事業の内容
デ・ウエスタン・セラピテクス研究所は、プロテインキナーゼ阻害剤を中心とした医薬品の研究開発を行う創薬ベンチャーです。自社で新薬候補を見つけ、比較的早期の開発段階で製薬会社にライセンス供与(権利を貸すこと)することで収益を得ています。主な収入源は、契約時の一時金(フロントマネー)、開発の進捗に応じた成功報酬(マイルストーン収入)、そして製品が販売された後の売上の一部(ロイヤリティ収入)です。これにより、自社で大規模な臨床開発を行うよりも低コストで事業を進めています。既に複数の開発品が上市されており、これらの収益を新たな開発プロジェクトに再投資しています。
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FY2025|9,265 文字|出典 docID: S100XS4G
3【事業の内容】 当社グループは、当社及び連結子会社日本革新創薬株式会社(以下、「JIT」)の2社で構成されており、プロテインキナーゼ(*)阻害剤(*)を中心とした医薬品の研究開発を行い、開発品を製薬会社等にライセンスアウトすることによって収益を獲得する創薬事業を展開しております。 当社グループ事業の系統図は以下のとおりです。 (1)創薬事業について① 新薬開発の流れ 一般的に新薬の開発に際しては、基礎研究、非臨床試験、臨床試験、厚生労働省(あるいはアメリカ食品医薬品局(FDA)等の各国の医薬品許認可審査機関)への製造(輸入)承認申請、医薬品としての承認取得、薬価申請・収載を経て販売が開始され、患者様へ提供することが可能となります。このうち基礎研究活動は、新薬候補化合物の合成、スクリーニング(*)、スクリーニング毒性(*)の手続により実施されます。前述の基礎研究活動が終了した後、人に対する臨床試験の前に医薬品として満たすべき条件を、実験動物を用いて副作用及び安全性、安定性の検証を行う非臨床試験によって検証します。その後の臨床試験は、第Ⅰ相臨床試験、第Ⅱ相臨床試験、第Ⅲ相臨床試験の段階をもって実施されます。(下図参照) ② 創薬事業の概要 通常、新薬の研究開発過程において、非臨床試験から臨床試験へと開発が進捗するにしたがって、開発コストは大幅に増加し、また一定規模以上の自社臨床開発体制が必要となります。 当社グループは、研究開発活動の結果として、比較的早期の開発段階において開発品を製薬会社等へライセンスアウトしておりますが、これにより、臨床開発の推進に強みを持つ製薬会社等が開発を行うこととなり、自社での開発を継続する場合に比べて、低コストでの開発体制を維持できます。 このように、当社グループの創薬事業の特徴は、一般的な医薬候補品を開発するベンチャー企業に比べ、比較的早期の研究開発段階においてライセンスアウトが達成される点にありますが、これは、当社グループが基礎研究推進における独自の技術力を有していることと、その技術を基礎研究段階において十分に活用することにより効率的な研究開発が行われていることが要因と考えております。 当社グループの売上高は、主にライセンスアウト時に受領するフロントマネー収入、臨床開発進行に伴いその節目毎に受領するマイルストーン収入、製品上市(*)後販売額の一定比率を受領するロイヤリティ収入等によるものです。既に保有する開発パイプラインの多くは製薬会社にライセンスアウト済みであり、複数の製品が上市されております。これらのフロントマネー収入、マイルストーン収入、ロイヤリティ収入等を新規開発プロジェクトに投入することによって、次なる新規開発品の開発を進めております。 当社グループの主な売上高は、以下のもので構成されております。売上高内容フロントマネー収入ライセンスアウト時に受領する収入。契約締結時に発生するため、契約一時金とも言う。マイルストーン収入臨床開発進行に伴いその節目毎に受領する収入。ロイヤリティ収入製品上市後販売額の一定比率を受領する収入。特許を実施する際に得られる収入のため実施料、ライセンス料とも言う。 ③ 開発パイプラインについて 現在、当社グループが保有する開発パイプラインは以下のとおりです。(イ)上市品製品名等対象疾患地域ライセンスアウト先ILM-BlueⓇ、TissueBlue™(注)ブリリアントブルーG内境界膜染色欧州・米国等DORCMembraneBlue-DualⓇ(注)ブリリアントブルーG/トリパンブルー内境界膜、網膜上膜及び増殖硝子体網膜症における増殖膜染色欧州等グラアルファⓇ配合点眼液リパスジル塩酸塩水和物/ブリモニジン酒石酸塩緑内障・高眼圧症(*)日本・アジア興和(注)12月に米国以外の特許が満了し、該当国のロイヤリティは終了いたしました。 (ロ)開発パイプライン開発コード等対象疾患開発段階地域ライセンスアウト先K-321リパスジル塩酸塩水和物フックス角膜内皮変性症(*)第Ⅲ相臨床試験米国、欧州等興和DW-1002ブリリアントブルーG内境界膜染色第Ⅲ相臨床試験日本わかもと製薬水晶体前嚢染色第Ⅲ相臨床試験日本ブリリアントブルーG/トリパンブルー内境界膜及び網膜上膜染色申請準備中米国DORCDW-1001眼科用治療剤(非開示)第Ⅰ相臨床試験日本ロート製薬H-1337緑内障・高眼圧症後期第Ⅱ相臨床試験米国自社開発H-1129免疫異常を基盤とする角結膜疾患治療薬(非開示)臨床準備中日本自社開発DW-5LBT(商標名:Bondlido)帯状疱疹後の神経疼痛承認米国メドレックスと共同開発DWR-2206水疱性角膜症(*)第Ⅱ相臨床試験日本アクチュアライズと共同開発 各開発パイプラインの詳細は以下のとおりです。(イ)ILM-BlueⓇ、TissueBlue™、MembraneBlue-DualⓇ、DW-1002(ILM-BlueⓇ、TissueBlue™、DW-1002(単剤)の対象疾患:内境界膜染色、水晶体前嚢染色、MembraneBlue-DualⓇ、DW-1002(配合剤)の対象疾患:内境界膜、網膜上膜及び増殖硝子体網膜症における増殖膜染色) 本開発品は、国立大学法人九州大学の研究グループが発見したBBG250(Brilliant Blue G-250)という染色性の高い色素を主成分とした眼科手術補助剤について、独占的ライセンスに基づき開発している開発品で、眼内にある内境界膜又は水晶体を保護するカプセルを一時的に安全に染色し、硝子体・白内障(*)の手術を行いやすくするものです。当社は、2017年に本事業を譲受いたしました。 日本以外の全世界向けの独占的なサブライセンスをDutch Ophthalmic Research Center International B.V.(以下、DORC)に付与しており、DORCは2010年から欧州等において、ILM-BlueⓇ、MembraneBlue-DualⓇの製品名で製造・販売しております。2020年には米国においても単剤であるTissueBlue™の販売を開始し、配合剤については、内境界膜及び網膜上膜染色を対象に米国でオーファンドラッグ指定を受け、現在承認申請に向けて準備を進めております。なお、2025年12月の特許満了に伴い、米国以外のロイヤリティは終了いたしました。 国内については、わかもと製薬株式会社(以下、わかもと製薬)に独占的ノウハウライセンス条項付製品供給契約を付与しており、わかもと製薬は硝子体手術時の内境界膜染色、白内障手術時の水晶体前嚢染色を対象として、製造販売承認の取得に向けて開発を進めております。なお、2025年12月に日本の特許は満了しております。 (ロ)グラアルファⓇ配合点眼液、K-321(a)グラアルファⓇ配合点眼液(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本剤は、リパスジル塩酸塩水和物とブリモニジン酒石酸塩を含有する世界で初めての組み合わせの配合点眼剤です。リパスジル塩酸塩水和物はプロテインキナーゼの一種であるRhoキナーゼ(*)を選択的に阻害する当社が創製したイソキノリンスルホンアミド化合物(*)です。2020年より、興和にて緑内障・高眼圧症を適応症として国内第Ⅲ相臨床試験が行われ、2022年に国内上市されました。さらに、海外展開も進められ、アジア一部地域において上市されております。(b)K-321(対象疾患:フックス角膜内皮変性症) 当社が発明したリパスジル塩酸塩水和物は、眼内にあるキナーゼに作用する可能性があることが示唆されており、適応拡大に向けた取り組みとして、フックス角膜内皮変性症を適応症とした米国第Ⅱ相臨床試験が2019年から開始されました。その後、2022年に米国第Ⅲ相臨床試験を開始、2023年に米国を含めたグローバル第Ⅲ相臨床試験が開始されました。被験者への投与は完了しており、経過観察が行われております。フックス角膜内皮変性症は病態の進行に伴い角膜内皮障害に至ります。重度の視覚障害を有する角膜内皮疾患のこれまでの治療法は角膜移植であり、有効な治療薬の開発が望まれています。 (ハ)DW-1001(対象疾患:非開示) 本開発品は、2015年に英国企業から導入した眼科用治療剤です。 他の疾患を適応症として既に市販されている化合物を眼科適応への適応拡大を目指す、いわゆるリポジショニングの手法での開発を目指しており、開発のコスト並びにリスクは相対的に低くなることが期待されます。 2019年に日本における独占的実施権をロート製薬株式会社(以下、「ロート製薬」)にライセンスアウトいたしました。ロート製薬では、非臨床試験を進め、2022年に国内第Ⅰ相臨床試験が良好な結果で終了いたしました。 (ニ)H-1337(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、プロテインキナーゼ阻害剤を中心とする当社化合物ライブラリー(*)のシード化合物を基にして最適化された、緑内障・高眼圧症を対象疾患とする開発品です。当社初となる自社臨床開発を行っており、2018年に米国第Ⅰ相/前期第Ⅱ相臨床試験を良好な結果で終了いたしました。その後、2024年8月に米国後期第Ⅱ相臨床試験を終了いたしました。試験結果は良好で、本開発品の有効性が確認され、安全性に関して重篤な有害事象は認められませんでしたので、第Ⅲ相臨床試験に向けた準備並びにライセンスアウト活動を進めております。 また、適応拡大の研究を進めており、滲出型加齢黄斑変性に対する治療効果、並びに肺高血圧に対する治療効果も動物試験において確認されております。 (ホ)H-1129(対象疾患:免疫異常を基盤とする角結膜疾患治療薬(非開示)) 本開発品は、プロテインキナーゼ阻害剤を中心とする当社化合物ライブラリーのシード化合物を基にして最適化された開発品です。2019年まで緑内障治療剤として開発を行っていましたが、国内第Ⅲ相臨床試験にて開発中止となりました。その後、知的財産の有効活用及びキナーゼ阻害剤のポテンシャル発揮の観点から、他疾患への適用を検討し、新たに免疫異常を基盤とする角結膜疾患治療薬として開発を決定いたしました。現在、臨床試験に向けた準備を進めております。 (ヘ)DW-5LBT(対象疾患:帯状疱疹後の神経疼痛) 本開発品は、イオン液体を利用した株式会社メドレックス(以下、「メドレックス」)の独自技術ILTS(Ionic Liquid Transdermal System)を用いた新規のリドカイン(*)テープ剤であり、リドカインパップ剤Lidodermの市場をターゲットとし、更なる新規市場への拡大も目指して開発した製品です。メドレックスが帯状疱疹後の神経疼痛治療薬として開発を進め、当社は2020年に共同開発を開始いたしました。その後、2025年9月に承認取得し、現在、販売提携先の選定等の上市準備を進めております。 (ト)DWR-2206(対象疾患:水疱性角膜症) 本開発品は、水疱性角膜症を適応症とした再生医療用細胞製品で、培養ヒト角膜内皮細胞とROCK阻害剤を含有した懸濁液を前房内に注入し、角膜内皮の再生の治療に用いられます。アクチュアライズ株式会社が開発を進めており、当社は2022年に共同開発を開始いたしました。当社初となる再生医療品であり、2024年3月に国内第Ⅱ相臨床試験を開始し、2025年11月に被験者の観察期間が終了いたしました。現時点において、安全性については、重要な有害事象及び被験製品との因果関係が否定できない重篤な有害事象は発現しておらず、有効性については、視力改善が示唆されています。現在、データ解析を進めると共に、第Ⅲ相臨床試験の準備を進めております。 ④ 研究プロジェクトについて 当社グループは、プロテインキナーゼ阻害剤を中心とした新薬候補化合物の創出を行っております。プロテインキナーゼを対象とする疾患は様々ですが、特に眼科関連疾患に注力した研究を推進しております。また、自社の創薬基盤技術を活かし、他社との提携を積極的に推進しております。主なプロジェクトとしては、眼科関連疾患や免疫・炎症系、呼吸器系疾患等を対象としたシグナル伝達阻害剤開発プロジェクトを当社開発研究所(国立大学法人三重大学の研究施設)において行っております。また、大学等との共同研究においては、当社開発品の適応拡大や主に眼科関連疾患を対象に複数のプロジェクトを積極的に進めております。 ⑤ 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴について 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴は以下のとおりです。 (イ)プロテインキナーゼ阻害剤を中心とした新薬候補化合物の創製 当社グループは主にプロテインキナーゼ阻害剤を中心とした研究開発を進めております。 プロテインキナーゼは、細胞の分化、増殖等の細胞内情報伝達(*)機能を担っている重要な酵素であるとされており、そのプロテインキナーゼに対し、有望な新薬候補品である阻害剤を投与することによって治療効果を高めるのが当社グループの開発の特徴であります。 当社は、有望な新薬候補品を創製するために、独自に開発した化合物ライブラリーを保有しており、これらの開発過程で蓄積したデータやノウハウを活用して、新薬候補化合物を合成しておりますが、これらの技術力が高いことから有効な新薬候補化合物が見つかる可能性が高いと考えております。 (ロ)当社独自の標的タンパク質(*)の同定(*)方法であるドラッグ・ウエスタン法(*)の活用 当社は、ドラッグ・ウエスタン法という独自に開発した方法を使って、新薬候補化合物の標的タンパク質を同定しております。生物学の分野では、標的タンパク質を同定するために様々な方法が利用されてきましたが、当社は、それらを踏まえて医薬品開発への応用を図り、ドラッグ・ウエスタン法を完成させました。 この方法の活用により、他の手法を活用した際に困難である新薬候補化合物の標的タンパク質の特定が容易になるほか、1回のスクリーニングで多数の標的タンパク質を同定することが可能です。既存の方法に対して、生物材料や化合物の消費量が少ないこと、スクリーニングの操作が単純であり短時間で完了すること等の長所を持ちます。 ドラッグ・ウエスタン法を活用した際の効果は、以下のとおりと考えられます。 a. 有効性:高い有効性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。新薬候補化合物の標的タンパク質を早期に同定することによって、その新薬候補化合物の作用機序(*)が明らかになり、その結果から、有効な新薬候補化合物の開発へとつなげていくことが可能になると考えております。 b. 安全性:副作用や他の医薬品との相互作用の予測により、高い安全性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。早期に標的タンパク質を同定することによって、副作用が起こるメカニズムの推測もしやすくなり、それにより、安全性の高い新薬候補化合物の開発が可能となります。また、作用メカニズムが明らかになることにより、他の薬剤との併用の可能性の分析がしやすくなり、薬としての利用機会の拡大とリスクの低減につながりやすいと考えます。 (ハ)細胞内情報伝達研究に由来する分子薬理学(*)に関する経験及びノウハウの活用 当社グループの創業者は、長年にわたって細胞内情報伝達の研究活動及び創薬活動に従事してきており、その研究・創薬活動の中で、これまでに製薬会社と共同で2つの上市薬の誕生に貢献しております。当社グループは、こうした活動において獲得した経験とノウハウを基盤に、研究開発活動を行い、2014年には当社設立以来初の上市薬が誕生いたしました。 当社グループの新薬の開発は、この分子薬理学に関する経験及びノウハウを駆使し、新薬候補化合物を設計し、合成することによって開始されております。ここで合成された新薬候補化合物の薬理学的傾向は、過去の分子薬理学に関する経験及びノウハウからある程度予測することが可能であるため、その予測を基に効率的な研究開発が可能になると考えております。 (ニ)提携関係を活用した研究開発体制 当社グループは、国立大学法人三重大学との産学官連携講座(後述「第一部 企業情報 第2 事業の状況 5 重要な契約等」参照)による共同研究等の提携関係を構築し、技術の取り込みを図り研究活動を進めております。また、研究開発の推進に向けては、業務受託企業等外部の企業を積極的に活用しております。こうした企業外部との提携関係を活用することによって、効率的な研究開発体制を構築することが可能となっております。 当社グループと外部機関との関係図(研究開発体制) <用語解説>(アルファベット、あいうえお順) * Rhoキナーゼ タンパク質リン酸化(*)酵素(プロテインキナーゼ)の一つであり、Rho-ROCK経路を介する多彩な細胞応答の制御機構に関与する酵素です。 * イソキノリンスルホンアミド化合物 当社が開発している化合物の有する骨格(形)の名称です。 * 化合物ライブラリー 当社が長年にわたり蓄積してきた新薬候補化合物のタネとなる化合物群です。これらの化合物の一つ一つが特徴的な性質を有しており、基礎研究や新薬候補化合物発見に利用されます。 * 細胞内情報伝達 神経刺激やホルモン等の細胞外からのシグナル(信号)を細胞内の必要な箇所へ伝えるシステムのことを言います。細胞内シグナル伝達とも言います。 * 作用機序 薬物が作用する仕組みのことを言います。近年では薬物作用の明確化の重要性が高まっており、この作用機序の解明が新薬開発において注目されております。 * 上市(じょうし) 新薬が承認され、実際に市場に出る(市販される)ことを言います。 * 水疱性角膜症 角膜内皮細胞が障害を受け、角膜浮腫が起こり、角膜が白く濁って視力が著しく低下する病気。フックス角膜内皮ジストロフィ、白内障や緑内障等の眼科手術により角膜内皮細胞が減少することが原因にあげられます。治療法は角膜移植手術になります。 * スクリーニング 新薬を開発するには、多数の候補化合物の中から、効果があり安全性が高いものを選び出すことが必要となります。このような多数の化合物から新薬の候補を探す一連の流れをスクリーニングと言います。 * スクリーニング毒性 細菌を用いる復帰突然変異試験(化学物質による、発癌性を含めた遺伝子に与える変化である変異原性を、細菌を用いてテストする試験)、ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験(明確な染色体構造を持たない細菌においては、染色体異常を検出できないため、人為的に生体外で培養したほ乳動物の細胞を用いて、染色体に対する遺伝毒性がないかをテストする試験)及びほ乳類を用いる28日間の反復毒性試験(ラット等の動物に一定期間毎日反復投与したときに現れる生体機能及び形態の変化を観察する試験)によって検出される毒性を指します。 * 阻害剤 生体内の様々な酵素分子に結合して、その酵素の活性を低下もしくは消失させる物質を指します。化学物質が特定の酵素の活性を低下もしくは消失させることにより、病気の治療薬として利用されることがあります。 * タンパク質リン酸化 タンパク質にリン酸基を移転する化学反応であり、タンパク質の働きを調節すると考えられております。 * 同定 単離した化学物質等の標的が何であるかを決定することを指します。 * ドラッグ・ウエスタン法 薬物の標的タンパク質の同定に用いられる手法で、当社がバイオテクノロジーを応用して発明し、特許を有しておりました。煩雑なタンパク質精製プロセスを介さずに、薬物が結合する少量のタンパク質を検出し、その遺伝子を特定することにより標的タンパク質を同定することができる方法です。 * 白内障 水晶体が白く濁り、視力障害を引き起こす病気です。主な原因は加齢によるもので、症状が進行している場合には、濁った水晶体を取り除き、眼内レンズを挿入する手術が行われます。日本では年間およそ120万件の手術が行われています。 * 標的タンパク質 薬物が作用する対象となるタンパク質を標的タンパク質と呼びます。生体においては多くのタンパク質が相互に作用することによって様々な機能を果たしており、多くの病気が特定のタンパク質の異常な働きによって引き起こされております。これらの病気には、これらのタンパク質を標的タンパク質として、その異常な動きを抑制する薬剤が有効となりうると考えられております。 * フックス角膜内皮変性症 角膜内皮細胞に障害がおき、角膜浮腫・混濁が生じ、視力が低下していく疾患です。欧米で多くみられ、日本では患者数が少ないとされています。これまでの治療法は角膜移植であり、有効な治療薬の開発が望まれています。 * プロテインキナーゼ ATP(アデノシン三リン酸と言われ、体内で作られる高エネルギー化合物)等、生体においてエネルギーの元となる低分子物質等のリン酸基を、タンパク質分子に転移する(リン酸化)酵素です。一般にリン酸化を触媒する酵素をキナーゼと呼び、特にタンパク質をリン酸化するキナーゼをプロテインキナーゼと言います。 * 分子薬理学 薬理学とは、薬物が生体に対してどのような作用により、影響・効果を発揮しているかを調べたり、薬物を用いて生体の機能を明らかにしたりする学問のことです。分子薬理学とは、その薬理学の調査の対象を生物の化学的性質を失わない最小の構成単位、つまり遺伝子のレベルで調べる学問です。 * リドカイン 神経末端において痛みの信号を遮断することにより痛みを軽減させる、局所麻酔薬の一種です。 * 緑内障・高眼圧症 緑内障とは、視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患です。適切に治療されずに放置すると視野狭窄から失明に至る疾患であり、日本の中途失明原因の第一位(2005年)となっております。また、高眼圧症とは、視野狭窄が無いものの、眼圧が正常値を超えている病態です。 現在、緑内障のエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は、「眼圧を下降すること」とされており、原発開放隅角緑内障(広義)に対する治療では、薬物治療が第1選択とされております。
FY2024|9,470 文字|出典 docID: S100VFSO
3【事業の内容】 当社グループは、当社及び連結子会社日本革新創薬株式会社(以下、「JIT」)の2社で構成されており、プロテインキナーゼ(*)阻害剤(*)を中心とした医薬品の研究開発を行い、開発品を製薬会社等にライセンスアウトすることによって収益を獲得する創薬事業を展開しております。 当社グループ事業の系統図は以下のとおりです。 (1)創薬事業について① 新薬開発の流れ 一般的に新薬の開発に際しては、基礎研究、非臨床試験、臨床試験、厚生労働省(あるいはアメリカ食品医薬品局(FDA)等の各国の医薬品許認可審査機関)への製造(輸入)承認申請、医薬品としての承認取得、薬価申請・収載を経て販売が開始され、患者様へ提供することが可能となります。このうち基礎研究活動は、新薬候補化合物の合成、スクリーニング(*)、スクリーニング毒性(*)の手続により実施されます。前述の基礎研究活動が終了した後、人に対する臨床試験の前に医薬品として満たすべき条件を、実験動物を用いて副作用及び安全性、安定性の検証を行う非臨床試験によって検証します。その後の臨床試験は、第Ⅰ相臨床試験、第Ⅱ相臨床試験、第Ⅲ相臨床試験の段階をもって実施されます。(下図参照) ② 創薬事業の概要 通常、新薬の研究開発過程において、非臨床試験から臨床試験へと開発が進捗するにしたがって、開発コストは大幅に増加し、また一定規模以上の自社臨床開発体制が必要となります。 当社グループは、研究開発活動の結果として、比較的早期の開発段階において開発品を製薬会社等へライセンスアウトしておりますが、これにより、臨床開発の推進に強みを持つ製薬会社等が開発を行うこととなり、自社での開発を継続する場合に比べて、低コストでの開発体制を維持できます。 このように、当社グループの創薬事業の特徴は、一般的な医薬候補品を開発するベンチャー企業に比べ、比較的早期の研究開発段階においてライセンスアウトが達成される点にありますが、これは、当社グループが基礎研究推進における独自の技術力を有していることと、その技術を基礎研究段階において十分に活用することにより効率的な研究開発が行われていることが要因と考えております。 当社グループの売上高は、主にライセンスアウト時に受領するフロントマネー収入、臨床開発進行に伴いその節目毎に受領するマイルストーン収入、製品上市(*)後販売額の一定比率を受領するロイヤリティ収入等によるものです。既に「DW-1002」、「リパスジル塩酸塩水和物(グラナテックⓇ点眼液0.4%(以下、「グラナテック」)、グラアルファⓇ配合点眼液(以下、「グラアルファ」)及び「K-321」)」及び「DW-1001」はいずれも製薬会社にライセンスアウト済みであり、「DW-1002(欧州・米国等)」、「グラナテック」及び「グラアルファ」については、上市されております。これらのフロントマネー収入、マイルストーン収入、ロイヤリティ収入等を新規開発プロジェクトに投入することによって、次なる新規開発品の開発を進めております。 当社グループの主な売上高は、以下のもので構成されております。売上高内容フロントマネー収入ライセンスアウト時に受領する収入。契約締結時に発生するため、契約一時金とも言う。マイルストーン収入臨床開発進行に伴いその節目毎に受領する収入。ロイヤリティ収入製品上市後販売額の一定比率を受領する収入。特許を実施する際に得られる収入のため実施料、ライセンス料とも言う。 ③ 開発パイプラインについて 現在、当社グループが保有する開発パイプラインは以下のとおりです。(イ)上市品製品名等対象疾患地域ライセンスアウト先DW-1002ブリリアントブルーGILM-BlueⓇ、TissueBlue™内境界膜染色欧州・米国等DORCブリリアントブルーG/トリパンブルーMembraneBlue-DualⓇ内境界膜、網膜上膜及び増殖硝子体網膜症における増殖膜染色欧州等リパスジル塩酸塩水和物グラナテックⓇ点眼液0.4%緑内障・高眼圧症(*)日本、アジア(注)興和リパスジル塩酸塩水和物/ブリモニジン酒石酸塩グラアルファⓇ配合点眼液緑内障・高眼圧症日本(注)日本は2024年9月にロイヤリティ受領期間が終了いたしました。アジアは一部地域についてロイヤリティを受領しております。 (ロ)開発パイプライン開発コード等対象疾患開発段階地域ライセンスアウト先K-321リパスジル塩酸塩水和物フックス角膜内皮変性症(*)第Ⅲ相臨床試験米国、欧州等興和DW-1002ブリリアントブルーG内境界膜染色申請中国DORC第Ⅲ相臨床試験日本わかもと製薬水晶体前嚢染色第Ⅲ相臨床試験日本ブリリアントブルーG/トリパンブルー内境界膜及び網膜上膜染色申請準備中米国DORCDW-1001眼科用治療剤(非開示)第Ⅰ相臨床試験日本ロート製薬H-1337緑内障・高眼圧症後期第Ⅱ相臨床試験米国自社開発DW-5LBT帯状疱疹後の神経疼痛申請米国メドレックスと共同開発DWR-2206水疱性角膜症(*)第Ⅱ相臨床試験日本アクチュアライズと共同開発 各開発パイプラインの詳細は以下のとおりです。(イ)DW-1002(単剤の対象疾患:内境界膜染色、水晶体前嚢染色、配合剤の対象疾患:内境界膜、網膜上膜及び増殖硝子体網膜症における増殖膜染色) 本開発品は、国立大学法人九州大学の研究グループが発見したBBG250(Brilliant Blue G-250)という染色性の高い色素を主成分とした眼科手術補助剤について、独占的ライセンスに基づき開発している開発品で、眼内にある内境界膜又は水晶体を保護するカプセルを一時的に安全に染色し、硝子体・白内障(*)の手術を行いやすくするものです。当社は、2017年に本事業を譲受いたしました。 日本以外の全世界向けの独占的なサブライセンスをDutch Ophthalmic Research Center International B.V.(以下、「DORC」)に付与しており、DORCは2010年から欧州等において、硝子体手術時の内境界膜染色を対象とした単剤(ブリリアントブルーG)並びに硝子体手術時の内境界膜、網膜上膜及び増殖硝子体網膜症における増殖膜染色を対象とした配合剤(ブリリアントブルーG/トリパンブルー)を製造・販売しております。