的には、情報流通のトレーサビリティ、情報の真正性保証、情報転送の低遅延化等の機能を、異なるプラットフォーム間においても実現する「PPM(Privacy Policy Manager)の高機能化」と「プラットフォーム間連携技術」を開発・評価します。2017年9月には、国内で初めてEnterprise Ethereum(企業用途向けブロックチェーンのアプリケーションプラットフォーム)を活用した「スマートコントラクト」の実証実験を開始しました。本実証では、ブロックチェーン技術を活用し、携帯電話の店頭修理申し込みから完了までの工程における、リアルタイムな情報共有及びオペレーション効率化の可能性を検証しました。 4.サービス・アプリケーション端末・料金・ネットワークの同質化が進む中、お客様に選んでいただける企業となるために、「お客様視点」と「革新」をキーワードに、マルチメディア、ヒューマンインタフェース、ライフデザインへのサービス提供基盤などを創出し、お客様の期待を超える「お客様体験価値」の提供を目指していきます。この中で、VR(仮想現実)など生活に新しい価値をもたらすようなサービスやアプリケーションを創出する技術の研究開発に取り組んでおります。2017年10月に、世界で初めて、撮影しながらリアルタイムで自由視点VR映像を制作できるシステムの開発に成功しました。本技術は、あらゆる視点からの映像視聴を可能とする自由視点技術に、複数のカメラから撮影された人物を3次元コンピュータグラフィクモデルとして合成することによって実現します。本技術を活用することで、コンサートなどライブイベントの開催と同時に、大型スクリーンやヘッドマウントディスプレイ、モバイル端末を介した任意のアングルでのライブ視聴が可能となります。これにより、遠隔からのイベント視聴において新たな体験価値を提供できると考えております。2018年3月には、20周年を迎えたハロー! プロジェクトと共同で、新しい音楽視聴体験である音のVRコンテンツを制作しました。今までのVRは360度見たい方向の映像は見られるものの、どこを向いても音の聞こえ方に変化はありませんでしたが、音のVRは、音が発生している位置がはっきりして、気になる対象をズームすればそこから発生している音にもズームしてより大きく聴こえます。本技術により、スマートフォンなどに表示される360度の映像と音に対し、視聴者は見たい・聞きたい部分に、自由自在にズームすることにより、該当箇所の音と映像が体感的に合致したインタラクティブ視聴体験が可能になります。ライブ会場において音のVRを活用しながら観客が特定メンバーの声を楽しむなど、音と映像の新たな体験価値を提供するツールとなることが期待されます。
FY2017|3,032 文字
6【研究開発活動】当社グループは、ネットワークインフラ、プラットフォーム、端末・アプリケーションの各重点技術分野において、実用的な研究開発と先端的・長期的な研究開発の両面で、研究開発を進めてまいりました。この結果、当連結会計年度における研究開発費の総額は、15,381百万円となりました。なお、当社グループの行っております研究開発活動は各セグメントに共通するものであり、各セグメントに関連づけて記載しておりません。研究開発活動の主なトピックスをご紹介します。 1.ネットワークインフラ技術次世代の移動通信システムである「5G」(以下「5G」)や、今後一層の増加が予想されるデータトラヒックを効率よく通信するためのネットワーク技術に関連する研究開発を推進しています。5Gでは、高速・大容量・低遅延の通信を実現するため、それらに必要な周波数帯域を確保しやすい高周波数帯の利用が見込まれています。高周波数帯の電波は、低周波数帯と比較して弱まりやすいため電波の方向を絞って遠くまで飛ばす「ビームフォーミング」技術を活用します。しかし、ビームフォーミングにより、ビーム幅が狭くなるため、通信端末の位置を補足し接続すべき基地局を切り替えるハンドオーバーが課題となり、通信端末の位置を正確に把握する技術が必要となります。2017年2月に、東京都内にて、5Gの周波数帯候補の一つである28GHz帯を用いたハンドオーバーの実証実験を行いました。