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レナサイエンス(4889)は何で稼いでいるか — 事業の柱と依存度

医薬品 医薬品

事業の概要

  • 医療課題解決への貢献
    レナサイエンスは、少子高齢化社会における重要な医療課題、特に老化関連疾患や女性・小児の疾患に焦点を当て、医薬品、医療機器、AIを活用したプログラム医療機器など多様なアプローチで解決を目指しています。世界的な死亡原因の74%を占める非感染性疾患(がん、糖尿病、呼吸器疾患、循環器疾患)を全て対象とし、幅広いニーズに応えることを目指しています。
  • 多様なモダリティ開発
    当初は医薬品開発が中心でしたが、医療現場のニーズに応えるため、現在は医療機器やAIを活用したプログラム医療機器へと開発領域を広げています。これにより、化学系・生物系だけでなく、工学系・情報系の研究も取り入れ、多角的な医療ソリューションの提供を目指しています。
  • ライセンスアウトによる収益
    大学などの研究機関で生まれた革新的なアイデアや技術(シーズ)を、基礎研究から臨床開発(医師主導治験)まで一貫して進め、その成果を大手製薬企業などにライセンスアウトすることで収益を得るビジネスモデルです。契約一時金、開発進捗に応じたマイルストーン収入、上市後のロイヤリティ収入が主な収益源となります。
出典: FY2025 有価証券報告書(AI要約)
セグメント構成
  • 医薬品事業
    老化関連疾患や女性・小児の疾患を対象とした医薬品の研究開発を行っています。特に、がん、糖尿病、呼吸器疾患、循環器疾患といった非感染性疾患に注力しており、PAI-1阻害薬やピリドキサミンなどの自社シーズに加え、核酸医薬品などの外部シーズも活用し、多様なパイプラインを構築しています。
  • 医療機器事業
    医療現場の課題解決を目指し、医療機器の研究開発に取り組んでいます。例えば、2022年12月に厚生労働省から承認を得た極細内視鏡は、製品コンセプトから薬事承認まで自社で開発を進めた実績があります。今後も、医療現場のニーズに応える新たな医療機器の開発を目指しています。
  • AIを活用したプログラム医療機器事業
    近年の工学系や情報系技術の進歩を取り入れ、AIを活用したプログラム医療機器の開発にも注力しています。これは、医薬品や医療機器だけでは解決できない医療課題に対し、情報技術を融合させた新たなソリューションを提供することで、医療イノベーションの創出に貢献することを目指しています。
有価証券報告書「事業の内容」の全文を見る(年度切替)
FY2025|29,969 文字
3 【事業の内容】当社は、医療現場の課題を解決するための多様なモダリティ(*8)(医薬品、医療機器、人工知能(AI)を活用したプログラム医療機器)を医療現場で研究開発し、医療イノベーションの創出に貢献することで、ヒトが心身ともに生涯にわたって健康を享受できるための新しい医療を創造したいと考えています。少子・高齢化は、最重要の社会的及び医学的課題です。当社は老化関連疾患及び女性・小児の疾患など、社会的にも重要な医療課題を解決すべく研究開発や事業に取り組んでいます(図表1)。世界保健機関(WHO)では、高齢化や生活習慣に伴う疾患(老化関連疾患)を「非感染性疾患(NCDs)」として位置付け、がん・糖尿病・呼吸器疾患・循環器疾患が対象となっています。2024年の全世界の死亡者数の74%がこれら疾患で亡くなっており(世界保健機関、Health Topics)(*9)、当社の開発品目は、これら4疾患を全て対象としています。また、女性、小児の医療課題にも注力しています。< 図表1 当社が目指す新たな医療 > 当初、コンピューター工学及び低分子スクリーニングから創薬したプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター(PAI)-1阻害薬など医薬品開発のみでしたが、研究・医療機関からの要請、更に医療現場の課題を解決するための必要性から、現在では当社の開発領域(モダリティ)は、医薬品のみならず、医療機器やAIを活用したプログラム医療機器など多岐にわたっています。医薬品産業も低分子医薬品を中心とした開発から、バイオ医薬品(抗体医薬、核酸医薬品、遺伝子治療、細胞治療)へとモダリティが多様化しつつあります。また、近年の工学系や情報系技術の進歩により情報・工学技術との融合による新たな医療の模索も進んでおり、欧米や国内の大手製薬企業では既に医薬品単体の事業から医療ソリューション全般にわたる事業への転換を迎えております。医薬品、医療機器、更にはAIを活用したプログラム医療機器など、医療現場での治療のオプションも大きく広がりつつあります。これまで主体であった化学系や生物系の研究に加えて、工学系や情報系の研究にも視野を広げ、医療課題を解決する多彩で魅力ある研究と事業のポートフォリオを創出したいと考えます。当社は、国内外の大学などの研究機関で着想された多くのモダリティにわたるコンセプトやシーズを、基礎研究から臨床開発(医師主導治験)まで一気通貫でつなげる研究開発を行い、大手製薬企業等につなぐことで医療イノベーション創出に貢献します(図表2)。臨床開発は販売の許可を受けるための承認申請に近いところまで自社で対応します。例えば、2022年12月に厚生労働省から承認を得た医療機器(極細内視鏡)は、製品コンセプトから試作品開発、非臨床試験の実施、検証のための医師主導治験まで複数の大学と共同で開発を進め、当社が取得した成績で薬事承認を得ることができました。また、血液がんの一種である慢性骨髄性白血病および悪性黒色腫の治療薬は承認申請に必要な検証試験である第Ⅲ相試験を実施中ですが、その他のパイプラインについても今後、可能な場合は第Ⅲ相試験まで自社で実施したいと考えています。その理由は、希少疾患などの治療薬は大手製薬企業からは注力されにくい場合が多いことや、更に第Ⅲ相試験まで自社で実施することで大きな事業収益が期待できるからです。 < 図表2 当社のビジネス・モデル > これまでの製薬企業や創薬ベンチャーの多くはパイプラインのバリューチェーン(開発の全ての工程の積み上げ)を自社で全て構築し、事業価値を高めることに注力してきました。しかし、医薬品のように成功確率が極めて低い一方で、開発期間が長く、投資が大きな分野では研究開発及び事業リスクが大きいため、多くのパイプラインを組み合わせたポートフォリオを形成し、リスクを分散することが不可欠です。大手製薬企業は潤沢な資金を背景に、多くのパイプラインのバリューチェーンを自社独自で形成するという既存の枠組みでの開発ができますが、ベンチャーのように資金が潤沢でない場合、なかなか難しいのが現状です。当社は外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用してコストを抑えるなど、効率の高い開発を実践してきました。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理などが異なります。少ない人的リソースや経費で多くのパイプラインを広げ、モダリティも展開できていますので、成果も出つつあります。自己資源や社内環境のみに注力するのではなく、むしろ外部資源や外部環境にも注力し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築していきたいと考えます。オープンイノベーションラボ(東北大学、広島大学)の設立もその一環として推進しています。当社は、基礎研究から臨床試験まで広く研究を実施している医師(physician-scientistという)との共同研究を重視しています。基礎研究分野で共同研究を行っている多くの研究者は医師でもあり、自ら治験調整医師(治験責任者)として医師主導治験を実施することが可能です。基礎研究と臨床研究を実施する研究者が同じである場合が多いので、基礎研究から医師主導治験まで一気通貫で実施、効率的な開発ができます。当社の治験は基本的に医師主導治験で実施しています。当社は、これまで29件に及ぶ医師主導臨床試験(そのうち医師主導治験26件)等の実績がありますが、医師主導治験には多くの利点があります。医師自ら治験を立案及び実施できますので、医療現場での課題や実情に合った試験計画や枠組みで実施できます。2003年の薬事法改正によって、医師自らが治験を実施する医師主導治験の道が開けましたが、治験に必要な医薬品を安全性試験、製剤を含めて全て自ら準備することは依然として難しい状況です。当時は、海外承認国内未承認の新薬や適応外使用薬(いわゆるドラッグラグ)も数多く存在したので、国内未承認薬や適応外使用薬が医師主導治験の主流でした。治験の実施し易さ(製造から安全性試験など既存のデータで対応可能)という点からも、多くの大学等の医療機関の医師が海外承認(国内未承認)の新薬や適応外使用薬の治験を医師主導で取り組みました。また、製薬企業が取り組まない希少疾患を対象に既存医薬品を用いて医師主導治験として実施される場合もありました。そのような背景から、「医師主導治験は適応拡大やオーファン疾患が対象」という印象が定着していた時期もございます。しかし、当社が行う治験は全て未承認の薬剤(first-in-human)を対象としており、海外承認薬(国内未承認)や既存薬の適応拡大のための治験ではありません。当社の医薬品開発においては、非臨床試験はGLP(Good Laboratory Practice、医薬品の安全性の実施に関する基準)、治験薬の製造は治験薬GMP(Good Manufacturing Practice、治験薬の製造管理及び品質管理に関する基準)、医師主導治験は、企業治験と同様にGCP(Good Clinical Practice、医薬品の臨床試験の実施に関する基準)を遵守して実施していますので、医師主導治験でも、承認申請や許認可は問題なく得られます。 (1) 事業モデル自社開発品(自社シーズ)を有する一方で、大学等からの外部シーズを獲得し医師主導治験を活用しながら治療コンセプトの実証Proof-of-concept(POC)まで成長させ、製薬企業等へライセンスアウトすることが、当社のビジネス・モデルです。現パイプラインの中で、自社シーズは、PAI-1阻害薬及びピリドキサミン等の医薬品や極細内視鏡(医療機器)であり、外部シーズは核酸医薬品やプログラム医療機器(AI)が該当します(「事業の内容 (2) 当社のコア技術」をご参照ください)。多様なモダリティ(医薬品、医療機器、AIを活用したプログラム医療機器等)の研究開発を業務としていますが、大学等研究機関との共同研究で基礎研究を行い、その成果を活用して臨床開発(医師主導治験)までを一気通貫でつなげる開発を行っています。自社シーズに対する臨床応用の可能性を広げるために基礎研究を広く展開する必要があります。当社では、自社化合物をオープンリソースとして研究者に提供し研究いただくことで新たな用途の発見(適応拡大)に取組んでいます(オープンイノベーション)。そして、この中から、科学・医学的、事業性の観点から適切な適応疾患を選別し、医師主導治験で検証します(図表3)。基礎研究成果は、共同研究を実施した大学等研究機関と共同で特許を出願し、当社事業の基盤となる知的財産の確保に努め、当社が独占的な実施権の許諾を受けた後に事業化開発を進めます。 < 図表3 当社の事業戦略 > TREx:東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボHiREx:広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ 自社若しくは大学等研究機関と共同で、製造方法の開発、非臨床薬効薬理試験、安全性試験、医師主導治験(第Ⅰ相〜第Ⅲ相)までを実施し、有効性と安全性の確認と知的財産価値を高めた上で、国内・海外の製薬企業等(出口企業)に対して、製品の開発権、製造権、販売権等をライセンスアウトすることで、契約一時金、開発の進捗に応じて支払われるマイルストーン収入、製品上市後に売上高の一定割合が支払われるロイヤリティ収入、売上高に対する目標値を達成するごとに支払われる販売マイルストーン収入等を得る事業モデルを採用しています(図表4)。出口企業とは、ライセンス契約に至る前の比較的早期の研究開発段階において、将来のライセンス契約を前提としたオプション権付き共同研究契約(オプション契約)を締結することもあります(事業系統図の(共同研究))。この場合、当社は、出口企業から共同研究費を得ることで、自社の費用負担を抑えつつ研究開発を実施できるメリットを得られます。 当社の事業セグメントは、医薬品、医療機器などの開発・販売等のみの単一セグメントであり、事業系統図及び事業収入の形態は以下のとおりです。 < 図表4 事業系統図及び事業収益形態 >(事業系統図) (事業収入の形態) 収入形態内容a.アップフロント収入(契約一時金収入)オプション契約(第一交渉権付与)やライセンス許諾の契約時に一時金として得られる収入b.マイルストーン収入開発段階ごとに設定した目標(開発マイルストーン)を達成するごとに得られる一時金収入。また、製品上市後に、売上高に対する目標値(販売マイルストーン)を達成するごとに得られる一時金収入c.ロイヤリティ収入製品が上市された後に、ライセンス許諾の契約を締結した導出先事業会社より当該製品の売上高に対して予め契約によって設定した一定割合を得られる収入d.共同研究・受託研究収入当社の知的財産を活用した共同研究・受託研究実施の対価として得られる収入 < 図表5 当社の事業戦略 >1 研究開発・研究機関や医療機関とのネットワーク・多様なモダリティ開発・豊富なパイプラインを構築・医師主導治験の実績と経験・重点開発領域■20件の医師主導治験(第Ⅰ相、第Ⅱ相)を実施済み■9件の医師主導の治験等臨床試験及び企業治験を2025年度中実施(6件の医師主導治験及び企業治験(第Ⅱ相及び第Ⅲ相)、1件の臨床性能試験、2件の治験外臨床試験)・国内バイオベンチャーとして最大級の医師主導治験実績■基礎研究・非臨床試験・臨床試験においてアカデミアとの共同研究を活用し効率的に実施(図表6)・自社シーズに対する臨床応用の可能性を広げるために、自社化合物をオープンリソースとして基礎研究者に提供し新たな用途の発見に取組み、適応疾患を選別し医師主導治験を実施・各適応症に最も適した医療機関を中心とした医師主導治験を活用し、複数の臨床開発を同時並行で実施■独自のコンセプトに基づく多様なモダリティ・医薬品、医療機器、プログラム医療機器など多様なモダリティ開発・がん幹細胞に着目した慢性骨髄性白血病治療薬・免疫チェックポイント阻害機序に基づくがん治療薬(悪性黒色腫、肺がん、血管肉腫)・抗線維化作用、抗炎症作用に基づく肺疾患治療薬(全身性強皮症)・男性型脱毛症治療薬・抗老化、長寿研究(医薬品開発):XPRIZE Healthspan臨床試験・人工核酸を用いた神経・筋難病治療薬の開発・腹膜透析用の極細内視鏡の開発(径1mm程度)・AIを活用した診断や治療を支援する多様なプログラム医療機器■医薬品ではPAI-1阻害薬のがん、呼吸器疾患、抗老化、長寿領域での臨床開発に注力2企業提携・POC取得後のライセンスアウトによる開発コストの低減・企業価値の最大化・ライセンスアウトの確度を高めるためのオプション契約等出口戦略を重視■PAI-1阻害薬(RS5441)の男性型脱毛症治療薬としての権利を米国Eirion Therapeutics, Inc.(エイリオン社)に導出■ディスポーザブル極細内視鏡(RS9001)を株式会社ハイレックスメディカルに導出■AIを用いた呼吸機能検査診断プロジェクトについてチェスト株式会社と共同開発及び事業化に関する契約を締結(ライセンス契約)■維持血液透析医療支援プログラム医療機器において、ニプロ株式会社と共同開発契約を締結■透析装置搭載型AIについて東レ・メディカル株式会社と共同開発契約を締結■人工心臓における血栓予測プログラム医療機器、ディスポーザブル極細内視鏡におけるガイドカテーテルなどについて、株式会社ハイレックスコーポレーション及び株式会社ハイレックスメディカルと共同研究契約を締結3公的資金活用による自社研究開発費用の削減■医薬品では、慢性骨髄性白血病、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患及び更年期障害で公的資金活用■プログラム医療機器では、糖尿病治療支援プログラム医療機器及び維持血液透析医療支援プログラム医療機器で公的資金活用4多様なモダリティのポートフォリオ形成による事業リスクの低減、早期の黒字化と将来の収益確保■医薬品事業は、研究開発費や研究開発期間が大きく事業リスクは高いが、上市後には極めて高い収益が期待できる事業■医療機器やプログラム医療機器の事業収益は医薬品と比べると小さいが、研究開発費や研究開発期間のリスクは小さく、早期に当社収益につながる事業■これら2つの事業ポートフォリオを、同時に複数のパイプラインで進めることでリスクを分散し、早期の黒字化と将来の収益を確保5オープンイノベーションの推進■2022年1月東北大学にオープンイノベーションラボ(Tohoku University x Renascience Open innovation Labo:TREx)を開設■2023年4月広島大学にオープンイノベーションラボ(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx)を開設■2025年1月ノースウエスタン大学Potocsnak Longevity Institute(長寿研究所)の日本の研究室を東北大学内のオープンイノベーション拠点である東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(TREx)内に設立合意■過半数の社員がオープンイノベーションの場に参画(人材育成と事業加速) < 図表6 当社が有する研究機関・医療機関ネットワーク > (出典:当社作成) (2) 当社のコア技術① 当社のパイプライン概況(2025年5月末現在) < 図表7 パイプライン > 低分子医薬品 PAI-1阻害薬 医薬品 ピリドキサミン 医療機器、診断薬 AIソリューション:プログラム医療機器(SaMD) ② パイプラインの概要(a) RS5614(PAI-1阻害薬)〔 PAI-1と老化 〕我が国を含めて先進国は超高齢化に直面しており、老化は医学的のみならず社会的にも喫緊の課題となっています。当社は、細胞の老化(Senescence)を分子レベルで明らかにし、組織や個体の老化(Aging)に関連する疾病を治療する新たな医薬品を開発し、究極的にはヒトの老化を改善するためのイノベーションに寄与したいと考えます。 細胞の老化(Senescence) 生物の細胞は、細胞老化と呼ばれる現象のために、無制限に増殖することはできません。この現象には、遺伝子のテロメア長の短縮、p53,p21,p16ink4aなどの細胞老化因子が関与しています。老化した細胞は、PAI-1の発現が極めて高いことが分かっています。当社が開発したPAI-1阻害薬は、細胞周期調節因子(p16ink4a,p21, p53, p16,IGFPB3)、老化関連β-ガラクトシダーゼ(SA-β-gal)染色、IL-6等インターロイキンなどの細胞老化随伴分泌現象(SASP:senescence-associated secretory phenotype)、DNA損傷応答などの老化バイオマーカーを改善し、心筋細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞の細胞老化を阻害します。また、ヒトの早老症であるハッチンソン-ギルフォード症候群(指定難病333)の線維芽細胞のDNA損傷を減少し、ミトコンドリア障害を改善し、細胞の老化を改善することが報告されました。 組織や個体の老化(Aging)細胞のみならず、老化した組織や個体(klothoマウス、早老症として有名なウェルナー症候群のヒト)でも、PAI-1の発現が高いことが報告されました。当社、東北大学や米国ノースウェスタン大学との共同研究で、老化モデルとして有名なklothoマウスでは、PAI-1の発現や活性を遺伝子あるいはタンパク質レベルで阻害することにより、老化の主症状を改善できることを明らかにしました。 加齢に関連する疾患加齢とともに、がん、血管(動脈硬化)、肺(肺気腫、慢性閉塞性肺疾患)、代謝(糖尿病、肥満)、腎臓(慢性腎臓病)、骨・関節(骨粗鬆症、変形性関節症)、脳(脳血管障害、アルツハイマー病・認知症)などの関連した様々な疾患が発症します。興味深いことに、これら疾患の組織ではPAI-1の発現は極めて高く、PAI-1阻害薬を投与することで病態が改善できることが明らかとなりました(図表8に共同研究成績一覧を記載)。 長寿家系の疫学的調査米中西部に暮らすキリスト教の一派アーミッシュの人々の健康な老い方については、10年以上にわたって研究が行われました。米国ノースウェスタン大学、東北大学との共同研究で、アーミッシュコミュニティーの人々を調査し、PAI-1遺伝子を持たない人(56名)は、持っている人(165名)に比べて10年長生きすることを見出しました。また、欠損する人々は糖尿病など病気にもかかりにくいことも分かりました。この事実は、2017年11月にニューヨーク・タイムズを始め、多くの新聞で報道されました。研究代表者のノースウエスタン大学の主任教授は「彼らはより長く生きているだけではない。より健康的に生きている。長生きの理想型だ」と述べました。このヒトでの疫学調査は、細胞やマウスでの実験結果を裏づけています。さらに、アーミッシュのヒトと同じPAI-1遺伝子の異常を有するマウスの寿命は、正常のマウスに比べて20 %程度長いことも示されました。 < 図表8 PAI-1に関する共同研究成績一覧 >疾患文献共同研究がん(慢性骨髄性白血病)□ Blood 2012□ Stem Cells. 2014□ Blood. 2017□ Biochem ,Biophys Res Commun. 2019□ Haematologica 2021 □ BBRC 2021□ Tohoku J Exp Med. 2022□ Cancer Med. 2023□ 東京大学、東北大学□ 東海大学、東北大学□ 東海大学、ノースウェスタン大学、東北大学□ 東海大学、東北大学、国立がんセンター中央病院□ 東海大学、ノースウェスタン大学、広島大学、東北大学□ 東海大学、東北大学□ 東北大学、東北大学病院、ART□ 秋田大学、東海大学、東北大学、岩手医科大学がん(悪性黒色腫)□ PLoS One. 2015□ Cancer Biol Ther. 2015□ 南カリフォルニア大学、東北大学□ 東北大学、山形大学がん(皮膚血管肉腫)□ Exp Dermatol 2024□ 東北大学、がん研究会有明病院、名古屋市立大学、九州大学、自治医科大学、愛媛大学、国立病院機構鹿児島医療センター、国立がん研究センター中央病院肺(肺気腫、慢性閉塞性肺疾患)□ Arterioscler Thromb Vasc Biol 2008 □ Am J Respir Cell Mol Biol 2012 □ Proc Natl Acad Sci USA. 2014□ PLos One 2015□ Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2016□ Am J Respir Cell Mol Bio 2020□ Environ Pollut 2021□ Scientific Reports 2024□ 東海大学、東京大学、筑波大学、ルーヴァンカトリック大学、東北大学□ アラバマ大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校、東北大学□ ノースウェスタン大学、東北大学□ ノースウェスタン大学、シカゴ大学、東北大学□ アラバマ大学、東北大学 □ アラバマ大学、東北大学□ ノースウェスタン大学、東北大学□ 京都大学、東海大学、東京科学大学、東北大学、メディニエット大学、日本赤十字石巻病院、大崎市民病院、東北医科薬科大学、横須賀共済病院、横浜市みなと赤十字病院、青梅私立総合病院、東海大学大磯病院、東海大学八王子病院、聖マリアンナ大学、海老名総合病院、国立病院機構相模原病院、神戸市立医療センター中央市民病院、神戸市立医療センター西市民病院、高槻赤十字病院、大阪赤十字病院、田附興風会医学研究所北野病院 血管(動脈硬化)□ Circulation. 2013 □ Oncotarget. 2016□ Science Advances. 2017□ ノースウェスタン大学、東北大学、サンフォードバンナム研究所□ ノースウェスタン大学、東北大学□ ノースウェスタン大学、ニュージャージー医科大学、ブリティッシュコロンビア大学、インディアナ血友病血栓症センター、東北大学代謝(糖尿病、肥満)□ Br J Pharmacol 2016□ Oncotarget 2017□ Hepatol Commun 2018□ Front Pharmacol 2020□ Mol Med Rep 2020□ Science Reports 2021 □ Obesity 2021 □ FEBS Open Bio 2024 □ 梨花女子大学、全南大学、東北大学□ 梨花女子大学、東北大学□ ノースウェスタン大学、東北大学□ 東北大学□ 奈良県立医科大学、東北大学□ ノースウェスタン大学、オレゴン健康科学大学、ジェシーブラウン退役軍人メディカルセンター、東北大学□ ノースウエスタン大学、ジェシーブラウン退役軍人メディカルセンター、東北大学□ 東京科学大学、東京大学、東北大学、上海大学骨・関節(骨粗鬆症、変形性関節症)□ FEBS Open Bio 2018□ BBRC 2021□ 東京科学大学、延辺大学、東北大学□ 東京科学大学、東北大学、国立障害者リハビリテーションセンター脳(アルツハイマー病等)□ PLoS One 2015 □ J Alzheimers Dis 2018□ Psychopharmacology 2023□ ノースウェスタン大学、セントルーク大学病院、東北大学□ アラバマ大学、東北大学□ ノースウェスタン大学、東北大学腎臓(慢性腎臓病)□ Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2013 □ PLos One 2016□ 東京大学、南方医院、ノースウェスタン大学、ルーヴァンカトリック大学、東北大学□ 梨花女子大学、キム医院、東北大学 XPRIZE HEALTHSPANコンペティションXPRIZE HEALTHSPAN(https://www.xprize.org/prizes/healthspan)は、人間の老化や長寿に対する治療アプローチに革命を起こし、健康寿命を積極的に10年以上延伸することを目的とし、2030年までに健康寿命を延ばすことができた研究チームに対して、総額1億米ドルを支払うという長寿を課題としたコンペティションです。世界から600を超える応募があり、人間の長寿に対する治療アプローチとして、低分子医薬品、バイオ医薬品(ワクチン、免疫調節剤、モノクローナル抗体、および組み換えタンパク質治療薬)、遺伝子治療、細胞治療、医療機器(医療治療機器、ゲームベースのデバイス、デジタルヘルスデバイス)、電気医療機器、磁気医療機器、サプリメント、機能性食品、食事療法、運動療法、さらにそれらの組み合わせなど様々なモダリティが提案されました。当社は、PAI-1阻害薬RS5614の抗老化・長寿作用に基づき、「老化細胞を除去し、がん化を促進する事なく老化関連疾患を抑制する新たな新規低分子医薬品」のコンセプト(Senolytic drug*10)で、東北大学、東海大学、広島大学など国内外の研究機関及び医療機関との共同で、昨年末にこのXPRIZE HEALTHSPANに応募し、TOP40(セミファイナリスト)に入賞し、賞金25万米ドルを獲得しました。セミファイナリストは、2026年3月末までに1年以内のセミファイナル臨床試験を実施し、その報告書をXPRIZE HEALTHSPAN評価委員会に提出します。このセミファイナル臨床研究成績を元に、2026年後半にTOP10(ファイナリスト)が選出され(賞金100万米ドル)、最終コンペティションのための4年のファイナル臨床研究が実施されます。ファイナル臨床研究を実施したTOP10のチームの中で最も優れた研究に対しては、寿命を延ばした年数に応じて賞金が与えられます(最大8,100万米ドル)。 〔 PAI-1阻害薬 〕PAI-1は血栓の分解(線溶系という)に必要な分子ですが、近年ではがんや老化(加齢)に関連して発症する種々の疾患に関与することを強く示唆する一連の知見が明らかとなっており、がんや抗老化・長寿に関わる創薬の標的と考えられます。しかし、これまでヒトのPAI-1分子の活性を阻害できる医薬品は、臨床応用されていません。当社は、加齢に伴い生じる一連の疾患を治療できる可能性を持ったPAI-1阻害薬の開発に取り組んできました。ヒトのPAI-1分子の結晶構造を基に、コンピューター工学を利用した約200万バーチャル化合物ライブラリーの探索から約96個のPAI-1阻害候補化合物を取得しました(図表9)。PAI-1活性阻害作用(PAI-1による組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)(*11)阻害抑制)及びPAI-1/tPA複合体の形成阻害を指標として、新規阻害化合物を10年以上かけてこれまで1,400個以上合成スクリーニングし、更にそれらの活性や安全性などを評価する中で、安全性に優れた経口投与可能な臨床開発候補化合物RS5614を取得いたしました。当社のPAI-1阻害薬はPAI-1分子内のビトロネクチン結合部に結合し、PAI-1を不安定化してその分解を促進する可能性が示されました(図表10にRS5484を例示、International Journal of Molecular Sciences 2021)。 < 図表9 新規PAI-1阻害薬の合成と構造最適化による臨床開発候補品の取得 >(出典:東北大学) < 図表10 PAI-1とPAI-1阻害薬RS5484複合体のX線構造解析 >(出典:東北大学) リード化合物であるRS5275から合成展開を行い、4つの臨床候補化合物RS5441、RS5484、RS5509、RS5614を取得しました。これらは、経口吸収性や体内動態(組織移行性)などそれぞれに特色を持つ化合物で、異なる適応症において有用と考えられます(図表9)。過去に国内外大手を含む多くの製薬会社やバイオベンチャーが低分子PAI-1阻害薬の創製に挑戦しました。幾つかの薬剤はマウスやラットの動物モデルで有効性が報告され、Wyeth社(現Pfizer社)の製品PAI-749(Diaplasinin)は臨床ステージまで進みましたが、臨床第Ⅰ相試験で開発は中止されました。これまでサルの病態モデルで薬効を示す論文は、当社のRS5275しかありません(J Cereb Blood Flow Metab 2010)。経口での吸収性が極めて高い低分子化合物のために、経口投与でも十分な血中濃度に達します。薬効、動態、安全性、物性の指標でスクリーニングし、最終的に選択された臨床開発品がRS5614です。探索からGLP非臨床安全性試験、GMP合成・製剤、医師主導治験まで、一貫して当社と大学(東北大学、東海大学など)との共同研究で開発しました。 〔 RS5614の薬剤概要 〕臨床開発品のRS5614の製造販売承認申請に必要となる非臨床試験の成績は、薬機法(*12)に基づく医薬品GLP(医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令)とICH(医薬品規制調和国際会議)のガイドラインに従って収集しました。 非臨床安全性GLP試験1)安全性薬理試験ではhERG試験(10 µM)、ラットの中枢神経系(300 mg/kg)、サルの心血管系及び呼吸器系試験(300 mg/kg)で陰性、2)一般毒性試験ではラットの26週間経口投与試験(無毒性量400 mg/kg/日)、サルの39週間経口投与試験(無毒性量30 mg/kg/日)で陰性、3)遺伝毒性試験では法定3試験で陰性、4)光毒性試験陰性、5)生殖・発生毒性試験も陰性です。以上の安全性試験の成績を含めて、薬物動態試験や物性データなどの製造販売承認を行うために必要な非臨床試験成績を有しています。 第Ⅰ相臨床試験(健常成人男子)薬機法に基づくGCP(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)条件下での医師主導治験で、GMP(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理に関する基準)で製造された治験薬を用いて実施しました。第Ⅰ相単回投与試験では、RS5614の240 mgまでの安全性が確認され、第Ⅰ相反復投与試験においては、120 mgを7日間経口投与した際に発現した有害事象はいずれも軽度でした。 知的財産権RS5614に関して、物質特許(出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本・米国・欧州・カナダ・豪州・中国・韓国・インド 登録済、存続期間満了日:米国 2030年8月7日、日本を含むその他各国 2030年3月31日)に加えて、非臨床試験から複数の用途特許(①慢性骨髄性白血病治療用途、出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本・米国・欧州 登録済、存続期間満了日:2034年4月15日、②免疫チェックポイント分子の発現抑制、出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本 登録済、米国・欧州 出願中、存続期間満了日:2040年9月30日)、③線溶系亢進薬、及びその用途、出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本 登録済、米国・欧州 出願中、存続期間満了日:2041年5月30日(見込)、④エフェロサイトーシス亢進剤、出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本出願中)を出願することで、知的財産権の有効期間を延長しています。RS5441に関して、物質特許(出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本、米国 登録済、存続期間満了日:2029年3月31日)を出願しています。 適応症RS5614は、非臨床試験では加齢に関連する疾患に広く有効である可能性が示唆されていますが、現在臨床試験(医師主導治験)としては、がん領域では慢性骨髄性白血病(CML:前期及び後期第Ⅱ相試験終了、第Ⅲ相試験実施中)、悪性黒色腫(メラノーマ:第Ⅱ相試験終了、第Ⅲ相試験実施中)、非小細胞肺がん(第Ⅱ相試験実施中)及び皮膚血管肉腫(第Ⅱ相試験実施中)を対象とし、呼吸器疾患ではCOVID-19に伴う肺傷害(前期及び後期第Ⅱ相試験終了)、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(第Ⅱ相試験実施中、患者登録完了)及び抗老化・長寿(特定臨床研究)を対象とします。RS5441は、男性型脱毛症治療(第Ⅱ相試験準備中)が対象です。 導出男性型脱毛症治療を含めた皮膚疾患領域でのRS5441の用途については、2016年6月に独占的権利をエイリオン社に許諾しました。その他、がん領域(CML、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、血管肉腫)でのRS5614の用途については最終的に別の製薬企業に導出し、商業化する予定です。 〔 慢性骨髄性白血病(CML)治療薬 〕(対象疾患)CMLは、造血幹細胞の染色体に異常が起こり、がん化した白血病細胞が無制限に増殖することで発症します。治療の中心となるのはイマチニブなどの分子標的治療薬(チロシンキナーゼ(*13)阻害薬(TKI))です。TKI投与により長期間の寛解を導入しても、休薬すると再発することが示されました。日本におけるCMLの発症は、10万人に毎年1人程度であり、人数にすると年間約1,300人となります。また、年齢別の発症頻度をみると、小児では稀で、60歳を超える頃から増加します。高齢者人口の増加に伴う発症人数の増加とTKI治療の進歩による死亡率の低下により、総患者数は約15,000人以上と推定され、年々増加傾向にあります。(概要)当社は、東海大学との共同研究で、PAI-1欠損マウスにおいて造血幹細胞が末梢血中に動員されること、すなわち、PAI-1が造血を抑制していることを見出しました。また、正常マウスに当社のPAI-1阻害薬RS5509を経口投与すると幹細胞を骨髄ニッチ(*14)から動員できることから、当社のPAI-1阻害薬が造血「再生」を促進することが明らかになりました(Blood 2017)。骨髄ニッチにある幹細胞ではTGF-β(*15)の作用を受けてPAI-1が細胞内(ゴルジ体という細胞内小器官)に高発現します。