研究開発活動(本文)
FY2025|19,777 文字
6 【研究開発活動】当社は、医薬品・医療機器・AIを活用したプログラム医療機器など、多様なモダリティ(治療様式)にわたる複数パイプラインの研究開発を進めており、当事業年度における主要パイプライン開発の進捗及びこれまでの開発実績は以下のとおりです。なお、当事業年度における研究開発費は132,869千円であり、当事業年度末日の当社研究開発従事者人員は7名(臨時雇用者を含む)です。 a.RS5614(PAI-1阻害薬)(a) 慢性骨髄性白血病(CML)治療薬CML患者を対象とした後期第Ⅱ相医師主導治験において、チロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor、TKI)とRS5614を併用し、RS5614投与開始後48週における累積の深い分子遺伝学的奏効(deep molecular response、DMR:がんの原因遺伝子が検出されない状態)の達成率(※1)は33.3%(33例中11例でDMRを達成)であり、TKI単独でのヒストリカルコントロール(8-12%)に比べて有意に上昇していることを確認しました(2021年3月治験総括報告書完成、POC取得)。特に、TKI治療期間が3年以上5年以下の患者での累積DMR達成率は50.0%に達しました。また、RS5614の1年間の長期投与でも治療薬と因果関係のある重篤な有害事象は認められませんでした。本試験結果は、科学誌『Cancer Medicine』に掲載されました。後期第Ⅱ相医師主導治験の成績に基づいて、東北大学、東海大学、秋田大学等、12の大学/医療機関と共同で慢性期CML患者を対象にTKIとRS5614の併用効果を検証するプラセボ対照二重盲検(※2)の第Ⅲ相医師主導治験を実施中です。本試験は、2022年3月にAMED「革新的がん医療実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択されました。PMDAと2021年11月及び同年12月に対面助言を行い、2022年5月にPMDAに治験計画届を提出し、多施設共同の第Ⅲ相試験が開始されました。TKI治療期間が3年以上6年未満の慢性期CML患者60例を対象とし、TKI単独投与群よりも治験薬RS5614の併用群がTFRの指標である2年間以上のDMR維持率の有意な上昇の検証を行います(2026年まで実施予定)。2023年12月末の症例登録期間内に解析に必要な症例数を上回る57例が登録され、治験は予定通り進行しています。2024年12月に実施されたAMED「革新的がん医療実用化研究事業」の最終年度評価の結果、第Ⅲ相試験の目標症例数の登録が終了し、2年の延長期間内に試験を完了する目処が立っているとの理由から、さらに助成期間の2年間延長が承認されました。これにより、2026年3月期及び2027年3月期に見込んでいた費用計上がなくなり収益性が改善する見込みです。後期第Ⅱ相医師主導治験の結果が、2022年9月に科学誌『Cancer Medicine』に掲載されました。また、CMLを含む当社のがん治療薬の取組みが、2023年9月科学誌『Nature』の取材記事として掲載されました。 (※1)DMR達成率とTFR:現在の慢性期CML治療では高額なTKIを生涯服用する必要がありますが、最も深い治療効果であるDMRを達成し、一定期間維持した一部の患者では、TKIを中止しても再発がないこと(無治療寛解維持:TFR)が近年明らかとなっています。これまでに既存TKIで公表されている1年間(48週)の累積DMR達成率は8-12%(ヒストリカルコントロール)です。なお、DMR維持とは、DMRを達成した状態が一定期間継続することです。 (※2)二重盲検:対象患者を無作為に、治験薬(今回はRS5614)を投与する群と対照薬(今回は効果がないプラセボ)を投与する群に分け、医師も患者もどちらが投与されるかを知らない条件で、両群同時に薬を投与する臨床試験方法。医師が効果の期待される患者に対して被験薬を投与するなどの故意が生じる怖れや、効果があるはずといった先入観が評価に反映される可能性や、患者が知った場合もその処置への反応や評価に影響が生じることを避けるための試験方法です。それぞれの群で出た結果を比較評価することで、治験薬の効果があるかを判断します。 (b) 悪性黒色腫(メラノーマ)治療薬国内の悪性黒色腫患者では、海外とは異なるサブタイプの悪性黒色腫が多いことから、抗PD-1抗体(ニボルマブ)単剤療法による治療の奏効が困難とされています。RS5614が免疫チェックポイント分子を制御しがん免疫系を活性化する作用に基づき、NPO法人「JSCaN」を立ち上げて悪性黒色腫の治療成績向上のために連携している東北大学、筑波大学、都立駒込病院、近畿大学、名古屋市立大学、熊本大学の6大学と共同で、悪性黒色腫治療薬としてのRS5614の有効性と安全性を確認するための第Ⅱ相医師主導治験を2021年7月に開始しました。本試験は、2021年5月にAMED「橋渡し研究プログラムシーズC(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けた、進行性悪性黒色腫患者40例を対象とする多施設共同、非盲検試験です。ニボルマブ併用のもと、RS5614を1日1回120-180 mgで投与し、8週間投与後に有効性と安全性の評価を行い、40例の患者登録が2023年3月で終了しました。本治験の結果、悪性黒色腫患者29例に対して、当社が開発したPAI-1阻害薬RS5614を8週間併用することにより、主要評価項目で7例において奏効が見られました(奏効率 24.1%)。被験者数29 分類例数(%)奏効(%)7 (24.1%) 完全奏功(CR)1 (3.4%)95%信頼区間[10.3%, 435.5%] 部分奏功(PR)6 (20.7%) 安定(SD)11 (37.9%) 進行(PD)11 (37.9%) この奏効率は、現在承認されている、ニボルマブとイピリムマブの併用の有効性と同等以上の成績でした(ニボルマブ無効例におけるニボルマブとイピリムマブ併用の奏効率は、海外21%、国内13.5%)。また、ニボルマブとRS5614の併用による疾患制御率は62%に達しました。ニボルマブとイピリムマブ併用では重篤な免疫関連副作用が多発することが問題となっていますが、ニボルマブとRS5614の併用においては特に問題となる重篤な副作用も見られていません。本試験の速報結果は2023年8月に開示しており、2024年2月に同内容で治験総括報告書が作成されました。また、2024年6月に、本治験の結果が科学誌『British Journal of Dermatology』に掲載されました。悪性黒色腫の次相試験に関して、2023年12月にPMDA対面助言を実施し、臨床プロトコールを確定し、2024年8月には厚生労働省より悪性黒色腫に対する希少疾患用医薬品の指定を受けました。本指定により、PMDAの優先的な指導・助言、薬価算定における市場性加算、さらに承認後の再審査期間が延長され本治療薬事業の独占期間が長くなることが見込まれます。また、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所を通じての助成金交付などの優遇措置を受けられる可能性があります。2024年12月には、第Ⅲ相医師主導治験の実施について、東北大学病院治験審査委員会(IRB)から承認されました。PMDAに治験計画届を提出し、2025年2月に最初の被験者への投与が東北大学病院で実施され、根治切除不能悪性黒色患者124例を対象にニボルマブとのRS5614の併用の有効性及び安全性を検証する第Ⅲ相医師主導治験を開始しました。本治験は薬事申請へ向けた検証的な第Ⅲ相試験であり、東北大学を含む18施設による多施設共同試験で実施しています。悪性黒色腫を含む当社のがん治療薬への取組みが、2023年9月科学誌 『Nature』の取材記事として掲載されました。 (c) 非小細胞肺がん治療薬非臨床試験から、PAI-1が肺がんの腫瘍進展、さらにはがん細胞の増殖能亢進や血管新生に関与していること、さらに抗PD-1抗体に耐性となった肺がん細胞がPAI-1を高発現することなどの知見が明らかとなり、当社と広島大学との共同研究で小細胞性肺がんモデルマウスを用いた非臨床試験を実施した結果、抗PD-1抗体とRS5614の併用投与は抗PD-1抗体単剤投与よりも高い抗腫瘍効果を示すことを確認しました。そこで、2つ以上の化学療法歴を有する切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん患者(3次治療以降の患者)39例を対象に、ニボルマブとRS5614との併用投与の有効性及び安全性を検討することを目的とした国内前期第Ⅱ相医師主導治験を開始しました。2023年3月にPMDA相談を終了し、治験実施計画書が確定したことから、広島大学、島根大学、岡山大学、鳥取大学、四国がんセンター、広島市民病院などの医療機関と協力して2023年9月から治験を実施しています。本治験において有効性が確認できれば、3次治療以降で有効な治療法を提案できます。悪性黒色腫から肺がんへの適応拡大は、抗PD-1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬と同じ展開です。当社は、2022年10月に国立大学法人広島大学と非小細胞肺がんに対する非臨床試験及び臨床試験に向けての共同研究契約を締結しました。研究段階が非臨床試験から臨床試験(医師主導治験)に移行したこと、さらには広島大学の特色や強みを生かし、医師主導治験実施を含めた医薬品及びプログラム医療機器の共同研究開発を行い、研究開発の効率化及び推進並びに人材育成などを目的としたオープンイノベーション拠点(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx)を設けるため、2023年4月に広島大学と包括的研究協力に関する協定書を締結しました。本治験はHiRExを主体に実施しています。 (d) 血管肉腫治療薬東北大学との共同研究において、血管内皮細胞の腫瘍である血管肉腫はPAI-1を高発現しており、その発現頻度が高い患者では1次治療でのタキサン系抗がん剤の効果が得られにくいことが報告されています。タキサン系抗がん剤の作用機序としては、アポトーシスの誘導が考えられていますが、PAI-1は主として血管内皮から産生され、PAI-1を高発現しているがん細胞はアポトーシス耐性であることから、タキサン系抗がん剤とPAI-1阻害薬RS5614を併用することにより、タキサン系抗がん剤の血管肉腫治療効果を増強できる可能性が強く示唆されます。2023年1月にPMDA相談を終了、治験実施計画書が確定し、同年8月に治験計画届を提出しました。東北大学、自治医科大学、九州大学、名古屋市立大学、国立がん研究センター中央病院、がん研究会有明病院などの大学/医療機関と共同で、タキサン系抗がん剤パクリタキセルが無効となった皮膚血管肉腫患者16例を対象にパクリタキセルとRS5614の併用による有効性及び安全性を評価する第Ⅱ相医師主導治験を2023年10月に開始しました。本研究で有効性を検証できれば、有効な治療薬のない皮膚血管肉腫患者に対して新たな治療法が提案できます。本治験はHiRExを主体に実施しています。 (e) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う肺傷害治療薬当社は、RS5614の肺微小血栓、線維化、肺気腫改善作用及び肺(上皮)保護作用に着目し、COVID-19に伴う肺傷害治療薬(経口薬)を開発しています。2020年秋から前期第Ⅱ相医師主導治験(非盲検)を実施し、2021年6月に治験総括報告書が完成しました。特筆すべき副作用は無く、肺傷害で入院し本治験薬を投与された26名全員が無事退院されました。前期第Ⅱ相医師主導治験の成績に基づき、東北大学、京都大学、東京科学大学、東海大学等国内20の大学等の医療機関と共同で、COVID-19に伴う肺傷害患者(中等症、入院患者)を対象とするプラセボ対照二重盲検の後期第Ⅱ相医師主導治験を実施しました。本治験は、2021年3月にAMED「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択され、2021年4月のPMDA事前面談に基づき実施計画書を確定して2021年6月から開始しました。本治験は、COVID-19の流行時期やウイルス株変異の影響を受け、治験の対象となる肺炎入院患者数が減少したため、最終的に入院患者75例(RS5614群39例、プラセボ群36例)を対象にプラセボ対照第Ⅱ相試験を実施し、2023年4月に治験総括報告書を纏めました。有効性の主要評価項目である「酸素化悪化指標スケール(※1)の総和」は、両群間で統計学的な有意差は認めませんでしたが、プラセボ群に対してRS5614群で悪化の抑制が見られ、特に中等症Ⅰ患者(※2)での有効性が示唆されました。さらに、酸素治療が必要となる症例の割合も、入院後3~5日でRS5614群の方が少ないことから、早期治療でのRS5614の有効性が示唆されました。また、RS5614群では、プラセボ群と異なり、肺炎画像所見の改善も認めました。副作用発現率はRS5614群とプラセボ群で同程度であり、COVID-19に伴う肺傷害患者に対する本被験薬(RS5614)投与の安全性も確認できました。RS5614は抗ウイルス薬とは作用機序が全く異なり、肺炎に対する内服薬です。現時点で抗ウイルス薬以外のCOVID-19に伴う肺傷害に対する治療薬は高額な注射薬ですが、RS5614は経口投与が可能であり、化学合成で製造される低分子医薬品であるため、その価格も低く抑えられます。現在、COVID-19は落ち着いていますが、肺炎を惹起する新たな株の発生に際して速やかに次相臨床試験(軽症から中等症Ⅰの肺炎患者を対象)を実施できるよう準備をし、2023年4月にPMDA事前面談を実施しました。2023年10月に、PAI-1阻害薬の新規用途特許兼用法用量特許「線溶系亢進薬、及びその用途」が日本において特許査定が得られ、2041年5月まで有効です(米国、欧州は出願中)。本特許により、当社PAI-1阻害薬の医薬用途及び用法用量に関する発明が保護され、さらに特許期間の延長が可能となります。なお、前期及び後期第Ⅱ相医師主導治験の結果は、2024年1月に科学誌『Science Report』に掲載されました。 (※1)被験者の酸素化の状況を、酸素なし(0点)~人工呼吸器エクモ装着(5点)までの点(例えば、酸素投与2L以上、5L未満は2点)を毎日付けて14日間の合計で比較 (※2)定義は「新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き、第10.0版」」に記載 ・ 中等症Ⅰ:新型コロナウイルス感染症で、血中の酸素の値が93%から96%の間で、呼吸困難や肺炎初見が認められるが、呼吸不全はなく、酸素投与治療は行われていないステージ ・ 中等症Ⅱ:血中の酸素の値が93%以下で、呼吸不全があり、酸素投与治療が必要なステージ ・ 重症:集中治療や人工呼吸器が必要なステージ (f) 全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)治療薬数々の国内外との共同研究にてRS5614が非臨床試験で種々の肺傷害(気腫、線維化、炎症)の改善と上皮細胞保護作用を示すことから、SSc-ILDの線維化を抑制する治療薬としての開発に着手しました。SSc-ILDのモデルであるブレオマイシン誘導皮膚/肺線維化モデルマウスを用いて、SSc-ILD治療薬であるニンテダニブ(10、50 mg/kg/日)とRS5614(1、5 mg/kg/日)の4週間連続投与における有効性比較の非臨床試験を行った結果、肺傷害の抑制作用の指標であるヒドロキシプロリン量の増加及びAshcroft scoreにおいて、RS5614はニンテダニブに比して、より低用量で有意な改善を示しました。そこで、SSc-ILDに対するRS5614の安全性と有効性を検証する第Ⅱ相医師主導治験(プラセボ対照二重盲検試験)を開始しました。2023年2月に実施したPMDA事前面談に基づき同年5月に実施した対面助言で最終的な臨床プロトコールが確定し、2023年9月に治験計画届を提出しました。本試験は、2023年3月にAMED「難治性疾患実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択されました。東北大学、東京大学、金沢大学、福井大学、大阪大学、和歌山県立医科大学、群馬大学、横浜市立大学、札幌医科大学、藤田医科大学の国内10の大学/医療機関と共同で、2023年10月からSSc-ILD患者50名を対象に2年半の治験を実施しています。2024年12月には、目標症例数である50症例の登録が完了しています。今後、被験者の投与期間(48週間)を経て、本試験の評価、データ解析の結果を治験総括報告書に纏める予定です。 (g) 抗加齢(アンチエイジング)・長寿研究XPRIZE HEALTHSPANは、健康寿命を延ばすことができた研究チームに対して、総額1億米ドルを支払うという世界的なコンペティションです。このコンペティションは、XPRIZE財団(※1)が主催し、人間の老化や長寿に対する治療アプローチに革命を起こし、健康寿命を積極的に10年以上延伸するという挑戦的な課題に取り組むことを目的とします。