市街地や高速道路を走行する車とビームフォーミングで通信する複数基地局との間でのハンドオーバーに成功し、走行中において、最大3.7Gbpsのスループットを達成しました。また、5Gの通信を実現するためには、無線技術だけでなくそれを支えるネットワーク技術や光ファイバー伝送技術の革新も不可欠です。2016年10月に、光ファイバー通信の周波数利用効率を著しく向上する技術を開発し、伝送容量の拡大を実現しました。従来から、1本の光ファイバーに複数のコア(光信号の伝搬路)を設けて異なる信号を多重伝送するマルチコアファイバーと1つのコアで複数の光信号を多重伝送するマルチモードファイバーを組み合せた「マルチコア・マルチモードファイバー」を用いて、光ファイバー通信の伝送容量拡大を図ってまいりましたが、今回は送受信する光信号に64値直交振幅変調(64QAM)方式を適用することで大幅な改善を実現しました。今回の実験では、モード依存損失等化技術と新規に開発した光増幅器を組合せて用いることで、64値直交振幅変調(64QAM)方式の課題である雑音の影響を抑え、マルチコア・マルチモードファイバーで64QAM伝送を実現しました。実測で周波数利用効率947bit/s/Hzという、これまでの4相位相変調(QPSK)方式に比較し、周波数利用効率を2倍に向上する伝送実験に成功しました。 2.プラットフォーム技術ビッグデータを利活用する際のプライバシー情報管理に関する研究開発や、IoT普及時の具体的なサービス提供に必要となる技術の実証実験に取り組んでおります。その背景として世界的にICTを駆使して、エネルギー・下水道・交通・行政サービスといった生活インフラを効率的に整備・運用するスマートシティの実現に向けた動きが広がっていることがあります。スマートシティの実現には、IoTやビッグデータの活用が不可欠ですが、十分な量のデータ収集や最適な解析手法の構築にかかるコストやプライバシーへの考慮をはじめとする様々な問題が障壁となっています。これらの解消には、既存システムの利活用、データや解析機能の共有、データへのアクセス権付与と適切な開示を行うことが求められます。更に国際間でデータや解析手法を共有する場合には、国家間のプライバシー法制度の違いも考慮することが求められます。こうした課題を解決し、IoTやビッグデータを活用して生成・蓄積された世界中の付加価値の高い情報の利活用を可能とするものとして、iKaaS(intelligent Knowledge-as-a-Service)プラットフォームの研究開発を進めています。KDDI総合研究所は、2017年2月より日欧の研究機関と共同で、iKaaSプラットフォームの実用性を検証するため、仙台市の特定地域の屋内外に設置されたセンサー等から取得したデータを利活用する実証実験を開始しました。取得した各種センサーデータ、環境データや気象関連データなど様々なデータを、iKaaSプラットフォームを介してプライバシーなどに配慮しつつ統合して処理することで、仙台市の特定地域の発電量・消費電力を予想し、エネルギーマネージメントの効率化につなげることを目指しています。IoTの進展に関し、インフラ整備、人材育成など多面的な課題が挙げられています。また、市場・ビジネスモデルの確立も大きな課題として認識されており、自治体やICT各社を中心に多くの実証実験が行われております。KDDI総合研究所では、新しい効率的な漁業モデルの実証とそれに必要なフィールド技術の確立を目指し、一般社団法人東松島みらいとし機構(以下「HOPE」)と、各種センサー、カメラ、通信機能などを搭載したスマートブイを用い、定置網漁業の効率化をめざした実証実験を行いました。HOPE、KDDI総合研究所等が共同開発したスマートブイを、2016年10月から12月にかけて宮城県石巻湾漁場に設置し、水温や塩分濃度など各種データの取得と解析、漁獲量推定アルゴリズムの検討を進めました。今後は、本実験で得られたデータを用いて、漁業者の出航計画の策定、各種データの関係性の予測、ビジネスモデルなどの検証を行っていく予定です。 3.端末・アプリケーション技術VR(バーチャルリアリティ)技術は、人気家庭用ゲーム機にも搭載されるなど、本格的な普及期を迎えています。一方で、体験できる場所やコンテンツは、まだアミューズメント施設や一部のゲーム等に限られています。