2020年には米国においても単剤の販売を開始し、現在は、欧州・米国を含む世界76の国と地域で販売されております。また、単剤は2023年5月に中国へ承認申請し、さらに、配合剤は7月に内境界膜及び網膜上膜染色を対象に米国でオーファンドラッグ指定を受けました。 国内については、わかもと製薬株式会社(以下、「わかもと製薬」)に独占的サブライセンスを付与しており、わかもと製薬は硝子体手術時の内境界膜染色、白内障手術時の水晶体前嚢染色を対象として、製造販売承認取得に向けて開発を進めております。 (ロ)リパスジル塩酸塩水和物(a)グラナテックⓇ点眼液0.4%(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、プロテインキナーゼの一種であるRhoキナーゼ(*)を選択的に阻害するイソキノリンスルホンアミド化合物(*)であり、眼圧下降作用により緑内障・高眼圧症を治療する点眼剤です。緑内障治療剤における世界初の作用機序(*)を有しており、Rhoキナーゼを阻害することにより、線維柱帯-シュレム管を介する主流出路からの房水流出を促進することで眼圧を下降させます。 当社は、2002年に本開発品の全世界の権利を興和株式会社(以下、「興和」)にライセンスアウトいたしました。その後は興和により臨床試験が進められ、2014年に緑内障・高眼圧症を適応症として国内上市されました。さらに、海外展開も進められ、アジア一部地域において上市されております。なお、日本については2024年9月にロイヤリティ受領期間が終了いたしました。(b)K-321(対象疾患:フックス角膜内皮変性症) Rhoキナーゼ阻害剤であるグラナテックは、眼内にあるキナーゼに作用する可能性があることが示唆されており、他眼科疾患への適応可能性が検討されておりました。適応拡大に向けた取り組みとして、2019年に米国第Ⅱ相臨床試験のIND申請(治験許可申請)がなされ、興和にてフックス角膜内皮変性症を適応症とした試験が行われました。その後、2022年に米国第Ⅲ相臨床試験が開始され、2023年3月に米国を含めたグローバル第Ⅲ相臨床試験が開始されました。フックス角膜内皮変性症は病態の進行にともない角膜内皮障害に至ります。重度の視覚障害を有する角膜内皮疾患のこれまでの治療法は角膜移植であり、有効な治療薬の開発が望まれています。(c)グラアルファⓇ配合点眼液(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、リパスジル塩酸塩水和物とブリモニジン酒石酸塩を含有する世界で初めての組み合わせの配合点眼剤です。2020年より、興和にて緑内障・高眼圧症を適応症として国内第Ⅲ相臨床試験が行われ、2022年に国内上市されました。さらに、海外展開も進められ、アジア一部地域において承認取得されております。緑内障の治療は、多剤併用が標準的な治療法となりつつあります。本開発品により、アドヒアランスの向上が期待され、緑内障患者様の治療に貢献できるものと考えております。 (ハ)DW-1001(対象疾患:非開示) 本開発品は、2015年に英国企業から導入した眼科用治療剤です。 他の疾患を適応症として既に市販されている化合物を眼科適応への適応拡大を目指す、いわゆるリポジショニングの手法での開発を目指しており、開発のコスト並びにリスクは相対的に低くなることが期待されます。 2019年に日本における独占的実施権をロート製薬株式会社(以下、「ロート製薬」)にライセンスアウトいたしました。ロート製薬では、非臨床試験を進め、2022年に国内第Ⅰ相臨床試験が良好な結果で終了いたしました。 (ニ)H-1337(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、プロテインキナーゼ阻害剤を中心とする当社化合物ライブラリー(*)のシード化合物を基にして最適化された、緑内障・高眼圧症を対象疾患とする開発品です。当社初となる自社臨床開発を行っており、2018年に米国第Ⅰ相/前期第Ⅱ相臨床試験を良好な結果で終了いたしました。その後、2023年8月に米国後期第Ⅱ相臨床試験の投与を開始し、2024年8月に投与完了いたしました。試験結果は良好で、本開発品の有効性が確認され、安全性に関して重篤な有害事象は認められませんでしたので、第Ⅲ相臨床試験に向けた準備並びにライセンスアウト活動を進めてまいります。 また、適応拡大の研究を進めており、滲出型加齢黄斑変性に対する治療効果、並びに肺高血圧に対する治療効果も動物試験において確認されております。 (ホ)DW-5LBT(対象疾患:帯状疱疹後の神経疼痛) 本開発品は、イオン液体を利用した株式会社メドレックス(以下、「メドレックス」)の独自技術ILTS(Ionic Liquid Transdermal System)を用いた新規のリドカイン(*)テープ剤であり、リドカインパップ剤Lidodermの市場をターゲットとして開発が進められております。メドレックスが帯状疱疹後の神経疼痛治療薬として開発を進めており、当社は2020年に共同開発を開始いたしました。2020年に米国FDA(米国食品医薬品局)に承認申請いたしましたが、審査完了報告通知を受領いたしました。その後、再申請及びFDAの指摘事項への対応を重ね、現在、2024年7月に受領した審査完了報告通知の対応を行っており、再申請を目指す方針です。 (ヘ)DWR-2206(対象疾患:水疱性角膜症) 本開発品は、水疱性角膜症を適応症とした再生医療用細胞製品で、培養ヒト角膜内皮細胞とROCK阻害剤を含有した懸濁液を前房内に注入し、角膜内皮の再生の治療に用いられます。アクチュアライズ株式会社が開発を進めており、当社は2022年に共同開発を開始いたしました。当社初となる再生医療品であり、2024年3月に国内第Ⅱ相臨床試験を開始し、12月に予定していた被験者への移植手術を全て完了いたしました。現在、評価・観察を進めております。 ④ 研究プロジェクトについて 当社グループは、プロテインキナーゼ阻害剤を中心とした新薬候補化合物の創出を行っております。プロテインキナーゼを対象とする疾患は様々ですが、特に眼科関連疾患に注力した研究を推進しております。また、自社の創薬基盤技術を活かし、他社との提携を積極的に推進しております。主なプロジェクトとしては、眼科関連疾患や神経系、呼吸器系疾患等を対象としたシグナル伝達阻害剤開発プロジェクトを当社開発研究所(国立大学法人三重大学の研究施設)において行っております。また、大学等との共同研究においては、当社開発品の適応拡大や主に眼科関連疾患を対象に複数のプロジェクトを積極的に進めております。 ⑤ 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴について 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴は以下のとおりです。 (イ)プロテインキナーゼ阻害剤を中心とした新薬候補化合物の創製 当社グループは主にプロテインキナーゼ阻害剤を中心とした研究開発を進めております。 プロテインキナーゼは、細胞の分化、増殖等の細胞内情報伝達(*)機能を担っている重要な酵素であるとされており、そのプロテインキナーゼに対し、有望な新薬候補品である阻害剤を投与することによって治療効果を高めるのが当社グループの開発の特徴であります。 当社は、有望な新薬候補品を創製するために、独自に開発した化合物ライブラリーを保有しており、これらの開発過程で蓄積したデータやノウハウを活用して、新薬候補化合物を合成しておりますが、これらの技術力が高いことから有効な新薬候補化合物が見つかる可能性が高いと考えております。 (ロ)当社独自の標的タンパク質(*)の同定(*)方法であるドラッグ・ウエスタン法(*)の活用 当社は、ドラッグ・ウエスタン法という独自に開発した方法を使って、新薬候補化合物の標的タンパク質を同定しております。生物学の分野では、標的タンパク質を同定するために様々な方法が利用されてきましたが、当社は、それらを踏まえて医薬品開発への応用を図り、ドラッグ・ウエスタン法を完成させました。 この方法の活用により、他の手法を活用した際に困難である新薬候補化合物の標的タンパク質の特定が容易になるほか、1回のスクリーニングで多数の標的タンパク質を同定することが可能です。既存の方法に対して、生物材料や化合物の消費量が少ないこと、スクリーニングの操作が単純であり短時間で完了すること等の長所を持ちます。 ドラッグ・ウエスタン法を活用した際の効果は、以下のとおりと考えられます。 a. 有効性:高い有効性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。新薬候補化合物の標的タンパク質を早期に同定することによって、その新薬候補化合物の作用機序が明らかになり、その結果から、有効な新薬候補化合物の開発へとつなげていくことが可能になると考えております。 b. 安全性:副作用や他の医薬品との相互作用の予測により、高い安全性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。早期に標的タンパク質を同定することによって、副作用が起こるメカニズムの推測もしやすくなり、それにより、安全性の高い新薬候補化合物の開発が可能となります。また、作用メカニズムが明らかになることにより、他の薬剤との併用の可能性の分析がしやすくなり、薬としての利用機会の拡大とリスクの低減につながりやすいと考えます。 (ハ)細胞内情報伝達研究に由来する分子薬理学(*)に関する経験及びノウハウの活用 当社グループの創業者は、長年にわたって細胞内情報伝達の研究活動及び創薬活動に従事してきており、その研究・創薬活動の中で、これまでに製薬会社と共同で2つの上市薬の誕生に貢献しております。当社グループは、こうした活動において獲得した経験とノウハウを基盤に、研究開発活動を行い、2014年には当社設立以来初の上市薬が誕生いたしました。 当社グループの新薬の開発は、この分子薬理学に関する経験及びノウハウを駆使し、新薬候補化合物を設計し、合成することによって開始されております。ここで合成された新薬候補化合物の薬理学的傾向は、過去の分子薬理学に関する経験及びノウハウからある程度予測することが可能であるため、その予測を基に効率的な研究開発が可能になると考えております。 (ニ)提携関係を活用した研究開発体制 当社グループは、国立大学法人三重大学との産学官連携講座(後述「第一部 企業情報 第2 事業の状況 5 経営上の重要な契約等」参照)による共同研究等の提携関係を構築し、技術の取り込みを図り研究活動を進めております。また、研究開発の推進に向けては、業務受託企業等外部の企業を積極的に活用しております。こうした企業外部との提携関係を活用することによって、効率的な研究開発体制を構築することが可能となっております。 当社グループと外部機関との関係図(研究開発体制) <用語解説>(アルファベット、あいうえお順) * Rhoキナーゼ タンパク質リン酸化(*)酵素(プロテインキナーゼ)の一つであり、Rho-ROCK経路を介する多彩な細胞応答の制御機構に関与する酵素です。 * イソキノリンスルホンアミド化合物 当社が開発している化合物の有する骨格(形)の名称です。 * 化合物ライブラリー 当社が長年にわたり蓄積してきた新薬候補化合物のタネとなる化合物群です。これらの化合物の一つ一つが特徴的な性質を有しており、基礎研究や新薬候補化合物発見に利用されます。 * 細胞内情報伝達 神経刺激やホルモン等の細胞外からのシグナル(信号)を細胞内の必要な箇所へ伝えるシステムのことを言います。細胞内シグナル伝達とも言います。 * 作用機序 薬物が作用する仕組みのことを言います。近年では薬物作用の明確化の重要性が高まっており、この作用機序の解明が新薬開発において注目されております。 * 上市(じょうし) 新薬が承認され、実際に市場に出る(市販される)ことを言います。 * 水疱性角膜症 角膜内皮細胞が障害を受け、角膜浮腫が起こり、角膜が白く濁って視力が著しく低下する病気。フックス角膜内皮ジストロフィ、白内障や緑内障等の眼科手術により角膜内皮細胞が減少することが原因にあげられます。治療法は角膜移植手術になります。 * スクリーニング 新薬を開発するには、多数の候補化合物の中から、効果があり安全性が高いものを選び出すことが必要となります。このような多数の化合物から新薬の候補を探す一連の流れをスクリーニングと言います。 * スクリーニング毒性 細菌を用いる復帰突然変異試験(化学物質による、発癌性を含めた遺伝子に与える変化である変異原性を、細菌を用いてテストする試験)、ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験(明確な染色体構造を持たない細菌においては、染色体異常を検出できないため、人為的に生体外で培養したほ乳動物の細胞を用いて、染色体に対する遺伝毒性がないかをテストする試験)及びほ乳類を用いる28日間の反復毒性試験(ラット等の動物に一定期間毎日反復投与したときに現れる生体機能及び形態の変化を観察する試験)によって検出される毒性を指します。 * 阻害剤 生体内の様々な酵素分子に結合して、その酵素の活性を低下もしくは消失させる物質を指します。化学物質が特定の酵素の活性を低下もしくは消失させることにより、病気の治療薬として利用されることがあります。 * タンパク質リン酸化 タンパク質にリン酸基を移転する化学反応であり、タンパク質の働きを調節すると考えられております。 * 同定 単離した化学物質等の標的が何であるかを決定することを指します。 * ドラッグ・ウエスタン法 薬物の標的タンパク質の同定に用いられる手法で、当社がバイオテクノロジーを応用して発明し、特許を有しておりました。煩雑なタンパク質精製プロセスを介さずに、薬物が結合する少量のタンパク質を検出し、その遺伝子を特定することにより標的タンパク質を同定することができる方法です。 * 白内障 水晶体が白く濁り、視力障害を引き起こす病気です。主な原因は加齢によるもので、症状が進行している場合には、濁った水晶体を取り除き、眼内レンズを挿入する手術が行われます。日本では年間およそ120万件の手術が行われています。 * 標的タンパク質 薬物が作用する対象となるタンパク質を標的タンパク質と呼びます。生体においては多くのタンパク質が相互に作用することによって様々な機能を果たしており、多くの病気が特定のタンパク質の異常な働きによって引き起こされております。これらの病気には、これらのタンパク質を標的タンパク質として、その異常な動きを抑制する薬剤が有効となりうると考えられております。 * フックス角膜内皮変性症 角膜内皮細胞に障害がおき、角膜浮腫・混濁が生じ、視力が低下していく疾患です。欧米で多くみられ、日本では患者数が少ないとされています。これまでの治療法は角膜移植であり、有効な治療薬の開発が望まれています。 * プロテインキナーゼ ATP(アデノシン三リン酸と言われ、体内で作られる高エネルギー化合物)等、生体においてエネルギーの元となる低分子物質等のリン酸基を、タンパク質分子に転移する(リン酸化)酵素です。一般にリン酸化を触媒する酵素をキナーゼと呼び、特にタンパク質をリン酸化するキナーゼをプロテインキナーゼと言います。 * 分子薬理学 薬理学とは、薬物が生体に対してどのような作用により、影響・効果を発揮しているかを調べたり、薬物を用いて生体の機能を明らかにしたりする学問のことです。分子薬理学とは、その薬理学の調査の対象を生物の化学的性質を失わない最小の構成単位、つまり遺伝子のレベルで調べる学問です。 * リドカイン 神経末端において痛みの信号を遮断することにより痛みを軽減させる、局所麻酔薬の一種です。 * 緑内障・高眼圧症 緑内障とは、視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患です。適切に治療されずに放置すると視野狭窄から失明に至る疾患であり、日本の中途失明原因の第一位(2005年)となっております。また、高眼圧症とは、視野狭窄が無いものの、眼圧が正常値を超えている病態です。 現在、緑内障のエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は、「眼圧を下降すること」とされており、原発開放隅角緑内障(広義)に対する治療では、薬物治療が第1選択とされております。
FY2023|9,360 文字|出典 docID: S100T4H9
3【事業の内容】 当社グループは、当社及び連結子会社日本革新創薬株式会社(以下、「JIT」)の2社で構成されており、プロテインキナーゼ(*)阻害剤(*)を中心とした医薬品の研究開発を行い、開発品を製薬会社等にライセンスアウトすることによって収益を獲得する創薬事業を展開しております。 当社グループ事業の系統図は以下のとおりです。 (1)創薬事業について① 新薬開発の流れ 一般的に新薬の開発に際しては、基礎研究、非臨床試験、臨床試験、厚生労働省(あるいはアメリカ食品医薬品局(FDA)等の各国の医薬品許認可審査機関)への製造(輸入)承認申請、医薬品としての承認取得、薬価申請・収載を経て販売が開始され、患者様へ提供することが可能となります。このうち基礎研究活動は、新薬候補化合物の合成、スクリーニング(*)、スクリーニング毒性(*)の手続により実施されます。前述の基礎研究活動が終了した後、人に対する臨床試験の前に医薬品として満たすべき条件を、実験動物を用いて副作用及び安全性、安定性の検証を行う非臨床試験によって検証します。その後の臨床試験は、第Ⅰ相臨床試験、第Ⅱ相臨床試験、第Ⅲ相臨床試験の段階をもって実施されます。(下図参照) ② 創薬事業の概要 通常、新薬の研究開発過程において、非臨床試験から臨床試験へと開発が進捗するにしたがって、開発コストは大幅に増加し、また一定規模以上の自社臨床開発体制が必要となります。 当社グループは、研究開発活動の結果として、比較的早期の開発段階において開発品を製薬会社等へライセンスアウトしておりますが、これにより、臨床開発の推進に強みを持つ製薬会社等が開発を行うこととなり、自社での開発を継続する場合に比べて、低コストでの開発体制を維持できます。 このように、当社グループの創薬事業の特徴は、一般的な医薬候補品を開発するベンチャー企業に比べ、比較的早期の研究開発段階においてライセンスアウトが達成される点にありますが、これは、当社グループが基礎研究推進における独自の技術力を有していることと、その技術を基礎研究段階において十分に活用することにより効率的な研究開発が行われていることが要因と考えております。 当社グループの売上高は、主にライセンスアウト時に受領するフロントマネー収入、臨床開発進行に伴いその節目毎に受領するマイルストーン収入、製品上市(*)後販売額の一定比率を受領するロイヤリティ収入等によるものです。既に「リパスジル塩酸塩水和物(グラナテックⓇ点眼液0.4%(以下、「グラナテック」)、グラアルファⓇ配合点眼液(以下、「グラアルファ」)及び「K-321」)」、「DW-1002」及び「DW-1001」はいずれも製薬会社にライセンスアウト済みであり、「グラナテック」、「グラアルファ」及び「DW-1002(欧州・米国等)」については、上市されロイヤリティ収入を得ております。これらのフロントマネー収入、マイルストーン収入、ロイヤリティ収入等を新規開発プロジェクトに投入することによって、次なる新規開発品の開発を進めております。 当社グループの主な売上高は、以下のもので構成されております。売上高内容フロントマネー収入ライセンスアウト時に受領する収入。契約締結時に発生するため、契約一時金とも言う。マイルストーン収入臨床開発進行に伴いその節目毎に受領する収入。ロイヤリティ収入製品上市後販売額の一定比率を受領する収入。特許を実施する際に得られる収入のため実施料、ライセンス料とも言う。 ③ 開発パイプラインについて 現在、当社グループが保有する開発パイプラインは以下のとおりです。(イ)上市品製品名等対象疾患地域ライセンスアウト先リパスジル塩酸塩水和物グラナテックⓇ点眼液0.4%緑内障・高眼圧症(*)日本、アジア(注)興和リパスジル塩酸塩水和物/ブリモニジン酒石酸塩グラアルファⓇ配合点眼液緑内障・高眼圧症日本DW-1002ブリリアントブルーGILM-BlueⓇ、TissueBlue™内境界膜染色欧州・米国等DORCブリリアントブルーG/トリパンブルーMembraneBlue-DualⓇ内境界膜、網膜上膜及び増殖硝子体網膜症における増殖膜染色欧州等(注)アジア一部地域において上市されております。 (ロ)開発パイプライン開発コード等対象疾患開発段階地域ライセンスアウト先K-321リパスジル塩酸塩水和物フックス角膜内皮変性症(*)第Ⅲ相臨床試験米国、欧州等興和DW-1002ブリリアントブルーG内境界膜染色申請中国DORC第Ⅲ相臨床試験日本わかもと製薬水晶体前嚢染色第Ⅲ相臨床試験日本ブリリアントブルーG/トリパンブルー内境界膜及び網膜上膜染色申請準備中米国DORCDW-1001眼科用治療剤(非開示)第Ⅰ相臨床試験日本ロート製薬H-1337緑内障・高眼圧症後期第Ⅱ相臨床試験米国自社開発DW-5LBT帯状疱疹後の神経疼痛申請米国メドレックスと共同開発DWR-2206水疱性角膜症(*)非臨床試験日本アクチュアライズと共同開発 各開発パイプラインの詳細は以下のとおりです。(イ)リパスジル塩酸塩水和物(a)グラナテックⓇ点眼液0.4%(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、プロテインキナーゼ(*)の一種であるRhoキナーゼ(*)を選択的に阻害するイソキノリンスルホンアミド化合物(*)であり、眼圧下降作用により緑内障・高眼圧症を治療する点眼剤です。緑内障治療剤における世界初の作用機序(*)を有しており、Rhoキナーゼを阻害することにより、線維柱帯-シュレム管を介する主流出路からの房水流出を促進することで眼圧を下降させます。 当社は、2002年に本開発品の全世界の権利を興和株式会社(以下、「興和」)にライセンスアウトいたしました。その後は興和により臨床試験が進められ、2014年に緑内障・高眼圧症を適応症として国内上市されました。さらに、海外展開も進められ、アジア一部地域において承認取得、販売開始されております。(b)K-321(対象疾患:フックス角膜内皮変性症) Rhoキナーゼ阻害剤(*)であるグラナテックは、眼内にあるキナーゼに作用する可能性があることが示唆されており、他眼科疾患への適応可能性が検討されておりました。適応拡大に向けた取り組みとして、2019年に米国第Ⅱ相臨床試験のIND申請(治験許可申請)がなされ、興和にてフックス角膜内皮変性症を適応症とした試験が行われました。その後、2022年に米国第Ⅲ相臨床試験が開始され、2023年3月に米国を含めたグローバル第Ⅲ相臨床試験が開始されました。フックス角膜内皮変性症は病態の進行にともない角膜内皮障害に至ります。重度の視覚障害を有する角膜内皮疾患のこれまでの治療法は角膜移植であり、有効な治療薬の開発が望まれています。(c)グラアルファⓇ配合点眼液(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、リパスジル塩酸塩水和物とブリモニジン酒石酸塩を含有する世界で初めての組み合わせの配合点眼剤です。2020年より、興和にて緑内障・高眼圧症を適応症として国内第Ⅲ相臨床試験が行われ、2022年に国内上市されました。緑内障の治療は、多剤併用が標準的な治療法となりつつあります。本開発品により、アドヒアランスの向上が期待され、緑内障患者様の治療に貢献できるものと考えております。 (ロ)DW-1002(単剤の対象疾患:内境界膜染色、水晶体前嚢染色、配合剤の対象疾患:内境界膜、網膜上膜及び増殖硝子体網膜症における増殖膜染色) 本開発品は、国立大学法人九州大学の研究グループが発見したBBG250(Brilliant Blue G-250)という染色性の高い色素を主成分とした眼科手術補助剤について、独占的ライセンスに基づき開発している開発品で、眼内にある内境界膜又は水晶体を保護するカプセルを一時的に安全に染色し、硝子体・白内障(*)の手術を行いやすくするものです。当社は、2017年に本事業を譲受いたしました。 日本以外の全世界向けの独占的なサブライセンスをDutch Ophthalmic Research Center International B.V.(以下、「DORC」)に付与しており、DORCは2010年から欧州等において、硝子体手術時の内境界膜染色を対象とした単剤(ブリリアントブルーG)並びに硝子体手術時の内境界膜、網膜上膜及び増殖硝子体網膜症における増殖膜染色を対象とした配合剤(ブリリアントブルーG/トリパンブルー)を製造・販売しております。2020年には米国においても単剤の販売を開始し、現在は、欧州・米国を含む世界76の国と地域で販売されております。また、単剤は2023年5月に中国へ承認申請し、さらに、配合剤は7月に米国でオーファンドラッグ指定を受けました。 国内については、わかもと製薬株式会社(以下、「わかもと製薬」)に独占的サブライセンスを付与しており、わかもと製薬は硝子体手術時の内境界膜染色、白内障手術時の水晶体前嚢染色を対象として、製造販売承認取得に向けて開発を進めております。 (ハ)DW-1001(対象疾患:非開示) 本開発品は、2015年に英国企業から導入した眼科用治療剤です。 他の疾患を適応症として既に市販されている化合物を眼科適応への適応拡大を目指す、いわゆるリポジショニングの手法での開発を目指しており、開発のコスト並びにリスクは相対的に低くなることが期待されます。 2019年に日本における独占的実施権をロート製薬株式会社(以下、「ロート製薬」)にライセンスアウトいたしました。ロート製薬では、非臨床試験を進め、2022年に国内第Ⅰ相臨床試験が良好な結果で終了いたしました。現在、国内第Ⅱ相臨床試験の準備が進められております。 (ニ)H-1337(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、プロテインキナーゼ阻害剤を中心とする当社化合物ライブラリー(*)のシード化合物を基にして最適化された、緑内障・高眼圧症を対象疾患とする開発品です。当社初となる自社臨床開発を行っており、2018年に米国第Ⅰ相/前期第Ⅱ相臨床試験を終了いたしました。試験結果は良好で、有効性の主要評価項目で本開発品の有効性が確認され、安全性に関して重篤な有害事象は認められませんでした。2023年8月に米国後期第Ⅱ相臨床試験の投与を開始しております。 また、適応拡大の研究を進めており、滲出型加齢黄斑変性に対する治療効果、並びに肺高血圧に対する治療効果も動物試験において確認されております。 (ホ)DW-5LBT(対象疾患:帯状疱疹後の神経疼痛) 本開発品は、イオン液体を利用した株式会社メドレックス(以下、「メドレックス」)の独自技術ILTS(Ionic Liquid Transdermal System)を用いた新規のリドカイン(*)テープ剤であり、リドカインパップ剤Lidodermの市場をターゲットとして開発が進められております。メドレックスが帯状疱疹後の神経疼痛治療薬として開発を進めており、当社は2020年に共同開発を開始いたしました。2020年に米国FDA(米国食品医薬品局)に承認申請いたしましたが、2021年に審査完了報告通知を受領いたしました。承認取得のために必要であると指摘を受けた追加試験は良好な結果で終了しており、2023年3月に再申請を行いましたが、9月に審査完了報告通知を受領したため、FDA指摘事項に対応し、2024年1月に再度申請を行いました。 (ヘ)DWR-2206(対象疾患:水疱性角膜症) 本開発品は、水疱性角膜症を適応症とした再生医療用細胞製品で、培養ヒト角膜内皮細胞とROCK阻害剤を含有した懸濁液を前房内に注入し、角膜内皮の再生の治療に用いられます。アクチュアライズ株式会社が開発を進めており、当社は2022年に共同開発を開始いたしました。当社初となる再生医療品であり、現在、国内臨床試験に向けた準備を進めております。 ④ 研究プロジェクトについて 当社グループは、プロテインキナーゼ阻害剤を中心とした新薬候補化合物の創出を行っております。プロテインキナーゼを対象とする疾患は様々ですが、特に眼科関連疾患に注力した研究を推進しております。また、自社の創薬基盤技術を活かし、他社との提携を積極的に推進しております。主なプロジェクトとしては、眼科関連疾患や神経系、呼吸器系疾患等を対象としたシグナル伝達阻害剤開発プロジェクトを当社開発研究所(国立大学法人三重大学の研究施設)において行っております。また、共同研究として、ユビエンス株式会社との標的タンパク質(*)分解誘導薬プロジェクト、ラクオリア創薬株式会社との眼疾患治療薬創製プロジェクト等、複数のプロジェクトを進めております。 ⑤ 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴について 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴は以下のとおりです。 (イ)プロテインキナーゼ阻害剤を中心とした新薬候補化合物の創製 当社グループは主にプロテインキナーゼ阻害剤を中心とした研究開発を進めております。 プロテインキナーゼは、細胞の分化、増殖等の細胞内情報伝達(*)機能を担っている重要な酵素であるとされており、そのプロテインキナーゼに対し、有望な新薬候補品である阻害剤を投与することによって治療効果を高めるのが当社グループの開発の特徴であります。 当社は、有望な新薬候補品を創製するために、独自に開発した化合物ライブラリーを保有しており、これらの開発過程で蓄積したデータやノウハウを活用して、新薬候補化合物を合成しておりますが、これらの技術力が高いことから有効な新薬候補化合物が見つかる可能性が高いと考えております。 (ロ)当社独自の標的タンパク質の同定(*)方法であるドラッグ・ウエスタン法(*)の活用 当社は、ドラッグ・ウエスタン法という独自に開発した方法を使って、新薬候補化合物の標的タンパク質を同定しております。生物学の分野では、標的タンパク質を同定するために様々な方法が利用されてきましたが、当社は、それらを踏まえて医薬品開発への応用を図り、ドラッグ・ウエスタン法を完成させました。 この方法の活用により、他の手法を活用した際に困難である新薬候補化合物の標的タンパク質の特定が容易になるほか、1回のスクリーニングで多数の標的タンパク質を同定することが可能です。既存の方法に対して、生物材料や化合物の消費量が少ないこと、スクリーニングの操作が単純であり短時間で完了すること等の長所を持ちます。 ドラッグ・ウエスタン法を活用した際の効果は、以下のとおりと考えられます。 a. 有効性:高い有効性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。新薬候補化合物の標的タンパク質を早期に同定することによって、その新薬候補化合物の作用機序が明らかになり、その結果から、有効な新薬候補化合物の開発へとつなげていくことが可能になると考えております。 b. 安全性:副作用や他の医薬品との相互作用の予測により、高い安全性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。早期に標的タンパク質を同定することによって、副作用が起こるメカニズムの推測もしやすくなり、それにより、安全性の高い新薬候補化合物の開発が可能となります。また、作用メカニズムが明らかになることにより、他の薬剤との併用の可能性の分析がしやすくなり、薬としての利用機会の拡大とリスクの低減につながりやすいと考えます。 (ハ)細胞内情報伝達研究に由来する分子薬理学(*)に関する経験及びノウハウの活用 当社グループの創業者は、長年にわたって細胞内情報伝達の研究活動及び創薬活動に従事してきており、その研究・創薬活動の中で、これまでに製薬会社と共同で2つの上市薬の誕生に貢献しております。当社グループは、こうした活動において獲得した経験とノウハウを基盤に、研究開発活動を行い、2014年には当社設立以来初の上市薬が誕生いたしました。 当社グループの新薬の開発は、この分子薬理学に関する経験及びノウハウを駆使し、新薬候補化合物を設計し、合成することによって開始されております。ここで合成された新薬候補化合物の薬理学的傾向は、過去の分子薬理学に関する経験及びノウハウからある程度予測することが可能であるため、その予測を基に効率的な研究開発が可能になると考えております。 (ニ)提携関係を活用した研究開発体制 当社グループは、国立大学法人三重大学との産学官連携講座(後述「第一部 企業情報 第2 事業の状況 5 経営上の重要な契約等」参照)による共同研究等の提携関係を構築し、技術の取り込みを図り研究活動を進めております。また、研究開発の推進に向けては、業務受託企業等外部の企業を積極的に活用しております。こうした企業外部との提携関係を活用することによって、効率的な研究開発体制を構築することが可能となっております。 当社グループと外部機関との関係図(研究開発体制) <用語解説>(アルファベット、あいうえお順) * Rhoキナーゼ タンパク質リン酸化(*)酵素(プロテインキナーゼ)の一つであり、Rho-ROCK経路を介する多彩な細胞応答の制御機構に関与する酵素です。 * イソキノリンスルホンアミド化合物 当社が開発している化合物の有する骨格(形)の名称です。 * 化合物ライブラリー 当社が長年にわたり蓄積してきた新薬候補化合物のタネとなる化合物群です。これらの化合物の一つ一つが特徴的な性質を有しており、基礎研究や新薬候補化合物発見に利用されます。 * 細胞内情報伝達 神経刺激やホルモン等の細胞外からのシグナル(信号)を細胞内の必要な箇所へ伝えるシステムのことを言います。細胞内シグナル伝達とも言います。 * 作用機序 薬物が作用する仕組みのことを言います。近年では薬物作用の明確化の重要性が高まっており、この作用機序の解明が新薬開発において注目されております。 * 上市(じょうし) 新薬が承認され、実際に市場に出る(市販される)ことを言います。 * 水疱性角膜症 角膜内皮細胞が障害を受け、角膜浮腫が起こり、角膜が白く濁って視力が著しく低下する病気。フックス角膜内皮ジストロフィ、白内障や緑内障等の眼科手術により角膜内皮細胞が減少することが原因にあげられます。治療法は角膜移植手術になります。 * スクリーニング 新薬を開発するには、多数の候補化合物の中から、効果があり安全性が高いものを選び出すことが必要となります。このような多数の化合物から新薬の候補を探す一連の流れをスクリーニングと言います。 * スクリーニング毒性 細菌を用いる復帰突然変異試験(化学物質による、発癌性を含めた遺伝子に与える変化である変異原性を、細菌を用いてテストする試験)、ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験(明確な染色体構造を持たない細菌においては、染色体異常を検出できないため、人為的に生体外で培養したほ乳動物の細胞を用いて、染色体に対する遺伝毒性がないかをテストする試験)及びほ乳類を用いる28日間の反復毒性試験(ラット等の動物に一定期間毎日反復投与したときに現れる生体機能及び形態の変化を観察する試験)によって検出される毒性を指します。 * 阻害剤 生体内の様々な酵素分子に結合して、その酵素の活性を低下もしくは消失させる物質を指します。化学物質が特定の酵素の活性を低下もしくは消失させることにより、病気の治療薬として利用されることがあります。 * タンパク質リン酸化 タンパク質にリン酸基を移転する化学反応であり、タンパク質の働きを調節すると考えられております。 * 同定 単離した化学物質等の標的が何であるかを決定することを指します。 * ドラッグ・ウエスタン法 薬物の標的タンパク質の同定に用いられる手法で、当社がバイオテクノロジーを応用して発明し、特許を有しておりました。煩雑なタンパク質精製プロセスを介さずに、薬物が結合する少量のタンパク質を検出し、その遺伝子を特定することにより標的タンパク質を同定することができる方法です。 * 白内障 水晶体が白く濁り、視力障害を引き起こす病気です。主な原因は加齢によるもので、症状が進行している場合には、濁った水晶体を取り除き、眼内レンズを挿入する手術が行われます。日本では年間およそ120万件の手術が行われています。 * 標的タンパク質 薬物が作用する対象となるタンパク質を標的タンパク質と呼びます。生体においては多くのタンパク質が相互に作用することによって様々な機能を果たしており、多くの病気が特定のタンパク質の異常な働きによって引き起こされております。これらの病気には、これらのタンパク質を標的タンパク質として、その異常な動きを抑制する薬剤が有効となりうると考えられております。 * フックス角膜内皮変性症 角膜内皮細胞に障害がおき、角膜浮腫・混濁が生じ、視力が低下していく疾患です。欧米で多くみられ、日本では患者数が少ないとされています。現在の治療法は角膜移植しか存在せず、有効な治療薬の開発が望まれています。 * プロテインキナーゼ ATP(アデノシン三リン酸と言われ、体内で作られる高エネルギー化合物)等、生体においてエネルギーの元となる低分子物質等のリン酸基を、タンパク質分子に転移する(リン酸化)酵素です。一般にリン酸化を触媒する酵素をキナーゼと呼び、特にタンパク質をリン酸化するキナーゼをプロテインキナーゼと言います。 * 分子薬理学 薬理学とは、薬物が生体に対してどのような作用により、影響・効果を発揮しているかを調べたり、薬物を用いて生体の機能を明らかにしたりする学問のことです。分子薬理学とは、その薬理学の調査の対象を生物の化学的性質を失わない最小の構成単位、つまり遺伝子のレベルで調べる学問です。 * リドカイン 神経末端において痛みの信号を遮断することにより痛みを軽減させる、局所麻酔薬の一種です。 * 緑内障・高眼圧症 緑内障とは、視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患です。適切に治療されずに放置すると視野狭窄から失明に至る疾患であり、日本の中途失明原因の第一位(2005年)となっております。また、高眼圧症とは、視野狭窄が無いものの、眼圧が正常値を超えている病態です。 現在、緑内障のエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は、「眼圧を下降すること」とされており、原発開放隅角緑内障(広義)に対する治療では、薬物治療が第1選択とされております。
FY2022|10,681 文字|出典 docID: S100QHG2
3【事業の内容】 当社グループは、当社及び連結子会社日本革新創薬株式会社(以下、「JIT」)の2社で構成されており、プロテインキナーゼ(*)阻害剤(*)を中心とした医薬品の研究開発を行い、開発品を製薬会社等にライセンスアウトすることによって収益を獲得する創薬事業を展開しております。 当社グループ事業の系統図は以下のとおりです。 (1)創薬事業について① 新薬開発の流れ 一般的に新薬の開発に際しては、基礎研究、非臨床試験、臨床試験、厚生労働省(あるいはアメリカ食品医薬品局(FDA)等の各国の医薬品許認可審査機関)への製造(輸入)承認申請、医薬品としての承認取得、薬価申請・収載を経て販売が開始され、患者様へ提供することが可能となります。このうち基礎研究活動は、新薬候補化合物の合成、スクリーニング(*)、スクリーニング毒性(*)の手続により実施されます。前述の基礎研究活動が終了した後、人に対する臨床試験の前に医薬品として満たすべき条件を、実験動物を用いて副作用及び安全性、安定性の検証を行う非臨床試験によって検証します。その後の臨床試験は、第Ⅰ相臨床試験、第Ⅱ相臨床試験、第Ⅲ相臨床試験の段階をもって実施されます。(下図参照) ② 創薬事業の概要 通常、新薬の研究開発過程において、非臨床試験から臨床試験へと開発が進捗するにしたがって、開発コストは大幅に増加し、また一定規模以上の自社臨床開発体制が必要となります。 当社グループは、研究開発活動の結果として、比較的早期の開発段階において開発品を製薬会社等へライセンスアウトしておりますが、これにより、臨床開発の推進に強みを持つ製薬会社等が開発を行うこととなり、自社での開発を継続する場合に比べて、低コストでの開発体制を維持できます。 このように、当社グループの創薬事業の特徴は、一般的な医薬候補品を開発するベンチャー企業に比べ、比較的早期の研究開発段階においてライセンスアウトが達成される点にありますが、これは、当社グループが基礎研究推進における独自の技術力を有していることと、その技術を基礎研究段階において十分に活用することにより効率的な研究開発が行われていることが要因と考えております。 当社グループの売上高は、主にライセンスアウト時に受領するフロントマネー収入、臨床開発進行に伴いその節目毎に受領するマイルストーン収入、製品上市(*)後販売額の一定比率を受領するロイヤリティ収入等によるものです。既に「リパスジル塩酸塩水和物(グラナテック®点眼液0.4%(以下、「グラナテック」)、グラアルファ®配合点眼液(以下、「グラアルファ」)及び「K-321」)」、「K-134」、「DW-1002」及び「DW-1001」はいずれも製薬会社にライセンスアウト済みであり、「グラナテック」、「グラアルファ」及び「DW-1002(欧州・米国等)」については、上市されロイヤリティ収入を得ております。これらのフロントマネー収入、マイルストーン収入、ロイヤリティ収入等を新規開発プロジェクトに投入することによって、次なる新規開発品の開発を進めております。 当社グループの主な売上高は、以下のもので構成されております。売上高内容フロントマネー収入ライセンスアウト時に受領する収入。契約締結時に発生するため、契約一時金とも言う。マイルストーン収入臨床開発進行に伴いその節目毎に受領する収入。ロイヤリティ収入製品上市後販売額の一定比率を受領する収入。特許を実施する際に得られる収入のため実施料、ライセンス料とも言う。 ③ 開発パイプラインについて 現在、当社グループが保有する開発パイプラインは以下のとおりです。開発コード等対象疾患開発段階地域ライセンスアウト先リパスジル塩酸塩水和物グラナテック緑内障・高眼圧症(*)上市日本、アジア(注1)興和K-321フックス角膜内皮変性症(*)第Ⅲ相臨床試験米国リパスジル塩酸塩水和物/ブリモニジン酒石酸塩グラアルファ緑内障・高眼圧症上市日本DW-1002内境界膜染色上市欧州・米国等DORC第Ⅲ相臨床試験日本わかもと製薬(WP-1108)水晶体前嚢染色(*)第Ⅲ相臨床試験日本DW-1001眼科用治療剤(非開示)第Ⅰ相臨床試験日本ロート製薬K-134(注2)――日本興和H-1337緑内障・高眼圧症後期第Ⅱ相臨床試験米国自社開発DW-5LBT帯状疱疹後の神経疼痛申請米国メドレックスと共同開発(MRX-5LBT)DWR-2206水疱性角膜症非臨床試験日本アクチュアライズと共同開発(AE101)未熟児網膜症(*)治療薬(注3)未熟児網膜症臨床試験準備中日本子会社JIT開発(注1)アジア一部地域において上市されております。(注2)ライセンスアウト先の興和により、閉塞性動脈硬化症(*)以外の適応症への応用を検討されているため、対象疾患と開発段階は記載しておりません。(注3)JITは未熟児網膜症等診断薬について、アジア一部地域における独占的実施権をSplendor Health International Limitedに再許諾するライセンス契約を締結しております。 各開発パイプラインの詳細は以下のとおりです。(イ)リパスジル塩酸塩水和物(a)グラナテックⓇ点眼液0.4%(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、プロテインキナーゼ(*)の一種であるRhoキナーゼ(*)を選択的に阻害するイソキノリンスルホンアミド化合物(*)であり、眼圧下降作用により緑内障・高眼圧症を治療する点眼剤です。緑内障治療剤における世界初の作用機序(*)を有しており、Rhoキナーゼを阻害することにより、線維柱帯-シュレム管を介する主流出路からの房水流出を促進することで眼圧を下降させます。 当社は、2002年に本開発品の全世界の権利を興和株式会社(以下、「興和」)にライセンスアウトいたしました。その後は興和により臨床試験が進められ、2014年に緑内障・高眼圧症を適応症として国内上市されました。さらに、海外展開も進められ、アジア一部地域において承認取得、販売開始されております。(b)K-321(対象疾患:フックス角膜内皮変性症) Rhoキナーゼ阻害剤(*)であるグラナテックは、眼内にあるキナーゼに作用する可能性があることが示唆されており、他眼科疾患への適応可能性が検討されておりました。適応拡大に向けた取り組みとして、2019年に米国第Ⅱ相臨床試験のIND申請(治験許可申請)がなされ、興和にてフックス角膜内皮変性症を適応症とした試験が進められ、その後、2022年8月に米国第Ⅲ相臨床試験が開始されました。フックス角膜内皮変性症の治療法は角膜移植しか存在しないのが現状であり、有効な治療薬の開発が望まれています。(c)グラアルファⓇ配合点眼液(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、リパスジル塩酸塩水和物とブリモニジン酒石酸塩を含有する世界で初めての組み合わせの配合点眼剤です。2020年より、興和にて緑内障・高眼圧症を適応症として国内第Ⅲ相臨床試験が行われ、2022年12月に国内上市されました。緑内障の治療は、多剤併用が標準的な治療法となりつつあります。本開発品により、アドヒアランスの向上が期待され、緑内障患者様の治療に貢献できるものと考えております。 (ロ)DW-1002(対象疾患:内境界膜染色、水晶体前嚢染色) 本開発品は、国立大学法人九州大学の研究グループが発見したBBG250(Brilliant Blue G-250)という染色性の高い色素を主成分とした眼科手術補助剤について、独占的ライセンスに基づき開発している開発品で、眼内にある内境界膜又は水晶体を保護するカプセルを一時的に安全に染色し、硝子体・白内障(*)の手術を行いやすくするものです。当社は、2017年に本事業を譲受いたしました。 日本以外の全世界向けの独占的なサブライセンスをDutch Ophthalmic Research Center International B.V.(以下、「DORC」)に付与しており、DORCは硝子体手術時の内境界膜染色を対象として、2010年から欧州等において、この眼科手術補助剤を製造・販売しております。2020年には米国においても販売開始し、現在は、欧州・米国を含む世界76の国と地域で販売されております。 国内については、わかもと製薬株式会社(以下、「わかもと製薬」)に独占的サブライセンスを付与しており、わかもと製薬は硝子体手術時の内境界膜染色、白内障手術時の水晶体前嚢染色を対象として、製造販売承認取得に向けて開発を進めております。 (ハ)DW-1001(対象疾患:非開示) 本開発品は、2015年に英国企業から導入した眼科用治療剤です。 他の疾患を適応症として既に市販されている化合物を眼科適応への適応拡大を目指す、いわゆるリポジショニングの手法での開発を目指しており、開発のコスト並びにリスクは相対的に低くなることが期待されます。 2019年に日本における独占的実施権をロート製薬株式会社(以下、「ロート製薬」)にライセンスアウトいたしました。ロート製薬では、非臨床試験を進め、2022年3月に国内第Ⅰ相臨床試験を開始し、12月に良好な結果で終了いたしました。現在、国内第Ⅱ相臨床試験の準備が進められております。 (ニ)K-134(対象疾患:検討中) 本開発品は、1993年より当社創業者と大塚製薬株式会社(以下、「大塚製薬」)の共同研究により、血管内膜肥厚抑制作用(*)を併せ持つ抗血小板剤(*)として開発が開始されました。 本開発品の全世界での権利は、2002年に大塚製薬より当社へ全て譲渡され、当社は同年に全世界の権利を興和にライセンスアウトしました。その後は興和により、閉塞性動脈硬化症に伴う間歇性跛行(*)症状を対象疾患として開発が行われておりましたが、2014年に終了した国内後期第Ⅱ相臨床試験の結果を総合的に検討した結果、閉塞性動脈硬化症を適応症とした開発は中止されました。他適応症への応用につきましては、興和にて検討されております。 (ホ)H-1337(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、プロテインキナーゼ阻害剤を中心とする当社化合物ライブラリー(*)のシード化合物を基にして最適化された、緑内障・高眼圧症を対象疾患とする開発品です。当社初となる自社臨床開発を行っており、2018年に米国第Ⅰ相/前期第Ⅱ相臨床試験を終了いたしました。試験結果は良好で、有効性の主要評価項目で本開発品の有効性が確認され、安全性に関して重篤な有害事象は認められませんでした。2022年12月に、米国後期第Ⅱ相臨床試験の治験届を提出いたしました。 また、適応拡大の研究を進めており、滲出型加齢黄斑変性に対する治療効果、並びに肺高血圧に対する治療効果も動物試験において確認されております。 (ヘ)DW-5LBT(対象疾患:帯状疱疹後の神経疼痛) 本開発品は、イオン液体を利用した株式会社メドレックス(以下、「メドレックス」)の独自技術ILTS(Ionic Liquid Transdermal System)を用いた新規のリドカイン(*)テープ剤であり、リドカインパップ剤Lidodermの市場をターゲットとして開発が進められております。メドレックスが帯状疱疹後の神経疼痛治療薬として開発を進めており、当社は2020年に共同開発を開始いたしました。2020年に米国FDA(米国食品医薬品局)に承認申請いたしましたが、2021年に審査完了報告通知を受領いたしました。承認取得のために必要であると指摘を受けた追加試験は良好な結果で終了しており、2023年前半に再申請する予定です。 (ト)DWR-2206(対象疾患:水疱性角膜症) 本開発品は、水疱性角膜症を適応症とした再生医療用細胞製品で、培養ヒト角膜内皮細胞とROCK阻害剤を含有した懸濁液を前房内に注入し、角膜内皮の再生の治療に用いられます。アクチュアライズ株式会社が開発を進めており、当社は2022年に共同開発を開始いたしました。当社初となる再生医療品であり、現在、国内臨床試験に向けた準備を進めております。 (チ)未熟児網膜症治療薬(対象疾患:未熟児網膜症) 本開発品は、国立大学法人東京農工大学及び東京バイオマーカー・イノベーション技術研究組合により見出され、未熟児網膜症発症の重要な原因であることが患者様で確認されている蛋白質を阻害する化合物です。他の疾患を適応症として既に市販されている化合物を本適応症への適応拡大を目指す、いわゆるリポジショニングの手法での開発を目指しており、開発のコスト並びにリスクは相対的に低くなることが期待されます。 子会社JITが未熟児網膜症の診断薬に関する特許も含めて権利を有しており、2020年には、未熟児網膜症等診断薬に関する特許について、アジア一部地域(中華人民共和国、香港行政特別エリア、台湾地域)における独占的実施権を、Splendor Health International Limitedに再許諾するライセンス契約を締結いたしました。 ④ 研究プロジェクトについて 当社グループは、プロテインキナーゼ阻害剤を中心とした新薬候補化合物の創出を行っております。プロテインキナーゼを対象とする疾患は様々ですが、特に眼科関連疾患に注力した研究を推進しております。また、自社の創薬基盤技術を活かし、他社との提携を積極的に推進しております。主なプロジェクトとしては、眼科関連疾患や神経系、呼吸器系疾患等を対象としたシグナル伝達阻害剤開発プロジェクトを当社開発研究所(国立大学法人三重大学の研究施設)において行っております。また、共同研究として、ユビエンス株式会社との標的タンパク質(*)分解誘導薬プロジェクト、SyntheticGestaltとの炎症系・中枢系疾患を対象にしたキナーゼ阻害剤のAI創薬プロジェクト等、複数のプロジェクトを進めております。 ⑤ 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴について 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴は以下のとおりです。 (イ)プロテインキナーゼ阻害剤を中心とした新薬候補化合物の創製 当社グループは主にプロテインキナーゼ阻害剤を中心とした研究開発を進めております。 プロテインキナーゼは、細胞の分化、増殖等の細胞内情報伝達(*)機能を担っている重要な酵素であるとされており、そのプロテインキナーゼに対し、有望な新薬候補品である阻害剤を投与することによって治療効果を高めるのが当社グループの開発の特徴であります。 当社は、有望な新薬候補品を創製するために、独自に開発した化合物ライブラリーを保有しており、これらの開発過程で蓄積したデータやノウハウを活用して、新薬候補化合物を合成しておりますが、これらの技術力が高いことから有効な新薬候補化合物が見つかる可能性が高いと考えております。 (ロ)当社独自の標的タンパク質の同定(*)方法であるドラッグ・ウエスタン法(*)の活用 当社は、ドラッグ・ウエスタン法という独自に開発した方法を使って、新薬候補化合物の標的タンパク質を同定しております。生物学の分野では、標的タンパク質を同定するために様々な方法が利用されてきましたが、当社は、それらを踏まえて医薬品開発への応用を図り、ドラッグ・ウエスタン法を完成させました。 この方法の活用により、他の手法を活用した際に困難である新薬候補化合物の標的タンパク質の特定が容易になるほか、1回のスクリーニングで多数の標的タンパク質を同定することが可能です。既存の方法に対して、生物材料や化合物の消費量が少ないこと、スクリーニングの操作が単純であり短時間で完了すること等の長所を持ちます。 ドラッグ・ウエスタン法を活用した際の効果は、以下のとおりと考えられます。 a. 有効性:高い有効性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。新薬候補化合物の標的タンパク質を早期に同定することによって、その新薬候補化合物の作用機序が明らかになり、その結果から、有効な新薬候補化合物の開発へとつなげていくことが可能になると考えております。 b. 安全性:副作用や他の医薬品との相互作用の予測により、高い安全性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。早期に標的タンパク質を同定することによって、副作用が起こるメカニズムの推測もしやすくなり、それにより、安全性の高い新薬候補化合物の開発が可能となります。また、作用メカニズムが明らかになることにより、他の薬剤との併用の可能性の分析がしやすくなり、薬としての利用機会の拡大とリスクの低減につながりやすいと考えます。 既にこの方法を用いて、当社グループのパイプラインの「K-134」についても標的タンパク質が同定されました。 (ハ)細胞内情報伝達研究に由来する分子薬理学(*)に関する経験及びノウハウの活用 当社グループの創業者は、長年にわたって細胞内情報伝達の研究活動及び創薬活動に従事してきており、その研究・創薬活動の中で、これまでに製薬会社と共同で2つの上市薬の誕生に貢献しております。当社グループは、こうした活動において獲得した経験とノウハウを基盤に、研究開発活動を行い、2014年には当社設立以来初の上市薬が誕生いたしました。 当社グループの新薬の開発は、この分子薬理学に関する経験及びノウハウを駆使し、新薬候補化合物を設計し、合成することによって開始されております。ここで合成された新薬候補化合物の薬理学的傾向は、過去の分子薬理学に関する経験及びノウハウからある程度予測することが可能であるため、その予測を基に効率的な研究開発が可能になると考えております。 (ニ)提携関係を活用した研究開発体制 当社グループは、国立大学法人三重大学との産学官連携講座(後述「第一部 企業情報 第2 事業の状況 4 経営上の重要な契約等」参照)による共同研究等の提携関係を構築し、技術の取り込みを図り研究活動を進めております。また、研究開発の推進に向けては、業務受託企業等外部の企業を積極的に活用しております。こうした企業外部との提携関係を活用することによって、効率的な研究開発体制を構築することが可能となっております。 当社グループと外部機関との関係図(研究開発体制) <用語解説>(アルファベット、あいうえお順) * Rhoキナーゼ タンパク質リン酸化(*)酵素(プロテインキナーゼ)の1つであり、Rho-ROCK経路を介する多彩な細胞応答の制御機構に関与する酵素です。 * イソキノリンスルホンアミド化合物 当社が開発している化合物の有する骨格(形)の名称です。 * 化合物ライブラリー 当社が長年にわたり蓄積してきた新薬候補化合物のタネとなる化合物群です。これらの化合物の一つ一つが特徴的な性質を有しており、基礎研究や新薬候補化合物発見に利用されます。 * 間歇性跛行 閉塞性動脈硬化症により引き起こされる典型的な症状です。一般に下肢筋肉への動脈血供給を妨げる閉塞性病変が原因となって血流障害が引き起こされ、歩行運動に伴って虚血性の疼痛を発生させます。この疼痛は一定の運動負荷で引き起こされ、安静により数分以内に緩和される特徴があります。跛行症状の治療には、下肢血行動態の改善を目的とした監視下運動療法、薬物療法及び血行再建術があります。 * 血管内膜肥厚抑制作用 血管内膜肥厚とは、血管壁の損傷により血管壁が厚くなることであり、その結果血液の流路が細くなり、血行障害が生じやすくなります。