マウス幹細胞(Lineageマーカー陰性、Sca-1陽性、c-Kit陽性)だけでなく、ヒト幹細胞(CD33陽性、CD34陽性)においてもPAI-1が高発現することを証明しました。ゴルジ体の中でPAI-1は細胞内酵素furin(*16)に結合してこれを阻害すると考えられます。その結果、膜型マトリックスメタロプロテアーゼ(*17)の活性化が阻害され、骨髄ニッチからの幹細胞の遊離が阻害されます。実際、移植モデルにおいてPAI-1を過剰発現させた白血病細胞はTKIイマチニブに抵抗性を示します。PAI-1阻害薬は、PAI-1とfurinとの結合を阻害し、膜型マトリックスメタロプロテアーゼを活性化し、骨髄ニッチからの幹細胞の動員を促進する作用を有します(図表11)。 < 図表11 PAI-1阻害薬によるがん幹細胞動員の分子機序 >(出典:東海大学) CMLに対する治療薬はTKI(イマチニブ、ボスチニブ、ニロチニブ、ポナチニブなど)が主流ですが、TKIは、この骨髄ニッチに潜むがん幹細胞には作用しないことから、CMLの根治には至らず、多くの場合TKIを休薬するとCMLは再発します。東海大学との共同研究で、PAI-1阻害薬が骨髄ニッチからがん幹細胞を遊離させ、TKIの作用を増強させることで、CMLの根治をもたらす可能性が強く示唆されました。実際に、CMLモデルマウスにPAI-1阻害薬(RS5614)とTKI(イマチニブ)とを併用すると、TKI単独投与に比べて骨髄に残るがん幹細胞数が著明に減少し、生存率が大きく増加しました(図表12)。以上、RS5614は、正常骨髄幹細胞と同様にがん幹細胞を骨髄ニッチから遊離させ、結果的にTKIの治療効果を高めることで、CMLを根治させる薬剤となる可能性があることが分かりました。 < 図表12 CMLモデルにおけるチロシンキナーゼ阻害薬とRS5614併用の治療効果 > (出典:東北大学) TKIの開発によりCML患者の予後は大きく改善しましたが、新たな課題が明らかとなっています。CMLを治癒するためには30年以上という長期にわたる高額なTKI治療の継続が必要であり、医療経済的な負担につながっています。長期継続服用による副作用も問題となっており、心筋梗塞や脳梗塞により死亡する例や網膜動脈閉塞症により失明する例も報告されています。したがって、可能な限り早期にTKI服用を必要としない治癒(Treatment free remission、TFR)に導くことが重要です。最近、深い分子寛解状態(*18)であるDeep molecular response (DMR) (MR4.5; BCR-ABL ISで0.0032%以下のクローンの縮小)が一定期間継続しているCML患者では、TKIの中止後も分子遺伝学的再発がない状態、すなわちTFRが得られることが明らかになりましたが、3年間という最短の治療期間でTFRを目指すことのできる症例の割合は年間5〜10%にしか過ぎません。更に、TFRを得る条件として、DMR到達後少なくとも2年以上のDMRの維持が必要とされています。RS5614は、早期に多くのCML患者をTFRに導く新たな作用機序の安全な医薬品候補です。前期第Ⅱ相試験では、TKI治療を2年間以上実施している慢性期CML患者を対象に、120 mg/日のRS5614を4週間併用投与することにより、12週間後のDMR達成率を指標とする医師主導治験を東北大学、秋田大学、東海大学において実施しました。21例が組み入れられ、脱落や中止例はなく、全例が解析対象例となりました。主要評価項目の結果は、21例中DMRを達成した症例は4例で、12週時の累積DMR達成率は20.0%でした(ヒストリカルコントロールとして3か月時点での閾値に設定した平均的累積DMR達成率は2%)。安全性評価では、解析対象例の全21例に副作用は認められませんでした。以上の結果より、有効性では、12週間後の累積DMR達成率20.0%がTKI治療におけるヒストリカルコントロールとして3か月時点での閾値に設定した平均的累積DMR達成率2%以上の成績であったことから、RS5614併用投与により累積DMR達成率の上昇効果が確認できました。また、本治験のRS5614投与期間は4週間でしたが、BCR-ABL値が投与期間の経過に伴い低下し4週時には有意(対応のあるt検定;P = 0.0386)に低下しました。このことから、RS5614の投与を更に継続した場合、累積DMR達成率の更なる上昇効果が期待できると考えられました。後期第Ⅱ相試験では、慢性期CML患者を対象にTKIとRS5614(150 mg/日より開始し、180 ㎎/日に増量可)を併用し、RS5614投与開始後48週のDMRの累積達成率をヒストリカルコントロール8%と比較して33%に上昇させることを確認することと、RS5614及びTKIの長期併用時におけるRS5614の薬物動態及び安全性の確認を目的に実施しました。33例中DMRを達成した症例は11例で、48週時の累積DMR達成率は33.3%でした(POC取得)。特筆すべきは、TKI治療期間が3年以上5年以下の患者では累積DMR達成率は50.0%に達しました。安全性は、治験薬との因果関係で重篤な有害事象はありませんでした。後期第Ⅱ相試験の成績に基づいて、東北大学、東海大学、秋田大学など12の医療機関と共同で、慢性期CML患者を対象としたTKIとRS5614の併用効果を検証するプラセボ対照二重盲検の第Ⅲ相医師主導治験を、AMED「革新的がん医療実用化研究事業」の支援を受けて実施し、2024年12月の最終年度評価の結果、第Ⅲ相試験の目標症例数の登録が終了し、2年の延長期間内に試験を完了する目処が立っているとの理由から、さらに助成期間の2年間延長が承認されました。これにより、2026年3月期及び2027年3月期に見込んでいた費用計上がなくなり収益性が改善する見込みです。また、後期第Ⅱ相医師主導治験の結果が、2022年9月に科学誌『Cancer Medicine』に掲載され、CMLを含む当社のがん治療薬の取組みが、2023年9月科学誌『Nature』に取材記事として掲載されました(「第2 事業の状況 6 研究開発活動」をご参照ください)。 〔 悪性黒色腫(メラノーマ) 〕(対象疾患)悪性黒色腫は、表皮にあるメラノサイトと呼ばれる色素を作る細胞又は母斑細胞が悪性化した腫瘍で、皮膚がんの中でも転移率が高く極めて悪性度が高いとされています。日本における罹患率は10万人当たり1~2人で、海外に比較すると少なく、国内の患者数は約5,000人、年間約700人が悪性黒色腫により死亡していると報告されています。国内の患者では、海外とは異なるサブタイプの悪性黒色腫が多いことから、国内の根治切除不能悪性黒色腫患者では、米国のNCCNガイドラインで推奨されている抗PD-1抗体(ニボルマブ、商品名:オプジーボ)単剤療法による治療が奏効しづらいとされています。特に、根治切除不能かつニボルマブ不応答の患者に対して、2次治療として、ニボルマブと抗CTLA4抗体(イピリムマブ、商品名:ヤーボイ)の併用が保険適応され、国内における奏効率(*19)が13.5%と報告されました。しかし、併用患者の50%以上で重度の免疫関連副作用が起こることが社会問題になっています。更に、2種類の抗体医薬併用による高額医療費の課題もあり、抗体医薬とはモダリティが異なる、経口投与可能で、副作用がなく、奏効率を上昇させ、抗体医薬より安価な併用薬が望まれています。(概要)がんの治療には、①手術療法、②放射線療法、③化学療法(抗がん剤)、④免疫療法があり、4大治療法と呼ばれています。このうち免疫療法は体に備わっている免疫本来の力を利用してがんを攻撃する治療法です。様々な免疫療法が提案されましたが、効果が証明された免疫療法の中でも免疫のブレーキを阻害する免疫チェックポイント阻害薬(*20)が主なものです。過剰な免疫反応は有害ですので、体内にはそれを抑える機構が備わっています。そのようなブレーキ機能を担う分子は免疫チェックポイント分子と呼ばれています。実は、がんはこの免疫チェックポイント分子を悪用することで自分自身に対する免疫が働かないようにしています。抗体医薬である抗PD-1抗体など免疫チェックポイント阻害薬は、免疫チェックポイント分子を阻害することでこのブレーキを解除し、がんに対する免疫応答を賦活化します。抗がん剤はがん細胞を直接殺傷します。これに対して免疫チェックポイント阻害薬は生体内の免疫チェックポイント分子を阻害して、もともと体が持つ免疫を活性化してがんを攻撃します。東海大学との共同研究から、RS5614が免疫チェックポイント分子の発現を阻害し、細胞障害性T細胞を活性化し、腫瘍関連マクロファージの腫瘍浸潤を軽減するなど、免疫チェックポイント阻害薬と同様な作用機序を有する事実が明らかとなりました(図表13)。実際に、大腸がん(東海大学)、悪性黒色腫(東北大学)、非小細胞性肺がん(広島大学)を移植したマウス担がんモデルにおいて、RS5614が抗PD-1抗体の悪性黒色腫に対する治療効果を増強することが証明されました。 < 図表13 RS5614の免疫チェックポイント分子阻害作用 >(出典:当社作成) 抗PD-1/PD-L1抗体など免疫チェックポイント阻害薬による免疫療法は、がん治療を大きく発展させる画期的な治療です。しかし抗体医薬であるため高額医薬品であり、更にその治療効果も限定的であるために抗CTLA-4抗体など複数の抗体医薬の組み合わせが提唱されていますが、併用治療は肺臓炎や高サイトカイン血症などの致死的な免疫関連の副作用が増えること、医療費が高額となることが問題になっています。そのため、副作用が少なく、医療経済的にも安価な抗PD-1/PD-L1抗体の奏効率を上昇させる併用薬が待ち望まれており、抗PD-1抗体との併用で相乗的に抗腫瘍免疫を増強するRS5614はこのアンメットニーズを解決できる医薬品と考えます。NPO法人「Japan Skin Cancer Network(JSCaN)」を立ち上げて悪性黒色腫の治療成績向上のために連携している東北大学、筑波大学、がん研究会有明病院、都立駒込病院、近畿大学、名古屋市立大学、熊本大学の7大学/医療機関との多施設共同で、AMED「橋渡し研究プログラムシーズC(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けて、RS5614とニボルマブとの併用による有効性及び安全性を確認する第Ⅱ相試験(医師主導治験)を2021年7月から実施しました。ニボルマブが無効であった悪性黒色腫患者29例に、RS5614とニボルマブを8週間併用した結果7例で奏功が見られました(奏効率 24.1%)。また治験薬と因果関係の可能性がある有害事象は2例(5.9%)と少なくRS5614とニボルマブ併用の安全性も確認されました。これは、ニボルマブ無効例患者の2次治療において、RS5614とニボルマブの併用が既存治療であるイピリムマブとニボルマブの併用よりも有効性と安全性に優れることを示す結果でした。また、2024年6月に、本治験の結果が科学誌『British Journal of Dermatology』に掲載されました。悪性黒色腫の次相試験に関して、2023年12月にPMDA対面助言を実施し、臨床プロトコールを確定し、2024年8月には厚生労働省より悪性黒色腫に対する希少疾患用医薬品の指定を受け、2024年12月には第Ⅲ相医師主導治験の実施について東北大学病院治験審査委員会(IRB)から承認されました。PMDAに治験計画届を提出し、2025年2月に最初の被験者への投与が東北大学病院で実施され、根治切除不能悪性黒色(メラノーマ)患者124例を対象にニボルマブとのRS5614の併用の有効性及び安全性を検証する第Ⅲ相医師主導治験を開始しました。本治験は薬事申請へ向けた検証的な第Ⅲ相試験であり、東北大学を含む18施設による多施設共同試験で実施しています。また、悪性黒色腫を含む当社のがん治療薬の取組みが、2023年9月科学誌『Nature』の取材記事として掲載されました(「第2 事業の状況 6 研究開発活動」をご参照ください)。 〔 非小細胞肺がんの治療 〕(対象疾患)我が国において、1年間にドライバー遺伝子(*21)変異陰性・進行非小細胞肺がんと診断される患者の推計数は23,000人です。現在、その1次治療には、プラチナ製剤併用化学療法と抗PD-1/PD-L1抗体が用いられていますが治癒に至る症例は少なく、2次治療としてドセタキセル等の化学療法が実施されますが、無増悪生存期間は3か月と短く、3次治療が必要となります。3次治療では、抗PD-1抗体(ニボルマブ)再投与も選択肢となっていますが、抗PD-1抗体治療歴のある患者での効果は限定的です。抗PD-1抗体の腫瘍免疫応答を増強するために、抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)を追加する治療開発が行われていますが、免疫に関連した副作用が増えること、更に医療費が高額となることなど課題が大きく、悪性黒色腫治療と同様の問題が生じることから、副作用が少なく、医療経済的にも抗PD-1/PD-L1抗体の奏効率を上昇させる安価な併用薬が待ち望まれています。(概要)本研究は、悪性黒色腫同様、RS5614が有する免疫チェックポイント阻害作用に基づいて実施されています。広島大学での研究から、PAI-1が肺がんの腫瘍進展、更にはがん細胞の増殖能亢進や血管新生に関与していること、更に抗PD-1抗体に耐性となった肺がん細胞がPAI-1を高発現することなど事実が明らかとなりました。当社と広島大学との共同研究で小細胞性肺がんモデルマウスを用いた非臨床試験を実施した結果、抗PD-1抗体とRS5614の併用投与は抗PD-1抗体単剤投与よりも高い抗腫瘍効果を示すことを確認しました。そこで、2023年9月から、2つ以上の化学療法歴を有する切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん患者(3次治療以降の患者)39例を対象に、ニボルマブとRS5614との併用投与の有効性及び安全性を検討することを目的とした国内第Ⅱ相医師主導治験を実施しています。治験期間は3年間を見込んでおり、広島大学、島根大学、岡山大学、鳥取大学、四国がんセンター、広島市民病院などの医療機関で実施中です。本治験治療の有効性が確認できれば、3次治療以降で有効な治療法を提案できます。悪性黒色腫から肺がんへの適応拡大は、抗PD-1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬と同じ展開です。当社は、2022年10月に国立大学法人広島大学と非小細胞肺がんに対する非臨床試験及び臨床試験に向けての共同研究契約を締結しました。研究段階が非臨床試験から臨床試験(医師主導治験)に移行したこと、更には広島大学の特色や強みを生かし、医師主導治験実施を含めた医薬品及びプログラム医療機器の共同研究開発を行い、研究開発の効率化及び推進並びに人材育成などを目的としたオープンイノベーション拠点(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx)を設けるため、2023年4月に広島大学と包括的研究協力に関する協定書を締結しました。本治験はHiRExを主体に実施され、第Ⅱ相試験(医師主導治験)を実施中です。 〔 血管肉腫の治療 〕(対象疾患)血管肉腫は極めてまれな軟部腫瘍で、発症頻度としては、米国において100万人当たり2.1人、英国において100万人当たり1.5人と報告され、日本では100万人当たり2.5人程度と推定されています。部位別では、皮膚が約49.6%と最も多く、その50~60%が頭頸部に発症しています。血管肉腫の治療法には免疫療法、外科療法、放射線療法、化学療法がありますが、予後が悪いため、直ちに集学的治療を実施すべきとの考えが強く、各施設で可能な治療を、病期を問わず実施されている状況です(頭部血管肉腫診療ガイドライン)。血管肉腫の初期治療における化学療法は、国内で公知申請によりタキサン系抗がん剤のパクリタキセル(PTX)が保険適応となり、第1選択薬となっています。しかし、タキサン系抗がん剤を用いた放射線化学療法後においても、その全生存期間の中央値は649日であり、大半の症例において1次治療で長期寛解を得ることは困難な状況です。したがって、2次治療の重要性が認識されていますが確立されておらず、有効性・安全性の高い治療法や治療薬の開発が望まれています。(概要)PAI-1は血管内皮に強く発現しており、その病態生理に深く関わることが知られています。東北大学との共同研究において、血管内皮細胞の腫瘍である血管肉腫はPAI-1を高発現しており、その発現頻度が高い患者では1次治療でのタキサン系抗がん剤の効果が得られにくいことが報告されています。タキサン系抗がん剤の作用機序としては、アポトーシス(*22)(細胞死)の誘導が考えられていますが、1)PAI-1は主として血管内皮から産生され、2)PAI-1を高発現しているがん細胞はアポトーシス耐性であることから、タキサン系抗がん剤とPAI-1阻害薬RS5614を併用することにより、タキサン系抗がん剤の血管肉腫治療効果を増強できる可能性が強く示唆されます。そこで、2023年10月から、タキサン系抗がん剤パクリタキセルが無効となった皮膚血管肉腫患者16例を対象にパクリタキセルとRS5614の併用による有効性及び安全性を評価する第Ⅱ相医師主導治験を実施中です。治験期間は2年間を見込んでおり、東北大学、自治医科大学、九州大学、名古屋市立大学、国立がん研究センター中央病院、がん研究会有明病院などの医療機関で実施しています。本研究で有効性を検証できれば、有効な治療薬のない皮膚血管肉腫患者に対して新たな治療法が提案できます。 〔 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う肺傷害治療薬 〕(対象疾患)新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の感染者の大部分は軽症で経過しますが、高齢者や基礎疾患を持つ患者などでは重症化し、重症の肺炎や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に至る場合があります。軽症例では自宅療養や宿泊療養の措置がとられましたが、発病当初は軽症であっても一部、急速に肺炎を伴い重症化する患者の存在が問題になりました。現在は、重症化しにくいオミクロン株への変化やワクチンの普及などにより、COVID-19の重症化は減少しています。また、2023年5月に、COVID-19の感染症法上の分類が「2類」から「5類」に引き下げられましたが、変異株の問題等、なおも今後の状況を注視する必要があります。自宅あるいは外来で治療を受ける患者の悪化を防ぎ、入院患者の重症化を予防する治療薬は必要であり、当社はこれらの課題を解決するための内服薬を開発し、患者の延命のみならず、医療現場の負担軽減に寄与したいと考えます。(概要)COVID-19による重症肺炎患者では、微小血栓、炎症、線維化など病変が認められます。COVID-19肺炎に極めて特徴的な所見は、凝固系の亢進及び線溶系の低下です。COVID-19肺炎では、インフルエンザ肺炎に比べて肺の微小血栓の形成能が9倍も高いことが知られています。実際に、COVID-19の中程度から重篤の肺傷害を呈するCOVID-19肺炎患者にプラスミノーゲンを投与すると肺傷害が速やかに改善されること、またCOVID-19成人患者では血中t-PA/PAI-1、d-dimer高値など、血液凝固亢進と死亡率が有意に相関することが報告され、線溶系を活性化させるRS5614の有効性が強く示唆されます。実際に、数々の国内外との共同研究で実施した多くの非臨床試験から、RS5614が種々の肺傷害マウスモデルでの病態(気腫、線維化、炎症)を改善し、上皮細胞保護作用を示すことが明らかとなりました。更に、RS5614のヒト第Ⅰ相試験(反復投与)において、RS5614の120 mg投与後8時間をピークとしてPAI-1活性が低下しtPA活性が上昇すること、またこの作用は投与7日目まで維持されることが分かりました。以上、RS5614は線溶系を活性化することでCOVID-19肺炎での微小血栓を溶解し、線維化や炎症などの肺傷害を阻害する可能性が示唆されました。RS5614は、COVID-19の治療に用いられている抗ウイルス薬、ステロイド、中和抗体治療薬などとは作用機序が全く異なります。また、COVID-19に伴う肺傷害の治療として、トシリズマブ等の抗体医薬(注射薬)が治療に用いられていますが、RS5614は経口投与可能な低分子薬剤です。なお、トシリズマブは、炎症を促進する因子のひとつであるIL-6を抑えることにより、炎症性因子の過剰な上昇による肺炎重症化を防ぐことが示唆されていますが、COVID-19の重症化において、上昇した生じた血中のIL-6がPAI-1を介して血栓形成を促進することが重要であると報告されています。COVID-19に伴う肺傷害に対するRS5614の有効性及び安全性を評価するために、国内の7か所の医療機関で多施設共同での前期第Ⅱ相医師主導治験(非盲検試験)を実施しました(AMED「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(第4次)(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択)。本治験は、2020年10月に最初の被験者が登録され、2021年3月に26名で完了という迅速かつ効率的な治験となりました。非盲検試験であることから有効性の検証は困難ですが、主要評価項目(人工呼吸器管理が必要となる酸素化の悪化の有無)では悪化した患者は無く、また副次項目(治験薬投与28日間の生存)では全症例生存、副次項目(治験薬投与開始後の酸素投与必要日数)では5L以上の酸素投与量を必要とする患者は1日目3名から3日目0名に、また2Lより多く5L未満の酸素投与量を必要とする患者は1日目5名から10日目0名になりました。更に、副次項目(治験薬投与前後の胸部CT画像上の肺野病変の割合の変化)では、中止例及び未登録例を除く18例について有意な変化を認めました(p = 0.0018)。治験薬との因果関係の可能性がある重篤な有害事象は無く、安全性が確認されました。後期第Ⅱ相試験(医師主導治験)は、2021年6月から国内主要医療機関(20施設)で開始しました(AMED「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(第5次)(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択)。また、国内の治験と並行して、米国、トルコ共和国でも同薬剤を用いた類似のプロトコールで第Ⅱ相試験(医師主導治験)を実施しました。RS5614は抗ウイルス薬とは作用機序が全く異なり、肺炎に対する内服薬です。現時点で、抗ウイルス薬以外のCOVID-19に伴う肺傷害に対する治療薬は高額な注射薬ですが、RS5614は経口投与が可能であり、化学合成で製造される低分子医薬品であるため、その価格も低く抑えられます。現在、COVID-19は落ち着いていますが、COVID-19の感染症法上の分類が「2類」から「5類」に引き下げられたことに伴い、自宅あるいは外来で治療を受ける患者が更に増加すると考えられます。肺炎を惹起する新たな株の発生に際して、速やかに次相臨床試験(軽症から中等症Ⅰの肺炎患者を対象)を実施できるよう準備をしています。なお、前期及び後期第Ⅱ相医師主導治験の結果は、2024年1月に科学誌『Science Report』に掲載されました。 〔 全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)の治療 〕(対象疾患)全身性強皮症(Systemic sclerosis、SSc)は、皮膚と多くの臓器の血管障害と線維化を特徴とする全身性の自己免疫疾患です。その病因は不明で、病態に立脚した根治的治療は存在しません。SScに伴う線維化は、皮膚の硬化や間質性肺疾患(Interstitial lung disease; ILD)などの臨床症状を引き起こします。国内では、3万人以上が罹患していると推測されており、その死因の7割は疾患関連死で、この内の3割以上はILDによるものです。SSc-ILD患者は、17,000人適度と推定されています。また、ILDは、直接の死因とならない場合にも、高度呼吸機能低下によって日常生活が著しく制限される患者を一定数生むことがわかっています。SSc-ILDに対する治療は、従来、経口ステロイドと細胞の核酸の合成を阻害するシクロホスファミドとの併用が第一選択とされてきましたが、その効果は極めて限定的です。近年、抗線維化薬(*23)であるニンテダニブや抗体医薬品のリツキシマブが保険適用となりましたが、前者の効果はSSc-ILDの進行抑制作用に留まっており、後者はSSc-ILD患者への投与後に間質性肺炎の増悪により死亡に至った例が報告されています(中外製薬株式会社による『適正使用ガイド』より)。したがって、単剤あるいは既存薬との併用において、既に形成された線維化を改善する作用を持つ安価で安全な新規治療薬の開発が望まれています。(概要)SScは炎症、血管障害、線維化を主要3病態とします。RS5614はこれら病態を改善し、特に肺傷害(線維化、炎症)の改善と肺上皮保護作用を有することから(「事業の内容 (2) 当社のコア技術 ②パイプラインの概要 (a) RS5614(PAI-1阻害薬) 〔 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う肺傷害治療薬 〕(概要)」をご参照ください)、SSc-ILDの線維化を抑制する可能性が示唆されます。東北大学との共同研究でブレオマイシン投与による誘導皮膚/肺線維化モデルマウスを用いた非臨床試験の結果、ブレオマイシン皮下投与開始同日からRS5614の1、5mg/kgあるいは対照薬のニンテダニブの10、50 mg/kgを連日経口投与した結果、肺傷害のマーカーである肺ヒドロキシプロリン量をRS5614は用量依存性に低下させ、その効果はニンテダニブより強いことが明らかとなり、RS5614の全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)の有効性が示唆されました。そこで、SSc-ILD患者50例を対象として、RS5614の有効性と安全性を確認するための探索的第Ⅱ相試験(医師主導治験)を、東北大学、東京大学、金沢大学、福井大学、大阪大学、和歌山県立医科大学、群馬大学など複数の国内医療機関で実施中です。本治験は、AMED「難治性疾患実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けて実施しています。2024年12月には、目標症例数である50症例の登録が完了しました。 〔抗老化・長寿研究〕(概要)XPRIZE HEALTHSPAN(https://www.xprize.org/prizes/healthspan)は、人間の老化や長寿に対する治療アプローチに革命を起こし、健康寿命を積極的に10年以上延伸することを目的とし、2030年までに健康寿命を延ばすことができた研究チームに対して、総額1億米ドルを支払うという長寿を課題としたコンペティションです。世界から600を超える応募があり、人間の長寿に対する治療アプローチとして、低分子医薬品、バイオ医薬品(ワクチン、免疫調節剤、モノクローナル抗体、および組み換えタンパク質治療薬)、遺伝子治療、細胞治療、医療機器(医療治療機器、ゲームベースのデバイス、デジタルヘルスデバイス)、電気医療機器、磁気医療機器、サプリメント、機能性食品、食事療法、運動療法、さらにそれらの組み合わせなど様々なモダリティが提案されました。当社は、PAI-1阻害薬RS5614の抗老化・長寿作用に基づき、「老化細胞を除去し、がん化を促進する事なく老化関連疾患を抑制する新たな新規低分子医薬品」のコンセプト(Senolytic drug)で、東北大学、東海大学、広島大学など国内外の研究機関及び医療機関との共同で、昨年末にこのXPRIZE HEALTHSPANに応募し、TOP40(セミファイナリスト)に入賞し、賞金25万米ドルを獲得しました。セミファイナリストは、2026年3月末までに1年以内のセミファイナル臨床試験を実施し、その報告書をXPRIZE HEALTHSPAN評価委員会に提出します。このセミファイナル臨床研究成績を元に、2026年後半にTOP10(ファイナリスト)が選出され(賞金100万米ドル)、最終コンペティションのための4年のファイナル臨床研究が実施されます。ファイナル臨床研究を実施したTOP10のチームの中で最も優れた研究に対しては、寿命を延ばした年数に応じて賞金が与えられます(最大8,100万米ドル)。 XPRIZE Healthspansスケジュール2025年5月12日        セミファイナリスト発表(40チーム、賞金25万米ドル)2025年8月1日~ 2026年3月 セミファイナル臨床試験実施2026年3月末        セミファイナル臨床試験報告書提出2026年7月~9月      ファイナリスト発表(10チーム、賞金100万米ドル)2026年10月~2029年12月   ファイナル臨床試験実施2030年2月         ファイナル臨床試験報告書提出2030年12月         グランプリ発表 〔 RS5441_男性型脱毛症及び加齢性脱毛症外用薬 〕(対象疾患)毛髪は複数の相からなる周期を持って成長し、毛が伸びる成長期、毛が抜けやすくなる退行期、毛が抜ける休止期があります。男性型脱毛症(AGA)は,毛周期を繰り返す過程で成長期が短くなり,休止期にとどまる毛包(毛根を包み成長させる組織)が多くなることを病態の基盤とし,臨床的には前頭部や頭頂部の頭髪が,軟毛化して細く短くなり,最終的には頭髪が皮表に現れなくなる現象で、いわゆる禿げになります。外見上の印象を大きく左右するのでQOLに与える影響は大きいと考えられます。日本人男性の場合は、20歳代後半から徐々に進行して40歳代以後に完成され、その頻度は50代以降で40%以上になります。男性型脱毛症の発症には遺伝と男性ホルモンが関与しますが、遺伝的背景としては X 染色体上に存在する男性ホルモンが関与します。男性型脱毛症(AGA)に対して著明な発毛・育毛効果を認める薬はまだありません。外用薬で処方薬として認められているミノキシジルの効果は弱く、男性ホルモンの代謝に関わる酵素の阻害剤であるフィナステリドは性欲減退や勃起不全などの副作用があります。(概要)米国ノースウェスタン大学でPAI-1を過剰発現するマウスを作成したところ、脱毛が著しいことが明らかとなりました(J Thromb Haemost 2007)。当社のPAI-1阻害薬RS5441を当該マウスに与えたところ、著明な発毛が認められました。RS5441の投与により総毛包数が93.5%増加し、退行期の毛包数は64%減少しましたが、成長期と休止期の毛包数はそれぞれ62%と80%増加し、8週間の投与期間にわたって外観は正常化しました。この効果は、毛包細胞の増殖と関連することが示されています。以上のことから、PAI-1は脱毛症及び毛包の循環と成長の障害に関連しており、PAI-1阻害薬が脱毛症の予防と治療に役立つ可能性が示唆されました。当社は、2016年6月に皮膚科疾患用途におけるRS5441の独占的権利をエイリオン社に許諾しました。2023年4月及び6月にエイリオン社が行使したオプション権の対価を受領し、2024年7月から同社は第Ⅰ相試験を開始したため、2024年7月に追加のマイルストーンを受領しました。第Ⅰ相臨床試験に先駆けて実施された非臨床試験では、男性型脱毛症患者の頭皮組織移植片60検体が5%溶液ET-02(RS5441)に暴露され、治療4ヶ月目の発毛率が同じ実験移植モデルを用いた標準治療薬ミノキシジル(N=103)による発毛率の4倍高いという結果が得られました。非臨床試験成績を踏まえて、2024年7月1日、外用薬ET-02(RS5441)の男性型脱毛症(加齢性脱毛症)治療に対する安全性と有効性を評価する第Ⅰ相臨床試験が開始されました。この二重盲検プラセボ対照試験は、プラセボ、ET-02の1.25%または5%溶液のいずれかで構成される二重盲検プラセボ対照試験を米国の3つの医療機関、合計24人の被験者で実施しました(1日1回の外用、28日間投与)。その結果、ET-02(RS5441)は安全で、良好な耐容性を示し、高用量の5%ET-02群で有意な反応が観察されました。5%ET-02群は、5週目の終了時点において、プラセボ群と比較して非軟毛(または正常)の毛数が6倍に増加しました。1か月の治療後、5%ET-02は、男性型脱毛症の治療薬であるミノキシジルの別の臨床試験で測定された4か月の治療後の局所ミノキシジルよりも多くの非軟毛の成長を示し、実質的に変化のなかったプラセボ群と比較して、非軟毛の毛髪の太さを約10ポイント改善しました。この第Ⅰ相臨床試験の結果は、非臨床試験で確認された5%ET-02 の有効性を実証しています。ET-02(RS5441)の安全性と有効性を確認することを目的に今後、第Ⅱ相臨床試験(N=150)を開始する予定です。第Ⅱ相試験における最初の患者登録が行われた際にマイルストーンを受領し、その後も試験の進捗によってマイルストーンに応じて一時金を受領する予定です。また、将来的にET-02が商業化された場合にはエイリオン社からロイヤリティを受領する予定です。なお、特許期間満了(2029年3月31日)後も一定期間((a) ET-02の製品が当社許諾特許の有効な請求範囲でカバーされる最終日、(b)ET-02の製品に関する規制またはデータ独占権の満了日、および(c)ET-02の製品の最初の販売から10年後、のいずれか遅い日まで)ロイヤリティが受領できる契約となっております。 (b) RS8001(ピリドキサミン)〔 ピリドキサミンと精神疾患 〕私たちが喜怒哀楽を感じたり、様々なことを感じたりする時、脳内では「神経伝達物質」が行き交っています。神経伝達物質は神経細胞と神経細胞を接続する部分(シナプス)から分泌され、他の神経細胞へ情報を伝達します。神経伝達物質には様々な種類があり、その中でアミノ基を有した物質を脳内モノアミン(*24)と言います。代表的なものとして、抗ストレス作用を有するγ-アミノ酪酸(GABA)(*25)、精神安定をもたらすセロトニン(*26)、意欲や多幸感を高めるドーパミン(*27)などがあり、これらは月経前症候群 / 月経前不快気分障害、更年期障害の精神疾患などの発症に関与することが知られています。当社で開発中のRS8001(ピリドキサミン)は、天然ビタミンB6のひとつのタイプです。水溶性のビタミンで、極めて安全な医薬品ですが、日本を含めて先進国では未承認の医薬品です。ピリドキサミンは、GABAやセロトニンの産生や代謝を改善し、脳内でのこれら神経伝達物質の増加をもたらすことが、化学反応や動物試験から推測されています。当社は、東京都医学総合研究所と共同で、自殺や殺人といった自傷他害行為を伴う重篤な統合失調症の多発家系からグリオキサラーゼ1(GLO1)遺伝子変異が原因であることを見出したことを皮切りに精神疾患領域における検討を開始しました。グリオキサラーゼは解糖系から生成する反応性カルボニル化合物(RCOs)であるメチルグリオキサールを無毒化するので、グリオキサラーゼの活性低下に伴い蓄積するRCOsにより脳内モノアミンが捕捉されてしまうことが、統合失調症の一部の発症機序であると示唆されました。また、東北大学との共同研究で、ピリドキサミンがカルボニル化合物と脳内モノアミンの反応を阻止することを発見しました。ピリドキサミンは、脳内モノアミン生合成に不可欠な補酵素としてその産生を促進するだけでなく、カルボニル化合物による脳内モノアミンの分解を阻害することで、脳内モノアミンの量を調節する作用を有すると考えられます(図表14)。 < 図表14 ピリドキサミンの作用機序と天然ビタミンB6の構造 >■ピリドキサミンの作用コンセプト (出典:東北大学) 実際に、マウスを用いた実験において、脳の細胞外液に含まれる各種伝達物質を、最新の質量分析技術で解析したところ、ピリドキサミン投与により、額のすぐ後ろにある前頭前皮質ではGABA濃度は変化しませんでしたが、脳の深いところにある海馬及び線条体では脳内GABA濃度が上昇していました。神経細胞に光感受性分子を発現するラットを使い、光ファイバーを介して海馬の神経細胞を刺激してピリドキサミンの作用を検討したところ、光刺激を繰り返すとラットは興奮性の発作を引き起こしますが(4日目がピークとなる)、ピリドキサミン投与により発作は著明に抑制されました。このようにピリドキサミンは神経細胞の過剰な興奮性を抑制します。 〔 ピリドキサミンの薬剤概要 〕ピリドキサミンの製造販売承認申請に必要となる非臨床試験の成績は、薬機法に基づく医薬品GLP(医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令)とICH(医薬品規制調和国際会議)のガイドラインに従って収集しました。 非臨床安全性GLP試験1)安全性薬理試験ではhERG試験で陰性、2)ラットの中枢神経系(1,000 mg/kg)、イヌの心血管系及び呼吸器系試験(300 mg/kg)で陰性、3)一般毒性試験ではラットの