当社は、この世界的コンペティションに応募し、TOP40(セミファイナリスト)に入賞し、賞金25万米ドルを獲得しました。XPRIZE財団はアメリカの非営利の民間財団であり、イーロンマスク氏などがスポンサーに名を連ねています。同財団は、これまで世界初の民間による月面探査、二酸化炭素(CO2)の回収・貯留技術のコンペティションを行うなど、人類に利益を与える技術の開発や、世界が直面する課題の解決を目的とした賞金を懸けた幾つかコンペティションを実施してきました。今回のXPRIZE HEALTHSPAN(https://www.xprize.org/prizes/healthspan)は、人間の老化や長寿に対する治療アプローチに革命を起こし、健康寿命を積極的に10年以上延伸することを目的とし、2030年までに健康寿命を延ばすことができた研究チームに対して、総額1億米ドルを支払うという長寿を課題としたコンペティションです。世界から600以上のエントリー、200以上の書類応募があり、人間の長寿に対する治療アプローチとして、低分子医薬品、バイオ医薬品(ワクチン、免疫調節剤、モノクローナル抗体、および組み換えタンパク質治療薬)、遺伝子治療、細胞治療、医療機器(医療治療機器、ゲームベースのデバイス、デジタルヘルスデバイス)、電気医療機器、磁気医療機器、サプリメント、機能性食品、食事療法、運動療法、さらにそれらの組み合わせなど様々なモダリティが提案されました。当社は、PAI-1阻害薬RS5614の抗加齢作用(※2)に基づき、「老化細胞を除去し、がん化を促進する事なく老化関連疾患を抑制する新たな新規低分子医薬品」のコンセプト(Senolytic drug(※3))を提唱し、東北大学、東海大学、広島大学の研究機関及び医療機関との共同で、昨年末にこのXPRIZE HEALTHSPANに応募しました。2025年5月12-14日に米国ニューヨークで開催されたXPRIZE HEALTHSPANの受賞セレモニーで、当社はTOP40(セミファイナリスト)に入賞し、賞金25万米ドルを受け取りました。セミファイナリストは、2026年3月末までに1年以内のセミファイナル臨床試験(※4)を実施し、その報告書をXPRIZE HEALTHSPAN評価委員会に提出します。このセミファイナル臨床研究成績を元に、2026年後半にTOP10(ファイナリスト)が選出され(賞金100万米ドル)、最終コンペティションのための4年のファイナル臨床研究(※5)が実施されます。ファイナル臨床研究を実施したTOP10のチームの中で最も優れた研究に対しては、寿命を延ばした年数に応じて賞金が与えられます(最大8,100万米ドル)。当社は、東北大学、ノースウェスタン大学、東海大学、広島大学、東京科学大学など国内外の研究機関及び医療機関との共同で、このXPRIZE HEALTHSPANに取組みます。 XPRIZE Healthspansスケジュール2025年5月12日 セミファイナリスト発表(40チーム、賞金25万米ドル)2025年8月1日~ 2026年3月 セミファイナル臨床試験実施2026年3月末 セミファイナル臨床試験報告書提出2026年7月~9月 ファイナリスト発表(10チーム、賞金100万米ドル)2026年10月~2029年12月 ファイナル臨床試験実施2030年2月 ファイナル臨床試験報告書提出2030年12月 グランプリ発表(最大8,100万米ドル) 当社は、『ヒトが心身共に生涯にわたって健康を享受できるための新しい医療を創造したい』との目標を掲げて研究に取り組んでいますが、老化関連疾患の治療薬開発は当社の重要な研究及び事業の課題です。日本を含む先進国では超高齢化が進み、平均寿命と健康寿命(心身ともに健康で自立して生活できる期間であり、平均寿命から寝たきりや認知症などの介護状態の期間を差し引いた期間)の差が約10年あることが大きな課題となっています。加齢と共に生じる種々の疾患、例えば、がん、循環器疾患、呼吸器疾患、糖尿病などを治療できれば、健康寿命の延伸に繋げることができます。これら4疾患は全世界の死亡者数の70-80 %に至り、世界保健機関(WHO)でも老化や生活習慣に伴う重要な疾患として位置付けられています。当社は、これら4疾患の治療薬を含めた健康寿命を伸ばすための医薬品開発という医学的あるいは社会的にも重要な課題を解決すべく取り組んでおり、XPRIZE HEALTHSPANという世界的な長寿コンペティションで、当社の開発している医薬品のポテンシャルを評価いただきたいと考えます。現時点では、RS5614はヒトの医療用医薬品(医師の診断や処方箋に基づいて使用される医薬品で処方薬ともいう)として開発しているので、がんなど個々の疾患に対する治療の適応をとるための臨床試験(治験)を実施しています。一方、長寿は検証することが難しいので、治験や医療用医薬品の対象とはなりません。一方、長寿やアンチエイジング(抗老化)は、超高齢化を背景に急成長しているセルフメディケーション分野、OTC医薬品(※6)、さらには動物医薬品市場の重要なテーマです。当社が開発したPAI-1阻害薬RS5441の脱毛症治療薬としての実例もあり、当社のPAI-1阻害薬の抗加齢(アンチエイジング)・長寿研究をさらに推進し、医療用医薬品以外の適応に関しても検討したいと考えます。 (※1)XPRIZE財団イーロンマスク氏などがスポンサーとなり、人類のための根本的なブレークスルーをもたらすことによって、新たな産業の創出と市場の再活性化を刺激することを使命とし、様々な世界的な挑戦的コンペティションを開催する財団です。 (※2)PAI-1阻害薬RS5614の抗加齢作用当社はこれまで老化について長年研究しており、米国ノースウエスタン大学および東北大学との共同研究より、当社の開発したPAI-1阻害薬RS5614が細胞や老化マウスにおいて、老化症状を改善し、長寿につながる可能性があることを示唆する下記一連の科学的事実を明らかにしてきました。 · 生物の細胞は、細胞老化(※7)と呼ばれる現象のために、無制限に増殖することはできません。この現象には、遺伝子のテロメア長(※8)の短縮、p53, p21, p16ink4aなどの細胞老化因子が関与しています。老化した細胞は、PAI-1の発現が極めて高いことが分かっています。当社が開発したPAI-1阻害薬は、p53, p21, p16 ink4aを抑制して、老化バイオマーカー(※9)を改善し、心筋細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞の細胞老化を阻害します(Oncotarget, 2016)。· 当社が開発したPAI-1阻害薬は、ヒトの早老症であるハッチンソン-ギルフォード症候群(※10)(指定難病333)の線維芽細胞のDNA損傷を減少し、ミトコンドリア障害を改善し、ハッチンソン-ギルフォード症候群の細胞異常を是正することがわかりました(Cell Death and Disease, 2022)。· 細胞のみならず、老化した組織や個体(マウス、ヒト)では、PAI-1の発現が高いことが知られています。老化モデルとして有名なklothoマウス(※11)を用いた非臨床試験で、PAI-1阻害薬はklothoマウスの老化主症状を改善することがわかりました(Proc Natl Acad Sci USA. 2014)。米国に生活するアーミッシュ(※12)の血液を検査し、PAI-1遺伝子を欠損している者が多数存在していることを確認し、これらのPAI-1遺伝子欠損者が同遺伝子保有者と比べて10年程度寿命が長いことを報告しました(Science Advances, 2017)。このヒトでの疫学調査は、細胞やマウスでの実験結果とも一致しています。この事実は2017年11月21日のニューヨークタイムズの記事(November 11, 2021)で紹介されました。さらに、アーミッシュのヒトと同じPAI-1遺伝子の異常を有するマウスの寿命は、正常のマウスに比べて20%程度長いことが示されました。· がん、血管(動脈硬化)、肺(肺気腫、慢性閉塞性肺疾患)、代謝(糖尿病、肥満)、腎臓(慢性腎臓病)、骨・筋肉(骨粗鬆症、サルコペニア)、脳(脳血管障害、アルツハイマー病・認知症)など加齢関連疾患の臓器ではPAI-1の発現は極めて高く、当社のPAI-1阻害薬を投与することで病態が改善できることが国内外の多くの大学との共同研究から明らかとなりました(下図)。 当社が開発したPAI-1阻害薬を用いた非臨床試験 (※3)Senolytic drugがん化を促進する事なく老化関連疾患を抑制することをsenolyticsと言い、その作用を有する医薬品をsenolytic drugと言います。老化(senescence)と対抗(lytics)を組み合わせた言葉で、「老化防止」を意味します。 (※4)セミファイナル臨床試験50歳以上の少数例(20名以内)を対象とし、1〜2ヶ月間の短期間の治療介入効果を評価する臨床研究となります。介入効果に加えて、安全性と被験者保護の対応、認定臨床研究審査委員会(CRB、Certified Review Board)の承認、患者登録の実現性、データの収集・管理・提出能力などを総合的に評価します。 (※5)ファイナル臨床試験50歳以上の100名程度(200名以内)を対象とし、1年間の治療介入効果を評価する計4年間のクロスオーバー対象臨床研究となります。対照群と比較して、治療介入群が設定された3つの評価機能(筋肉、認知、免疫)すべてにおいて、少なくとも10年以上の機能改善を実証することを目的とします。 (※6)OTC医薬品医師に処方してもらう「医療用医薬品」ではなく、薬局やドラッグストアなどで処方箋なしで購入できる「要指導医薬品」と「一般用医薬品」のことをいいます。要指導医薬品は、OTC医薬品として初めて市場に登場したもので慎重に販売する必要があることから、薬剤師が当該医薬品に関する説明を行うことが義務付けられています(インターネット等での販売は難しい)。要指導医薬品以外のOTC医薬品を一般用医薬品といいます(分類によっては薬剤師の説明が必要)。 (※7)細胞老化(Senescence) 生物の細胞は、細胞老化と呼ばれる現象のために、無制限に増殖することはできません。 この現象には、遺伝子のテロメア長の短縮、p53 などの細胞老化因子が関与しています。老化した細胞は、p53 に加えて、PAI-1の発現が極めて高いことが分かっています。p53 やPAI-1を抑制することで、細胞老化の現象は阻害できることが明らかになりました。 (※8)テロメア長テロメアは染色体の末端に存在する構造で、細胞分裂のたびに短縮することが知られています。テロメア長は細胞の寿命や老化と密接に関連しており、その維持は健康や加齢に伴う疾患の予防に重要な役割を果たします。 (※9)老化バイオマーカー老化細胞のバイオマーカーとして、細胞周期調節因子(p16ink4a, p21, p53, p16, IGFPB3)、老化関連β-ガラクトシダーゼ(SA-β-gal)染色、IL-6等インターロイキンなどの細胞老化随伴分泌現象(SASP:senescence-associated secretory phenotype)、DNA損傷応答などが解析されます。当社の開発したPAI-1阻害薬は、これら老化バイオマーカーを改善することが国外の研究から報告されています(Oncotarget 2016, Cell Death and Disease 2022)。 (※10)ハッチンソン-ギルフォード症候群1886年にJonathan Hutchinsonと1897年にHasting Gilfordが報告したことから命名された疾患です。遺伝性早老症の中でも特に症状が重い疾患で、動脈硬化による脳や心臓の重篤な血管障害が10代で起こることが多く、平均寿命は14.6歳と報告されています。 (※11)klothoマウス抗老化遺伝子klothoの発現が低下または欠損した遺伝子改変マウスで、ヒトの早老症に類似した老化現象を示します。 (※12)アーミッシュアメリカ合衆国の中西部などに居住する集団であり、 移民当時の生活様式を保持し、農耕や牧畜によって自給自足の生活をしています。 (h) RS5441(PAI-1阻害薬)男性型脱毛症及び加齢性脱毛症外用薬当社は、2016年10月に皮膚科疾患用途におけるRS5441の独占的権利をエイリオン社に許諾しました。これまでに2023年4月及び6月にエイリオン社が行使したオプション権の対価を受領しましたが、2024年7月から同社は第Ⅰ相試験を開始したため、2024年7月に新たにマイルストーンとして10万米ドルを受領しました。第Ⅰ相臨床試験に先駆けて実施された非臨床試験では、男性型脱毛症患者の頭皮組織移植片60検体が5%溶液ET-02(RS5441)に暴露されました。ET-02による治療4ヶ月目の発毛率は、同じ実験移植モデルを用いた標準治療薬ミノキシジル(N=103)による発毛率の4倍高いという結果が得られました。非臨床試験成績を踏まえて、2024年7月1日、外用薬 ET-02(RS5441)の男性型脱毛症(加齢性脱毛症)治療に対する安全性と有効性を評価する第Ⅰ相臨床試験が開始されました。この二重盲検プラセボ対照試験は、プラセボ、ET-02の1.25%または5%溶液のいずれかで構成される二重盲検プラセボ対照試験を米国の3つの医療機関、合計24人の被験者で実施しました(1日1回の外用、28日間投与)。その結果、ET-02(RS5441)は安全で、良好な耐容性を示し、高用量の5%ET-02群で有意な反応が観察されました。5%ET-02群は、5週目の終了時点において、プラセボ群と比較して非軟毛(または正常)の毛数が6倍に増加しました。1か月の治療後、5%ET-02は、男性型脱毛症の治療薬であるミノキシジルの別の臨床試験で測定された4か月の治療後の局所ミノキシジルよりも多くの非軟毛の成長を示し、実質的に変化のなかったプラセボ群と比較して、非軟毛の毛髪の太さを約10ポイント改善しました。この第Ⅰ相臨床試験の結果は、非臨床試験で確認された5%ET-02 の有効性を実証しています。ET-02(RS5441)の安全性と有効性を確認することを目的に今後、第Ⅱ相臨床試験(N=150)を開始する予定です。2026年3月期に第Ⅱ相試験における最初の患者登録が行われた際に20万米ドルのマイルストーンを受領し、その後も試験の進捗によってマイルストーンに応じて一時金を受領する予定です。また、将来的にET-02が商業化された場合にはエイリオン社からロイヤリティを受領する予定です。なお、特許期間満了(2029年3月31日)後も一定期間((a) ET-02 の製品が当社許諾特許の有効な請求範囲でカバーされる最終日、(b) ET-02 の製品に関する規制またはデータ独占権の満了日、および (c) ET-02 の製品の最初の販売から10 年後、のいずれか遅い日まで)ロイヤリティが受領できる契約となっております。 b.RS8001(ピリドキサミン)更年期障害治療薬2021年12月に東京科学大学と共同研究契約を締結し、更年期障害の2大症状(ホットフラッシュ(※)とうつ)の治療薬としてRS8001の臨床研究を準備してきました。2023年3月にAMED「女性の健康の包括的支援実用化研究事業(代表機関:東京科学大学、当社は協力機関)」に採択され、東京科学大学などで3年間の臨床研究が開始されました。本臨床研究では、プラセボ効果をできる限り排除する目的でプラセボリードイン方式を採用した二重盲検法(各群25名)で実施しています。 (※)ホットフラッシュ:更年期障害の代表的な症状として上半身ののぼせ、ほてり、発汗等が起こります。 c.RS9001(ディスポーザブル極細内視鏡)腹膜透析は透析液を注入するチューブを常に腹膜に挿入されていますが、当社は、この細いチューブを通して挿入し、開腹手術にも腹腔鏡にもよらず非侵襲的に腹腔内を観察する極細内視鏡(径1mm程度)を東北大学等複数の大学と共同開発しました。2022年8月にはファイバースコープ(※1)がPMDAに承認申請され、同年12月に厚生労働省から薬事承認されました。本製品の詳細は、以下のとおりです。・ 承認番号:30400BZX00294000・ 一般的名称:軟性腹腔鏡・ 販売名:経カテーテル腹腔鏡 PD VIEW・ 類別コード:器252022年9月に株式会社ハイレックスコーポレーション及びその子会社である株式会社ハイレックスメディカルと付属品であるガイドカテーテル(※2)作成を含めた医療機器開発に関する共同研究契約を締結しました。ディスポーザブル極細内視鏡については、2020年5月にバクスター社とライセンス契約を締結しておりましたが、2024年5月にバクスター社とのライセンス契約を解約し、新たに株式会社ハイレックスメディカルとライセンス契約を締結しました。ガイドカテーテルとファイバースコープを合わせて2025年度に薬事申請する予定です。 (※1)ファイバースコープ(使い捨て):ディスポーザブル極細内視鏡の本体です。先端部は径1mm程度で、腹部に留置されているチューブの中を通ります。 (※2)ガイドカテーテル(使い捨て):ファイバースコープと組み合わせて使用することでファイバースコープの先端部分を自由に動かすことができます。ガイドカテーテルを使用しなくても、ファイバースコープのみで腹膜の状態を観察することが可能ですが、使用することで操作性が向上します。 d.AIを活用したプログラム医療機器の開発(a) RSAI01(呼吸機能検査診断プログラム医療機器)呼吸器疾患や呼吸機能の検査の中でスパイロメトリー(※)が最も重要ですが、その普及は進んでいません。