この血管内膜肥厚を抑制することは動脈硬化を防ぐためには重要であると考えられており、その抑制作用を血管内膜肥厚抑制作用と言います。 * 抗血小板剤 血小板(血液の成分の1つで血液の凝固や止血に重要な役割を果たしている成分)が有する機能の1つである凝集機能を阻害(抑制)する薬です。 * 細胞内情報伝達 神経刺激やホルモン等の細胞外からのシグナル(信号)を細胞内の必要な箇所へ伝えるシステムのことを言います。細胞内シグナル伝達とも言います。 * 作用機序 薬物が作用する仕組みのことを言います。近年では薬物作用の明確化の重要性が高まっており、この作用機序の解明が新薬開発において注目されております。 * 上市(じょうし) 新薬が承認され、実際に市場に出る(市販される)ことを言います。 * 水疱性角膜症 角膜内皮細胞が障害を受け、角膜浮腫が起こり、角膜が白く濁って視力が著しく低下する病気。フックス角膜内皮ジストロフィ、白内障や緑内障等の眼科手術により角膜内皮細胞が減少することが原因にあげられます。治療法は角膜移植手術になります。 * スクリーニング 新薬を開発するには、多数の候補化合物の中から、効果があり安全性が高いものを選び出すことが必要となります。このような多数の化合物から新薬の候補を探す一連の流れをスクリーニングと言います。 * スクリーニング毒性 細菌を用いる復帰突然変異試験(化学物質による、発癌性を含めた遺伝子に与える変化である変異原性を、細菌を用いてテストする試験)、ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験(明確な染色体構造を持たない細菌においては、染色体異常を検出できないため、人為的に生体外で培養したほ乳動物の細胞を用いて、染色体に対する遺伝毒性がないかをテストする試験)及びほ乳類を用いる28日間の反復毒性試験(ラット等の動物に一定期間毎日反復投与したときに現れる生体機能及び形態の変化を観察する試験)によって検出される毒性を指します。 * 阻害剤 生体内の様々な酵素分子に結合して、その酵素の活性を低下もしくは消失させる物質を指します。化学物質が特定の酵素の活性を低下もしくは消失させることにより、病気の治療薬として利用されることがあります。 * タンパク質リン酸化 タンパク質にリン酸基を移転する化学反応であり、タンパク質の働きを調節すると考えられております。 * 同定 単離した化学物質等の標的が何であるかを決定することを指します。 * ドラッグ・ウエスタン法 薬物の標的タンパク質の同定に用いられる手法で、当社がバイオテクノロジーを応用して発明し、特許を有しておりました。煩雑なタンパク質精製プロセスを介さずに、薬物が結合する少量のタンパク質を検出し、その遺伝子を特定することにより標的タンパク質を同定することができる方法です。 * 白内障 水晶体が白く濁り、視力障害を引き起こす病気です。主な原因は加齢によるもので、症状が進行している場合には、濁った水晶体を取り除き、眼内レンズを挿入する手術が行われます。日本では年間およそ120万件の手術が行われています。 * 標的タンパク質 薬物が作用する対象となるタンパク質を標的タンパク質と呼びます。生体においては多くのタンパク質が相互に作用することによって様々な機能を果たしており、多くの病気が特定のタンパク質の異常な働きによって引き起こされております。これらの病気には、これらのタンパク質を標的タンパク質として、その異常な動きを抑制する薬剤が有効となりうると考えられております。 * フックス角膜内皮変性症 角膜内皮細胞に障害がおき、角膜浮腫・混濁が生じ、視力が低下していく疾患です。欧米で多くみられ、日本では患者数が少ないとされています。現在の治療法は角膜移植しか存在せず、有効な治療薬の開発が望まれています。 * プロテインキナーゼ ATP(アデノシン三リン酸と言われ、体内で作られる高エネルギー化合物)等、生体においてエネルギーの元となる低分子物質等のリン酸基を、タンパク質分子に転移する(リン酸化)酵素です。一般にリン酸化を触媒する酵素をキナーゼと呼び、特にタンパク質をリン酸化するキナーゼをプロテインキナーゼと言います。 * 分子薬理学 薬理学とは、薬物が生体に対してどのような作用により、影響・効果を発揮しているかを調べたり、薬物を用いて生体の機能を明らかにしたりする学問のことです。分子薬理学とは、その薬理学の調査の対象を生物の化学的性質を失わない最小の構成単位、つまり遺伝子のレベルで調べる学問です。 * 閉塞性動脈硬化症 動脈硬化(動脈壁が肥厚し硬化した状態)により、主として下肢の大血管が慢性的に閉塞することによって、軽い場合には冷感、重症の場合には下肢の壊死にまで至ることがある病気を言います。軽度の場合には抗血小板剤が処方されることが多く、症状が悪化するにつれて他の薬剤を使用します。 * 未熟児網膜症 低出生体重児(未熟児)は、出生後保育器で高酸素下の環境におかれますが、その後通常の環境に戻された際、その環境に適応するため、急激に血管を産生しようと努めます。それは網膜においても起こり、急激な血管産生の結果、脆い異常な血管が形成されることで網膜剥離につながり、最終的には失明に至ることがある疾患です。現在は、レーザー照射による治療が行われていますが、必ずしも視力が戻るわけではなく、満足されている治療というわけではありません。 * リドカイン 神経末端において痛みの信号を遮断することにより痛みを軽減させる、局所麻酔薬の一種です。 * 緑内障・高眼圧症 緑内障とは、視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患です。適切に治療されずに放置すると視野狭窄から失明に至る疾患であり、日本の中途失明原因の第一位(2005年)となっております。また、高眼圧症とは、視野狭窄が無いものの、眼圧が正常値を超えている病態です。 現在、緑内障のエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は、「眼圧を下降すること」とされており、原発開放隅角緑内障(広義)に対する治療では、薬物治療が第1選択とされております。
FY2021|10,405 文字|出典 docID: S100NR77
3【事業の内容】 当社グループは、当社及び連結子会社日本革新創薬株式会社(以下、「JIT」)の2社で構成されており、医薬品の研究開発を行い、開発早期段階において開発品を製薬会社等にライセンスアウトすることによって収益を獲得する創薬事業を展開しております。 当社グループ事業の系統図は以下のとおりです。 (1)創薬事業について① 新薬開発の流れ 一般的に新薬の開発に際しては、基礎研究、非臨床試験、臨床試験、厚生労働省(あるいはアメリカ食品医薬品局(FDA)等の各国の医薬品許認可審査機関)への製造(輸入)承認申請、医薬品としての承認取得、薬価申請・収載を経て販売が開始され、患者様へ提供することが可能となります。このうち基礎研究活動は、新薬候補化合物の合成、スクリーニング(*)、スクリーニング毒性(*)の手続により実施されます。前述の基礎研究活動が終了した後、人に対する臨床試験の前に医薬品として満たすべき条件を、実験動物を用いて副作用及び安全性、安定性の検証を行う非臨床試験によって検証します。その後の臨床試験は、第Ⅰ相臨床試験、第Ⅱ相臨床試験、第Ⅲ相臨床試験の段階をもって実施されます。(下図参照) ② 創薬事業の概要 通常、新薬の研究開発過程において、非臨床試験から臨床試験へと開発が進捗するにしたがって、開発コストは大幅に増加し、また一定規模以上の自社臨床開発体制が必要となります。 当社グループは、研究開発活動の結果として、開発早期段階において開発品を製薬会社等へライセンスアウトしておりますが、これにより、臨床開発の推進に強みを持つ製薬会社等が開発を行うこととなり、自社での開発を継続する場合に比べて、低コストでの開発体制を維持できます。 このように、当社グループの創薬事業の特徴は、一般的な医薬候補品を開発するベンチャー企業に比べ、比較的早期の研究開発段階においてライセンスアウトが達成される点にありますが、これは、当社グループが基礎研究推進における独自の技術力を有していることと、その技術を基礎研究段階において十分に活用することにより効率的な研究開発が行われていることが要因と考えております。 当社グループの売上高は、主にライセンスアウト時に受領するフロントマネー収入、臨床開発進行に伴いその節目毎に受領するマイルストーン収入、製品上市(*)後販売額の一定比率を受領するロイヤリティ収入等によるものです。既に「リパスジル塩酸塩水和物(グラナテック®点眼液0.4%(以下、「グラナテック」)、「K-321」及び「K-232」)」、「K-134」、「DW-1002」及び「DW-1001」はいずれも製薬会社にライセンスアウト済みであり、「グラナテック」及び「DW-1002(欧州・米国等)」については、上市されロイヤリティ収入を得ております。これらのフロントマネー収入、マイルストーン収入、ロイヤリティ収入等を新規開発プロジェクトに投入することによって、次なる新規開発品の開発を進めております。 当社グループの主な売上高は、以下のもので構成されております。売上高内容フロントマネー収入ライセンスアウト時に受領する収入。契約締結時に発生するため、契約一時金とも言う。マイルストーン収入臨床開発進行に伴いその節目毎に受領する収入。ロイヤリティ収入製品上市後販売額の一定比率を受領する収入。特許を実施する際に得られる収入のため実施料、ライセンス料とも言う。 ③ 開発パイプラインについて 現在、当社グループが保有する開発パイプラインは以下のとおりです。開発コード等対象疾患開発段階地域ライセンスアウト先リパスジル塩酸塩水和物グラナテック緑内障・高眼圧症(*)上市日本、アジア(注1)興和K-321フックス角膜内皮変性症(*)第Ⅱ相臨床試験米国興和リパスジル塩酸塩水和物/ブリモニジン酒石酸塩K-232緑内障・高眼圧症申請日本興和DW-1002内境界膜剥離上市欧州・米国等DORC内境界膜染色第Ⅲ相臨床試験日本わかもと製薬(WP-1108)白内障(*)手術第Ⅲ相臨床試験日本DW-1001眼科用治療剤(非開示)非臨床試験日本ロート製薬K-134(注2)――日本興和H-1337緑内障・高眼圧症第Ⅰ相/前期第Ⅱ相臨床試験米国自社開発DW-5LBT帯状疱疹後の神経疼痛申請米国メドレックスと共同開発(MRX-5LBT)未熟児網膜症(*)治療薬(注3)未熟児網膜症臨床試験準備中日本子会社JIT開発(注1)2022年2月にシンガポールで上市されました。その他アジア一部地域において申請中もしくは承認取得されております。(注2)ライセンスアウト先の興和により、閉塞性動脈硬化症(*)以外の適応症への応用を検討されているため、対象疾患と開発段階は記載しておりません。(注3)JITは未熟児網膜症等診断薬について、アジア一部地域における独占的実施権をSplendor Health International Limitedに再許諾するライセンス契約を締結しております。 各開発パイプラインの詳細は以下のとおりです。(イ)リパスジル塩酸塩水和物(a)グラナテックⓇ点眼液0.4%(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、プロテインキナーゼ(*)の一種であるRhoキナーゼ(*)を選択的に阻害するイソキノリンスルホンアミド化合物(*)であり、眼圧下降作用により緑内障・高眼圧症を治療する点眼剤です。緑内障治療剤における世界初の作用機序(*)を有しており、Rhoキナーゼを阻害することにより、線維柱帯-シュレム管を介する主流出路からの房水流出を促進することで眼圧を下降させます。 当社は、2002年に本開発品の全世界の権利を興和株式会社(以下、「興和」)にライセンスアウトしました。その後は興和により臨床試験が進められ、2014年に緑内障・高眼圧症を適応症として国内上市されました。さらに、海外展開も進められ、アジア一部地域において承認取得、販売開始されております。(b)K-321(対象疾患:フックス角膜内皮変性症) Rhoキナーゼ阻害剤(*)であるグラナテックは、眼内にあるキナーゼに作用する可能性があることが示唆されており、他眼科疾患への適応可能性が検討されておりました。適応拡大に向けた取り組みとして、2019年に米国第Ⅱ相臨床試験のIND申請(治験許可申請)がなされ、興和にてフックス角膜内皮変性症を適応症とした試験が開始されました。フックス角膜内皮変性症の治療法は角膜移植しか存在しないのが現状であり、有効な治療薬の開発が望まれています。(c)K-232(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、リパスジル塩酸塩水和物とブリモニジン酒石酸塩を含有する世界で初めての組み合わせの配合点眼剤です。2020年より、興和にて緑内障・高眼圧症を適応症として国内第Ⅲ相臨床試験が開始され、2021年11月に国内製造販売承認申請が行われました。緑内障の治療は、多剤併用が標準的な治療法となりつつあります。本開発品により、アドヒアランスの向上が期待され、緑内障患者様の治療に貢献できるものと考えております。 (ロ)DW-1002(対象疾患:内境界膜剥離、内境界膜染色、白内障手術) 本開発品は、国立大学法人九州大学の研究グループが発見したBBG250(Brilliant Blue G-250)という染色性の高い色素を主成分とした眼科手術補助剤について、独占的ライセンスに基づき開発している開発品で、眼内にある内境界膜又は水晶体を保護するカプセルを一時的に安全に染色し、硝子体・白内障の手術を行いやすくするものです。当社は、2017年に本事業を譲受いたしました。 日本以外の全世界向けの独占的なサブライセンスをDutch Ophthalmic Research Center International B.V.(以下、「DORC」)に付与しており、DORCは、2010年から欧州等において、この眼科手術補助剤を製造・販売しております。2020年には米国においても販売開始し、2021年10月にはカナダで販売開始いたしました。 国内については、わかもと製薬株式会社(以下、「わかもと製薬」)に眼科手術用途の内境界膜染色についての独占的サブライセンスを付与しており、わかもと製薬が製造販売承認の取得に向けて開発を進めております。また、白内障手術については、2018年に九州大学病院が主体となった医師主導治験(*)(第Ⅲ相臨床試験)が終了し、2019年には白内障手術時の水晶体前嚢染色を対象とする独占的サブライセンスをわかもと製薬にライセンスアウトいたしました。わかもと製薬では、内境界膜染色と併せて承認取得に向けた準備を進めております。 (ハ)DW-1001(対象疾患:非開示) 本開発品は、2015年に英国企業から導入した眼科用治療剤です。 他の疾患を適応症として既に市販されている化合物を眼科適応への適応拡大を目指す、いわゆるリポジショニングの手法での開発を目指しており、開発のコスト並びにリスクは相対的に低くなることが期待されます。 2019年に日本における独占的実施権をロート製薬株式会社(以下、「ロート製薬」)にライセンスアウトいたしました。ロート製薬では、非臨床試験を進めております。 (ニ)K-134(対象疾患:検討中) 本開発品は、1993年より当社創業者と大塚製薬株式会社(以下、「大塚製薬」)の共同研究により、血管内膜肥厚抑制作用(*)を併せ持つ抗血小板剤(*)として開発が開始されました。 本開発品の全世界での権利は、2002年に大塚製薬より当社へ全て譲渡され、当社は同年に全世界の権利を興和にライセンスアウトしました。その後は興和により、閉塞性動脈硬化症に伴う間歇性跛行(*)症状を対象疾患として開発が行われておりましたが、2014年に終了した国内後期第Ⅱ相臨床試験の結果を総合的に検討した結果、閉塞性動脈硬化症を適応症とした開発は中止されました。他適応症への応用につきましては、興和にて検討されております。 (ホ)H-1337(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、プロテインキナーゼ阻害剤を中心とする当社化合物ライブラリー(*)のシード化合物を基にして最適化された、緑内障・高眼圧症を対象疾患とする開発品です。当社初となる自社臨床開発を行っており、2018年に米国第Ⅰ相/前期第Ⅱ相臨床試験を終了いたしました。試験結果は良好で、有効性の主要評価項目で本開発品の有効性が確認され、安全性に関して重篤な有害事象は認められませんでした。現在、米国での次の開発の準備を進めております。 また、適応拡大の研究を進めており、滲出型加齢黄斑変性に対する治療効果、並びに肺高血圧に対する治療効果も動物試験において確認されております。 (ヘ)DW-5LBT(対象疾患:帯状疱疹後の神経疼痛) 本開発品は、イオン液体を利用した株式会社メドレックス(以下、「メドレックス」)の独自技術ILTS(Ionic Liquid Transdermal System)を用いた新規のリドカイン(*)テープ剤であり、リドカインパップ剤Lidodermの市場をターゲットとして開発が進められております。メドレックスが帯状疱疹後の神経疼痛治療薬として開発を進めており、当社は2020年に共同開発を開始いたしました。2020年に米国FDA(米国食品医薬品局)に承認申請いたしましたが、2021年7月に審査完了報告通知を受領し、FDAとの協議を進めた結果、承認取得のために必要であると指摘を受けた試験について追加実施した上で再申請する方針です。 (ト)未熟児網膜症治療薬(対象疾患:未熟児網膜症) 本開発品は、国立大学法人東京農工大学及び東京バイオマーカー・イノベーション技術研究組合により見出され、未熟児網膜症発症の重要な原因であることが患者様で確認されている蛋白質を阻害する化合物です。他の疾患を適応症として既に市販されている化合物を本適応症への適応拡大を目指す、いわゆるリポジショニングの手法での開発を目指しており、開発のコスト並びにリスクは相対的に低くなることが期待されます。 子会社JITが未熟児網膜症の診断薬に関する特許も含めて権利を有しており、2020年には、未熟児網膜症等診断薬に関する特許について、アジア一部地域(中華人民共和国、香港行政特別エリア、台湾地域)における独占的実施権を、Splendor Health International Limitedに再許諾するライセンス契約を締結いたしました。 ④ 研究プロジェクトについて 当社グループは、プロテインキナーゼ阻害剤を中心とした新薬候補化合物の創出を行っております。プロテインキナーゼを対象とする疾患は様々ですが、特に眼科関連疾患に注力した研究を推進しております。また、自社の創薬基盤技術を活かし、他社との提携を積極的に推進しております。主なプロジェクトとしては、眼科関連疾患や神経系、呼吸器系疾患等を対象としたシグナル伝達阻害剤開発プロジェクトを当社開発研究所(国立大学法人三重大学の研究施設)において行っております。また、共同研究として、Glaukos Corporationとの新規デバイス創出プロジェクト、ユビエンス株式会社との標的タンパク質(*)分解誘導薬プロジェクト、SyntheticGestaltとの炎症系・中枢系疾患を対象にしたキナーゼ阻害剤のAI創薬プロジェクト等複数のプロジェクトを進めております。 ⑤ 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴について 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴は以下のとおりです。 (イ)プロテインキナーゼ阻害剤を中心とした新薬候補化合物の創製 当社グループは主にプロテインキナーゼ阻害剤を中心とした研究開発を進めております。 プロテインキナーゼは、細胞の分化、増殖等の細胞内情報伝達(*)機能を担っている重要な酵素であるとされており、そのプロテインキナーゼに対し、有望な新薬候補品である阻害剤を投与することによって治療効果を高めるのが当社グループの開発の特徴であります。 当社は、有望な新薬候補品を創製するために、独自に開発した化合物ライブラリーを保有しており、これらの開発過程で蓄積したデータやノウハウを活用して、新薬候補化合物を合成しておりますが、これらの技術力が高いことから有効な新薬候補化合物が見つかる可能性が高いと考えております。 (ロ)当社独自の標的タンパク質の同定(*)方法であるドラッグ・ウエスタン法(*)の活用 当社は、ドラッグ・ウエスタン法という独自に開発した方法を使って、新薬候補化合物の標的タンパク質を同定しております。生物学の分野では、標的タンパク質を同定するために様々な方法が利用されてきましたが、当社は、それらを踏まえて医薬品開発への応用を図り、ドラッグ・ウエスタン法を完成させました。 この方法の活用により、他の手法を活用した際に困難である新薬候補化合物の標的タンパク質の特定が容易になるほか、1回のスクリーニングで多数の標的タンパク質を同定することが可能です。既存の方法に対して、生物材料や化合物の消費量が少ないこと、スクリーニングの操作が単純であり短時間で完了すること等の長所を持ちます。 ドラッグ・ウエスタン法を活用した際の効果は、以下のとおりと考えられます。 a. 有効性:高い有効性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。新薬候補化合物の標的タンパク質を早期に同定することによって、その新薬候補化合物の作用機序が明らかになり、その結果から、有効な新薬候補化合物の開発へとつなげていくことが可能になると考えております。 b. 安全性:副作用や他の医薬品との相互作用の予測により、高い安全性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。早期に標的タンパク質を同定することによって、副作用が起こるメカニズムの推測もしやすくなり、それにより、安全性の高い新薬候補化合物の開発が可能となります。また、作用メカニズムが明らかになることにより、他の薬剤との併用の可能性の分析がしやすくなり、薬としての利用機会の拡大とリスクの低減につながりやすいと考えます。 既にこの方法を用いて、当社グループのパイプラインの「K-134」についても標的タンパク質が同定されました。 (ハ)細胞内情報伝達研究に由来する分子薬理学(*)に関する経験及びノウハウの活用 当社グループの創業者は、長年にわたって細胞内情報伝達の研究活動及び創薬活動に従事してきており、その研究・創薬活動の中で、これまでに製薬会社と共同で2つの上市薬の誕生に貢献しております。当社グループは、こうした活動において獲得した経験とノウハウを基盤に、研究開発活動を行い、2014年には当社設立以来初の上市薬が誕生いたしました。 当社グループの新薬の開発は、この分子薬理学に関する経験及びノウハウを駆使し、新薬候補化合物を設計し、合成することによって開始されております。ここで合成された新薬候補化合物の薬理学的傾向は、過去の分子薬理学に関する経験及びノウハウからある程度予測することが可能であるため、その予測を基に効率的な研究開発が可能になると考えております。 (ニ)提携関係を活用した研究開発体制 当社グループは、国立大学法人三重大学との産学官連携講座(後述「第一部 企業情報 第2 事業の状況 4 経営上の重要な契約等」参照)による共同研究等の提携関係を構築し、技術の取り込みを図り研究活動を進めております。また、研究開発の推進に向けては、業務受託企業等外部の企業を積極的に活用しております。こうした企業外部との提携関係を活用することによって、効率的な研究開発体制を構築することが可能となっております。 当社グループと外部機関との関係図(研究開発体制) <用語解説>(アルファベット、あいうえお順) * Rhoキナーゼ タンパク質リン酸化(*)酵素(プロテインキナーゼ)の1つであり、Rho-ROCK経路を介する多彩な細胞応答の制御機構に関与する酵素です。 * 医師主導治験 医師・医療機関が主体となって行う臨床試験のことです。 * イソキノリンスルホンアミド化合物 当社が開発している化合物の有する骨格(形)の名称です。 * 化合物ライブラリー 当社が長年にわたり蓄積してきた新薬候補化合物のタネとなる化合物群です。これらの化合物の一つ一つが特徴的な性質を有しており、基礎研究や新薬候補化合物発見に利用されます。 * 間歇性跛行 閉塞性動脈硬化症により引き起こされる典型的な症状です。一般に下肢筋肉への動脈血供給を妨げる閉塞性病変が原因となって血流障害が引き起こされ、歩行運動に伴って虚血性の疼痛を発生させます。この疼痛は一定の運動負荷で引き起こされ、安静により数分以内に緩和される特徴があります。跛行症状の治療には、下肢血行動態の改善を目的とした監視下運動療法、薬物療法及び血行再建術があります。 * 血管内膜肥厚抑制作用 血管内膜肥厚とは、血管壁の損傷により血管壁が厚くなることであり、その結果血液の流路が細くなり、血行障害が生じやすくなります。この血管内膜肥厚を抑制することは動脈硬化を防ぐためには重要であると考えられており、その抑制作用を血管内膜肥厚抑制作用と言います。 * 抗血小板剤 血小板(血液の成分の1つで血液の凝固や止血に重要な役割を果たしている成分)が有する機能の1つである凝集機能を阻害(抑制)する薬です。 * 細胞内情報伝達 神経刺激やホルモン等の細胞外からのシグナル(信号)を細胞内の必要な箇所へ伝えるシステムのことを言います。細胞内シグナル伝達とも言います。 * 作用機序 薬物が作用する仕組みのことを言います。近年では薬物作用の明確化の重要性が高まっており、この作用機序の解明が新薬開発において注目されております。 * 上市(じょうし) 新薬が承認され、実際に市場に出る(市販される)ことを言います。 * スクリーニング 新薬を開発するには、多数の候補化合物の中から、効果があり安全性が高いものを選び出すことが必要となります。このような多数の化合物から新薬の候補を探す一連の流れをスクリーニングと言います。 * スクリーニング毒性 細菌を用いる復帰突然変異試験(化学物質による、発癌性を含めた遺伝子に与える変化である変異原性を、細菌を用いてテストする試験)、ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験(明確な染色体構造を持たない細菌においては、染色体異常を検出できないため、人為的に生体外で培養したほ乳動物の細胞を用いて、染色体に対する遺伝毒性がないかをテストする試験)及びほ乳類を用いる28日間の反復毒性試験(ラット等の動物に一定期間毎日反復投与したときに現れる生体機能及び形態の変化を観察する試験)によって検出される毒性を指します。 * 阻害剤 生体内の様々な酵素分子に結合して、その酵素の活性を低下もしくは消失させる物質を指します。化学物質が特定の酵素の活性を低下もしくは消失させることにより、病気の治療薬として利用されることがあります。 * タンパク質リン酸化 タンパク質にリン酸基を移転する化学反応であり、タンパク質の働きを調節すると考えられております。 * 同定 単離した化学物質等の標的が何であるかを決定することを指します。 * ドラッグ・ウエスタン法 薬物の標的タンパク質の同定に用いられる手法で、当社がバイオテクノロジーを応用して発明し、特許を有しておりました。煩雑なタンパク質精製プロセスを介さずに、薬物が結合する少量のタンパク質を検出し、その遺伝子を特定することにより標的タンパク質を同定することができる方法です。 * 白内障 水晶体が白く濁り、視力障害を引き起こす病気です。主な原因は加齢によるもので、症状が進行している場合には、濁った水晶体を取り除き、眼内レンズを挿入する手術が行われます。日本では年間およそ120万件の手術が行われています。 * 標的タンパク質 薬物が作用する対象となるタンパク質を標的タンパク質と呼びます。生体においては多くのタンパク質が相互に作用することによって様々な機能を果たしており、多くの病気が特定のタンパク質の異常な働きによって引き起こされております。これらの病気には、これらのタンパク質を標的タンパク質として、その異常な動きを抑制する薬剤が有効となりうると考えられております。 * フックス角膜内皮変性症 角膜内皮細胞に障害がおき、角膜浮腫・混濁が生じ、視力が低下していく疾患です。欧米で多くみられ、日本では患者数が少ないとされています。現在の治療法は角膜移植しか存在せず、有効な治療薬の開発が望まれています。 * プロテインキナーゼ ATP(アデノシン三リン酸と言われ、体内で作られる高エネルギー化合物)等、生体においてエネルギーの元となる低分子物質等のリン酸基を、タンパク質分子に転移する(リン酸化)酵素です。一般にリン酸化を触媒する酵素をキナーゼと呼び、特にタンパク質をリン酸化するキナーゼをプロテインキナーゼと言います。 * 分子薬理学 薬理学とは、薬物が生体に対してどのような作用により、影響・効果を発揮しているかを調べたり、薬物を用いて生体の機能を明らかにしたりする学問のことです。分子薬理学とは、その薬理学の調査の対象を生物の化学的性質を失わない最小の構成単位、つまり遺伝子のレベルで調べる学問です。 * 閉塞性動脈硬化症 動脈硬化(動脈壁が肥厚し硬化した状態)により、主として下肢の大血管が慢性的に閉塞することによって、軽い場合には冷感、重症の場合には下肢の壊死にまで至ることがある病気を言います。軽度の場合には抗血小板剤が処方されることが多く、症状が悪化するにつれて他の薬剤を使用します。 * 未熟児網膜症 低出生体重児(未熟児)は、出生後保育器で高酸素下の環境におかれますが、その後通常の環境に戻された際、その環境に適応するため、急激に血管を産生しようと努めます。それは網膜においても起こり、急激な血管産生の結果、脆い異常な血管が形成されることで網膜剥離につながり、最終的には失明に至ることがある疾患です。現在は、レーザー照射による治療が行われていますが、必ずしも視力が戻るわけではなく、満足されている治療というわけではありません。 * リドカイン 神経末端において痛みの信号を遮断することにより痛みを軽減させる、局所麻酔薬の一種です。 * 緑内障・高眼圧症 緑内障とは、視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患です。適切に治療されずに放置すると視野狭窄から失明に至る疾患であり、日本の中途失明原因の第一位(2005年)となっております。また、高眼圧症とは、視野狭窄が無いものの、眼圧が正常値を超えている病態です。 現在、緑内障のエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は、「眼圧を下降すること」とされており、原発開放隅角緑内障(広義)に対する治療では、薬物治療が第1選択とされております。