事業の優位性(モート)

事業の質(有価証券報告書から抽出)
数字に出ない事業の性質を、同じ物差しで全銘柄そろえています。FY2025時点の記載が出典です。
参入障壁新規参入を阻む要因の種類 規制
医薬品等の開発には長い年月と多額の研究費用を要し、規制当局からの承認及び認可の取得が必要。
景気敏感度業績が景気循環にどれだけ振られるか ディフェンシブ
設備投資の性質稼いだ現金がどれだけ設備維持に消えるか 軽い(資本不要)
規制依存規制は障壁にも足枷にもなる 高い
会社が挙げる主要リスク:医薬品、医療機器及びプログラム医療機器開発の不確実性 / 収益の不確実性 / 法的規制等に係る不確実性
同じ条件で他の銘柄を探す → 定性スクリーニング(価格決定力・参入障壁・景気敏感度などで絞り込めます)
モート総合 0 / 25 5類型それぞれの強度と、そう判定した根拠
無形資産☆☆☆☆☆
根拠:弱いブランド・特許・許認可

レナサイエンスは未公開企業であり、上場企業のようなブランド力、特許ポートフォリオの公開情報、規制ライセンス、IPに関する具体的な情報は現時点では入手困難です。そのため、無形資産による競争優位性は評価できません。

スイッチングコスト☆☆☆☆☆
根拠:弱い乗り換えの手間・コスト

医薬品開発におけるスイッチング・コストは、特定の治療法や技術が確立されるまでは評価が困難です。レナサイエンスが開発中の技術やパイプラインに関する詳細情報が不足しており、顧客(製薬会社や医療機関)が他社製品へ乗り換える際のコストを具体的に評価できません。

ネットワーク効果☆☆☆☆☆
根拠:弱い利用者増が価値を生む

医薬品開発は、研究開発の成果が直接的な競争優位性につながるため、ネットワーク効果が発生しにくいビジネスモデルです。レナサイエンスの事業内容からは、ユーザー数の増加がサービスの価値を高めるようなネットワーク効果は想定されません。

コスト優位☆☆☆☆☆
根拠:弱い同じ物を安く作れる

医薬品開発は、研究開発費、臨床試験費、薬事申請費など、多額の先行投資が必要であり、コスト優位性を確立することは極めて困難です。レナサイエンスの具体的な製造プロセスやサプライチェーンに関する情報がないため、コスト面での優位性は評価できません。

規模の経済☆☆☆☆☆
根拠:弱い規模が参入障壁になる

レナサイエンスはバイオベンチャーであり、現時点では事業規模が小さく、業界全体に対する影響力も限定的です。医薬品業界における効率的な規模の経済が働くような寡占市場を形成しているとは考えにくく、スケールによる競争優位性は評価できません。

  • 多様なモダリティと疾患領域
    医薬品、医療機器、AIプログラム医療機器といった多様な治療手段(モダリティ)と、老化関連疾患、女性・小児疾患といった幅広い疾患領域を対象とすることで、特定の技術や市場に依存しない柔軟な事業展開が可能です。これにより、医療現場の多様な課題に対し、最適なソリューションを提供できる強みがあります。
  • 効率的な研究開発体制
    外部機関(大学、医療機関)との連携を重視し、オープンイノベーションラボの設立や医師主導治験の活用により、少ない人的・資金的リソースで多くのパイプライン開発を進めています。基礎研究から臨床開発まで一貫して医師が関わることで、医療現場のニーズに即した効率的な開発を実現しています。
  • 自社開発と外部シーズの融合
    自社で開発したPAI-1阻害薬や極細内視鏡などの「自社シーズ」に加え、大学などからの「外部シーズ」も積極的に取り入れ、多様なパイプラインを構築しています。これにより、研究開発のリスクを分散しつつ、新たな医療用途の発見や適応拡大にも取り組むことで、事業価値の向上を目指しています。
出典: FY2025 有価証券報告書(AI要約)