被験者(患者)の協力(努力呼吸)が必要である点に加えて、正しく検査が行えたかどうかを判定し、かつ出力された結果(フローボリューム曲線)を解釈することが非専門医には難しいためです。非専門医でも簡便に結果を解釈できるシステムの開発は、呼吸器疾患を診断し、早期治療を行う上で重要な医療課題と考えられます。フローボリューム曲線を解釈するAIを、京都大学及びNESと共同で開発しました。約1,000症例(2,500データ)の医療データを取得し、実用化モデルの開発を完了しました。現在は、チェスト株式会社が中心となって臨床開発に向けた準備を進めています。2020年7月にスパイロメトリーのリーディングカンパニーであるチェスト株式会社と共同開発及び事業化に関する契約(ライセンス契約)を締結し一時金を受領しました。また、2023年6月には事業化段階移行に合意し、対価としてマイルストーンを受領し、2025年2月には対象地域拡大(国際展開)に係るオプション権行使に伴い一時金を受領しました。 (※)スパイロメトリー:呼吸機能生理検査で、被験者が吐き出す息の量と吐き出す時間を測定します。慢性閉塞性肺疾患(COPD)及びその他の肺の病気の診断に重要な検査です。 (b) RSAI02(維持血液透析医療支援プログラム医療機器)慢性腎不全患者は、廃絶した腎臓の代わりに除水と老廃物の除去を行うために週3回、生涯にわたって血液透析を受けます。除水不足は心不全、高血圧等心肺機能に障害を与える一方、過度な除水は透析中の低血圧を生じ、気分不良、意識消失といった有害事象をもたらします。不適切な除水量の設定により除水不足や過除水が生じ有害事象が発生すると医療従事者は患者対応に追われ、大きな負担となります。安全安心な血液透析を実現するために、適切な目標総除水量を予測するAI(Dual-Channel Combiner Network、DCCN)を、東北大学及びNECと共同で開発しています。聖路加国際病院や民間透析医療施設から取得した透析回数72.5万件の透析記録(患者情報、透析情報、検査情報)を学習させ、患者の過去の5回の透析記録及び透析当日の透析前データから、医師が経験的に設定した目標総除水量と7-8%程度の平均絶対誤差率(mean absolute percentage error、MAPE)で目標総除水量を予測するAIが開発できています。2023年4月にはPMDA開発前相談を終了し、2024年1月に臨床性能試験実施のためのPMDAプロトコール相談を完了しました。2024年10月から薬事承認申請のための臨床性能試験を実施しており、現在までに目標症例数である150症例のデータを取得し、今後主要評価項目の達成の有無を確認します。本AIプログラム医療機器の開発は、2023年2月にAMED「医療機器開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は協力機関)」に採択されました。2022年10月に基本となる知的財産権を出願し、2023年5月に国際出願を行いました。また、2024年1月には新たな特許を追加出願しました。なお、当社のAIを活用した維持血液透析医療支援のプログラム医療機器に関する取材記事が、2024年3月に科学誌『Nature』に掲載されました。2021年5月に本AIプログラム医療機器(ソフトウェア)の開発に関してニプロ株式会社と共同研究契約を締結し、2022年5月には契約期間延長に伴う契約一時金を受領しました。開発段階が臨床性能試験の実施まで進捗したことから、2024年3月にニプロ株式会社と共同開発契約を新たに締結し契約一時金を受領し、さらに2026年3月まで共同開発契約期間を延長しました。さらに、血液透析における除水量や血流量の調節を制御する血液透析機器搭載型AIの開発に着手し、2023年12月に東レ・メディカル株式会社と共同開発契約を締結しました。 (c) RSAI03(糖尿病治療支援プログラム医療機器)糖尿病の血糖値を厳格にコントロールし、糖尿病合併症を予防するためにはインスリン注射治療が必要です。しかし、インスリンの安全な用量域は狭く、過剰投与で低血糖を生じるために、患者ごとに最適な種類と投与量を選定する必要があります。一方、糖尿病専門医は医師全体の2%もおらず、地理的にも偏在しているため、現状では糖尿病患者の主治医が糖尿病専門医であるとは限らず、むしろ非専門医に受診することが多いです。非専門医にも専門医レベルのインスリン治療を実行できるよう支援するAI(Skill Acquisition Learning、SAiL:スキル獲得学習)を、東北大学及びNECと共同で開発しています。東北大学病院に入院する約1,000名(約1,080,000臨床パラメータ)の患者データに基づく学習が終了し、専門医の処方するインスリンの投与量から2単位程度の誤差で予測するAIを開発できています。現在、NESと共同で、本AIを医療機関で活用するためのシステム開発を進めており、デモシステムの開発を完了しました。2022年12月にはPMDA開発前相談を終了し、2023年5月に実施したPMDAプロトコール相談の助言に従い、臨床性能試験のための予備的な試験を実施しました。予備試験の結果を基に、2024年2月にPMDAプロトコール相談を終了し、試験実施計画書が確定し、同年8月に倫理審査委員会の承諾を得て、検証的臨床性能試験を開始しました。本臨床試験は、東北大学病院、山口大学病院、仙台市立病院、大崎市民病院、みやぎ県南中核病院、東北ろうさい病院の多施設共同検証的臨床性能試験として実施し、血糖コントロールの目的で入院時に糖尿病専門医によるインスリン治療を受けた2型糖尿病患者の臨床データ130例を取得して、実際に専門医が治療した結果と糖尿病治療支援AIが予測する結果の差分を用いて、専門医に対する非劣性を証明する試験です。試験の結果、主要評価項目である糖尿病専門医との誤差を評価しました。正解率(Correct rate)は、約85%であり、当初設定していた目標値である80%を5%上回る結果であることから、専門医に対するAI予測の非劣性(同等)が証明され(POC達成)、2025年3月に総括報告書を纏めました。 正解率(Correct rate): 臨床性能試験主要評価対象者数116例正解率(平均)85.46平均値の信頼区間[83.59 , 87.34] 本試験結果から、薬事承認の申請が可能となり、不足する糖尿病専門医によってインスリン治療が困難な地域の患者にも、専門医と同等なインスリン治療が提供できます。本AIプログラム医療機器の開発は、2022年4月にAMED「医工連携イノベーション推進事業(開発・事業化事業)(当社が代表機関)」に採択されました。2022年6月に東北大学と共同で基本となる知的財産権を出願し、2023年4月には国際出願を行いました。なお、当社のAIを活用した糖尿病治療支援のプログラム医療機器に関する取材記事が、2024年3月に科学誌『Nature』に掲載されました。 (d) RSAI04(嚥下機能低下診断プログラム医療機器)加齢に伴い口腔機能が低下しますが、その状態(オーラルフレイル)を放置すると摂食障害や構音(発話)障害等多くの身体的、社会的障害、さらには全身性の筋肉虚弱(フレイル)につながるため、早期の診断と適切な処置が重要です。高齢社会において口腔機能低下のひとつである摂食嚥下障害は増加し、高齢者の主な死因とされる肺炎の約7割が誤嚥によるとの報告もあります。誤嚥性肺炎の予防には嚥下機能低下の早期発見とリハビリテーション等の治療介入が重要ですが、現在では、嚥下内視鏡検査、嚥下透視検査方法等患者負担の大きい嚥下評価法しかありません。嚥下と会話で使用する器官は舌や口腔・咽頭等共通部分が多く、会話から嚥下機能を評価できる可能性に着目し、嚥下機能障害を会話時の音声データから評価可能なAIを開発しています。東北大学の複数の診療科(耳鼻咽喉科、歯科、医工学部リハビリテーション科)及びNECと共同で、東北大学病院嚥下治療センターに受診する患者の話す音の全周波数を時系列データの分析に特化したAIエンジン(時系列モデルフリー分析)で解析することで、健常者の音声のベースライン(性差、年齢差、個人差等)を確認し、健常者の発音と患者の発音の違いを検出することで、嚥下機能の低下を診断するAIが開発できています。今後、嚥下機能低下を有する高齢者データで学習させることで、実用化に向け開発を進めます。2023年12月にPMDA開発前相談を終了、今後、臨床性能試験実施のためのPMDAプロトコール相談を予定しています。2023年3月に東北大学と共同で基本となる知的財産権を出願しました。また、2024年3月には新たな特許を追加出願しました。 上記の実用化に向けたプログラム医療機器の開発研究に加えて、下記の複数の探索的な研究開発を進めています。 (e) 探索研究(乳がん病理診断プログラム医療機器)乳がんは日本人女性のがんの中で最も患者数が多く、生涯に乳がんを患う日本人女性は11人に1人と言われています。しこりや画像診断等で乳がんが疑われた場合、最終診断は病理診断ですが、診断には経験を積んだ病理医が必要です。当社は東北大学と共同で、病理画像から乳がんの病変部を検出するAIを開発しています。現在、探索研究段階では、検出モデルを3クラス(良性、非浸潤がん、浸潤がん)または2クラス(良性、悪性)で分類し、それぞれ88.3%と90.5%での診断精度を達成しました(科学誌『Journal of Pathology Informatics』に掲載)。今後、乳がん領域では「術中迅速病理検体画像」を用いたAI診断にも取り組む予定です。 (f) 探索研究(心臓植込み型電気デバイス患者における不整脈・心不全発症予測プログラム医療機器)心不全患者には植込み型除細動器(ICD)、両心室ペースメーカ(CRT-P)など心臓植込み型電気デバイスが広く使用されます。これら心臓植込み型電気デバイスを活用することで、自宅にいながら、刻々と変化する生体情報の経時的な遠隔モニタリングが可能となります。当社は、東北大学と共同で、心臓植込み型電気デバイス患者の遠隔モニタリング情報を活用し、心不全及び致死性不整脈の発症を事前に予測するAIを開発しています。 (g) 探索研究(人工心臓患者における血栓発生予測プログラム医療機器)植込み型補助人工心臓は末期心不全患者の生命維持には欠かせない治療ですが、血栓など合併症が課題です。当社は、株式会社ハイレックスメディカル及び東北大学と共同で補助人工心臓の血栓発生を予測するAIの開発に取り組んでいます。2022年9月に本AIの開発等に関して株式会社ハイレックスコーポレーション及び株式会社ハイレックスメディカルとの共同研究契約を締結しました。 e.診断薬:血中フェニルアラニン測定キットフェニルケトン尿症は、適切な治療を行わないと知能発達遅延等の重篤な症状が出現します。1977年に生後マス・スクリーニング検査が実施され、ほぼ全ての患児が早期に発見されるようになりました。フェニルケトン尿症の治療には、フェニルアラニンを制限するための食事療法を正しく行う必要があり、定期的な医療機関での検査が必要ですが、数か月に1度の採血では、きめ細やかな食事管理ができません。自宅で簡便かつ正確に血中フェニルアラニン濃度を測定するシステムを、東北大学と共同で開発しています。糖尿病患者での自己血糖管理のように、家庭でいつでも自己測定が可能になれば、フェニルケトン尿症を有する患者のきめ細やかな食事管理が実現できます。2021年5月には診断薬に関する特許を東北大学と共同で出願し、同年6月にはPMDA相談を行いました。2023年5月に本研究内容が科学誌『Molecular Genetics and Metabolism Reports』に掲載されました。
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6 【研究開発活動】当社は、医薬品・医療機器・AIを活用したプログラム医療機器など、多様なモダリティ(治療様式)にわたる複数パイプラインの研究開発を進めており、当事業年度における主要パイプライン開発の進捗及びこれまでの開発実績は以下のとおりです。なお、当事業年度における研究開発費は236,331千円であり、当事業年度末日の当社研究開発従事者人員は8名(臨時雇用者を含む)です。 a.RS5614(PAI-1阻害薬)(a) 慢性骨髄性白血病(CML)治療薬CML患者を対象とした後期第Ⅱ相医師主導治験において、チロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor、TKI)とRS5614を併用し、RS5614投与開始後48週における累積の深い分子遺伝学的奏効(deep molecular response、DMR:がんの原因遺伝子が検出されない状態)の達成率(※1)は33.3%(33例中11例でDMRを達成)であり、TKI単独でのヒストリカルコントロール(8-12%)に比べて有意に上昇していることを確認しました(2021年3月治験総括報告書完成、POC取得)。特に、TKI治療期間が3年以上5年以下の患者での累積DMR達成率は50.0%に達しました。また、RS5614の1年間の長期投与でも治療薬と因果関係のある重篤な有害事象は認められませんでした。本試験結果は、科学誌『Cancer Medicine』に掲載されました。後期第Ⅱ相医師主導治験の成績に基づいて、東北大学、東海大学、秋田大学等、12の大学/医療機関と共同で慢性期CML患者を対象にTKIとRS5614の併用効果を検証するプラセボ対照二重盲検(※2)の第Ⅲ相医師主導治験を実施中です。本試験は、2022年3月にAMED「革新的がん医療実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択されました。PMDAと2021年11月及び同年12月に対面助言を行い、2022年5月にPMDAに治験計画届を提出し、多施設共同の第Ⅲ相試験が開始されました。TKI治療期間が3年以上6年未満の慢性期CML患者60例を対象とし、TKI単独投与群よりも治験薬RS5614の併用群がTFRの指標である2年間以上のDMR維持率の有意な上昇の検証を行います(2026年まで実施予定)。2023年12月末の症例登録期間内に解析に必要な症例数を上回る57例が登録され、治験は予定通り進行中です。後期第Ⅱ相医師主導治験の結果が、2022年9月に科学誌『Cancer Medicine』に掲載されました。また、CMLを含む当社のがん治療薬の取組みが、2023年9月科学誌『Nature』に掲載されました。 (※1)DMR達成率とTFR:現在の慢性期CML治療では高額なTKIを生涯服用する必要がありますが、最も深い治療効果であるDMRを達成し、一定期間維持した一部の患者では、TKIを中止しても再発がないこと(無治療寛解維持;TFR)が近年明らかとなっています。これまでに既存TKIで公表されている1年間(48週)の累積DMR達成率は8-12%(ヒストリカルコントロール)です。なお、DMR維持とは、DMRを達成した状態が一定期間継続することです。(※2)二重盲検:対象患者を無作為に、治験薬(今回はRS5614)を投与する群と対照薬(今回は効果がないプラセボ)を投与する群に分け、医師も患者もどちらが投与されるかを知らない条件で、両群同時に薬を投与する臨床試験方法。医師が効果の期待される患者に対して被験薬を投与するなどの故意が生じる怖れや、効果があるはずといった先入観が評価に反映される可能性や、患者が知った場合もその処置への反応や評価に影響が生じることを避けるための試験方法です。それぞれの群で出た結果を比較評価することで、治験薬の効果があるかを判断します。 (b) 悪性黒色腫(メラノーマ)治療薬国内の悪性黒色腫患者では、海外とは異なるサブタイプの悪性黒色腫が多いことから、抗PD-1抗体(ニボルマブ)単剤療法による治療が奏効しにくいとされています。RS5614が免疫チェックポイント分子を制御しがん免疫系を活性化する作用に基づき、NPO法人「JSCaN」を立ち上げて悪性黒色腫の治療成績向上のために連携している東北大学、筑波大学、都立駒込病院、近畿大学、名古屋市立大学、熊本大学の6大学と共同で、悪性黒色腫治療薬としてのRS5614の有効性と安全性を確認するための第Ⅱ相医師主導治験を2021年7月に開始しました本試験は、2021年5月にAMED「橋渡し研究プログラムシーズC(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けた、進行性悪性黒色腫患者40例を対象とする多施設共同、非盲検試験です。ニボルマブ併用のもと、RS5614を1日1回120-180 mgで投与し、8週間投与後に有効性と安全性の評価を行い、40例の患者登録が2023年3月で終了しました。本治験の結果、悪性黒色腫患者29例に対して、当社が開発した PAI-1阻害薬RS5614を8週間併用することにより、主要評価項目で7例において奏効が見られました(奏効率 24.1%)。 被験者数29 分類例数(%)奏効(%)7 (24.1%) 完全奏功(CR)1 (3.4%)95%信頼区間[10.3%, 435.5%] 部分奏功(PR)6 (20.7%) 安定(SD)11 (37.9%) 進行(PD)11 (37.9%) この奏効率は、現在承認されている、ニボルマブとイピリムマブの併用の有効性と同等以上の成績でした(ニボルマブ無効例におけるニボルマブとイピリムマブ併用の奏効率は、海外21%、国内13.5%)。