当社は、より幅広いお客さまにVRの体験をいただくことができるよう、カラオケ店での実証事業を行いました。本実証事業は、カラオケ店舗内で、アーティストのライブや握手会などの交流イベントを、その場に居るかのように体験できるものです。なお、本実証事業に使用したVRコンテンツの一部では、今まで研究開発を進めてきたお客さまが自由な視点で映像を視聴できる「自由視点映像」技術をVR映像に応用した「自由視点VR」技術により制作しました。また、シニアやスマートフォン初心者の方でも安心してスマートフォンをご利用いただけるように、利用者の操作習熟度や記憶定着度に応じて音声・吹き出し・イラストで操作のアドバイスを行う「文字入力アシスト機能」を開発しました。これは、スマートフォン操作中のつまずきを検出し、文字入力に慣れるまで、操作を画面表示や音声でアドバイスする機能です。更に、お客さまの操作習熟度と記憶定着度を推定する仕組みにより、操作に慣れてくるとアドバイス頻度が減っていく一方、しばらく使わずお客さまが忘れていそうな操作には再度アドバイスを提示できるようにし、どなたにも快適かつ長期にわたり利用可能な機能を実現しました。本機能は、当社が2016年8月より提供しているシニア向けスマートフォン「BASIO2」に搭載されています。
FY2016|3,056 文字
6【研究開発活動】当社グループは、ネットワークインフラ、プラットフォーム、端末・アプリケーションの各重点技術分野において、実用的な研究開発と先端的・長期的な研究開発の両面で、研究開発を進めてまいりました。この結果、当連結会計年度における研究開発費の総額は、18,001百万円となりました。なお、当社グループの行っております研究開発活動は各セグメントに共通するものであり、各セグメントに関連づけて記載しておりません。研究開発活動の主なトピックスをご紹介します。 1.ネットワークインフラ技術次世代の移動体通信の通信方式である第5世代移動通信方式(以下、「5G」)に関連する研究開発や、ネットワーク仮想化時代に必要となる高度なネットワーク運用技術の研究開発を推進しております。5Gが目指す性能を実現するために、ミリ波帯の活用に関する研究開発が活発に行われています。しかし、高周波数帯の電波は減衰が大きく、遠くまで電波が届きにくいことから、広いエリアをカバーすることが難しく、移動通信サービスでの利用が難しいとされてきました。この課題の解決策として、LTEのような広域通信により補完する方法が考えられますが、現在インターネットで広く用いられているTCP/IP通信においては、通信を始める前の処理に時間がかかるため、高周波帯通信とLTEの切り替えに多くの時間を要し、継続的な通信ができないという課題がありました。この課題を解決するため、60GHz帯通信とLTEを協調動作させる通信方式を開発しました。本方式の技術的ポイントは以下の2点になります。・ ユーザが今後必要とするコンテンツを”先回り”させるシステムの開発・ 新しいネットワークアーキテクチャ技術として研究が進められているCCN (Content Centric Networking) の使用これらを用いて、ユーザが到達するであろう60GHz帯エリアをあらかじめLTEエリアで予測、必要なコンテンツを先回りダウンロードさせておくことにより、ユーザが60GHz帯エリアに入るとすぐにダウンロードが開始され、ユーザは60GHz帯とLTEを意識することなく利用できます。この結果、動画などサイズの大きいコンテンツのダウンロード時間の短縮と、LTEのトラフィックを60GHz帯へオフロードが可能となります。検証試験では、ダウン ロード時間がLTEのみを使った場合と比較して5分の1以下にまで削減され、またLTEのトラフィックを最大で約90%、60GHz帯にオフロード可能であることを確認いたしました。また、5Gにおいては、IoT、高精細動画などの多様なデバイスやコンテンツに対応するため、ネットワークの柔軟性が求められるようになります。このため、5Gの実現に向けて、今後SDN(Software Defined Network)やNFV(Network Function Virtualization)といったネットワーク仮想化技術の導入が進むことが予想されます。