FY2020|10,118 文字|出典 docID: S100KZGC
3【事業の内容】 当社グループは、当社及び連結子会社日本革新創薬株式会社(以下、「JIT」)の2社で構成されており、医薬品の研究開発を行い、開発早期段階において開発品を製薬会社等にライセンスアウトすることによって収益を獲得する創薬事業を展開しております。 当社グループ事業の系統図は以下の通りです。 (1)創薬事業について① 新薬開発の流れ 一般的に新薬の開発に際しては、基礎研究、非臨床試験、臨床試験、厚生労働省(あるいはアメリカ食品医薬品局(FDA)等の各国の医薬品許認可審査機関)への製造(輸入)承認申請、医薬品としての承認取得、薬価申請・収載を経て販売が開始され、患者様へ提供することが可能となります。このうち基礎研究活動は、新薬候補化合物の合成、スクリーニング(*)、スクリーニング毒性(*)の手続により実施されます。前述の基礎研究活動が終了した後、人に対する臨床試験の前に医薬品として満たすべき条件を、実験動物を用いて副作用及び安全性、安定性の検証を行う非臨床試験によって検証します。その後の臨床試験は、第Ⅰ相臨床試験、第Ⅱ相臨床試験、第Ⅲ相臨床試験の段階をもって実施されます。(下図参照) ② 創薬事業の概要 通常、新薬の研究開発過程において、非臨床試験から臨床試験へと開発が進捗するにしたがって、開発コストは大幅に増加し、また一定規模以上の自社臨床開発体制が必要となります。 当社グループは、研究開発活動の結果として、開発早期段階において開発品を製薬会社等へライセンスアウトしておりますが、これにより、臨床開発の推進に強みを持つ製薬会社等が開発を行うこととなり、自社での開発を継続する場合に比べて、低コストでの開発体制を維持できます。 このように、当社グループの創薬事業の特徴は、一般的な医薬候補品を開発するベンチャー企業に比べ、比較的早期の研究開発段階においてライセンスアウトが達成される点にありますが、これは、当社グループが基礎研究推進における独自の技術力を有していることと、その技術を基礎研究段階において十分に活用することにより効率的な研究開発が行われていることが要因と考えております。 当社グループの売上高は、主にライセンスアウト時に受領するフロントマネー収入、臨床開発進行に伴いその節目毎に受領するマイルストーン収入、製品上市後販売額の一定比率を受領するロイヤリティ収入等によるものです。既に「リパスジル塩酸塩水和物(グラナテック®点眼液0.4%(以下、「グラナテック」)、「K-321」及び「K-232」)」、「K-134」、「DW-1002」及び「DW-1001」はいずれも製薬会社にライセンスアウト済みであり、「グラナテック」及び「DW-1002(欧州・米国)」については、上市されロイヤリティ収入を得ております。これらのフロントマネー収入、マイルストーン収入、ロイヤリティ収入等を新規開発プロジェクトに投入することによって、次なる新規開発品の開発を進めております。 当社グループの主な売上高は、以下のもので構成されております。売上高内容フロントマネー収入ライセンスアウト時に受領する収入。契約締結時に発生するため、契約一時金とも言う。マイルストーン収入臨床開発進行に伴いその節目毎に受領する収入。ロイヤリティ収入製品上市後販売額の一定比率を受領する収入。特許を実施する際に得られる収入のため実施料、ライセンス料とも言う。 ③ パイプラインについて 現在、当社グループが保有する開発パイプラインは以下の通りです。(イ)自社創製品開発コード等対象疾患開発段階地域ライセンスアウト先リパスジル塩酸塩水和物グラナテック緑内障・高眼圧症上市日本興和申請(一部地域承認含む)アジアK-321角膜内皮障害(フックス角膜内皮変性症)第Ⅱ相臨床試験米国興和リパスジル塩酸塩水和物/ブリモニジン酒石酸塩K-232緑内障・高眼圧症第Ⅲ相臨床試験日本興和H-1337緑内障・高眼圧症第Ⅰ相/前期第Ⅱ相臨床試験米国自社開発 開発コード等対象疾患開発段階地域ライセンスアウト先K-134(注1)――日本興和(注1)ライセンスアウト先の興和により、閉塞性動脈硬化症以外の適応症への応用を検討されているため、対象疾患と開発段階は記載しておりません。 (ロ)導入品開発コード等対象疾患開発段階地域ライセンスアウト先起源DW-1002内境界膜剥離上市欧州DORC国立大学法人九州大学上市米国承認(注2)カナダ内境界膜染色第Ⅲ相臨床試験日本わかもと製薬(WP-1108)白内障(*)手術第Ⅲ相臨床試験日本DW-5LBT帯状疱疹後の神経疼痛申請米国メドレックスと共同開発(MRX-5LBT)メドレックスDW-1001眼科用治療剤(非開示)非臨床試験日本ロート製薬英国企業未熟児網膜症(*)治療薬(注3)未熟児網膜症臨床試験準備中日本子会社JIT開発国立大学法人東京農工大学(注2)2021年1月に承認取得されました。(注3)JITは未熟児網膜症等診断薬について、アジア一部地域における独占的実施権をSplendor Health International Limitedに再許諾するライセンス契約を締結しております。 各開発パイプラインの詳細は以下の通りです。(イ)リパスジル塩酸塩水和物(a)グラナテック®点眼液0.4%(開発コード:K-115)(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、プロテインキナーゼ(*)の一種であるRhoキナーゼ(*)を選択的に阻害するイソキノリンスルホンアミド化合物(*)であり、眼圧下降作用により緑内障・高眼圧症を治療する点眼剤です。 本開発品は、緑内障治療剤における世界初の作用機序(*)を有しており、Rhoキナーゼを阻害することにより、線維柱帯-シュレム管を介する主流出路からの房水流出を促進することで眼圧を下降させます。 当社は、2002年に本開発品の全世界の権利を興和株式会社(以下、「興和」)にライセンスアウトしました。その後は興和により臨床試験が進められ、2014年に緑内障・高眼圧症を適応症として国内上市されました。さらに、海外においては、アジア4ヶ国(韓国、シンガポール、マレーシア、タイ)で承認取得され、現在ベトナムに申請されております。 また、興和にて適応拡大の検討がされており、2014年には糖尿病黄斑浮腫を伴う糖尿病網膜症患者を対象にした探索的臨床薬理試験が終了しております。(b)K-321(対象疾患:フックス角膜内皮変性症) 適応拡大に向けた取り組みとして、2019年に米国第Ⅱ相臨床試験のIND申請(治験許可申請)がなされ、興和にて角膜内皮障害(フックス角膜内皮変性症)を適応症とした米国第Ⅱ相臨床試験が開始されました。(c)K-232(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 2020年より、興和にて緑内障・高眼圧症を適応症とした配合点眼剤(リパスジル塩酸塩水和物とブリモニジン酒石酸塩)の国内第Ⅲ相臨床試験が開始されました。 (ロ)H-1337(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、プロテインキナーゼ阻害剤(*)を中心とする当社化合物ライブラリー(*)のシード化合物を基にして最適化された、緑内障・高眼圧症を対象疾患とする開発品です。 本開発品は、長時間持続する眼圧下降作用を有していることが動物試験で確認されており、その強力な眼圧下降作用は新規な作用機序によるものと考えられております。 本開発品は、当社初の自社開発品として取り組んでおり、2018年に米国第Ⅰ相/前期第Ⅱ相臨床試験を終了いたしました。試験結果は良好であり、現在当社は米国での次の開発の検討を進めております。 また、適応拡大の研究を進めており、滲出型加齢黄斑変性に対する治療効果、並びに肺高血圧に対する治療効果も動物試験において確認されております。 (ハ)K-134(対象疾患:検討中) 本開発品は、1993年より当社創業者と大塚製薬株式会社(以下、「大塚製薬」)の共同研究により、血管内膜肥厚抑制作用(*)を併せ持つ抗血小板剤(*)として開発が開始されました。 本開発品の全世界での権利は、2002年に大塚製薬より当社へ全て譲渡され、当社は同年に全世界の権利を興和にライセンスアウトしました。その後は興和により、閉塞性動脈硬化症に伴う間歇性跛行(*)症状を対象疾患として開発が行われておりましたが、2014年に終了した国内後期第Ⅱ相臨床試験の結果を総合的に検討した結果、閉塞性動脈硬化症を適応症とした開発は中止されました。他適応症への応用につきましては、興和にて検討されております。 (ニ)DW-1002(対象疾患:内境界膜剥離、内境界膜染色、白内障手術) 本開発品は、国立大学法人九州大学の研究グループが発見したBBG250(Brilliant Blue G-250)という染色性の高い色素を主成分とした眼科手術補助剤を、株式会社産学連携機構九州からの独占的ライセンスに基づき開発している開発品で、眼内にある内境界膜又は水晶体を保護するカプセルを一時的に安全に染色し、硝子体・白内障の手術を行いやすくするものです。 当社は、2017年に株式会社ヘリオスから本事業を譲受いたしました。 日本以外の全世界向けの独占的なサブライセンスをDutch Ophthalmic Research Center International B.V.(以下、「DORC」)に付与しており、DORCは、2010年から欧州等において、この眼科手術補助剤を製造・販売しております。2020年には米国においても販売開始し、2021年1月にはカナダで承認取得しております。 日本国内については、わかもと製薬株式会社(以下、「わかもと製薬」)に眼科手術用途の内境界膜染色についての独占的サブライセンスを付与しており、わかもと製薬が製造販売承認の取得に向けて開発を進めております。また、白内障手術については、2018年に九州大学病院が主体となった医師主導治験(*)(第Ⅲ相臨床試験)が終了し、2019年には白内障手術時の水晶体前嚢染色を対象とする独占的サブライセンスをわかもと製薬にライセンスアウトいたしました。わかもと製薬では、内境界膜染色と併せて承認取得に向けた準備を進めております。 (ホ)DW-5LBT(対象疾患:帯状疱疹後の神経疼痛) 本開発品は、株式会社メドレックス(以下、「メドレックス」)が開発中の帯状疱疹後の神経疼痛治療薬MRX-5LBT(リドカイン(*)テープ剤)について、2020年にメドレックスと共同開発を開始いたしました。本開発品は、イオン液体を利用したメドレックスの独自技術ILTS(Ionic LiquidTransdermal System)を用いた新規のリドカインテープ剤であり、リドカインパップ剤Lidodermの市場をターゲットとして開発が進められております。2020年に、米国FDA(米国食品医薬品局)に承認申請しております。 (へ)DW-1001(対象疾患:非開示) 本開発品は、2015年に英国企業から導入した眼科用治療剤です。 他の疾患を適応症として既に市販されている化合物を本適応症への適応拡大を目指す、いわゆるリポジショニングの手法での開発を目指しており、開発のコスト並びにリスクは相対的に低くなることが期待されます。 2019年に日本における独占的実施権をロート製薬株式会社(以下、「ロート製薬」)にライセンスアウトいたしました。ロート製薬では、非臨床試験を進めております。 (ト)未熟児網膜症治療薬 本開発品は、国立大学法人東京農工大学及び東京バイオマーカー・イノベーション技術研究組合により見出され、未熟児網膜症発症の重要な原因であることが患者の方々で確認されている蛋白質を阻害する化合物です。 他の疾患を適応症として既に市販されている化合物を本適応症への適応拡大を目指す、いわゆるリポジショニングの手法での開発を目指しており、開発のコスト並びにリスクは相対的に低くなることが期待されます。 子会社JITが未熟児網膜症の診断薬に関する特許も含めて権利を有しており、2020年には、未熟児網膜症等診断薬に関する特許について、アジア一部地域(中華人民共和国、香港行政特別エリア、台湾地域)における独占的実施権を、Splendor Health International Limitedに再許諾するライセンス契約を締結いたしました。 ④ 研究開発プロジェクトについて 当社グループは、現在新規創薬プロジェクトとして、以下の基礎研究を進めております。開発コード等対象とする疾患等共同研究先シグナル伝達阻害剤開発プロジェクト眼科関連疾患、神経、循環器、呼吸器系疾患国立大学法人三重大学等新規デバイス創出プロジェクト緑内障、角膜障害、網膜疾患Glaukos ⑤ 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴について 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴は以下の通りです。 (イ)プロテインキナーゼ阻害剤を中心とした新薬候補化合物の創製 当社グループは主にプロテインキナーゼ阻害剤を中心とした研究開発を進めております。 プロテインキナーゼは、細胞の分化、増殖等の細胞内情報伝達(*)機能を担っている重要な酵素であるとされており、そのプロテインキナーゼに対し、有望な新薬候補品である阻害剤を投与することによって治療効果を高めるのが当社グループの開発の特徴であります。 当社は、有望な新薬候補品を創製するために、独自に開発した化合物ライブラリーを保有しており、これらの開発過程で蓄積したデータやノウハウを活用して、新薬候補化合物を合成しておりますが、これらの技術力が高いことから有効な新薬候補化合物が見つかる可能性が高いと考えております。 (ロ)当社独自の標的タンパク質(*)の同定(*)方法であるドラッグ・ウエスタン法(*)の活用 当社は、ドラッグ・ウエスタン法という独自に開発した方法を使って、新薬候補化合物の標的タンパク質を同定しております。生物学の分野では、標的タンパク質を同定するために様々な方法が利用されてきましたが、当社は、それらを踏まえて医薬品開発への応用を図り、ドラッグ・ウエスタン法を完成させました。 この方法の活用により、他の手法を活用した際に困難である新薬候補化合物の標的タンパク質の特定が容易になるほか、1回のスクリーニングで多数の標的タンパク質を同定することが可能です。既存の方法に対して、生物材料や化合物の消費量が少ないこと、スクリーニングの操作が単純であり短時間で完了すること等の長所を持ちます。 ドラッグ・ウエスタン法を活用した際の効果は、以下の通りと考えられます。 a. 有効性:高い有効性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。新薬候補化合物の標的タンパク質を早期に同定することによって、その新薬候補化合物の作用機序が明らかになり、その結果から、有効な新薬候補化合物の開発へとつなげていくことが可能になると考えております。 b. 安全性:副作用や他の医薬品との相互作用の予測により、高い安全性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。早期に標的タンパク質を同定することによって、副作用が起こるメカニズムの推測もしやすくなり、それにより、安全性の高い新薬候補化合物の開発が可能となります。また、作用メカニズムが明らかになることにより、他の薬剤との併用の可能性の分析がしやすくなり、薬としての利用機会の拡大とリスクの低減につながりやすいと考えます。 既にこの方法を用いて、当社グループのパイプラインの「K-134」についても標的タンパク質が同定されました。 (ハ)細胞内情報伝達研究に由来する分子薬理学(*)に関する経験及びノウハウの活用 当社グループの創業者は、長年にわたって細胞内情報伝達の研究活動及び創薬活動に従事してきており、その研究・創薬活動の中で、これまでに製薬会社と共同で2つの上市薬の誕生に貢献しております。当社グループは、こうした活動において獲得した経験とノウハウを基盤に、研究開発活動を行い、2014年には当社設立以来初の上市薬が誕生いたしました。 当社グループの新薬の開発は、この分子薬理学に関する経験及びノウハウを駆使し、新薬候補化合物を設計し、合成することによって開始されております。ここで合成された新薬候補化合物の薬理学的傾向は、過去の分子薬理学に関する経験及びノウハウからある程度予測することが可能であるため、その予測を基に効率的な研究開発が可能になると考えております。(ニ)提携関係を活用した研究開発体制 当社グループは、国立大学法人三重大学との産学官連携講座(後述「第一部 企業情報 第2 事業の状況 4 経営上の重要な契約等」参照)による共同研究等の提携関係を構築し、技術の取り込みを図り研究活動を進めております。また、研究開発の推進に向けては、業務受託企業等外部の企業を積極的に活用しております。こうした企業外部との提携関係を活用することによって、効率的な研究開発体制を構築することが可能となっております。 当社グループと外部機関との関係図(研究開発体制) <用語解説>(アルファベット、あいうえお順) * Rhoキナーゼ タンパク質リン酸化(*)酵素(プロテインキナーゼ)の1つであり、Rho-ROCK経路を介する多彩な細胞応答の制御機構に関与する酵素です。 * 医師主導治験 医師・医療機関が主体となって行う臨床試験のことです。 * イソキノリンスルホンアミド化合物 当社が開発している化合物の有する骨格(形)の名称です。 * 化合物ライブラリー 当社が長年にわたり蓄積してきた新薬候補化合物のタネとなる化合物群です。これらの化合物の一つ一つが特徴的な性質を有しており、基礎研究や新薬候補化合物発見に利用されます。 * 間歇性跛行 閉塞性動脈硬化症により引き起こされる典型的な症状です。一般に下肢筋肉への動脈血供給を妨げる閉塞性病変が原因となって血流障害が引き起こされ、歩行運動に伴って虚血性の疼痛を発生させます。この疼痛は一定の運動負荷で引き起こされ、安静により数分以内に緩和される特徴があります。跛行症状の治療には、下肢血行動態の改善を目的とした監視下運動療法、薬物療法及び血行再建術があります。 * 血管内膜肥厚抑制作用 血管内膜肥厚とは、血管壁の損傷により血管壁が厚くなることであり、その結果血液の流路が細くなり、血行障害が生じやすくなります。この血管内膜肥厚を抑制することは動脈硬化を防ぐためには重要であると考えられており、その抑制作用を血管内膜肥厚抑制作用と言います。 * 抗血小板剤 血小板(血液の成分の1つで血液の凝固や止血に重要な役割を果たしている成分)が有する機能の1つである凝集機能を阻害(抑制)する薬です。 * 細胞内情報伝達 神経刺激やホルモン等の細胞外からのシグナル(信号)を細胞内の必要な箇所へ伝えるシステムのことを言います。細胞内シグナル伝達とも言います。 * 作用機序 薬物が作用する仕組みのことを言います。近年では薬物作用の明確化の重要性が高まっており、この作用機序の解明が新薬開発において注目されております。 * 上市(じょうし) 新薬が承認され、実際に市場に出る(市販される)ことを言います。 * スクリーニング 新薬を開発するには、多数の候補化合物の中から、効果があり安全性が高いものを選び出すことが必要となります。このような多数の化合物から新薬の候補を探す一連の流れをスクリーニングと言います。 * スクリーニング毒性 細菌を用いる復帰突然変異試験(化学物質による、発癌性を含めた遺伝子に与える変化である変異原性を、細菌を用いてテストする試験)、ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験(明確な染色体構造を持たない最近においては、染色体異常を検出できないため、人為的に生体外で培養したほ乳動物の細胞を用いて、染色体に対する遺伝毒性がないかをテストする試験)及びほ乳類を用いる28日間の反復毒性試験(ラット等の動物に一定期間毎日反復投与したときに現れる生体機能及び形態の変化を観察する試験)によって検出される毒性を指します。 * 阻害剤 生体内の様々な酵素分子に結合して、その酵素の活性を低下もしくは消失させる物質を指します。化学物質が特定の酵素の活性を低下もしくは消失させることにより、病気の治療薬として利用されることがあります。 * タンパク質リン酸化 タンパク質にリン酸基を移転する化学反応であり、タンパク質の働きを調節すると考えられております。 * 同定 単離した化学物質等の標的が何であるかを決定することを指します。 * ドラッグ・ウエスタン法 薬物の標的タンパク質の同定に用いられる手法で、当社がバイオテクノロジーを応用して発明し、特許を有しておりました。煩雑なタンパク質精製プロセスを介さずに、薬物が結合する少量のタンパク質を検出し、その遺伝子を特定することにより標的タンパク質を同定することができる方法です。 * 白内障 水晶体が白く濁り、視力障害を引き起こす病気です。主な原因は加齢によるもので、症状が進行している場合には、濁った水晶体を取り除き、眼内レンズを挿入する手術が行われます。日本では年間およそ120万件の手術が行われています。 * 標的タンパク質 薬物が作用する対象となるタンパク質を標的タンパク質と呼びます。生体においては多くのタンパク質が相互に作用することによって様々な機能を果たしており、多くの病気が特定のタンパク質の異常な働きによって引き起こされております。これらの病気には、これらのタンパク質を標的タンパク質として、その異常な動きを抑制する薬剤が有効となりうると考えられております。 * フックス角膜内皮変性症 角膜内皮細胞に障害がおき、角膜浮腫・混濁が生じ、視力が低下していく疾患です。欧米で多くみられ、日本では患者数が少ないとされています。現在の治療法は角膜移植しか存在せず、有効な治療薬の開発が望まれています。 * プロテインキナーゼ ATP(アデノシン三リン酸と言われ、体内で作られる高エネルギー化合物)等、生体においてエネルギーの元となる低分子物質等のリン酸基を、タンパク質分子に転移する(リン酸化)酵素です。一般にリン酸化を触媒する酵素をキナーゼと呼び、特にタンパク質をリン酸化するキナーゼをプロテインキナーゼと言います。 * 分子薬理学 薬理学とは、薬物が生体に対してどのような作用により、影響・効果を発揮しているかを調べたり、薬物を用いて生体の機能を明らかにしたりする学問のことです。分子薬理学とは、その薬理学の調査の対象を生物の化学的性質を失わない最小の構成単位、つまり遺伝子のレベルで調べる学問です。 * 閉塞性動脈硬化症 動脈硬化(動脈壁が肥厚し硬化した状態)により、主として下肢の大血管が慢性的に閉塞することによって、軽い場合には冷感、重症の場合には下肢の壊死にまで至ることがある病気を言います。軽度の場合には抗血小板剤が処方されることが多く、症状が悪化するにつれて他の薬剤を使用します。 * 未熟児網膜症 低出生体重児(未熟児)は、出生後保育器で高酸素下の環境におかれますが、その後通常の環境に戻された際、その環境に適応するため、急激に血管を産生しようと努めます。それは網膜においても起こり、急激な血管産生の結果、脆い異常な血管が形成されることで網膜剥離につながり、最終的には失明に至ることがある疾患です。現在は、レーザー照射による治療が行われていますが、必ずしも視力が戻るわけではなく、満足されている治療というわけではありません。 * リドカイン 神経末端において痛みの信号を遮断することにより痛みを軽減させる、局所麻酔薬の一種です。 * 緑内障・高眼圧症 緑内障とは、視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患です。適切に治療されずに放置すると視野狭窄から失明に至る疾患であり、日本の中途失明原因の第一位(2005年)となっております。また、高眼圧症とは、視野狭窄が無いものの、眼圧が正常値を超えている病態です。 現在、緑内障のエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は、「眼圧を下降すること」とされており、原発開放隅角緑内障(広義)に対する治療では、薬物治療が第1選択とされております。
FY2019|9,731 文字|出典 docID: S100I99P