また、ニボルマブとRS5614の併用による疾患制御率は62%に達しました。ニボルマブとイピリムマブ併用では重篤な免疫関連副作用が多発することが問題となっていますが、ニボルマブとRS5614の併用においては特に問題となる重篤な副作用も見られていません。本試験の速報結果は2023年8月に開示しており、2024年2月に同内容で治験総括報告書が作成されました。悪性黒色腫の次相試験に関して、2023年12月にPMDA対面助言を実施し、臨床プロトコールを確定しました。また、悪性黒色腫治療薬を希少疾患用医薬品指定制度に申請しました。希少疾患用医薬品指定を受けられた場合には、PMDAの優先的な指導・助言や、医薬基盤・健康・栄養研究所を通じての助成金交付などの優遇措置を得られる可能性があります。また、承認後の再審査期間が延長され、本治療薬事業の独占期間が長くなります。2023年12月に、PAI-1阻害薬の新規用途特許「免疫チェックポイントの発現抑制剤」が日本において特許査定が得られ、2040年9月まで有効です(米国、欧州は出願中)。本特許により、免疫チェックポイント阻害薬としての当社PAI-1阻害薬の医薬用途に関する発明が保護され、更に特許期間の延長が可能となります。また、悪性黒色腫を含む当社のがん治療薬の取組みが、2023年9月科学誌『Nature』に掲載されました。 (c) 非小細胞肺がん治療薬非臨床試験から、PAI-1が肺がんの腫瘍進展、更にはがん細胞の増殖能亢進や血管新生に関与していること、更に抗PD-1抗体に耐性となった肺がん細胞がPAI-1を高発現することなどの知見が明らかとなり、当社と広島大学との共同研究で小細胞性肺がんモデルマウスを用いた非臨床試験を実施した結果、抗PD-1抗体とRS5614の併用投与は抗PD-1抗体単剤投与よりも高い抗腫瘍効果を示すことを確認しました。そこで、2つ以上の化学療法歴を有する切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん患者(3次治療患者)39例を対象に、ニボルマブとRS5614との併用投与の有効性及び安全性を検討することを目的とした国内第Ⅱ相医師主導治験を開始しました。2023年3月にPMDA相談を終了し、治験実施計画書が確定したことから、広島大学、島根大学、岡山大学、鳥取大学、四国がんセンター、広島市民病院などの医療機関と協力して2023年9月から3年間を見込んだ治験を実施しています。2024年3月までに13例の症例が登録されました。本治験において有効性が確認できれば、3次治療以降で有効な治療法を提案できます。悪性黒色腫から肺がんへの適応拡大は、抗PD-1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬と同じ展開です。当社は、2022年10月に国立大学法人広島大学と非小細胞肺がんに対する非臨床試験及び臨床試験に向けての共同研究契約を締結しました。研究段階が非臨床試験から臨床試験(医師主導治験)に移行したこと、更には広島大学の特色や強みを生かし、医師主導治験実施を含めた医薬品及びプログラム医療機器の共同研究開発を行い、研究開発の効率化及び推進並びに人材育成などを目的としたオープンイノベーション拠点(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx)を設けるため、2023年4月に広島大学と包括的研究協力に関する協定書を締結しました。本治験はHiRExを主体に実施しています。 (d) 血管肉腫治療薬東北大学との共同研究において、血管内皮細胞の腫瘍である血管肉腫はPAI-1を高発現しており、その発現頻度が高い患者では1次治療でのタキサン系抗がん剤の効果が得られにくいことが報告されています。タキサン系抗がん剤の作用機序としては、アポトーシスの誘導が考えられていますが、1)PAI-1は主として血管内皮から産生され、2)PAI-1を高発現しているがん細胞はアポトーシス耐性であることから、タキサン系抗がん剤とPAI-1阻害薬RS5614を併用することにより、タキサン系抗がん剤の血管肉腫治療効果を増強できる可能性が強く示唆されます。2023年1月にPMDA相談を終了、治験実施計画書が確定し、同年8月に治験計画届を提出しました。東北大学、自治医科大学、九州大学、名古屋市立大学、国立がん研究センター中央病院、がん研究会有明病院などの大学/医療機関と共同で、タキサン系抗がん剤パクリタキセルが無効となった皮膚血管肉腫患者16例を対象にパクリタキセルとRS5614の併用による有効性及び安全性を評価する第Ⅱ相医師主導治験を2023年10月に開始しました。治験期間は2年間を見込んでいます。2024年3月までに5例の症例が登録されました。本研究で有効性を検証できれば、有効な治療薬のない皮膚血管肉腫患者に対して新たな治療法が提案できます。本治験はHiRExを主体に実施しています。 (e) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う肺傷害治療薬当社は、RS5614の肺微小血栓、線維化、肺気腫改善作用及び肺(上皮)保護作用に着目し、COVID-19に伴う肺傷害治療薬(経口薬)を開発しています。2020年秋から前期第Ⅱ相医師主導治験(非盲検)を実施し、2021年6月に治験総括報告書が完成しました。特筆すべき副作用は無く、肺傷害で入院し本治験薬を投与された26名全員が無事退院されました。前期第Ⅱ相医師主導治験の成績に基づき、東北大学、京都大学、東京医科歯科大学、東海大学等国内20の大学等の医療機関と共同で、COVID-19に伴う肺傷害患者(中等症、入院患者)を対象とするプラセボ対照二重盲検の後期第Ⅱ相医師主導治験を実施しました。本治験は、2021年3月にAMED「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択され、2021年4月のPMDA事前面談に基づき実施計画書を確定して2021年6月から開始しました。本治験は、COVID-19の流行時期やウイルス株変異の影響を受け、治験の対象となる肺炎入院患者数が減少したため、最終的に入院患者75例(RS5614群39例、プラセボ群36例)を対象にプラセボ対照第Ⅱ相試験を実施し、2023年4月に治験総括報告書を纏めました。有効性の主要評価項目である「酸素化悪化指標スケール(※1)の総和」は、両群間で統計学的な有意差は認めませんでしたが、プラセボ群に対してRS5614群で悪化の抑制が見られ、特に中等症Ⅰ患者(※2)での有効性が示唆されました。更に、酸素治療が必要となる症例の割合も、入院後3~5日でRS5614群の方が少ないことから、早期治療でのRS5614の有効性が示唆されました。また、RS5614群では、プラセボ群と異なり、肺炎画像所見の改善も認めました。副作用発現率はRS5614群とプラセボ群で同程度であり、COVID-19に伴う肺傷害患者に対する本被験薬(RS5614)投与の安全性も確認できました。RS5614は抗ウイルス薬とは作用機序が全く異なり、肺炎に対する内服薬です。現時点で抗ウイルス薬以外のCOVID-19に伴う肺傷害に対する治療薬は高額な注射薬ですが、RS5614は経口投与が可能であり、化学合成で製造される低分子医薬品であるため、その価格も低く抑えられます。現在、COVID-19は落ち着いていますが、肺炎を惹起する新たな株の発生に際して速やかに次相臨床試験(軽症から中等症Ⅰの肺炎患者を対象)を実施できるよう準備をし、2023年4月にPMDA事前面談を実施しました。2020年12月にCOVID-19に伴う肺傷害及びその他肺傷害等の肺疾患治療用途について第一三共株式会社とオプション権付優先交渉権に関する契約を締結しました。本契約締結時はオプション期間を1年後の2021年12月としていましたが、後期第Ⅱ相医師主導治験の期間に合わせてオプション期間を2022年12月まで延長しました。更に、2022年11月には、COVID-19に伴う肺傷害だけではなく、抗がん剤治療等から生じる間質性肺炎に対するRS5614の有効性を確認する臨床試験も視野に入れ、オプション期間を2025年3月まで延長する覚書を締結し、オプション期間延長の対価を受領しました。2023年10月に、PAI-1阻害薬の新規用途特許兼用法用量特許「線溶系亢進薬、及びその用途」が日本において特許査定が得られ、2041年5月まで有効です(米国、欧州は出願中)。本特許により、当社PAI-1阻害薬の医薬用途及び用法用量に関する発明が保護され、更に特許期間の延長が可能となります。 (※1)被験者の酸素化の状況を、酸素なし(0点)~人工呼吸器エクモ装着(5点)までの点(例えば、酸素投与2L以上、5L未満は2点)を毎日付けて14日間の合計で比較(※2)定義は「新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き、第10.0版」」に記載・ 中等症Ⅰ:新型コロナウイルス感染症で、血中の酸素の値が93%から96%の間で、呼吸困難や肺炎初見が認められるが、呼吸不全はなく、酸素投与治療は行われていないステージ・ 中等症Ⅱ:血中の酸素の値が93%以下で、呼吸不全があり、酸素投与治療が必要なステージ・ 重症:集中治療や人工呼吸器が必要なステージ (f) 全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)治療薬数々の国内外との共同研究にてRS5614が非臨床試験で種々の肺傷害(気腫、線維化、炎症)の改善と上皮細胞保護作用を示すことから、SSc-ILDの線維化を抑制する治療薬としての開発に着手しました。SSc-ILDのモデルであるブレオマイシン誘導皮膚/肺線維化モデルマウスを用いて、SSc-ILD治療薬であるニンテダニブ(10、50 mg/kg/日)とRS5614(1、5 mg/kg/日)の4週間連続投与における有効性比較の非臨床試験を行った結果、肺傷害の抑制作用の指標であるヒドロキシプロリン量の増加及びAshcroft scoreにおいて、RS5614はニンテダニブに比して、より低用量で有意な改善を示しました。そこで、SSc-ILDに対するRS5614の安全性と有効性を検証する第Ⅱ相医師主導治験(プラセボ対照二重盲検試験)を開始しました。2023年2月に実施したPMDA事前面談に基づき同年5月に実施した対面助言で最終的な臨床プロトコールが確定し、2023年9月に治験計画届を提出しました。東北大学、東京大学、金沢大学、福井大学、大阪大学、和歌山県立医科大学、群馬大学、横浜市立大学、札幌医科大学、藤田医科大学の国内10の大学/医療機関と共同で、2023年10月からSSc-ILD患者50名を対象に2年半の治験を実施しています。本試験は、2023年3月にAMED「難治性疾患実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択されました。 (g) 特発性間質性肺疾患治療薬RS5614が間質性肺疾患(間質性肺炎・肺線維症)を改善することを示唆する非臨床試験の成績に基づき、特発性間質性肺炎の急性増悪を対象としたRS5614の臨床試験実施を視野に入れて、2022年12月に京都大学と共同研究契約を締結しました。また、抗がん剤投与に伴う間質性肺炎に対する本医薬品の有効性を確認する臨床試験も視野に入れ、第一三共株式会社との契約も延長しました。非臨床試験成績の結果で、RS5614の有効性を確認できれば、医師主導治験での臨床開発に進める予定です。肺障害領域での研究開発を更に展開するため、2023年6月に京都大学及び第一三共株式会社と当社の3者での共同研究契約を締結しました。 (h) RS5441(PAI-1阻害薬)脱毛症治療薬当社は、2016年6月に皮膚科疾患用途におけるRS5441の独占的権利をエイリオン社に許諾しました。また2023年4月及び6月にエイリオン社が行使したオプション権の対価を受領しました。同社は、2024年度に第Ⅰ相試験を実施する予定です。 b.RS8001(ピリドキサミン)(a) 月経前症候群(PMS)及び月経前不快気分障害(PMDD)治療薬PMS/PMDDに対するRS8001の第Ⅱ相医師主導治験を、AMED「医療研究開発革新基盤創生事業(CiCLE)(当社が代表機関)」として、近畿大学、東北大学、東京医科歯科大学、東京女子医科大学と共同で実施しました(プラセボリードイン方式(※1)プラセボ対照二重盲検3群比較試験、目標症例数105例、2023年12月終了)。本治験は、として実施されています。精神領域における医薬品開発と同様に、本治験における最大の課題はプラセボ効果の影響です。そこで、プラセボ効果を排除するために、プラセボリードインという試験デザインを採用しました。当初、COVID-19拡大の影響により患者来院数が減少したため、症例登録促進を目的として、2021年度に新たに2施設を追加したほか、院内ポスターや啓発用の冊子の作成、治験調整医師による薬剤師対象Webセミナーを実施しました。2021年9月にはAMEDによる中間評価の結果、本治験支援の継続が承認されました。また2022年7月には、AMEDによる第2回中間評価が行われ、治験継続の判断とともに、症例登録加速のための支援を受けられることが決定しました。これを受けて、2022年11月に治験実施施設を3施設追加するとともに、ボランティアパネル(※2)の活用、治験責任医師等による公開講座の開催、症例登録加速のための全体会議の開催等を対応してきました。その結果、2023年7月までに近畿大学、東北大学、東京医科歯科大学、東京女子医科大学と民間5施設で434名の同意を取得し、最終的に2023年10月末までに目標症例数を超える120例の本登録を行い、2024年2月には問題となる有害事象等を生じることなく治験を終了し、2024年6月に治験総括報告書が纏められました。有害事象及び副作用ともに、本剤低用量群及び本剤高用量群に、特に多く発現したものはなく、本剤の安全性に問題はありませんでした。有効性に関しては、「最終評価時点における黄体期後期のDRSP negative mood(※3)の総和の月経周期3周期目からの変化量」を主要評価項目としましたが、本剤低用量群、本剤高容量群、プラセボ群で、統計的な有意差は認められませんでした。副次評価項目である「DRSP Negative mood score及びDRSP総和のVisit3からの変化量(絶対値)の平均値」はプラセボ群に比べて低用量群、高用量群の順で大きく、また同じく副次評価項目である「黄体期HADS(※4)のVisit 3からの不安尺度合計点の変化量」においても実薬群で低下する傾向がみられましたが、いずれも統計的な有意差は認められませんでした。プラセボリードインという試験デザインを採用しましたが、今回の症例数はばらつきが大きく統計的有意差は認められませんでした。ばらつきの原因として、評価指標が検査値などの客観的な数値ではなくインタビューフォームという主観的な評価であったことや、PMS/PMDDの疾患は、幅広い対象患者を含んでいる可能性があり患者集団の不均一差が影響していたことが考えられます。 RS8001のプラセボリードイン治験の概略図 2019年12月にRS8001のPMS/PMDD治療薬の日本における開発及び商業化の独占的実施許諾(ライセンス)に関する優先交渉権をあすか製薬株式会社に許諾しました。 (※1)プラセボリードイン方式:プラセボには有効成分は含まれていませんが、心理的な効果で病気の症状が改善することがあります(プラセボ効果)。そこで、実薬投与の前に一定期間プラセボを服用していただき、プラセボ効果の大きな被験者は試験に参加していただかない試験デザインを採用しています。(※2)ボランティアパネル:治験支援企業・団体が運営する治験参加希望者の登録システムです。(※3)DRSP negative mood:DRSPはDaily Records of Severity of Problemsの略です。PMSやPMDDは血液検査や画像検査での異常がありませんので、症状と月経周期との関連を観察することしか診断の手立てがありません。そこで、毎日自分の症状と月経周期を記録してその記録を医師が確認することが、正確な診断には必要です。DRSPは臨床試験でのPMSの重症度尺度としても、最も広く使用されています。21項目のPMS症状と、それによる日常生活への支障を問う3項目の、計24項目から成り、それぞれに1(全く無い)〜6(非常に強い)までの6段階を記載します。DRSP negative moodは、DRSPの中でもコア症状である、抑うつ、不安、怒り、興奮などの総和です。(※4)HADS:HADSはHospital Anxiety and Depression Scaleの略で、患者の不安と抑うつを評価する質問票になります。14の設問に0~3点で回答し、不安と抑うつのそれぞれの合計点を算出します。合計点が高いほど不安と抑うつが強いことを示します。 (b) 更年期障害治療薬2021年12月に東京医科歯科大学と共同研究契約を締結し、更年期障害の2大症状(ホットフラッシュ(※)とうつ)の治療薬としてRS8001の臨床研究を準備してきました。2023年3月にAMED「女性の健康の包括的支援実用化研究事業(代表機関:東京医科歯科大学、当社は協力機関)」に採択され、東京医科歯科大学などで3年間の臨床研究が開始されました。本臨床研究では、プラセボ効果をできる限り排除する目的でプラセボリードイン方式を採用した二重盲検法(各群25名)で実施しています。 (※)ホットフラッシュ:更年期障害の代表的な症状として上半身ののぼせ、ほてり、発汗等が起こります。 c.RS9001(ディスポーザブル極細内視鏡)腹膜透析は透析液を注入するチューブを常に腹膜に挿入されていますが、当社は、この細いチューブを通して挿入し、開腹手術にも腹腔鏡にもよらず非侵襲的に腹腔内を観察する極細内視鏡(径1mm程度)を東北大学等複数の大学と共同開発しました。2022年8月にはファイバースコープ(※1)がPMDAに承認申請され、同年12月に厚生労働省から薬事承認されました。本製品の詳細は、以下のとおりです。・ 承認番号:30400BZX00294000・ 一般的名称:軟性腹腔鏡・ 販売名:経カテーテル腹腔鏡 PD VIEW・ 類別コード:器 252022年9月に株式会社ハイレックスコーポレーション及びその子会社である株式会社ハイレックスメディカルと付属品であるガイドカテーテル(※2)作成を含めた医療機器開発に関する共同研究契約を締結しました。ディスポーザブル極細内視鏡については、2020年5月に米国Baxter Healthcare Corporation とライセンス契約を締結しておりましたが、2024年5月にBaxter Healthcare Corporationとのライセンス契約を解約し、新たに株式会社ハイレックスメディカルとライセンス契約を締結しました。ガイドカテーテルとファイバースコープを合わせて2024年度後半~2025年度に薬事申請する予定です。 (※1)ファイバースコープ(使い捨て):ディスポーザブル極細内視鏡の本体です。先端部は径1mm程度で、腹部に留置されているチューブの中を通ります。(※2)ガイドカテーテル(使い捨て):ファイバースコープと組み合わせて使用することでファイバースコープの先端部分を自由に動かすことができます。ガイドカテーテルを使用しなくても、ファイバースコープのみで腹膜の状態を観察することが可能ですが、使用することで操作性が向上します。 d.AIを活用したプログラム医療機器の開発(a) RSAI01(呼吸機能検査診断プログラム医療機器)呼吸器疾患や呼吸機能の検査の中でスパイロメトリー(※)が最も重要ですが、その普及は進んでいません。被験者(患者)の協力(努力呼吸)が必要である点に加えて、正しく検査が行えたかどうかを判定し、かつ出力された結果(フローボリューム曲線)を解釈することが非専門医には難しいためです。非専門医でも簡便に結果を解釈できるシステムの開発は、呼吸器疾患を診断し、早期治療を行う上で重要な医療課題と考えられます。フローボリューム曲線を解釈するAIを、京都大学及びNESと共同で開発しています。約1,000症例(2,500データ)の医療データを取得、実用化へ向けた開発を進めています。2020年7月にスパイロメトリーのリーディングカンパニーであるチェスト株式会社と共同開発及び事業化に関する契約(ライセンス契約)を締結し一時金を受領しました。また、2023年6月には事業化段階移行に合意し、対価としてマイルストーンを受領しました。 (※)スパイロメトリー:呼吸機能生理検査で、被験者が吐き出す息の量と吐き出す時間を測定します。慢性閉塞性肺疾患(COPD)及びその他の肺の病気の診断に重要な検査です。 (b) RSAI02(維持血液透析医療支援プログラム医療機器)慢性腎不全患者は、廃絶した腎臓の代わりに除水と老廃物の除去を行うために週3回、生涯にわたって血液透析を受けます。除水不足は心不全、高血圧等心肺機能に障害を与える一方、過度な除水は透析中の低血圧を生じ、気分不良、意識消失といった有害事象をもたらします。不適切な除水量の設定により除水不足や過除水が生じ有害事象が発生すると医療従事者は患者対応に追われ、大きな負担となります。安全安心な血液透析を実現するために、適切な目標総除水量を予測するAI(Dual-Channel Combiner Network、DCCN)を、東北大学及びNECと共同で開発しています。聖路加国際病院や民間透析医療施設から取得した透析回数72.5万件の透析記録(患者情報、透析情報、検査情報)を学習させ、患者の過去の5回の透析記録及び透析当日の透析前データから、医師が経験的に設定した目標総除水量と7-8%程度の平均絶対誤差率(mean absolute percentage error、MAPE)で目標総除水量を予測するAIが開発できています。2023年4月にはPMDA開発前相談を終了し、2024年1月に臨床性能試験実施のためのPMDAプロトコール相談を完了しました。現在、承認申請のための臨床性能試験の準備をしています。本AIプログラム医療機器の開発は、2023年2月にAMED「医療機器開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は協力機関)」に採択されました。2022年10月に基本となる知的財産権を出願し、2023年5月に国際出願を行いました。また、2024年1月には新たな特許を追加出願しました。2021年5月に本AIプログラム医療機器(ソフトウェア)の開発に関してニプロ株式会社と共同研究契約を締結し、2022年5月には契約期間延長に伴う契約一時金を受領しました。開発段階が臨床性能試験の実施まで進捗したことから、2024年3月にニプロ株式会社と共同開発契約を新たに締結し契約一時金を受領しました。さらに、血液透析における除水量や血流量の調節を制御する血液透析機器搭載型AIの開発に着手し、2023年12月に東レ・メディカル株式会社と共同開発契約を締結しました。 (c) RSAI03(糖尿病治療支援プログラム医療機器)糖尿病の血糖値を厳格にコントロールし、糖尿病合併症を予防するためにはインスリン注射治療が必要です。しかし、インスリンの安全な用量域は狭く、過剰投与で低血糖を生じるために、患者ごとに最適な種類と投与量を選定する必要があります。一方、糖尿病専門医は医師全体の2%もおらず、地理的にも偏在しているため、現状では糖尿病患者の主治医が糖尿病専門医であるとは限らず、むしろ非専門医に受診することが多いです。非専門医にも専門医レベルのインスリン治療を実行できるよう支援するAI(Skill Acquisition Learning、SAiL: スキル獲得学習)を、東北大学及びNECと共同で開発しています。東北大学病院に入院する約1,000名(約1,080,000臨床パラメータ)の患者データに基づく学習が終了し、専門医の処方するインスリンの投与量から2単位程度の誤差で予測するAIを開発できています。現在、NESと共同で、本AIを医療機関で活用するためのシステム開発を進めており、デモシステムの開発を完了しました。2022年12月にはPMDA開発前相談を終了し、2023年5月に実施したPMDAプロトコール相談の助言に従い、臨床性能試験のための予備的な試験を実施しました。予備試験の結果を基に、2024年2月にPMDAプロトコール相談を追加で実施し、承認申請のための臨床性能試験のプロトコールが確定しました。2024年度臨床性能試験を実施する予定です。本AIプログラム医療機器の開発は、2022年4月にAMED「医工連携イノベーション推進事業(開発・事業化事業)(当社が代表機関)」に採択されました。2022年6月に東北大学と共同で基本となる知的財産権を出願し、2023年4月には国際出願を行いました。 (d) RSAI04(嚥下機能低下診断プログラム医療機器)加齢に伴い口腔機能が低下しますが、その状態(オーラルフレイル)を放置すると摂食障害や構音(発話)障害等多くの身体的、社会的障害、更には全身性の筋肉虚弱(フレイル)につながるため、早期の診断と適切な処置が重要です。高齢社会において口腔機能低下のひとつである摂食嚥下障害は増加し、高齢者の主な死因とされる肺炎の約7割が誤嚥によるとの報告もあります。誤嚥性肺炎の予防には嚥下機能低下の早期発見とリハビリテーション等の治療介入が重要ですが、現在では、嚥下内視鏡検査、嚥下透視検査方法等患者負担の大きい嚥下評価法しかありません。嚥下と会話で使用する器官は舌や口腔・咽頭等共通部分が多く、会話から嚥下機能を評価できる可能性に着目し、嚥下機能障害を会話時の音声データから評価可能なAIを開発しています。東北大学の複数の診療科(耳鼻咽喉科、歯科、医工学部リハビリテーション科)及びNECと共同で、東北大学病院嚥下治療センターに受診する患者の話す音の全周波数を時系列データの分析に特化したAIエンジン(時系列モデルフリー分析)で解析することで、健常者の音声のベースライン(性差、年齢差、個人差等)を確認し、健常者の発音と患者の発音の違いを検出することで、嚥下機能の低下を診断するAIが開発できています。今後、嚥下機能低下を有する高齢者データで学習させることで、実用化に向け開発を進めます。2023年12月にPMDA開発前相談を終了、今後、臨床性能試験実施のためのPMDAプロトコール相談を予定しています。2023年3月に東北大学と共同で基本となる知的財産権を出願しました。また、2024年3月には新たな特許を追加出願しました。 上記の実用化に向けたプログラム医療機器の開発研究に加えて、下記の複数の探索的な研究開発を進めています。 (e) 探索研究(乳がん病理診断プログラム医療機器)乳がんは日本人女性のがんの中で最も患者数が多く、生涯に乳がんを患う日本人女性は11人に1人と言われています。しこりや画像診断等で乳がんが疑われた場合、最終診断は病理診断ですが、診断には経験を積んだ病理医が必要です。当社は東北大学と共同で、病理画像から乳がんの病変部を検出するAIを開発しています。現在、探索研究段階では、検出モデルを3クラス(良性、非浸潤がん、浸潤がん)または2クラス(良性、悪性)で分類し、それぞれ88.3%と90.5%での診断精度を達成しました(科学誌『Journal of Pathology Informatics』に掲載)。今後、乳がん領域では「術中迅速病理検体画像」を用いたAI診断にも取り組む予定です。 (f) 探索研究(心臓植込み型電気デバイス患者における不整脈・心不全発症予測プログラム医療機器)心不全患者には植込み型除細動器(ICD)、両心室ペースメーカ(CRT-P)など心臓植込み型電気デバイスが広く使用されます。これら心臓植込み型電気デバイスを活用することで、自宅にいながら、刻々と変化する生体情報の経時的な遠隔モニタリングが可能となります。当社は東北大学と共同で、心臓植込み型電気デバイス患者の遠隔モニタリング情報を活用し、心不全及び致死性不整脈の発症を事前に予測するAIを開発しています。 (g) 探索研究(人工心臓患者における血栓発生予測プログラム医療機器)植込み型補助人工心臓は末期心不全患者の生命維持には欠かせない治療ですが、血栓など合併症が課題です。当社は、株式会社ハイレックスメディカル及び東北大学と共同で補助人工心臓の血栓発生を予測するAIの開発に取り組んでいます。2022年9月に本AIの開発等に関して株式会社ハイレックスコーポレーション及び株式会社ハイレックスメディカルとの共同研究契約を締結しました。 e.診断薬:血中フェニルアラニン測定キットフェニルケトン尿症は、適切な治療を行わないと知能発達遅延等の重篤な症状が出現します。1977年に生後マス・スクリーニング検査が実施され、ほぼ全ての患児が早期に発見されるようになりました。フェニルケトン尿症の治療には、フェニルアラニンを制限するための食事療法を正しく行う必要があり、定期的な医療機関での検査が必要ですが、数か月に1度の採血では、きめ細やかな食事管理ができません。自宅で簡便かつ正確に血中フェニルアラニン濃度を測定するシステムを、東北大学と共同で開発しています。糖尿病患者での自己血糖管理のように、家庭でいつでも自己測定が可能になれば、フェニルケトン尿症を有する患者のきめ細やかな食事管理が実現できます。2021年5月には診断薬に関する特許を東北大学と共同で出願し、同年6月にはPMDA相談を行いました。2023年5月に本研究内容が科学誌『Molecular Genetics and Metabolism Reports』に掲載されました。
FY2023|13,278 文字
6 【研究開発活動】当社は、医薬品・医療機器・AIを活用したプログラム医療機器など、多様なモダリティ(治療様式)にわたる複数パイプラインの研究開発を進めており、当事業年度における主要パイプライン開発の進捗及びこれまでの開発実績は以下のとおりです。なお、当事業年度における研究開発費は235,244千円であり、当事業年度末日の当社研究開発従事者人員は5名(臨時雇用者を含む)です。 a.RS5614(PAI-1阻害薬)(a) 慢性骨髄性白血病(CML)治療薬CML患者を対象とした後期第Ⅱ相医師主導治験において、チロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor、TKI)とRS5614を併用し、RS5614投与開始後48週における累積の深い分子遺伝学的奏効(deep molecular response、DMR:がんの原因遺伝子が検出されない状態)の達成率(※1)は33.3%(33例中11例でDMRを達成)であり、TKI単独でのヒストリカルコントロール(8-12%)に比べて有意に上昇していることを確認しました(2021年3月治験総括報告書完成、POC取得)。特に、TKI治療期間が3年以上5年以下の患者での累積DMR達成率は50.0%に達しました。また、RS5614の1年間の長期投与でも治療薬と因果関係のある重篤な有害事象は認められませんでした。本試験結果は、科学誌『Cancer Medicine』に掲載されました。後期第Ⅱ相医師主導治験の成績に基づいて、東北大学、東海大学、秋田大学等、12の大学/医療機関と共同で慢性期CML患者を対象にTKIとRS5614の併用効果を検証するプラセボ対照二重盲検(※2)の第Ⅲ相医師主導治験を実施中です。本試験は、2022年3月にAMED「革新的がん医療実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択されました。PMDAと2021年11月及び同年12月に対面助言を行い、2022年5月にPMDAに治験計画届を提出し、多施設共同の第Ⅲ相試験が開始されました。TKI治療期間が3年以上6年未満の慢性期CML患者60例を対象とし、TKI単独投与群よりも治験薬RS5614の併用群がTFRの指標である2年間以上のDMR維持率の有意な上昇の検証を行います(2026年まで実施予定)。2023年4月現在36例が登録されていますが、問題となる有害事象は見られていません。 (※1)DMR達成率とTFR:現在の慢性期CML治療では高額なTKIを生涯服用する必要がありますが、最も深い治療効果であるDMRを達成し、一定期間維持した一部の患者では、TKIを中止しても再発がないこと(無治療寛解維持;TFR)が近年明らかとなっています。これまでに既存TKIで公表されている1年間(48週)の累積DMR達成率は8-12%(ヒストリカルコントロール)です。なお、DMR維持とは、DMRを達成した状態が一定期間継続することです。(※2)二重盲検:対象患者を無作為に、治験薬(今回はRS5614)を投与する群と対照薬(今回は効果がないプラセボ)を投与する群に分け、医師も患者もどちらが投与されるかを知らない条件で、両群同時に薬を投与する臨床試験方法。医師が効果の期待される患者に対して被験薬を投与するなどの故意が生じる怖れや、効果があるはずといった先入観が評価に反映される可能性や、患者が知った場合もその処置への反応や評価に影響が生じることを避けるための試験方法です。それぞれの群で出た結果を比較評価することで、治験薬の効果があるかを判断します。 (b) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う肺傷害治療薬当社は、RS5614の肺微小血栓、線維化、肺気腫改善作用及び肺(上皮)保護作用に着目し、COVID-19に伴う肺傷害治療薬(経口薬)を開発しています。2020年秋から前期第Ⅱ相医師主導治験(非盲検)を実施し、2021年6月に治験総括報告書が完成しました。特筆すべき副作用は無く、肺傷害で入院し本治験薬を投与された26名全員が無事退院されました。前期第Ⅱ相医師主導治験の成績に基づき、東北大学、京都大学、東京医科歯科大学、東海大学等国内20の大学等の医療機関と共同で、COVID-19に伴う肺傷害患者(中等症、入院患者)を対象とするプラセボ対照二重盲検の後期第Ⅱ相医師主導治験を実施しました。本治験は、2021年3月にAMED「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択され、2021年4月のPMDA事前面談に基づき実施計画書を確定して2021年6月から開始しました。本治験は、COVID-19の流行時期やウイルス株変異の影響を受け、治験の対象となる肺炎入院患者数が減少したため、最終的に入院患者75例(RS5614群39例、プラセボ群36例)を対象にプラセボ対照第Ⅱ相試験を実施し、2023年4月に治験総括報告書を纏めました。有効性の主要評価項目である「酸素化悪化指標スケール(※1)の総和」は、両群間で統計学的な有意差は認めませんでしたが、プラセボ群に対してRS5614群で悪化の抑制が見られ、特に中等症Ⅰ患者(※2)での有効性が示唆されました。更に、酸素治療が必要となる症例の割合も、入院後3~5日でRS5614群の方が少ないことから、早期治療でのRS5614の有効性が示唆されました。