さらに、重要な設備の輻輳時に他設備の資源(処理能力)を迅速に融通して深刻な事態を回避する、といった効果も期待されています。しかし、通信設備を対象としたネットワーク仮想化技術は途上段階にあり、特に障害対応作業が複雑化する懸念があります。さらに、同技術では汎用サーバやオープンソースソフトウェアなどの活用に伴い、通常の監視や診断では予測が困難なハードウェアの劣化やソフトウェアのバグなどが運用時の盲点となり、サービスに甚大な影響を引き起こす可能性が指摘されています。そこで当社グループは、ネットワーク仮想化基盤にハードウェアやソフトウェアの深刻な障害の兆候を検知する人工知能を埋め込み、人工知能による故障予測とそれに基づきネットワークを自動運用するシステムを開発しました。そのシステムを用いた実証実験では、ソフトウェアバグなどの異常の兆候を9割以上の精度で事前に検知し、従来の約5倍の速度で仮想化された機能を別拠点などの安全な場所へ移行することに成功しています。 2.プラットフォーム技術今後のIoTやコネクテッドカーの普及において必要とされる、セキュリティ対策に関する研究開発に取り組んでおります。現在のデバイスにおける一般的なセキュリティ対策では、ストレージ部分のデータには暗号化対策が為される一方、暗号化で用いた鍵データを格納するメモリ内のデータは十分なセキュリティ対策が施されていないため、メモリへのサイバー攻撃によって鍵データが読み取られてストレージ部分の情報漏えいを引き起す、といった危険性があります。今回、KDDI研究所が有する暗号化技術とソフトウェア保護技術を組み合わせて、メモリ内の データに対しても強固なセキュリティを実現しました。本方式は、従来方式と比較して約10倍の高速処理を実現し、数KBの軽量なソフトウェアで実装できるため、IoT時代に爆発的に増加していくであろう、処理能力が低いデバイスのセキュリティ対策として有用となります。また、現在、自動車メーカーを中心にコネクテッドカーの開発が活発に行われていますが、車に搭載された電子デバイス同士を接続する車載ネットワークがインターネットからアクセス可能となるため、セキュリティ上の脅威が生じます。そこで、車載ネットワークを不正アクセスから保護する技術を開発しました。携帯電話網に接続して音声通話やデータ通信を行う際に必要となるSIM(Subscriber Identity Module)には契約者情報等が記録されており、高い安全性が確保されていますが、SIMにはアプリケーションが動作する領域(アプリ領域)も有り、そちらも高い安全性を有しています。今回、車にSIMを搭載し、そのアプリ領域でセキュリティアプリを動作させ、車載ネットワークを統括的に保護する仕組みを開発しました。セキュリティアプリから制御マイコンに対し暗号鍵を配布、制御マイコン同士が通信をする際はこの暗号鍵を用いて暗号化・複号化を行うことで、車載ネットワークの安全性を高めます。 3.端末・アプリケーション技術当社が構築した多言語音声翻訳システムとKDDI研究所が開発した「翻訳精度向上技術」を鳥取県鳥取市の訪日外国人向け観光タクシー「1000円タクシー」に搭載、多言語音声翻訳システムを活用した社会実証を2015年11月より開始しました。従来課題となっていたタクシー運転手と訪日外国人との間のタクシー内における円滑な コミュニケーションを実現させることで、言葉の壁に起因する社会サービスの差を克服することを目指していきます。また最近は、青少年のスマートフォンの長時間利用が問題となっています。そこで、アメリカの経済学者セイラー氏らが提唱している「Nudge」理論(心理学的なアプローチで行動を促す)をベースに、スマートフォンの利用を物理的に制限することなく、利用者自身が適切にスマートフォンを利用することを支援するホームアプリ「勉強うながしホーム」を開発しました。本アプリでは、ホーム画面として「通常モード」と「勉強モード」の2つのモードを持ち、「通常モード」では、適切な利用への気づきを与え、過度な利用を自ら控えるように促し、「勉強モード」では、勉強に役立つアプリのみを登録しておくことで、スマートフォンが手元にあっても勉強に集中することができるようになります。