3【事業の内容】 当社グループは、当社及び連結子会社日本革新創薬株式会社(以下、「JIT」)の2社で構成されており、医薬品の研究開発を行い、開発早期段階において開発品を製薬会社等にライセンスアウトすることによって収益を獲得する創薬事業を展開しております。 当社グループ事業の系統図は以下の通りです。 (1)創薬事業について① 新薬開発の流れ 一般的に新薬の開発に際しては、基礎研究、非臨床試験、臨床試験、厚生労働省(あるいはアメリカ食品医薬品局(FDA)等の各国の医薬品許認可審査機関)への製造(輸入)承認申請、医薬品としての承認取得、薬価申請・収載を経て販売が開始され、患者様へ提供することが可能となります。このうち基礎研究活動は、新薬候補化合物の合成、スクリーニング(*)、スクリーニング毒性(*)の手続により実施されます。前述の基礎研究活動が終了した後、人に対する臨床試験の前に医薬品として満たすべき条件を、実験動物を用いて副作用及び安全性、安定性の検証を行う非臨床試験によって検証します。その後の臨床試験は、第Ⅰ相臨床試験、第Ⅱ相臨床試験、第Ⅲ相臨床試験の段階をもって実施されます。(下図参照) ② 創薬事業の概要 通常、新薬の研究開発過程において、非臨床試験から臨床試験へと開発が進捗するにしたがって、開発コストは大幅に増加し、また一定規模以上の自社臨床開発体制が必要となります。 当社グループは、研究開発活動の結果として、開発早期段階において開発品を製薬会社等へライセンスアウトしておりますが、これにより、臨床開発の推進に強みを持つ製薬会社等が開発を行うこととなり、自社での開発を継続する場合に比べて、早期の上市が期待されるとともに、低コストでの開発体制を維持できます。 このように、当社グループの創薬事業の特徴は、一般的な医薬候補品を開発するベンチャー企業に比べ、比較的早期の研究開発段階においてライセンスアウトが達成される点にありますが、これは、当社グループが基礎研究推進における独自の技術力を有していることと、その技術を基礎研究段階において十分に活用することにより効率的な研究開発が行われていることが要因と考えております。 当社グループの売上高は、主にライセンスアウト時に受領するフロントマネー収入、臨床開発進行に伴いその節目毎に受領するマイルストーン収入、製品上市後販売額の一定比率を受領するロイヤリティ収入等によるものです。既に「リパスジル塩酸塩水和物(グラナテック®点眼液0.4%(以下、「グラナテック」)、「K-321」及び「K-232」)」、「K-134」、「DW-1002」及び「DW-1001」はいずれも製薬会社にライセンスアウト済みであり、「グラナテック」及び「DW-1002(欧州)」については、上市されロイヤリティ収入を得ております。これらのフロントマネー収入、マイルストーン収入、ロイヤリティ収入等を新規開発プロジェクトに投入することによって、次なる新規開発品の開発を進めております。 当社グループの主な売上高は、以下のもので構成されております。売上高内容フロントマネー収入ライセンスアウト時に受領する収入。契約締結時に発生するため、契約一時金とも言う。マイルストーン収入臨床開発進行に伴いその節目毎に受領する収入。ロイヤリティ収入製品上市後販売額の一定比率を受領する収入。特許を実施する際に得られる収入のため実施料、ライセンス料とも言う。 ③ パイプラインについて 現在、当社グループが保有する開発パイプラインは以下の通りです。(イ)自社創製品開発コード等対象疾患開発段階地域ライセンスアウト先/開発コードリパスジル塩酸塩水和物グラナテック緑内障・高眼圧症上市日本興和/K-115承認韓国申請アジア4ヶ国(注1)K-321角膜内皮障害(フックス角膜内皮変性症)第Ⅱ相臨床試験米国興和/K-321リパスジル塩酸塩水和物/ブリモニジン酒石酸塩K-232緑内障・高眼圧症第Ⅲ相臨床試験(注2)日本興和/K-232H-1337緑内障・高眼圧症第Ⅰ相/前期第Ⅱ相臨床試験米国自社開発 開発コード等対象疾患開発段階地域ライセンスアウト先/開発コードH-1337緑内障・高眼圧症第Ⅰ相/前期第Ⅱ相臨床試験米国自社開発K-134(注3)――日本興和/K-134(注1)シンガポール、マレーシア、ベトナム、タイの4ヶ国になります。(注2)2020年2月に、第Ⅲ相臨床試験が開始されました。(注3)ライセンスアウト先の興和により、閉塞性動脈硬化症以外の適応症への応用を検討されているため、対象疾患と開発段階は記載しておりません。 (ロ)導入品開発コード等対象疾患開発段階地域ライセンスアウト先/開発コード起源DW-1002内境界膜剥離上市欧州DORC国立大学法人九州大学承認米国申請カナダ内境界膜染色第Ⅲ相臨床試験日本わかもと製薬/WP-1108白内障(*)手術第Ⅲ相臨床試験日本DW-1001眼科用治療剤(非開示)非臨床試験日本ロート製薬英国企業未熟児網膜症(*)治療薬未熟児網膜症臨床試験準備中日本JIT開発国立大学法人東京農工大学 各開発パイプラインの詳細は以下の通りです。(イ)リパスジル塩酸塩水和物(a)グラナテック®点眼液0.4%(開発コード:K-115)(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、プロテインキナーゼ(*)の一種であるRhoキナーゼ(*)を選択的に阻害するイソキノリンスルホンアミド化合物(*)であり、眼圧下降作用により緑内障・高眼圧症を治療する点眼剤です。 本開発品は、緑内障治療剤における世界初の作用機序(*)を有しており、Rhoキナーゼを阻害することにより、線維柱帯-シュレム管を介する主流出路からの房水流出を促進することで眼圧を下降させます。 当社は、2002年9月に本開発品の全世界の権利を興和株式会社(以下、「興和」)にライセンスアウトしました。その後は興和により臨床試験が進められ、2014年9月に緑内障・高眼圧症を適応症として国内製造販売承認を取得され、同年12月に上市されました。さらに、2017年12月に韓国において申請が行われ、2019年2月に承認取得されました。2019年度においては、アジア4ヶ国(シンガポール、マレーシア、ベトナム、タイ)についても順次承認申請されました。 また、2014年2月より興和にて進められておりました糖尿病黄斑浮腫を伴う糖尿病網膜症患者を対象にした探索的臨床薬理試験が終了しており、興和にて適応拡大の検討がされております。(b)K-321(対象疾患:フックス角膜内皮変性症) 適応拡大に向けた取り組みとして、2019年8月より、興和にて角膜内皮障害(フックス角膜内皮変性症)を適応症とした米国第Ⅱ相臨床試験が開始されました。(c)K-232(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 2020年2月より、興和にて緑内障・高眼圧症を適応症とした配合点眼剤(リパスジル塩酸塩水和物とブリモニジン酒石酸塩)の国内第Ⅲ相臨床試験が開始されました。 (ロ)H-1337(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、プロテインキナーゼ阻害剤(*)を中心とする当社化合物ライブラリー(*)のシード化合物を基にして最適化された、緑内障・高眼圧症を対象疾患とする開発品です。 本開発品は、長時間持続する眼圧下降作用を有していることが動物試験で確認されており、その強力な眼圧下降作用は新規な作用機序によるものと考えられております。また、滲出型加齢黄斑変性に対する治療効果も動物試験において確認されております。 本開発品は、当社初の自社開発品として取り組んでおり、2018年3月に米国第Ⅰ相/前期第Ⅱ相臨床試験を開始し、9月に終了いたしました。試験結果は良好であったため、当社はライセンスアウト活動を進めております。 (ハ)K-134(対象疾患:検討中) 本開発品は、1993年1月より当社取締役会長兼最高科学責任者 日高弘義と大塚製薬株式会社(以下、「大塚製薬」)の共同研究により、血管内膜肥厚抑制作用(*)を併せ持つ抗血小板剤(*)として開発が開始されました。 本開発品の全世界での権利は、2002年8月までに大塚製薬より当社へ全て譲渡され、当社は2002年9月に全世界の権利を興和にライセンスアウトしました。その後は興和により、臨床試験が進められております。 本開発品は、閉塞性動脈硬化症に伴う間歇性跛行(*)症状を対象疾患として開発が行われておりましたが、2014年12月に終了した国内後期第Ⅱ相臨床試験の結果を総合的に検討した結果、閉塞性動脈硬化症を適応症とした開発は中止されました。他適応症への応用につきましては、興和にて検討されております。 (ニ)DW-1002(対象疾患:内境界膜剥離、内境界膜染色、白内障手術) 本開発品は、国立大学法人九州大学の研究グループが発見したBBG250(Brilliant Blue G-250)という染色性の高い色素を主成分とした眼科手術補助剤を、株式会社産学連携機構九州からの独占的ライセンスに基づき開発している開発品で、眼内にある内境界膜又は水晶体を保護するカプセルを一時的に安全に染色し、硝子体・白内障の手術を行いやすくするものです。 当社は、2017年4月に株式会社ヘリオスから本事業を譲受いたしました。 日本以外の全世界向けの独占的なサブライセンスをDutch Ophthalmic Research Center International B.V.(以下、「DORC」)に付与しており、DORCは、2010年9月から欧州等において、この眼科手術補助剤を製造・販売しております。 日本国内については、わかもと製薬株式会社(以下、「わかもと製薬」)に眼科手術用途の内境界膜染色についての独占的サブライセンスを付与しており、わかもと製薬が製造販売承認の取得に向けて開発を進めております。また、白内障手術については、2017年10月に九州大学病院が主体となり医師主導治験(*)(第Ⅲ相臨床試験)が進められ、2018年8月に終了いたしました。当社は、2019年2月に、日本における白内障手術時の水晶体前嚢染色を対象とする独占的サブライセンスをわかもと製薬にライセンスアウトいたしました。わかもと製薬では、内境界膜染色と併せて承認取得に向けた準備を進めております。 (ホ)DW-1001(対象疾患:非開示) 本開発品は、2015年6月に英国企業から導入した眼科用治療剤です。 他の疾患を適応症として既に市販されている化合物を本適応症への適応拡大を目指す、いわゆるリポジショニングの手法での開発を目指しており、開発のコスト並びにリスクは相対的に低くなることが期待されます。 これまで製剤化の検討等を進めてまいりましたが、2019年12月に日本における独占的実施権をロート製薬株式会社(以下、「ロート製薬」)にライセンスアウトいたしました。今後は、ロート製薬において開発が進められる予定です。 (ヘ)未熟児網膜症治療薬 本開発品は、国立大学法人東京農工大学及び東京バイオマーカー・イノベーション技術研究組合により見出され、未熟児網膜症発症の重要な原因であることが患者の方々で確認されている蛋白質を阻害する化合物です。 他の疾患を適応症として既に市販されている化合物を本適応症への適応拡大を目指す、いわゆるリポジショニングの手法での開発を目指しており、開発のコスト並びにリスクは相対的に低くなることが期待されます。 子会社JITが導入し権利を有しており、現在臨床試験に向けた準備を進めております。 ④ 研究開発プロジェクトについて 当社グループは、現在新規開発プロジェクトとして、シグナル伝達阻害剤開発プロジェクトの研究を進めております。開発コード等対象とする疾患等開発段階シグナル伝達阻害剤開発プロジェクト眼科関連疾患、神経、循環器、呼吸器系疾患基礎研究 ⑤ 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴について 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴は以下の通りです。 (イ)プロテインキナーゼ阻害剤を中心とした新薬候補化合物の創製 当社グループは主にプロテインキナーゼ阻害剤を中心とした研究開発を進めております。 プロテインキナーゼは、細胞の分化、増殖等の細胞内情報伝達(*)機能を担っている重要な酵素であるとされており、そのプロテインキナーゼに対し、有望な新薬候補品である阻害剤を投与することによって治療効果を高めるのが当社グループの開発の特徴であります。 当社は、有望な新薬候補品を創製するために、独自に開発した化合物ライブラリーを保有しており、これらの開発過程で蓄積したデータやノウハウを活用して、新薬候補化合物を合成しておりますが、これらの技術力が高いことから有効な新薬候補化合物が見つかる可能性が高いと考えております。 (ロ)当社独自の標的タンパク質(*)の同定(*)方法であるドラッグ・ウエスタン法(*)の活用 当社は、ドラッグ・ウエスタン法という独自に開発した方法を使って、新薬候補化合物の標的タンパク質を同定しております。生物学の分野では、標的タンパク質を同定するために様々な方法が利用されてきましたが、当社は、それらを踏まえて医薬品開発への応用を図り、ドラッグ・ウエスタン法を完成させました。 この方法の活用により、他の手法を活用した際に困難である新薬候補化合物の標的タンパク質の特定が容易になるほか、1回のスクリーニングで多数の標的タンパク質を同定することが可能です。既存の方法に対して、生物材料や化合物の消費量が少ないこと、スクリーニングの操作が単純であり短時間で完了すること等の長所を持ちます。 ドラッグ・ウエスタン法を活用した際の効果は、以下の通りと考えられます。 a. 有効性:高い有効性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。新薬候補化合物の標的タンパク質を早期に同定することによって、その新薬候補化合物の作用機序が明らかになり、その結果から、有効な新薬候補化合物の開発へとつなげていくことが可能になると考えております。 b. 安全性:副作用や他の医薬品との相互作用の予測により、高い安全性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。早期に標的タンパク質を同定することによって、副作用が起こるメカニズムの推測もしやすくなり、それにより、安全性の高い新薬候補化合物の開発が可能となります。また、作用メカニズムが明らかになることにより、他の薬剤との併用の可能性の分析がしやすくなり、薬としての利用機会の拡大とリスクの低減につながりやすいと考えます。 既にこの方法を用いて、当社グループのパイプラインの「K-134」についても標的タンパク質が同定されました。 (ハ)細胞内情報伝達研究に由来する分子薬理学(*)に関する経験及びノウハウの活用 当社グル―プの創業者であり、当社取締役会長兼最高科学責任者 日高弘義は、長年にわたって細胞内情報伝達の研究活動及び創薬活動に従事してきており、その研究・創薬活動の中で、これまでに製薬会社と共同で2つの上市薬の誕生に貢献しております。当社グループは、日高弘義のこうした活動において獲得した経験とノウハウを基盤に、研究開発活動を行い、2014年12月には当社設立以来初の上市薬が誕生しております。 当社グループの新薬の開発は、この分子薬理学に関する経験及びノウハウを駆使し、新薬候補化合物を設計し、合成することによって開始されております。ここで合成された新薬候補化合物の薬理学的傾向は、過去の分子薬理学に関する経験及びノウハウからある程度予測することが可能であるため、その予測を基に効率的な研究開発が可能になると考えております。 (ニ)提携関係を活用した研究開発体制 当社グループは、国立大学法人三重大学との産学官連携講座(後述「第一部 企業情報 第2 事業の状況 4 経営上の重要な契約等」参照)による共同研究等の提携関係を構築し、技術の取り込みを図り研究活動を進めております。また、研究開発の推進に向けては、業務受託企業等外部の企業を積極的に活用しております。こうした企業外部との提携関係を活用することによって、効率的な研究開発体制を構築することが可能となっております。 当社グループと外部機関との関係図(研究開発体制) <用語解説>(アルファベット、あいうえお順) * Rhoキナーゼ タンパク質リン酸化(*)酵素(プロテインキナーゼ)の1つであり、Rho-ROCK経路を介する多彩な細胞応答の制御機構に関与する酵素です。 * 医師主導治験 医師・医療機関が主体となって行う臨床試験のことです。 * イソキノリンスルホンアミド化合物 当社が開発している化合物の有する骨格(形)の名称です。 * 化合物ライブラリー 当社が長年にわたり蓄積してきた新薬候補化合物のタネとなる化合物群です。これらの化合物の一つ一つが特徴的な性質を有しており、基礎研究や新薬候補化合物発見に利用されます。 * 間歇性跛行 閉塞性動脈硬化症により引き起こされる典型的な症状です。一般に下肢筋肉への動脈血供給を妨げる閉塞性病変が原因となって血流障害が引き起こされ、歩行運動に伴って虚血性の疼痛を発生させます。この疼痛は一定の運動負荷で引き起こされ、安静により数分以内に緩和される特徴があります。跛行症状の治療には、下肢血行動態の改善を目的とした監視下運動療法、薬物療法及び血行再建術があります。 * 血管内膜肥厚抑制作用 血管内膜肥厚とは、血管壁の損傷により血管壁が厚くなることであり、その結果血液の流路が細くなり、血行障害が生じやすくなります。この血管内膜肥厚を抑制することは動脈硬化を防ぐためには重要であると考えられており、その抑制作用を血管内膜肥厚抑制作用と言います。 * 抗血小板剤 血小板(血液の成分の1つで血液の凝固や止血に重要な役割を果たしている成分)が有する機能の1つである凝集機能を阻害(抑制)する薬です。 * 細胞内情報伝達 神経刺激やホルモン等の細胞外からのシグナル(信号)を細胞内の必要な箇所へ伝えるシステムのことを言います。細胞内シグナル伝達とも言います。 * 作用機序 薬物が作用する仕組みのことを言います。近年では薬物作用の明確化の重要性が高まっており、この作用機序の解明が新薬開発において注目されております。* 上市(じょうし) 新薬が承認され、実際に市場に出る(市販される)ことを言います。 * スクリーニング 新薬を開発するには、多数の候補化合物の中から、効果があり安全性が高いものを選び出すことが必要となります。このような多数の化合物から新薬の候補を探す一連の流れをスクリーニングと言います。 * スクリーニング毒性 細菌を用いる復帰突然変異試験(化学物質による、発癌性を含めた遺伝子に与える変化である変異原性を、細菌を用いてテストする試験)、ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験(明確な染色体構造を持たない最近においては、染色体異常を検出できないため、人為的に生体外で培養したほ乳動物の細胞を用いて、染色体に対する遺伝毒性がないかをテストする試験)及びほ乳類を用いる28日間の反復毒性試験(ラット等の動物に一定期間毎日反復投与したときに現れる生体機能及び形態の変化を観察する試験)によって検出される毒性を指します。 * 阻害剤 生体内の様々な酵素分子に結合して、その酵素の活性を低下もしくは消失させる物質を指します。化学物質が特定の酵素の活性を低下もしくは消失させることにより、病気の治療薬として利用されることがあります。 * タンパク質リン酸化 タンパク質にリン酸基を移転する化学反応であり、タンパク質の働きを調節すると考えられております。 * 同定 単離した化学物質等の標的が何であるかを決定することを指します。 * ドラッグ・ウエスタン法 薬物の標的タンパク質の同定に用いられる手法で、当社がバイオテクノロジーを応用して発明し、特許を有しておりました。煩雑なタンパク質精製プロセスを介さずに、薬物が結合する少量のタンパク質を検出し、その遺伝子を特定することにより標的タンパク質を同定することができる方法です。 * 白内障 水晶体が白く濁り、視力障害を引き起こす病気です。主な原因は加齢によるもので、症状が進行している場合には、濁った水晶体を取り除き、眼内レンズを挿入する手術が行われます。日本では年間およそ120万件の手術が行われています。 * 標的タンパク質 薬物が作用する対象となるタンパク質を標的タンパク質と呼びます。生体においては多くのタンパク質が相互に作用することによって様々な機能を果たしており、多くの病気が特定のタンパク質の異常な働きによって引き起こされております。これらの病気には、これらのタンパク質を標的タンパク質として、その異常な動きを抑制する薬剤が有効となりうると考えられております。 * フックス角膜内皮変性症 角膜内皮細胞に障害がおき、角膜浮腫・混濁が生じ、視力が低下していく疾患です。欧米で多くみられ、日本では患者数が少ないとされています。現在の治療法は角膜移植しか存在せず、有効な治療薬の開発が望まれています。 * プロテインキナーゼ ATP(アデノシン三リン酸と言われ、体内で作られる高エネルギー化合物)等、生体においてエネルギーの元となる低分子物質等のリン酸基を、タンパク質分子に転移する(リン酸化)酵素です。一般にリン酸化を触媒する酵素をキナーゼと呼び、特にタンパク質をリン酸化するキナーゼをプロテインキナーゼと言います。 * 分子薬理学 薬理学とは、薬物が生体に対してどのような作用により、影響・効果を発揮しているかを調べたり、薬物を用いて生体の機能を明らかにしたりする学問のことです。分子薬理学とは、その薬理学の調査の対象を生物の化学的性質を失わない最小の構成単位、つまり遺伝子のレベルで調べる学問です。* 閉塞性動脈硬化症 動脈硬化(動脈壁が肥厚し硬化した状態)により、主として下肢の大血管が慢性的に閉塞することによって、軽い場合には冷感、重症の場合には下肢の壊死にまで至ることがある病気を言います。軽度の場合には抗血小板剤が処方されることが多く、症状が悪化するにつれて他の薬剤を使用します。 * 未熟児網膜症 低出生体重児(未熟児)は、出生後保育器で高酸素下の環境におかれますが、その後通常の環境に戻された際、その環境に適応するため、急激に血管を産生しようと努めます。それは網膜においても起こり、急激な血管産生の結果、脆い異常な血管が形成されることで網膜剥離につながり、最終的には失明に至ることがある疾患です。現在は、レーザー照射による治療が行われていますが、必ずしも視力が戻るわけではなく、満足されている治療というわけではありません。 * 緑内障・高眼圧症 緑内障とは、視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患です。適切に治療されずに放置すると視野狭窄から失明に至る疾患であり、日本の中途失明原因の第一位(2005年)となっております。また、高眼圧症とは、視野狭窄が無いものの、眼圧が正常値を超えている病態です。 現在、緑内障のエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は、「眼圧を下降すること」とされており、原発開放隅角緑内障(広義)に対する治療では、薬物治療が第1選択とされております。
FY2018|9,757 文字|出典 docID: S100FHGB
3【事業の内容】 当社グループは、当社及び連結子会社日本革新創薬株式会社(以下、「JIT」)の2社で構成されており、医薬品の研究開発を行い、開発早期段階において開発品を製薬会社等にライセンスアウトすることによって収益を獲得する創薬事業を展開しております。 当社グループ事業の系統図は以下の通りです。 (1)創薬事業について① 新薬開発の流れ 一般的に新薬の開発に際しては、基礎研究、非臨床試験、臨床試験、厚生労働省(あるいはアメリカ食品医薬品局(FDA)等の各国の医薬品許認可審査機関)への製造(輸入)承認申請、医薬品としての承認取得、薬価申請・収載を経て販売が開始され、患者様へ提供することが可能となります。このうち基礎研究活動は、新薬候補化合物の合成、スクリーニング(*)、スクリーニング毒性(*)の手続により実施されます。前述の基礎研究活動が終了した後、人に対する臨床試験の前に医薬品として満たすべき条件を、実験動物を用いて副作用及び安全性、安定性の検証を行う非臨床試験によって検証します。その後の臨床試験は、第Ⅰ相臨床試験、第Ⅱ相臨床試験、第Ⅲ相臨床試験の段階をもって実施されます。(下図参照) ② 創薬事業の概要 通常、新薬の研究開発過程において、非臨床試験から臨床試験へと開発が進捗するにしたがって、開発コストは大幅に増加し、また一定規模以上の自社臨床開発体制が必要となります。 当社グループは、研究開発活動の結果として、開発早期段階において開発品を製薬会社等へライセンスアウトしておりますが、これにより、臨床開発の推進に強みを持つ製薬会社等が開発を行うこととなり、自社での開発を継続する場合に比べて、早期の上市が期待されるとともに、低コストでの開発体制を維持できます。 このように、当社グループの創薬事業の特徴は、一般的な医薬候補品を開発するベンチャー企業に比べ、比較的早期の研究開発段階においてライセンスアウトが達成される点にありますが、これは、当社グループが基礎研究推進における独自の技術力を有していることと、その技術を基礎研究段階において十分に活用することにより効率的な研究開発が行われていることが要因と考えております。 当社グループの売上高は、主にライセンスアウト時に受領するフロントマネー収入、臨床開発進行に伴いその節目毎に受領するマイルストーン収入、製品上市後販売額の一定比率を受領するロイヤリティ収入等によるものです。既に「グラナテック®点眼液0.4%(開発コード:K-115)(以下、「グラナテック」)」、「H-1129(WP-1303)」、「K-134」及び「DW-1002」はいずれも製薬会社にライセンスアウト済みであり、「グラナテック」及び「DW-1002(欧州)」については、上市されロイヤリティ収入を得ております。これらのフロントマネー収入、マイルストーン収入、ロイヤリティ収入等を新規開発プロジェクトに投入することによって、次なる新規開発品の開発を進めております。 当社グループの主な売上高は、以下のもので構成されております。売上高内容フロントマネー収入ライセンスアウト時に受領する収入。契約締結時に発生するため、契約一時金とも言う。マイルストーン収入臨床開発進行に伴いその節目毎に受領する収入。ロイヤリティ収入製品上市後販売額の一定比率を受領する収入。特許を実施する際に得られる収入のため実施料、ライセンス料とも言う。 ③ パイプラインについて 現在、当社グループが保有する開発パイプラインは以下の通りです。(イ)自社創製品開発コード等対象疾患開発段階地域ライセンスアウト先/開発コードグラナテック緑内障・高眼圧症上市日本興和/K-115申請(注1)韓国H-1129緑内障・高眼圧症後期第Ⅱ相臨床試験(注2)日本わかもと製薬/WP-1303H-1337緑内障・高眼圧症第Ⅰ相/前期第Ⅱ相臨床試験米国自社開発K-134(注3)――日本興和/K-134(注1)2019年2月に、承認されました。(注2)2019年1月に、第Ⅲ相臨床試験が開始されました。(注3)ライセンスアウト先の興和により、閉塞性動脈硬化症以外の適応症への応用を検討されているため、対象疾患と開発段階は記載しておりません。(ロ)導入品開発コード等対象疾患開発段階地域ライセンスアウト先/開発コード起源DW-1002内境界膜剥離上市欧州DORC国立大学法人九州大学内境界膜剥離第Ⅲ相臨床試験米国DORC内境界膜染色第Ⅲ相臨床試験日本わかもと製薬/WP-1108白内障手術第Ⅲ相臨床試験日本未定(注4)眼科用鎮痛剤眼の手術後疼痛臨床試験準備中日本自社開発英国企業未熟児網膜症(*)治療薬未熟児網膜症臨床試験準備中日本JIT開発国立大学法人東京農工大学(注4)2019年2月に、わかもと製薬にライセンスアウトしております。 各開発パイプラインの詳細は以下の通りです。(イ)グラナテック®点眼液0.4%(一般名:リパスジル塩酸塩水和物、開発コード:K-115)(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、プロテインキナーゼ(*)の一種であるRhoキナーゼ(*)を選択的に阻害するイソキノリンスルホンアミド化合物(*)であり、眼圧下降作用により緑内障・高眼圧症を治療する点眼剤です。 本開発品は、緑内障治療剤における世界初の作用機序(*)を有しており、Rhoキナーゼを阻害することにより、線維柱帯-シュレム管を介する主流出路からの房水流出を促進することで眼圧を下降させます。 当社は、2002年9月に本開発品の全世界の権利を興和株式会社(以下、「興和」)にライセンスアウトしました。その後は興和により臨床試験が進められ、2014年9月に緑内障・高眼圧症を適応症として国内製造販売承認を取得され、同年12月に上市されました。さらに、2017年12月に韓国において申請が行われ、2019年2月に承認されました。 また、2014年2月より興和にて進められておりました糖尿病黄斑浮腫を伴う糖尿病網膜症患者を対象にした探索的臨床薬理試験が終了しており、興和にて適応拡大の検討がされております。 (ロ)H-1129(WP-1303)(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、プロテインキナーゼ阻害剤(*)を中心とする当社化合物ライブラリー(*)のシード化合物を基にして最適化された、緑内障を対象疾患とする開発品です。当社独自技術であるドラッグ・ウエスタン法(*)により、標的タンパク質(*)が同定されております。 本開発品は、緑内障治療剤として、強い眼圧下降作用と神経保護作用を有することが動物試験で確認されております。 本開発品は、2013年3月に、日本における開発・製造・使用及び販売の再実施許諾権付き独占的実施権をわかもと製薬株式会社(以下、「わかもと製薬」)にライセンスアウトしました。その後はわかもと製薬により試験が進められ、2018年7月に国内後期第Ⅱ相臨床試験が終了しております。2019年1月に、国内第Ⅲ相臨床試験が開始されました。 (ハ)H-1337(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、プロテインキナーゼ阻害剤を中心とする当社化合物ライブラリーのシード化合物を基にして最適化された、緑内障を対象疾患とする開発品です。 本開発品は、緑内障治療剤として、長時間持続する眼圧下降作用を有していることが動物試験で確認されており、その強力な眼圧下降作用は新規な作用機序によるものと考えられております。また、滲出型加齢黄斑変性に対する治療効果も動物試験において確認されております。 本開発品は、当社初の自社開発品として取り組んでおり、2018年3月に米国第Ⅰ相/前期第Ⅱ相臨床試験を開始し、9月に終了いたしました。試験結果は良好であったため、当社はライセンスアウト活動を進めてまいります。(ニ)K-134(対象疾患:検討中) 本開発品は、1993年1月より当社代表取締役会長兼最高科学責任者 日高弘義と大塚製薬株式会社(以下、「大塚製薬」)の共同研究により、血管内膜肥厚抑制作用(*)を併せ持つ抗血小板剤(*)として開発が開始されました。 本開発品の全世界での権利は、2002年8月までに大塚製薬より当社へ全て譲渡され、当社は2002年9月に全世界の権利を興和にライセンスアウトしました。その後は興和により、臨床試験が進められております。 本開発品は、閉塞性動脈硬化症に伴う間歇性跛行(*)症状を対象疾患として開発が行われておりましたが、2014年12月に終了した国内後期第Ⅱ相臨床試験の結果を総合的に検討した結果、閉塞性動脈硬化症を適応症とした開発は中止されました。他適応症への応用につきましては、興和にて検討されております。 (ホ)DW-1002(眼科手術補助剤) 本開発品は、国立大学法人九州大学の研究グループが発見したBBG250(Brilliant Blue G-250)という染色性の高い色素を主成分とした眼科手術補助剤を、株式会社産学連携機構九州からの独占的ライセンスに基づき開発している開発品で、眼内にある内境界膜又は水晶体を保護するカプセルを一時的に安全に染色し、硝子体・白内障の手術を行いやすくするものです。 