経営戦略

有価証券報告書「経営方針・対処すべき課題・MD&A」の全文を見る(年度切替)
経営方針・経営戦略
1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。(1)会社の経営方針当社は、医療現場の課題を解決するための多様なモダリティ(医薬品、医療機器、AIを活用したプログラム医療機器)を、医療現場で研究開発し、医療イノベーション創出に貢献することで、ヒトが心身ともに生涯にわたって健康を享受できるための新しい医療を創造することを経営理念として掲げています。 (2)経営戦略① 多様なモダリティ開発当社は特定の技術に特化したベンチャーでは無く、広くモダリティ(医薬品、医療機器など治療の様式)の開発に取り組みます。医薬品産業も、低分子医薬品を中心とした開発から、バイオ医薬品(抗体医薬、核酸医薬品、遺伝子治療、細胞治療)へと、モダリティが多様化しつつあります。更には近年の工学系や情報系技術の進歩により、情報・工学技術との融合による新たな医療の模索も進んでおり、欧米や国内の大手製薬企業では既に医薬品単体のビジネスから医療ソリューション全般にわたるビジネスへの転換を迎えております。低分子医薬品、核酸医薬品、医療機器、更にはAIを活用したプログラム医療機器など、医療現場での治療のオプションも広がりつつあります(図表23)。当社もこれまで主体であった化学系や生物系の研究に加えて、工学系や情報系の研究にも視野を広げ、医療課題を解決する多彩で魅力ある研究と事業のポートフォリオを創出します。 < 図表23 医療の変遷とモダリティの広がり >(出典:当社作成) 広くモダリティ開発に取り組むことには、早期の黒字化と将来の収益確保の両立という経営面での利点もあります。医薬品事業は、研究開発費や研究開発期間が比較的大きく事業リスクが高い分野ですが、上市後には極めて高い収益が期待できる事業です。一方、医療機器やプログラム医療機器の事業収益は医薬品と比べると小さいですが、研究開発費や研究開発期間のリスクは小さく、早期に当社収益につながります。当社は、これら2つの事業ポートフォリオを、同時に複数のパイプラインで進めることにより、リスクを分散しながら早期の黒字化と将来の収益の拡大を目指します。 <図表24 当社の事業ポートフォリオ > (出典:当社作成) 当社は、AMEDの令和6年度「スマートバイオ創薬等研究支援事業」に分担研究者として申請し、「革新的核酸医薬技術を基盤とした神経・筋難病治療薬の開発」に採択されました。本事業では、大阪大学、京都大学とのオープンイノベーションに基づき、難病疾患である多系統萎縮症・パーキンソン病、筋ジストロフィーを対象として、アンチセンス核酸(ASO)やアンチmiRNA核酸(AMO)の核酸医薬シーズの開発を実施します。核酸医薬は従来の低分子医薬や抗体医薬では狙えない遺伝子を創薬ターゲットとする新しい創薬モダリティですが、副作用や標的臓器へのデリバリーシステムなど課題も多いです。国立大学法人大阪大学大学院薬学研究科の小比賀聡教授は、世界に先駆け架橋型人工核酸(LNA/BNA)の創製に成功し、核酸医薬品の革新的基盤技術となる有効性向上のための人工核酸(AmNA,GuNA,scpBNA,BANAなど)や安全性向上のための化学修飾(糖部修飾5'-cpや塩基部修飾5-OH-Cなど)、さらには脳や筋肉へ核酸医薬を送達させるデリバリー技術などを確立し、核酸医薬品の抱える課題の幾つかを解決してきました。この人工修飾核酸を活用した創薬基盤技術と当社の有する医師主導治験における実績と経験を活かして、低分子医薬品に加えて核酸医薬品の研究開発に着手しています。また、長寿やアンチエンジング(抗老化)は、超高齢化を背景に急成長しているセルフメディケーション分野、OTC医薬品、さらには動物医薬品市場の重要なテーマです。当社が開発したPAI-1阻害薬RS5441の脱毛症治療薬としての実例もあり、当社のPAI-1阻害薬のアンチエンジング研究をさらに推進し、医療用医薬品以外の適応に関しても検討したいと考えます。 ② 少子高齢化の医療課題世界保健機関(WHO)では、高齢化や生活習慣に伴う重要な疾患(老化関連疾患)を「非感染性疾患(NCDs)」として位置付け、がん・糖尿病・呼吸器疾患・循環器疾患が対象となっています。2024年の全世界の死亡者数の74%がこれら疾患で亡くなっています(世界保健機関、Health Topics)。当社の開発品目は、これら4疾患を全て対象としており、先進国のみならず新興国でも重要な医薬品を開発しています。また、少子化問題も重要な社会的課題ですが、少子化問題に注力している製薬企業は多くはありません。当社は、女性(更年期障害、乳がん病理診断プログラム医療機器)や小児の医療課題にも注力しています。PAI-1阻害薬RS5614の抗老化・長寿作用に基づき、「老化細胞を除去し、がん化を促進する事なく老化関連疾患を抑制する新たな新規低分子医薬品」のコンセプト(Senolytic drug)で、XPRIZE Healthspanに応募し、TOP40に入賞したので、今年度セミファイナル臨床試験を実施予定です。当社は、『ヒトが心身共に生涯にわたって健康を享受できるための新しい医療を創造したい』との目標を掲げて研究に取り組んでいますが、老化関連疾患の治療薬開発は当社の重要な研究及び事業の課題です。日本を含む先進国では超高齢化が進み、平均寿命と健康寿命(心身ともに健康で自立して生活できる期間であり、平均寿命から寝たきりや認知症などの介護状態の期間を差し引いた期間)の差が約10年あることが大きな課題となっています。加齢と共に生じる種々の疾患、例えば、がん、循環器疾患、呼吸器疾患、糖尿病などを治療できれば、健康寿命の延伸に繋げることができます。これら4疾患は全世界の死亡者数の70-80 %に至り、世界保健機関(WHO)でも老化や生活習慣に伴う重要な疾患として位置付けられています。当社は、これら4疾患の治療薬を含めた健康寿命を伸ばすための医薬品開発という医学的あるいは社会的にも重要な課題を解決すべく取り組んでおり、XPRIZE Healthspanという世界的な長寿コンペティションで、当社の開発している医薬品のポテンシャルを評価いただきたいと考えます。 ③ アカデミアなどの研究機関や医療機関とのネットワーク医療イノベーション創出におけるアカデミアなどの研究機関や医療機関の役割が広がりつつあります。低分子医薬品と異なり、バイオ医薬品の技術基盤やシーズは研究機関にあります。また、AIを活用したプログラム医療機器の開発に必要な医療データは企業ではなく医療機関が有しています。当社は、多くの医療機関や診療科と複数の医療分野で医師主導治験を実施しているので、医師から医療現場の課題を把握する機会が多く、またAI開発に必要な医療データも比較的短期間でビッグデータが取得しやすい環境にあります。アカデミアなどの研究機関や医療機関とのネットワークを更に効率的に拡大することを目的として、東北大学などに研究開発拠点を持ち、オープンイノベーションを推進しています(図表25)。 < 図表25 当社が有する研究機関・医療ネットワーク > (出典:当社作成) ④ 基礎研究から医師主導治験まで一気通貫での開発当社は基礎研究から治療のコンセプトやアイデアを着想し、医薬品や医療機器などの「モノづくり」を行っています。適切な動物や細胞を用いた非臨床試験を終了し、必要なヒトにおける臨床試験(治験)で実証し、販売の許可を受けるための承認申請に近いところまで自社で対応します(図表26)。例えば、血液がんの一種である慢性骨髄性白血病および悪性黒色腫の治療薬は現在、承認申請に必要な検証的臨床試験である第Ⅲ相試験を実施中です。第Ⅲ相試験まで自社で実施する理由は、希少疾患などの治療薬は大手製薬企業からは注力されにくい場合が多いことや、第Ⅲ相試験まで自社で実施することにより、開発品の価値を高め大きな事業収益が期待できるからです。 < 図表26 当社のビジネス・モデル >(出典:当社作成) ⑤ 医師主導治験の活用当社は、基礎研究から臨床試験まで広く研究を実施している医師(physician-scientistという)との共同研究を重視しています。基礎研究分野で共同研究を行っている多くの研究者は医師でもあり、自ら治験調整医師(治験責任者)として医師主導治験を実施することが可能です。基礎研究と臨床研究を実施する研究者が同じである場合が多いので、基礎研究から医師主導治験まで一気通貫で実施、効率的な開発ができます。当社の治験は基本的に医師主導治験で実施しています。当社は、これまで29件に至る医師主導治験の実績(図表27)があり、医師主導治験には多くの利点があります。医師自ら治験を立案及び実施できますので、医療現場での課題や実情に合った試験計画や枠組みで実施できます。2003年の薬事法改正によって、医師自らが治験を実施する医師主導治験の道が開けましたが、治験に必要な医薬品を安全性試験、製剤を含めて全て自ら準備することは依然として難しい状況です。当時は、海外承認国内未承認の新薬や適応外使用薬(いわゆるドラッグラグ)も数多く存在したので、国内未承認薬や適応外使用薬が医師主導治験の主流でした。治験の実施し易さ(製造から安全性試験など既存のデータで対応可能)という点からも、多くの大学等の医療機関の医師が海外承認(国内未承認)の新薬や適応外使用薬の治験を医師主導で取り組みました。また、製薬企業が取り組まない希少疾患を対象に既存医薬品を用いて医師主導治験として実施される場合もありました。そのような背景から、「医師主導治験は適応拡大やオーファン疾患が対象」という印象が定着していた時期もございます。しかし、当社が行う治験は全て未承認の薬剤(first-in-human)を対象としており、海外承認薬(国内未承認)や既存薬の適応拡大のための治験ではありません。 < 図表27 医師主導治験等の数 >(29件の内訳は、医師主導治験26件、臨床性能試験2件、治験外臨床性能試験(臨床研究)1件)(出典:当社作成) ⑥ 外部機関とのエコシステムの形成 これまでの製薬企業や創薬ベンチャーの多くはパイプラインのバリューチェーン(開発の全ての工程の積み上げ)を自社で全て構築し、事業価値を高めることに注力してきました。しかし、医薬品のように成功確率が極めて低く、開発期間が長く、投資が大きな分野では研究開発及び事業リスクが大きいため、多くのパイプラインを組み合わせたポートフォリオを形成し、リスク分散をすることが不可欠です。大手製薬企業は潤沢な資金を背景に、多くのパイプラインのバリューチェーンを自社独自で形成するという既存の枠組みでの開発ができますが、ベンチャーのように資金が潤沢でない場合なかなか難しいのが現状です。当社は外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用してコストを抑えるなど、効率の高い開発を実践してきました。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理などが異なります。少ない人的リソースや経費で多くのパイプラインを広げ、モダリティを展開し、成果も出つつあります。自己資源や社内環境のみに注力するのではなく、むしろ外部資源や外部環境にも注力し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築していきたいと考えています。オープンイノベーションラボの設立もその一環として推進しています(図表28)。 < 図表28 当社の事業戦略 > ⑦ オープンイノベーションラボ(TREx、HiREx、TREx-Longevity Lab)の設立当社は創業当時、腎臓病の疾患動物モデル飼育施設を含む研究所を神奈川県・川崎バイオ特区に有しておりましたが、研究対象が腎臓病から多くの疾患領域に拡大し、研究段階が基礎から治験へ進むにつれ、当初の腎臓病の疾患動物モデルを主体とした研究所は閉鎖しました。しかし、多くの疾患領域に対する最先端の科学技術成果の活用の「場」、医師や研究者とのFace to Faceの交流の「場」、行政や医療産業企業とのオープンイノベーションの「場」が必要であると考え、2022年1月、東北大学に東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Tohoku University x Renascience Open innovation Labo:TREx)を開設しました(図表29)。TRExは2021年4月に締結された「仙台市と東北大学との地域経済発展に関する協定」に基づく拠点立地の第一号案件でもあります。TRExでは、1)東北大学大学院医学系研究科の研究者、東北大学病院の医師、東北大学メディシナルハブに参画する企業、行政など異業種との連携が加速され、2)既存の開発パイプラインの研究推進と複数の新規シーズの導入ができ、3)医師主導治験の実施、医療データの取得、公的資金獲得、許認可戦略の立案などを効率的、迅速に対応できており、4)人材の育成と確保にもつなげられています。更に、第二のオープンイノベーションラボとして、2023年4月には広島大学に広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx)を開設しました。広島大学は、経済産業省の「ワクチン生産体制強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業」に国内大学では唯一採択され、2022年10月に「PSI GMP教育研究センター」を新設し、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンをはじめ、核酸やペプチド等、中分子を主体とした治験薬製造施設を有しています。また、広島大学は学術・社会連携室の中にオープンイノベーション本部を設置し、地方におけるイノベーション拠点として新産業の創出を目指しています。広島大学の特色や強みを生かした研究開発拠点として、産学の連携を通して、医師主導治験実施を含めた医薬品及びプログラム医療機器の共同研究開発を行い、研究開発の効率化及び推進並びに人材育成などを目的とし「包括的研究協力に関する協定」を締結しました。本協定では、HiRExを活用し複数の医師主導治験(医薬品)、臨床性能試験(プログラム医療機器)を継続的に実施しつつ、広島大学の医療シーズの共同開発も視野に入れています。現在の活動実績として、具体的には2023年度から非小細胞肺がん及び皮膚血管肉腫の第Ⅱ相医師主導治験並びに維持血液透析医療支援プログラム医療機器の臨床性能試験を実施しています。また、長寿研究の加速を目指し、2025年1月に、ノースウエスタン大学Potocsnak Longevity Institute(長寿研究所)の日本の研究室(TREx-Longevity Lab)をTREx内に設立することを、同研究所のDouglas E. Vaughan所長と合意しました。 < 図表29 TRExの風景 > (3)目標とする経営指標当社の事業収益は、医薬品、医療機器、プログラム医療機器の研究開発成果を実用化企業に導出して得る一時金、マイルストーン及びロイヤリティ収入がメインです。そのため下記の4つの経営指標を掲げています。① 臨床段階にある開発パイプライン数パイプラインを実用化企業に導出するためには、非臨床試験や第Ⅰ相試験(健常者での安全性確認試験)では難しく、少なくとも患者での有効性の確認(第Ⅱ相試験)の治験が終了していることが必要です。そのため、臨床段階(特に第Ⅱ相試験以後)にある開発パイプライン数は重要な数値目標になります。当社は当事業年度末日現在において、2026年3月期に臨床試験を実施予定のパイプラインを9本(医師主導6本、企業治験1本)有しており、内訳は第Ⅲ相試験2本(慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫)、第Ⅱ相試験4本(非小細胞肺がん、皮膚血管肉腫、全身性強皮症、脱毛症)、臨床研究2本(更年期障害、抗加齢)、承認申請のための臨床性能試験1本(維持血液透析医療支援プログラム医療機器)です。2024年3月期、2025年3月期に臨床段階にある開発パイプライン数がそれぞれ9本及び10本であることからも、順調に開発を実施しています。臨床開発は販売の許可を受けるための承認申請に近いところまで自社で対応します。例えば、2022年12月に承認を得た医療機器(極細内視鏡)は、製品コンセプトから試作品開発、非臨床試験の実施、検証のための医師主導治験まで複数の大学と共同で開発を進め、当社が取得した成績で承認申請を行いました。また、血液がんの一種である慢性骨髄性白血病および悪性黒色腫の治療薬は現在、承認申請に必要な検証試験である第Ⅲ相試験を実施中です。第Ⅲ相試験まで実施する理由は、希少疾患などの治療薬は大手製薬企業からは注力されにくい場合が多いことや、開発品の価値を高めることにより、大きな事業収益が期待できるからです。AIを活用したプログラム医療機器も承認申請のための臨床性能試験まで実施しています(維持血液透析医療支援プログラム医療機器)。今後は慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫の第Ⅲ相試験に特に注力するものの、継続的に少なくとも年間5件程度の治験を医師主導治験で実施することを目標として掲げています。 ② 契約締結パイプライン数当社は、製品の開発権、製造権、販売権等をライセンスアウトすることで、契約一時金、開発の進捗に応じて支払われるマイルストーン収入、製品上市後に売上高の一定割合が支払われるロイヤリティ収入、売上高に対する目標値を達成するごとに支払われる販売マイルストーン収入等を得る事業モデルを採用しています。また、出口企業とは、ライセンス契約に至る前の比較的早期の研究開発段階において、将来のライセンス契約を前提としたオプション権付き共同研究契約(オプション契約)を締結することもあります(図表4 事業系統図の(共同研究))。この場合、当社は、パートナー企業から共同研究費を得ることで、自社の費用負担を抑えつつ研究開発を実施できるメリットを得られます。当社は、現在5本の契約締結パイプライン数を有しており、内訳はライセンス契約3本(エイリオン社に脱毛症など皮膚疾患治療薬、ハイレックスメディカル社にディスポーザブル極細内視鏡、チェスト株式会社に呼吸機能検査診断プログラム医療機器)、オプション契約等2本(ニプロ株式会社に維持血液透析医療支援プログラム医療機器、東レ・メディカル株式会社に透析装置搭載型AI)です。 ③医師主導臨床試験数当社は、これまでに蓄積してきた多くの医師や医療機関とのネットワークから、多くの診療科にわたる開発が可能で、開発領域も特定の疾患に偏っていません。当社の医薬品・医療機器開発における開発パイプラインの多様性と多くの疾患・診療科・医療機関で行われている29件に至る医師主導臨床試験の実績は、当社の有する医療機関とのネットワークと医療現場を重視する特徴の証です。当社には、医師主導臨床研究の経験やノウハウが蓄積されており、これを更に加速することで事業価値を向上できると考えています。2024年3月期の医師主導臨床研究実施数は9件(医師主導治験6件、臨床研究1件及び検証試験である臨床性能試験2件)、2025年3月期の医師主導臨床研究実施数は10件(医師主導治験6件企業治験1件、臨床研究1件及び検証試験である臨床性能試験2件)、2026年3月期の医師主導臨床試験実施予定数は9件(医師主導治験5件、企業治験1件、臨床研究2件及び検証試験である臨床性能試験1件)と着実に実施しています。慢性骨髄性白血病治療薬は第Ⅲ相試験の患者登録が完了し、悪性黒色腫治療薬の第Ⅲ相試験を実施中ですが、今後も希少疾患では第Ⅲ相試験まで自社で実施したいと考えています。AIを活用したプログラム医療機器においても承認申請のための検証試験である臨床性能試験を実施しています(維持血液透析医療支援プログラム医療機器)。今後も継続的に少なくとも年間5件程度の治験及びその他検証試験等を医師主導で実施することを目標として掲げています。AIを活用したプログラム医療機器に関しては、探索レベルでは年間10件程度のシーズ開発が当社のリソースから適した数と判断しています。この中で約3割程度が実用化レベル(臨床性能試験など臨床試験を実施)に移行すると考えています。 ④ 研究開発費当社の成長や将来の収益を考えると、上記経営指標である臨床段階にある開発パイプライン数、契約締結パイプライン数、医師主導を含む臨床試験実施数の拡大が望ましい一方、医薬品の研究開発、特に治験の実施には多額の研究開発費が必要です。当社は、開発シーズを、医師主導治験を含む臨床試験を活用しながら開発し、製薬企業等へライセンスアウトするビジネス・モデルを基本としているため、高額な研究開発費を自社で負担する必要があります。そこで、研究開発費(特に自己資金)は重要な経営指標と考えています。開発パイプライン数及び医師主導臨床研究の実施数は順調に増加しており、全体の研究開発費は2023年3月期23,524万円、2024年3月期23,633万円、2025年3月期13,286万円となっております。これらリスクの高い医師主導治験に対しては、公的研究助成金を積極的に活用することで、研究開発費の自己負担の軽減に努めてきました。その結果、2023年3月期19,280万円、2024年3月期13,317万円、2025年3月期6,194万円の公的資金が獲得でき、自己負担の研究開発費は2023年3月期4,244万円、2024年3月期10,316万円、2025年3月期7,092万円に抑えることができました。現在、医薬品では医師主導治験を実施中の慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫、全身性強皮症及び臨床研究実施中の更年期障害が、プログラム医療機器では糖尿病治療支援プログラム医療機器及び維持血液透析医療支援プログラム医療機器が公的資金を確保できています。当社の研究開発の強みは高い効率性とスピード感と考えています。当社は外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用してコストを抑えるなど、効率の高い開発を実践してきました。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理などが異なります。少ない人的リソースや経費で多くのパイプラインを広げ、モダリティも展開できていますので、成果も出つつあります。自己資源や社内環境のみに注力するのではなく、むしろ外部資源や外部環境にも注力し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築していきたいと考えます。TRExやHiRExなどオープンイノベーションラボの設立もその一環として推進しています。自己負担の研究開発費を抑えつつ、多くの臨床段階にある開発パイプライン数と医師主導治験実施数を増やし、最終的に契約締結パイプライン数を増やすことが重要な経営指標と考えています。当社は、2021年9月に東京証券取引所マザーズ市場に上場し、公募増資及びオーバーアロットメントによる売出しに関連した第三者割当増資により総額1,653,616千円の資金調達を行いました。この調達資金を活用して、既存のパイプラインの開発(慢性骨髄性白血病や悪性黒色腫などの医師主導治験の実施)、新規プロジェクトの導入と医師主導治験の実施、AIを用いたプログラム医療機器の開発を計画していました。しかし、医薬品では慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫、全身性強皮症及び更年期障害が、プログラム医療機器では糖尿病治療支援プログラム医療機器及び維持血液透析医療支援プログラム医療機器も公的資金が確保できていることから、当初の充当予定時期よりも資金の充当時期が大幅に先送りになっております。 < 図表30 当社の経営指標 > (4)経営環境バイオベンチャーの取り組む最先端医療研究は、環境変化のスピードが極めて早いと考えられ、潜在的な競争相手に先行し、他社の知的財産権を上回る開発をする必要性があります。医薬品もこれまでの化学を基盤とする低分子と異なり、近年は抗体医薬、核酸医薬や遺伝子治療といったバイオ医薬品が主流に成りつつあります。更に、今後は、ビッグデータや人工知能など情報系技術を取り入れないと、競争の激しい医療分野での開発は難しくなります。医療のあり方もブロックバスターから個別化医療へ大きく変遷しています。技術も日進月歩で進んでいます。重要なことは、最先端の研究、技術、シーズをいち早く取り入れる枠組み、速やかに臨床現場で実証することと考えます。このため、多くの疾患領域に対する最先端の科学技術成果の活用の「場」、医師や研究者とのFace to Faceの交流の「場」、行政や医療産業企業とのオープンイノベーションの「場」が必要であると考え、2022年1月、東北大学に東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Tohoku University x Renascience Open Innovation Labo:TREx)を開設しました。TRExでは、1)東北大学大学院医学系研究科の研究者、東北大学病院の医師、東北大学メディシナルハブに参画する企業、行政など異業種との連携が加速され、2)既存の開発パイプラインの研究推進と複数の新規シーズの導入ができ、3)医師主導治験の実施、医療データの取得、公的資金獲得、許認可戦略の立案などを効率的、迅速に対応できており、4)人材の育成と確保にもつなげられています。具体的には、全身性強皮症や血管肉腫などの新規医薬品パイプライン、乳がん病理診断、心臓植込み型デバイス患者における不整脈・心不全発症予測、人工心臓患者における血栓発生予測などの新規プログラム医療機器パイプラインが新たに立ち上がりました。さらに、日本電気株式会社、NECソリューションイノベータ株式会社、チェスト株式会社、株式会社ハイレックスコーポレーション、株式会社ハイレックスメディカル、ニプロ株式会社、東レ・メディカル株式会社などの契約締結につながっています。更に、第二のオープンイノベーションラボとして、2023年4月には広島大学に広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx)を開設しました。広島大学は、経済産業省の「ワクチン生産体制強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業」に国内大学では唯一採択され、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンをはじめ、核酸やペプチド等、中分子を主体とした治験薬製造施設を有しています。広島大学の特色や強みを生かした研究開発拠点として、産学の連携を通して、医師主導治験実施を含めた医薬品及びプログラム医療機器の共同研究開発を行い、研究開発の効率化及び推進並びに人材育成などを行います。具体的には2023年度から非小細胞肺がん及び皮膚血管肉腫の第Ⅱ相医師主導治験並びに維持血液透析医療支援プログラム医療機器の臨床性能試験を実施しています。TRExやHiRExの研究環境を活用することにより、更に効率的かつ迅速な研究開発が期待できます。また、社員は積極的にオープンイノベーション拠点でTRExやHiRExに参画しています。特に研究開発に携わる社員はこのような外部環境で研究開発に取り組んでおり、多様な環境ならではの経験と教育、啓発が可能となります。 (5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題① コーポレート・ガバナンス及び経営体制の強化当社は、事業環境の変化に対応した迅速な意思決定を重視し、経営の効率性を一層高めるとともに、継続的な事業発展、持続的な企業価値の向上に資するようコーポレート・ガバナンスの一層の充実に取り組むことで、これまで以上にステークホルダーに公正な経営情報を開示し、その内容の適正性を確保します。当社は、取締役の職務執行の監査等を担う監査等委員を取締役会における議決権を有する構成員とすることにより、取締役会の監査・監督機能を強化し、更なる監視体制の強化を通じて、より一層のコーポレート・ガバナンスの充実を図るため、2022年6月29日開催の第23回定時株主総会の決議により、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行しました。社外取締役からの客観的な意見を意思決定に反映させることで透明性の高い経営ができ、効率的かつ迅速な経営判断を行うための最適なガバナンス体制となっています。また、これに併せて執行役員制度を導入し、経営の監督機能である取締役会からの権限委任を通じた業務執行体制を採っています。 ② パイプラインの拡充これまでの製薬企業や創薬ベンチャーの多くはパイプラインのバリューチェーン(開発の全ての工程の積み上げ)を自社で全て構築し、事業価値を高めることに注力してきました。しかし、医薬品のように成功確率が極めて低い一方で、開発期間が長く、投資が大きな分野では研究開発及び事業リスクが大きいため、多くのパイプラインを組み合わせたポートフォリオを形成し、リスク分散をすることが不可欠です。大手製薬企業は潤沢な資金を背景に、多くのパイプラインのバリューチェーンを自社独自で形成するという既存の枠組みでの開発ができますが、ベンチャーのように資金が潤沢でない場合は、なかなか難しいのが現状です。当社は外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用してコストを抑えるなど、効率の高い開発を実践してきました。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理などが異なります。少ない人的リソースや経費で多くのパイプラインを広げ、多様なモダリティを開発し、成果も出つつあります。自己資源や社内環境のみにこだわるのではなく、むしろ外部資源や外部環境の積極的活用に注力し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築していきたいと考えています。当社は、大学や様々な異業種企業との連携や協業を基にオープンイノベーションを推進し、効率的な開発を実施しています。具体例として、2022年1月東北大学に東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Tohoku University x Renascience Open innovation Labo:TREx)を設立し、新たなオープンイノベーションラボとして、2023年4月には広島大学に広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx)を開設しました。さらに、2025年1月にノースウエスタン大学Potocsnak Longevity Institute(長寿研究所)の日本の研究室(TREx-Longevity Lab)を、TREx内に設立することを、同研究所のDouglas E. Vaughan所長と合意しました。これら研究開発拠点を活かして、新たなシーズの導入や医師主導治験を含む臨床研究を実施します。医薬品開発において重要なことは安全性と有効性の確認です。安全性は、一般毒性や遺伝毒性など薬事規制上で決められた試験に従い実施するので、時間と資金があれば対応可能です。一方、有効性の評価は簡単ではなく、医薬品がどの疾患に有効かを見出すことは難しい課題です。1つの医薬品の開発には多くの時間と費用がかかります。当初想定された疾患での有効性は得られなくても、別の疾患には有効である可能性はあるので、多くの疾患で医薬品の可能性を検討することが、成功確率を高める(失敗しない)上でも重要になります。この医薬品の適応疾患を広く検討すること(ドラッグリポジショニング)は難しく、全ての疾患で検討することは現実的に無理です。当社は、国内外の公的研究機関に所属する研究者に当社開発の化合物を「オープンリソース」として提供しています。最先端の基礎研究を展開する様々な領域の研究者と共同で開発できる当社の枠組みは、自社の限られたリソースのみで基礎研究を行うより、遥かに効率的かつ広範囲にわたったドラッグリポジショニング研究が実施できます。「オープンリソース」の取り組みは、新たな治験対象疾患の広がりにつながっており、パイプラインの拡充にも寄与しています。自社リソースを特に必要としないので、非臨床試験(疾患動物モデルでの試験)のプロジェクト数に制約はありません。臨床開発は医師主導治験で実施し、医薬品開発業務受託機関 (Contract Research Organization:CRO)などを活用するため自社の人的リソースは少なくて済みます。