また、RS5614群では、プラセボ群と異なり、肺炎画像所見の改善も認めました。副作用発現率はRS5614群とプラセボ群で同程度であり、COVID-19に伴う肺傷害患者に対する本被験薬(RS5614)投与の安全性も確認できました。RS5614は抗ウイルス薬とは作用機序が全く異なり、肺炎に対する内服薬です。現時点で抗ウイルス薬以外のCOVID-19に伴う肺傷害に対する治療薬は高額な注射薬ですが、RS5614は経口投与が可能であり、化学合成で製造される低分子医薬品であるため、その価格も低く抑えられます。現在、COVID-19は落ち着いていますが、肺炎を惹起する新たな株の発生に際して速やかに次相臨床試験(軽症から中等症Ⅰの肺炎患者を対象)を実施できるよう準備をし、2023年4月にPMDA事前面談を実施しました。2020年12月にCOVID-19に伴う肺傷害及びその他肺傷害等の肺疾患治療用途について第一三共株式会社とオプション権付優先交渉権に関する契約を締結しました。本契約締結時はオプション期間を1年後の2021年12月としていましたが、後期第Ⅱ相医師主導治験の期間に合わせてオプション期間を2022年12月まで延長しました。更に、2022年11月には、COVID-19に伴う肺傷害だけではなく、抗がん剤治療等から生じる間質性肺炎に対するRS5614の有効性を確認する臨床試験も視野に入れ、オプション期間を2025年3月まで延長する覚書を締結し、オプション期間延長の対価を受領しました。 (※1)被験者の酸素化の状況を、酸素なし(0点)~人工呼吸器エクモ装着(5点)までの点(例えば、酸素投与2L以上、5L未満は2点)を毎日付けて14日間の合計で比較(※2)新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き、第9.0版・ 中等症Ⅰ:新型コロナウイルス感染症で、血中の酸素の値が93%から96%の間で、呼吸困難や肺炎初見が認められるが、呼吸不全はなく、酸素投与治療は行われていないステージ・ 中等症Ⅱ:血中の酸素の値が93%以下で、呼吸不全があり、酸素投与治療が必要なステージ・ 重症:集中治療や人工呼吸器が必要なステージ (c) 悪性黒色腫(メラノーマ)治療薬国内の悪性黒色腫患者では、海外とは異なるサブタイプの悪性黒色腫が多いことから、抗PD-1抗体(ニボルマブ)単剤療法による治療が奏効しにくいとされています。RS5614が免疫チェックポイント分子を制御しがん免疫系を活性化する作用に基づき、NPO法人「JSCaN」を立ち上げて悪性黒色腫の治療成績向上のために連携している東北大学、筑波大学、都立駒込病院、近畿大学、名古屋市立大学、熊本大学の6大学と共同で、悪性黒色腫治療薬としてのRS5614の有効性と安全性を確認するための第Ⅱ相医師主導治験を2021年7月に開始しました(2024年3月終了予定)。本試験は、2021年5月にAMED「橋渡し研究プログラムシーズC(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けて実施しています。本治験は、進行性悪性黒色腫患者40例を対象とする多施設共同、非盲検試験です。ニボルマブ併用のもと、RS5614を1日1回120-180 mgで投与し、8週間投与後に有効性と安全性の評価を行います。2022年6月までに症例登録が順調に進み、目標の半数である20例に達したため中間解析が行われ、ニボルマブ無効群を優先しての患者登録が2023年3月末で終了しました。2023年3月末に40例目の最終投与患者の登録がなされ、同年7月末まで投与及び観察が続けられます。これまでのところ、特に問題となる重篤な副作用も見出されていません。2023年10月頃に治験総括報告書を纏める予定です。 (d) 全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)治療薬数々の国内外との共同研究にてRS5614が非臨床試験で種々の肺傷害(気腫、線維化、炎症)の改善と上皮細胞保護作用を示すことから、SSc-ILDの線維化を抑制する治療薬としての開発に着手しました。SSc-ILDのモデルであるブレオマイシン誘導皮膚/肺線維化モデルマウスを用いて、SSc-ILD治療薬であるニンテダニブ(10、50 mg/kg/日)とRS5614(1、5 mg/kg/日)の4週間連続投与における有効性比較の非臨床試験を行った結果、肺傷害の抑制作用の指標であるヒドロキシプロリン量の増加及びAshcroft scoreにおいて、RS5614はニンテダニブに比して、より低用量で有意な改善を示しました。2023年3月にAMED「難治性疾患実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択され、SSc-ILDに対するRS5614の安全性と有効性を検証するプラセボ対照二重盲検試験を医師主導治験として実施予定です。SSc-ILD患者50名を対象とし、治験実施医療機関は東北大学病院、東京大学医学部附属病院など国内の医療機関で2023年9月から2年半の実施を予定しています。2023年2月に実施したPMDA事前面談に基づき同年5月に実施する対面助言で最終的な臨床プロトコールが確定します。 (e) 非小細胞肺がん治療薬非臨床試験から、PAI-1が肺がんの腫瘍進展、更にはがん細胞の増殖能亢進や血管新生に関与していること、更に抗PD-1抗体に耐性となった肺がん細胞がPAI-1を高発現することなどの知見が明らかとなり、当社と広島大学との共同研究で小細胞性肺がんモデルマウスを用いた非臨床試験を実施した結果、抗PD-1抗体とRS5614の併用投与は抗PD-1抗体単剤投与よりも高い抗腫瘍効果を示すことを確認しました。そこで、2つ以上の化学療法歴を有する切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん患者(3次治療患者)39例を対象に、ニボルマブとRS5614との併用投与の有効性及び安全性を検討することを目的とした国内第Ⅱ相医師主導治験を実施します。2023年3月にPMDA相談を終了し、治験実施計画書が確定したことから、広島大学、島根大学、岡山大学、鳥取大学、四国がんセンター、広島市民病院などの医療機関と協力して2023年9月から3年間を見込んだ治験を実施します。本治験において有効性が確認できれば、3次治療以降で有効な治療法を提案できます。悪性黒色腫から肺がんへの適応拡大は、抗PD-1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬と同じ展開です。当社は、2022年10月に国立大学法人広島大学と非小細胞肺がんに対する非臨床試験及び臨床試験に向けての共同研究契約を締結しました。研究段階が非臨床試験から臨床試験(医師主導治験)に移行したこと、更には広島大学の特色や強みを生かし、医師主導治験実施を含めた医薬品及びプログラム医療機器の共同研究開発を行い、研究開発の効率化及び推進並びに人材育成などを目的としたオープンイノベーション拠点(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx)を設けるため、2023年4月に広島大学と包括的研究協力に関する協定書を締結しました。本治験はHiRExを主体に実施する予定です。 (f) 血管肉腫治療薬東北大学との共同研究において、血管内皮細胞の腫瘍である血管肉腫はPAI-1を高発現しており、その発現頻度が高い患者では1次治療でのタキサン系抗がん剤の効果が得られにくいことが報告されています。タキサン系抗がん剤の作用機序としては、アポトーシスの誘導が考えられていますが、1)PAI-1は主として血管内皮から産生され、2)PAI-1を高発現しているがん細胞はアポトーシス耐性であることから、タキサン系抗がん剤とPAI-1阻害薬RS5614を併用することにより、タキサン系抗がん剤の血管肉腫治療効果を増強できる可能性が強く示唆されます。2023年1月にPMDA相談を終了し、タキサン系抗がん剤パクリタキセルが無効となった皮膚血管肉腫患者16例を対象にパクリタキセルとRS5614の併用による有効性及び安全性を評価する第Ⅱ相医師主導治験を実施します。治験期間は2023年9月から2年間を見込んでおり、東北大学、自治医科大学、九州大学、名古屋市立大学、国立がん研究センター中央病院、愛媛大学などの医療機関で実施予定です。本研究で有効性を検証できれば、有効な治療薬のない皮膚血管肉腫患者に対して新たな治療法が提案できます。 (g) 特発性間質性肺疾患治療薬RS5614が間質性肺疾患(間質性肺炎・肺線維症)を改善することを示唆する非臨床試験の成績に基づき、特発性間質性肺炎の急性憎悪を対象としたRS5614の臨床試験実施を視野に入れて、2022年12月に京都大学と共同研究契約を締結しました。また、抗がん剤投与に伴う間質性肺炎に対する本医薬品の有効性を確認する臨床試験も視野に入れ、第一三共株式会社との契約も延長しました。非臨床試験成績の結果で、RS5614の有効性を確認できれば、医師主導治験での臨床開発に進める予定です。 (h) FGF23関連性低リン血症性くる病治療薬東京医科歯科大学との共同研究で、先天性FGF23関連性低リン血症性くる病の疾患モデル動物であるHypマウスにRS5614を10 mg/kg経口で投与したところ、投与前の血中リン濃度2.9±0.27 mg/dlが投与後9時間でピークを迎え5.6±0.3 2mg/dlと野生型5.5±0.14 mg/dlとほぼ同等の血中リン濃度までの上昇が確認できました。また、Hypマウスに対してRS5614 10 mg/kgを10日間連続投与したところ、血中リン濃度の正常化は10日間持続しました。そこで、PMDAの事前面談を実施した上で、先天性FGF23関連性低リン血症性くる病患者1例に対するRS5614の有効性及び安全性を確認する臨床研究を東京医科歯科大学で実施しました。RS5614投与(1日1回120 mg)前の血中リン濃度が2.1 mg/dlであったのに対して、投与4日目で2.7 mg/dlと血中リン濃度の上昇が認められましたが、その後低下し、14日目にRS5614を180 mg/日に増量しても継続的な上昇を認めませんでした。血中のFGF23濃度はRS5614投与前値が139 RU/mlであったのに対して、投与14日目に114 RU/mlに低下する傾向を示しましたが、RS5614の最終投与28日目では125 RU/mlでした。なお、安全性の面では特に問題となる副作用は見出されませんでした。先天性FGF23関連性低リン血症性くる病患者のFGF23値は極めて高く、Hypマウスでの成績を踏まえて考えると、1日1回180 mgの投与量では不充分であると推察されましたが、現在の第Ⅰ相試験成績からはRS5614の最大投与量は1日180 mgであり、これ以上のヒトへの増量投与は現時点で難しいと判断しました。 (i) RS5441(PAI-1阻害薬)脱毛症治療薬当社は、2016年6月に皮膚科疾患用途におけるRS5441の独占的権利をエイリオン社に許諾しました。また2023年4月にエイリオン社が行使したオプション権の対価を受領しました。同社は、2023年度に第Ⅰ相試験を実施する予定です。 b.RS8001(ピリドキサミン)(a) 自閉スペクトラム症治療薬 自閉スペクトラム症患者に対するピリドキサミンの有効性及び安全性を探索的に評価し、また、適切な対象患者集団や用法用量、評価指標を決定することを目的として、易刺激性を有する自閉スペクトラム症患者を対象として、プラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施しました。同試験は、2021年5月に終了し、同年6月に治験総括報告書が完成しました。安全性に大きな問題がなく、忍容性が良好であることが示されました。有効性に関しては、主要評価項目の「最終評価時点のABC-J興奮性サブスケールスコア平均変化量(※1)」において実薬高用量群が最も改善していましたが、用量反応関係並びにプラセボ群と統計的な有意差は確認できませんでした。本薬剤の有効性をより適切に評価するためには、対象患者の選定や、プラセボ効果を減少する治験計画の策定(予めプラセボ効果を見ておくプラセボリードイン方式(※2)の採用)など、特に精神科領域疾患で検討すべき課題が明らかになりました(月経前症候群(PMS)及び月経前不快気分障害(PMDD)や更年期障害の臨床試験から採用)。プラセボ効果を減少し、有意差を出すための実証試験に必要な症例数や治験体制は大規模な治験となるため、導出先企業を確保できない限り、これ以上の開発を自社で進めることは困難と判断しました。 (※1)ABC-J興奮性サブスケールスコア平均変化量:自閉スペクトラム症において薬物治療効果をみるのに世界的標準法として使用されている有効性の評価尺度です。ABC-Jは異常行動チェックリスト(ABC)の日本語翻訳版です。 (※2)プラセボリードイン方式:プラセボには有効成分は含まれていませんが、心理的な効果で病気の症状が改善することがあります(プラセボ効果)。そこで、実薬投与の前に一定期間プラセボを服用していただき、プラセボ効果の大きな被験者は試験に参加していただかない試験デザインを採用しています。 (b) 月経前症候群(PMS)及び月経前不快気分障害(PMDD)治療薬PMS/PMDDに対するRS8001の第Ⅱ相医師主導治験を、近畿大学、東北大学、東京医科歯科大学、東京女子医科大学と共同で進めています(プラセボリードイン方式プラセボ対照二重盲検3群比較試験、目標症例数105例、2023年12月終了予定)。本治験は、AMED「医療研究開発革新基盤創生事業(CiCLE)(当社が代表機関)」として実施されています。また、自閉スペクトラム症の治験で明らかとなったプラセボ効果を可能な限り排除するために、プラセボリードイン方式を採用しました。当初、COVID-19拡大の影響により患者来院数が減少したため、症例登録促進を目的として、2021年度に新たに2施設を追加したほか、院内ポスターや啓発用の冊子の作成、治験調整医師による薬剤師対象Webセミナーを実施しました。2021年9月にはAMEDによる中間評価の結果、本治験支援の継続が承認されました。また2022年7月には、AMEDによる第2回中間評価が行われ、治験継続の判断とともに、症例登録加速のための支援を受けられることが決定しました。これを受けて、2022年11月に治験実施施設を3施設追加するとともに、ボランティアパネル(※)の活用、治験責任医師等による公開講座の開催、症例登録加速のための全体会議の開催等を対応しています。2023年4月現在、近畿大学、東北大学、東京医科歯科大学、東京女子医科大学と民間5施設で、プラセボ効果を排除するために、プラセボリードインの前に350名以上のスクリーニングを行い、目標登録症例数105例に対して、73例までの本登録を行いました。 RS8001のプラセボリードイン治験の概略図 2019年12月にRS8001のPMS/PMDD治療薬の日本における開発及び商業化の独占的実施許諾(ライセンス)に関する優先交渉権をあすか製薬株式会社に許諾しました。 (※)ボランティアパネル:治験支援企業・団体が運営する治験参加希望者の登録システムです。 (c) 更年期障害治療薬2021年12月に東京医科歯科大学と共同研究契約を締結し、更年期障害の2大症状(ホットフラッシュ(※)とうつ)の治療薬としてRS8001の臨床研究を準備してきました。2023年3月にAMED「女性の健康の包括的支援実用化研究事業(代表機関:東京医科歯科大学、当社は協力機関)」に採択され、東京医科歯科大学、東京歯科大学、近畿大学、弘前大学の4施設で3年間の臨床研究が開始されます。本臨床研究でも、プラセボ効果をできる限り排除する目的でプラセボリードイン方式を採用した二重盲検法(各群25名)で実施します。 (※)ホットフラッシュ:更年期障害の代表的な症状として上半身ののぼせ、ほてり、発汗等が起こります。 c.RS9001(ディスポーザブル極細内視鏡)腹膜透析は透析液を注入するチューブを常に腹膜に挿入されていますが、当社は、この細いチューブを通して挿入し、開腹手術にも腹腔鏡にもよらず非侵襲的に腹腔内を観察する極細内視鏡(径1mm程度)を東北大学等複数の大学と共同開発しました。2022年8月にはファイバースコープ(※1)がPMDAに承認申請され、同年12月に厚生労働省から薬事承認されました。本製品の詳細は、以下のとおりです。・ 承認番号:30400BZX00294000・ 一般的名称:軟性腹腔鏡・ 販売名:経カテーテル腹腔鏡 PD VIEW・ 類別コード:器 252020年5月にバクスター社と共同開発及び事業化に関する契約(ライセンス契約)を締結しており、今後、同社が販売いたします。付属品であるガイドカテーテル(※2)は2023年度に薬事申請予定です。2022年9月に株式会社ハイレックスコーポレーション及びその子会社である株式会社ハイレックスメディカルとガイドカテーテル作成を含めた医療機器開発に関する共同研究契約を締結しました。 (※1)ファイバースコープ(使い捨て):ディスポーザブル極細内視鏡の本体です。先端部は径1mm程度で、腹部に留置されているチューブの中を通ります。(※2)ガイドカテーテル(使い捨て):ファイバースコープと組み合わせて使用することでファイバースコープの先端部分を自由に動かすことができます。ガイドカテーテルを使用しなくても、ファイバースコープのみで腹膜の状態を観察することが可能ですが、使用することで操作性が向上します。 