当社は、2017年1月に株式会社ヘリオスから本事業を譲り受ける契約を締結し、2017年4月に当社への譲り受けが完了いたしました。 日本以外の全世界向けの独占的なサブライセンスをDutch Ophthalmic Research Center International B.V.(以下、「DORC」)に付与しており、DORCは、2010年9月から欧州等において、この眼科手術補助剤を製造・販売しております。 日本国内については、わかもと製薬に眼科手術用途の内境界膜染色についての独占的サブライセンスを付与しており、わかもと製薬が製造販売承認の取得に向けて開発を進めております。また、白内障手術については、2017年10月に九州大学病院が主体となり医師主導治験(*)(第Ⅲ相臨床試験)が進められ、2018年8月に終了いたしました。当社は、2019年2月に、日本における白内障手術時の水晶体前嚢染色を対象とする独占的サブライセンスをわかもと製薬にライセンスアウトいたしました。 (ヘ)眼科用鎮痛剤 本開発品は、2015年6月に英国企業から導入した眼科用鎮痛剤です。現在使用されている眼科用鎮痛剤としてNSAIDs(*)や局所麻酔剤がありますが、NSAIDsは角膜上皮損傷の治癒を遅らせることが知られており、局所麻酔剤は瞼が垂れ下がるなどの不便が生じますが、本開発品は、それらの障害を起こさず迅速に痛みを抑制します。 他の疾患を適応症として既に市販されている化合物を本適応症への適応拡大を目指す、いわゆるリポジショニングの手法での開発を目指しており、開発のコスト並びにリスクは相対的に低くなることが期待されます。 現在、製剤化の検討等を進めており、今後も臨床試験に向けた準備を行っていきます。 (ト)未熟児網膜症治療薬 本開発品は、国立大学法人東京農工大学及び東京バイオマーカー・イノベーション技術研究組合により見出され、未熟児網膜症発症の重要な原因であることが患者の方々で確認されている蛋白質を阻害する化合物です。 他の疾患を適応症として既に市販されている化合物を本適応症への適応拡大を目指す、いわゆるリポジショニングの手法での開発を目指しており、開発のコスト並びにリスクは相対的に低くなることが期待されます。 子会社JITが導入し権利を有しており、現在臨床試験に向けた準備を進めております。 ④ 研究開発プロジェクトについて 当社グループは、現在新規開発プロジェクトとして、シグナル伝達阻害剤開発プロジェクトの研究を進めております。開発コード等対象とする疾患等開発段階シグナル伝達阻害剤開発プロジェクト眼科関連疾患神経、循環器、呼吸器系疾患基礎研究 ⑤ 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴について 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴は以下の通りです。 (イ)プロテインキナーゼ阻害剤を中心とした新薬候補化合物の創製 当社グループは主にプロテインキナーゼ阻害剤を中心とした研究開発を進めております。 プロテインキナーゼは、細胞の分化、増殖等の細胞内情報伝達(*)機能を担っている重要な酵素であるとされており、そのプロテインキナーゼに対し、有望な新薬候補品である阻害剤を投与することによって治療効果を高めるのが当社グループの開発の特徴であります。 当社は、有望な新薬候補品を創製するために、独自に開発した化合物ライブラリーを保有しており、これらの開発過程で蓄積したデータやノウハウを活用して、新薬候補化合物を合成しておりますが、これらの技術力が高いことから有効な新薬候補化合物が見つかる可能性が高いと考えております。 (ロ)当社独自の標的タンパク質の同定(*)方法であるドラッグ・ウエスタン法の活用 当社は、ドラッグ・ウエスタン法という独自に開発した方法を使って、新薬候補化合物の標的タンパク質を同定しております。生物学の分野では、標的タンパク質を同定するために様々な方法が利用されてきましたが、当社は、それらを踏まえて医薬品開発への応用を図り、ドラッグ・ウエスタン法を完成させました。 この方法の活用により、他の手法を活用した際に困難である新薬候補化合物の標的タンパク質の特定が容易になるほか、1回のスクリーニングで多数の標的タンパク質を同定することが可能です。既存の方法に対して、生物材料や化合物の消費量が少ないこと、スクリーニングの操作が単純であり短時間で完了すること等の長所を持ちます。 ドラッグ・ウエスタン法を活用した際の効果は、以下の通りと考えられます。 a. 有効性:高い有効性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。新薬候補化合物の標的タンパク質を早期に同定することによって、その新薬候補化合物の作用機序が明らかになり、その結果から、有効な新薬候補化合物の開発へとつなげていくことが可能になると考えております。 b. 安全性:副作用や他の医薬品との相互作用の予測により、高い安全性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。早期に標的タンパク質を同定することによって、副作用が起こるメカニズムの推測もしやすくなり、それにより、安全性の高い新薬候補化合物の開発が可能となります。また、作用メカニズムが明らかになることにより、他の薬剤との併用の可能性の分析がしやすくなり、薬としての利用機会の拡大とリスクの低減につながりやすいと考えます。 既にこの方法を用いて、当社グループのパイプラインの「H-1129(WP-1303)」、「K-134」についても標的タンパク質が同定されました。 (ハ)細胞内情報伝達研究に由来する分子薬理学(*)に関する経験及びノウハウの活用 当社グル―プの創業者であり、当社代表取締役会長兼最高科学責任者 日高弘義は、長年にわたって細胞内情報伝達の研究活動及び創薬活動に従事してきており、その研究・創薬活動の中で、これまでに製薬会社と共同で2つの上市薬の誕生に貢献しております。当社グループは、日高弘義のこうした活動において獲得した経験とノウハウを基盤に、研究開発活動を行い、2014年12月には当社設立以来初の上市薬が誕生しております。 当社グループの新薬の開発は、この分子薬理学に関する経験及びノウハウを駆使し、新薬候補化合物を設計し、合成することによって開始されております。ここで合成された新薬候補化合物の薬理学的傾向は、過去の分子薬理学に関する経験及びノウハウからある程度予測することが可能であるため、その予測を基に効率的な研究開発が可能になると考えております。 (ニ)提携関係を活用した研究開発体制 当社グループは、国立大学法人三重大学との産学官連携講座(後述「第一部 企業情報 第2 事業の状況 4 経営上の重要な契約等」参照)による共同研究等の提携関係を構築し、技術の取り込みを図り研究活動を進めております。また、研究開発の推進に向けては、業務受託企業等外部の企業を積極的に活用しております。こうした企業外部との提携関係を活用することによって、効率的な研究開発体制を構築することが可能となっております。当社グループと外部機関との関係図(研究開発体制) <用語解説>(アルファベット、あいうえお順) * NSAIDs(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs) 非ステロイド性抗炎症薬のことで、ステロイド以外の抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を有する薬剤の総称です。鎮痛効果が高く、疼痛・発熱等に広く使用されています。 * Rhoキナーゼ タンパク質リン酸化(*)酵素(プロテインキナーゼ)の1つであり、Rho-ROCK経路を介する多彩な細胞応答の制御機構に関与する酵素です。 * 医師主導治験 医師・医療機関が主体となって行う臨床試験のことです。 * イソキノリンスルホンアミド化合物 当社が開発している化合物の有する骨格(形)の名称です。 * 化合物ライブラリー 当社が長年にわたり蓄積してきた新薬候補化合物のタネとなる化合物群です。これらの化合物の一つ一つが特徴的な性質を有しており、基礎研究や新薬候補化合物発見に利用されます。 * 間歇性跛行 閉塞性動脈硬化症により引き起こされる典型的な症状です。一般に下肢筋肉への動脈血供給を妨げる閉塞性病変が原因となって血流障害が引き起こされ、歩行運動に伴って虚血性の疼痛を発生させます。この疼痛は一定の運動負荷で引き起こされ、安静により数分以内に緩和される特徴があります。跛行症状の治療には、下肢血行動態の改善を目的とした監視下運動療法、薬物療法及び血行再建術があります。 * 血管内膜肥厚抑制作用 血管内膜肥厚とは、血管壁の損傷により血管壁が厚くなることであり、その結果血液の流路が細くなり、血行障害が生じやすくなります。この血管内膜肥厚を抑制することは動脈硬化を防ぐためには重要であると考えられており、その抑制作用を血管内膜肥厚抑制作用と言います。 * 抗血小板剤 血小板(血液の成分の1つで血液の凝固や止血に重要な役割を果たしている成分)が有する機能の1つである凝集機能を阻害(抑制)する薬です。 * 細胞内情報伝達 神経刺激やホルモン等の細胞外からのシグナル(信号)を細胞内の必要な箇所へ伝えるシステムのことを言います。細胞内シグナル伝達とも言います。* 作用機序 薬物が作用する仕組みのことを言います。近年では薬物作用の明確化の重要性が高まっており、この作用機序の解明が新薬開発において注目されております。 * 上市(じょうし) 新薬が承認され、実際に市場に出る(市販される)ことを言います。 * スクリーニング 新薬を開発するには、多数の候補化合物の中から、効果があり安全性が高いものを選び出すことが必要となります。このような多数の化合物から新薬の候補を探す一連の流れをスクリーニングと言います。 * スクリーニング毒性 細菌を用いる復帰突然変異試験(化学物質による、発癌性を含めた遺伝子に与える変化である変異原性を、細菌を用いてテストする試験)、ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験(明確な染色体構造を持たない最近においては、染色体異常を検出できないため、人為的に生体外で培養したほ乳動物の細胞を用いて、染色体に対する遺伝毒性がないかをテストする試験)及びほ乳類を用いる28日間の反復毒性試験(ラット等の動物に一定期間毎日反復投与したときに現れる生体機能及び形態の変化を観察する試験)によって検出される毒性を指します。 * 阻害剤 生体内の様々な酵素分子に結合して、その酵素の活性を低下もしくは消失させる物質を指します。化学物質が特定の酵素の活性を低下もしくは消失させることにより、病気の治療薬として利用されることがあります。 * タンパク質リン酸化 タンパク質にリン酸基を移転する化学反応であり、タンパク質の働きを調節すると考えられております。 * 同定 単離した化学物質等の標的が何であるかを決定することを指します。 * ドラッグ・ウエスタン法 薬物の標的タンパク質の同定に用いられる手法で、当社がバイオテクノロジーを応用して発明し、特許を有しておりました。煩雑なタンパク質精製プロセスを介さずに、薬物が結合する少量のタンパク質を検出し、その遺伝子を特定することにより標的タンパク質を同定することができる方法です。 * 白内障 水晶体が白く濁り、視力障害を引き起こす病気です。主な原因は加齢によるもので、症状が進行している場合には、濁った水晶体を取り除き、眼内レンズを挿入する手術が行われます。日本では年間およそ120万件の手術が行われています。 * 標的タンパク質 薬物が作用する対象となるタンパク質を標的タンパク質と呼びます。生体においては多くのタンパク質が相互に作用することによって様々な機能を果たしており、多くの病気が特定のタンパク質の異常な働きによって引き起こされております。これらの病気には、これらのタンパク質を標的タンパク質として、その異常な動きを抑制する薬剤が有効となりうると考えられております。 * プロテインキナーゼ ATP(アデノシン三リン酸と言われ、体内で作られる高エネルギー化合物)等、生体においてエネルギーの元となる低分子物質等のリン酸基を、タンパク質分子に転移する(リン酸化)酵素です。一般にリン酸化を触媒する酵素をキナーゼと呼び、特にタンパク質をリン酸化するキナーゼをプロテインキナーゼと言います。 * 分子薬理学 薬理学とは、薬物が生体に対してどのような作用により、影響・効果を発揮しているかを調べたり、薬物を用いて生体の機能を明らかにしたりする学問のことです。分子薬理学とは、その薬理学の調査の対象を生物の化学的性質を失わない最小の構成単位、つまり遺伝子のレベルで調べる学問です。* 閉塞性動脈硬化症 動脈硬化(動脈壁が肥厚し硬化した状態)により、主として下肢の大血管が慢性的に閉塞することによって、軽い場合には冷感、重症の場合には下肢の壊死にまで至ることがある病気を言います。軽度の場合には抗血小板剤が処方されることが多く、症状が悪化するにつれて他の薬剤を使用します。 * 未熟児網膜症 低出生体重児(未熟児)は、出生後保育器で高酸素下の環境におかれますが、その後通常の環境に戻された際、その環境に適応するため、急激に血管を産生しようと努めます。それは網膜においても起こり、急激な血管産生の結果、脆い異常な血管が形成されることで網膜剥離につながり、最終的には失明に至ることがある疾患です。現在は、レーザー照射による治療が行われていますが、必ずしも視力が戻るわけではなく、満足されている治療というわけではありません。 * 緑内障・高眼圧症 緑内障とは、視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患です。適切に治療されずに放置すると視野狭窄から失明に至る疾患であり、日本の中途失明原因の第一位(2005年)となっております。また、高眼圧症とは、視野狭窄が無いものの、眼圧が正常値を超えている病態です。 現在、緑内障のエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は、「眼圧を下降すること」とされており、原発開放隅角緑内障(広義)に対する治療では、薬物治療が第1選択とされております。
FY2017|9,747 文字|出典 docID: S100CLSK
3【事業の内容】 当社グループは、当社及び連結子会社日本革新創薬株式会社(以下、「JIT」)の2社で構成されており、医薬品の研究開発を行い、開発早期段階において開発品を製薬会社等にライセンスアウトすることによって収益を獲得する創薬事業を展開しております。 当社グループ事業の系統図は以下の通りです。 (1)創薬事業について① 新薬開発の流れ 一般的に新薬の開発に際しては、基礎研究、非臨床試験、臨床試験、厚生労働省(あるいはアメリカ食品医薬品局(FDA)等の各国の医薬品許認可審査機関)への製造(輸入)承認申請、医薬品としての承認取得、薬価申請・収載を経て販売が開始され、患者様へ提供することが可能となります。このうち基礎研究活動は、新薬候補化合物の合成、スクリーニング(*)、スクリーニング毒性(*)の手続により実施されます。前述の基礎研究活動が終了した後、人に対する臨床試験の前に医薬品として満たすべき条件を、実験動物を用いて副作用及び安全性、安定性の検証を行う非臨床試験によって検証します。その後の臨床試験は、第Ⅰ相臨床試験、第Ⅱ相臨床試験、第Ⅲ相臨床試験の段階をもって実施されます。(下図参照) ② 創薬事業の概要 通常、新薬の研究開発過程において、非臨床試験から臨床試験へと開発が進捗するにしたがって、開発コストは大幅に増加し、また一定規模以上の自社臨床開発体制が必要となります。 当社グループは、研究開発活動の結果として、開発早期段階において開発品を製薬会社等へライセンスアウトしておりますが、これにより、臨床開発の推進に強みを持つ製薬会社等が開発を行うこととなり、自社での開発を継続する場合に比べて、早期の上市が期待されるとともに、低コストでの開発体制を維持できます。 このように、当社グループの創薬事業の特徴は、一般的な医薬候補品を開発するベンチャー企業に比べ、比較的早期の研究開発段階においてライセンスアウトが達成される点にありますが、これは、当社グループが基礎研究推進における独自の技術力を有していることと、その技術を基礎研究段階において十分に活用することにより効率的な研究開発が行われていることが要因と考えております。 当社グループの売上高は、主にライセンスアウト時に受領するフロントマネー収入、臨床開発進行に伴いその節目毎に受領するマイルストーン収入、製品上市後販売額の一定比率を受領するロイヤリティ収入等によるものです。既に「グラナテック®点眼液0.4%(開発コード:K-115)(以下、「グラナテック」)」、「H-1129(WP-1303)」、「K-134」及び「DW-1002(日本の白内障手術除く)」はいずれも製薬会社にライセンスアウト済みであり、「グラナテック」及び「DW-1002(欧州)」については、上市されロイヤリティ収入を得ております。これらのフロントマネー収入、マイルストーン収入、ロイヤリティ収入等を新規開発プロジェクトに投入することによって、次なる新規開発品の開発を進めております。 当社グループの主な売上高は、以下のもので構成されております。売上高内容フロントマネー収入ライセンスアウト時に受領する収入。契約締結時に発生するため、契約一時金とも言う。マイルストーン収入臨床開発進行に伴いその節目毎に受領する収入。ロイヤリティ収入製品上市後販売額の一定比率を受領する収入。特許を実施する際に得られる収入のため実施料、ライセンス料とも言う。 ③ パイプラインについて 現在、当社グループが保有する開発パイプラインは以下の通りです。(イ)自社創製品開発コード等対象疾患開発段階地域ライセンスアウト先/開発コードグラナテック緑内障・高眼圧症上市日本興和/K-115申請韓国H-1129緑内障・高眼圧症後期第Ⅱ相臨床試験日本わかもと製薬/WP-1303緑内障―海外未定(注1)H-1337緑内障(注2)非臨床試験(注2)米国自社開発K-134(注3)――日本興和/K-134 (注1)H-1129の海外の権利は、国内医薬品事業会社がオプション権を有しており、現在評価中です。(注2)平成30年1月25日付で、緑内障・高眼圧症を適応症として第Ⅰ相/前期第Ⅱ相臨床試験のIND申請(治験許可申請)が行われております。(注3)ライセンスアウト先の興和により、閉塞性動脈硬化症以外の適応症への応用を検討されているため、対象疾患と開発段階は記載しておりません。 (ロ)導入品開発コード等対象疾患開発段階地域ライセンスアウト先/開発コード起源DW-1002内境界膜剥離上市欧州DORC国立大学法人九州大学内境界膜剥離第Ⅲ相臨床試験米国DORC内境界膜染色第Ⅲ相臨床試験日本わかもと製薬/WP-1108白内障手術第Ⅲ相臨床試験(注4)日本未定眼科用鎮痛剤眼の手術後疼痛臨床試験準備中日本自社開発英国企業未熟児網膜症(*)治療薬未熟児網膜症臨床試験準備中日本JIT開発国立大学法人東京農工大学(注4)九州大学病院が主体となり医師主導治験が行われております。 各開発パイプラインの詳細は以下の通りです。(イ)グラナテック®点眼液0.4%(一般名:リパスジル塩酸塩水和物、開発コード:K-115)(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、プロテインキナーゼ(*)の一種であるRhoキナーゼ(*)を選択的に阻害するイソキノリンスルホンアミド化合物(*)であり、眼圧下降作用により緑内障・高眼圧症を治療する点眼剤です。 本開発品は、緑内障治療剤における世界初の作用機序(*)を有しており、Rhoキナーゼを阻害することにより、線維柱帯-シュレム管を介する主流出路からの房水流出を促進することで眼圧を下降させます。 当社は、平成14年9月に本開発品の全世界の権利を興和株式会社(以下、「興和」)にライセンスアウトしました。その後は興和により臨床試験が進められ、平成26年9月に緑内障・高眼圧症を適応症として国内製造販売承認を取得され、同年12月に上市されました。さらに、平成29年12月に韓国における製造販売承認申請が行われました。 また、平成26年2月より興和にて進められておりました糖尿病黄斑浮腫を伴う糖尿病網膜症患者を対象にした探索的臨床薬理試験が終了しており、興和にて適応拡大の検討がされております。 (ロ)H-1129(WP-1303)(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、プロテインキナーゼ阻害剤(*)を中心とする当社化合物ライブラリー(*)のシード化合物を基にして最適化された、緑内障を対象疾患とする開発品です。当社独自技術であるドラッグ・ウエスタン法(*)により、標的タンパク質(*)が特定されております。 本開発品は、緑内障治療剤として、強い眼圧下降作用と神経保護作用を有することが動物試験で確認されております。 本開発品は、平成25年3月に、日本における開発・製造・使用及び販売の再実施許諾権付き独占的実施権をわかもと製薬株式会社(以下、「わかもと製薬」)にライセンスアウトしました。その後はわかもと製薬により試験が進められ、平成29年8月に国内後期第Ⅱ相臨床試験が開始されました。 (ハ)H-1337(対象疾患:緑内障) 本開発品は、プロテインキナーゼ阻害剤を中心とする当社化合物ライブラリーのシード化合物を基にして最適化された、緑内障を対象疾患とする開発品です。 本開発品は、緑内障治療剤として、長時間持続する眼圧下降作用を有していることが動物試験で確認されており、その強力な眼圧下降作用は新規な作用機序によるものと考えられております。また、滲出型加齢黄斑変性に対する治療効果も動物試験において確認されております。 本開発品は、平成28年4月に米国で非臨床試験を開始しており、当社初の自社開発品として取り組んでおります。(ニ)K-134(対象疾患:検討中) 本開発品は、平成5年1月より当社代表取締役会長兼最高科学責任者 日高弘義と大塚製薬株式会社(以下、「大塚製薬」)の共同研究により、血管内膜肥厚抑制作用(*)を併せ持つ抗血小板剤(*)として開発が開始されました。 本開発品の全世界での権利は、平成14年8月までに大塚製薬より当社へ全て譲渡され、当社は平成14年9月に全世界の権利を興和にライセンスアウトしました。その後は興和により、臨床試験が進められております。 本開発品は、閉塞性動脈硬化症に伴う間歇性跛行(*)症状を対象疾患として開発が行われておりましたが、平成26年12月に終了した国内後期第Ⅱ相臨床試験の結果を総合的に検討した結果、閉塞性動脈硬化症を適応症とした開発は中止されました。他適応症への応用につきましては、興和にて検討されております。 (ホ)DW-1002(眼科手術補助剤) 本開発品は、国立大学法人九州大学の研究グループが発見したBBG250(Brilliant Blue G-250)という染色性の高い色素を主成分とした眼科手術補助剤を、株式会社産学連携機構九州からの独占的ライセンスに基づき開発している開発品で、眼内にある内境界膜又は水晶体を保護するカプセルを一時的に安全に染色し、硝子体・白内障の手術を行いやすくするものです。 当社は、平成29年1月に株式会社ヘリオスから本事業を譲り受ける契約を締結し、平成29年4月に当社への譲り受けが完了いたしました。 日本以外の全世界向けの独占的なサブライセンスをDutch Ophthalmic Research Center International B.V.(以下、「DORC」)に付与しており、DORCは、平成22年9月から欧州等において、この眼科手術補助剤を製造・販売しております。 日本国内については、わかもと製薬に眼科手術用途の内境界膜染色についての独占的サブライセンスを付与しており、わかもと製薬が製造販売承認の取得に向けて開発を進めております。また、白内障手術については、九州大学病院が主体となり医師主導治験(第Ⅲ相臨床試験)が進められておりますが、サブライセンス先が決定していないため、ライセンス活動を進めております。 (ヘ)眼科用鎮痛剤 本開発品は、平成27年6月に英国企業から導入した眼科用鎮痛剤です。現在使用されている眼科用鎮痛剤としてNSAIDs(*)や局所麻酔剤がありますが、NSAIDsは角膜上皮損傷の治癒を遅らせることが知られており、局所麻酔剤は瞼が垂れ下がるなどの不便が生じますが、本開発品は、それらの障害を起こさず迅速に痛みを抑制します。 他の疾患を適応症として既に市販されている化合物を本適応症への適応拡大を目指す、いわゆるリポジショニングの手法での開発を目指しており、開発のコスト並びにリスクは相対的に低くなることが期待されます。 現在、製剤化の検討等を進めており、今後も臨床試験に向けた準備を行っていきます。 (ト)未熟児網膜症治療薬 本開発品は、国立大学法人東京農工大学及び東京バイオマーカー・イノベーション技術研究組合により見出され、未熟児網膜症発症の重要な原因であることが患者の方々で確認されている蛋白質を阻害する化合物です。 他の疾患を適応症として既に市販されている化合物を本適応症への適応拡大を目指す、いわゆるリポジショニングの手法での開発を目指しており、開発のコスト並びにリスクは相対的に低くなることが期待されます。 子会社JITが導入し権利を有しており、現在臨床試験に向けた準備を進めております。 ④ 研究開発プロジェクトについて 当社グループは、現在新規開発プロジェクトとして、シグナル伝達阻害剤開発プロジェクトの研究を進めております。開発コード等対象とする疾患等開発段階シグナル伝達阻害剤開発プロジェクト眼科関連疾患神経、循環器、呼吸器系疾患基礎研究 ⑤ 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴について 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴は以下の通りです。 (イ)プロテインキナーゼ阻害剤を中心とした新薬候補化合物の創製 当社グループは主にプロテインキナーゼ阻害剤を中心とした研究開発を進めております。 プロテインキナーゼは、細胞の分化、増殖等の細胞内情報伝達(*)機能を担っている重要な酵素であるとされており、そのプロテインキナーゼに対し、有望な新薬候補品である阻害剤を投与することによって治療効果を高めるのが当社グループの開発の特徴であります。 当社は、有望な新薬候補品を創製するために、独自に開発した化合物ライブラリーを保有しており、これらの開発過程で蓄積したデータやノウハウを活用して、新薬候補化合物を合成しておりますが、これらの技術力が高いことから有効な新薬候補化合物が見つかる可能性が高いと考えております。 (ロ)当社独自の標的タンパク質の同定(*)方法であるドラッグ・ウエスタン法の活用 当社は、ドラッグ・ウエスタン法という独自に開発した方法を使って、新薬候補化合物の標的タンパク質を同定しております。生物学の分野では、標的タンパク質を同定するために様々な方法が利用されてきましたが、当社は、それらを踏まえて医薬品開発への応用を図り、ドラッグ・ウエスタン法を完成させました。 この方法の活用により、他の手法を活用した際に困難である新薬候補化合物の標的タンパク質の特定が容易になるほか、1回のスクリーニングで多数の標的タンパク質を同定することが可能です。既存の方法に対して、生物材料や化合物の消費量が少ないこと、スクリーニングの操作が単純であり短時間で完了すること等の長所を持ちます。 ドラッグ・ウエスタン法を活用した際の効果は、以下の通りと考えられます。 a. 有効性:高い有効性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。新薬候補化合物の標的タンパク質を早期に同定することによって、その新薬候補化合物の作用機序が明らかになり、その結果から、有効な新薬候補化合物の開発へとつなげていくことが可能になると考えております。 b. 安全性:副作用や他の医薬品との相互作用の予測により、高い安全性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。早期に標的タンパク質を同定することによって、副作用が起こるメカニズムの推測もしやすくなり、それにより、安全性の高い新薬候補化合物の開発が可能となります。また、作用メカニズムが明らかになることにより、他の薬剤との併用の可能性の分析がしやすくなり、薬としての利用機会の拡大とリスクの低減につながりやすいと考えます。 既にこの方法を用いて、当社グループのパイプラインの「H-1129(WP-1303)」、「K-134」についても標的タンパク質が同定されました。 