当社の臨床段階にあるパイプライン数は、2024年3月期は9本、2025年3月期は10本、2026年3月期予定数は9本と着実に実施しています。今後も継続的に少なくとも年間5件程度の治験及びその他検証試験等を医師主導で実施することを目標として掲げています。 ③ AIを活用したプログラム医療機器開発の加速AIを活用した効率的な研究がライフサイエンス領域でも重要になっています。医師主導治験の患者選択、治験デザイン、データ解析などにもAIがますます活用されていくはずです。これまで当社の事業パートナーは、製薬企業が主でしたが、最近は、医工学機器企業だけではなく、NECやNESといったIT企業との研究及び事業開発連携にも注力しています。多彩な分野の企業との研究開発及び事業開発連携を行うことが魅力あるポートフォリオを創生する上で重要と考えます。医療機器やプログラム医療機器の事業収益は医薬品と比べると小さいですが、研究開発費や研究開発期間のリスクは小さく、早期に当社収益につながります。当社は、医療機器やプログラム医療機器事業など同時に複数パイプラインを進めることにより早期の黒字化を目指しておりますが、これらパイプラインについての契約(共同研究、オプション、ライセンス等)、特に安定収入となるロイヤリティの獲得が重要と考えます。医療分野へのAIの応用は大きな可能性を秘めたテーマですが、研究開発に重要な役割を担うステークホルダーが、個々に課題を抱えている状況です。医師などの医療者(医療機関)は、医療の課題や問題(ニーズ)を熟知し、豊富な医療データやアイデアなどを有してはいるものの、AI技術の活用方法やITベンダーとのネットワークが乏しく、研究開発に具体的に着手できない状況です。一方、AI技術を有するITベンダーは、成長が見込める医療分野への応用に興味はあるものの、医療者(医療機関)とのネットワークが少ないため、医療ニーズや医療データの取得が困難です。更に薬機法など薬事行政の経験も不充分なため、実用化は簡単ではありません。また、AIの医療応用を事業化したいと考える出口の製薬・ヘルステック企業も、研究から事業開発までを自社単独で全て対応することは時間的にもリソースの観点からも困難な場合も多いです。そこで、課題を有する医療者(医療機関)、AI技術を有するITベンダー、出口の製薬・ヘルステック企業が当初から連携し開発を進める枠組みが重要になります。AIを活用したプログラム医療機器のプロダクトライフサイクルは医薬品ほど長くないため、効率的な研究開発には開発初期から許認可や実臨床への出口を見据えた計画が不可欠になります。そのためにも、異分野分業のオープンイノベーションが重要で、医師に加えて、データサイエンティスト、AI研究者、薬事専門家が連携して取り組む必要があります。当社は、多くの医師主導治験の実施の過程で多数の医療機関や複数の診療科とのネットワークを構築しており、医療課題や医療データにアクセスしやすいこと(医療面でのサポート)、オープンイノベーションを通して複数のIT企業と共同研究事業契約を締結できていること(技術面でのサポート)、医薬品の医師主導治験を実施する過程で薬事規制にも対応できることなど利点を有しています。 ④ 医師主導治験の推進当社の臨床試験は、研究者でありかつ医師であるphysician scientistによる医師主導治験です。当社は、これまでに蓄積してきた多くの医師や医療機関とのネットワークから、多くの診療科にわたる開発が可能で、開発領域も特定の疾患に偏っていません。当社の医薬品・医療機器開発における開発パイプラインの多様性と29件に至る医師主導治験等(多くの疾患・診療科・医療機関)の実績は、当社の有する医療機関とのネットワークと医療現場を重視する特徴の証です。当社には、医師主導治験の経験やノウハウが蓄積されていますが、これを更に加速することで事業価値を向上できると考えております。当社では6本のパイプラインが第Ⅱ相試験(医薬品候補の有効性/安全性を確認する試験)段階以上にあり、特に慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫は有効性/安全性を確認済みで、現在検証試験(第Ⅲ相試験)を実施中です。これらのパイプラインを薬事承認のための検証試験まで自社で実施することで実用化の蓋然性と収益性を向上し、契約収入を得ること、特に安定的なロイヤリティ収入を獲得することが重要と考えます。医師主導治験の圧倒的な利点は、「質」と「スピード」、すなわち「効率」です。医師主導治験では、最新の研究成果に触れることが可能な研究の最前線において、医療現場では患者を日々診療している医師が、適切な患者対象と試験計画を立案することができます。また、医師自ら治験を実施できるので、未承認薬の初期段階の治験(有用性や安全性を最初に確認する段階で、探索的臨床試験と言われる)には、適した治験の枠組みです。また、オーファン疾患(希少疾患のこと。患者数が少ないので売上も多くを望めない。)の治療薬開発は、収益性が低いために製薬企業が着手しないことから、最初から最後まで医師主導治験で行わざるを得ない場合もあります。研究開発費用のほぼ大半は、基礎研究段階では無く、臨床開発段階で費やされます。医師主導治験は、最先端の大学等の科学技術成果を速やかに活用でき、治療の対象となる患者を治験実施医師が適切に選択できることから、開発コストを削減できます。適切な治験調整医師を見出し、大学など複数の大きな医療機関の支援を得られた場合、企業治験に比べて医師主導治験は大きなアドバンテージがあり、短期間に大型の治験も実施できるために、当社は他社と異なりこの治験の形を優先しています。2003年の薬事法改正によって、医師自らが治験を実施する医師主導治験の道が開けました。しかし、治験に必要な医薬品を安全性試験、製剤を含めて全て自ら準備することは依然として難しい状況です。法改正当時は、海外承認(国内未承認)の新薬や適応外使用薬(いわゆるドラッグラグ)も数多く存在したので、国内未承認薬や適応外使用薬の適応拡大が医師主導治験の対象の主流でした。治験の実施し易さ(製造から安全性試験など既存のデータで対応可能)という点からも、多くの大学を含む医療機関の医師が海外承認(国内未承認)の新薬や適応外使用薬の治験を医師主導で取り組みました。また、製薬企業が取り組まない希少疾患を対象に既存医薬品を用いて医師主導治験として実施される場合もありました。そのような背景から、「医師主導治験は海外承認薬(国内未承認)や既存薬の適応拡大が対象」という印象が未だに強いのだと考えております。しかし、当社が行う治験は全て未承認の薬剤(first-in-human)を対象としており、海外承認薬(国内未承認)や既存薬の適応拡大のための治験ではありません。当社の医薬品は未承認の薬剤で知財も確保していますので、独占的な事業化が可能であり、充分な収益を得ることが可能です。当社の医薬品開発においては、非臨床試験はGLP(Good Laboratory Practice、医薬品の安全性の実施に関する基準)、治験薬の製造は治験薬GMP(Good Manufacturing Practice、治験薬の製造管理及び品質管理に関する基準)を遵守して実施しています。また、医師主導治験は、企業治験と同様にGCP(Good Clinical Practice、医薬品の臨床試験の実施に関する基準)を遵守して実施しています。そのため、当社の実施する医師主導治験は承認申請や許認可を得る上で問題なく使用することができます。医師主導治験を含む臨床試験実施数は2024年3月期9件、2025年3月期10件、2026年3月期9件と着実に実施しています。今後も継続的に少なくとも年間5件程度の治験を医師主導で実施することを目標として掲げています。 ⑤ 重点開発領域医薬品ではプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1(plasminogen activator inhibitor-1, PAI-1)阻害薬のがん領域及び呼吸器領域での開発に注力しています。PAI-1の発現が高いがんは悪性度が高く、予後不良であることがわかっています(PAI-1パラドックス)。当社は、PAI-1ががん細胞の免疫チェックポイント分子(PD-L1など)の発現を促進することを共同研究で見出しました。当社のPAI-1阻害薬の投与でがん細胞の免疫チェックポイント分子の発現が低下し、腫瘍内の細胞障害性T細胞の浸潤が増加し、腫瘍関連マクロファージを抑制することも大腸がんや悪性黒色腫モデルマウスで明らかになりました。これら非臨床試験の成績に基づき、悪性黒色腫(第Ⅲ相試験実施中)を対象とした治験を実施しています。PAI-1パラドックスが実際にがん治療でも関与しており、一部のがん種ではPAI-1阻害薬の併用が有効であることを実証しています。がん領域では、慢性骨髄性白血病が第Ⅲ相試験患者登録完了、悪性黒色腫が第Ⅲ相試験を実施中で、皮膚血管肉腫、非小細胞肺がんは第Ⅱ相試験を実施中です。PAI-1は血栓の溶解に必要なタンパク質ですが、炎症や組織の線維化にも深く関与しています。この作用に基づき、呼吸器疾患を対象とした開発を進めています。具体的には、COVID-19に伴う肺傷害(後期第Ⅱ相試験終了)、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(第Ⅱ相試験患者登録完了)などのプロジェクトが進行中です。PAI-1阻害薬RS5614の抗老化・長寿作用に基づき、「老化細胞を除去し、がん化を促進する事なく老化関連疾患を抑制する新たな新規低分子医薬品」のコンセプト(Senolytic drug)で、XPRIZE Healthspanに応募し、TOP40に入賞したので、今年度セミファイナル臨床試験を実施予定です。当社は、『ヒトが心身共に生涯にわたって健康を享受できるための新しい医療を創造したい』との目標を掲げて研究に取り組んでいますが、老化関連疾患の治療薬開発は当社の重要な研究及び事業の課題です。日本を含む先進国では超高齢化が進み、平均寿命と健康寿命(心身ともに健康で自立して生活できる期間であり、平均寿命から寝たきりや認知症などの介護状態の期間を差し引いた期間)の差が約10年あることが大きな課題となっています。加齢と共に生じる種々の疾患、例えば、がん、循環器疾患、呼吸器疾患、糖尿病などを治療できれば、健康寿命の延伸に繋げることができます。これら4疾患は全世界の死亡者数の70-80 %に至り、世界保健機関(WHO)でも老化や生活習慣に伴う重要な疾患として位置付けられています。当社は、これら4疾患の治療薬を含めた健康寿命を伸ばすための医薬品開発という医学的あるいは社会的にも重要な課題を解決すべく取り組んでおり、XPRIZE Healthspanという世界的な長寿コンペティションで、当社の開発している医薬品のポテンシャルを評価いただきたいと考えます。現時点では、RS5614はヒトの医療用医薬品(医師の診断や処方箋に基づいて使用される医薬品で処方薬ともいう)として開発しているので、がんなど個々の疾患に対する治療の適応をとるための臨床試験(治験)を実施しています。一方、長寿は治験で検証することが難しいので、医療用医薬品の対象とはなりません。一方、長寿やアンチエンジング(抗老化)は、超高齢化を背景に急成長しているセルフメディケーション分野、OTC医薬品6)、さらには動物医薬品市場の重要なテーマです。当社が開発したPAI-1阻害薬RS5441の脱毛症治療薬としての実例もあり、当社のPAI-1阻害薬のアンチエンジング研究をさらに推進し、医療用医薬品以外の適応に関しても検討したいと考えます。医療機器(極細内視鏡)の研究開発は終了しており、メイン部分のファイバースコープに関しては2022年12月に承認が下り、付属部分のガイドカテーテルの開発はほぼ完了したので、現在承認準備を進めております。AIを活用したプログラム医療機器に関しては、糖尿病治療支援プログラム医療機器は2025年にPOCを取得しております。維持血液透析医療支援プログラム医療機器は臨床性能試験を実施中で、解析に必要な症例数の登録が完了しています。 ⑥ 公的研究費の獲得医薬品の研究開発、特に治験の実施には多額の研究開発費が必要です。本来当社は、開発シーズを、医師主導治験を活用しながら開発し、製薬企業等へライセンスアウトするビジネス・モデルを基本としていますので、高額な研究開発費を自社で負担する必要があります。しかし、公的研究助成金を積極的に活用することで、これらリスクの高い医師主導治験に要する研究開発費の自己負担を軽減しています。現在、医薬品では慢性骨髄性白血病(第Ⅲ相医師主導治験患者登録完了)、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(第Ⅱ相医師主導治験患者登録完了)で獲得しています。また、プログラム医療機器では糖尿病治療支援プログラム医療機器及び維持血液透析医療支援プログラム医療機器も公的資金を確保できています。今後も引き続き公的研究助成金を積極的に獲得し活用したいと考えております。 ⑦ 優秀な人材の採用と育成当社は、公的資金や外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用することで、効率的かつ迅速な研究開発を心がけています。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理が異なります。当社を取り巻く外部環境(例えば、東北大学や広島大学とのオープンイノベーション拠点であるTRExやHiREx)に優秀な人材が集結するため、必ずしも当社に多くの人材を抱える必要はありません。一方で、当社が取り組む医療分野(医薬品、プログラム医療機器)は、国内外バイオベンチャーや製薬企業との競争が激しく、より一層の研究開発の加速と競合他社との差別化が必要になります。そのため、創造的かつ独創的な研究活動を推進し、会社の経営を支える優秀な人材の獲得は、当社の重要な経営課題でもあります。そこで、年齢や性別に関わらず、事業の拡大に貢献できる人材や意欲溢れる優秀な人材については積極的に採用する予定です。当社社員は、積極的にオープンイノベーション拠点であるTRExやHiRExに参画しています。2024年10月には本社を東北大学内へ移転することにより、研究開発人員だけではなく、当社に携わる社員は外部環境との関わりを積極的に持ち、多様な環境ならではの経験と教育や啓発が可能となります。 ⑧ 財務基盤(黒字化)安定的な黒字化を達成できる時期を明言することは難しいですが、単年度の黒字化につきましては本事業年度達成することができました。医薬品事業は、研究開発費や研究開発期間が大きく事業リスクが極めて高い分野ですが、上市後には極めて高い収益が期待できます。医薬品の研究開発、特に医師主導治験の実施には多額の開発費が必要であり、同時に開発リスクを伴います。そこで当社は、公的研究助成金を積極的に活用することで、これらリスクの高い医師主導治験に要する研究開発費の負担を補うことに注力してきました。現在、医師主導治験を実施中の慢性骨髄性白血病、全身性強皮症も公的資金を確保できており、自己研究資金の負担が軽減されています。一方、医療機器やプログラム医療機器の事業収益は医薬品と比べて小さいですが、研究開発費や研究開発期間のリスクは小さく、早期に当社収益につながります。医療機器(極細内視鏡)及びプログラム医療機器の研究開発も順調に進んでいます。極細内視鏡は2022年12月に厚生労働省からファイバースコープ(内視鏡本体)の薬事承認を取得しました。プログラム医療機器については、糖尿病治療支援プログラム医療機器及び維持血液透析医療支援プログラム医療機器についてはそれぞれ2022年4月、2023年2月に公的資金が確保でき、糖尿病治療支援プログラム医療機器は2025年に臨床性能試験を完了しPOCを取得、維持血液透析医療支援プログラム医療機器は現在解析に必要な症例数の登録が完了しています。嚥下機能低下診断プログラム医療機器や呼吸機能検査診断プログラム医療機器の開発も順調に進んでいます。公的資金獲得に伴い、これらプログラム医療機器の自己研究資金の負担が軽減されるとともに、ライセンス一時金やマイルストーン受領など収入源となることが見込まれます。
対処すべき課題
1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。(1)会社の経営方針当社は、医療現場の課題を解決するための多様なモダリティ(医薬品、医療機器、AIを活用したプログラム医療機器)を、医療現場で研究開発し、医療イノベーション創出に貢献することで、ヒトが心身ともに生涯にわたって健康を享受できるための新しい医療を創造することを経営理念として掲げています。 (2)経営戦略① 多様なモダリティ開発当社は特定の技術に特化したベンチャーでは無く、広くモダリティ(医薬品、医療機器など治療の様式)の開発に取り組みます。医薬品産業も、低分子医薬品を中心とした開発から、バイオ医薬品(抗体医薬、核酸医薬品、遺伝子治療、細胞治療)へと、モダリティが多様化しつつあります。更には近年の工学系や情報系技術の進歩により、情報・工学技術との融合による新たな医療の模索も進んでおり、欧米や国内の大手製薬企業では既に医薬品単体のビジネスから医療ソリューション全般にわたるビジネスへの転換を迎えております。低分子医薬品、核酸医薬品、医療機器、更にはAIを活用したプログラム医療機器など、医療現場での治療のオプションも広がりつつあります(図表23)。当社もこれまで主体であった化学系や生物系の研究に加えて、工学系や情報系の研究にも視野を広げ、医療課題を解決する多彩で魅力ある研究と事業のポートフォリオを創出します。 < 図表23 医療の変遷とモダリティの広がり >(出典:当社作成) 広くモダリティ開発に取り組むことには、早期の黒字化と将来の収益確保の両立という経営面での利点もあります。医薬品事業は、研究開発費や研究開発期間が比較的大きく事業リスクが高い分野ですが、上市後には極めて高い収益が期待できる事業です。一方、医療機器やプログラム医療機器の事業収益は医薬品と比べると小さいですが、研究開発費や研究開発期間のリスクは小さく、早期に当社収益につながります。当社は、これら2つの事業ポートフォリオを、同時に複数のパイプラインで進めることにより、リスクを分散しながら早期の黒字化と将来の収益の拡大を目指します。 <図表24 当社の事業ポートフォリオ > (出典:当社作成) 当社は、AMEDの令和6年度「スマートバイオ創薬等研究支援事業」に分担研究者として申請し、「革新的核酸医薬技術を基盤とした神経・筋難病治療薬の開発」に採択されました。本事業では、大阪大学、京都大学とのオープンイノベーションに基づき、難病疾患である多系統萎縮症・パーキンソン病、筋ジストロフィーを対象として、アンチセンス核酸(ASO)やアンチmiRNA核酸(AMO)の核酸医薬シーズの開発を実施します。核酸医薬は従来の低分子医薬や抗体医薬では狙えない遺伝子を創薬ターゲットとする新しい創薬モダリティですが、副作用や標的臓器へのデリバリーシステムなど課題も多いです。国立大学法人大阪大学大学院薬学研究科の小比賀聡教授は、世界に先駆け架橋型人工核酸(LNA/BNA)の創製に成功し、核酸医薬品の革新的基盤技術となる有効性向上のための人工核酸(AmNA,GuNA,scpBNA,BANAなど)や安全性向上のための化学修飾(糖部修飾5'-cpや塩基部修飾5-OH-Cなど)、さらには脳や筋肉へ核酸医薬を送達させるデリバリー技術などを確立し、核酸医薬品の抱える課題の幾つかを解決してきました。この人工修飾核酸を活用した創薬基盤技術と当社の有する医師主導治験における実績と経験を活かして、低分子医薬品に加えて核酸医薬品の研究開発に着手しています。また、長寿やアンチエンジング(抗老化)は、超高齢化を背景に急成長しているセルフメディケーション分野、OTC医薬品、さらには動物医薬品市場の重要なテーマです。当社が開発したPAI-1阻害薬RS5441の脱毛症治療薬としての実例もあり、当社のPAI-1阻害薬のアンチエンジング研究をさらに推進し、医療用医薬品以外の適応に関しても検討したいと考えます。 ② 少子高齢化の医療課題世界保健機関(WHO)では、高齢化や生活習慣に伴う重要な疾患(老化関連疾患)を「非感染性疾患(NCDs)」として位置付け、がん・糖尿病・呼吸器疾患・循環器疾患が対象となっています。2024年の全世界の死亡者数の74%がこれら疾患で亡くなっています(世界保健機関、Health Topics)。当社の開発品目は、これら4疾患を全て対象としており、先進国のみならず新興国でも重要な医薬品を開発しています。また、少子化問題も重要な社会的課題ですが、少子化問題に注力している製薬企業は多くはありません。当社は、女性(更年期障害、乳がん病理診断プログラム医療機器)や小児の医療課題にも注力しています。PAI-1阻害薬RS5614の抗老化・長寿作用に基づき、「老化細胞を除去し、がん化を促進する事なく老化関連疾患を抑制する新たな新規低分子医薬品」のコンセプト(Senolytic drug)で、XPRIZE Healthspanに応募し、TOP40に入賞したので、今年度セミファイナル臨床試験を実施予定です。当社は、『ヒトが心身共に生涯にわたって健康を享受できるための新しい医療を創造したい』との目標を掲げて研究に取り組んでいますが、老化関連疾患の治療薬開発は当社の重要な研究及び事業の課題です。日本を含む先進国では超高齢化が進み、平均寿命と健康寿命(心身ともに健康で自立して生活できる期間であり、平均寿命から寝たきりや認知症などの介護状態の期間を差し引いた期間)の差が約10年あることが大きな課題となっています。加齢と共に生じる種々の疾患、例えば、がん、循環器疾患、呼吸器疾患、糖尿病などを治療できれば、健康寿命の延伸に繋げることができます。これら4疾患は全世界の死亡者数の70-80 %に至り、世界保健機関(WHO)でも老化や生活習慣に伴う重要な疾患として位置付けられています。当社は、これら4疾患の治療薬を含めた健康寿命を伸ばすための医薬品開発という医学的あるいは社会的にも重要な課題を解決すべく取り組んでおり、XPRIZE Healthspanという世界的な長寿コンペティションで、当社の開発している医薬品のポテンシャルを評価いただきたいと考えます。 ③ アカデミアなどの研究機関や医療機関とのネットワーク医療イノベーション創出におけるアカデミアなどの研究機関や医療機関の役割が広がりつつあります。低分子医薬品と異なり、バイオ医薬品の技術基盤やシーズは研究機関にあります。また、AIを活用したプログラム医療機器の開発に必要な医療データは企業ではなく医療機関が有しています。当社は、多くの医療機関や診療科と複数の医療分野で医師主導治験を実施しているので、医師から医療現場の課題を把握する機会が多く、またAI開発に必要な医療データも比較的短期間でビッグデータが取得しやすい環境にあります。アカデミアなどの研究機関や医療機関とのネットワークを更に効率的に拡大することを目的として、東北大学などに研究開発拠点を持ち、オープンイノベーションを推進しています(図表25)。 < 図表25 当社が有する研究機関・医療ネットワーク > (出典:当社作成) ④ 基礎研究から医師主導治験まで一気通貫での開発当社は基礎研究から治療のコンセプトやアイデアを着想し、医薬品や医療機器などの「モノづくり」を行っています。適切な動物や細胞を用いた非臨床試験を終了し、必要なヒトにおける臨床試験(治験)で実証し、販売の許可を受けるための承認申請に近いところまで自社で対応します(図表26)。例えば、血液がんの一種である慢性骨髄性白血病および悪性黒色腫の治療薬は現在、承認申請に必要な検証的臨床試験である第Ⅲ相試験を実施中です。第Ⅲ相試験まで自社で実施する理由は、希少疾患などの治療薬は大手製薬企業からは注力されにくい場合が多いことや、第Ⅲ相試験まで自社で実施することにより、開発品の価値を高め大きな事業収益が期待できるからです。 < 図表26 当社のビジネス・モデル >(出典:当社作成) ⑤ 医師主導治験の活用当社は、基礎研究から臨床試験まで広く研究を実施している医師(physician-scientistという)との共同研究を重視しています。基礎研究分野で共同研究を行っている多くの研究者は医師でもあり、自ら治験調整医師(治験責任者)として医師主導治験を実施することが可能です。基礎研究と臨床研究を実施する研究者が同じである場合が多いので、基礎研究から医師主導治験まで一気通貫で実施、効率的な開発ができます。当社の治験は基本的に医師主導治験で実施しています。当社は、これまで29件に至る医師主導治験の実績(図表27)があり、医師主導治験には多くの利点があります。医師自ら治験を立案及び実施できますので、医療現場での課題や実情に合った試験計画や枠組みで実施できます。2003年の薬事法改正によって、医師自らが治験を実施する医師主導治験の道が開けましたが、治験に必要な医薬品を安全性試験、製剤を含めて全て自ら準備することは依然として難しい状況です。当時は、海外承認国内未承認の新薬や適応外使用薬(いわゆるドラッグラグ)も数多く存在したので、国内未承認薬や適応外使用薬が医師主導治験の主流でした。治験の実施し易さ(製造から安全性試験など既存のデータで対応可能)という点からも、多くの大学等の医療機関の医師が海外承認(国内未承認)の新薬や適応外使用薬の治験を医師主導で取り組みました。また、製薬企業が取り組まない希少疾患を対象に既存医薬品を用いて医師主導治験として実施される場合もありました。そのような背景から、「医師主導治験は適応拡大やオーファン疾患が対象」という印象が定着していた時期もございます。しかし、当社が行う治験は全て未承認の薬剤(first-in-human)を対象としており、海外承認薬(国内未承認)や既存薬の適応拡大のための治験ではありません。 < 図表27 医師主導治験等の数 >(29件の内訳は、医師主導治験26件、臨床性能試験2件、治験外臨床性能試験(臨床研究)1件)(出典:当社作成) ⑥ 外部機関とのエコシステムの形成 これまでの製薬企業や創薬ベンチャーの多くはパイプラインのバリューチェーン(開発の全ての工程の積み上げ)を自社で全て構築し、事業価値を高めることに注力してきました。しかし、医薬品のように成功確率が極めて低く、開発期間が長く、投資が大きな分野では研究開発及び事業リスクが大きいため、多くのパイプラインを組み合わせたポートフォリオを形成し、リスク分散をすることが不可欠です。大手製薬企業は潤沢な資金を背景に、多くのパイプラインのバリューチェーンを自社独自で形成するという既存の枠組みでの開発ができますが、ベンチャーのように資金が潤沢でない場合なかなか難しいのが現状です。当社は外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用してコストを抑えるなど、効率の高い開発を実践してきました。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理などが異なります。少ない人的リソースや経費で多くのパイプラインを広げ、モダリティを展開し、成果も出つつあります。自己資源や社内環境のみに注力するのではなく、むしろ外部資源や外部環境にも注力し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築していきたいと考えています。オープンイノベーションラボの設立もその一環として推進しています(図表28)。 < 図表28 当社の事業戦略 > ⑦ オープンイノベーションラボ(TREx、HiREx、TREx-Longevity Lab)の設立当社は創業当時、腎臓病の疾患動物モデル飼育施設を含む研究所を神奈川県・川崎バイオ特区に有しておりましたが、研究対象が腎臓病から多くの疾患領域に拡大し、研究段階が基礎から治験へ進むにつれ、当初の腎臓病の疾患動物モデルを主体とした研究所は閉鎖しました。しかし、多くの疾患領域に対する最先端の科学技術成果の活用の「場」、医師や研究者とのFace to Faceの交流の「場」、行政や医療産業企業とのオープンイノベーションの「場」が必要であると考え、2022年1月、東北大学に東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Tohoku University x Renascience Open innovation Labo:TREx)を開設しました(図表29)。TRExは2021年4月に締結された「仙台市と東北大学との地域経済発展に関する協定」に基づく拠点立地の第一号案件でもあります。TRExでは、1)東北大学大学院医学系研究科の研究者、東北大学病院の医師、東北大学メディシナルハブに参画する企業、行政など異業種との連携が加速され、2)既存の開発パイプラインの研究推進と複数の新規シーズの導入ができ、3)医師主導治験の実施、医療データの取得、公的資金獲得、許認可戦略の立案などを効率的、迅速に対応できており、4)人材の育成と確保にもつなげられています。更に、第二のオープンイノベーションラボとして、2023年4月には広島大学に広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx)を開設しました。広島大学は、経済産業省の「ワクチン生産体制強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業」に国内大学では唯一採択され、2022年10月に「PSI GMP教育研究センター」を新設し、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンをはじめ、核酸やペプチド等、中分子を主体とした治験薬製造施設を有しています。また、広島大学は学術・社会連携室の中にオープンイノベーション本部を設置し、地方におけるイノベーション拠点として新産業の創出を目指しています。広島大学の特色や強みを生かした研究開発拠点として、産学の連携を通して、医師主導治験実施を含めた医薬品及びプログラム医療機器の共同研究開発を行い、研究開発の効率化及び推進並びに人材育成などを目的とし「包括的研究協力に関する協定」を締結しました。本協定では、HiRExを活用し複数の医師主導治験(医薬品)、臨床性能試験(プログラム医療機器)を継続的に実施しつつ、広島大学の医療シーズの共同開発も視野に入れています。現在の活動実績として、具体的には2023年度から非小細胞肺がん及び皮膚血管肉腫の第Ⅱ相医師主導治験並びに維持血液透析医療支援プログラム医療機器の臨床性能試験を実施しています。また、長寿研究の加速を目指し、2025年1月に、ノースウエスタン大学Potocsnak Longevity Institute(長寿研究所)の日本の研究室(TREx-Longevity Lab)をTREx内に設立することを、同研究所のDouglas E. Vaughan所長と合意しました。 < 図表29 TRExの風景 > (3)目標とする経営指標当社の事業収益は、医薬品、医療機器、プログラム医療機器の研究開発成果を実用化企業に導出して得る一時金、マイルストーン及びロイヤリティ収入がメインです。そのため下記の4つの経営指標を掲げています。① 臨床段階にある開発パイプライン数パイプラインを実用化企業に導出するためには、非臨床試験や第Ⅰ相試験(健常者での安全性確認試験)では難しく、少なくとも患者での有効性の確認(第Ⅱ相試験)の治験が終了していることが必要です。そのため、臨床段階(特に第Ⅱ相試験以後)にある開発パイプライン数は重要な数値目標になります。当社は当事業年度末日現在において、2026年3月期に臨床試験を実施予定のパイプラインを9本(医師主導6本、企業治験1本)有しており、内訳は第Ⅲ相試験2本(慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫)、第Ⅱ相試験4本(非小細胞肺がん、皮膚血管肉腫、全身性強皮症、脱毛症)、臨床研究2本(更年期障害、抗加齢)、承認申請のための臨床性能試験1本(維持血液透析医療支援プログラム医療機器)です。2024年3月期、2025年3月期に臨床段階にある開発パイプライン数がそれぞれ9本及び10本であることからも、順調に開発を実施しています。臨床開発は販売の許可を受けるための承認申請に近いところまで自社で対応します。例えば、2022年12月に承認を得た医療機器(極細内視鏡)は、製品コンセプトから試作品開発、非臨床試験の実施、検証のための医師主導治験まで複数の大学と共同で開発を進め、当社が取得した成績で承認申請を行いました。また、血液がんの一種である慢性骨髄性白血病および悪性黒色腫の治療薬は現在、承認申請に必要な検証試験である第Ⅲ相試験を実施中です。第Ⅲ相試験まで実施する理由は、希少疾患などの治療薬は大手製薬企業からは注力されにくい場合が多いことや、開発品の価値を高めることにより、大きな事業収益が期待できるからです。