d.AIを活用したプログラム医療機器の開発(a) RSAI01(呼吸機能検査診断プログラム医療機器)呼吸器疾患や呼吸機能の検査の中でスパイロメトリー(※)が最も重要ですが、その普及は進んでいません。被験者(患者)の協力(努力呼吸)が必要である点に加えて、正しく検査が行えたかどうかを判定し、かつ出力された結果(フローボリューム曲線)を解釈することが非専門医には難しいためです。非専門医でも簡便に結果を解釈できるシステムの開発は、呼吸器疾患を診断し、早期治療を行う上で重要な医療課題と考えられます。フローボリューム曲線を解釈するAIを、京都大学及びNESと共同で開発しています。約1,000症例(2,500データ)の医療データを取得、実用化へ向けた開発を進めています。2020年7月にチェスト株式会社と共同開発及び事業化に関する契約(ライセンス契約)を締結しました。 (※)スパイロメトリー:呼吸機能生理検査で、被験者が吐き出す息の量と吐き出す時間を測定します。慢性閉塞性肺疾患(COPD)及びその他の肺の病気の診断に重要な検査です。 (b) RSAI02(維持血液透析医療支援プログラム医療機器)慢性腎不全患者は、廃絶した腎臓の代わりに除水と老廃物の除去を行うために週3回、生涯にわたって血液透析を受けます。除水不足は心不全、高血圧等心肺機能に障害を与える一方、過度な除水は透析中の低血圧を生じ、気分不良、意識消失といった有害事象をもたらします。不適切な除水量の設定により除水不足や過除水が生じ有害事象が発生すると医療従事者は患者対応に追われ、大きな負担となります。安全安心な血液透析を実現するために、適切な目標総除水量を予測するAI(Dual-Channel Combiner Network、DCCN)を、東北大学及びNECと共同で開発しています。聖路加国際病院や民間透析医療施設から取得した透析回数72.5万件の透析記録(患者情報、透析情報、検査情報)を学習させ、患者の過去の5回の透析記録及び透析当日の透析前データから、医師が経験的に設定した目標総除水量と7-8%程度の平均絶対誤差率(mean absolute percentage error、MAPE)で目標総除水量を予測するAIが開発できています。2022年12月にはPMDAとの事前面談を完了しました。2023年2月にAMED「医療機器開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は協力機関)」に採択されました。2023年4月にはPMDA相談を実施し、実用化へ向け開発を進めています。2021年5月に、本AIプログラム医療機器の開発に関してニプロ株式会社と共同研究契約を締結しました。 (c) RSAI03(糖尿病治療支援プログラム医療機器)糖尿病の血糖値を厳格にコントロールし、糖尿病合併症を予防するためにはインスリン注射治療が必要です。しかし、インスリンの安全な用量域は狭く、過剰投与で低血糖を生じるために、患者ごとに最適な種類と投与量を選定する必要があります。一方、糖尿病専門医は医師全体の2%もおらず、地理的にも偏在しているため、現状では糖尿病患者の主治医が糖尿病専門医であるとは限らず、むしろ非専門医に受診することが多いです。非専門医にも専門医レベルのインスリン治療を実行できるよう支援するAI(Skill Acquisition Learning、SAiL: スキル獲得学習)を、東北大学及びNECと共同で開発しています。東北大学病院に入院する約1,000名(約1,080,000臨床パラメータ)の患者データに基づく学習が終了し、専門医の処方するインスリンの投与量から2単位程度の誤差で予測するAIを開発できています。現在、NESと共同で、本AIを医療機関で活用するためのシステム開発を進めており、デモシステムの開発を完了しました。2022年4月にAMED「医工連携イノベーション推進事業(開発・事業化事業)(当社が代表機関)」に採択されました。2022年7月にはPMDAとの事前面談を完了し、同年10月に本相談を実施しました。2023年4月以降は臨床試験に向けた取り組みを進める予定で、同年5月にはPMDA相談を予定しています。また、2023年4月には、本知財の国際出願を行いました。 (d) RSAI04(嚥下機能低下診断プログラム医療機器)加齢に伴い口腔機能が低下しますが、その状態(オーラルフレイル)を放置すると摂食障害や構音(発話)障害等多くの身体的、社会的障害、更には全身性の筋肉虚弱(フレイル)につながるため、早期の診断と適切な処置が重要です。高齢社会において口腔機能低下のひとつである摂食嚥下障害は増加し、高齢者の主な死因とされる肺炎の約7割が誤嚥によるとの報告もあります。誤嚥性肺炎の予防には嚥下機能低下の早期発見とリハビリテーション等の治療介入が重要ですが、現在では、嚥下内視鏡検査、嚥下透視検査方法等患者負担の大きい嚥下評価法しかありません。嚥下と会話で使用する器官は舌や口腔・咽頭等共通部分が多く、会話から嚥下機能を評価できる可能性に着目し、嚥下機能障害を会話時の音声データから評価可能なAIを開発しています。東北大学の複数の診療科(耳鼻咽喉科、歯科、医工学部リハビリテーション科)及びNECと共同で、東北大学病院嚥下治療センターに受診する患者の話す音の全周波数を時系列データの分析に特化したAIエンジン(時系列モデルフリー分析)で解析することで、健常者の音声のベースライン(性差、年齢差、個人差等)を確認し、健常者の発音と患者の発音の違いを検出することで、嚥下機能の低下を診断するAIが開発できています。今後、嚥下機能低下を有する高齢者データで学習させることで、実用化に向け開発を進めます。 上記の実用化に向けたプログラム医療機器の開発研究に加えて、下記の複数の探索的な研究開発を進めています。 (e) 探索研究(乳がん病理診断プログラム医療機器)乳がんは日本人女性のがんの中で最も患者数が多く、生涯に乳がんを患う日本人女性は11人に1人と言われています。しこりや画像診断等で乳がんが疑われた場合、最終診断は病理診断ですが、診断には経験を積んだ病理医が必要です。当社は東北大学と共同で、病理画像から乳がんの病変部を検出するAIを開発しています。現在、探索研究段階では、検出モデルを3クラス(良性、非浸潤がん、浸潤がん)または2クラス(良性、悪性)で分類し、それぞれ88.3%と90.5%での診断精度を達成しました(科学誌『Journal of Pathology Informatics』に掲載)。今後、乳がん領域では「術中迅速病理検体画像」を用いたAI診断にも取り組む予定です。 (f) 探索研究(心臓植込み型電気デバイス患者における不整脈・心不全発症予測プログラム医療機器)心不全患者には植込み型除細動器(ICD)、両心室ペースメーカ(CRT-P)など心臓植込み型電気デバイスが広く使用されます。これら心臓植込み型電気デバイスを活用することで、自宅にいながら、刻々と変化する生体情報の経時的な遠隔モニタリングが可能となります。当社は東北大学と共同で、心臓植込み型電気デバイス患者の遠隔モニタリング情報を活用し、心不全及び致死性不整脈の発症を事前に予測するAIを開発しています。 (g) 探索研究(人工心臓患者における血栓発生予測プログラム医療機器)植込み型補助人工心臓は末期心不全患者の生命維持には欠かせない治療ですが、血栓など合併症が課題です。当社は、株式会社ハイレックスメディカル及び東北大学と共同で補助人工心臓の血栓発生を予測するAIの開発に取り組んでいます。2022年9月に本AIの開発等に関して株式会社ハイレックスコーポレーション及び株式会社ハイレックスメディカルとの共同研究契約を締結しました。 e.診断薬:血中フェニルアラニン測定キットフェニルケトン尿症は、適切な治療を行わないと知能発達遅延等の重篤な症状が出現します。1977年に生後マス・スクリーニング検査が実施され、ほぼ全ての患児が早期に発見されるようになりました。フェニルケトン尿症の治療には、フェニルアラニンを制限するための食事療法を正しく行う必要があり、定期的な医療機関での検査が必要ですが、数か月に1度の採血では、きめ細やかな食事管理ができません。自宅で簡便かつ正確に血中フェニルアラニン濃度を測定するシステムを、東北大学と共同で開発しています。糖尿病患者での自己血糖管理のように、家庭でいつでも自己測定が可能になれば、フェニルケトン尿症を有する患者のきめ細やかな食事管理が実現できます。2021年5月には診断薬に関する特許を東北大学と共同で出願し、同年6月にはPMDA相談を行いました。
FY2022|11,053 文字
5 【研究開発活動】当社は医薬品等の開発・販売等事業の単一セグメントであるため、セグメントごとの研究開発活動の概要は記載しておりません。 当社が当事業年度に計上した研究開発費は82,713千円です。なお、当事業年度末日の研究開発従事者人員は1名(臨時雇用者を含む)です。 (研究開発活動)当社は、医薬品・医療機器・人工知能(AI)を活用した医療ソリューションなど、多様なモダリティ(治療様式)にわたる複数パイプラインの研究開発を進めており、当事業年度における主要パイプライン開発の進捗は以下のとおりです。 a.RS5614(PAI-1阻害薬)(a) 慢性骨髄性白血病(CML)治療薬後期第Ⅱ相医師主導治験は、慢性期CML患者33例を対象にチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)とRS5614を併用し、RS5614投与開始後48週における累積の分子遺伝学的に深い奏効(DMR:がんの原因遺伝子が検出されない状態)達成率(※1)をヒストリカルコントロールに比較して有意に上昇させることを確認することと、RS5614及びTKIの長期併用時におけるRS5614の薬物動態及び安全性の確認を目的に実施しました(2019年8月開始、2021年3月治験総括報告書完成)。33例中DMRを達成した症例は11例で、48週時の累積DMR達成率は33.3%であり、TKI単独でのヒストリカルコントロール(8-12%)に比べて有意に上昇していることを確認しました(POC取得)。特に、TKI治療期間が3年以上5年以下の患者での累積DMR達成率は50.0%に達しました。また、RS5614の1年間の長期投与でも治療薬との因果関係のある重篤な有害事象は認められませんでした。後期第Ⅱ相試験の成績に基づいて、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と2021年6月及び同年8月に事前相談を、2021年11月及び同年12月に対面助言を行い、慢性期CML患者を対象にTKIとRS5614の併用効果を検証するプラセボ対照二重盲検(※2)の第Ⅲ相治験計画が確定しました。第Ⅲ相試験は2022年度上半期から開始予定であり、TKI治療期間が3年以上5年以下の慢性期CML患者60名を対象とし、TKI単独投与群よりも被験薬RS5614の併用群が2年間以上のDMR維持率を有意に上昇させることを検証します。なお、当社の共同研究先である東北大学から国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)に申請した本第Ⅲ相治験が令和4年度「革新的がん医療実用化研究事業」に採択されました(当社も分担研究機関として参画)。 (※1) DMR達成率:現在の慢性期CML治療では高額なTKIを生涯服用する必要がありますが、最も深い治療効果であるDMRを達成し、一定期間維持した一部の患者では、TKIを中止しても再発がないこと(無治療寛解維持;TFR)が近年明らかとなっています。これまでに既存TKIで公表されている1年間(48週)の累積DMR達成率は8-12%(ヒストリカルコントロール)です。なお、DMR維持とは、DMRを達成した状態が一定期間継続することです。(※2) 二重盲検:対象患者を無作為に、被験薬(今回はRS5614)を投与する群と対照薬(今回は効果がないプラセボ)を投与する群に分け、医師も患者もどちらが投与されるかを知らない条件で、両群同時に薬を投与する臨床試験方法。医師が効果の期待される患者に対して被験薬を投与するなどの故意が生じたり、効果があるはずといった先入観が評価に反映される可能性や、患者が知った場合もその処置への反応や評価に影響が生じることを避けるための試験方法です。それぞれの群で出た結果を比較評価することで、被験薬の効果があるかを判断します。 (b) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う急性呼吸窮迫症候群治療薬当社は、RS5614の肺微小血栓、線維化、肺気腫改善作用及び肺(上皮)保護作用に着目し、COVID-19に伴う間質性肺炎治療薬(経口薬)を開発しています。2020年秋から前期第Ⅱ相医師主導治験(非盲検)を実施し、2021年6月に治験総括報告書が完成しました。特筆すべき副作用は無く、肺障害で入院し本治験薬を投与された26名全員が無事退院されました。現在、プラセボ対照の後期第Ⅱ相医師主導治験を実施中です。2021年3月にはAMEDの「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(研究代表機関は東北大学、当社は分担研究機関)」に採択され、同年4月に実施されたPMDA事前面談に基づき実施計画書を確定し、2021年6月から治験を開始しています。本治験は、新型コロナウイルス肺炎患者(中等症、入院患者)を対象として、登録患者数100名を見込む医師主導治験であり、国内20の大学等の医療機関の多施設共同、プラセボ対照試験となります。2021年9月末で、目標の半数である50例を超える患者の登録を得ており、患者登録が順調に進めば、2022年3月末には治験を終了し、同年6月に治験総括報告書を完成する予定でした。しかし、2021年10月以降、新型コロナウイルス感染者数が激減し治験の被験者登録が大幅に減少したため、治験実施医療機関の患者登録予定数を再検討し、治験期間を2022年12月まで延長することを決定しました。2022年1月には第6波のために新型コロナウイルス感染患者は再び増加に転じましたが、オミクロン株の感染率は高いものの重症化率は低く、新型コロナウイルス肺炎患者(中等症、入院患者)登録は大きく増加しておりません(2022年3月現在70例の登録終了)。米国ではノースウェスタン大学で類似のプロトコールで第Ⅱ相医師主導治験を実施しています。米国における新型コロナウイルス感染症が重篤のため、比較対照としてプラセボを投与する本試験への被験者合意取得が難しく(入院患者の5%程度しか合意取得が難しい)患者登録が遅れていることから、ノースウェスタン大学での治験は一時中断し、先行する日本の治験成績を確認した上で再開を検討することとしました。なお、本試験は臨床試験情報のデータベース(Home - ClinicalTrials.gov)において「一時中断(suspended)」と記載されています(Study To antagOnize Plasminogen Activator Inhibitor-1 in Severe COVID-19 - Full Text View - ClinicalTrials.gov)。また、トルコ共和国メデニエット大学においては、安全性を確認するための前期第Ⅱ相医師主導治験(非盲検)を終了しました。新型コロナウイルス肺炎患者(中等症、在宅患者)を対象として二重盲検試験を実施する準備を進めましたが、現在流行しているオミクロン株感染では重症化する例が少なく、設定した評価項目(入院率)では実施が難しいことから、米国と同様に、先行する日本の治験成績を確認した上で再開を検討することとしました。2020年12月25日、COVID-19肺炎及びその他肺傷害等の肺疾患治療用途について第一三共株式会社とオプション権付優先交渉権に関する契約を締結しました。本契約締結時は前期第Ⅱ相医師主導治験実施中(後期第Ⅱ相医師主導治験は未定)で、オプション期間を1年後の2021年12月31日としていましたが、後期第Ⅱ相医師主導治験の実施に合わせて、2021年10月にオプション期間を2022年6月まで延長する覚書を締結しました。 (c) 悪性黒色腫(メラノーマ)治療薬国内のメラノーマ患者では、海外とは異なるサブタイプのメラノーマが多いことから、抗PD-1抗体(ニボルマブ)単剤療法による治療が奏効しづらいとされています。RS5614が免疫チェックポイント分子を制御しがん免疫系を活性化する作用に基づき、メラノーマ治療薬としての有効性と安全性を確認するための第Ⅱ相医師主導治験を、2021年7月から実施しています(2024年3月終了予定)。本治験は、2021年5月にAMED「橋渡し研究プログラム」シーズC(研究代表機関は東北大学、当社は分担研究機関)の助成金で、NPO法人「Japan Skin Cancer Network(JSCaN)」を立ち上げてメラノーマの治療成績向上のために連携している東北大学、筑波大学、都立駒込病院、近畿大学、名古屋市立大学、熊本大学の6大学との多施設共同で実施され、進行性悪性黒色腫(メラノーマ)患者40例を対象とした非盲検試験です。ニボルマブ併用のもと、RS5614を1日1回120-180mgで投与し、8週間投与後に有効性と安全性の評価を行います。2022年3月現在、順調に症例登録が進み、目標の半数である20例に達しています。 (d) 抗がん剤による間質性肺疾患の予防・治療RS5614が間質性肺疾患(間質性肺炎・肺線維症)を改善することを示唆する非臨床試験の成績に基づき、抗がん剤の副作用である間質性肺疾患をRS5614が予防できるかどうかを京都大学と共同で研究する予定です。