なお、ドラッグ・ウエスタン法については、「薬物の生体内における標的蛋白の遺伝子の検出方法」として特許登録されております。 (ハ)細胞内情報伝達研究に由来する分子薬理学(*)に関する経験及びノウハウの活用 当社グル―プの創業者であり、当社代表取締役会長兼最高科学責任者 日高弘義は、長年にわたって細胞内情報伝達の研究活動及び創薬活動に従事してきており、その研究・創薬活動の中で、これまでに製薬会社と共同で2つの上市薬の誕生に貢献しております。当社グループは、日高弘義のこうした活動において獲得した経験とノウハウを基盤に、研究開発活動を行い、平成26年12月には当社設立以来初の上市薬が誕生しております。 当社グループの新薬の開発は、この分子薬理学に関する経験及びノウハウを駆使し、新薬候補化合物を設計し、合成することによって開始されております。ここで合成された新薬候補化合物の薬理学的傾向は、過去の分子薬理学に関する経験及びノウハウからある程度予測することが可能であるため、その予測を基に効率的な研究開発が可能になると考えております。 (ニ)提携関係を活用した研究開発体制 当社グループは、国立大学法人三重大学との産学官連携講座(後述「第一部 企業情報 第2 事業の状況 5 経営上の重要な契約等」参照)による共同研究等の提携関係を構築し、技術の取り込みを図り研究活動を進めております。また、研究開発の推進に向けては、業務受託企業等外部の企業を積極的に活用しております。こうした企業外部との提携関係を活用することによって、効率的な研究開発体制を構築することが可能となっております。 当社グループと外部機関との関係図(研究開発体制) <用語解説>(アルファベット、あいうえお順) * NSAIDs(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs) 非ステロイド性抗炎症薬のことで、ステロイド以外の抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を有する薬剤の総称です。鎮痛効果が高く、疼痛・発熱等に広く使用されています。 * Rhoキナーゼ タンパク質リン酸化(*)酵素(プロテインキナーゼ)の1つであり、Rho-ROCK経路を介する多彩な細胞応答の制御機構に関与する酵素です。 * 医師主導治験 医師・医療機関が主体となって行う臨床試験のことです。 * イソキノリンスルホンアミド化合物 当社が開発している化合物の有する骨格(形)の名称です。 * 化合物ライブラリー 当社が長年にわたり蓄積してきた新薬候補化合物のタネとなる化合物群です。これらの化合物の一つ一つが特徴的な性質を有しており、基礎研究や新薬候補化合物発見に利用されます。 * 間歇性跛行 閉塞性動脈硬化症により引き起こされる典型的な症状です。一般に下肢筋肉への動脈血供給を妨げる閉塞性病変が原因となって血流障害が引き起こされ、歩行運動に伴って虚血性の疼痛を発生させます。この疼痛は一定の運動負荷で引き起こされ、安静により数分以内に緩和される特徴があります。跛行症状の治療には、下肢血行動態の改善を目的とした監視下運動療法、薬物療法及び血行再建術があります。 * 血管内膜肥厚抑制作用 血管内膜肥厚とは、血管壁の損傷により血管壁が厚くなることであり、その結果血液の流路が細くなり、血行障害が生じやすくなります。この血管内膜肥厚を抑制することは動脈硬化を防ぐためには重要であると考えられており、その抑制作用を血管内膜肥厚抑制作用と言います。 * 抗血小板剤 血小板(血液の成分の1つで血液の凝固や止血に重要な役割を果たしている成分)が有する機能の1つである凝集機能を阻害(抑制)する薬です。 * 細胞内情報伝達 神経刺激やホルモン等の細胞外からのシグナル(信号)を細胞内の必要な箇所へ伝えるシステムのことを言います。細胞内シグナル伝達とも言います。 * 作用機序 薬物が作用する仕組みのことを言います。近年では薬物作用の明確化の重要性が高まっており、この作用機序の解明が新薬開発において注目されております。 * 上市(じょうし) 新薬が承認され、実際に市場に出る(市販される)ことを言います。 * スクリーニング 新薬を開発するには、多数の候補化合物の中から、効果があり安全性が高いものを選び出すことが必要となります。このような多数の化合物から新薬の候補を探す一連の流れをスクリーニングと言います。 * スクリーニング毒性 細菌を用いる復帰突然変異試験(化学物質による、発癌性を含めた遺伝子に与える変化である変異原性を、細菌を用いてテストする試験)、ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験(明確な染色体構造を持たない最近においては、染色体異常を検出できないため、人為的に生体外で培養したほ乳動物の細胞を用いて、染色体に対する遺伝毒性がないかをテストする試験)及びほ乳類を用いる28日間の反復毒性試験(ラット等の動物に一定期間毎日反復投与したときに現れる生体機能及び形態の変化を観察する試験)によって検出される毒性を指します。 * 阻害剤 生体内の様々な酵素分子に結合して、その酵素の活性を低下もしくは消失させる物質を指します。化学物質が特定の酵素の活性を低下もしくは消失させることにより、病気の治療薬として利用されることがあります。 * タンパク質リン酸化 タンパク質にリン酸基を移転する化学反応であり、タンパク質の働きを調節すると考えられております。 * 同定 単離した化学物質等の標的が何であるかを決定することを指します。 * ドラッグ・ウエスタン法 薬物の標的タンパク質の同定に用いられる手法で、当社がバイオテクノロジーを応用して発明し、特許を保有しております。煩雑なタンパク質精製プロセスを介さずに、薬物が結合する少量のタンパク質を検出し、その遺伝子を特定することにより標的タンパク質を同定することができる方法です。 * 白内障 水晶体が白く濁り、視力障害を引き起こす病気です。主な原因は加齢によるもので、症状が進行している場合には、濁った水晶体を取り除き、眼内レンズを挿入する手術が行われます。日本では年間およそ120万件の手術が行われています。 * 標的タンパク質 薬物が作用する対象となるタンパク質を標的タンパク質と呼びます。生体においては多くのタンパク質が相互に作用することによって様々な機能を果たしており、多くの病気が特定のタンパク質の異常な働きによって引き起こされております。これらの病気には、これらのタンパク質を標的タンパク質として、その異常な動きを抑制する薬剤が有効となりうると考えられております。 * プロテインキナーゼ ATP(アデノシン三リン酸と言われ、体内で作られる高エネルギー化合物)等、生体においてエネルギーの元となる低分子物質等のリン酸基を、タンパク質分子に転移する(リン酸化)酵素です。一般にリン酸化を触媒する酵素をキナーゼと呼び、特にタンパク質をリン酸化するキナーゼをプロテインキナーゼと言います。 * 分子薬理学 薬理学とは、薬物が生体に対してどのような作用により、影響・効果を発揮しているかを調べたり、薬物を用いて生体の機能を明らかにしたりする学問のことです。分子薬理学とは、その薬理学の調査の対象を生物の化学的性質を失わない最小の構成単位、つまり遺伝子のレベルで調べる学問です。 * 閉塞性動脈硬化症 動脈硬化(動脈壁が肥厚し硬化した状態)により、主として下肢の大血管が慢性的に閉塞することによって、軽い場合には冷感、重症の場合には下肢の壊死にまで至ることがある病気を言います。軽度の場合には抗血小板剤が処方されることが多く、症状が悪化するにつれて他の薬剤を使用します。 * 未熟児網膜症 低出生体重児(未熟児)は、出生後保育器で高酸素下の環境におかれますが、その後通常の環境に戻された際、その環境に適応するため、急激に血管を産生しようと努めます。それは網膜においても起こり、急激な血管産生の結果、脆い異常な血管が形成されることで網膜剥離につながり、最終的には失明に至ることがある疾患です。現在は、レーザー照射による治療が行われていますが、必ずしも視力が戻るわけではなく、満足されている治療というわけではありません。 * 緑内障・高眼圧症 緑内障とは、視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患です。適切に治療されずに放置すると視野狭窄から失明に至る疾患であり、日本の中途失明原因の第一位(2005年)となっております。また、高眼圧症とは、視野狭窄が無いものの、眼圧が正常値を超えている病態です。 現在、緑内障のエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は、「眼圧を下降すること」とされており、原発開放隅角緑内障(広義)に対する治療では、薬物治療が第1選択とされております。
FY2016|8,534 文字|出典 docID: S1009WWN
3【事業の内容】 当社グループは、当社及び連結子会社日本革新創薬株式会社(以下、「JIT」)の2社で構成されており、医薬品の研究開発を行い、開発早期段階において開発品を製薬会社等にライセンスアウトすることによって収益を獲得する創薬事業を展開しております。 当社グループ事業の系統図は以下の通りです。 (1)創薬事業について① 新薬開発の流れ 一般的に新薬の開発に際しては、基礎研究、非臨床試験、臨床試験、厚生労働省(あるいはアメリカ食品医薬品局(FDA)等の各国の医薬品許認可審査機関)への製造(輸入)承認申請、医薬品としての承認取得、薬価申請・収載を経て販売が開始され、患者様へ提供することが可能となります。このうち基礎研究活動は、新薬候補化合物の合成、スクリーニング(*)、スクリーニング毒性(*)の手続により実施されます。前述の基礎研究活動が終了した後、人に対する臨床試験の前に医薬品として満たすべき条件を、実験動物を用いて副作用及び安全性、安定性の検証を行う非臨床試験によって検証します。その後の臨床試験は、第Ⅰ相臨床試験、第Ⅱ相臨床試験、第Ⅲ相臨床試験の段階をもって実施されます。(下図参照) ② 創薬事業の概要 通常、新薬の研究開発過程において、非臨床試験から臨床試験へと開発が進捗するにしたがって、開発コストは大幅に増加し、また一定規模以上の自社臨床開発体制が必要となります。 当社グループは、研究開発活動の結果として、開発早期段階において開発品を製薬会社等へライセンスアウトしておりますが、これにより、臨床開発の推進に強みを持つ製薬会社等が開発を行うこととなり、自社での開発を継続する場合に比べて、早期の上市が期待されるとともに、低コストでの開発体制を維持できます。 このように、当社グループの創薬事業の特徴は、一般的な医薬候補品を開発するベンチャー企業に比べ、比較的早期の研究開発段階においてライセンスアウトが達成される点にありますが、これは、当社グループが基礎研究推進における独自の技術力を有していることと、その技術を基礎研究段階において十分に活用することにより効率的な研究開発が行われていることが要因と考えております。 当社グループの売上高は、主にライセンスアウト時に受領するフロントマネー収入、臨床開発進行に伴いその節目毎に受領するマイルストーン収入、製品上市後販売額の一定比率を受領するロイヤリティ収入等によるものです。既に「グラナテック®点眼液0.4%(開発コード:K-115)(以下、「グラナテック」)」、「H-1129(WP-1303)」、「K-134」はいずれも製薬会社にライセンスアウト済みであり、「グラナテック」については、国内上市されております。これらのフロントマネー収入、マイルストーン収入、ロイヤリティ収入等を新規開発プロジェクトに投入することによって、次なる新規開発品の開発を進めております。 当社グループの主な売上高は、以下のもので構成されています。売上高内容フロントマネー収入ライセンスアウト時に受領する収入。契約締結時に発生するため、契約一時金とも言う。マイルストーン収入臨床開発進行に伴いその節目毎に受領する収入。ロイヤリティ収入製品上市後販売額の一定比率を受領する収入。特許を実施する際に得られる収入のため実施料、ライセンス料とも言う。 ③ パイプラインについて 現在、製薬会社へのライセンスアウトが完了した当社グループが保有するパイプラインは以下の通りです。ライセンスアウト済パイプライン(導出品)開発コード等対象疾患開発段階起源ライセンスアウト先グラナテック緑内障・高眼圧症国内上市当社興和株式会社WP-1303(H-1129)緑内障・高眼圧症国内第Ⅰ相臨床試験当社わかもと製薬株式会社K-134(注)――当社興和株式会社(注)K-134について:ライセンスアウト先の興和株式会社により、閉塞性動脈硬化症以外の適応症への応用を検討されているため、対象疾患と開発段階は記載しておりません。 ライセンスアウト済パイプラインの詳細は以下の通りです。(イ)グラナテック®点眼液0.4%(一般名:リパスジル塩酸塩水和物、開発コード:K-115)(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、プロテインキナーゼ(*)の一種であるRhoキナーゼ(*)を選択的に阻害するイソキノリンスルホンアミド化合物(*)であり、眼圧下降作用により緑内障・高眼圧症を治療する点眼剤です。 本開発品は、緑内障治療剤における世界初の作用機序(*)を有しており、Rhoキナーゼを阻害することにより、線維柱帯-シュレム管を介する主流出路からの房水流出を促進することで眼圧を下降させます。 当社は、平成14年9月に本開発品の全世界の権利を興和株式会社(以下、「興和」という。)にライセンスアウトしました。その後は興和により臨床試験が進められ、平成26年9月に緑内障・高眼圧症を適応症として国内製造販売承認を取得され、同年12月に上市されました。 また、平成26年2月より興和にて進められておりました糖尿病黄斑浮腫を伴う糖尿病網膜症患者を対象にした探索的臨床薬理試験が終了しており、興和にて今後の開発方針が検討されています。 (ロ)H-1129(WP-1303)(対象疾患:緑内障・高眼圧症) 本開発品は、プロテインキナーゼ阻害剤(*)を中心とする当社化合物ライブラリー(*)のシード化合物を基にして最適化された、緑内障を対象疾患とする開発品です。当社独自技術であるドラッグ・ウエスタン法(*)により、標的タンパク質が特定されております。 本開発品は、緑内障治療薬として新規作用機序を有し、強い眼圧下降作用と神経保護作用を有することが動物試験で確認されております。 本開発品は、平成25年3月に、日本における開発・製造・使用及び販売の再実施許諾権付き独占的実施権をわかもと製薬株式会社(以下、「わかもと製薬」という。)にライセンスアウトました。その後はわかもと製薬により非臨床試験が進められ、平成28年3月に国内第Ⅰ相臨床試験が開始されました。 (ハ)K-134(対象疾患:検討中) 本開発品は、平成5年1月より当社代表取締役会長兼最高科学責任者 日高弘義と大塚製薬株式会社(以下、「大塚製薬」という。)の共同研究により、血管内膜肥厚抑制作用(*)を併せ持つ抗血小板剤(*)として開発が開始されました。 本開発品は、動物実験及び第Ⅰ相臨床試験において有効な血小板凝集阻害作用(*)を有することが確認されているとともに、動物実験において血管内膜肥厚抑制作用を有することが確認されております。本開発品は、PDE (ホスホジエステラーゼ)(*)の強力な阻害剤であるとともに、血小板のコラーゲン(*)受容体の1つであるCD36(*)及び血小板や血管壁に存在する細胞骨格タンパク質(*)の1つであるコフィリン(*)と結合することが、ドラッグ・ウエスタン法により証明されております。これらの2つの標的タンパク質(CD36及びコフィリン)は、既存の販売されている抗血小板剤で結合するものはないことから、本開発品は既存のPDEの阻害作用を有する抗血小板剤とは異なる新規の作用機序も有するものと考えられます。 本開発品の全世界での権利は、平成14年8月までに大塚製薬より当社へ全て譲渡され、当社は平成14年9月に全世界の権利を興和にライセンスアウトしました。その後は興和により、臨床試験が進められております。 本開発品は、閉塞性動脈硬化症に伴う間歇性跛行(*)症状を対象疾患として開発が行われておりましたが、平成26年12月に終了した国内後期第Ⅱ相臨床試験の結果を総合的に検討した結果、閉塞性動脈硬化症を適応症とした開発は中止されました。他適応症への応用につきましては、興和にて検討されています。 ④ 新規開発品について 当社グループは、現在新規開発プロジェクトとして、H-1337及びシグナル伝達阻害剤開発プロジェクトの研究を進めております。開発コード等対象とする疾患等開発段階H-1337緑内障非臨床試験シグナル伝達阻害剤開発プロジェクト眼科関連疾患神経、循環器、呼吸器系疾患基礎研究 ⑤ 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴について 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴は以下の通りです。 (イ)プロテインキナーゼ阻害剤を中心とした新薬候補化合物の創製 当社グループはプロテインキナーゼ阻害剤を中心とした研究開発を進めております。 プロテインキナーゼは、細胞の分化、増殖等の細胞内情報伝達(*)機能を担っている重要な酵素であるとされており、そのプロテインキナーゼに対し、有望な新薬候補品である阻害剤を投与することによって治療効果を高めるのが当社グループの開発の目的であります。 当社は、有望な新薬候補品を創製するために、独自に開発した化合物ライブラリーを保有しており、これらの開発過程で蓄積したデータやノウハウを活用して、新薬候補化合物を合成しておりますが、これらの技術力が高いことから有効な新薬候補化合物が見つかる可能性が高いと考えております。 (ロ)当社独自の標的タンパク質の同定方法であるドラッグ・ウエスタン法の活用 当社は、ドラッグ・ウエスタン法という独自に開発した方法を使って、新薬候補化合物の標的タンパク質を同定しております。生物学の分野では、標的タンパク質を同定するために様々な方法が利用されてきましたが、当社は、それらを踏まえて医薬品開発への応用を図り、ドラッグ・ウエスタン法を完成させました。 この方法の活用により、他の手法を活用した際に困難である新薬候補化合物の標的タンパク質の特定が容易になるほか、一回のスクリーニングで多数の標的タンパク質を同定することが可能です。既存の方法に対して、生物材料や化合物の消費量が少ないこと、スクリーニングの操作が単純であり短時間で完了すること等の長所を持ちます。 ドラッグ・ウエスタン法を活用した際の効果は、以下の通りと考えられます。 a. 有効性:高い有効性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。新薬候補化合物の標的タンパク質を早期に同定することによって、その新薬候補化合物の作用機序が明らかになり、その結果から、有効な新薬候補化合物の開発へとつなげていくことが可能になると考えております。 b. 安全性:副作用や他の医薬品との相互作用の予測により、高い安全性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。早期に標的タンパク質を同定することによって、副作用が起こるメカニズムの推測もしやすくなり、それにより、安全性の高い新薬候補化合物の開発が可能となります。また、作用メカニズムが明らかになることにより、他の薬剤との併用の可能性の分析がしやすくなり、薬としての利用機会の拡大とリスクの低減につながりやすいと考えます。 既にこの方法を用いて、当社グループのパイプラインの「H-1129(WP-1303)」、「K-134」についても標的タンパク質が同定されました。 なお、ドラッグ・ウエスタン法については、「薬物の生体内における標的蛋白の遺伝子の検出方法」として特許登録されております。 (ハ)細胞内情報伝達研究に由来する分子薬理学(*)に関する経験及びノウハウの活用 当社グル―プの創業者であり、当社代表取締役会長兼最高科学責任者 日高弘義は、長年にわたって細胞内情報伝達の研究活動及び創薬活動に従事してきており、その研究・創薬活動の中で、これまでに製薬会社と共同で二つの医薬品の誕生に貢献しており、平成26年12月には当社設立以来初の上市薬が誕生しました。当社グループは、日高弘義のこうした活動において獲得した経験とノウハウを基盤に、研究開発活動を行っております。 当社グループの新薬の開発は、この分子薬理学に関する経験及びノウハウを駆使し、新薬候補化合物を設計し、合成することによって開始されております。ここで合成された新薬候補化合物の薬理学的傾向は、過去の分子薬理学に関する経験及びノウハウからある程度予測することが可能であるため、その予測を基に効率的な研究開発が可能になると考えております。 (ニ)提携関係を活用した研究開発体制 当社グループは、各分野を専門領域に持つ研究者で構成される当社科学顧問のメンバー(当連結会計年度末現在8名で構成)や国立大学法人三重大学との産学官連携講座(後述「第一部 企業情報 第2 事業の状況 5 経営上の重要な契約等」参照)による共同研究等の提携関係を構築し、技術の取り込みを図っております。こうした企業外部との提携関係を活用することによって、効率的な研究開発体制を構築することが可能となっております。 当社グループと外部機関との関係図(研究開発体制) ⑥ 導入品について 当社グループはパイプラインの拡充に向けて、自社創製品の開発だけでなく、他社創製品の導入に積極的に取り組んでおります。当連結会計年度末現在、当社グループで保有する導入品は以下の通りで、今後はこれら開発候補品の開発推進も行ってまいります。開発コード等対象疾患開発段階起源開発未定(眼科用鎮痛剤)眼の手術後疼痛臨床試験準備中英国企業当社未定(未熟児網膜症治療薬)未熟児網膜症臨床試験準備中国立大学法人東京農工大学JIT <用語解説>(アルファベット、あいうえお順) * CD36 血小板膜に存在するコラーゲン受容体の1つで、コラーゲンと結合することによって血小板凝集の引き金となるタンパク質の1つです。 * PDE(ホスホジエステラーゼ) cAMP(サイクリックエーエムピーといい、細胞内で酵素反応を進めるための情報伝達を担う因子。細胞の成長、増殖、分化に密接に関連しています。)を分解する酵素で細胞内情報伝達に重要な役割を担っており、11種類が知られています。 * Rhoキナーゼ タンパク質リン酸化(*)酵素(プロテインキナーゼ)の1つであり、Rho-ROCK経路を介する多彩な細胞応答の制御機構に関与する酵素です。 * イソキノリンスルホンアミド化合物 当社が開発している化合物の有する骨格(形)の名称です。 * 化合物ライブラリー 化合物ライブラリーとは、当社が長年にわたり蓄積してきた新薬候補化合物のタネとなる化合物群です。これらの化合物の一つ一つが特徴的な性質を有しており、基礎研究や新薬候補化合物発見に利用されます。 * 間歇性跛行 閉塞性動脈硬化症により引き起こされる典型的な症状です。一般に下肢筋肉への動脈血供給を妨げる閉塞性病変が原因となって血流障害が引き起こされ、歩行運動に伴って虚血性の疼痛を発生させます。この疼痛は一定の運動負荷で引き起こされ、安静により数分以内に緩和される特徴があります。跛行症状の治療には、下肢血行動態の改善を目的とした監視下運動療法、薬物療法及び血行再建術があります。 * 血管内膜肥厚抑制作用 血管内膜肥厚とは、血管壁の損傷により血管壁が厚くなることであり、その結果血液の流路が細くなり、血行障害が生じやすくなります。この血管内膜肥厚を抑制することは動脈硬化を防ぐためには重要であると考えられており、その抑制作用を血管内膜肥厚抑制作用と言います。 * 血小板凝集阻害作用 血小板の主要な機能の1つである凝集機能を抑える作用を言います。 * 抗血小板剤 抗血小板剤とは血小板(血液の成分の1つで血液の凝固や止血に重要な役割を果たしている成分)が有する機能の1つである凝集機能を阻害(抑制)する薬です。 * コフィリン 血管に存在する細胞骨格タンパク質であり、このタンパク質に生じた変化が、他の細胞骨格タンパク質の構造変化を促し、血小板凝集が制御されると考えられております。 * コラーゲン(collagen) 真皮、靱帯、腱、骨、軟骨等を構成するタンパク質の1つで、体内の全タンパク質の約1/3を占めております。血小板凝集を惹起する物質の1つであり、コラーゲン(collagen)を阻害することで血小板凝集が抑制されます。 * 細胞骨格タンパク質 細胞には、細胞の形態を維持するための繊維状構造である細胞骨格があり、その中に含まれるタンパク質を細胞骨格タンパク質と言います。* 細胞内情報伝達 神経刺激やホルモン等の細胞外からのシグナル(信号)を細胞内の必要な箇所へ伝えるシステムのことを言います。細胞内シグナル伝達とも言います。 * 作用機序 薬物が作用する仕組みのことを言います。近年では薬物作用の明確化の重要性が高まっており、この作用機序の解明が新薬開発において注目されております。 * 上市(じょうし) 新薬が承認され、実際に市場に出る(市販される)ことを言います。 * スクリーニング 新薬を開発するには、多数の候補化合物の中から、効果があり安全性が高いものを選び出すことが必要となります。このような多数の化合物から新薬の候補を探す一連の流れをスクリーニングと言います。 * スクリーニング毒性 細菌を用いる復帰突然変異試験(化学物質による、発癌性を含めた遺伝子に与える変化である変異原性を、細菌を用いてテストする試験)、ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験(明確な染色体構造を持たない最近においては、染色体異常を検出できないため、人為的に生体外で培養したほ乳動物の細胞を用いて、染色体に対する遺伝毒性がないかをテストする試験)及びほ乳類を用いる28日間の反復毒性試験(ラット等の動物に一定期間毎日反復投与したときに現れる生体機能及び形態の変化を観察する試験)によって検出される毒性を指します。 * 阻害剤 生体内の様々な酵素分子に結合して、その酵素の活性を低下若しくは消失させる物質を指します。化学物質が特定の酵素の活性を低下若しくは消失させることにより、病気の治療薬として利用されることがあります。 * タンパク質リン酸化 タンパク質にリン酸基を移転する化学反応であり、タンパク質の働きを調節すると考えられております。 * 同定 単離した化学物質等の標的が何であるかを決定することを指します。 * ドラッグ・ウエスタン法 薬物の標的タンパク質の同定に用いられる手法で、当社がバイオテクノロジーを応用して発明し、特許を保有しております。煩雑なタンパク質精製プロセスを介さずに、薬物が結合する少量のタンパク質を検出し、その遺伝子を特定することにより標的タンパク質を同定することができる方法です。 * 標的タンパク質 薬物が作用する対象となるタンパク質を標的タンパク質と呼びます。生体においては多くのタンパク質が相互に作用することによって、様々な機能を果たしており、多くの病気が特定のタンパク質の異常な働きによって引き起こされております。これらの病気には、これらのタンパク質を標的タンパク質として、その異常な動きを抑制する薬剤が有効となりうると考えられております。 * プロテインキナーゼ ATP(アデノシン三リン酸と言われ、体内で作られる高エネルギー化合物)等、生体においてエネルギーの元となる低分子物質等のリン酸基を、タンパク質分子に転移する(リン酸化)酵素です。一般にリン酸化を触媒する酵素をキナーゼと呼び、特にタンパク質をリン酸化するキナーゼをプロテインキナーゼと言います。 * 分子薬理学 薬理学とは薬物が生体に対して、どのような作用により、影響・効果を発揮しているかを調べたり、薬物を用いて生体の機能を明らかにしたりする学問のことです。分子薬理学とはその薬理学の調査の対象を生物の化学的性質を失わない最小の構成単位、つまり遺伝子のレベルで調べる学問です。* 閉塞性動脈硬化症 動脈硬化(動脈壁が肥厚し硬化した状態)により、主として下肢の大血管が慢性的に閉塞することによって、軽い場合には冷感、重症の場合には下肢の壊死にまで至ることがある病気を言います。軽度の場合には抗血小板剤が処方されることが多く、症状が悪化するにつれて他の薬剤を使用します。 * 緑内障・高眼圧症 緑内障とは、視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患です。適切に治療されずに放置すると視野狭窄から失明に至る疾患であり、日本の中途失明原因の第一位(2005年)となっております。また、高眼圧症とは、視野狭窄が無いものの、眼圧が正常値を超えている病態です。 現在、緑内障のエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は、「眼圧を下降すること」とされており、原発開放隅角緑内障(広義)に対する治療では、薬物治療が第1選択とされております。