AIを活用したプログラム医療機器も承認申請のための臨床性能試験まで実施しています(維持血液透析医療支援プログラム医療機器)。今後は慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫の第Ⅲ相試験に特に注力するものの、継続的に少なくとも年間5件程度の治験を医師主導治験で実施することを目標として掲げています。 ② 契約締結パイプライン数当社は、製品の開発権、製造権、販売権等をライセンスアウトすることで、契約一時金、開発の進捗に応じて支払われるマイルストーン収入、製品上市後に売上高の一定割合が支払われるロイヤリティ収入、売上高に対する目標値を達成するごとに支払われる販売マイルストーン収入等を得る事業モデルを採用しています。また、出口企業とは、ライセンス契約に至る前の比較的早期の研究開発段階において、将来のライセンス契約を前提としたオプション権付き共同研究契約(オプション契約)を締結することもあります(図表4 事業系統図の(共同研究))。この場合、当社は、パートナー企業から共同研究費を得ることで、自社の費用負担を抑えつつ研究開発を実施できるメリットを得られます。当社は、現在5本の契約締結パイプライン数を有しており、内訳はライセンス契約3本(エイリオン社に脱毛症など皮膚疾患治療薬、ハイレックスメディカル社にディスポーザブル極細内視鏡、チェスト株式会社に呼吸機能検査診断プログラム医療機器)、オプション契約等2本(ニプロ株式会社に維持血液透析医療支援プログラム医療機器、東レ・メディカル株式会社に透析装置搭載型AI)です。 ③医師主導臨床試験数当社は、これまでに蓄積してきた多くの医師や医療機関とのネットワークから、多くの診療科にわたる開発が可能で、開発領域も特定の疾患に偏っていません。当社の医薬品・医療機器開発における開発パイプラインの多様性と多くの疾患・診療科・医療機関で行われている29件に至る医師主導臨床試験の実績は、当社の有する医療機関とのネットワークと医療現場を重視する特徴の証です。当社には、医師主導臨床研究の経験やノウハウが蓄積されており、これを更に加速することで事業価値を向上できると考えています。2024年3月期の医師主導臨床研究実施数は9件(医師主導治験6件、臨床研究1件及び検証試験である臨床性能試験2件)、2025年3月期の医師主導臨床研究実施数は10件(医師主導治験6件企業治験1件、臨床研究1件及び検証試験である臨床性能試験2件)、2026年3月期の医師主導臨床試験実施予定数は9件(医師主導治験5件、企業治験1件、臨床研究2件及び検証試験である臨床性能試験1件)と着実に実施しています。慢性骨髄性白血病治療薬は第Ⅲ相試験の患者登録が完了し、悪性黒色腫治療薬の第Ⅲ相試験を実施中ですが、今後も希少疾患では第Ⅲ相試験まで自社で実施したいと考えています。AIを活用したプログラム医療機器においても承認申請のための検証試験である臨床性能試験を実施しています(維持血液透析医療支援プログラム医療機器)。今後も継続的に少なくとも年間5件程度の治験及びその他検証試験等を医師主導で実施することを目標として掲げています。AIを活用したプログラム医療機器に関しては、探索レベルでは年間10件程度のシーズ開発が当社のリソースから適した数と判断しています。この中で約3割程度が実用化レベル(臨床性能試験など臨床試験を実施)に移行すると考えています。 ④ 研究開発費当社の成長や将来の収益を考えると、上記経営指標である臨床段階にある開発パイプライン数、契約締結パイプライン数、医師主導を含む臨床試験実施数の拡大が望ましい一方、医薬品の研究開発、特に治験の実施には多額の研究開発費が必要です。当社は、開発シーズを、医師主導治験を含む臨床試験を活用しながら開発し、製薬企業等へライセンスアウトするビジネス・モデルを基本としているため、高額な研究開発費を自社で負担する必要があります。そこで、研究開発費(特に自己資金)は重要な経営指標と考えています。開発パイプライン数及び医師主導臨床研究の実施数は順調に増加しており、全体の研究開発費は2023年3月期23,524万円、2024年3月期23,633万円、2025年3月期13,286万円となっております。これらリスクの高い医師主導治験に対しては、公的研究助成金を積極的に活用することで、研究開発費の自己負担の軽減に努めてきました。その結果、2023年3月期19,280万円、2024年3月期13,317万円、2025年3月期6,194万円の公的資金が獲得でき、自己負担の研究開発費は2023年3月期4,244万円、2024年3月期10,316万円、2025年3月期7,092万円に抑えることができました。現在、医薬品では医師主導治験を実施中の慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫、全身性強皮症及び臨床研究実施中の更年期障害が、プログラム医療機器では糖尿病治療支援プログラム医療機器及び維持血液透析医療支援プログラム医療機器が公的資金を確保できています。当社の研究開発の強みは高い効率性とスピード感と考えています。当社は外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用してコストを抑えるなど、効率の高い開発を実践してきました。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理などが異なります。少ない人的リソースや経費で多くのパイプラインを広げ、モダリティも展開できていますので、成果も出つつあります。自己資源や社内環境のみに注力するのではなく、むしろ外部資源や外部環境にも注力し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築していきたいと考えます。TRExやHiRExなどオープンイノベーションラボの設立もその一環として推進しています。自己負担の研究開発費を抑えつつ、多くの臨床段階にある開発パイプライン数と医師主導治験実施数を増やし、最終的に契約締結パイプライン数を増やすことが重要な経営指標と考えています。当社は、2021年9月に東京証券取引所マザーズ市場に上場し、公募増資及びオーバーアロットメントによる売出しに関連した第三者割当増資により総額1,653,616千円の資金調達を行いました。この調達資金を活用して、既存のパイプラインの開発(慢性骨髄性白血病や悪性黒色腫などの医師主導治験の実施)、新規プロジェクトの導入と医師主導治験の実施、AIを用いたプログラム医療機器の開発を計画していました。しかし、医薬品では慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫、全身性強皮症及び更年期障害が、プログラム医療機器では糖尿病治療支援プログラム医療機器及び維持血液透析医療支援プログラム医療機器も公的資金が確保できていることから、当初の充当予定時期よりも資金の充当時期が大幅に先送りになっております。 < 図表30 当社の経営指標 > (4)経営環境バイオベンチャーの取り組む最先端医療研究は、環境変化のスピードが極めて早いと考えられ、潜在的な競争相手に先行し、他社の知的財産権を上回る開発をする必要性があります。医薬品もこれまでの化学を基盤とする低分子と異なり、近年は抗体医薬、核酸医薬や遺伝子治療といったバイオ医薬品が主流に成りつつあります。更に、今後は、ビッグデータや人工知能など情報系技術を取り入れないと、競争の激しい医療分野での開発は難しくなります。医療のあり方もブロックバスターから個別化医療へ大きく変遷しています。技術も日進月歩で進んでいます。重要なことは、最先端の研究、技術、シーズをいち早く取り入れる枠組み、速やかに臨床現場で実証することと考えます。このため、多くの疾患領域に対する最先端の科学技術成果の活用の「場」、医師や研究者とのFace to Faceの交流の「場」、行政や医療産業企業とのオープンイノベーションの「場」が必要であると考え、2022年1月、東北大学に東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Tohoku University x Renascience Open Innovation Labo:TREx)を開設しました。TRExでは、1)東北大学大学院医学系研究科の研究者、東北大学病院の医師、東北大学メディシナルハブに参画する企業、行政など異業種との連携が加速され、2)既存の開発パイプラインの研究推進と複数の新規シーズの導入ができ、3)医師主導治験の実施、医療データの取得、公的資金獲得、許認可戦略の立案などを効率的、迅速に対応できており、4)人材の育成と確保にもつなげられています。具体的には、全身性強皮症や血管肉腫などの新規医薬品パイプライン、乳がん病理診断、心臓植込み型デバイス患者における不整脈・心不全発症予測、人工心臓患者における血栓発生予測などの新規プログラム医療機器パイプラインが新たに立ち上がりました。さらに、日本電気株式会社、NECソリューションイノベータ株式会社、チェスト株式会社、株式会社ハイレックスコーポレーション、株式会社ハイレックスメディカル、ニプロ株式会社、東レ・メディカル株式会社などの契約締結につながっています。更に、第二のオープンイノベーションラボとして、2023年4月には広島大学に広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx)を開設しました。広島大学は、経済産業省の「ワクチン生産体制強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業」に国内大学では唯一採択され、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンをはじめ、核酸やペプチド等、中分子を主体とした治験薬製造施設を有しています。広島大学の特色や強みを生かした研究開発拠点として、産学の連携を通して、医師主導治験実施を含めた医薬品及びプログラム医療機器の共同研究開発を行い、研究開発の効率化及び推進並びに人材育成などを行います。具体的には2023年度から非小細胞肺がん及び皮膚血管肉腫の第Ⅱ相医師主導治験並びに維持血液透析医療支援プログラム医療機器の臨床性能試験を実施しています。TRExやHiRExの研究環境を活用することにより、更に効率的かつ迅速な研究開発が期待できます。また、社員は積極的にオープンイノベーション拠点でTRExやHiRExに参画しています。特に研究開発に携わる社員はこのような外部環境で研究開発に取り組んでおり、多様な環境ならではの経験と教育、啓発が可能となります。 (5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題① コーポレート・ガバナンス及び経営体制の強化当社は、事業環境の変化に対応した迅速な意思決定を重視し、経営の効率性を一層高めるとともに、継続的な事業発展、持続的な企業価値の向上に資するようコーポレート・ガバナンスの一層の充実に取り組むことで、これまで以上にステークホルダーに公正な経営情報を開示し、その内容の適正性を確保します。当社は、取締役の職務執行の監査等を担う監査等委員を取締役会における議決権を有する構成員とすることにより、取締役会の監査・監督機能を強化し、更なる監視体制の強化を通じて、より一層のコーポレート・ガバナンスの充実を図るため、2022年6月29日開催の第23回定時株主総会の決議により、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行しました。社外取締役からの客観的な意見を意思決定に反映させることで透明性の高い経営ができ、効率的かつ迅速な経営判断を行うための最適なガバナンス体制となっています。また、これに併せて執行役員制度を導入し、経営の監督機能である取締役会からの権限委任を通じた業務執行体制を採っています。 ② パイプラインの拡充これまでの製薬企業や創薬ベンチャーの多くはパイプラインのバリューチェーン(開発の全ての工程の積み上げ)を自社で全て構築し、事業価値を高めることに注力してきました。しかし、医薬品のように成功確率が極めて低い一方で、開発期間が長く、投資が大きな分野では研究開発及び事業リスクが大きいため、多くのパイプラインを組み合わせたポートフォリオを形成し、リスク分散をすることが不可欠です。大手製薬企業は潤沢な資金を背景に、多くのパイプラインのバリューチェーンを自社独自で形成するという既存の枠組みでの開発ができますが、ベンチャーのように資金が潤沢でない場合は、なかなか難しいのが現状です。当社は外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用してコストを抑えるなど、効率の高い開発を実践してきました。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理などが異なります。少ない人的リソースや経費で多くのパイプラインを広げ、多様なモダリティを開発し、成果も出つつあります。自己資源や社内環境のみにこだわるのではなく、むしろ外部資源や外部環境の積極的活用に注力し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築していきたいと考えています。当社は、大学や様々な異業種企業との連携や協業を基にオープンイノベーションを推進し、効率的な開発を実施しています。具体例として、2022年1月東北大学に東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Tohoku University x Renascience Open innovation Labo:TREx)を設立し、新たなオープンイノベーションラボとして、2023年4月には広島大学に広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx)を開設しました。さらに、2025年1月にノースウエスタン大学Potocsnak Longevity Institute(長寿研究所)の日本の研究室(TREx-Longevity Lab)を、TREx内に設立することを、同研究所のDouglas E. Vaughan所長と合意しました。これら研究開発拠点を活かして、新たなシーズの導入や医師主導治験を含む臨床研究を実施します。医薬品開発において重要なことは安全性と有効性の確認です。安全性は、一般毒性や遺伝毒性など薬事規制上で決められた試験に従い実施するので、時間と資金があれば対応可能です。一方、有効性の評価は簡単ではなく、医薬品がどの疾患に有効かを見出すことは難しい課題です。1つの医薬品の開発には多くの時間と費用がかかります。当初想定された疾患での有効性は得られなくても、別の疾患には有効である可能性はあるので、多くの疾患で医薬品の可能性を検討することが、成功確率を高める(失敗しない)上でも重要になります。この医薬品の適応疾患を広く検討すること(ドラッグリポジショニング)は難しく、全ての疾患で検討することは現実的に無理です。当社は、国内外の公的研究機関に所属する研究者に当社開発の化合物を「オープンリソース」として提供しています。最先端の基礎研究を展開する様々な領域の研究者と共同で開発できる当社の枠組みは、自社の限られたリソースのみで基礎研究を行うより、遥かに効率的かつ広範囲にわたったドラッグリポジショニング研究が実施できます。「オープンリソース」の取り組みは、新たな治験対象疾患の広がりにつながっており、パイプラインの拡充にも寄与しています。自社リソースを特に必要としないので、非臨床試験(疾患動物モデルでの試験)のプロジェクト数に制約はありません。臨床開発は医師主導治験で実施し、医薬品開発業務受託機関 (Contract Research Organization:CRO)などを活用するため自社の人的リソースは少なくて済みます。当社の臨床段階にあるパイプライン数は、2024年3月期は9本、2025年3月期は10本、2026年3月期予定数は9本と着実に実施しています。今後も継続的に少なくとも年間5件程度の治験及びその他検証試験等を医師主導で実施することを目標として掲げています。 ③ AIを活用したプログラム医療機器開発の加速AIを活用した効率的な研究がライフサイエンス領域でも重要になっています。医師主導治験の患者選択、治験デザイン、データ解析などにもAIがますます活用されていくはずです。これまで当社の事業パートナーは、製薬企業が主でしたが、最近は、医工学機器企業だけではなく、NECやNESといったIT企業との研究及び事業開発連携にも注力しています。多彩な分野の企業との研究開発及び事業開発連携を行うことが魅力あるポートフォリオを創生する上で重要と考えます。医療機器やプログラム医療機器の事業収益は医薬品と比べると小さいですが、研究開発費や研究開発期間のリスクは小さく、早期に当社収益につながります。当社は、医療機器やプログラム医療機器事業など同時に複数パイプラインを進めることにより早期の黒字化を目指しておりますが、これらパイプラインについての契約(共同研究、オプション、ライセンス等)、特に安定収入となるロイヤリティの獲得が重要と考えます。医療分野へのAIの応用は大きな可能性を秘めたテーマですが、研究開発に重要な役割を担うステークホルダーが、個々に課題を抱えている状況です。医師などの医療者(医療機関)は、医療の課題や問題(ニーズ)を熟知し、豊富な医療データやアイデアなどを有してはいるものの、AI技術の活用方法やITベンダーとのネットワークが乏しく、研究開発に具体的に着手できない状況です。一方、AI技術を有するITベンダーは、成長が見込める医療分野への応用に興味はあるものの、医療者(医療機関)とのネットワークが少ないため、医療ニーズや医療データの取得が困難です。更に薬機法など薬事行政の経験も不充分なため、実用化は簡単ではありません。また、AIの医療応用を事業化したいと考える出口の製薬・ヘルステック企業も、研究から事業開発までを自社単独で全て対応することは時間的にもリソースの観点からも困難な場合も多いです。そこで、課題を有する医療者(医療機関)、AI技術を有するITベンダー、出口の製薬・ヘルステック企業が当初から連携し開発を進める枠組みが重要になります。AIを活用したプログラム医療機器のプロダクトライフサイクルは医薬品ほど長くないため、効率的な研究開発には開発初期から許認可や実臨床への出口を見据えた計画が不可欠になります。そのためにも、異分野分業のオープンイノベーションが重要で、医師に加えて、データサイエンティスト、AI研究者、薬事専門家が連携して取り組む必要があります。当社は、多くの医師主導治験の実施の過程で多数の医療機関や複数の診療科とのネットワークを構築しており、医療課題や医療データにアクセスしやすいこと(医療面でのサポート)、オープンイノベーションを通して複数のIT企業と共同研究事業契約を締結できていること(技術面でのサポート)、医薬品の医師主導治験を実施する過程で薬事規制にも対応できることなど利点を有しています。 ④ 医師主導治験の推進当社の臨床試験は、研究者でありかつ医師であるphysician scientistによる医師主導治験です。当社は、これまでに蓄積してきた多くの医師や医療機関とのネットワークから、多くの診療科にわたる開発が可能で、開発領域も特定の疾患に偏っていません。当社の医薬品・医療機器開発における開発パイプラインの多様性と29件に至る医師主導治験等(多くの疾患・診療科・医療機関)の実績は、当社の有する医療機関とのネットワークと医療現場を重視する特徴の証です。当社には、医師主導治験の経験やノウハウが蓄積されていますが、これを更に加速することで事業価値を向上できると考えております。当社では6本のパイプラインが第Ⅱ相試験(医薬品候補の有効性/安全性を確認する試験)段階以上にあり、特に慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫は有効性/安全性を確認済みで、現在検証試験(第Ⅲ相試験)を実施中です。これらのパイプラインを薬事承認のための検証試験まで自社で実施することで実用化の蓋然性と収益性を向上し、契約収入を得ること、特に安定的なロイヤリティ収入を獲得することが重要と考えます。医師主導治験の圧倒的な利点は、「質」と「スピード」、すなわち「効率」です。医師主導治験では、最新の研究成果に触れることが可能な研究の最前線において、医療現場では患者を日々診療している医師が、適切な患者対象と試験計画を立案することができます。また、医師自ら治験を実施できるので、未承認薬の初期段階の治験(有用性や安全性を最初に確認する段階で、探索的臨床試験と言われる)には、適した治験の枠組みです。また、オーファン疾患(希少疾患のこと。患者数が少ないので売上も多くを望めない。)の治療薬開発は、収益性が低いために製薬企業が着手しないことから、最初から最後まで医師主導治験で行わざるを得ない場合もあります。研究開発費用のほぼ大半は、基礎研究段階では無く、臨床開発段階で費やされます。医師主導治験は、最先端の大学等の科学技術成果を速やかに活用でき、治療の対象となる患者を治験実施医師が適切に選択できることから、開発コストを削減できます。適切な治験調整医師を見出し、大学など複数の大きな医療機関の支援を得られた場合、企業治験に比べて医師主導治験は大きなアドバンテージがあり、短期間に大型の治験も実施できるために、当社は他社と異なりこの治験の形を優先しています。2003年の薬事法改正によって、医師自らが治験を実施する医師主導治験の道が開けました。しかし、治験に必要な医薬品を安全性試験、製剤を含めて全て自ら準備することは依然として難しい状況です。法改正当時は、海外承認(国内未承認)の新薬や適応外使用薬(いわゆるドラッグラグ)も数多く存在したので、国内未承認薬や適応外使用薬の適応拡大が医師主導治験の対象の主流でした。治験の実施し易さ(製造から安全性試験など既存のデータで対応可能)という点からも、多くの大学を含む医療機関の医師が海外承認(国内未承認)の新薬や適応外使用薬の治験を医師主導で取り組みました。また、製薬企業が取り組まない希少疾患を対象に既存医薬品を用いて医師主導治験として実施される場合もありました。そのような背景から、「医師主導治験は海外承認薬(国内未承認)や既存薬の適応拡大が対象」という印象が未だに強いのだと考えております。しかし、当社が行う治験は全て未承認の薬剤(first-in-human)を対象としており、海外承認薬(国内未承認)や既存薬の適応拡大のための治験ではありません。当社の医薬品は未承認の薬剤で知財も確保していますので、独占的な事業化が可能であり、充分な収益を得ることが可能です。当社の医薬品開発においては、非臨床試験はGLP(Good Laboratory Practice、医薬品の安全性の実施に関する基準)、治験薬の製造は治験薬GMP(Good Manufacturing Practice、治験薬の製造管理及び品質管理に関する基準)を遵守して実施しています。また、医師主導治験は、企業治験と同様にGCP(Good Clinical Practice、医薬品の臨床試験の実施に関する基準)を遵守して実施しています。そのため、当社の実施する医師主導治験は承認申請や許認可を得る上で問題なく使用することができます。医師主導治験を含む臨床試験実施数は2024年3月期9件、2025年3月期10件、2026年3月期9件と着実に実施しています。今後も継続的に少なくとも年間5件程度の治験を医師主導で実施することを目標として掲げています。 ⑤ 重点開発領域医薬品ではプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1(plasminogen activator inhibitor-1, PAI-1)阻害薬のがん領域及び呼吸器領域での開発に注力しています。PAI-1の発現が高いがんは悪性度が高く、予後不良であることがわかっています(PAI-1パラドックス)。当社は、PAI-1ががん細胞の免疫チェックポイント分子(PD-L1など)の発現を促進することを共同研究で見出しました。当社のPAI-1阻害薬の投与でがん細胞の免疫チェックポイント分子の発現が低下し、腫瘍内の細胞障害性T細胞の浸潤が増加し、腫瘍関連マクロファージを抑制することも大腸がんや悪性黒色腫モデルマウスで明らかになりました。これら非臨床試験の成績に基づき、悪性黒色腫(第Ⅲ相試験実施中)を対象とした治験を実施しています。PAI-1パラドックスが実際にがん治療でも関与しており、一部のがん種ではPAI-1阻害薬の併用が有効であることを実証しています。がん領域では、慢性骨髄性白血病が第Ⅲ相試験患者登録完了、悪性黒色腫が第Ⅲ相試験を実施中で、皮膚血管肉腫、非小細胞肺がんは第Ⅱ相試験を実施中です。PAI-1は血栓の溶解に必要なタンパク質ですが、炎症や組織の線維化にも深く関与しています。この作用に基づき、呼吸器疾患を対象とした開発を進めています。具体的には、COVID-19に伴う肺傷害(後期第Ⅱ相試験終了)、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(第Ⅱ相試験患者登録完了)などのプロジェクトが進行中です。PAI-1阻害薬RS5614の抗老化・長寿作用に基づき、「老化細胞を除去し、がん化を促進する事なく老化関連疾患を抑制する新たな新規低分子医薬品」のコンセプト(Senolytic drug)で、XPRIZE Healthspanに応募し、TOP40に入賞したので、今年度セミファイナル臨床試験を実施予定です。当社は、『ヒトが心身共に生涯にわたって健康を享受できるための新しい医療を創造したい』との目標を掲げて研究に取り組んでいますが、老化関連疾患の治療薬開発は当社の重要な研究及び事業の課題です。日本を含む先進国では超高齢化が進み、平均寿命と健康寿命(心身ともに健康で自立して生活できる期間であり、平均寿命から寝たきりや認知症などの介護状態の期間を差し引いた期間)の差が約10年あることが大きな課題となっています。加齢と共に生じる種々の疾患、例えば、がん、循環器疾患、呼吸器疾患、糖尿病などを治療できれば、健康寿命の延伸に繋げることができます。これら4疾患は全世界の死亡者数の70-80 %に至り、世界保健機関(WHO)でも老化や生活習慣に伴う重要な疾患として位置付けられています。当社は、これら4疾患の治療薬を含めた健康寿命を伸ばすための医薬品開発という医学的あるいは社会的にも重要な課題を解決すべく取り組んでおり、XPRIZE Healthspanという世界的な長寿コンペティションで、当社の開発している医薬品のポテンシャルを評価いただきたいと考えます。現時点では、RS5614はヒトの医療用医薬品(医師の診断や処方箋に基づいて使用される医薬品で処方薬ともいう)として開発しているので、がんなど個々の疾患に対する治療の適応をとるための臨床試験(治験)を実施しています。一方、長寿は治験で検証することが難しいので、医療用医薬品の対象とはなりません。一方、長寿やアンチエンジング(抗老化)は、超高齢化を背景に急成長しているセルフメディケーション分野、OTC医薬品6)、さらには動物医薬品市場の重要なテーマです。当社が開発したPAI-1阻害薬RS5441の脱毛症治療薬としての実例もあり、当社のPAI-1阻害薬のアンチエンジング研究をさらに推進し、医療用医薬品以外の適応に関しても検討したいと考えます。医療機器(極細内視鏡)の研究開発は終了しており、メイン部分のファイバースコープに関しては2022年12月に承認が下り、付属部分のガイドカテーテルの開発はほぼ完了したので、現在承認準備を進めております。AIを活用したプログラム医療機器に関しては、糖尿病治療支援プログラム医療機器は2025年にPOCを取得しております。維持血液透析医療支援プログラム医療機器は臨床性能試験を実施中で、解析に必要な症例数の登録が完了しています。 ⑥ 公的研究費の獲得医薬品の研究開発、特に治験の実施には多額の研究開発費が必要です。本来当社は、開発シーズを、医師主導治験を活用しながら開発し、製薬企業等へライセンスアウトするビジネス・モデルを基本としていますので、高額な研究開発費を自社で負担する必要があります。しかし、公的研究助成金を積極的に活用することで、これらリスクの高い医師主導治験に要する研究開発費の自己負担を軽減しています。現在、医薬品では慢性骨髄性白血病(第Ⅲ相医師主導治験患者登録完了)、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(第Ⅱ相医師主導治験患者登録完了)で獲得しています。また、プログラム医療機器では糖尿病治療支援プログラム医療機器及び維持血液透析医療支援プログラム医療機器も公的資金を確保できています。今後も引き続き公的研究助成金を積極的に獲得し活用したいと考えております。 ⑦ 優秀な人材の採用と育成当社は、公的資金や外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用することで、効率的かつ迅速な研究開発を心がけています。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理が異なります。当社を取り巻く外部環境(例えば、東北大学や広島大学とのオープンイノベーション拠点であるTRExやHiREx)に優秀な人材が集結するため、必ずしも当社に多くの人材を抱える必要はありません。一方で、当社が取り組む医療分野(医薬品、プログラム医療機器)は、国内外バイオベンチャーや製薬企業との競争が激しく、より一層の研究開発の加速と競合他社との差別化が必要になります。そのため、創造的かつ独創的な研究活動を推進し、会社の経営を支える優秀な人材の獲得は、当社の重要な経営課題でもあります。そこで、年齢や性別に関わらず、事業の拡大に貢献できる人材や意欲溢れる優秀な人材については積極的に採用する予定です。当社社員は、積極的にオープンイノベーション拠点であるTRExやHiRExに参画しています。2024年10月には本社を東北大学内へ移転することにより、研究開発人員だけではなく、当社に携わる社員は外部環境との関わりを積極的に持ち、多様な環境ならではの経験と教育や啓発が可能となります。 ⑧ 財務基盤(黒字化)安定的な黒字化を達成できる時期を明言することは難しいですが、単年度の黒字化につきましては本事業年度達成することができました。医薬品事業は、研究開発費や研究開発期間が大きく事業リスクが極めて高い分野ですが、上市後には極めて高い収益が期待できます。医薬品の研究開発、特に医師主導治験の実施には多額の開発費が必要であり、同時に開発リスクを伴います。そこで当社は、公的研究助成金を積極的に活用することで、これらリスクの高い医師主導治験に要する研究開発費の負担を補うことに注力してきました。現在、医師主導治験を実施中の慢性骨髄性白血病、全身性強皮症も公的資金を確保できており、自己研究資金の負担が軽減されています。一方、医療機器やプログラム医療機器の事業収益は医薬品と比べて小さいですが、研究開発費や研究開発期間のリスクは小さく、早期に当社収益につながります。医療機器(極細内視鏡)及びプログラム医療機器の研究開発も順調に進んでいます。極細内視鏡は2022年12月に厚生労働省からファイバースコープ(内視鏡本体)の薬事承認を取得しました。プログラム医療機器については、糖尿病治療支援プログラム医療機器及び維持血液透析医療支援プログラム医療機器についてはそれぞれ2022年4月、2023年2月に公的資金が確保でき、糖尿病治療支援プログラム医療機器は2025年に臨床性能試験を完了しPOCを取得、維持血液透析医療支援プログラム医療機器は現在解析に必要な症例数の登録が完了しています。嚥下機能低下診断プログラム医療機器や呼吸機能検査診断プログラム医療機器の開発も順調に進んでいます。公的資金獲得に伴い、これらプログラム医療機器の自己研究資金の負担が軽減されるとともに、ライセンス一時金やマイルストーン受領など収入源となることが見込まれます。
MD&A(経営者による分析)