現在、京都大学と臨床試験に向け必要な準備を進めています。 (e) FGF23関連性低リン血症性くる病過剰産生された線維芽細胞増殖因子23(fibroblast growth factor23:FGF23)により尿中のリン排泄が亢進し、低リン血症から骨変形や成長障害など生じる希少疾患です。RS5614によりFGF23の分解が促進されることが報告され、FGF23関連性低リン血症性くる病の病態を改善できる可能性が示唆されました。2021年11月に東京医科歯科大学の認定臨床研究審査委員会(CRB)に申請し承認され、試験薬の製造など臨床試験の準備が整っています。2022年3月に東京医科歯科大学と共同研究契約を締結しました。2022年度より臨床研究(目標症例数5例)として試験を開始する予定です。 (f) RS5441(PAI-1阻害薬)脱毛症治療薬導出先のEirion Therapeutics Inc(米国)で第Ⅰ相試験を準備中です(2022年実施予定)。 (g) RS5614(PAI-1阻害薬)の新規適応探索研究RS5614が、がん免疫系を活性化する知見に基づいて、メラノーマ以外でのがん免疫療法の新たな適応についての検討を開始いたしました。具体的には、東北大学と共同で、希少疾患の血管肉腫と皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)(※1)を対象として、基礎的な研究や臨床研究に取り組む予定です。また、全身性強皮症(※2)にともなう間質性肺疾患についても検討を開始する計画です。 (※1) 血管肉腫と皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL):血管肉腫は皮膚がんの一種で、とりわけ頭皮の血管肉腫は100万人当たり2.5人程度とまれですが、極めて悪性度が高く、急速に進行し、5年の無病生存率は20%以下と報告され、標準的な治療法は確立されていません。皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)は、免疫担当細胞の一つであるT細胞に由来する皮膚に生じる悪性リンパ腫です。CTCLも国内総患者数2,500人、年間罹患数は170人と推定されるまれながんで、再発を繰り返し、特に進行期では原疾患の悪化に伴う腫瘍の浸潤・転移や感染により死に至るとされ、治療法は確立されていません。また、それらのがんではがん免疫療法の新たな治療法の可能性が示唆されています。(※2) 全身性強皮症:全身性強皮症は、皮膚の硬化に加えて多臓器の線維化が生じる原因不明の難治性の疾患で、国内の患者数は3万人以上といわれ、自己抗体陽性などの免疫の異常を伴います。その最も多い死因は、間質性肺疾患(間質性肺炎・肺線維症)で、患者の50~60%で認められ、生命予後に大きく影響することが分かっています。 b.RS8001(ピリドキサミン)(a) RS8001(自閉スペクトラム症治療薬)自閉スペクトラム症患者に対するピリドキサミンの有効性及び安全性を探索的に評価し、また、適切な対象患者集団や用法用量、評価指標を決定することを目的として、易刺激性を有する自閉スペクトラム症患者を対象として、プラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施しました。同試験は、2021年5月に終了し、同年6月に治験総括報告書が完成しました。安全性に大きな問題がなく、忍容性が良好であることが示されました。有効性に関しては、主要評価項目の「最終評価時点のABC-J興奮性サブスケールスコア平均変化量(※1)」において実薬高用量群が最も改善していましたが、用量反応関係並びにプラセボ群と統計的な有意差は確認できませんでした。本薬剤の有効性をより適切に評価するためには、対象患者の選定や、プラセボ効果を減少する治験計画の策定(あらかじめプラセボ効果を見ておくプラセボリードイン方式(※2)の採用)など、特に精神科領域疾患で検討すべき課題が明らかになりました。プラセボ効果を減少し、有意差を出すための実証試験に必要な症例数や治験体制は大規模な治験となるため、導出先企業を確保し検討することとしました。 (※1) ABC-J興奮性サブスケールスコア平均変化量:自閉スペクトラム症において薬物治療効果をみるのに世界的標準法として使用されている有効性の評価尺度です。ABC-Jは異常行動チェックリスト(ABC)の日本語翻訳版です。(※2) プラセボリードイン方式:プラセボには有効成分は含まれていませんが、心理的な効果で病気の症状が改善することがあります(プラセボ効果)。そこで、実薬投与の前に一定期間プラセボを服用していただき、プラセボ効果の大きな被験者は試験に参加していただかない試験デザインを採用しています。 (b) RS8001(月経前症候群(PMS)及び月経前不快気分障害(PMDD)治療薬)2019年度にAMEDの医療研究開発革新基盤創生事業(CiCLE)に採択され、AMEDから助成金を得て、近畿大学、東北大学、東京医科歯科大学、東京女子医科大学で第Ⅱ相医師主導治験(プラセボリードイン方式プラセボ対照二重盲検3群比較試験、目標症例数105例)を進めています(2020年11月開始、2023年12月終了予定)。当初予定の2021年2月より早い2020年11月から治験を開始できましたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により患者来院数が減少したため、症例登録促進を目的として、2021年度前半には新たな取り組みとして、医療法人聖和会早川クリニックを実施施設として追加したほか、広告・啓発活動の一環として、院内ポスターや啓発用の冊子の作成や、NPO法人Healthy Aging Projects for Women(HAP)主催で治験調整医師による薬剤師対象Webセミナーを2021年3月に実施しました。さらに、2021年度後半には、実施施設として医療法人jMOG田辺レディースクリニックを追加し、ボランティアパネル(※)の活用、NPO法人と協賛した疾患啓発のための治験責任医師等による公開講座の開催など、症例登録促進のための対応を継続して講じています。AMEDで中間評価マイルストーンの達成状況及び今後の取り進めについての報告を行い、2021年9月に本治験助成の継続が承認されました。 (※) ボランティアパネル:治験支援企業・団体が運営する治験参加希望者の登録システムです。 (c) RS8001(統合失調症治療薬)2020年、導出先の興和株式会社(興和社)による統合失調症後期第Ⅱ相試験(約100名を対象としたプラセボ対照二重盲検試験)が終了しました。サブ解析では改善を認める陰性症状の項目もありましたが、主要評価項目である陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)(※)の陰性症状尺度の総スコアではプラセボ群と実薬群で明確な差は認められず、興和社では今後の開発を行わない方針です。 (※) 陽性・陰性症状評価尺度(PANSS):主として統合失調症の精神状態を全般的に把握することを目的として作成された30項目の評価尺度です。 (d) RS8001(更年期障害)更年期障害の2大症状(ホットフラッシュ(※)とうつ)の治療薬としてRS8001の臨床研究(実薬25例、プラセボ25例)を東京医科歯科大学で実施するため準備を進めています。2021年9月には厚生労働省の先進医療Bの事前面談を終え、同年11月に東京医科歯科大学の認定臨床研究審査委員会(CRB)に申請し承認され、同年12月に東京医科歯科大学と共同研究契約を締結しました。試験薬の製造など臨床試験の準備が終了し、2022年度よりプラセボ対照二重盲検での臨床研究(プラセボリードイン方式、目標症例数50例)として試験を開始する予定です。 (※) ホットフラッシュ:更年期障害の代表的な症状として上半身ののぼせ、ほてり、発汗などが起こります。 c.RS9001(ディスポーザブル極細内視鏡)腹膜透析(※1)は透析液を注入するチューブを常に腹膜に挿入されていますが、当社は、この細いチューブを通して挿入し、開腹手術にも腹腔鏡にもよらず非侵襲的に腹腔内を観察する極細内視鏡(径1mm程度)を東北大学等複数の大学と共同開発しました。2020年5月に、大手医薬品及び医療機器会社であり腹膜透析医療におけるリーディングカンパニーである米国Baxter Healthcare Corporation(バクスター社)と共同開発及び事業化に関する契約(ライセンス契約)を締結し、薬事承認申請の準備中です。バクスター社とガイドカテーテル(※2)製造業者の交渉が遅延していることから、メインフレームであるファイバースコープ(※3)のみ(付属品であるガイドカテーテル抜き)で承認申請することをバクスター社と合意し、2021年3月にはPMDAからもその方針で進めて良いことを確認し、準備を進めております。2022年度中に承認申請の予定です。また、2021年6月にファイバースコープ製造業者とバクスター社が供給契約を締結したことに伴い第1回目のマイルストーンを受領しました。 (※1) 腹膜透析:透析の装置として、自分の体の腹膜(胃や腸などの臓器を覆っている薄い膜)を使う方法です。腹腔内に管(カテーテル)を通して透析液を入れておくと血液中の老廃物や不要な尿毒素、電解質、余分な水分などが透析液の中に移動し血液がきれいに浄化されます。(※2) ガイドカテーテル(使い捨て):ファイバースコープと組み合わせて使用することでファイバースコープの先端部分を自由に動かすことができます。ガイドカテーテルを使用しなくても、ファイバースコープのみで腹膜の状態を観察することが可能ですが、使用することで操作性が向上します。(※3) ファイバースコープ(使い捨て):ディスポーザブル極細内視鏡の本体です。先端部は径1mm程度で、腹部に留置されているチューブの中を通ります。 d.人工知能(AI)を活用した医療ソリューションの開発(a) RSAI01(呼吸機能検査診断システム)呼吸器疾患や呼吸機能の検査の中でスパイロメトリー(※)が最も重要ですが、その普及は進んでいません。被験者(患者)の協力(努力呼吸)が必要である点に加えて、正しく検査が行えたかどうかを判定し、かつ出力された結果(フローボリューム曲線)を解釈することが非専門医には難しいためです。非専門医でも簡便に結果を解釈できるシステムの開発は、呼吸器疾患を診断し、早期治療を行う上で重要な医療課題と考えられます。フローボリューム曲線を解釈するAIを、京都大学及びNECソリューションイノベータ株式会社と開発中です。2020年7月にスパイロメトリーのリーディングカンパニーであるチェスト株式会社(チェスト社)と共同開発及び事業化に関する契約(ライセンス契約)を締結し一時金を受領しました。呼吸器疾患の鑑別診断が可能な初期AIモデルが開発できたので、2021年10月にはチェスト社との契約に基づいてマイルストーンを受領しました。今後、医療データの「量」と「質」を改善することで予測精度を向上させ、事業化に向け開発予定です。 (※) スパイロメトリー:呼吸機能生理検査で、被験者が吐き出す息の量と吐き出す時間を測定します。慢性閉塞性肺疾患(COPD)及びその他の肺の病気の診断に重要な検査です。 (b) RSAI02(慢性透析システム支援)血液透析は慢性腎不全患者の生命維持に必要な腎代替医療です。透析中の血圧低下は5〜10%という高い頻度で発生しますが、血圧低下を予測する医療機器はありません。透析病院では数十名の患者に対して、1名の医師、数名の看護師や臨床工学技士の少ないスタッフで血液透析を行っており、一部の患者に血圧低下が発生するとスタッフは患者への昇圧処置や看護に追われることになり負担となります。当社は、透析中に発生する急激な血圧低下を予測するAIの開発を目指し、聖路加国際病院や民間の15透析医療施設からの3,000症例(透析回数80万件)の医療データ(患者情報、透析情報、検査情報)を取得し、ディープラーニングをベースにしたAIエンジン(DCCN: Dual-Channel Combiner Network)で取り組み、現時点でAUC0.80の精度で透析中血圧低下(20mmHg以下)を予測可能なAIを得ています。2021年5月に、グローバルな血液透析医療機器メーカーであるニプロ株式会社と共同研究契約を締結いたしました。今後臨床パラメータ精査による精度向上、個々の患者で学習するAIへの改良(P-DCCN)、透析中血圧低下の発生有無に加えて透析中の安全な除水量を予測する機能の追加など、AIの精度と機能の向上を目指し開発を進めます。 (c) RSAI03(糖尿病治療支援システム)糖尿病の血糖値を厳格にコントロールし、糖尿病合併症を予防するためにはインスリン注射治療が必要です。しかし、インスリンの安全な用量域は狭く、過剰投与で低血糖を生じるために、患者ごとに最適な種類と投与量を選定する必要があります。一方、糖尿病専門医は医師全体の2%もおらず、地理的にも偏在しているため、現状では糖尿病患者の主治医が糖尿病専門医であるとは限らず、むしろ非専門医に受診することが多いです。当社は、東北大学及び日本電気株式会社(NEC)と共同開発を行い、非糖尿病専門医にも専門医レベルのインスリン治療を実行できるよう支援するAIを開発しています。2022年1月には、東北大学病院に入院する約1,000名(約1,080,000臨床パラメータ)の患者データに基づく分析作業が終了し、専門医の処方するインスリンの投与量から数単位の誤差で予測するAIを開発しています。ディープラーニングをベースにしたスキル獲得学習AIアルゴリズムSAiL (Skill Acquisition Learning)を活用し、現在、インスリンの投与量2単位程度の誤差で予測できるAIが取得できています。今後、医療データの「量」と「質」の改善により予測精度をさらに向上させ、実用化のための臨床試験を実施する予定です。なお、本研究は、2022年4月、AMEDの医工連携イノベーション推進事業 (開発・事業化事業)に採択されました。2022年度から3年間、AMEDの支援を受けて本研究を実施いたします。2021年11月にニプロ株式会社と共同研究契約を締結しました。 (d) RSAI04(発音・発語及び嚥下機能診断)高齢社会において摂食嚥下障害は増加し、死因とされる肺炎の約7割の原因が誤嚥です。誤嚥性肺炎の予防には嚥下機能低下の早期発見が重要ですが、現在では、嚥下内視鏡検査、嚥下透視検査方法など患者負担の大きい嚥下評価法しかありません。当社は、嚥下と会話で使用する器官は舌や口腔・咽頭など共通部分が多く、会話から嚥下機能を予測できる可能性に着目し、嚥下機能障害を会話時の音声データから評価可能な新しいAIの開発に取り組んでいます。東北大学の複数の診療科(耳鼻咽喉科、歯科、医工学部リハビリテーション科)及びNECと共同で、東北大学病院嚥下治療センターに受診する患者の話す音の全周波数を時系列データの分析に特化したAIエンジン(時系列モデルフリー分析)で解析することで、健常者の発音と患者の発音の違いを検出し、嚥下機能の低下を診断するAIを開発します。 (e) RSAI06(小児発達障害(識字障害)音読診断)小児の学習障害の1つである識字障害(ディスレクシア)は音韻処理障害であり、学業不振や不登校に至る原因となりますが、早期に発見し、適切なトレーニングを受けることで一般生活が送れるようになる障害です。適切な早期での支援を提供するためにも、簡便で正確な診断方法の開発が急務ですが、現在は、良い診断法はありません。当社は、識字障害と小児の音読の間違いやスピードに相関性があるという事実に基づき、識字障害を診断するAIを開発しています。声を周波数として捉え、時系列データとして扱うことで、健常域から逸脱する異常値を検知するAIを活用し、医療データは東北メディカルメガバンク機構(※)にて行われる小児発達調査データ、及び東北大学病院など複数の医療機関で識字障害と診断された児童の音読データを使用します。音声データに基づく簡便な診断システムが開発出来れば、定期検診などの短い時間で障害の有無を検知でき、該当者への早期からの支援に繋がります。 (※) 東北メディカルメガバンク機構:未来型医療を築いて震災復興に取り組むために設置され、東日本大震災の被災地の地域医療再建と健康支援に取り組みながら、医療情報とゲノム情報を複合させたバイオバンクを構築しています(2012年設立)。 e.診断薬:血中フェニルアラニン測定キットフェニルケトン尿症は、適切な治療を行わないと知能発達遅延などの重篤な症状を出現します。1977年に生後マス・スクリーニング検査が実施され、ほぼ全ての患児が早期に発見されるようになりました。フェニルケトン尿症の治療には、フェニルアラニンを制限するための食事療法を正しく行う必要があり、定期的な医療機関での検査が必要ですが、数か月に1度の採血では、きめ細やかな食事管理ができません。当社は、自宅で簡便かつ正確に血中フェニルアラニン濃度を測定するシステムを、東北大学と共同で開発しています。この新規検査系をキット化し、自己管理の保険償還に繋げることを目的とします。糖尿病患者での自己血糖管理のように、家庭でいつでも自己測定が可能になれば、フェニルケトン尿症を有する患者のきめ細やかな食事管理が実現できます。2021年5月には診断薬に関する特許を東北大学と共同で出願し、同年6月にはPMDA相談を行いました。