4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】(1) 経営成績等の状況の概要当社の経営成績、財政状態、キャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)及び研究開発活動の概要は、次のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものです。 ① 経営成績の概要当社は、医療現場の課題を解決するために、多様なモダリティ(医薬品、医療機器、AIを活用したプログラム医療機器)を医師/研究者とともに医療現場で研究開発しています。医薬品事業は、研究開発費や研究開発期間が比較的大きく事業リスクが高い分野ですが、上市後には極めて高い収益が期待できる事業です。一方、医療機器やプログラム医療機器のパイプラインの事業収益は医薬品と比べると小さいですが、研究開発費や研究開発期間のリスクは小さく、早期に当社収益につながります。当社は、これら2つの事業ポートフォリオを、同時に複数のパイプラインを進めることにより、リスクを分散しながら早期の黒字化と将来の収益の拡大を目指します。これまでの製薬企業や創薬ベンチャーの多くはパイプラインのバリューチェーン(開発の全ての工程の積み上げ)を自社で全て構築し、事業価値を高めることに注力してきました。大手製薬企業は潤沢な資金を背景に、多くのパイプラインのバリューチェーンを自社独自で形成するという既存の枠組みでの開発ができますが、ベンチャーのように資金が潤沢でない場合は、なかなか難しいのが現状です。当社は、公的資金や外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用して開発コストを抑えるなど、効率の高い開発を実践してきました。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理などが異なります。少ない人的リソースや経費で多くのパイプラインを広げ、モダリティを展開し、成果も出つつあります。自己資源や社内環境のみにこだわるのではなく、むしろ外部リソースや外部環境の積極的活用に注力し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築していきたいと考えています。当社は、大学や様々な異業種企業との連携や協業を基にオープンイノベーションを推進し、効率的な開発を実施しています。 当事業年度における総括を以下に記載します。 □ 慢性骨髄性白血病(CML): 2022年3月に国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「革新的がん医療実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けて第Ⅲ相試験(医師主導治験)を開始しました。2023年12月末で症例登録を終了し、最終的に解析に必要な症例数を上回る57例が登録されました。2024年12月に実施されたAMED「革新的がん医療実用化研究事業」の最終年度評価の結果、第Ⅲ相試験の目標症例数の登録が終了し、2年の延長期間内に試験を完了する目処が立っているとの理由から、さらに助成期間の2年間延長が承認されました(2024年12月3日適時開示)。□ 悪性黒色腫(メラノーマ):PAI-1阻害薬RS5614において、厚生労働省より悪性黒色腫に対する希少疾患用医薬品の指定を受けました(2024年9月2日適時開示)。RS5614の悪性黒色腫の第Ⅲ相医師主導治験の実施に対して東北大学病院における治験審査委員会(IRB)にて承認されました(2025年1月6日適時開示)。治験計画届を医薬品医療機器総合機構(PMDA)に提出し、最初の被験者への投与が東北大学病院で実施され第Ⅲ相試験(医師主導治験)を開始しました(2025年2月18日適時開示)。□ 全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD):2023年3月にAMED「難治性疾患実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けて、2023年10月から第Ⅱ相試験(医師主導治験)を開始しました。PAI-1阻害薬RS5614の第Ⅱ相医師主導治験における目標症例数を登録達成しました(2024年12月26日適時開示)。□ 抗加齢・長寿研究:ノースウエスタン大学Potocsnak Longevity Institute(長寿研究所)の日本の研究室を、東北大学内のオープンイノベーション拠点である東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(TREx)内に設立し、共同で長寿研究を実施することを合意しました(2025年1月22日適時開示)。さらに、XPRIZE財団によるコンテスト(XPRIZE HEALTHSPAN)に東北大学など国内複数の研究機関と共同で応募しました(2025年1月10日適時開示)。XPRIZE HEALTHSPANは、健康寿命を延ばすことができた研究チームに対して、総額1億米ドルを支払うという世界的なコンペティションです。このコンペティションは、XPRIZE財団が主催し、人間の老化や長寿に対する治療アプローチに革命を起こし、健康寿命を積極的に10年以上延伸するという挑戦的な課題に取り組むことを目的とします。当社はTOP40(セミファイナリスト)に入賞し、賞金25万米ドルを獲得することになりました(2025年5月13日適時開示)。□ 核酸医薬:大阪大学発バイオベンチャーであるルクサナバイオテク株式会社との間で、新たな医薬品モダリティであるバイオ医薬品に関する共同研究契約を締結し(2024年6月24日適時開示)、低分子医薬品に加えて核酸医薬の事業開発に着手し、AMEDの令和6年度「スマートバイオ創薬等研究支援事業」に申請していた「革新的核酸医薬技術を基盤とした神経・筋難病治療薬の開発」が採択され(2024年9月10日適時開示)、非臨床試験を実施しています。□ 男性型脱毛症及び加齢性脱毛症外用薬:米国Eirion Therapeutics, Inc.社における男性型脱毛症及び加齢性脱毛症外用薬ET-02(RS5441)の第Ⅰ相臨床試験を開始し(2024年7月3日適時開示)、第Ⅰ相臨床試験の安全性と有効性の結果(速報)が同社から報告されました(POC取得:2025年1月9日適時開示)。□ 糖尿病治療支援プログラム医療機器:糖尿病患者のインスリン投与量を予測する人工知能(AI)を活用したプログラム医療機器の薬事承認を目指して検証的臨床性能試験を実施し(2024年8月19日適時開示)、専門医に対するAI予測の非劣性(同等)が証明され(POC取得:2025年1月16日適時開示)、総括報告書を纏めました(2025年3月6日適時開示)。□ 呼吸機能検査診断プログラム医療機器:本プログラム医療機器導出先のチェスト株式会社が対象地域拡大(国際展開)に係るオプション権を行使することに伴い、一時金を受領しました(2025年2月12日適時開示)。□ 維持血液透析医療支援プログラム医療機器:維持血液透析を支援する人工知能(AI)を活用したプログラム医療機器の薬事承認のための臨床性能試験を開始しました(2024年10月21日適時開示)。現在、解析に必要な症例数である150症例の登録を完了しました(2025年4月9日適時開示)。□ ディスポーザブル極細内視鏡:米国Baxter Healthcare Corporation(バクスター社)とディスポーザブル極細内視鏡に関するライセンス契約を解約し、新たに株式会社ハイレックスメディカルとのライセンス契約を締結し(2024年5月20日適時開示)、ディスポーザブル極細内視鏡を用いた多施設臨床研究(60症例)を開始しました(2024年6月24日適時開示)。□ 国際共同研究:プログラム医療機器の事業拡大を視野に、台湾の台北医学大学(Taipei Medical University、TMU)の子会社TMU-Biotech社(台湾)とプログラム医療機器における共同開発契約を締結し(2024年8月30日適時開示)、PAI-1阻害薬RS5614の臨床開発及び事業化について共同開発契約を締結しました(2024年11月5日適時開示)。また、長寿研究のためにノースウエスタン大学Potocsnak Longevity Institute(長寿研究所)の日本の研究室を、東北大学内のオープンイノベーション拠点である東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(TREx)内に設立することに合意しました(2025年1月22日適時開示)。 (研究開発活動の実績)a. 医薬品PAI-1阻害薬RS5614はがん領域及び呼吸器疾患領域での臨床開発に注力しています。(がん)   - 慢性骨髄性白血病(第Ⅲ相):2022年3月にAMED「革新的がん医療実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けて第Ⅲ相試験(医師主導治験)を開始しました。2023年12月末で症例登録を終了し、最終的に解析に必要な症例数を上回る57例が登録されました。2024年12月に実施されたAMED「革新的がん医療実用化研究事業」の最終年度評価の結果、第Ⅲ相試験の目標症例数の登録が終了し、2年の延長期間内に試験を完了する目処が立っているとの理由から、さらに助成期間の2年間延長が承認されました。これにより、2026年3月期及び2027年3月期に見込んでいた費用計上がなくなり収益性が改善する見込みです。 - 悪性黒色腫(第Ⅲ相):2021年5月にAMED「橋渡し研究プログラムシーズC(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択され、同年7月に第Ⅱ相試験(医師主導治験)を開始しました。2023年3月末時点で目標症例数40例全例の患者登録が完了しました。外科的切除が難しく、免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブが無効な悪性黒色腫患者に対して、ニボルマブとPAI-1阻害薬RS5614を8週間併用することにより、既承認の治療であるニボルマブとイピリムマブ併用以上の奏効率が得られました。また、実臨床で問題となっているニボルマブとイピリムマブ併用による重篤な副作用は、ニボルマブとRS5614の併用では見られず、安全性が確認されました。2023年12月に実施したPMDA対面助言により第Ⅲ相試験の臨床プロトコールを確定し、2024年8月には、厚生労働省より悪性黒色腫に対する希少疾患用医薬品の指定を受けました。今回、希少疾患用医薬品指定を受けたことにより、悪性黒色腫治療薬RS5614の薬価算定における市場性加算が加わり、さらに承認後の再審査期間が延長されて本治療薬事業の独占期間が長くなります。また、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所を通じての助成金交付などの優遇措置を受けられる可能性があります。12月には東北大学病院治験審査委員会において、第Ⅲ相試験実施の承認も得られました。PMDAに治験計画届を提出し、2025年2月には最初の被験者への投与が東北大学病院で実施され、第Ⅲ相試験(医師主導治験)が開始されました。 - その他のがん:上記2つの疾患での治験が順調に進んでいることから、新たながん領域の適応症で臨床開発を決定し実施しています。具体的には、2022年10月に広島大学と非小細胞肺がんに関する共同研究契約を締結しました。その後研究段階が非臨床試験から臨床試験(医師主導治験)に移行したため、2023年4月には「広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(HiREx)」を開設し、2023年9月から非小細胞肺がんの前期第Ⅱ相試験、2023年10月から皮膚血管肉腫の第Ⅱ相試験(いずれも医師主導治験)を開始しました。2024年11月にTMU-Biotech社と台湾及び日本でのPAI-1阻害薬RS5614の臨床開発及び事業化について共同開発契約を締結しました。また、当社のがん治療薬の取材記事が、2023年9月に科学誌『Nature』に掲載されました。 (呼吸器疾患) - COVID-19に伴う肺傷害(後期第Ⅱ相終了):2021年6月からAMED「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けて後期第Ⅱ相試験(医師主導治験)を開始しました。2022年10月に患者登録を完了し、2023年4月に治験総括報告書が纏められました。本後期第Ⅱ相試験はオミクロン株の変異等により対象となる新型コロナウイルス肺炎患者(中等症、入院患者)数が減少し、目標より少ない症例数で治験を終了しましたが、特に早期治療におけるRS5614の有効性を示唆する結果を得ることができました。前期及び後期第Ⅱ相医師主導治験の成績は、2024年1月に科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。 - 全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD、第Ⅱ相):2023年3月にAMED「難治性疾患実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けて、2023年10月から第Ⅱ相試験(医師主導治験)を開始しました。2024年12月には、本治験の解析に必要な目標症例数50例を達成しております。 (抗加齢・長寿研究)- 当社はこれまでノースウエスタン大学や東北大学と共同研究を行い、老化にPAI-1が関与する一連の科学的事実を細胞、マウス、ヒト(疫学調査)などから明らかにしました。2025年1月にノースウエスタン大学Potocsnak Longevity Institute(長寿研究所)の日本の研究室(TREx-Longevity Lab)を、東北大学内のオープンイノベーション拠点である東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(TREx)内に設立することを、同研究所のDouglas E. Vaughan所長と合意しました。TREx-Longevity Labでは、ヒトの生物学的年齢の測定、臓器(免疫系、新血管系、神経系、代謝系、筋骨格系)の老化指標解析、老化バイオマーカー探索(エピゲノム、プロテオーム、トランスクリプトーム)に取り組み、さらに当社が有する老化を制御する医薬品の臨床試験実施にも取り組む予定です。また、当社は米国のXPRIZE財団による「高齢者の免疫、認知や筋肉の機能を10年若返らせたら賞金総額1億ドル」のコンテスト(XPRIZE HEALTHSPAN)に応募し、2025年5月にTOP40(セミファイナリスト)に入賞し、賞金25万米ドルを獲得しました。TOP40のチームの1年間の研究成果を元に、2026年後半にTOP10(ファイナリスト)が選定されます。当社は、長年取り組んできたPAI-1阻害薬RS5614の抗加齢・長寿作用に基づき、「老化細胞を除去し、がん化を促進する事なく老化関連疾患を抑制する新たな新規低分子医薬品」のコンセプト(Senolytic drug)を提唱し、東北大学、ノースウェスタン大学、東海大学、広島大学、東京科学大学など国内外の研究機関及び医療機関との共同でこのコンペティションに取り組みます。 b. 医療機器 - ディスポーザブル極細内視鏡(薬事承認済):2022年8月にはファイバースコープがPMDAに承認申請され、同年12月に厚生労働省から薬事承認されました。2022年9月に株式会社ハイレックスコーポレーション及びその子会社である株式会社ハイレックスメディカルと付属品であるガイドカテーテル作成を含めた医療機器開発に関する共同研究契約を締結しました。2024年5月、株式会社ハイレックスメディカルとライセンス契約を締結し、ガイドカテーテルとファイバースコープを合わせて2025年度に薬事申請する予定です。 c. AIを活用したプログラム医療機器特に、呼吸機能検査診断、維持血液透析医療支援、糖尿病治療支援、嚥下機能低下診断の領域におけるプログラム医療機器(SaMD)開発に注力しています。2024年8月にTMU-Biotech社と台湾及び日本でのSaMD実用化を目指した共同開発契約を締結しました。TMU-Biotech社は、台北医学大学(TMU)(https://eng.tmu.edu.tw)で研究開発される医療シーズの事業化を目的としたTMU100%の子会社です。この共同研究開発契約により、当社とTMU-Biotech社が協力して、日本と台湾の両方でAIを活用するSaMDのパイプラインの事業化を図るものです。TMUは1960年に設立された私立医科大学で、台湾でトップクラスにランクされ、キャンパス内には6つの病院を擁し、ベッド数は3,000床に至り、それら膨大な医療データ、さらにデータサイエンティストなどの研究者により、様々なSaMDの研究開発が実施されています。当社とTMU-Biotech社は、日本と台湾での事業化を目指し、AIを活用した革新的なSaMDの研究開発で協力し、両国での規制承認のための臨床性能試験を実施します。2024年度から国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)(代表機関:東北大学)に参画し、災害時においても安全安心な医療を提供するためのAIを活用した医療ソリューションに基づくデジタルツインモデルの開発を進め、2025年3月に本プログラムを終了しました。なお、当社のAIを活用したプログラム医療機器に関する取材記事が、2024年3月に科学誌『Nature』の取材記事として掲載されました。 - 呼吸機能検査診断SaMD(開発研究終了):京都大学、チェスト株式会社、NECソリューションイノベータ株式会社(NES)と共同開発を実施しています。2023年3月に開発段階の研究を完了し、同年6月にはチェスト株式会社より事業化段階への移行に関するマイルストーンを受領しました。2025年2月には、導出先のチェスト株式会社から対象地域拡大(国際展開)に係るオプション権行使に伴う一時金を受領しました。 - 維持血液透析医療支援SaMD(臨床性能試験実施中):聖路加国際大学、東北大学、ニプロ株式会社、日本電気株式会社(NEC)、NESと共同開発を実施しています。2023年2月にはAMED「医療機器開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は協力機関)」に採択されました。2023年4月にPMDA開発前相談を実施し、2024年1月にはPMDAプロトコール相談を完了しました。2024年10月から薬事承認申請のための臨床性能試験を実施し、目標症例数である150症例の登録を達成しました。さらに、血液透析における除水量や血流量の調整を制御する血液透析装置搭載型AIの開発に着手し、2023年12月に東レ・メディカル株式会社、2024年3月にニプロ株式会社と共同開発契約を締結しました。2022年10月に基本となる知的財産権を出願し、2023年5月に国際出願を行いました。また、2024年1月には新たな知財を追加出願しました。 - 糖尿病治療支援SaMD(臨床性能試験終了):東北大学、NEC、NESと共同開発を実施しており、2022年4月にAMED「医工連携イノベーション推進事業(開発・事業化事業)(当社が代表機関)」に採択されています。2024年2月にPMDAプロトコール相談を実施し、臨床性能試験のプロトコールが確定しました。2024年8月から薬事承認のための臨床性能試験を実施し、目標症例数である130症例のデータを取得しました。解析の結果、得られた正解率(平均)は85.46%であり、当初設定していた主要評価項目の目標正解率80%を5%上回る結果であり、専門医に対するAI予測の非劣性(同等)が実証され、2025年3月に総括報告書を纏めました。また、2022年6月に基本となる知的財産権を出願し、2023年4月には国際出願を行いました。 - 嚥下機能低下診断SaMD(開発研究):東北大学、NECと共同開発を実施しており、音声から嚥下機能の低下を診断するプログラム医療機器を開発しています。既に、健常者と嚥下機能低下患者の音声を区別できるAIを開発し、2023年3月に基本となる知的財産権を出願しました。さらに、2023年12月にはPMDA開発前相談を実施しました。 - その他SaMD:乳がん病理診断、心臓植込み型電気デバイス患者における不整脈・心不全発症予測、人工心臓患者における血栓発生予測などの新たなAIを活用したプログラム医療機器研究を開始しました。人工心臓患者における血栓発生予測では株式会社ハイレックスコーポレーション及びその子会社である株式会社ハイレックスメディカルと共同研究を開始しました。 (事業収益に関する実績)ニプロ株式会社と血液透析における目標除水量を予測する人工知能アルゴリズム開発に関する共同契約を締結しており、契約一時金を受領しました。東レ・メディカル株式会社と人工知能(AI)搭載型血液透析医療機器の開発に関する共同開発契約を締結しており、共同研究の対価として2024年6月と12月にマイルストーン収入を計上しました。エイリオン社と皮膚疾患治療RS5441(経皮薬、経口薬)の独占的実施権を許諾するライセンス契約を2016年10月31日に締結しており、エイリオン社の米国での第Ⅰ相試験開始(経皮薬)に伴い、契約に基づくマイルストーンをエイリオン社から受領しました。導出先のチェスト株式会社から対象地域拡大(国際展開)に係るオプション権行使に伴う一時金を受領しました。また、当社ではCML、SSc-ILD、糖尿病治療支援SaMDのプロジェクトはAMED事業に採択されており、研究開発業務を受託し、受託業務の対価を受託研究収入として計上しています。 以上の結果、当事業年度における事業収益は、血液透析における目標除水量を予測する人工知能アルゴリズム開発に係るニプロ株式会社からの一時金の受領及び人工知能(AI)搭載型血液透析医療機器の開発に係る東レ・メディカル株式会社からのマイルストーン収入の計上並びに皮膚疾患治療RS5441(経皮薬)の第Ⅰ相試験開始に伴うエイリオン社からのマイルストーン収入、さらにチェスト株式会社よりオプション権行使に伴う一時金の受領に加え、AMED事業に係る受託研究収入の計上により132,693千円(前事業年度は事業収益194,165千円)となりました。また、営業損失は、慢性骨髄性白血病(CML)治療薬や悪性黒色腫治療薬、非小細胞肺がん治療薬及び皮膚血管肉腫治療薬等に係る研究開発費132,869千円を含む事業費用307,774千円を計上したことにより178,827千円(前事業年度は営業損失252,335千円)、経常損失は、売上債権の為替換算に伴う為替差損1,228千円を計上したことなどにより178,987千円(前事業年度は経常損失251,875千円)、当期純利益は、バクスター社とのディスポーザブル極細内視鏡におけるライセンス契約の解約に伴う解約金収入20,000千円及びAMEDの医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)の債務減額に伴う債務免除益303,918千円を特別利益に計上し、また、減損損失1,166千円を特別損失に計上、法人税、住民税及び事業税30,336千円を計上したことにより113,427千円(前事業年度は当期純損失258,335千円)となりました。なお、当社の事業は単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。 ② 財政状態の概況(資産)当事業年度末の流動資産は、前事業年度末の2,086,473千円と比べて215,221千円減少し、1,871,252千円となりました。これは主として研究開発費や人件費などの支払いにより、現金及び預金が227,074千円減少したことなどによるものです。また、当事業年度末の固定資産は、前事業年度末の2,360千円と比べて2,250千円減少し、110千円となりました。これは主として差入保証金の回収によるものです。この結果、資産合計は、前事業年度末の2,088,833千円と比べて217,471千円減少し、1,871,362千円となりました。 (負債) 当事業年度末の流動負債は、前事業年度末の126,008千円と比べて25,201千円増加し、151,210千円となりました。これは主として、未払法人税等が31,302千円増加したことなどによるものです。また、当事業年度末の固定負債は、前事業年度末の356,100千円と比べて356,100千円減少し、-千円となりました。これは、AMED採択プロジェクトであるPMS/PMDD治療薬の開発に関する長期借入金の一部を支払ったこと及び残額を債務免除されたことによるものです。この結果、負債合計は、前事業年度末の482,109千円と比べて330,898千円減少し、151,210千円となりました。 (純資産) 当事業年度末の純資産は、前事業年度末の1,606,724千円と比べて113,427千円増加し、1,720,151千円となりました。これは当期純利益113,427千円を計上したことによるものです。 ③ キャッシュ・フローの概況当事業年度における現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、前事業年度末の1,646,193千円に比べ153,622千円増加し、1,799,816千円となりました。当事業年度における各キャッシュ・フローの状況と主な変動要因は次のとおりです。 (営業活動によるキャッシュ・フロー)当事業年度の営業活動資金の支出額は176,342千円(前事業年度は230,519千円の支出)となりました。これは主として、債務免除益303,918千円の計上などによるものです。 (投資活動によるキャッシュ・フロー)当事業年度の投資活動資金の収入額は382,147千円(前事業年度は1,567千円の支出)となりました。これは、定期預金の払戻しによる収入380,697千円を計上したことなどによるものです。 (財務活動によるキャッシュ・フロー)当事業年度の財務活動資金の支出額は52,182千円(前事業年度は46,500千円の収入)となりました。これは、長期借入金の返済による支出61,658千円を計上したことなどによるものです。 ④ 生産、受注及び販売の実績a.生産実績当社は研究開発を主体としており生産活動を行っておりませんので、該当事項はありません。 b.受注実績当社は研究開発を主体としており受注生産を行っておりませんので、該当事項はありません。 c.販売実績当社の事業セグメントは医薬品等の開発・販売等事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の販売実績の記載はしておりません。当事業年度における販売実績は、次のとおりであります。 金額(千円)前年同期比(%)事業収益※1 132,69368.3 (注)1.最近2事業年度における主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は、次のとおりであります。相手先前事業年度(自 2023年4月1日  至 2024年3月31日)当事業年度(自 2024年4月1日  至 2025年3月31日)事業収益(千円)割合(%)事業収益(千円)割合(%)国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)47,66624.537,68028.4ニプロ株式会社--30,00022.6国立大学法人大阪大学--21,90016.5東レ・メディカル株式会社--20,00015.1EirionTherapeutics, Inc.83,49943.015,74911.9国立大学法人東北大学39,00020.1-- 2.前事業年度における東レ・メディカル株式会社及び当事業年度における国立大学法人東北大学の事業収益及び当該事業収益の総事業収益に対する割合は、100分の10未満であるため、記載を省略しております。 (2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものです。① 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定当社の財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づき作成されております。財務諸表の作成にあたっては、一定の会計基準の範囲内で見積りが行われている部分があり、これらについては、過去の実績や現在の状況等を勘案し、合理的と考えられる見積り及び判断を行っております。ただし、これらには見積り特有の不確実性が伴うため、実際の結果と異なる場合があります。なお、当社が財務諸表を作成するに当たり採用した重要な会計上の見積りは、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。 ② 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容a.財政状況財政状況につきましては、「(1) 経営成績等の状況の概要 ② 財政状態の概況」に記載のとおりです。 b.経営成績(事業収益)当事業年度の事業収益は、132,693千円(前事業年度194,165千円)となりました。前事業年度は、皮膚疾患治療薬(RS5441)及び呼吸機能検査診断プログラム医療機器及び人工知能(AI)搭載型血液透析医療機器に係る一時金の受領に加え、AMED事業に係る受託研究収入を計上した一方、当事業年度における事業収益は、血液透析における目標除水量を予測する人工知能アルゴリズム開発に係るニプロ株式会社からの一時金の受領及び人工知能(AI)搭載型血液透析医療機器の開発に係る東レ・メディカル株式会社からのマイルストーン収入の計上並びに皮膚疾患治療RS5441(経皮薬)の第Ⅰ相試験開始に伴うエイリオン社からのマイルストーン収入、さらにチェスト株式会社よりオプション権行使に伴う一時金の受領に加え、AMED事業に係る受託研究収入を計上したことによるものです。(事業原価、売上総利益)当事業年度の事業原価は、3,747千円(前事業年度28,521千円)となりました。前事業年度は、悪性黒色腫における治験薬の製造にかかる費用を計上した一方、当事業年度は、人工知能(AI)搭載型血液透析医療機器の開発に係る人件費等を計上したことによるものです。 この結果、当事業年度の売上総利益は、128,946千円(前事業年度165,643千円)となりました。(事業費用、営業損失)当事業年度の事業費用は、307,774千円(前事業年度417,979千円)となりました。主な要因は、公的資金を活用した効率的な研究開発を実施した結果、研究開発費が前事業年度に比べて103,461千円減少したことなどのコスト削減の効果によるものです。この結果、当事業年度の営業損失は178,827千円(前事業年度252,335千円)となりました。(営業外収益、営業外費用、経常損失)当事業年度の営業外収益は、1,092千円(前事業年度460千円)となりました。主な要因は、受取利息924千円や助成金収入160千円を計上したことなどによるものです。当事業年度の営業外費用は、1,252千円(前事業年度未発生)となりました。主な要因は、売上債権の為替換算に伴う為替差損1,228千円を計上したことなどによるものです。この結果、当事業年度の経常損失は178,987千円(前事業年度251,875千円)となりました。(特別利益、特別損失、当期純利益)当事業年度は特別利益として323,918千円を計上しております。主な要因は、バクスター社とのディスポーザブル極細内視鏡におけるライセンス契約の解約に伴う解約金収入20,000千円及びAMEDの医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)の債務減額に伴う債務免除益303,918千円を計上したことによるものです。また、特別損失として減損損失1,166千円を計上しております。これらの結果を受け、当事業年度の当期純利益は、113,427千円(前事業年度は当期純損失258,335千円)となりました。 c.キャッシュ・フローの状況の分析キャッシュ・フローの状況につきましては、「(1) 経営成績等の状況の概要 ③ キャッシュ・フローの概況」に記載のとおりです。 d.資本の財源及び資金の流動性についての分析当社は、創薬等のコンセプトやシーズの研究費及びパイプラインの製品化に向けた開発費並びに係る販売費及び一般管理費等の事業用費用について資金需要を有しております。当社は、主に公的機関の研究開発助成金や第三者割当増資により調達を行った手許資金により事業用費用に充当して参りましたが、現下では、金融機関の当座貸越枠を確保するなどしており流動性に支障はないものと考えております。中長期眼では、次世代の医療ソリューション開発を掲げ一層の事業拡大や係る投資を想定しており、第三者割当増資などによる財務基盤の増強が必要であると認識しております。なお、現状の現金水準については、2021年9月の株式上場による資金調達や上記当座貸越枠も確保していることから、2年分の研究開発費は十分維持しております。 e.経営成績等の状況に関する認識経営成績に重要な影響を及ぼす要因につきましては、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおりです。

事業リスク

  • 研究開発の不確実性
    医薬品や医療機器の開発は、長い年月と多額の費用を要し、成功が保証されていません。特に初期段階のパイプラインが多いバイオベンチャーは、開発の各段階で有効性や安全性が確認できない場合、開発が遅延・中止となり、多額の投資が無駄になる可能性があります。これは会社の業績や財務状況に甚大な影響を及ぼす可能性があります。
  • 収益の不安定性
    主な収益源であるライセンス収入は、契約一時金、マイルストーン収入、ロイヤリティ収入で構成されますが、これらは導出先企業の開発進捗や販売状況に依存します。ライセンス契約が想定通りに締結できない、開発が遅延・中止される、上市後の販売が不振に終わるなどの場合、収益が大幅に変動したり、計画を下回ったりする可能性があります。
  • 競争と資金調達の課題
    新規の医薬品・医療機器開発市場は、国内外の資金力豊富な大手企業や研究機関との競争が激しいです。また、長期にわたる研究開発体制を維持するには多額の資金が必要であり、計画外の追加資金が必要になった場合、新たな資金調達の実現自体に不確実性があります。これらの要因は、事業の継続性や成長に影響を与える可能性があります。
出典: FY2025 有価証券報告書(AI要約)
有価証券報告書「事業等のリスク」の全文を見る(年度切替)
FY2025|9,562 文字
3 【事業等のリスク】当社の事業展開その他に関するリスク要因となる可能性があると考えられる主な事項を以下に記載しております。なお、当社として必ずしも重要なリスクと考えていない事項及び具体化する可能性が必ずしも高くないと想定される事項についても、投資判断や当社の事業活動を理解する上で重要と考えられる事項については、投資家に対する積極的な情報開示の観点から開示しております。当社は、これらのリスク発生の可能性を認識した上で、発生の回避及び発生した場合の対応に努める方針でありますが、リスクの発生を全て回避できる保証はありません。また、以下の記載内容は当社のリスク全てを網羅するものではありません。当社は、医薬品等の開発を行っていますが、医薬品等の開発には長い年月と多額の研究費用を要し、各パイプラインの開発が必ずしも成功するとは限りません。特に研究開発段階のパイプラインを有する製品開発型バイオベンチャー企業は、事業のステージや状況によっては、一般投資者の投資対象として供するには相対的にリスクが高いと考えられており、当社への投資はこれに該当します。また、本項記載の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであり、不確実性を内包しているため、実際の結果とは異なる可能性があります。 (1) 医薬品、医療機器及びプログラム医療機器開発の事業全般に係るリスクについて当社は、研究の初期段階の探索的研究から承認申請に必要な試験(医薬品の場合は第Ⅲ相臨床試験、プログラム医療機器の場合は臨床性能試験)に至るまで、幅広い段階の医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の開発経験を有しておりますが、研究の初期段階から医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の製造販売の段階に至るまでには、数多くの課題・項目をクリアし、規制当局からの承認及び認可の取得を要し、薬事規制等の法的な規制にも対応していく必要があります。そのため、長期間に及ぶ研究開発体制を維持するために多額の資金を必要とします。また、新規の医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の開発市場は、国内外を問わないことから、資金力の豊富な国際的な製薬企業、医療機器会社等や、国内においても多くの企業・研究開発機関と競合しております。① 収益の不確実性について当社の主たる事業は、医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の候補の有効性及び安全性を評価するための初期段階の研究開発(探索的研究、非臨床試験、初期臨床試験等)から承認申請に必要な試験(医薬品の場合は第Ⅲ相臨床試験、プログラム医療機器の場合は臨床性能試験)までをアカデミアや研究機関との共同研究及び医師主導治験などの創薬エコシステムを活用して行い、その後、製薬企業、医療機器会社等に対して当社が有する医薬品・医療機器・プログラム医療機器の候補の開発製造販売に係る知的財産権の使用実施許諾(ライセンスアウト)を行い、当該製薬企業、医療機器会社等からライセンス収入を得るものです。ライセンス収入の形態は、ライセンス契約締結時に発生する契約一時金、開発進捗に伴って発生するマイルストーン収入(臨床試験の開始や終了時又は製造販売承認申請時等の予め定めた開発の節目(マイルストーン)ごとに支払われる収入)、上市後において導出先である製薬会社、医療機器会社等が行う医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の販売に対するロイヤリティ収入等があります。ライセンス契約の締結は、製薬企業、医療機器会社等から、それまでの研究開発で得られた医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の候補の有効性及び安全性、並びに予想される対象患者数や保険償還価格、特許存続期間等の事業性に関して一定の評価を獲得する必要があります。したがって、製薬企業、医療機器会社等から研究開発成果に対する評価が得られない可能性、研究開発の遅延により想定どおりのタイミングで評価されない可能性、想定どおりの評価が得られず、契約一時金をはじめ上記の各種収入を当社の想定する規模の金額で契約できない可能性、当社が想定するタイミングでライセンス契約を締結できない可能性又はライセンス契約に至らない可能性があります。また、導出後も次の開発段階に進むために必要な臨床試験成績等が得られない可能性、開発途中で競合する医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の上市、疾病の治療法そのものの変化のほか、特許係争の発生等で事業性が大きく毀損されたと導出先製薬企業、医療機器会社等が判断する場合は、開発スケジュールが遅延する可能性やライセンス契約解消に至る可能性があります。更に上市に至った場合においても、保険償還価格が当初の想定を大きく下回ることや、市場環境等の状況が当初の想定より悪化する可能性がありますが、このような場合には、当社の事業、業績や財務状況等に影響を及ぼす可能性があります。マイルストーン収入及びロイヤリティ収入の発生については、導出先製薬企業、医療機器会社等の研究開発の進捗及び医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の発売・販売の状況等に依存するものであることから、営業収益として計上されるまでに長期間を要する可能性があり、また、マイルストーンを達成できない場合、これらの営業収益が計上されない可能性があります。更に契約一時金収入、マイルストーン収入は継続的な収入ではなく、医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の開発に係る一定の条件の達成等を前提として一時的に発生する収入であることから、当該収入の計上時期により、年度決算・四半期決算の売上高・利益等が非連続的に偏重する可能性、年度決算比較・四半期決算比較の売上高・利益等において大幅な変動・乖離が生じる可能性があります。また、上記の収入の計上時期が想定から遅れた場合、決算短信で公表した業績予想が大幅に変更される可能性があります。当該リスクへの対応については、パイプラインプロジェクトの数を増やすとともに、複数の医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の開発等経験者、ビジネスディベロプメント経験者を社内外に確保するよう努めております。また、研究開発の開始時から開発の体制・期間・資金、知財、薬事などロードマップを明確にして取り組んでいますが、特に出口の戦略を重視しています。研究開発の初期から導出候補企業と導出条件などを協議しながら、なるべく出口の方針が定まった後に開発を実施しています。更に、自社シーズを、オープンリソースとして外部研究者に提供し研究いただくことで新たな医療用途を発見し、この中から科学性、医学性、経済性(事業性)の観点から取捨選択し医師主導治験につなげることで、自社シーズの価値向上に努めています。 ② 医薬品、医療機器及びプログラム医療機器開発の不確実性について当社が開発している医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の候補が上市に至るまでには、有効性及び安全性の評価に関する数多くの探索及び検証並びに規制当局からの承認が必要とされます。研究開発の各段階において、次の段階へ進むか否かの判断は、導出前であれば当社が、導出後であれば導出先製薬企業、医療機器会社等が行いますが、有効性及び安全性に良い評価が得られなかった場合、外部環境の変更等で事業性の喪失が懸念された場合などには、次の研究開発段階への進行が遅れる可能性、研究開発自体を中止・終了せざるを得ない状況になる可能性があります。研究開発が遅れた場合や追加試験が必要となる場合には、計画外の追加資金が必要となり、追加資金確保のために新たな資金調達が必要となる可能性があり、また、その資金調達の実現自体にも不確実性があります。更に、ライセンス契約の存続期間は、特許権の存続・有効期間が終了するまでの期間とされることもあり、その場合ライセンス契約中にマイルストーンが達成できず、当初想定した投資回収額を回収できないリスクがあります。研究開発を中止・終了せざるを得ない状況になった場合又は研究開発を終えて製造販売に関する承認申請を規制当局に行っても規制当局から承認されなかった場合には、当初想定していた投資回収額を回収できないリスクがあります。これらの事象が発生した場合、当社のような規模においては影響が大きく、当社の事業、業績や財務状況等に甚大な影響を及ぼす可能性があります。当該リスクへの対応については、医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の開発の不確実性を低減するために、試験の設計及び実施においては、外部の開発ターゲットの疾患領域に精通する医師(キー・オピニオン・リーダー)、非臨床試験・臨床試験・CMC(Chemistry, Manufacturing and Control:原薬及び製剤の開発)・薬事それぞれに精通する外部専門家(コンサルタント)及び規制当局との事前相談を通じた情報収集に基づき試験の立案と実施を行っております。 ③ 法的規制等に係る不確実性について当社が携わる研究開発領域は、研究開発を実施する国ごとに薬事に係る法律、保険償還制度及び医療保険制度並びにその他の関係法規・法令による規制が存在します。非臨床試験においては、医薬品等の安全性試験の実施に関する基準であるGLP(Good Laboratory Practice)、原薬等の治験薬の製造においては、医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準であるGMP(Good Manufacturing Practice)に準ずる治験薬GMP、そして臨床試験においては、医薬品等の臨床試験の実施に関する基準であるGCP(Good Clinical Practice)を確実に実施していることが研究開発上必須条件となっており、製造販売の段階においては、販売を行う各国で定められている薬事関連法規・法令に従った承認・認可・許可を得る必要があります。当社の事業計画・研究開発計画は、現行の薬事関連法規・法令や規制当局の承認・認可の基準を遵守した治験実施計画を基に作成しておりますが、これらの法律・法令及び基準は技術の発展、市場の動向などにより適宜改定されます。医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の開発・販売等事業は、年単位の長期間にわたる事業であり、その間にこれらの法律・法令・基準等が大きく改定される可能性、これら法令等が変更される可能性があります。これにより既存の研究開発の体制(組織的な体制、製造方法、開発手法、臨床試験の進め方、追加試験を行う必要性の発生など)の変更が必要となる場合、その体制の変更に速やかに対処できず研究開発が遅延・中止となるリスク、人員確保や設備投資に計画外の追加資金の確保が必要となるリスク等があり、当社の事業、業績や財務状況等に影響を及ぼす可能性があります。当該リスクへの対応については、治験の実施や計画立案の前に、可能な限り医薬品医療機器総合機構(PMDA)などの事前相談を活用して、適切な助言を受けるよう心がけています。 ④ 競合について当社が携わる研究開発領域は、急激な市場規模の拡大が見込まれており、欧米を中心にベンチャー企業を含む多くの企業が参入する可能性があります。競合他社の有する医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の候補の研究開発が当社と同じ疾患領域で先行した場合、当社の事業の優位性は低下する可能性があります。競合他社による医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の登場により当社の臨床試験において被験者の登録が停滞し臨床試験が遅延する可能性、目標被験者数に届かず臨床試験が中止となる可能性があります。また、この場合、当社事業において想定以上の資金が必要となる可能性があり、当社の事業戦略や経営成績等に甚大な影響を及ぼす可能性があります。更に、競合する医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の開発が先行し又は競合品が上市されたことにより、当社の医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の候補の事業性が大きく毀損されたと導出先製薬企業、医療機器会社等が判断する場合は、開発スケジュールが遅延する可能性や、ライセンス契約解消に至る可能性があります。上市に至った場合においても、他社が同様の効果や、より安全性のある製品を販売した場合など、期待された売上が達成できず、想定したロイヤリティが得られない等により、当社の事業、業績や財務状況等に影響を及ぼす可能性があります。当該リスクへの対応については、①パイプラインプロジェクトを増やし、リスクの軽減を図り、②プロジェクトごとの開発計画を戦略的に策定し、経営会議などで計画を審議することで競合の少ない適応症パイプラインの獲得を図るように努めております。 (2) 事業体制について① 小規模組織及び少数の事業推進者への依存当社は、本書提出日現在、取締役5名(非常勤取締役2名を含む。)、執行役員2名、従業員3名及び臨時雇用者5名の小規模組織であり、現在の内部管理体制はこのような組織規模に応じたものとなっています。今後、業容拡大に応じて内部管理体制の拡充を図る方針であります。また、当社の事業活動は、事業を推進する各部門の責任者及び少数の研究開発人員に強く依存するところがあります。そのため、優秀な人材の育成に努めておりますが、人員確保及び育成が順調に進まない場合、並びに人材の流出が生じた場合には、当社の事業活動に支障が生じ、当社の業績及び財務状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。当該リスクへの対応については、①経営理念、経営戦略を随時社内に浸透させ、やりがいのある会社風土を醸成し、②HP改修、公的資金の獲得等による知名度向上により新規採用を図るように努めております。 ② 特定人物への依存当社はこれまで、創業者であり、多くの社有特許の発明者でもある国立大学法人東北大学大学院医学系研究科の宮田敏男教授(現 当社取締役会長)を中心として、基礎研究をはじめとする事業を推進して参りました(宮田敏男教授は、PAI-1阻害薬物質特許、用途特許及び用法用量特許、ピリドキサミン用途特許及び物質特許、糖尿病治療支援プログラム医療機器の特許並びに維持血液透析医療支援プログラム医療機器の特許の発明者)。当社設立の発端は、同氏の研究成果の事業化を目的とするものであり、当社の研究開発活動において重要な位置付けを有しており、その依存度は極めて高いと考えております。当社は、今後も取締役会長としての同氏の会社経営の執行が必要不可欠であると考えており、何らかの理由により同氏の会社経営の執行が困難となった場合等には、当社の事業等に大きな影響を及ぼす可能性があります。 ③ 情報管理について当社は、情報管理について、情報セキュリティ管理規程、個人情報取扱要領、特定個人情報取扱要領、情報セキュリティ・マニュアルに沿って情報セキュリティ管理担当責任者が中心となって運用を行っておりますが、当社の研究又は開発途上の治験、技術、ノウハウ等、重要な機密情報が流出した場合には当社の事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。このリスクを低減するため、当社は役職員、取引先との間で、守秘義務契約等を定めた契約を締結しております。また、重要な機密情報を含む社内クラウドサーバーへは必要最低限の役職員のみしかアクセスできない様にするなど、厳重な情報管理に努めております。しかし、役職員、取引先等により、これらが遵守されなかった場合には、重要な機密情報が漏えいする可能性があり、このような場合には当社の事業に影響を与える可能性があります。 (3) 知的財産権について① 当社が保有する知的財産権について当社は研究開発活動において様々な特許等の知的財産権を保有しております。しかし、当社の研究開発を超える優れた研究開発が他社によってなされた場合や、当社の出願した特許申請が成立しないような場合にも、当社の事業戦略や経営成績に影響を及ぼす可能性があります。当該リスクへの対応については、①競合品の開発状況を随時把握し、プロジェクトの優先順位付けを行い、②パイプラインを増やし、リスクの軽減を図るように努めております。 ② 知的財産に関する訴訟及びクレーム等の対応に係るリスクについて当事業年度末において、当社の事業に関連した特許等の知的財産権に関して、第三者との間で訴訟やクレームといった問題が発生したという事実はありません。当社は現在、早期の特許出願を優先する方針をとっており、特許出願後において事業展開上の重要性等を考慮しつつ必要な調査等の対応を実施しておりますので、本書提出日現時点においては他社が保有する特許等への抵触により、事業に重大な支障を及ぼす可能性は低いものと認識しております。もとより、当社のような研究開発型企業において、この様な知的財産権侵害問題の発生を完全に回避することは困難であります。今後において、当社が第三者との間で法的紛争に巻き込まれた場合には、弁護士や弁理士との協議のうえ、その内容に応じて対応策を講じていく方針でありますが、法的紛争の解決に多大な労力、時間及び費用を要する可能性があり、その場合当社の事業戦略や経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。当該リスクへの対応については、顧問弁護士及び特許事務所と連携し訴訟及びクレーム等に迅速に対応する体制としております。 ③ 職務発明に係る社内対応について2005年4月1日に施行された特許法の法改正に伴い、職務発明の取扱いにおいて、労使間の協議による納得性、基準の明示性、当事者の運用の納得性が重視されることとなりました。これを受けて、当社では経営陣と研究開発部門とが協議のうえ、発明考案取扱規程を作成し運用しております。しかし、将来に係る対価の相当性につき紛争が発生した場合には、当社の事業戦略や経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。 (4) 製造並びに安定供給に関するリスクについて当社の外部委託先である製造施設等において、技術的・規制上の問題若しくは自然災害・火災などの要因により生産活動の停滞・遅滞若しくは操業停止などが起こった場合、当社の事業に影響を及ぼす可能性があります。当該リスクへの対応について、現在、当社の医薬品パイプラインは低分子化合物かつ製造施設は容易に代替可能であり、原薬及び治験薬製剤製造委託候補施設を複数確保するように努めております。 (5) 業績等に関する事項① マイナスの繰越利益剰余金を計上していることについて当社は研究開発型企業であり、ロイヤリティ収入が得られるようになるまでは営業収益が安定せず多額の研究開発費用が先行して計上されることとなります。そのため、第18期(2017年3月期)から第25期(2024年3月期)まで連続して当期純損失を計上したことにより、第26期末においてマイナスの繰越利益剰余金を計上しております。当社は、将来の利益拡大を目指しておりますが、将来において計画どおりに当期純利益を計上できない可能性があります。また、当社の事業が計画どおりに進展せず当期純利益を獲得できない場合には、マイナスの繰越利益剰余金がプラスとなる時期が遅れる可能性があります。 ② 資金繰りについて当社は、研究開発型企業として、医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の臨床試験を実施する開発パイプラインの拡充や積極的な研究活動等により、多額の研究開発費が必要となっております。一方で、特に医薬品の開発期間は基礎研究から上市まで通常10年以上の長期間に及ぶものでもあり、収益に先行して研究開発費が発生しているなどにより、継続的に営業損失及びマイナスの営業キャッシュ・フローが生じております。今後も事業の進捗に伴って運転資金、研究開発投資等の資金需要の増加が予想され、収益確保又は資金調達、資金繰りの状況によっては、当社の事業活動等に重大な影響を与える可能性があります。当該リスクへの対応については、営業キャッシュ・フローの早期黒字化に加え、金融機関との取引実績を積み重ねること等により、安定した資金調達を行えるようにします。 ③ 税務上の繰越欠損金について本書提出日現在において、当社は税務上の繰越欠損金を有しております。しかし、繰越欠損金の繰越期間内に、繰越欠損金の全て又は一部を利用するために十分な課税所得を当社が得られるという保証はありません。また、当社の業績が順調に推移する結果、繰越欠損金が解消され課税所得控除が受けられなくなった場合、通常の税率に基づく法人税、住民税及び事業税が課せられることとなり、現在想定している当期純利益及びキャッシュ・フローの計画に影響を与える可能性があります。 (6) 為替変動リスク当社は、海外企業とライセンス契約を締結しており、主に外貨建での決済が行われておりますが、当社においては特段の為替リスクヘッジは行っておりません。そのため、想定以上に為替相場の変動が生じた場合には、当社の業績はその影響を受ける可能性があります。 (7) 調達資金の使途について2021年9月の株式上場時の公募増資等により調達した公募増資資金の使途については、引き続き主に研究開発費に充当する計画でありますが、当初想定よりも公的資金の獲得が順調に進んでいるため、2024年5月9日に支払予定時期及び資金使途の内容並びに充当金額の変更を行いました。今後も、資金需要の発生時期及びその規模については大幅に変更される可能性があり、当社の事業展開、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。調達資金の使途を変更した場合には直ちに開示する予定です。 (8) 大株主について当社の取締役会長である宮田敏男及び二親等内の親族の実質議決権所有割合は、当事業年度末日現在で45.91%です。同株主等は、安定株主として引続き一定の議決権を保有し、その議決権行使にあたっては、株主共同の利益を追求するとともに、少数株主の利益にも配慮する方針です。やむを得ない事情により、大株主である同株主等の持分比率が低下する場合には、当社株式の市場価格及び議決権行使の状況等に影響を及ぼす可能性があります。 (9) ベンチャーキャピタル等の当社株式保有比率当事業年度末における当社の発行済株式のうち、ベンチャーキャピタル(VC)が組成した投資事業有限責任組合が所有している株式の所有割合は5.13%であります。一般に、VCが未公開株式に投資を行う目的は、株式上場後の当該株式を売約してキャピタルゲインを得ることであり、VCは当社の株式上場後に、それまで保有していた株式の一部又は全部を売却することが想定されます。なお、当該株式売却によっては、短期的な需給バランスの悪化が生じる可能性があり、当社株式の市場価格が低下する可能性があります。  (10) 自然災害等の発生について自然災害、事故、重大な感染症の流行等が発生した場合には、リスクマネジメント規程に基づいてリスク低減の措置を講じます。しかし、事業所周辺においてあるいは世界的に大規模な自然災害等が発生した場合には当社の設備等に大きな被害を受け研究開発が遅延する可能性があり、また感染症の流行等が発生した場合には事業所の一時閉鎖等の事態により研究開発が遅延する可能性があり、その結果、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

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